【課題】二酸化炭素吸収能力が高く、ブロック材の耐久性を決定するカルサイト構造が炭酸固化体内部に十分に張り巡らされて、耐久性に優れた製鋼スラグ炭酸固化体ブロックを提供する。
【解決手段】第1次処理として、粉末化した製鋼スラグを所定量の純水に接触させて炭酸化した上で加熱溶融し、その後、加熱溶融された製鋼スラグ溶融物を所定の形状の型枠内に詰め、二酸化炭素を含む排ガスを通して製鋼スラグ中の酸化カルシウムに排ガス中の二酸化炭素を反応させて、当該製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのカルサイト構造を形成してなる製鋼スラグ炭酸固化体ブロックであって、第2次処理として、上記カルサイト構造を形成した炭酸固化体を海水又は人工海水に接触させ、該海水又は人工海水による弱アルカリ性の環境下で上記酸化カルシウムと二酸化炭素を反応させることにより、発生する炭酸カルシウムのカルサイト構造形成作用を促進させるとともに、その開気孔率を向上させた。
第1次処理として、粉末化した製鋼スラグを所定量の純水に接触させて炭酸化し、スラグ粒子表面にアラゴナイトを析出させた上で加熱溶融し、その後、同加熱溶融された製鋼スラグ溶融物を所定の形状の型枠内に詰め、二酸化炭素を含む排ガスを通して製鋼スラグ中の酸化カルシウムに排ガス中の二酸化炭素を反応させることにより、当該製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのカルサイト構造を形成してなる製鋼スラグ炭酸固化体ブロックにおいて、さらに第2次処理として、上記カルサイト構造を形成した炭酸固化体を海水又は人工海水に接触させ、該海水又は人工海水による弱アルカリ性の環境下で上記酸化カルシウムと二酸化炭素を反応させることにより、発生する炭酸カルシウムのカルサイト構造形成作用を促進させるとともに、その開気孔率を向上させるようにしたことを特徴とする製鋼スラグ炭酸固化体ブロック。
【背景技術】
【0002】
近年日本の海岸部では、護岸用または消波用、藻場形成用等の各種の海浜用ブロック(マリンブロック)が多く設置されている。
【0003】
しかし、これらブロック類の殆どのものは、コンクリート製のものであり、重量も大きく、構造自体もポーラスな構造とはなっていない。したがって、当然ながら、地球温暖化の原因となっている二酸化炭素(C02)などの吸収機能はなく、また海中に於ける藻場等の形成機能も小さい。
【0004】
一方、製鉄工場などでは、鉄鋼製造時の副産物として、製鋼スラグ(高炉スラグともいう)が多量に発生する。この製鋼スラグは、酸化カルシウム(CaO)を含むため、長時間戸外に放置すると、当該酸化カルシウムが空気中の水分や二酸化炭素を吸収し、水酸化カルシウムと炭酸カルシウムになって硬化し、処理しにくくなってしまう。
【0005】
そこで最近では、このような製鋼スラグを利用して上述のようなブロック材を製造することも行なわれている。
【0006】
その一つとして、例えば粉末化した製鋼スラグに適度な純水水分を添加したうえで、所定の形状の型枠内に詰め、その下部から二酸化炭素(C02)を多く含む排ガスを吹き込む。
【0007】
すると、当該製鋼スラグ中の酸化カルシウム(CaO)と排ガス中の二酸化炭素(C02)とが反応して、炭酸カルシウム(CaC03)が生成する。そして、この炭酸カルシウムがカルサイト構造を形成して、各スラグ粒子の間をネットワーク状に結合一体化するとともに、各スラグ粒子の表面を緻密に覆ってブロック状に固化する。
【0008】
これにより、ポーラスな構造を有する炭酸固化体としてのブロック材が形成される(先行技術文献として、例えば特許文献1の構成を参照)。
【0009】
このように、製鋼スラグを利用して上述のようなブロック材を製造するようにすると、これまで廃棄処理が困難であった製鋼スラグの有効なリサイクルが可能になることはもとより、従来だと大気中に排出されていた燃焼排ガス中の二酸化炭素(C02)をスラグ中に吸収させることができ、地球温暖化の防止対策にもなる。
【0010】
また、同構成のブロック材は、珊瑚の主成分でもある炭酸カルシウムにより、製鋼スラグ粒子間が強固に結合されたカルサイト構造を呈し、かつ粒子表面も炭酸カルシウムで被覆されているので、海中でも、大気中でも安定しており、膨張して崩壊したり、アルカリ性を強めたりすることもない。
【0011】
また、強制的に二酸化炭素を吹き込んで炭酸カルシウム生成反応を生じさせるので、開気孔で、気孔率の高いポーラスな構造のものとなり、海中で藻等の海草が着生し易く、漁礁などを形成するのにも適している。
【0012】
また、コンクリートブロックなどに比べて重量も軽いために設置も容易で、扱い易い。したがって、相当に大形のものでも比較的楽に設置することができる。
【0013】
しかし、上記構成のブロックの場合、外部から燃焼排ガスを製鋼スラグ中に吹き込む構成であるために、ブロック形状が大きくなると、必ずしも内部まで均一に二酸化炭素を反応させることができない問題があり、成形後の強度不足に基づくハンドリング時の崩壊等を招く懸念があった。
【0014】
そこで、この問題を改良したものとして、さらに上記型枠内に充填する粉末スラグを予め所定の湿度のものに調湿した上で型枠内に充填し、水蒸気飽和した二酸化炭素燃焼ガスを均一かつ強制的に供給することにより、型枠内中心部まで均一に炭酸固化反応を生じさせ、大形のブロック材を形成できるようにしたものも提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1〜
図15は、この出願の発明を実施するための形態に係る製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの構成およびその製造方法の一例(実験例)を示すものである。
【0034】
この出願の発明の実施の形態に係る製鋼スラグ炭酸固化体ブロックは、その基本的な構成として、例えば、第1次処理として、粉末化した製鋼スラグを所定量の純水に接触させて炭酸化し、スラグ粒子表面にアラゴナイトを析出させた上で加熱溶融し、その後、同加熱溶融された製鋼スラグ溶融物を所定の形状の型枠内に詰め、二酸化炭素を含む排ガスを通して製鋼スラグ中の酸化カルシウムに排ガス中の二酸化炭素を反応させることにより、当該製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのカルサイト構造を形成してなる製鋼スラグ炭酸固化体ブロックにおいて、さらに第2次処理として、上記カルサイト構造を形成した炭酸固化体を海水又は人工海水に接触させ、該海水又は人工海水による弱アルカリ性の環境下で上記酸化カルシウムと二酸化炭素を反応させることにより、発生する炭酸カルシウムのカルサイト構造形成作用を促進させるとともに、その開気孔率を向上させるようにしたことを特徴とするものである。
<製造設備の構成および製造方法>
まず、
図1は、この出願の発明を実施するための形態に係る製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造設備の構成の概略と、それを用いた製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法を示している。
【0035】
図中、符号1A、1Bは、当該製造設備の中心となる耐熱性の高い第1、第2のブロック製造ケース(型枠)であり、まず第1のブロック製造ケース1Aには、原料スラグ供給部2から、所定の製造サイクルで必要な量の粉末化した所定の粒径の製鋼スラグ3が供給されるようになっているが、その間には同製鋼スラグ3を純水を用いて加湿する第1の製鋼スラグ加湿手段4A、同第1の製鋼スラグ加湿手段4Aで加湿された製鋼スラグ3を加熱溶融する加熱手段(製鋼スラグ溶融炉)5が設けられており、それらを介して所定の湿度レベルに加湿調整され、加熱溶融された後に供給されて、図示のような状態に充填される。
【0036】
ここで、上記製鋼スラグ加湿手段4Aによる製鋼スラグ3の加湿は、海水ではなく、純水を用いて行なわれるようになっており、粉末状態の製鋼スラグ3を、例えば常温状態で、湿度100%の純水に何日か接触させることにより、当該製鋼スラグ3を効率よく炭酸化させるともに、スラグ粒子表面にアラゴナイトを多量に生成させて、二酸化炭素CO2を効率よく吸収させる。
【0037】
他方、加熱手段5では、同炭酸化され、アラゴナイトが生成した製鋼スラグ3を所定の溶融温度で加熱溶融して、第1のブロック製造ケース1A内に流し込む。
【0038】
第1のブロック製造ケース1Aは、例えば下面側から上面側に向けて、高圧状態で排ガス8を流すことができるようになっており、その底部側に製鉄工場等の排ガス施設7からの二酸化炭素C02を多量に含む高温の排ガス8が、加圧手段9、排ガス加湿手段10を介して、所定の高圧状態、かつ飽和水蒸気状態にして導入され、溶融状態にある製鋼スラグ3A中を均一に通過するように流される。
【0039】
そして、その後、当該第1のブロック製造ケース1Aの上部より外部に流出する溶融状態の製鋼スラグ3A通過後の排ガス8は、所定の排ガス処理施設11に供給されて処理される。
【0040】
これにより、上記第1のブロック製造ケース1A内における溶融状態の製鋼スラグ3A中の酸化カルシウムCaOは、排ガス8中の多量の二酸化炭素C02と反応して、炭酸カルシウムCaC03を生成する。このとき、生成される炭酸カルシウムCaCO3は、製鋼スラグ3Aの冷却固形化後、例えば
図5のようなカルサイト結晶構造を形成して、スラグ粒子相互間を強固にネットワーク上に結合一体化するとともに、それらスラグ粒子の表面を確実に被覆する。
【0041】
ところで、上記二酸化炭素CO2の吸収に有効なアラゴナイトは、上述のように第1次処理としての純水との接触で効果的に発生するが、他方、それだけでは成形された炭酸スラグ固化体の亀裂を招き、吸収した二酸化炭素CO2やカルシウムCa成分の溶出を招く恐れがある。
【0042】
そこで、この発明の実施の形態では、上記固形化後の第2次的な処理として、当該固形化後の製鋼スラグ3Bを海水を用いて加湿する第2の製鋼スラグ加湿手段4Bに通し、常温、湿度100%の海水で加湿し、固形化した製鋼スラグ3B中のスラグ粒子を蜜にし、亀裂等の発生を防止する。
【0043】
また、海水によるpH弱アルカリ性の環境下で酸化カルシウムCaOと二酸化炭素CO2とを反応させることにより、二酸化炭素吸収能力を大きくするとともに、生成する炭酸カルシウムCaC03を膨張させ、カルサイトの形成を促進させる。
【0044】
その後、同海水により加湿された固形化後の製鋼スラグ3Bは、乾燥後、第2のブロック製造ケース1B内に移送され、ここで再び二酸化炭素CO2を含む排ガス8と接触される。
【0045】
すなわち、この第2のブロック製造ケース1Bも、上記第1のブロック製造ケース1Aと同様に、下面側から上面側に向けて、高圧状態で排ガス8を流すことができるようになっており、その底部側に製鉄工場等の排ガス施設7からの二酸化炭素C02を多量に含む高温の排ガス8が、加圧手段9、排ガス加湿手段10を介して、所定の高圧状態、かつ飽和水蒸気状態にして導入され、固形化状態にある製鋼スラグ3B中を均一に通過するように流される。
【0046】
そして、その後、当該第2のブロック製造ケース1Bの上部より外部に流出する固形化した製鋼スラグ3B通過後の排ガス8は、所定の排ガス処理施設11に供給されて処理される。
【0047】
これにより、上記第2のブロック製造ケース1B内における固形化後の製鋼スラグ3B中の酸化カルシウムCaOは、ここでも排ガス8中の多量の二酸化炭素C02と反応して、炭酸カルシウムCaC03を生成する。
【0048】
このようにして、最終的に、十分な量の二酸化炭素CO2を吸収し、かつスラグ粒子相互間を強固にネットワーク上に結合一体化してケース構造(型枠構造)に一体化させた所望の大きさの製鋼スラグ炭酸固化体ブロック(マリンブロック)3C、3C・・が形成される。
<製造された製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの構成上の特徴>
以上のように、この実施の形態の構成では、製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造過程において、粉末化された製鋼スラグ3に添加される第1次的な処理水としては純水、固形化された製鋼スラグ3Aに添加される第2次的な処理水としては、海水(または人工海水)を採用している。
【0049】
粉末状態の製鋼スラグ3に純水を添加すると、製鋼スラグ3中に二酸化炭素CO2の吸収に有効なアラゴナイトが多量に析出する。
【0050】
そして、同粉末状態の製鋼スラグ3を溶融後、冷却して固形化した製鋼スラグ3Bに海水(または海水と同等の人工海水)を添加した場合、上記製鋼スラグ3A中の酸化カルシウムCaOと二酸化炭素の反応がpH弱アルカリ性の環境下で生じることになることから、純水の場合に比べて、炭酸カルシウムCaCO3発生時の膨張率が増大すると共に、カルサイトの生成が促進されるようになる。
【0051】
したがって、このようにして製造された製鋼スラグ炭酸固化体ブロック3C、3C・・・は、二酸化炭素吸収能力が高く、従来よりも気孔率の高いハイポーラスな構造を有するものとなり、一層軽量で設置し易くなり、また海中での貝類や海草、藻などの着生が良く、海中環境の改善、復元に有効に寄与するようになる。
【0052】
また、この製鋼スラグ炭酸固化体ブロック3C,3C・・・からは、水酸化イオン(OH-)が放出されることから、海水自体のpH値をも改善することができ、魚類の生育環境の改善にもなる。
【0053】
しかも、この製鋼スラグ炭酸固化体ブロック3C、3C・・・中には炭酸カルシウムCaCO3のカルサイトが縦横無尽に張り巡らされ、製鋼スラグ粒子間が極めて強固に結合された一層有効なカルサイト構造が形成され、かつ各スラグ粒子の表面も十分に炭酸カルシウムCaCO3で被覆されるので、海中でも、大気中でも一層安定度が増し、二酸化炭素吸収性能が向上するとともに、従来のもののように膨張して崩壊したり、アルカリ性を強めたりすることもなくなり、耐久性が大きく向上する。
【0054】
さらに、このように製鋼スラグ内部に析出した炭酸カルシウムが高密度なカルサイト構造になっていると、当該炭酸カルシウムCaCO3のカルサイト構造が外部へのバリアとなって、炭酸カルシウム固化体からの二酸化炭素CO2やカルシウムCaの溶出が効果的に抑制されるようになる。
【0055】
その結果、当該製鋼スラグ内からの二酸化炭素CO2漏出による地球温暖化作用をも防止することができる。
【0056】
これらの結果、この出願の発明の実施形態によると、製鋼スラグ中における炭酸カルシウムの膨張率、形成されるカルサイト構造の密度が大きく向上する。
【0057】
したがって、製造される製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの二酸化炭素吸収性能、耐久性が大きく向上し、実用性の向上にとって有効なものとなる。
<実験例>
以上のように、酸化カルシウムCaOを含有する水和硬化体である製鋼スラグを基体として、所望に水分調整を行い、同基体の表層に所定の濃度の水分を保った状態で、二酸化炭素C02と接触させると、基体中のCa成分と二酸化炭素C02が反応(炭酸化反応)して、炭酸カルシウムCaC03が析出するわけであるが、この間のメカニズムは次のように考えられる。
【0058】
すなわち、基体表層部の水に二酸化炭素C02が接触すると、まず水に二酸化炭素C02が溶解する。すると、それによって基体側からCaイオンが溶出するようになり、この溶出したCaイオンと二酸化炭素C02とが炭酸化反応して、炭酸カルシウムCaC03が析出する。
【0059】
したがって、上記基体部分に二酸化炭素C02溶解に必要十分な水分量があることが重要であり、また、この水の性質、特にpH値が重要であり、上述のように海水又は人工海水が適している。海水又は人工海水は、一般にpH値が弱アルカリ性であり、同弱アルカリ性の水を使用すると、Caイオンの溶出が良好で、Caイオンと二酸化炭素C02との炭酸化反応も有効で、析出する炭酸カルシウムCaC03の膨張率が高く、結晶の一部が溶解して生じるカルサイトの形成状態も良好であった。
【0060】
一方、pH値が弱アルカリ性でない、純水を使用し、高いpH値で基体と二酸化炭素C02を接触させた場合、Caイオンの溶出も良好でなく、炭酸化反応も良好ではなかった。そして、炭酸化反応に於ける炭酸カルシウムCaC03の膨張率も低く、アラゴナイトが析出し、海水又は人工海水を用いた場合のような、二酸化炭素C02吸収に有効で、スラグ粒子間のバインダー機能が高い結晶の一部が溶解したカルサイト構造は形成されなかった。
【0061】
しかし、製鋼スラグ炭酸固化体の製造に際し、その1次処理として純水を用いると、基体を内部から崩壊させるアラゴナイトが生じるが、他方、炭酸化率は大きく向上する。したがって、CO2の吸収能力は高くなる。
【0062】
そこで、この出願の発明の実施の形態では、1次的には純水を用いて炭酸化率を向上させるとともに、上記固形化後のアラゴナイトによる基体の崩壊を、2次的な処理として海水(または人工海水)を用い、カルサイトが張り巡らされた構造にすることによって、スラグ粒子間を緻密に結合して防止するようにし、また、同時に固体化状態における炭酸化率の向上を図り、CO2吸収能力を向上させるようにしている。これらの作用効果は、次のような実験の結果からも確認されている。
(1)第1の実験
まず、第1の実験として、純水中と人工海水中における試料スラグの二酸化炭素CO2との反応結果についての実験を行ない、その結果について、検討、分析した。
【0063】
すなわち、第1の実験として、原料スラグ(製鋼スラグ)を所定の大きさに粉砕し、同粉砕した原料スラグを篩いにかけて、直径53μm以下の試料スラグ(粉末)1.5gを得た。
そして、同試料スラグを純水150ml、人工海水150ml中にそれぞれ分散させた。
【0064】
これら試料スラグが溶解した溶液を、スラグ炭酸固化体内部での反応に近い反応条件を模した50℃の温度で90時間加熱し、それにより析出した生成物をそれぞれ走査型電子顕微鏡SEM(以下、単にSEMという)により観察した。
【0065】
その結果を、
図2の写真に示す。この写真によると、上記純水、人工海水いずれの溶液の場合にも、試料スラグの一部が溶解するが、いずれの場合にも未反応粒子の表面は滑らかである。
【0066】
次に、同試料スラグの一部が溶解した試料スラグの残渣を含む純水溶液を濾過しないまま、予め調製した1M水酸化ナトリウムNaOH溶液を加えて、50℃で90時間加熱し、その結果、析出した生成物をSEM観察した。その結果を、
図3の写真に示す。
【0067】
図3の写真を見ると、角の尖った炭酸カルシウムCaCO3の斜方晶であるアラゴナイトの集合体の生成を確認することができる。
【0068】
次に、同試料スラグの一部が溶解した残渣を含む純水溶液を一旦濾過した上で、上記1Mの水酸化ナトリウムNaOH溶液および0.444gのPVAを100mlの純水で調製した0.01MのPVA溶液を加えて、50℃で90時間加熱する。すると、アラゴナイトと炭酸カルシウムCaCO3を含む生成物が生成される。この生成物をSEMで観察した結果を、
図4の写真に示す。
【0069】
図4の写真を見ると、アラゴナイトと一部炭酸カルシウムCaCO3の三方晶であるカルサイトが成長している様子を確認することができる。
【0070】
次に、同試料スラグの一部が溶解した試料スラグの残渣を含む人工海水溶液を濾過しないまま、上記1Mの水酸化ナトリウムNaOH溶液のみを加えて、50°Cで90時間加熱し、その結果、析出した生成物をSEMで観察した結果を、
図5の写真に示す。
【0071】
図5の写真を見ると、一応炭酸カルシウムCaCO3の三方晶であるカルサイトが見られるが、この場合には、その結晶の一部が溶解していることを確認することができる。
【0072】
これらのSEM観察結果から、純水と人工海水とでは、その結晶構造がアラゴナイトとカルサイトと相互に異なっている理由として、次のような理由が考えられる。
【0073】
純水の場合、試料スラグからの炭酸カルシウムCaCO3とMgイオンの溶出が理由でCa/Mg比が大きく、小さなアラゴナイトになる。また、0.01MのPVA溶液を加えた結果、アラゴナイトの結晶成長が起ったと考えられる。
【0074】
他方、人工海水の場合、炭酸塩析出において安定した状態なので、カルサイトが生成したと考えられるが、カルサイトは通常水溶性ではないため、固結してしまう。
【0075】
しかし、上記炭酸塩析出の際に、蜆、アサリ、蛤等の貝の殻を入れると、その結晶が球体になることから理解されるように、海水からの炭酸塩析出による結晶成長に安定性を与えることができることが原因であると考えられる。
(2)第2の実験
一方、純水、海水、人工海水の各溶液中で二酸化炭素CO2と反応させたスラグを含む生成物の炭酸化率は、
図6の表のようになった。この表を見ると、それぞれ常温、湿度100%のデシケータで、7d時間(7日間)炭酸化したスラグの炭酸化率の1.58%となっており、この実験での値は、純水、海水、人工海水いずれの場合にも、デシケータで7d時間(7日間)炭酸化したスラグの炭酸化率よりも低くなっている。
【0076】
これは,後に述べるように試料スラグと接触している各溶液のpH値が低下し、炭酸カルシウムCaCO3が大気中でスラグを炭酸化するときよりも生成しにくくなったためと考えられる。
【0077】
他方、1gの試料スラグを用いて各種溶液中で二酸化炭素CO2と反応させたときの生成物の質量は、単なる純水中に分散させたときには2.5時間後に0.6356g、CO2を導入した純水中で反応させたときには2.5時間後には0.6531g、海水中または人工海水中で二酸化炭素CO2と反応させたときには2.5時間後にそれぞれ0.6356gと、0.6469gとなった。
(3)第3の実験
次に、純水、海水、人工海水の各溶液中で試料スラグを二酸化炭素CO2と反応させ、それによって生成した生成物を乾燥後、得られた試料スラグを含む残渣を純水中に分散させ、その分散時間にともなうカルシウムCaイオンの溶出量とpH値の変化を観察した。その結果を、
図7の表に示した。
【0078】
このときの海水中のカルシウムCa濃度は294mg/lであった。二酸化炭素CO2と反応していないスラグを純水と5時間接触させ、これを100mlの純水中に分散させたときのカルシウムCa濃度は、28d分散した溶液では19.1mg/lであった。純水中で5時間、二酸化炭素CO2と反応させた後、乾燥した固相を100mlの純水中で分散させ、28d分散させたときの溶液のカルシウムCa濃度は7.0mg/lであった。
【0079】
他方、これと同じ条件で、海水中、人工海水中で二酸化炭素CO2と反応させたときに得られた固相を用いた時は、それぞれ4.9mg/l、4.7mg/lとなった。二酸化炭素CO2と反応させていない試料スラグを純水と接触させたものよりも、上記各溶液中で二酸化炭素CO2と反応させたものの方が、溶液中のカルシウムCa濃度が低くなっているが、その理由は、試料スラグのスラグ粒子が炭酸カルシウムCaCO3に覆われたことによるものと考えられる。
【0080】
一方、純水、海水、人工海水各々のpH値については、
図8の表に示すような値になったが、他方、これに対し二酸化炭素CO2と反応させていない未反応試料スラグを純水中に分散させたときの純水中のpH値は極めて高くなった。
【0081】
これは、上記
図7で示したカルシウム濃度の測定結果の傾向とほぼ一致しており、スラグ粒子は二酸化炭素CO2と反応することによって、その表面に炭酸カルシウムCaCO3が生成し、同表面の炭酸カルシウムCaCO3によって上記カルシウムCaの溶出が抑えられ、その結果、スラグ粒子が分散している溶液中のpH値が低くなったものと判断される。
【0082】
次に、上記二酸化炭素CO2と反応させた試料スラグの断面構造の分析を行なった。その結果を、
図9の4枚の写真(EDX・SEM)に示す。そのEDX結果から、二酸化炭素CO2と反応させた場合には、上記カルシウムCa(丸囲み部)が、アルミAlや珪素Siの存在しない位置に存在しており、このことから試料スラグのスラグ粒子表面には、炭酸カルシウムCaCO3皮膜が生成しているものと推測される。
(4)第4の実験
次に、上記の場合同様に、原料スラグ(製鋼スラグ)を粉砕し、同粉砕した原料スラグを篩いにかけて、直径53μm以下の試料スラグ(粉末)1gを得た。そして、この直径53μm以下の試料スラグ1gを、純水150ml、海水150ml、また海水に予め調整した1M水酸化ナトリウムNaOH溶液2.5mlを加えたNaOH添加海水150mlをそれぞれ収納したビーカー中に入れ、3時間分散させた。
【0083】
その後,デシケータで0.1Mの炭酸ナトリウムNaCO3水溶液を添加し、常温、湿度100%のデシケータ内で7d炭酸化した。
そして、それら各ビーカー中の炭酸化した残渣物を濾別、乾燥させた後、それら各残渣物の0.5g分を計り取り、残りの残渣物の炭酸化率をTG−DTAで測定した。それぞれの炭酸化率を、
図10の表に示す。
【0084】
他方、上記計り取った残渣物0.5gを、純水100mlを収納したビーカー中に入れて、7d時間(7日間)、28d時間(28日間)かけて分散させ、その溶液のカルシウムCa濃度をICPで測定した。それぞれのカルシウムCa濃度を、
図11の表に示す。
前記
図6の表に示す炭酸化率と
図10の表に示す炭酸化率との比較から、純水とスラグを接触させた場合、炭酸化した時間(時間・日数)は違うが、洗気瓶を用いるよりもデシケータを用いた方が炭酸化率が上がることがわかった。
【0085】
しかし、
図7の表と
図11の表のスラグを含む溶液のCa濃度の28d時間(28
日間)の分散時間での比較から、洗気瓶では7mg/l、デシケータでは18.5mg/lと、デシケータでは残渣からカルシウムCaが溶出してしまうことが分かった。
【0086】
また、
図10の表から、海水と接触させたスラグはデシケータで炭酸化させても、炭酸化率は0.36%と上がらなかった。
【0087】
また、
図11の表から海水に接触させ、デシケータで炭酸化したスラグのカルシウムCaの溶出は28d時間(28日間)分散で17.4mg/lと抑えられないことが分かった。
【0088】
また、海水に1Mの水酸化ナトリウムNaOH溶液を加えると、炭酸化率は純水接触と海水接触の場合の間の2.73%ほどで、カルシウムCaの溶出は7d時間(7日間)分散のときで9.7mg/l、28d時間(28日間)分散のときで6.0mg/lと、それぞれ抑えることができた。
(5)第5の実験
次に、上記直径53μm以下の試料スラグを純水100ml中に3時間かけて分散させ、濾別した後、湿ったままの状態で、常温、湿度100%のデシケーター内で炭酸化させ、その後、同炭酸化したスラグを坩堝に擦り切り一杯入れ、1250℃、2時間20分の焼成条件で焼成し、約8時間かけて常温に冷却した後、固化体となった試料スラグをダイヤモンドカッターで約5gの立方体の形に切り、純水中に5時間浸漬したもの、海水中に5時間浸漬したもの、いずれの溶液にも未接触のもの3種類のサンプルを作成した。
【0089】
そして、それらを、各々常温、湿度100%のデシケーター内で7d時間(7日間)炭酸化させ、その後乾燥させた。そして、その後、同試料スラグを粉砕し、さらに53μm以下の篩いにかけて選別したのち、その炭酸化率をTG‐DTAで測定した。
また、それと同時に、上記篩いにかけた直径53μm以下の試料スラグ0.5gを100mlの純水中に7d時間(7日間)静置し、その純水のpH値をpH試験紙で測定した。
【0090】
この実験における、上記スラグ固化体(5gの立方体)を
図12の写真に、炭酸化率の測定結果を
図13の表に、pH試験の結果(様子)を
図14、
図15の写真に示す。
【0091】
図13の表によると、炭酸化率は純水接触の場合で4.68%、海水接触の場合で10.20%、いずれとも未接触の場合で3.22%となった。
図10の表と
図13の表の測定結果を比較した。
図10の表では、純水に接触させ、7d時間(7日間)炭酸化したスラグの炭酸化率は5.08%で、海水接触は0.36%であった。
【0092】
炭酸カルシウムCaCO3の分解温度は825℃で、燃焼条件が600〜800℃であり、固化体にする際の燃焼条件が1250℃、2時間20分の条件で焼成し、8時間で常温に冷却したものであることを考慮して、スラグの焼成により、スラグに含まれている炭酸カルシウムCaCO3が燃焼し、燃焼により減少した重量比wt%が炭酸化率となっていると考えた。
【0093】
図10の炭酸化率測定表において、純水接触の場合に炭酸化率が5.08%と高くなったのは、水和反応が起きて、アラゴナイトが多く生成し、炭酸化率が高くなったことによるものと考えられる。また、
図10の表で、海水接触の炭酸化率が0.36%と低いのはカルサイト、もしくは一部溶解した結晶がスラグ粒子の表面を密に覆い、炭酸化率が低くなったものと考えられる。
【0094】
図13の炭酸化率測定表から、純水接触の場合に4.68%と、
図10の炭酸化率測定表の純水接触の場合における5.08%と比較して、0.40%の差があるのは、一度スラグを溶融して固化体にしても、スラグ粒子の表面のアラゴナイトであることに変わりはないが、
図13の実験ではスラグ粒子を粉砕したため、当該アラゴナイトの尖った部分がわずかに削れたため、炭酸カルシウムCaCO3の量が減り、それによって炭酸化率が低くなったためと考えられる。
【0095】
また、
図13の表からCO2未接触の場合には3.22%であり、大気中で7d時間(7日間)炭酸化したスラグの炭酸化率の1.58%と比較して、1.64%高くなった。これは
図13表の場合、前処理として純水と接触させたため、水和反応が起き、炭酸カルシウムが多く析出したためと考えられる。
【0096】
マリンブロックを製造する際、上記溶液と接触させる1次処理として、純水を用いると、アラゴナイトがスラグ粒子表面に多く析出することから、2次処理で固化体と海水を接触させた際、アラゴナイトが海水と接する面積が大きいため、浸食が広範囲でおき、多くの炭酸カルシウムが海水に晒され、カルサイトもしくは一部溶解した結晶が固化体内部で十分に張り巡らされ、多くのCO2を吸収することができるようになると考えられる。
【0097】
一方、同1次処理で海水を用いると、スラグ粒子は密になり、2次処理で海水と接触する面積が小さくなってしまうため、純水のほうが適していると考えられる。
【0098】
次に、上記pH試験紙によるpH試験の結果について検討する。
図14、
図15のpH試験紙の写真から、スラグ炭酸固化体を粉砕後、直径53μmの篩いにかけ、純水に7d時間(7日間)分散し、その純水のpH値をpH試験紙を用いて測定すると、まずpH値7の溶液中に、pH値11のスラグ粒子が分散する様子が分かった。また、しばらくpH試験紙を放置すると、pH値は8を示した。
【0099】
また、前記
図8の表の溶液中で、二酸化炭素CO2と反応させた試料スラグが分散した溶液のpH値と
図14、
図15のpH試験の結果を比較した。すると、
図8の表のCO2未導入、純水接触の場合、静置時間7d(7日)でpH値は10.92、海水接触の場合、分散時間7d(7日間)でpH値は7.82であったので、スラグ粒子はCO2と反応させるとpH値11となり、海底に沈めたスラグ炭酸固化体周辺はpH値8の雰囲気になると考えられる。
【0100】
このことは、同スラグ炭酸固化体ブロックから水酸化イオン(OH-)が放出されることを示しており、海水自体のph値を改善することができ、魚類の成育環境の改善につながる。
(6)第6の実験
また、さらなる実験として、上記原料スラグを粉砕した直径53μm以下の試料スラグ(粉末)約1.5gおよびチョーク粉、卵の殻粉1.5gをそれぞれ洗気瓶に入れて、純水150mlで溶かし、3時間ほど二酸化炭素CO2を加えた。
次に、それによって炭酸カルシウムCaCO3が溶けた溶液5mlをプラスティックカップに移し、 さらに予め調整した1Mの水産化ナトリウムNaOH溶液、0.01MのPVA溶液、蜆、アサリ、蛤の殻のかけらを加えた。そして、その後所定のトレイに水を張り、同溶液の入ったプラスティックカップをトレイに並べて、乾燥しないように上からラップをし、90℃で90時間加熱し、SEMで観察した。
【0101】
さらに、陰イオン界面活性剤8mM SDS(sodium dodecyl sulfate)(CMC8mM)を添加した純水中に、試料スラグを入れて過剰にCO2を加え、濾液を50℃で90時間加熱し、予め調整した1Mの水酸化ナトリウムNaOH溶液、0.01MのPVA溶液を添加し、炭酸塩を析出させて、その質量を計った。
【0102】
このSDSを添加した実験では、SDSを添加しなかったときに析出した炭酸カルシウムは6.3mgであったのに対し、SDSを添加したとき析出した炭酸カルシウムは7.1mgと0.8mg炭酸塩の膜が厚くなった。このことは、SDSに含まれるNaイオンが、スラグ中のCaイオンを分離させ、さらに多くの炭酸カルシウムCaCO3を析出させたと考えられる。したがって、陰イオン界面活性剤SDSを添加することは、有効である。
【0103】
このような実験結果に基づき、次のような方法で実験的にマリンブロックを製造して見た。
【0104】
すなわち、まず上述した直径53μm以下の粉砕スラグを純水に5時間接触させて、二酸化炭素CO2吸収に寄与するアラゴナイトを可能な限りスラグ粒子表面に多く析出させる。
【0105】
次に、この湿ったままの粉砕スラグを、上述したデシケータ内で7日間かけて炭酸化することによって、同粉砕スラグのスラグ粒子内に十分な量の二酸化炭素CO2を吸収させる。
【0106】
その後、同炭酸化し、二酸化炭素CO2を吸収させた粉砕スラグを所定の溶融炉内で加熱、溶融する。そして、同加熱、溶融した製鋼スラグをマリンブロック形成用の型枠(ケーシング)内に入れ、二酸化炭素CO2を含む排ガスを通して二酸化炭素CO2を吸収させた後に、所定の時間をかけて冷却し、マリンブロック構造の固化体とした。
【0107】
その後、同マリンブロック構造のスラグ固化体を海水(または人工海水)に5時間接触させる。その際、上記のように、スラグ粒子の表面には、上記純水との接触によってアラゴナイトが多量に析出しており、浸食が広い範囲でおき、海水との接触面積も広くなっている。その結果、多量の炭酸カルシウムCaCO3が海水に晒され、カルサイトもしくは一部溶解した結晶が固化体内部で十分に張り巡らされ、多量の二酸化炭素CO2を吸収・保持することができるようになる。
【0108】
次に、同スラグ固化体を乾燥させ、常温、湿度100%のデシケータ内で、7日間かけて再度炭酸化した。このとき、スラグ中のカルシウムCaが、二酸化炭素CO2と反応して炭酸カルシウムCaCO3となり、また上記のように、カルサイトまたは一部溶解した結晶が固化体内部に有効に張り巡らされているから、同スラグ固化体よりなるマリンブロックは、少なくとも10%前後の高い二酸化炭素吸収能力を有して二酸化炭素CO2を吸収すると予測される。
【0109】
なお、上記製造に際して、成形されるブロックの形状は、例えば表面が平面の場合、ハンドリング時に滑り易いことから、例えば表面を波形の形状にすると良い。このようにすると、設置作業が容易になることはもちろん、設置後の海水との接触面積も広くなり、上述した各種の作用がより効果的に機能する。
【0110】
また、上記二酸化炭素吸収に有効なアラゴナイトは、第1次処理としての純水との接触で効果的に発生するが、他方、それだけではスラグ固化体の亀裂を招き、吸収した二酸化炭素CO2やカルシウムCa成分の溶出を招く恐れもある。そこで、上記固形化後の第2次的な処理としては、上述のように海水を採用して、逆にスラグ粒子を蜜にし、亀裂等の発生を防止するようにした。
【0111】
このような構成のマリンブロックを、海底の砂利採取でできた穴に埋めるようにすると、
二酸化炭素吸収による地球温暖化の防止だけでなく、藻場の形成や海水のpH値改善など、海中に於ける魚類の生育環境の改善、砂利との代替による海底環境の改善にも大きく貢献することが可能となる。
第1次処理として、粉末化した製鋼スラグを所定量の純水に接触させて炭酸化し、スラグ粒子表面にアラゴナイトを析出させた上で加熱溶融し、その後、同加熱溶融された製鋼スラグ溶融物を所定の形状の型枠内に詰め、二酸化炭素を含む排ガスを通して製鋼スラグ中の酸化カルシウムに排ガス中の二酸化炭素を反応させることにより、当該製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのアラゴナイト構造を形成するようにしてなる製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法において、さらに第2次処理として、上記アラゴナイト構造を形成した炭酸固化体を海水又は人工海水に接触させ、該海水又は人工海水による弱アルカリ性の環境下で上記酸化カルシウムと二酸化炭素を反応させることにより、発生する炭酸カルシウムのカルサイト構造形成作用を促進させるとともに、その開気孔率を向上させるようにしたことを特徴とする製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年日本の海岸部では、護岸用または消波用、藻場形成用等の各種の海浜用ブロック(マリンブロック)が多く設置されている。
【0003】
しかし、これらブロック類の殆どのものは、コンクリート製のものであり、重量も大きく、構造自体もポーラスな構造とはなっていない。したがって、当然ながら、地球温暖化の原因となっている二酸化炭素(C02)などの吸収機能はなく、また海中に於ける藻場等の形成機能も小さい。
【0004】
一方、製鉄工場などでは、鉄鋼製造時の副産物として、製鋼スラグ(高炉スラグともいう)が多量に発生する。この製鋼スラグは、酸化カルシウム(CaO)を含むため、長時間戸外に放置すると、当該酸化カルシウムが空気中の水分や二酸化炭素を吸収し、水酸化カルシウムと炭酸カルシウムになって硬化し、処理しにくくなってしまう。
【0005】
そこで最近では、このような製鋼スラグを利用して上述のようなブロック材を製造することも行なわれている。
【0006】
その一つとして、例えば粉末化した製鋼スラグに適度な純水水分を添加したうえで、所定の形状の型枠内に詰め、その下部から二酸化炭素(C02)を多く含む排ガスを吹き込む。
【0007】
すると、当該製鋼スラグ中の酸化カルシウム(CaO)と排ガス中の二酸化炭素(C02)とが反応して、炭酸カルシウム(CaC03)が生成する。そして、この炭酸カルシウムがカルサイト構造を形成して、各スラグ粒子の間をネットワーク状に結合一体化するとともに、各スラグ粒子の表面を緻密に覆ってブロック状に固化する。
【0008】
これにより、ポーラスな構造を有する炭酸固化体としてのブロック材が形成される(先行技術文献として、例えば特許文献1の構成を参照)。
【0009】
このように、製鋼スラグを利用して上述のようなブロック材を製造するようにすると、これまで廃棄処理が困難であった製鋼スラグの有効なリサイクルが可能になることはもとより、従来だと大気中に排出されていた燃焼排ガス中の二酸化炭素(C02)をスラグ中に吸収させることができ、地球温暖化の防止対策にもなる。
【0010】
また、同構成のブロック材は、珊瑚の主成分でもある炭酸カルシウムにより、製鋼スラグ粒子間が強固に結合されたカルサイト構造を呈し、かつ粒子表面も炭酸カルシウムで被覆されているので、海中でも、大気中でも安定しており、膨張して崩壊したり、アルカリ性を強めたりすることもない。
【0011】
また、強制的に二酸化炭素を吹き込んで炭酸カルシウム生成反応を生じさせるので、開気孔で、気孔率の高いポーラスな構造のものとなり、海中で藻等の海草が着生し易く、漁礁などを形成するのにも適している。
【0012】
また、コンクリートブロックなどに比べて重量も軽いために設置も容易で、扱い易い。したがって、相当に大形のものでも比較的楽に設置することができる。
【0013】
しかし、上記構成のブロックの場合、外部から燃焼排ガスを製鋼スラグ中に吹き込む構成であるために、ブロック形状が大きくなると、必ずしも内部まで均一に二酸化炭素を反応させることができない問題があり、成形後の強度不足に基づくハンドリング時の崩壊等を招く懸念があった。
【0014】
そこで、この問題を改良したものとして、さらに上記型枠内に充填する粉末スラグを予め所定の湿度のものに調湿した上で型枠内に充填し、水蒸気飽和した二酸化炭素燃焼ガスを均一かつ強制的に供給することにより、型枠内中心部まで均一に炭酸固化反応を生じさせ、大形のブロック材を形成できるようにしたものも提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1〜
図15は、この出願の発明を実施するための形態に係る製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの構成およびその製造方法の一例(実験例)を示すものである。
【0035】
この出願の発明の実施の形態に係る
製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法および同製造方法によって製造される製鋼スラグ炭酸固化体ブロックは、その基本的な構成として、例えば、第1次処理として、粉末化した製鋼スラグを所定量の純水に接触させて炭酸化し、スラグ粒子表面にアラゴナイトを析出させた上で加熱溶融し、その後、同加熱溶融された製鋼スラグ溶融物を所定の形状の型枠内に詰め、二酸化炭素を含む排ガスを通して製鋼スラグ中の酸化カルシウムに排ガス中の二酸化炭素を反応させることにより、当該製鋼スラグ中に炭酸カルシウムの
アラゴナイト構造を形成
するようにしてなる製鋼スラグ炭酸固化体ブロック
の製造方法において、さらに第2次処理として、上記
アラゴナイト構造を形成した炭酸固化体を海水又は人工海水に接触させ、該海水又は人工海水による弱アルカリ性の環境下で上記酸化カルシウムと二酸化炭素を反応させることにより、発生する炭酸カルシウムのカルサイト構造形成作用を促進させるとともに、その開気孔率を向上させるようにしたことを特徴とするものである。
<製造設備の構成および製造方法>
まず、
図1は、この出願の発明を実施するための形態に係る製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの
製造方法を実施する製造設備の構成の概略と、それを用いた製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法を示している。
【0036】
図中、符号1A、1Bは、当該製造設備の中心となる耐熱性の高い第1、第2のブロック製造ケース(型枠)であり、まず第1のブロック製造ケース1Aには、原料スラグ供給部2から、所定の製造サイクルで必要な量の粉末化した所定の粒径の製鋼スラグ3が供給されるようになっているが、その間には同製鋼スラグ3を純水を用いて加湿する第1の製鋼スラグ加湿手段4A、同第1の製鋼スラグ加湿手段4Aで加湿された製鋼スラグ3を加熱溶融する加熱手段(製鋼スラグ溶融炉)5が設けられており、それらを介して所定の湿度レベルに加湿調整され、加熱溶融された後に供給されて、図示のような状態に充填される。
【0037】
ここで、上記製鋼スラグ加湿手段4Aによる製鋼スラグ3の加湿は、海水ではなく、純水を用いて行なわれるようになっており、粉末状態の製鋼スラグ3を、例えば常温状態で、湿度100%の純水に何日か接触させることにより、当該製鋼スラグ3を効率よく炭酸化させるともに、スラグ粒子表面にアラゴナイトを多量に生成させて、二酸化炭素CO2を効率よく吸収させる。
【0038】
他方、加熱手段5では、同炭酸化され、アラゴナイトが生成した製鋼スラグ3を所定の溶融温度で加熱溶融して、第1のブロック製造ケース1A内に流し込む。
【0039】
第1のブロック製造ケース1Aは、例えば下面側から上面側に向けて、高圧状態で排ガス8を流すことができるようになっており、その底部側に製鉄工場等の排ガス施設7からの二酸化炭素C02を多量に含む高温の排ガス8が、加圧手段9、排ガス加湿手段10を介して、所定の高圧状態、かつ飽和水蒸気状態にして導入され、溶融状態にある製鋼スラグ3A中を均一に通過するように流される。
【0040】
そして、その後、当該第1のブロック製造ケース1Aの上部より外部に流出する溶融状態の製鋼スラグ3A通過後の排ガス8は、所定の排ガス処理施設11に供給されて処理される。
【0041】
これにより、上記第1のブロック製造ケース1A内における溶融状態の製鋼スラグ3A中の酸化カルシウムCaOは、排ガス8中の多量の二酸化炭素C02と反応して、炭酸カルシウムCaC03を生成する。このとき、生成される炭酸カルシウムCaCO3は、製鋼スラグ3Aの冷却固形化後、例えば
図5のようなカルサイト結晶構造を形成して、スラグ粒子相互間を強固にネットワーク上に結合一体化するとともに、それらスラグ粒子の表面を確実に被覆する。
【0042】
ところで、上記二酸化炭素CO2の吸収に有効なアラゴナイトは、上述のように第1次処理としての純水との接触で効果的に発生するが、他方、それだけでは成形された炭酸スラグ固化体の亀裂を招き、吸収した二酸化炭素CO2やカルシウムCa成分の溶出を招く恐れがある。
【0043】
そこで、この発明の実施の形態では、上記固形化後の第2次的な処理として、当該固形化後の製鋼スラグ3Bを海水を用いて加湿する第2の製鋼スラグ加湿手段4Bに通し、常温、湿度100%の海水で加湿し、固形化した製鋼スラグ3B中のスラグ粒子を蜜にし、亀裂等の発生を防止する。
【0044】
また、海水によるpH弱アルカリ性の環境下で酸化カルシウムCaOと二酸化炭素CO2とを反応させることにより、二酸化炭素吸収能力を大きくするとともに、生成する炭酸カルシウムCaC03を膨張させ、カルサイトの形成を促進させる。
【0045】
その後、同海水により加湿された固形化後の製鋼スラグ3Bは、乾燥後、第2のブロック製造ケース1B内に移送され、ここで再び二酸化炭素CO2を含む排ガス8と接触される。
【0046】
すなわち、この第2のブロック製造ケース1Bも、上記第1のブロック製造ケース1Aと同様に、下面側から上面側に向けて、高圧状態で排ガス8を流すことができるようになっており、その底部側に製鉄工場等の排ガス施設7からの二酸化炭素C02を多量に含む高温の排ガス8が、加圧手段9、排ガス加湿手段10を介して、所定の高圧状態、かつ飽和水蒸気状態にして導入され、固形化状態にある製鋼スラグ3B中を均一に通過するように流される。
【0047】
そして、その後、当該第2のブロック製造ケース1Bの上部より外部に流出する固形化した製鋼スラグ3B通過後の排ガス8は、所定の排ガス処理施設11に供給されて処理される。
【0048】
これにより、上記第2のブロック製造ケース1B内における固形化後の製鋼スラグ3B中の酸化カルシウムCaOは、ここでも排ガス8中の多量の二酸化炭素C02と反応して、炭酸カルシウムCaC03を生成する。
【0049】
このようにして、最終的に、十分な量の二酸化炭素CO2を吸収し、かつスラグ粒子相互間を強固にネットワーク上に結合一体化してケース構造(型枠構造)に一体化させた所望の大きさの製鋼スラグ炭酸固化体ブロック(マリンブロック)3C、3C・・が形成される。
<製造された製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの構成上の特徴>
以上のように、この実施の形態の構成では、製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造過程において、粉末化された製鋼スラグ3に添加される第1次的な処理水としては純水、固形化された製鋼スラグ3Aに添加される第2次的な処理水としては、海水(または人工海水)を採用している。
【0050】
粉末状態の製鋼スラグ3に純水を添加すると、製鋼スラグ3中に二酸化炭素CO2の吸収に有効なアラゴナイトが多量に析出する。
【0051】
そして、同粉末状態の製鋼スラグ3を溶融後、冷却して固形化した製鋼スラグ3Bに海水(または海水と同等の人工海水)を添加した場合、上記製鋼スラグ3A中の酸化カルシウムCaOと二酸化炭素の反応がpH弱アルカリ性の環境下で生じることになることから、純水の場合に比べて、炭酸カルシウムCaCO3発生時の膨張率が増大すると共に、カルサイトの生成が促進されるようになる。
【0052】
したがって、このようにして製造された製鋼スラグ炭酸固化体ブロック3C、3C・・・は、二酸化炭素吸収能力が高く、従来よりも気孔率の高いハイポーラスな構造を有するものとなり、一層軽量で設置し易くなり、また海中での貝類や海草、藻などの着生が良く、海中環境の改善、復元に有効に寄与するようになる。
【0053】
また、この製鋼スラグ炭酸固化体ブロック3C,3C・・・からは、水酸化イオン(OH-)が放出されることから、海水自体のpH値をも改善することができ、魚類の生育環境の改善にもなる。
【0054】
しかも、この製鋼スラグ炭酸固化体ブロック3C、3C・・・中には炭酸カルシウムCaCO3のカルサイトが縦横無尽に張り巡らされ、製鋼スラグ粒子間が極めて強固に結合された一層有効なカルサイト構造が形成され、かつ各スラグ粒子の表面も十分に炭酸カルシウムCaCO3で被覆されるので、海中でも、大気中でも一層安定度が増し、二酸化炭素吸収性能が向上するとともに、従来のもののように膨張して崩壊したり、アルカリ性を強めたりすることもなくなり、耐久性が大きく向上する。
【0055】
さらに、このように製鋼スラグ内部に析出した炭酸カルシウムが高密度なカルサイト構造になっていると、当該炭酸カルシウムCaCO3のカルサイト構造が外部へのバリアとなって、炭酸カルシウム固化体からの二酸化炭素CO2やカルシウムCaの溶出が効果的に抑制されるようになる。
【0056】
その結果、当該製鋼スラグ内からの二酸化炭素CO2漏出による地球温暖化作用をも防止することができる。
【0057】
これらの結果、この出願の発明の実施形態によると、製鋼スラグ中における炭酸カルシウムの膨張率、形成されるカルサイト構造の密度が大きく向上する。
【0058】
したがって、製造される製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの二酸化炭素吸収性能、耐久性が大きく向上し、実用性の向上にとって有効なものとなる。
<実験例>
以上のように、酸化カルシウムCaOを含有する水和硬化体である製鋼スラグを基体として、所望に水分調整を行い、同基体の表層に所定の濃度の水分を保った状態で、二酸化炭素C02と接触させると、基体中のCa成分と二酸化炭素C02が反応(炭酸化反応)して、炭酸カルシウムCaC03が析出するわけであるが、この間のメカニズムは次のように考えられる。
【0059】
すなわち、基体表層部の水に二酸化炭素C02が接触すると、まず水に二酸化炭素C02が溶解する。すると、それによって基体側からCaイオンが溶出するようになり、この溶出したCaイオンと二酸化炭素C02とが炭酸化反応して、炭酸カルシウムCaC03が析出する。
【0060】
したがって、上記基体部分に二酸化炭素C02溶解に必要十分な水分量があることが重要であり、また、この水の性質、特にpH値が重要であり、上述のように海水又は人工海水が適している。海水又は人工海水は、一般にpH値が弱アルカリ性であり、同弱アルカリ性の水を使用すると、Caイオンの溶出が良好で、Caイオンと二酸化炭素C02との炭酸化反応も有効で、析出する炭酸カルシウムCaC03の膨張率が高く、結晶の一部が溶解して生じるカルサイトの形成状態も良好であった。
【0061】
一方、pH値が弱アルカリ性でない、純水を使用し、高いpH値で基体と二酸化炭素C02を接触させた場合、Caイオンの溶出も良好でなく、炭酸化反応も良好ではなかった。そして、炭酸化反応に於ける炭酸カルシウムCaC03の膨張率も低く、アラゴナイトが析出し、海水又は人工海水を用いた場合のような、二酸化炭素C02吸収に有効で、スラグ粒子間のバインダー機能が高い結晶の一部が溶解したカルサイト構造は形成されなかった。
【0062】
しかし、製鋼スラグ炭酸固化体の製造に際し、その1次処理として純水を用いると、基体を内部から崩壊させるアラゴナイトが生じるが、他方、炭酸化率は大きく向上する。したがって、CO2の吸収能力は高くなる。
【0063】
そこで、この出願の発明の実施の形態では、1次的には純水を用いて炭酸化率を向上させるとともに、上記固形化後のアラゴナイトによる基体の崩壊を、2次的な処理として海水(または人工海水)を用い、カルサイトが張り巡らされた構造にすることによって、スラグ粒子間を緻密に結合して防止するようにし、また、同時に固体化状態における炭酸化率の向上を図り、CO2吸収能力を向上させるようにしている。これらの作用効果は、次のような実験の結果からも確認されている。
(1)第1の実験
まず、第1の実験として、純水中と人工海水中における試料スラグの二酸化炭素CO2との反応結果についての実験を行ない、その結果について、検討、分析した。
【0064】
すなわち、第1の実験として、原料スラグ(製鋼スラグ)を所定の大きさに粉砕し、同粉砕した原料スラグを篩いにかけて、直径53μm以下の試料スラグ(粉末)1.5gを得た。そして、同試料スラグを純水150ml、人工海水150ml中にそれぞれ分散させた。
【0065】
これら試料スラグが溶解した溶液を、スラグ炭酸固化体内部での反応に近い反応条件を模した50℃の温度で90時間加熱し、それにより析出した生成物をそれぞれ走査型電子顕微鏡SEM(以下、単にSEMという)により観察した。
【0066】
その結果を、
図2の写真に示す。この写真によると、上記純水、人工海水いずれの溶液の場合にも、試料スラグの一部が溶解するが、いずれの場合にも未反応粒子の表面は滑らかである。
【0067】
次に、同試料スラグの一部が溶解した試料スラグの残渣を含む純水溶液を濾過しないまま、予め調製した1M水酸化ナトリウムNaOH溶液を加えて、50℃で90時間加熱し、その結果、析出した生成物をSEM観察した。その結果を、
図3の写真に示す。
【0068】
図3の写真を見ると、角の尖った炭酸カルシウムCaCO3の斜方晶であるアラゴナイトの集合体の生成を確認することができる。
【0069】
次に、同試料スラグの一部が溶解した残渣を含む純水溶液を一旦濾過した上で、上記1Mの水酸化ナトリウムNaOH溶液および0.444gのPVAを100mlの純水で調製した0.01MのPVA溶液を加えて、50℃で90時間加熱する。すると、アラゴナイトと炭酸カルシウムCaCO3を含む生成物が生成される。この生成物をSEMで観察した結果を、
図4の写真に示す。
【0070】
図4の写真を見ると、アラゴナイトと一部炭酸カルシウムCaCO3の三方晶であるカルサイトが成長している様子を確認することができる。
【0071】
次に、同試料スラグの一部が溶解した試料スラグの残渣を含む人工海水溶液を濾過しないまま、上記1Mの水酸化ナトリウムNaOH溶液のみを加えて、50°Cで90時間加熱し、その結果、析出した生成物をSEMで観察した結果を、
図5の写真に示す。
【0072】
図5の写真を見ると、一応炭酸カルシウムCaCO3の三方晶であるカルサイトが見られるが、この場合には、その結晶の一部が溶解していることを確認することができる。
【0073】
これらのSEM観察結果から、純水と人工海水とでは、その結晶構造がアラゴナイトとカルサイトと相互に異なっている理由として、次のような理由が考えられる。
【0074】
純水の場合、試料スラグからの炭酸カルシウムCaCO3とMgイオンの溶出が理由でCa/Mg比が大きく、小さなアラゴナイトになる。また、0.01MのPVA溶液を加えた結果、アラゴナイトの結晶成長が起ったと考えられる。
【0075】
他方、人工海水の場合、炭酸塩析出において安定した状態なので、カルサイトが生成したと考えられるが、カルサイトは通常水溶性ではないため、固結してしまう。
【0076】
しかし、上記炭酸塩析出の際に、蜆、アサリ、蛤等の貝の殻を入れると、その結晶が球体になることから理解されるように、海水からの炭酸塩析出による結晶成長に安定性を与えることができることが原因であると考えられる。
(2)第2の実験
一方、純水、海水、人工海水の各溶液中で二酸化炭素CO2と反応させたスラグを含む生成物の炭酸化率は、
図6の表のようになった。この表を見ると、それぞれ常温、湿度100%のデシケータで、7d時間(7日間)炭酸化したスラグの炭酸化率の1.58%となっており、この実験での値は、純水、海水、人工海水いずれの場合にも、デシケータで7d時間(7日間)炭酸化したスラグの炭酸化率よりも低くなっている。
【0077】
これは,後に述べるように試料スラグと接触している各溶液のpH値が低下し、炭酸カルシウムCaCO3が大気中でスラグを炭酸化するときよりも生成しにくくなったためと考えられる。
【0078】
他方、1gの試料スラグを用いて各種溶液中で二酸化炭素CO2と反応させたときの生成物の質量は、単なる純水中に分散させたときには2.5時間後に0.6356g、CO2を導入した純水中で反応させたときには2.5時間後には0.6531g、海水中または人工海水中で二酸化炭素CO2と反応させたときには2.5時間後にそれぞれ0.6356gと、0.6469gとなった。
(3)第3の実験
次に、純水、海水、人工海水の各溶液中で試料スラグを二酸化炭素CO2と反応させ、それによって生成した生成物を乾燥後、得られた試料スラグを含む残渣を純水中に分散させ、その分散時間にともなうカルシウムCaイオンの溶出量とpH値の変化を観察した。その結果を、
図7の表に示した。
【0079】
このときの海水中のカルシウムCa濃度は294mg/lであった。二酸化炭素CO2と反応していないスラグを純水と5時間接触させ、これを100mlの純水中に分散させたときのカルシウムCa濃度は、28d分散した溶液では19.1mg/lであった。純水中で5時間、二酸化炭素CO2と反応させた後、乾燥した固相を100mlの純水中で分散させ、28d分散させたときの溶液のカルシウムCa濃度は7.0mg/lであった。
【0080】
他方、これと同じ条件で、海水中、人工海水中で二酸化炭素CO2と反応させたときに得られた固相を用いた時は、それぞれ4.9mg/l、4.7mg/lとなった。二酸化炭素CO2と反応させていない試料スラグを純水と接触させたものよりも、上記各溶液中で二酸化炭素CO2と反応させたものの方が、溶液中のカルシウムCa濃度が低くなっているが、その理由は、試料スラグのスラグ粒子が炭酸カルシウムCaCO3に覆われたことによるものと考えられる。
【0081】
一方、純水、海水、人工海水各々のpH値については、
図8の表に示すような値になったが、他方、これに対し二酸化炭素CO2と反応させていない未反応試料スラグを純水中に分散させたときの純水中のpH値は極めて高くなった。
【0082】
これは、上記
図7で示したカルシウム濃度の測定結果の傾向とほぼ一致しており、スラグ粒子は二酸化炭素CO2と反応することによって、その表面に炭酸カルシウムCaCO3が生成し、同表面の炭酸カルシウムCaCO3によって上記カルシウムCaの溶出が抑えられ、その結果、スラグ粒子が分散している溶液中のpH値が低くなったものと判断される。
【0083】
次に、上記二酸化炭素CO2と反応させた試料スラグの断面構造の分析を行なった。その結果を、
図9の4枚の写真(EDX・SEM)に示す。そのEDX結果から、二酸化炭素CO2と反応させた場合には、上記カルシウムCa(丸囲み部)が、アルミAlや珪素Siの存在しない位置に存在しており、このことから試料スラグのスラグ粒子表面には、炭酸カルシウムCaCO3皮膜が生成しているものと推測される。
(4)第4の実験
次に、上記の場合同様に、原料スラグ(製鋼スラグ)を粉砕し、同粉砕した原料スラグを篩いにかけて、直径53μm以下の試料スラグ(粉末)1gを得た。そして、この直径53μm以下の試料スラグ1gを、純水150ml、海水150ml、また海水に予め調整した1M水酸化ナトリウムNaOH溶液2.5mlを加えたNaOH添加海水150mlをそれぞれ収納したビーカー中に入れ、3時間分散させた。
【0084】
その後,デシケータで0.1Mの炭酸ナトリウムNaCO3水溶液を添加し、常温、湿度100%のデシケータ内で7d炭酸化した。
そして、それら各ビーカー中の炭酸化した残渣物を濾別、乾燥させた後、それら各残渣物の0.5g分を計り取り、残りの残渣物の炭酸化率をTG−DTAで測定した。それぞれの炭酸化率を、
図10の表に示す。
【0085】
他方、上記計り取った残渣物0.5gを、純水100mlを収納したビーカー中に入れて、7d時間(7日間)、28d時間(28日間)かけて分散させ、その溶液のカルシウムCa濃度をICPで測定した。それぞれのカルシウムCa濃度を、
図11の表に示す。
前記
図6の表に示す炭酸化率と
図10の表に示す炭酸化率との比較から、純水とスラグを接触させた場合、炭酸化した時間(時間・日数)は違うが、洗気瓶を用いるよりもデシケータを用いた方が炭酸化率が上がることがわかった。
【0086】
しかし、
図7の表と
図11の表のスラグを含む溶液のCa濃度の28d時間(28日間)の分散時間での比較から、洗気瓶では7mg/l、デシケータでは18.5mg/lと、デシケータでは残渣からカルシウムCaが溶出してしまうことが分かった。
【0087】
また、
図10の表から、海水と接触させたスラグはデシケータで炭酸化させても、炭酸化率は0.36%と上がらなかった。
【0088】
また、
図11の表から海水に接触させ、デシケータで炭酸化したスラグのカルシウムCaの溶出は28d時間(28日間)分散で17.4mg/lと抑えられないことが分かった。
【0089】
また、海水に1Mの水酸化ナトリウムNaOH溶液を加えると、炭酸化率は純水接触と海水接触の場合の間の2.73%ほどで、カルシウムCaの溶出は7d時間(7日間)分散のときで9.7mg/l、28d時間(28日間)分散のときで6.0mg/lと、それぞれ抑えることができた。
(5)第5の実験
次に、上記直径53μm以下の試料スラグを純水100ml中に3時間かけて分散させ、濾別した後、湿ったままの状態で、常温、湿度100%のデシケーター内で炭酸化させ、その後、同炭酸化したスラグを坩堝に擦り切り一杯入れ、1250℃、2時間20分の焼成条件で焼成し、約8時間かけて常温に冷却した後、固化体となった試料スラグをダイヤモンドカッターで約5gの立方体の形に切り、純水中に5時間浸漬したもの、海水中に5時間浸漬したもの、いずれの溶液にも未接触のもの3種類のサンプルを作成した。
【0090】
そして、それらを、各々常温、湿度100%のデシケーター内で7d時間(7日間)炭酸化させ、その後乾燥させた。そして、その後、同試料スラグを粉砕し、さらに53μm以下の篩いにかけて選別したのち、その炭酸化率をTG‐DTAで測定した。
また、それと同時に、上記篩いにかけた直径53μm以下の試料スラグ0.5gを100mlの純水中に7d時間(7日間)静置し、その純水のpH値をpH試験紙で測定した。
【0091】
この実験における、上記スラグ固化体(5gの立方体)を
図12の写真に、炭酸化率の測定結果を
図13の表に、pH試験の結果(様子)を
図14、
図15の写真に示す。
【0092】
図13の表によると、炭酸化率は純水接触の場合で4.68%、海水接触の場合で10.20%、いずれとも未接触の場合で3.22%となった。
図10の表と
図13の表の測定結果を比較した。
図10の表では、純水に接触させ、7d時間(7日間)炭酸化したスラグの炭酸化率は5.08%で、海水接触は0.36%であった。
【0093】
炭酸カルシウムCaCO3の分解温度は825℃で、燃焼条件が600〜800℃であり、固化体にする際の燃焼条件が1250℃、2時間20分の条件で焼成し、8時間で常温に冷却したものであることを考慮して、スラグの焼成により、スラグに含まれている炭酸カルシウムCaCO3が燃焼し、燃焼により減少した重量比wt%が炭酸化率となっていると考えた。
【0094】
図10の炭酸化率測定表において、純水接触の場合に炭酸化率が5.08%と高くなったのは、水和反応が起きて、アラゴナイトが多く生成し、炭酸化率が高くなったことによるものと考えられる。また、
図10の表で、海水接触の炭酸化率が0.36%と低いのはカルサイト、もしくは一部溶解した結晶がスラグ粒子の表面を密に覆い、炭酸化率が低くなったものと考えられる。
【0095】
図13の炭酸化率測定表から、純水接触の場合に4.68%と、
図10の炭酸化率測定表の純水接触の場合における5.08%と比較して、0.40%の差があるのは、一度スラグを溶融して固化体にしても、スラグ粒子の表面のアラゴナイトであることに変わりはないが、
図13の実験ではスラグ粒子を粉砕したため、当該アラゴナイトの尖った部分がわずかに削れたため、炭酸カルシウムCaCO3の量が減り、それによって炭酸化率が低くなったためと考えられる。
【0096】
また、
図13の表からCO2未接触の場合には3.22%であり、大気中で7d時間(7日間)炭酸化したスラグの炭酸化率の1.58%と比較して、1.64%高くなった。これは
図13表の場合、前処理として純水と接触させたため、水和反応が起き、炭酸カルシウムが多く析出したためと考えられる。
【0097】
マリンブロックを製造する際、上記溶液と接触させる1次処理として、純水を用いると、アラゴナイトがスラグ粒子表面に多く析出することから、2次処理で固化体と海水を接触させた際、アラゴナイトが海水と接する面積が大きいため、浸食が広範囲でおき、多くの炭酸カルシウムが海水に晒され、カルサイトもしくは一部溶解した結晶が固化体内部で十分に張り巡らされ、多くのCO2を吸収することができるようになると考えられる。
【0098】
一方、同1次処理で海水を用いると、スラグ粒子は密になり、2次処理で海水と接触する面積が小さくなってしまうため、純水のほうが適していると考えられる。
【0099】
次に、上記pH試験紙によるpH試験の結果について検討する。
図14、
図15のpH試験紙の写真から、スラグ炭酸固化体を粉砕後、直径53μmの篩いにかけ、純水に7d時間(7日間)分散し、その純水のpH値をpH試験紙を用いて測定すると、まずpH値7の溶液中に、pH値11のスラグ粒子が分散する様子が分かった。また、しばらくpH試験紙を放置すると、pH値は8を示した。
【0100】
また、前記
図8の表の溶液中で、二酸化炭素CO2と反応させた試料スラグが分散した溶液のpH値と
図14、
図15のpH試験の結果を比較した。すると、
図8の表のCO2未導入、純水接触の場合、静置時間7d(7日)でpH値は10.92、海水接触の場合、分散時間7d(7日間)でpH値は7.82であったので、スラグ粒子はCO2と反応させるとpH値11となり、海底に沈めたスラグ炭酸固化体周辺はpH値8の雰囲気になると考えられる。
【0101】
このことは、同スラグ炭酸固化体ブロックから水酸化イオン(OH-)が放出されることを示しており、海水自体のph値を改善することができ、魚類の成育環境の改善につながる。
(6)第6の実験
また、さらなる実験として、上記原料スラグを粉砕した直径53μm以下の試料スラグ(粉末)約1.5gおよびチョーク粉、卵の殻粉1.5gをそれぞれ洗気瓶に入れて、純水150mlで溶かし、3時間ほど二酸化炭素CO2を加えた。
次に、それによって炭酸カルシウムCaCO3が溶けた溶液5mlをプラスティックカップに移し、 さらに予め調整した1Mの水産化ナトリウムNaOH溶液、0.01MのPVA溶液、蜆、アサリ、蛤の殻のかけらを加えた。そして、その後所定のトレイに水を張り、同溶液の入ったプラスティックカップをトレイに並べて、乾燥しないように上からラップをし、90℃で90時間加熱し、SEMで観察した。
【0102】
さらに、陰イオン界面活性剤8mM SDS(sodium dodecyl sulfate)(CMC8mM)を添加した純水中に、試料スラグを入れて過剰にCO2を加え、濾液を50℃で90時間加熱し、予め調整した1Mの水酸化ナトリウムNaOH溶液、0.01MのPVA溶液を添加し、炭酸塩を析出させて、その質量を計った。
【0103】
このSDSを添加した実験では、SDSを添加しなかったときに析出した炭酸カルシウムは6.3mgであったのに対し、SDSを添加したとき析出した炭酸カルシウムは7.1mgと0.8mg炭酸塩の膜が厚くなった。このことは、SDSに含まれるNaイオンが、スラグ中のCaイオンを分離させ、さらに多くの炭酸カルシウムCaCO3を析出させたと考えられる。したがって、陰イオン界面活性剤SDSを添加することは、有効である。
【0104】
このような実験結果に基づき、次のような方法で実験的にマリンブロックを製造して見た。
【0105】
すなわち、まず上述した直径53μm以下の粉砕スラグを純水に5時間接触させて、二酸化炭素CO2吸収に寄与するアラゴナイトを可能な限りスラグ粒子表面に多く析出させる。
【0106】
次に、この湿ったままの粉砕スラグを、上述したデシケータ内で7日間かけて炭酸化することによって、同粉砕スラグのスラグ粒子内に十分な量の二酸化炭素CO2を吸収させる。 その後、同炭酸化し、二酸化炭素CO2を吸収させた粉砕スラグを所定の溶融炉内で加熱、溶融する。そして、同加熱、溶融した製鋼スラグをマリンブロック形成用の型枠(ケーシング)内に入れ、二酸化炭素CO2を含む排ガスを通して二酸化炭素CO2を吸収させた後に、所定の時間をかけて冷却し、マリンブロック構造の固化体とした。
【0107】
その後、同マリンブロック構造のスラグ固化体を海水(または人工海水)に5時間接触させる。その際、上記のように、スラグ粒子の表面には、上記純水との接触によってアラゴナイトが多量に析出しており、浸食が広い範囲でおき、海水との接触面積も広くなっている。その結果、多量の炭酸カルシウムCaCO3が海水に晒され、カルサイトもしくは一部溶解した結晶が固化体内部で十分に張り巡らされ、多量の二酸化炭素CO2を吸収・保持することができるようになる。
【0108】
次に、同スラグ固化体を乾燥させ、常温、湿度100%のデシケータ内で、7日間かけて再度炭酸化した。このとき、スラグ中のカルシウムCaが、二酸化炭素CO2と反応して炭酸カルシウムCaCO3となり、また上記のように、カルサイトまたは一部溶解した結晶が固化体内部に有効に張り巡らされているから、同スラグ固化体よりなるマリンブロックは、少なくとも10%前後の高い二酸化炭素吸収能力を有して二酸化炭素CO2を吸収すると予測される。 なお、上記製造に際して、成形されるブロックの形状は、例えば表面が平面の場合、ハンドリング時に滑り易いことから、例えば表面を波形の形状にすると良い。このようにすると、設置作業が容易になることはもちろん、設置後の海水との接触面積も広くなり、上述した各種の作用がより効果的に機能する。
【0109】
また、上記二酸化炭素吸収に有効なアラゴナイトは、第1次処理としての純水との接触で効果的に発生するが、他方、それだけではスラグ固化体の亀裂を招き、吸収した二酸化炭素CO2やカルシウムCa成分の溶出を招く恐れもある。そこで、上記固形化後の第2次的な処理としては、上述のように海水を採用して、逆にスラグ粒子を蜜にし、亀裂等の発生を防止するようにした。
【0110】
このような構成のマリンブロックを、海底の砂利採取でできた穴に埋めるようにすると、二酸化炭素吸収による地球温暖化の防止だけでなく、藻場の形成や海水のpH値改善など、海中に於ける魚類の生育環境の改善、砂利との代替による海底環境の改善にも大きく貢献することが可能となる。