(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両の車体の妻面側に、ガスの送入によって膨出される袋状のエアバッグが装着されているものがある。鉄道車両の運転士が、線路内に侵入した動物に車体が衝突すると判断した場合にエアバッグを膨出させ、車体に衝突した動物への衝撃を吸収することができる。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された構成においては、車体の幅方向一側に配置されるエアバッグは、膨出された状態における鉄道車両の進行方向前側を指向する面が車体の幅方向中心から幅方向一側に向け車体進行方向後側へ傾斜し、車体の幅方向他側に配置されるエアバッグは、膨出された状態における鉄道車両の進行方向前側を指向する面が車体の幅方向中心から幅方向他側に向け車体の進行方向後側へ傾斜している。
【0004】
そのため、線路上に侵入した動物に対し、エアバッグのいずれかの部分を衝突させることで、衝突による野生動物への衝撃を緩和しつつ、動物を線路の側方へ跳ね飛ばすことができるというものである。これによって、跳ね飛ばされた動物の死亡を回避しやすくし、自力でその後線路付近から逃げてくれることを期待するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エアバッグを用いている限り内部へ送入するエア(ガス)の管理が必要となり装置構成が複雑となる。また、エアバッグによって衝撃を緩和することはできるが、衝撃緩和を優先すると、特にエアバッグ下端への巻き込み、つまり車体下方への巻き込みの可能性を高めてしまうこととなり、両立が難しい。
【0007】
エアバッグの代わりに緩衝材を用いてエアの管理を不要にすることも考えられるが、衝撃緩和を優先して相対的に軟らかい緩衝材を用いると巻き込みの可能性がやはり高まってしまう。一方、巻き込み防止を優先させて相対的に固い緩衝材を用いると、衝撃が強くなってしまう。
【0008】
本発明者らは、エアの管理が不要なように、エアバッグを用いずに緩衝材を用いることを前提としつつ、例えば野生動物が車体に衝突した場合には、その野生動物に致命的な損傷を与えずに線路外へ適切に跳ね飛ばすことで、跳ね飛ばされた野生動物がその後自力で逃げ去っていくようにでき、さらに巻き込み防止も実現できることが、鉄道車両に適用する衝撃緩和装置において必要とされる理想型の一つであると考えた。
【0009】
そこで、このような「適切な衝撃緩和」「適切な跳ね飛ばし」「巻き込み防止」を実現させる衝撃緩和装置を提供することを目的として、本発明をなした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置は、鉄道車両の車体妻面下方に設置され、衝突する動物に対する衝撃を緩和しつつ跳ね飛ばすためのものである。相対的に硬さの異なる少なくとも2種類の緩衝材が車体上下方向に配され、かつ最下端には相対的に硬い緩衝材が配されているが、この緩衝材は、車体幅方向の端部から中央部へ向かって車体前方へ突出するように傾斜すると共に、下方ほど車体前方へ突出するように傾斜して配されている。
【0011】
最下端に相対的に硬い緩衝材が配されることによって、巻き込み防止が図れると共に、衝突する動物の主に脚部をはらうことができる(足払い機能)。そして、この緩衝材は、車体幅方向の端部から中央部へ向かって車体前方へ突出するように傾斜させていると共に、下方ほど車体前方へ突出するように傾斜して配されているため、衝突した動物を車両側方へ跳ね飛ばし、結果として、車両限界の外部へ跳ね飛ばしやすくなっている。
【0012】
つまり、緩衝材が、車体幅方向の端部から中央部へ向かって車体前方へ突出するように傾斜しているので、それだけでも車両側方へ跳ね飛ばすこととなるが、緩衝材の下方ほど車体前方へ突出するように傾斜して配されているため、最下端に相対的に硬い緩衝材が配されることによる「足払い機能」がより助長され、さらに緩衝材自体が車体前方へ傾斜しているため、衝突した動物をやや上方へ跳ね飛ばすこととなる。
【0013】
これらの構成が相俟って、「衝突した動物を車両側方へ跳ね飛ばす」という観点では非常に効果的に作用し、結果として、衝突した動物を車両限界の外部へ跳ね飛ばしやすくなっている。そして、緩衝材は、最下端に相対的に硬い緩衝材が配されているが、全体的には緩衝作用が適切に発揮されるため、衝突した動物に対しての衝撃を緩和しているため、跳ね飛ばされた野生動物に致命的な損傷を与えることなく、その後自力で逃げ去っていくことが期待できる。
【0014】
このように、本発明の多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置によれば、エアバッグを用いずに緩衝材を用いることでエアの管理が不要であるという基本的な効果を実現しつつ、さらに「適切な衝撃緩和」「適切な跳ね飛ばし」「巻き込み防止」を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
[多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置1の構成]
図1(a)は、本発明が適用された実施形態の多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置1を鉄道車両50に設置した状態を示しており、
図1(b)、(c)は多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置1をそれぞれ上方、側方から見た状態を示している。
【0017】
多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置1は、鉄道車両50の車体妻面51下方に設置される。なお、
図1(a)では図面を簡素化して説明を分かりやすくするため、車体下方に存在する台車等の構成については省略している。また、連結器53についても、
図1中では模式的に図示している。
【0018】
多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置1は、
図2を参照して後述するが、衝突する動物Dに対する衝撃を緩和しつつ車両側方へ跳ね飛ばすための装置である。そのための構成として、相対的に硬さの異なる2種類の緩衝材11,12が車体上下方向に配されている。
【0019】
上部の緩衝材11は相対的に軟らかい緩衝材(例えば軟質のスポンジゴムなど)を用い、下部の緩衝材12は相対的には硬い緩衝材(例えば硬質のスポンジゴムなど)を用いている。
【0020】
下部の緩衝材12が相対的に硬いため、
図2(b)に示すエアバッグ100を用いた場合にはエアバッグ100下端への巻き込みが生じやすいが、
図2(a)に示す本実施形態の場合には、下部の緩衝材12の下端への巻き込みは生じず、車体下方への巻き込み防止が図れる。それと共に、衝突する動物Dの主に脚部をはらうことができる。この点については、本実施形態の多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置1の効果を説明する際に、補足する。
【0021】
図1等に示すように、この緩衝材11,12は、全体として2枚の平板状部材が山形に組み合わされた形状となっている。なお、本実施形態においては左右対称形状としたが、それに限られるものではない。そして、車体幅方向の端部から中央部へ向かって車体前方へ突出するように傾斜していると共に、下方ほど車体前方へ突出するように傾斜して配されている。
【0022】
本実施形態の多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置1は、車体妻面51に連結器53を備えた鉄道車両に適用することを想定しているため、上部の緩衝材11については、その連結器53を覆わないように切り欠き11aが設けられている。
【0023】
緩衝材11,12の配置、具体的には傾斜配置されている点について、さらに具体的に説明する。
図1(b),(c)中において、X方向は鉄道車両50が走行するレールの長手方向を示しており、Y方向はレール長手方向に直交する方向、つまり枕木の長手方向を示している。
図1(b)に示すように、緩衝材11,12は、レール長手方向に直交する方向、つまり枕木の長手方向であるY方向を基準として車体前方へ所定角度θ1だけ傾斜している。また、
図1(c)に示すように、緩衝材11,12は、レール長手方向であるX方向を基準として車体上方へ所定角度θ2だけ傾斜している。
【0024】
これら2種類の所定角度θ1,θ2は、緩衝材11,12に衝突した動物Dを車両側方へ跳ね飛ばし、結果として、車両限界の外部へ跳ね飛ばすことを目的として、適宜調整・設定する。
【0025】
衝突した動物Dを車両側方へ跳ね飛ばす点に関しては、当然ながら緩衝材11,12の配置(傾斜度合い=θ1,θ2の大きさ)だけでなく、緩衝材11,12の硬度などとも関連するが、例えばモデル化してシミュレーションを行ったり、試験等を行って、適切な所定角度θ1,θ2を設定すればよい。
【0026】
本実施形態においては、例えばY方向基準の所定角度θ1が15〜30deg程度、X方向基準の所定角度θ2が60〜80deg程度の角度を想定して図示しているが、これに限定されるものではない。
【0027】
Y方向基準の所定角度θ1については、一般的に考えて、この角度が大きくなるほど、緩衝材11,12に衝突した動物Dを車両側方へ跳ね飛ばす効果が高くなるが、当然ながら鉄道車両の運転において支障がないように配慮する必要がある。
【0028】
その一例を、
図3を参照して説明する。
図3(a)に示すように、例えば非連結タイプの車両に多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置1を適用した場合には、連結器による連結点を意識せずに、その連結点よりも車体前方に緩衝材11,12が配されても良い。そのため、例えばY方向基準の所定角度θ1を相対的に大きめにしてもよい。
【0029】
一方、
図3(b)に示すように、例えば連結タイプの車両に多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置1を適用した場合には、連結器による連結点より車体前方に緩衝材11,12が存在すると連結動作に支障が出るため、緩衝材11,12がその連結点よりも車体前方に突出しないように配慮する。そのため、例えばY方向基準の所定角度θ1を相対的に小さくする。
【0030】
緩衝材11,12がその連結点よりも車体前方に突出しないように配慮する上では、緩衝材11,12自体の厚さについても工夫することができる。例えば連結器による連結点を意識しなくてもよい非連結タイプの場合には、緩衝材11,12を相対的に厚くしてもよく、連結器による連結点を意識せざるを得ない連結タイプの場合には、緩衝材11,12を相対的に薄くすることが考えられる。
図3には、例えば約100mm、約200mmといった数字を例示しているが、この厚さはあくまで一例である。
【0031】
また、緩衝材11,12においては、下部の緩衝材12によって、下端への巻き込み防止機能と衝突する動物Dの脚部をはらう機能、併せて衝撃緩和機能を発揮させ、上部の緩衝材11によって衝撃緩和機能と跳ね飛ばし機能を発揮させている。そのため、下部の緩衝材12については、上記の下端への巻き込み防止機能と衝突する動物Dの脚部をはらう機能を発揮できるだけの「上下方向の長さ」があればよい。
【0032】
それ以外は上部の緩衝材11によって衝撃緩和機能と跳ね飛ばし機能を発揮させることが、全体的には最適な一つの形であると考えられる。当該機能が発揮できる最短の長さに設定することも可能であるがその限りではない。
【0033】
この緩衝材11,12を車体妻面51下方に設置する際には、例えば緩衝材11,12を配置したい傾斜度合い、つまり、Y方向基準の所定角度θ1,X方向基準の所定角度θ2に合わせたフレームを車体に取り付け、そのフレームに緩衝材11,12を取り付けることが考えられる。このフレームについては、例えば金属製の板状部材を採用してもよいし、格子状部材を採用してもよいし、種々の形態が考えられる。
【0034】
[多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置1による効果]
本実施形態の多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置1によれば、下部の緩衝材12は相対的には硬い緩衝材を用いており、緩衝材11,12全体で見た場合の最下端には相対的に硬い緩衝材が配されることによって、
図2(a)に例示するように、巻き込み防止を図ることができる(巻き込み防止機能)と共に、衝突する動物Dの主に脚部をはらうことができる(足払い機能)。なお、この動物Dとは、例えば線路内へ入り込む可能性の高い鹿などの野生動物を主に想定している。
図2では動物Dを円柱形にモデル化して示している。
【0035】
対比のための
図2(b)では、エアバッグ100を用いた場合を例示しているが、この場合には、エアバッグ100下端への巻き込みが生じやすいが、
図2(a)に示す本実施形態の場合には、下部の緩衝材12の下端への巻き込みは生じない。また、
図2(b)に示す場合には、エアバッグ100下端によって、衝突する動物Dの主に脚部をはらうことが期待できないが、
図2(a)に示す本実施形態の場合には、上述のように足払い機能を十分に期待できる。
【0036】
そして、緩衝材11,12は、車体幅方向の端部から中央部へ向かって車体前方へ突出するように傾斜させていると共に、下方ほど車体前方へ突出するように傾斜して配されているため、衝突した動物Dを車両側方へ跳ね飛ばし、結果として、車両限界の外部へ跳ね飛ばしやすくなっている。
【0037】
この点について詳しく説明する。
緩衝材11,12は、車体幅方向の端部から中央部へ向かって車体前方へ突出するように傾斜しているので、それだけでも車両側方へ跳ね飛ばすこととなるが、緩衝材11,12の下方ほど車体前方へ突出するように傾斜して配されているため、下部の緩衝材12が相対的に硬く設定されていることによる「足払い機能」がより助長される。さらに、緩衝材11,12自体が車体前方へ傾斜しているため、衝突した動物Dをやや上方へ跳ね飛ばすこととなる。
【0038】
これらの構成が相俟って、「衝突した動物Dを車両側方へ跳ね飛ばす」という観点では非常に効果的に作用し、結果として、衝突した動物Dを車両限界の外部へ跳ね飛ばしやすくなっている。
【0039】
そして、緩衝材11,12は、下部の緩衝材12は相対的に硬いが、上部の緩衝材11は相対的に軟らかい緩衝材(例えば軟質のスポンジゴムなど)が用いられているため、全体的には緩衝作用が適切に発揮され、衝突した動物Dに対しての衝撃を緩和している。このため、例えば線路内へ入り込んだ鹿などの動物Dに致命的な損傷を与えることなく車両限界の外部へ跳ね飛ばせば、その鹿などの動物Dは、その後自力で逃げ去っていくことが期待できるため、全体的に好ましい結果となる。
【0040】
このように、本発明の多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置1によれば、エアバッグを用いずに緩衝材を用いることでエアの管理が不要であるという基本的な効果を実現しつつ、さらに「適切な衝撃緩和」「適切な跳ね飛ばし」「巻き込み防止」を実現できる。
【0041】
[変形例]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の実施の形態は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得る。
【0042】
例えば、上記実施形態では、相対的に硬さの異なる2種類の緩衝材11,12が車体上下方向に配するようにしたが、これはあくまでも一例であり、相対的に硬さの異なる少なくとも2種類の緩衝材が車体上下方向に配され、かつ最下端には相対的に硬い緩衝材が配されていればよい。したがって、3種類以上の緩衝材を車体上下方向に配しても良い。
【0043】
また、緩衝材11,12については、上記実施形態においては上部の緩衝材11として例えば軟質のスポンジゴムなどを用い、下部の緩衝材12として例えば硬質のスポンジゴムなどを用いたがその他種々の素材の緩衝材を用いることができる。
【0044】
そして、緩衝材11,12はそれぞれ単一の素材である必要はなく、例えばジョギング用運動靴などに多く採用されているような、いわゆる衝撃吸収ゲルを内蔵するような構造であってもよい。
【0045】
つまり、上述した「適切な衝撃緩和」「適切な跳ね飛ばし」「巻き込み防止」を実現できる機能を発揮できるのであれば、種々の材質・態様の緩衝材を用いることができる。
上記実施形態では、車体妻面51に連結器53を備えた鉄道車両に適用することを想定した多層構造跳ね飛ばし衝撃緩和装置1であったため、上部の緩衝材11については、その連結器53を覆わないように切り欠き11aを設けたが、連結器53を備えない鉄道車両に適用するならば、当然であるが切り欠き11aを設けなくてもよい。