IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 熊本大学の特許一覧 ▶ 不二ライトメタル株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-航空機部材の製造方法 図1
  • 特開-航空機部材の製造方法 図2
  • 特開-航空機部材の製造方法 図3
  • 特開-航空機部材の製造方法 図4
  • 特開-航空機部材の製造方法 図5
  • 特開-航空機部材の製造方法 図6
  • 特開-航空機部材の製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161560
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】航空機部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/06 20060101AFI20221014BHJP
   C22C 23/02 20060101ALI20221014BHJP
   B21C 23/00 20060101ALI20221014BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20221014BHJP
【FI】
C22F1/06
C22C23/02
B21C23/00 A
C22F1/00 612
C22F1/00 624
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066471
(22)【出願日】2021-04-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代構造部材創製・加工技術開発/次世代複合材及び軽金属構造部材創製・加工技術開発(第二期)」に係る委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】508080609
【氏名又は名称】不二ライトメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】森 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】河村 能人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 美波
【テーマコード(参考)】
4E029
【Fターム(参考)】
4E029AA01
4E029AA05
4E029SA01
4E029TA02
(57)【要約】
【課題】本開示は、ビレットの大きさによらず、強度および延性を兼ね備えたマグネシウム合金部材を安定的に得られる製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示に係る航空機部材の製造方法は、(Mg,Al)Ca化合物を含有するMg-Al-Ca系合金を用いて押出加工する航空機部材の製造方法であって、全量に対して、Al:6原子%以上8原子%以下、および、Ca:3原子%以上4原子%以下を含むMg-Al-Ca系合金のビレットを選択し、ビレットの温度が(Mg,Al)Caの溶融温度未満に維持される条件で、ビレットを押出加工する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Mg,Al)Ca化合物を含有するMg-Al-Ca系合金を用いて押出加工する航空機部材の製造方法であって、
全量に対して、Al:6原子%以上8原子%以下、および、Ca:3原子%以上4原子%以下を含むMg-Al-Ca系合金のビレットを選択し、
前記ビレットの温度が前記(Mg,Al)Caの溶融温度未満に維持される条件で、前記ビレットを押出加工する航空機部材の製造方法。
【請求項2】
前記条件は、押出温度および押出出口速度により設定され、
前記押出温度および前記押出出口速度は、
x軸が前記押出温度(℃)およびy軸が前記押出出口速度(m/min)であるx-y座標系のグラフにおいて、第1プロット(x:375℃,y:3.6m/min)と、第2プロット(x:450℃,y:0.9m/min)と、を結ぶ直線上または該直線よりもxおよびyが小さい範囲から選択される請求項1に記載の航空機部材の製造方法。
【請求項3】
前記条件における前記押出温度は、350℃以上である請求項2に記載の航空機部材の製造方法。
【請求項4】
前記条件における前記押出出口速度は、0.3m/min以上である請求項2または請求項3に記載の航空機部材の製造方法。
【請求項5】
前記直線は式(1):y=-0.036x+17.1で表される、請求項2に記載の航空機部材の製造方法。
【請求項6】
前記押出温度および押出出口速度は、
前記式(1)、式(2):x=350、式(3):y=0.3の3つの直線で囲まれた範囲内から選択される請求項5に記載の航空機部材の製造方法。
【請求項7】
前記押出温度および押出出口速度は、
前記式(1)、式(2):x=350、式(3’):y=0.9、式(4):y=3.6の4つの直線で囲まれた範囲内から選択される請求項6に記載の航空機部材の製造方法。
【請求項8】
前記Mg-Al-Ca系合金は、0原子%超0.3原子%以下のMnを含む請求項1~7のいずれかに記載の航空機部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、航空機部材の製造方法、特に航空機の二次構造部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
民間航空機は、昨今の燃費向上の要請により、ますます機体重量の軽減が必要となってきている。従来の民間航空機の主構造部材(胴体部外板等)にはアルミニウム合金が使用されているが、アルミニウム合金部材の高強度化は限界に達しており、更なる比強度の高い素材の適用が必要な状況となっている。
【0003】
このような状況の中、近年、複合材が機体主構造に適用されるようになってきたが、製造コストが高い、製造リードタイムが長い、組み立てコストが高いなどの課題があるのが現状である。
【0004】
このような課題を解決するために、アルミニウム合金と同等程度の製造コストで、かつ、同等以上の比強度を有するマグネシウム合金の研究が進められている(特許文献1,2参照)。
【0005】
マグネシウム合金は、活性な金属であるため防食処理が必要となる。特許文献1では、マグネシウム合金の表面に非クロメート化成被覆を形成して耐食性を向上させている。一方、特許文献2では、表層領域に存在するMgとAlとの双方を含む微細析出物の個数および大きさを定義することで、防食処理を施す必要のない耐食性の高いマグネシウム合金部材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008-536013号公報
【特許文献2】特開2010-209452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
航空機部材に適用される材料には、耐食性の他に、強度(引張耐力)および延性(伸び)の両立が要求される。マグネシウム合金は、アルミニウム合金よりも強度が低い。そのため強度を改善する必要があるが、マグネシウム合金の強度は、延性とトレードオフの関係にあり、これらを両立させることは難しい。
【0008】
また、マグネシウム合金を航空機部材に適用するには、難燃性を向上させて発火温度を高くする必要がある。
【0009】
特許文献2に記載されているように、マグネシウム合金部材は、マグネシウム合金からなるインゴットを用いて鋳造されたビレットを用いて製造される。
【0010】
大型の航空機部材の製造には、ある程度大きなビレットの使用が望まれる。しかしながら、ビレットの直径が大きくなると、ビレット全体としての品質も不均一になりやすくなる。品質のムラは、マグネシウム合金部材の強度および延性に影響を与える要因となり得る。
【0011】
マグネシウム合金は、加工条件に依存して結晶粒径およびミクロ組織が変化し、強度および延性が変化する。
【0012】
図5に、Mg-Al-Ca-Si系合金の金属組織写真を例示する。図5に示されるように、金属組織中には、α-Mg(Al,Caを固溶)、Mg-Si-Ca化合物および(Mg,Al)Ca化合物(C36)などが含まれている。図6に、(Mg-Si-Ca化合物)の金属組織写真を示す。図7に、(Mg,Al)Ca化合物の金属組織写真を示す。
【0013】
本発明者らの検討によれば、Mg-Si-Ca化合物および(Mg,Al)Ca化合物のような金属間化合物が粗大化すると、延性が小さくなる傾向を示すとの知見が得られている。ビレットが大きくなると、(Mg,Al)Ca化合物は粗大化しやすい。
【0014】
小さいビレットでは、マグネシウム合金へのSiの添加が延性を向上させる場合もある。しかしながら、本発明者らの検討によれば、ある程度大きなビレットでは、延性が小さくなるとの知見が得られている。
【0015】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ビレットの大きさによらず、強度および延性を兼ね備えたマグネシウム合金部材を安定的に得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本開示の航空機部材の製造方法は以下の手段を採用する。
【0017】
本開示は、(Mg,Al)Ca化合物を含有するMg-Al-Ca系合金を用いて押出加工する航空機部材の製造方法であって、全量に対して、Al:6原子%以上8原子%以下、および、Ca:3原子%以上4原子%以下を含むMg-Al-Ca系合金のビレットを選択し、前記ビレットの温度が前記(Mg,Al)Caの溶融温度未満に維持される条件で、前記ビレットを押出加工する航空機部材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本開示の製造方法によれば、AlおよびCaの含有量を上記範囲としたビレットを用い、かつ、押出加工条件を最適化することで、強度と延性を兼ね備えた航空機部材が、従来法よりも安定的に得られる。また、本開示の製造方法によれば、要求される難燃性を満たす航空機部材を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】押出条件、引張耐力(FTY)および延性(伸び/EL)の関係を示す図である。
図2】好ましい押出加工条件の範囲を示す図である。
図3】AlおよびCaの含有量、押出条件、引張耐力(FTY)および延性(伸び/EL)の関係を示す図である。
図4】腐食試験の結果を示す図である。
図5】一例としてのMg-Al-Ca-Si系合金の金属組織写真である。
図6】Mg-Si-Ca化合物の金属組織写真である。
図7】(Mg,Al)Ca化合物の金属組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示に係る製造方法は、航空機用の二次構造部材の製造に好適である。二次構造部材は、ストリンガなどの一次構造部材に取り付けられる部材である。二次構造部材は、クリップ、ブラケット、配管類を止める金具、および座席フレーム等である。二次構造部材は、一次構造部材に比べると大きな荷重はかからない部材である。
【0021】
以下に、本開示に係る航空機部材の製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態では、(Mg,Al)Ca化合物(以下、(Mg,Al)Ca)を含有するMg-Al-Ca系合金のビレットを用いて、航空機部材を押出加工する。押出加工は、ビレットの温度が(Mg,Al)Ca化合物の溶融温度未満に維持される条件で実施する。押出加工された航空機部材(押出材)において、(Mg,Al)Caは金属組織中に分散されている。
【0023】
上記Mg-Al-Ca系合金(ビレット)は、溶解鋳造によって製造された鋳造物である。ビレット鋳造時の冷却速度は1000K/秒以下、好ましくは100K/秒以下である。
【0024】
ビレットの直径は、29mm以上180mm以下である。ビレットの直径は、69mm以上であってもよい。
【0025】
ビレットには、全量に対して、Alを6原子%以上8原子%以下、および、Caを3原子%以上4原子%以下含むMg-Al-Ca系合金を選択される。
【0026】
Mg-Al-Ca系合金(ビレット)は、Mnを0原子%超0.3原子%以下、好ましくは0.01以上0.05以下含んでもよい。
【0027】
Mg-Al-Ca系合金(ビレット)の残部はMgからなる。
「残部」が「Mgからなる」とは、残部がすべてMgからなる場合だけでなく、合金特性に影響を与えない程度の不純物または他の元素を残部に含みうることを意味する。
【0028】
Mg-Al-Ca系合金(ビレット)は、Siを含まない。ここで、「含まない」とは、Siの含有量が0原子%である場合だけでなく、不可避的(例えば0.1原子%以下)でSiが含まれてもよいことを意味する。
【0029】
上記Mg-Al-Ca系合金(ビレット)は、(Mg,Al)Ca化合物を含有する。Mg-Al-Ca系合金において、(Mg,Al)Caは好ましくは10体積%以上35体積%以下、さらに好ましくは10体積%以上30体積%以下で含まれていてよい。
【0030】
(Mg,Al)Caの溶融温度は、490℃である。該溶融温度は、状態図から導き出されたものである。
【0031】
押出加工時のビレットの温度は、押出温度および押出出口速度を設定することで、溶融温度未満に維持されうる。「押出出口速度」は、押出成形時、押出型(ダイス)から材料が押し出される速度である。
【0032】
押出比は、10以上80以下とするとよい。
【0033】
押し出された押出材の断面は、例えば、L型、T型、Z型であってよい。
【0034】
Mg-Al-Ca系合金のビレットは、押出加工する前に400℃以上500℃以下、1時間以上6時間以下で熱処理されてもよい。処理温度は、好ましくは450℃以上500℃以下である。処理時間は、1時間程度の短時間とすることがより望ましい。
【0035】
(押出温度および押出出口速度)
所定条件でビレットを押出加工し、得られた押出材について、引張耐力(FTY)および延性(伸び/EL)を測定した。
【0036】
ビレットには、Al:8原子%、Ca:4原子%、Mn:0.015原子%を含むMg-Al-Ca系合金(φ69mm)を用いた。押出比は、15とした。
【0037】
図1および表1に測定結果を示す。図1において、横軸(x軸)は押出温度(℃)、縦軸(y軸)は押出出口速度Ve(m/min)、実線は〇プロット(x:375℃,y:3.6m/min)と、〇プロット(x:450℃,y:0.9m/min)を結んだ直線(y=-0.036x+17.1)である。図1のx-y座標系のグラフにおいて、上記直線よりも紙面向かって右側の色塗り部分は、押出時物温(ビレットの温度)が490℃を超える条件の領域である。
【0038】
【表1】
【0039】
図1および表1によれば、ビレットの温度が490℃を超える(ビレットが溶融する)条件で押出加工された押出材(×プロット/押出材No.8)は、引張耐力が264MPa、延性が1.6%であった。一方、ビレットの温度が溶融しない温度(ビレットの溶融温度未満が維持される)条件で押出加工された押出材(〇プロット/押出材No.1~7,9)は、いずれも引張耐力が270MPa以上、延性が3%以上であった。
【0040】
上記結果から、ビレットが溶融しない条件(押出温度および押出出口速度)で押出加工することで、引張耐力および延性を兼ね備えた押出材を得られることが示唆された。
【0041】
図2に、図1の結果から示唆された、好ましい押出加工条件の範囲を示す。図2において、横軸(x軸)は押出温度(℃)、縦軸(y軸)は押出出口速度Ve(m/min)、実線は〇プロット(x:375℃,y:3.6m/min)と、〇プロット(x:450℃,y:0.9m/min)を結んだ直線(y=-0.036x+17.1)、二点鎖線は好ましい範囲を示す線、一点鎖線はより好ましい範囲を示す線である。図2のx-y座標系のグラフにおいて、上記直線よりも紙面向かって右側の色塗り部分は、押出時物温(ビレットの温度)が490℃を超える条件の領域である。
【0042】
押出温度および押出出口速度は、x軸が押出温度(℃)およびy軸が押出出口速度(m/min)であるx-y座標系のグラフにおいて、第1プロット(x:375℃,y:3.6m/min)と、第2プロット(x:450℃,y:0.9m/min)と、を結ぶ直線上または該直線よりもxおよびyが小さい範囲から選択するのが好ましい。
【0043】
押出温度は350℃以上、押出出口速度は0.3m/min以上とするのが現実的である。押出温度が350℃よりも低いとビレットの流動性が悪くなり、押出しが難しくなる。押出出口速度が0.3m/minよりも遅い場合、押出装置の速度コントロールが難しくなる。
【0044】
押出装置能力の制約を考慮すると、押出温度および押出出口速度は、式(1)~式(3)の3つの直線に囲まれた範囲内(直線上も含む)から選択するとよい。
式(1):y=-0.036x+17.1
式(2):x=350
式(3):y=0.3
【0045】
図2によれば、押出出口速度が0.9m/min以上3.6m/min以下の範囲であれば、より確実に引張耐力および延性を兼ね備えた押出材となりうることが確認されている。このことから、押出温度および押出出口速度は、式(1)~式(4)の4つの直線に囲まれた範囲内(直線上も含む)から選択することがさらに望ましい。
式(1):y=-0.036x+17.1
式(2):x=350
式(3’):y=0.9
式(4):y=3.6
【0046】
参考として、図3および表2に、本実施形態で規定した範囲よりもAlおよびCaの含有量が高いビレットを用いて押出加工して得られた押出材について、引張耐力(FTY)および延性(伸び/EL)を測定した結果を示す。
【0047】
ビレットには、Al:10原子%、Ca:5原子%、Mn:0.05原子%を含むMg-Al-Ca系合金(φ69mm)を用いた。押出比は、15とした。
【0048】
【表2】
【0049】
AlおよびCaが上記実施形態の範囲から外れたビレットを用いた押出材では、押出加工条件を上記開示の範囲としたとしても、延性が著しく低下するケースが存在することが確認された。
【0050】
上記結果から、全量に対して、Al:6原子%以上8原子%以下、および、Ca:3原子%以上4原子%以下を含むMg-Al-Ca系合金のビレットを選択する必要があることが示唆された。
【0051】
(発火温度)
押出材No.12~23について、ヒータで加温し、発火した時の温度を測定した。
押出加工時の押出比は、15とした。測定結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
押出材No.12~23の発火温度は、いずれも1000℃以上であった。一方、市販のマグネシウム合金(Elektron 43)の発火温度は、900℃よりも低かった。この結果から、上記実施形態に係る方法によって、従来よりも難燃性に優れた押出材(航空機部材)を製造できることが示唆された。
【0054】
(腐食性)
所定条件でビレットを押出加工し、得られた押出材(試験板,n=3)について、ATSM B117に準拠した方法で腐食試験を実施した。より具体的には、チャンバー内に矩形の試験板を立てかけ、96時間、塩水(5%NaCl)を連続的に噴霧し、噴霧前後の試験板の重量変化を計測し、減肉量(腐食速度)を算出した。
【0055】
ビレット(φ69mm)には、Mg-10Al-5Ca,Mg-10Al-5Ca-0.015Mn,Mg-8Al-4Ca-0.015Mn,Elektron 43(市販のマグネシウム合金),7075-T6(市販のアルミニウム合金)を用いた。押出比は、15とした。
【0056】
図4に、腐食試験の結果を示す。同図において、縦軸は腐食速度(mm/year)、各試験片のバーは平均値である。
【0057】
Mg-10Al-5Caの腐食速度(平均)は、0.75mm/yearであった。一方、Mg-10Al-5Ca-0.015Mnの腐食速度(平均)は、0.125mm/yearであった。これにより、Mnの存在が腐食速度に影響することが確認された。同様にMnを含むMg-8Al-4Ca-0.015Mnの腐食速度(平均)も0.175mm/yearと低かった。
【0058】
Elektron 43の腐食速度(平均)は、0.425mm/yearであった。Mnを含むMg-Al-Ca系合金は、Elektron 43よりも腐食速度が小さいことが確認された。
【0059】
7075-T6の腐食速度(平均)は、0.15mm/yearであった。Mnを含むMg-Al-Ca系合金は、7075-T6と同等の腐食速度となることが確認された。
【0060】
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載の冷媒およびその設計方法ならびに冷媒を充填した冷凍機は例えば以下のように把握される。
【0061】
本開示は、(Mg,Al)Caを含有するMg-Al-Ca系合金を用いて押出加工する航空機部材の製造方法に関する。本開示では、全量に対して、Al:6原子%以上8原子%以下、および、Ca:3原子%以上4原子%以下を含むMg-Al-Ca系合金のビレットを選択し、前記ビレットの温度が前記(Mg,Al)Caの溶融温度未満に維持される条件で、前記ビレットを押出加工する。
(Mg,Al)Caの溶融温度は、490℃である。
【0062】
上記Mg-Al-Ca系合金は、従来の航空機分野で使用されているアルミニウム合金よりも比重が軽い。よって、このようなMg-Al-Ca系合金を加工して航空機部材とすることでアルミニウム合金部材に比べ10%以上の重量軽減が可能となる。
【0063】
本発明者らの鋭意検討によれば、(Mg,Al)Caを含有するMg-Al-Ca系合金を用いて押出加工する際、(Mg,Al)Caの溶融が始まることにより伸び(延性)が低下するとの知見が得られている。
【0064】
上記開示では、(Mg,Al)Caが溶融しない条件で押出加工することにより、(Mg,Al)Caの溶融に起因した延性の低下を防止できる。
【0065】
C36型化合物である(Mg,Al)Caは、硬質な化合物である。金属組織中に(Mg,Al)Caが分散されていると、高い強度と比較的大きな延性が得られる。(Mg,Al)Caの分散の度合いは、1個/μm以上であるとよい。(Mg,Al)Caは微細(例えば、2μm以下)であることが好ましい。
【0066】
Caの添加は、押出材(航空機部材)の難燃性および機械的特性を向上できる。Ca含有量が多すぎると、マグネシウム合金を固めた状態にしにくくなり、押出加工が困難となる。Ca含有量が少なすぎると、十分な難燃性を得ることができない。
【0067】
Alの添加は、押出材の機械的特性および耐食性を向上できる。Al含有量が多すぎると、十分な強度を得ることができない。Al含有量が少なすぎると、十分な延性を得ることができない。
【0068】
Mg-Al-Ca系合金に含まれるAlおよびCaの量が多くなると、金属組織中での(Mg,Al)Caの粗大化の要因となりうる。(Mg,Al)Caが粗大化すると、押出材の延性が低下しやすくなる。AlおよびCaの含有量を上記範囲とすることで、所望の延性を有する押出材となりうる。
【0069】
上記開示の一態様において、前記条件は、押出温度および押出出口速度により設定され、前記押出温度および前記押出出口速度は、x軸が前記押出温度(℃)およびy軸が前記押出出口速度(m/min)であるx-y座標系のグラフにおいて、第1プロット(x:375℃,y:3.6m/min)と、第2プロット(x:450℃,y:0.9m/min)と、を結ぶ直線上または該直線よりもxおよびyが小さい範囲から選択されうる。
【0070】
上記開示の一態様において、前記直線は式(1):y=-0.036x+17.1で表される。
【0071】
本発明者らの鋭意検討によれば、押出温度および押出出口速度を上記範囲から選択することで、押出加工時に、ビレットの温度を(Mg,Al)Caの溶融温度未満に維持できる。第1プロットおよび第2プロットの座標は、実測により得られたものであり、信頼性が高い。よって、従来よりも安定的に引張耐力および延性を兼ね備えた押出材を製造できる。
【0072】
上記開示の一態様において、前記条件における前記押出温度は、350℃以上であることが望ましい。押出温度が低すぎると、ビレットの流動性が低下して、押出が難しくなる。
【0073】
押出装置能力を考慮すると、上記開示の一態様において、前記条件における前記押出出口速度は、0.3m/min以上であることが望ましい。
【0074】
上記開示の一態様において、前記押出温度および押出出口速度は、前記式(1)、式(2):x=350、式(3):y=0.3の3つの直線で囲まれた範囲内から選択されうる。
【0075】
上記開示の一態様において、前記押出温度および押出出口速度は、前記式(1)、式(2):x=350、式(3’):y=0.9、式(4):y=3.6の4つの直線で囲まれた範囲内から選択されうる。
【0076】
本発明者らの鋭意検討によれば、(1):y=-0.036x+17.1の直線よりもxおよびyが小さく、押出温度が350℃以上、押出出口速度が0.9m/min以上3.6m/min以下で押出加工することで、より確実に引張耐力および延性を兼ね備えた押出材を得られる。
【0077】
上記開示の一態様において、前記Mg-Al-Ca系合金は、0原子%超0.3原子%以下のMnを含んでもよい。
【0078】
Mnは、微量添加でも耐食性を向上させる効果がある。一方、添加量の増大に伴い、押出材の延性は低下する。耐食性と延性を両立するためには、Mnの添加量を少なく抑えることが望ましい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7