(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
180度より広い画角を持つ広角レンズと、この広角レンズによる像を撮像する撮像センサとによる撮像光学系を2つ、物体側レンズが互いに逆向きになるように組み合わせ、各撮像光学系により撮像された像を合成して「4πラジアンの立体角内の像」を得る全天球型撮像装置が知られている(特許文献1)。
【0003】
このような全天球型撮像装置は、同時に全方位の画像情報を取得できるので、例えば、防犯用監視カメラや車載カメラ等に有効に利用できる。近来、全天球型撮像装置を携帯用にもできるように、その小型化が求められている。
【0004】
例えば、ニュースの取材などの際に、小型の全天球型撮像装置を「手持ち状態」で使用すれば、極めて正確且つ公平な画像情報を撮像できる。
【0005】
このような全天球型撮像装置に用いられる「画角180度以上の広角レンズ」では「光軸から離れた最大像高の光」は、急激な角度をつけずに屈折させ、結像面に結像させるのが好ましい。
【0006】
しかし、画角180度以上の広角レンズの場合「レンズ全長の短縮化」を優先すると、光軸から離れた周辺の光線を急激に屈折させねばならず、各収差の影響で「結像画面周辺部」で解像度が低下してしまう。
結像面の周辺まで高解像度を維持しようとすると、周辺の光線をゆっくり屈折させる必要があるため、レンズ全長が大きくなり、携帯や手持ち状態での使用には適さない。
【0007】
特許文献1には、広角レンズに関しては具体的な開示がない。
【0008】
画角が広く、性能も良好な広角レンズは、従来から種々提案されており、中でも、特許文献2、3に記載されたものは性能良好である。
【0009】
しかしながら、これら特許文献2、3記載の広角レンズは、全長の短縮化が困難であり、全天球型撮像装置に用いられる2個の広角レンズとして用いた場合には、装置の大型化を招きやすい。
【0010】
また、特許文献2、3記載の広角レンズを2個用いる場合、2つの広角レンズの光軸間距離を短くすることが難しく、「視差」により、各広角レンズの周辺部の画像の重なり部分が相互にずれて、合成画像の継ぎ目部分に「画像の乱れ」が顕著に発生しやすい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、全天球型撮像装置の要部を説明図的に示す図である。
【0017】
図1において、符号A、Bで示す部分は「撮像光学系」を示している。
【0018】
2個の撮像光学系A、Bは何れも「180度より広い画角を持つ広角レンズと、この広角レンズによる像を撮像する撮像センサと」により構成されている。
「広角レンズ」は、この発明の「
広角レンズ」の実施の1形態である。
【0019】
即ち、撮像光学系Aの広角レンズは、レンズLA1〜LA3により構成される「前群」、反射面を構成する直角プリズムPA、レンズLA4〜LA7により構成される「後群」により構成されている。そして、レンズLA4の物体側に開口絞りSAが配置されている。
【0020】
撮像光学系Bの広角レンズは、レンズLB1〜LB3により構成される「前群」、反射面を構成する直角プリズムPB、レンズLB4〜LB7により構成される「後群」により構成されている。そして、レンズLB4の物体側に開口絞りSBが配置されている。
【0021】
撮像光学系Aの広角レンズの前群を構成する、レンズLA1〜LA3は、物体側から順に、ガラス材料による負メニスカスレンズ(LA1)、プラスチック材料による負レンズ(LA2)、ガラス材料による負のメニスカスレンズ(LA3)により構成されている。
【0022】
後群を構成するレンズLA4〜LA7は、物体側から順に、ガラス材料による両凸レンズ(LA4)、ガラス材料による両凸レンズ(LA5)と両凹レンズ(LA6)の張り合わせレンズ、プラスチック材料による両凸レンズ(LA7)により構成されている。
【0023】
撮像光学系Bの広角レンズの前群を構成する、レンズLB1〜LB3は、物体側から順に、ガラス材料による負メニスカスレンズ(LB1)、プラスチック材料による負レンズ(LB2)、ガラス材料による負のメニスカスレンズ(LB3)により構成されている。
【0024】
後群を構成するレンズLB4〜LB7は、物体側から順に、ガラス材料による両凸レンズ(LB4)、ガラス材料による両凸レンズ(LB5)と両凹レンズ(LB6)の張り合わせレンズ、プラスチック材料による両凸レンズ(LB7)により構成されている。
【0025】
これら撮像光学系A、Bの広角レンズにおいて、前群のプラスチック材料による負レンズLA2、LB2、後群のプラスチック材料による両凸レンズLA7、LB7は「両面が非球面」であり、他のガラス材料による各レンズは球面レンズである。
【0026】
各広角レンズにおける前側主点の位置は、第2レンズLA2、LB2と第3レンズLA3、LB3との間に設定される。
【0027】
撮像光学系Aの広角レンズにおける、前群の光軸と反射面との交点と前側主点との距離が
図1における「d1」であり、撮像光学系Bの広角レンズにおける、前群の光軸と反射面との交点と前側主点との距離が「d2」である。
【0028】
これらの距離「d1」、「d2」は、請求項1の
広角レンズにおける距離「d」であって、前述の条件
(1) 7.0<d/f<9.0
を満足する。
【0029】
条件(1)の意義について説明すると、条件(1)のパラメータ:d/fが小さくなることは、全系の焦点距離:fが長くなるか、前群の光軸と反射面との交点と前側主点との距離:dが小さくなることを意味する。
【0030】
焦点距離:fが大きくなれば、広角レンズの「光軸上のレンズ全長」が長くなるので、コンパクト化の観点からこれを適当な値に設定すると、その条件においては距離:dが小さくなることを意味する。
【0031】
dが小さくなると、レンズLA3(LB3)とプリズムPA(PB)との間隔が狭くなり、レンズLA3(LB3)に必要な屈折力を確保するためのレンズ肉厚に対する制限が厳しくなる。そして、条件(1)の下限値を下回ると、レンズLA3(LB3)の所望の肉厚、形状を加工できなくなったり、加工が難しくなったりする。
【0032】
図1において、撮像光学系A、Bは、図における左右方向において、なるべく近接させることが「全天球型撮像装置の小型化」の目的に沿う。反射面は直角プリズムPA、PBの斜面であるので、この「斜面」同士をなるべく近接させることが、上記小型化に有効である。
【0033】
条件(1)において、パラメータ:d/fが大きくなることは、前群の光軸と反射面との交点と前側主点との距離:dが大きくなることを意味し、これは「前群」が大型化することを意味する。
【0034】
このような「前群の大型化」は、全天球型撮像装置の小型化を困難にする。この場合、前群の大きさの増大による「全天球型撮像装置の大型化」を吸収する方法として、プリズムPA、PBの斜面同士を近接させた状態で、撮像光学系AとBとを
図1の上下方向へずらして配置することが考えられる。
【0035】
しかしこのようにすると、各撮像光学系の広角レンズの前群の光軸同士が、
図1で上下方向にずれるので、このズレ量が程度を超えれば前述の「視差」の影響が大きくなる。
【0036】
視差の影響を有効に抑えつつ、前群の大型化を許容できるのは、パラメータ:d/fが条件(1)の上限より小さい場合である。
【0037】
図1の全天球型撮像装置において「視差の影響」を適正に抑制するためには、以下の条件(4)を満足するのが好ましい。
(4) 16≦(d1+d2)/f<21
視差の影響を抑えつつ、条件(4)の下限を超えると、プリズムPAとPBの反射面同士が「干渉」してしまうし、上限を超えると「視差の影響」を無視できなくなる。
【0038】
また、広角レンズの、前群の最も物体側から反射面までの距離:DA、該反射面から後群の最も像側の面までの距離:DBは、条件:
(2) DA<DB
を満足することが好ましい。
また、広角レンズのプリズムのd線に対する屈折率:ndは、条件:
(3) nd≧1.8
を満足することが好ましい。
条件(3)nd≧1.8は、
図1のプリズムPA、PBの材質として、d線に対する屈折率:ndが1.8より大きいものを用いるべきことを定めている。
【0039】
プリズムPA、PBは、前群からの光を後群に向かって「内部反射」させるので、結像光束の光路はプリズム内を通る。プリズムの材料が条件(3)を満足するような高屈折率であると、プリズム内の「光学的な光路長」が、実際の光路長より長くなり、光線を屈曲させる距離を広げることが出来る。
前群・プリズム・後群における「前群と後群の間の光路長」を機械的な光路長よりも長く出来、広角レンズをコンパクトに構成できる。
【0040】
また、開口絞りSA、SBの近くにプリズムPA、PBを配置することにより、小さいプリズムを用いるができ、広角レンズ相互の間隔を小さくできる。
【0041】
プリズムPA、PBは、前群と後群の間に配置される。広角レンズの前群は、180度以上の広画角の光線を取り込む機能をもち、後群は収差補正の結像に効果的に機能する。
【0042】
プリズムを上記の如く配置することにより、プリズムの配置ずれや製造公差の影響を受けにくい。
【実施例】
【0043】
以下、広角レンズの具体的な実施例を挙げる。
実施例は、
図1に示す全天球型撮像装置の撮像光学系A、Bに用いられる広角レンズであり、撮像光学系A、Bに共に用いられる。即ち、撮像光学系A、Bに用いられる2つの広角レンズは「同一
仕様」であり、前記d1=d2である。
【0044】
以下において、fは全系の焦点距離、NoはFナンバ、ωは半画角である。
【0045】
また「面番号」は、物体側から順次1〜23とし、これらはレンズ面、プリズムの入・射出面および反射面、絞りの面、撮像センサのフィルタの面や受光面を示す。
【0046】
「R」は、各面の曲率半径であり、非球面に合っては「近軸曲率半径」である。
【0047】
「D」は面間隔、「Nd」はd線の屈折率、「νd」はアッベ数である。また物体距離は無限遠である。長さの次元を持つ量の単位は「mm」である。
【0048】
「実施例」
f=0.75、No=2.14、ω=190度
面番号 R D Nd νd
1 17.1 1.2 1.834807 42.725324
2 7.4 2.27
3 −1809 0.8 1.531131 55.753858
4* 4.58 2
5* 17.1 0.7 1.639999 60.078127
6 2.5 1.6
7 ∞ 0.3
8 ∞ 5 1.834000 37.160487
9 ∞ 1.92
10 ∞(開口絞り) 0.15
11 93.2 1.06 1.922860 18.896912
12 −6.56 1.0
13 3.37 1.86 1.754998 52.321434
14 −3 0.7 1.922860 18.896912
15 3 0.3
16* 2.7 1.97 1.531131 55.753858
17* −2.19 0.8
18 ∞ 0.4 1.516330 64.142022
19 ∞ 0
20 ∞ 0.3 1.516330 64.142022
21 ∞ 0.3
22 撮像面 。
【0049】
非球面
上のデータで「*」印を付した面(前群の第2レンズの両面および後群の最終レンズの両面)は非球面である。
【0050】
非球面形状は、近軸曲率半径の逆数(近軸曲率):C、光軸からの高さ:H、円錐定数:K、上記各次数の非球面係数を用い、Xを光軸方向における非球面量として、周知の式
X=CH
2/[1+√{1−(1+K)C
2H
2}]
+A4・H
4+A6・H
6+A8・H
8+A10・H
10+A12・H
12+A14・H
14
で表されるものであり、近軸曲率半径と円錐定数、非球面係数を与えて形状を特定する。
【0051】
上記実施例の非球面データを以下に挙げる。
【0052】
第3面
4th:0.001612
6th:-5.66534e-6
8th:-1.99066e-7
10th:3.69959e-10
12th:6.47915e-12
第4面
4th:-0.00211
6th:1.66793e-4
8th:9.34249e-6
10th:-4.44101e-7
12th:-2.96463e-10
第16面
4th:-0.006934
6th:-1.10559e-3
8th:5.33603e-4
10th:-1.09372e-4
12th:1.80753-5
14th:-1.52252e-7
第17面
4th:0.041954
6th:-2.99841e-3
8th:-4.27219e-4
10th:3.426519e-4
12th:-7.19338e-6
14th:-1.69417e-7
上記非球面の表記において例えば「-1.69417e-7」は「-1.69417×10
-7」を意味する。
また、「4th〜14th」は、それぞれ「A4〜A14」である。
【0053】
各条件のパラメータの値は、以下の通りである。
条件(1)のパラメータの値
d=d1=d2=6 f=0.75
d/f=8
条件(2)のパラメータの値
DA=
11.37
DB=14.76
条件(3)のパラメータの値
Nd=1.834000
条件(4)のパラメータの値
(d1+d2)/f=16
従って、実施例の広角レンズおよび全天球型撮像装置は、条件(1)〜(3)を満足している。
【0054】
なお、広角レンズとして「光路を折り曲げないもの」を平行に用いる場合に比して、光軸間の間隔(
図1における前側主点相互の、
図1の上下方向の間隔)を14mm短くすることが出来た。
【0055】
上記の如く、画角180度を超える広角レンズでは、レンズの中心を通る光線と周辺を通る光線では、レンズ肉厚の差で光路長が変わり、性能劣化につながる。実施例の広角レンズでは、前群の3枚のレンズのうち、第2レンズに「光軸近傍と周辺とのレンズ肉厚の差」が出やすい。それで、該第2レンズをプラスチックレンズとして両面を非球面とすることにより補正を行っている。
【0056】
また、後群の最終レンズをプラスチックレンズとし、その両面を非球面とすることにより「このレンズよりも物体側で発生する諸収差」を良好に補正するようにしている。
【0057】
また、後群の4枚のレンズのうち、2番目の両凸レンズと3番目の両凹レンズを接合することにより「色収差」を良好に補正している。
【0058】
実施例の広角レンズの球面収差図を、
図2に示す。また、像面湾曲の図を
図3に示す。
【0059】
図4には、コマ収差図を示す。
【0060】
図5、
図6は、OTF特性を示す図であり、横軸は、
図5が「空間周波数」、
図6が半画角を「度」で表している。
【0061】
これらの図から明らかなように、実施例の広角レンズは性能が極めて高い。