(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、ホローカソード放電によって電子の閉じ込め効果を得て、高密度プラズマを生成しようとするものであるが、処理室内でのガスの圧力とプラズマ密度との関係についての言及はない。
【0005】
本発明は、低い圧力から高い圧力までの広範囲のガス圧において、プラズマの高密度化を図ることができるプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のプラズマ処理装置は、処理チャンバを有している。処理チャンバの内部にはプラズマ処理対象物が配置されている。処理チャンバの内部からガスを排気するための排気口と、処理チャンバの内部に処理ガスを供給するための処理ガス供給口とが、処理チャンバに設けられている。前記処理チャンバ内にホローカソードが配置されている。ホローカソードは、前記処理対象物を向いて開口した溝を少なくとも1つ有している。電力供給部が前記ホローカソードに高周波電力を供給する。
前記処理ガス供給口は、前記処理対象物と前記ホローカソードとの間に位置している。前記溝は、その開口から、前記被処理対象物から離れる方向に向かうに従って溝幅が連続的若しくは不連続的な数種類の幅を持って形成されている。前記溝幅の広い部分は、前記処理ガスの前記処理チャンバ内での圧力が低い状態で高密度プラズマが形成され、前記溝幅の狭い部分は、前記処理ガスの前記処理チャンバ内での圧力が高い状態で高密度プラズマが形成されている。
【0007】
このように構成されたプラズマ処理装置では、ホローカソードの溝幅の広い部分では、電子の平均自由行程が長くなる処理ガスの圧力が低い状態において、電子がトラップし、電子が高エネルギーを得て、ガス粒子と衝突するようになるので、プラズマの高密度化が可能である。また、溝幅の狭い部分では、電子の平均自由行程が短くなる処理ガスの圧力が高い状態において、電子がトラップし、電子が高エネルギーを得て、ガス粒子と衝突するようになるので、プラズマの高密度化が可能である。
【0008】
前記溝は、テーパー状に形成することもできるし、複数段階の段を有する段差型に形成することもできる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明では、ホローカソードに形成した溝の形状を上述したように選択してあるので、ガス圧が低い状態から高い状態のいずれの状態においても、生成されるプラズマの高密度化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態のプラズマ処理装置の概略構成図である。
【
図2】
図1のプラズマ処理装置で使用するホローカソードの平面図と縦断面図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態で使用するホローカソードの平面図と縦断面図である。
【
図4】従来のホローカソードの平面図と縦断面図である。
【
図5】第1及び第2の実施形態並びに従来のプラズマ処理装置におけるプラズマ密度とガス圧との関係を示す図である。
【
図6】平均自由行程とガス圧との関係を示す図である。
【
図8】第3乃至第5の実施形態で使用されるホローカソードの部分省略縦断面図である。
【
図9】第2乃至第5の実施形態及び従来のプラズマ処理装置におけるプラズマ密度とガス圧との関係を示す図である。
【
図10】
図1のプラズマ処理装置で使用するホローカソードの他の例の平面図と縦断面図である。
【
図11】
図10のホローカソード、第2の実施形態のホローカソード及び
図4の従来のホローカソード及び平板型のカソードとにおけるプラズマ密度及び圧力の関係を示す図である。
【
図12】
図11のプラズマ密度及び圧力の関係を測定した
図10のホローカソード、第2の実施形態のホローカソード及び
図4の従来のホローカソード及び平板型のカソードの各部の寸法を示す図である。
【
図13】逆テーパー型のホローカソードにおけるプラズマ密度と圧力との関係を示す図である。
【
図14】逆テーパー型のホローカソードの平面図及び縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1実施形態のプラズマ処理装置は、
図1に示すように、処理チャンバ2を有している。処理チャンバ2は、例えば金属製で、内部に被処理物4を支持する支持台6を有している。この支持台6と対向するようにホローカソード8が配置されている。ホローカソード8の詳細は後述するが、周囲にはシールドが設けられている。このホローカソード8は、電力供給部、例えばブロッキングキャパシタ10及び整合器12を介して高周波電力源、例えば13.56MHzの高周波電源14の一端に接続されている。この高周波電源14の他端は、基準電位、例えば接地電位に接続され、処理チャンバ2も接地電位に接続されている。
【0012】
処理チャンバ2には、内部を排気するための真空ポンプ(図示せず)に接続するための排気部16が形成されている。また、処理チャンバ2には、内部に処理ガス、例えば不活性ガス、具体的にはアルゴンガスを供給するためのアルゴンガス源(図示せず)に接続する処理ガス供給部18も形成されている。排気部16及びアルゴンガス供給部18は、処理チャンバ2の周面に配置され、処理ガス供給部18はホローカソード8と支持台6との間に位置している。
【0013】
ホローカソード8は、
図2(a)に示すように、例えば円板状に形成され、被処理物4を向いた面に開口した環状の溝20を有している。この溝20は、
図2(b)に示すように、被処理物4から離れる方向(
図2(b)において下方向)に溝底を有し、開口からこの溝底に向かうに従って溝幅が徐々に小さくなっているテーパー型のものである。なお、ホローカソード8の各部の寸法の一例を
図2(a)、(b)に示す。
【0014】
また、本発明の第2の実施形態のプラズマ処理装置は、ホローカソード8aの溝20aの形状が異なる以外、第1の実施形態のプラズマ処理装置と同様に構成されている。同一部分には、同一符号を付して、説明を省略する。溝20aは、
図3(a)、(b)に示すように、2段に構成された段差型のもので、1段目は、溝幅が開口から一定の幅で被処理物4から離れる方向に1段目の底まで進行している。2段目は、1段目の底の中央において、溝幅が前記1段目の溝幅よりも小さく、その小さい幅を維持したまま更に被処理物4から離れる方向に2段目の底まで進行している。ホローカソード8aの各部の寸法の一例を
図3(a)、(b)に示す。
【0015】
第1及び第2の実施形態のプラズマ処理装置でのプラズマ処理では、支持台6上に被処理物4を配置した状態において、真空ポンプによって処理チャンバ2内を排気して、真空状態とする。次に、アルゴンガスを処理チャンバ2内に供給し、高周波電源14を動作させることによって、プラズマを発生させ、このプラズマを被処理物4に導入することによって、被処理物4をプラズマ処理する。
【0016】
両実施形態のプラズマ処理装置では、ホローカソード8、8aを使用しているので、高密度プラズマを生成することができる。即ち、ホローカソード8、8aにイオンが衝突し、ホローカソード8、8aから電子が放出される。電子はイオンよりも質量が軽く、移動速度が速いためホローカソード8、8aは負に帯電する。負に帯電したホローカソード8、8aにイオンが引きつけられ、イオンシース領域が溝20、20aを含む領域に形成される。イオンの衝突により、ホローカソード8、8aの一方の溝壁から放出された電子は、イオンシース領域で加速され、ホローカソード8、8aの反対側の溝壁に移動し、ホローカソード8、8aが負に帯電しているので、ホローカソード8、8aのイオンシース領域で反射される。電子は、このような静電的な閉じ込めに寄り、ホローカソード8、8aの溝内を往復運動しながら、イオンシースによって加速される。この結果、高エネルギー電子が閉じ込められ、電離確率が増加し、高密度プラズマが形成される。
【0017】
ホローカソード8、8aの溝の形状を、溝20、20aのように溝幅を深さ方向に変化させることによって、低いガス圧から高いガス圧の広範囲のガス圧範囲で高密度のプラズマを発生させることができる。
【0018】
ガス圧が高い範囲では、平均自由行程は短くなり、電子の移動距離が短くなる。
図4に示す井戸型の溝20bでは、平均自由行程に対して溝幅が広すぎて、電子が溝内でトラップされる前にガス粒子と衝突するため、高密度のプラズマを生成することができない。しかし、
図2(b)に示すテーパー型の溝20や
図3(b)に示す段差型の溝20aでは、溝幅が狭い部分、即ち溝20、20aの溝底に近い部分では、電子がトラップし、電子が高エネルギーを得て、ガス粒子と衝突するようになるので、プラズマの高密度化が可能である。従って、上述したように広範囲のガス圧で、高密度プラズマの生成が維持できる。
【0019】
図5(a)乃至(c)に井戸型、テーパー型及び段差型の溝を有するホローカソードを有するプラズマ処理装置での様々なガス圧におけるプラズマ密度との測定結果を示す。プラズマ密度は、
図1に破線で示すプローブを利用して測定した。プローブの位置は、ホローカソードの中心から半径方向rに37.5mmの位置で、ホローカソードの溝の開口面側からの距離zが5mm、8mm、12mmの位置で測定している。処理ガスは、アルゴンガスで、その圧力は40乃至400mTorrである。高周波電力は50Wである。ホローカソード電極はいずれも直径が100mm、厚さが20mmである。
【0020】
第1の実施形態のテーパー型のホローカソード8では、溝20の開口側の外縁の直径が85.4mm、溝20の開口の溝幅は10mmである。従って、溝20の開口側の内縁の直径が64.6mmである。溝20の開口から溝20の溝底までの距離、即ち深さは10mmで、溝底の幅は5mmである。
【0021】
第2の実施形態の段差型のホローカソード8aでは、溝20aの開口の外縁の直径が80mm、内縁の直径が70mmである。従って、溝20aの開口幅は5mmである。開口から5mmまで溝の深さが一定の1段目であり、この1段目の底の中央から深さ5mmだけ、溝の深さが一定で溝幅が2mmの2段目が形成されている。
【0022】
井戸型のホローカソード8bでは、
図4(a)、(b)に示すように、溝20bの開口の外縁の直径が80mm、内縁の直径が70mmである。従って、溝20bの開口幅は5mmである。開口から溝底までの深さは10mmである。
【0023】
図5(c)において、井戸型ホローカソードの場合、ガス圧を40mTorrから増加させていくと、200mTorrでプラズマ密度が最大となり、ガス圧を200mTorrから更に増加させていくと、プラズマ密度は減少した。テーパー型ホローカソードの場合、ガス圧を40mTorrから増加させていくと、240mTorrでプラズマ密度が最大となり、ガス圧を240mTorrから更に増加させると、プラズマ密度は若干減少した。段差型ホロー陰極の場合、ガス圧を40mTorrから増加させていくと、360mTorrでプラズマ密度が最大となった。
【0024】
即ち、ガス圧200mTorrまでは井戸型ホローカソードのプラズマ密度が最も大きく、段差型のホローカソードのプラズマ密度が最も小さくなる。ガス圧が200mTorr以上になると、段差型ホローカソードのプラズマ密度が最も大きく、井戸型のホローカソード電極のプラズマ密度が最も小さくなった。
【0025】
ガス圧と平均自由行程との間には、電子温度をパラメータとして
図6に示すような関係があり、ガス圧が低い範囲では平均自由行程が長く、ガス圧が高い範囲では平均自由行程は短くなっている。また、電子温度とガス圧との間には、井戸型、テーパー型及び段差型によって、
図7に示すような関係にあることが測定されている。
【0026】
200乃至300mTorrの高いガス圧の範囲において、井戸型の電子温度は
図7から明らかなように1.7乃至2eVである。アルゴンガスの圧力が200乃至300mTorrの状態から、
図6から明らかなように平均自由行程が、溝幅5mmよりも短くなるので、電子がトラップする前に、粒子と衝突し、ホロー効果が良好に働かず、プラズマ密度が減少したと考えられる。
【0027】
テーパー型の場合、高いガス範囲において、電子温度は
図7から約1.2eVであるので、
図6から平均自由行程は、テーパー型溝底の溝幅5mm及び開口の溝幅10mmよりも長いので、ホロー効果が働き、プラズマ密度は減少しなかったと考えられる。低いガス範囲では、井戸型よりもプラズマ密度が低く、高いガス圧範囲で段差型よりもプラズマ密度が低くなったのは、テーパー型は電子が放出する方向に溝幅が徐々に広がり、電子が溝の外に拡散しやすいからであると考えられる。
【0028】
段差型の場合、低いガス圧範囲で井戸型よりもプラズマ密度が低くなっているのは、溝幅5mmの深さが5mmしかなく、低いガス圧だと平均自由行程が長くなるので、長さが足りず、ホロー効果がうまく働いていないためだと考えられる。一方、高いガス圧範囲では電子温度は1.2乃至1.5eVで、280mTorr以上から平均自由行程が5mmよりも短くなるが、下段の2mmのところで電子がトラップすることができるので、ホロー効果が働き、プラズマ密度が減少しなかったと考えられる。
【0029】
図8(a)乃至(c)に第3乃至第5の実施形態のプラズマ処理装置において使用するホローカソードの溝付近を示す。ホローカソードの他の大きさは、第1及び第2の実施形態のホローカソード8、8aと同一である。第2の実施形態で使用した段差型のホローカソード8aは、高いガス圧範囲でプラズマ密度が最も高かったが、低いガス圧範囲ではプラズマ密度が低くなったので、低いガス圧範囲でもプラズマ密度が高くなるように、改良を行ったのが、第3乃至第5の実施形態である。第3の実施形態では、
図8(a)に示すように溝20cの第1段目の開口幅を10mmに拡大させている。第4の実施形態では、同図(b)に示すように溝20dを、第3の実施形態における溝20cの第2段目の幅を2mmから5mmに拡大させたものとしている。第5の実施形態の溝20eでは、同図(c)に示すように第4の実施形態における溝20dの第2段目に加えて第3段目を形成し、その幅を2mm、長さを5mmとしてある。
【0030】
図4に示した井戸型、
図3に示した段差型、
図8(a)乃至(c)に示したホローカソードを使用したプラズマ処理装置におけるプラズマ密度とガス圧との関係を
図9に示す。これから200mTorr以下の低いガス圧範囲では、開口部の直径を10mmに拡大させることによりプラズマ密度が改善している。
【0031】
上記の各実施形態では、ホローカソードの溝は、一重に形成したが、同芯状に多重に形成することもできる。上記の各実施形態では、処理ガスとしてアルゴンガスを使用したが、これに限ったものではなく、他のガスを使用することもできる。
【0032】
また、
図10(a)、(b)に示すように、逆段差型の溝20fを備えるホローカソード8fを使用することもできる。即ち、溝20fは、2段に構成されているが、1段目は、溝幅が開口から一定の幅で被処理物4から離れる方向に所定の長さまで進行し、2段目は、1段目の底から、溝幅が前記1段目の溝幅よりも大きく、その大きい幅を維持したまま更に被処理物4から離れる方向に進行している。この構成では、ホローカソード8fの溝20fでの圧力が高い時は、溝幅が短い開口側でホロー効果により高密度プラズマを発生させ、一方、ホローカソード8fの溝20fでの圧力が低い時は、幅の広い底側でホロー効果を発生させ、そこで発生した高エネルギー電子が開口側付近でも電離を促進させて、プラズマの高密度化を図ることができる。即ち、溝幅が狭い開口側の1段目では、電子の移動距離が短く、ガス圧が高い場合に、プラズマを高密度化できる。溝幅が長い2段目の溝では、電極に囲まれている面積が広いので、電子がトラップされやすく、移動距離が長くなり、ガス圧が低い場合でもプラズマの高密度化を図ることができる。
【0033】
図11は、
図12に示す逆段差型、平板、井戸型及び段差型のホローカソードを使用した場合のガス圧とプラズマ密度の関係を示したものである。
図12(a)に示すように、各ホローカソードは同じ直径同じ厚さのもので、例えば直径が100mmで、厚さが20mmである。各ホローカソードで形成される溝で最も直径が大きい部分が85mm、次の直径が大きい部分が80mm、その次に直径が大きい部分が70mm、最も直径が小さい部分が65mmである。2段の溝を構成する場合、開口側の1段目の深さは5mmで、2段目の深さは開口から10mmである。同図(c)に示す逆段差型では、1段目の溝幅が5mm、1段目の溝の深さは5mm、2段目の開口からの深さは10mm、溝底の幅は10mmである。同図(d)に示す平板型では溝は全く形成されていない。同図(e)に示す井戸型では、1段の溝のみ形成され、溝幅及び溝底の幅は5mmで、深さは10mmである。同図(f)に示す段差型では、1段目の溝幅が10mm、1段目の溝の深さは5mm、2段目の開口からの深さは10mm、溝底の幅は5mmである。
【0034】
図11は、入力高周波電力を50Wとし、ホローカソードの中心から半径方向に37.5mm位置であるrで、開口面から溝内への距離が12mmであるzにプローブを配置して、プラズマ密度を測定している。同図から、高圧時、例えば320mTorr未満では、逆段差型の溝を使用すると、最もプラズマ密度が高くなった。
【0035】
図13は、
図14(a)、(b)に示す逆テーパー型のホローカソードを使用した場合のガス圧とプラズマ密度の関係を示したものである。
図14(b)に示すように、逆テーパー型のホローカソードは例えば直径が100mmで、厚さが20mmである。ホローカソードで形成される溝で最も直径が大きい部分が85mm、次に直径が大きい部分が80mm、その次に直径が大きい部分が70mm、最も直径が小さい部分が65mmで、溝底の幅は10mm、開口の幅は5mm、深さは5mmである。
【0036】
図13は、入力高周波電力を50Wとし、ホローカソードの中心から半径方向に37.5mmの位置であるrで、開口面から溝内への距離が12mm、15mm、20mmであるzにプローブを配置して、プラズマ密度を測定している。同図から、逆テーパー電極を用いると、40から240mTorrまで圧力に比例してプラズマ密度が増加し、10
11cm
−3を超える高密度となっている。