特開2015-100449(P2015-100449A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-100449(P2015-100449A)
(43)【公開日】2015年6月4日
(54)【発明の名称】ガイドピン刺し通し治具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/56 20060101AFI20150508BHJP
   A61F 2/46 20060101ALI20150508BHJP
   A61F 2/08 20060101ALI20150508BHJP
   A61F 2/38 20060101ALI20150508BHJP
【FI】
   A61B17/56
   A61F2/46
   A61F2/08
   A61F2/38
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-241760(P2013-241760)
(22)【出願日】2013年11月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090608
【弁理士】
【氏名又は名称】河▲崎▼ 眞樹
(72)【発明者】
【氏名】奥野 政樹
(72)【発明者】
【氏名】森井 敬
(72)【発明者】
【氏名】灘 克也
(72)【発明者】
【氏名】柏谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】黒田 良祐
【テーマコード(参考)】
4C097
4C160
【Fターム(参考)】
4C097AA03
4C097AA07
4C097BB04
4C097MM09
4C160LL07
4C160LL26
4C160LL30
(57)【要約】
【課題】骨孔を穿孔すべき生体骨の適正な箇所に照準を合わせ、生体骨の背面側から中空ドリルのガイドピンを、照準を合わせた適正な箇所まで適正な方向に刺し通すことができるガイドピン刺し通し治具を提供する。
【解決手段】湾曲したフレーム部1と、フレーム部の前端に設けられた前方筒部2と、フレーム部の後端に設けられた後方筒部3を備え、前方筒部2は先端に位置決め突起2cと穿孔照準部2bを有し、後方筒部3はガイドピン6が挿通される複数の平行なガイドピン挿通筒部3aと、その先端の仮固定手段3dを有し、前方筒部2の先端の方を向いてフレーム部の後端にスライド可能に設けられた構成のガイドピン刺し通し治具とする。生体骨の適正な箇所に穿孔照準部2bを当てて位置決め突起2cで位置決めし、ガイドピン挿通筒部3aの後端からガイドピン6を穿孔照準部2bに達するまで生体骨に適正な方向で刺し通す。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体骨に穿孔用中空ドリルのガイドピンを位置及び方向を決めて刺し通すための治具であって、
湾曲したフレーム部と、フレーム部の前端に設けられた前方筒部と、フレーム部の後端に設けられた後方筒部とを備え、
前方筒部は、その先端に位置決め突起と穿孔照準部を有し、
後方筒部は、ガイドピンが挿通される複数の平行なガイドピン挿通筒部と、その先端の仮固定手段を有し、前方筒部の先端の方を向いてフレーム部の後端にスライド可能に設けられている、
ことを特徴とするガイドピン刺し通し治具。
【請求項2】
後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部のそれぞれの中心軸線が、前方筒部の先端の穿孔照準部を通ることを特徴とする、請求項1に記載のガイドピン刺し通し治具。
【請求項3】
穿孔照準部が開口を有することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のガイドピン刺し通し治具。
【請求項4】
穿孔照準部の先端面が前方筒部の中心軸線に対して傾斜していることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガイドピン刺し通し治具。
【請求項5】
前方筒部がフレーム部の前端に脱着可能に取り付けられていることを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のガイドピン刺し通し治具。
【請求項6】
後方筒部がフレーム部の後端に脱着可能に取り付けられていることを特徴とする、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のガイドピン刺し通し治具。
【請求項7】
前方筒部と後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部が、いずれも真っ直ぐな筒孔を有することを特徴とする、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のガイドピン刺し通し治具。
【請求項8】
前方筒部の中心軸線と、後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部のそれぞれの中心軸線が、90°より大きく180°より小さい角度で交差していることを特徴とする、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のガイドピン刺し通し治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体骨に穿孔用中空ドリルのガイドピンを刺し通すために使用される治具に関し、更に詳しくは、断裂した前十字靱帯の再建術などにおいて、他の部位から採取した腱を膝関節などに移植するのに必要な骨孔を中空ドリルで関節の骨に穿孔する際に、中空ドリルのガイドピンを関節の骨に対し、医師の意とする位置及び方向を正確に決めて刺し通すために使用される、ガイドピン刺し通し治具に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、断裂した前十字靱帯(ACL)の再建術においては、他の部位から採取した腱を膝関節に移植するために必要な骨孔を、中空ドリルで膝関節の骨の適正な箇所に穿孔する必要がある。
【0003】
かかるACL再建術に使用されるデバイスの一つとして、膝関節の大腿骨下部に穿孔した第一の骨孔に基づいて、膝関節の脛骨上部に穿孔される第二の骨孔の位置を確定するデバイスが提案されている(特許文献1)。
【0004】
このデバイスは、近位端および遠位端を有する細長の本体と、この本体の遠位端からある角度で延びるアームと、このアームの遠位端に形成された球状先端部と、この本体の近位端に設けられたアウトリガーとを備えたもので、膝関節の大腿骨下部に穿孔された基準となる第一の骨孔にデバイスの球状先端部を挿入すると、アームが脛骨上部に穿孔される第二の骨孔の適正な位置と角度を示し、アウトリガーのワイヤ挿通筒から脛骨上部に突き刺したガイドワイヤに沿って中空ドリルで穿孔すると、第二の骨孔を脛骨上部の適正な位置に適正な角度で形成できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−195701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のデバイスは、前述したように、基準となる第一の骨孔が膝関節の大腿骨下部に穿孔されている場合に、この第一の骨孔に球状先端部を挿入して、膝関節の脛骨上部に穿孔される第二の骨孔の適正な位置と角度を決めることはできるが、膝関節の大腿骨下部に第一の骨孔が穿孔されていない場合は、脛骨上部に穿孔される第二の骨孔の位置と角度を決めることができないという不都合がある。
また、特許文献1のデバイスは、膝関節の脛骨上部に第二の骨孔が穿孔されていてもいなくても、膝関節の大腿骨下部に穿孔される第一の骨孔の位置と角度を適正に決めることができないという不都合もある。
【0007】
ところで、これまでのACL再建術では、膝関節の脛骨上部の前面側から骨孔を中空ドリルで斜め上方に貫通させて穿孔し、更に、中空ドリルを膝関節の内部に通して大腿骨下部の下面側から骨孔を斜め上方に穿孔するのが一般的である。けれども、大腿骨下部の下面側から骨孔を穿孔する場合は、大腿骨下部の下面が凹曲していて、骨孔を穿孔すべき適正な箇所が湾曲斜面となっているため、中空ドリルのガイドワイヤ(ガイドピン)を適正な箇所に適正な方向で突き刺すことが容易でなく、それ故、ガイドワイヤに案内された中空ドリルで骨孔を大腿骨下部の下面側から適正な箇所に適正な方向で穿孔することが難しいという不都合があった。
また、中空ドリルを膝関節の内部に通して大腿骨下部の下面側から骨孔を斜め上方に穿孔するという上記の方法により穿孔された骨孔の位置は、生体の前十字靱帯の位置とは大きく異なるため、本来の生体の靱帯位置に代替靱帯(移植用腱)を固定する事が望まれる。
【0008】
本発明は上記事情の下になされたもので、その目的とするところは、基準となる骨孔が穿孔されてなくても、骨孔を穿孔すべき生体骨の適正な箇所に照準を合わせ、生体骨の背面側から中空ドリルのガイドピンを、照準を合わせた適正な箇所まで適正な方向に刺し通すことができるガイドピン刺し通し治具を提供し、もって、ガイドピンに挿通されて案内される中空ドリルで骨孔を生体骨の背面側から生体骨の適正な箇所まで適正な方向に貫通させて穿孔できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るガイドピン刺し通し治具は、
生体骨に穿孔用中空ドリルのガイドピンを位置及び方向を決めて刺し通すための治具であって、
湾曲したフレーム部と、フレーム部の前端に設けられた前方筒部と、フレーム部の後端に設けられた後方筒部とを備え、
前方筒部は、その先端に位置決め突起と穿孔照準部を有し、
後方筒部は、ガイドピンが挿通される複数の平行なガイドピン挿通筒部と、その先端の仮固定手段を有し、前方筒部の先端の方を向いてフレーム部の後端にスライド可能に設けられている、
ことを特徴とするものである。
【0010】
本発明のガイドピン刺し通し治具においては、後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部のそれぞれの中心軸線が、前方筒部の先端の穿孔照準部を通ることが望ましい。そして、穿孔照準部は開口を有することが望ましく、更に、穿孔照準部の先端面は前方筒部の中心軸線に対して傾斜していることが望ましい。
【0011】
また、本発明のガイドピン刺し通し治具においては、前方筒部がフレーム部の前端に脱着可能に取り付けられていること、或いは、後方筒部がフレーム部の後端に脱着可能に取り付けられていることが望ましい。そして、前方筒部と後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部はいずれも真っ直ぐな筒孔を有することが望ましく、更に、前方筒部の中心軸線と、後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部のそれぞれの中心軸線が、90°より大きく180°より小さい角度で交差していることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のガイドピン刺し通し治具は、骨孔を穿孔すべき生体骨の適正な箇所に前方筒部の先端の穿孔照準部を当てて位置決め突起で前方筒部を位置決めし、生体骨の背後から後方筒部の複数の平行なガイドピン挿通筒部を前方筒部の先端に向かってスライドさせて、複数のガイドピン挿通筒部の先端を仮固定手段で生体骨の背面に仮固定し、この状態で中空ドリルのガイドピンをそれぞれのガイドピン挿通筒部の後端から挿通して前方筒部の穿孔照準部に達するまで刺し通すことにより、骨孔を穿孔すべき生体骨の適正な箇所に複数のガイドピンを生体骨の背面側から適正な方向で刺し通すことができる。従って、これらのガイドピンに中空ドリルを挿通して案内しながら生体骨を背後から穿孔すると、貫通した複数の骨孔を生体骨の適正な箇所に適正な方向で形成することができる。
【0013】
なお、本発明のガイドピン刺し通し治具のように、複数のガイドピンを生体骨に刺し通すことによって複数の骨孔を穿孔するのは、後述するように、その後のステップにおいて、これらの骨孔にセンタードリルガイドを挿着し、このセンタードリルガイドに通したセンタードリルで双方の骨孔の間に更に孔をあけて双方の骨孔を連結すると共に、連結した双方の骨孔を更に長方形ないし長円形にダイレーターで押し広げたり、ノミで切削したりすることによって、従来の円形の骨孔とは異なる腱移植に適した長方形ないし長円形の骨孔を形成するためである。
【0014】
上記のように、本発明のガイドピン刺し通し治具は、前方筒部の穿孔照準部を骨孔を穿孔すべき生体骨の適正な箇所に当て、生体骨の背後から中空ドリルのガイドピンを適正な箇所に適正な方向で刺し通すことができるものであるため、例えば、ACL再建術において膝関節の大腿骨下部に腱移植用の骨孔を穿孔する場合でも、治具の前方筒部を膝関節の内部に前方から挿入し、前方筒部の先端の穿孔照準部を大腿骨下部の骨孔を穿孔すべき適正な箇所(大腿骨下面の湾曲斜面となっている箇所)に当てて位置決めし、上記と同様にガイドピンを後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部から前方筒部の穿孔照準部に達するまで大腿骨下部に刺し通すことにより、骨孔を穿孔すべき大腿骨下部の適正な箇所に複数のガイドピンを斜め背後から適正な方向で刺し通すことができる。従って、これらのガイドピンに沿って中空ドリルで大腿骨下部に斜め背後から穿孔すると、大腿骨下部の適正な箇所(大腿骨下面の湾曲斜面となっている箇所)まで貫通する複数の骨孔を適正な方向で形成することができ、その後のステップにおいて、これらの骨孔の間に孔をあけて骨孔を連結すると共に、更に長方形ないし長円形に切削することによって、腱移植に適した長方形ないし長円形の骨孔を形成することが可能となる。
【0015】
本発明のガイドピン刺し通し治具において、後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部のそれぞれの中心軸線が前方筒部の先端の穿孔照準部を通るように構成されたものは、これらのガイドピン挿通筒部の後端から挿通されたガイドピンが確実に前方筒部の穿孔照準部まで到達し、穿孔照準部を当てた生体骨の骨孔を穿孔すべき適正な箇所にガイドピンが斜め背後から適正な方向で刺し通されることになるので、これらのガイドピンに沿って中空ドリルで骨孔を生体骨の適正な箇所に斜め背後から適正な方向で確実に穿孔することが可能となる。
【0016】
そして、穿孔照準部が開口を有するものであると、背後から生体骨に刺し通したガイドピンの先端が開口に突入するのをファイバースコープなどで観察することによって、ガイドピンの先端が穿孔照準部まで到達したことを確認することが可能となる。
【0017】
更に、穿孔照準部の先端面が前方筒部の中心軸線に対して傾斜していると、例えば、前方筒部を膝関節に前方から挿入したときに、穿孔照準部の傾斜した先端面を、大腿骨下部の骨孔を穿孔すべき箇所の湾曲斜面に沿わせて安定良く当てることが可能となる。
【0018】
また、前方筒部がフレーム部の前端に脱着可能に取り付けられ、或いは、後方筒部がフレーム部の後端に脱着可能に取り付けられていると、フレームと前方筒部或いは後方筒部とを分離した状態で容易に持ち運びすることができ、医療現場で簡単に組み立てて使用することができる。そして、前方筒部と後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部が真っ直ぐな筒孔を有するものであると、ガイドピンの刺し通し作業がし易くなる。
【0019】
更に、前方筒部の中心軸線と、後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部のそれぞれの中心軸線が、90°より大きく180°より小さい角度で交差していると、特に膝関節の大腿骨下部に刺し通すガイドピンの位置及び方向が適正なものになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るガイドピン刺し通し治具を示す側面図である。
図2】同ガイドピン刺し通し治具の後方筒部のガイドピン挿通筒部に中空ドリルのガイドピンを挿通したところを示す側面図である。
図3】同ガイドピン刺し通し治具のフレーム部を示す側面図である。
図4】同フレーム部の背面図である。
図5図3のA−A線切断端面図である。
図6図3のB−B線切断端面図である。
図7】同フレーム部を前方斜め上側から見た図である。
図8】(a)は前方筒部の平面図、(b)は同前方筒部の側面図、(c)は同前方筒部の正面図、(d)は(b)のC−C線断面図である。
図9】(a)は後方筒部の片方のガイドピン挿通筒部の側面図、(b)は同ガイドピン挿通筒部の背面図である。
図10】フレーム部の後端の挿通孔にガイドピン挿通筒部を挿通するときの説明図であって、(a)は同挿通孔にガイドピン挿通筒部を挿通する前の状態を、(b)は同挿通孔にガイドピン挿通筒部の先端部を挿通した状態を、(c)は同挿通孔にガイドピン挿通筒部を途中まで挿通した状態を示す。
図11】フレーム部の後端の挿通孔からガイドピン挿通筒部を引き抜くときの説明図であって、(a)はガイドピン挿通筒部を180°回転させた状態を、(b)はガイドピン挿通筒部を引き抜く途中の状態を示す。
図12】同ガイドピン刺し通し治具の使用例の説明図であって、前方筒部の穿孔照準部を膝関節の大腿骨下部の湾曲斜面に当て、固定ピンで前方筒部を固定したところを示す。
図13】同ガイドピン刺し通し治具の使用例の説明図であって、前方筒部をフレーム部に取り付け、後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部を前方筒部の先端の方に向かってスライドさせて大腿骨下部の背面側に仮固定したところを示す。
図14】同ガイドピン刺し通し治具の使用例の説明図であって、大腿骨下部の背面側に仮固定した複数のガイドピン挿通筒部の後端からガイドピンを挿通し、前方筒部の穿孔照準部に達するまでガイドピンを大腿骨下部に刺し通したところを示す。
図15】同ガイドピン刺し通し治具の使用例の説明図であって、複数のガイドピン挿通筒部を抜き取り、フレーム部と前方筒部を取り外したところを示す。
図16】複数の骨孔が斜め背後から穿孔された膝関節の大腿骨下部を示す斜視図である。
図17】膝関節の大腿骨下部の複数の骨孔にセンタードリルガイドを挿入したところを示す斜視図である。
図18】複数の骨孔の間にセンタードリルで孔をあけることによって複数の骨孔を連結した膝関節の大腿骨下部を示す斜視図である。
図19】膝関節の大腿骨下部の連なった骨孔をノミで切削するところを示す斜視図である。
図20】長方形ないし長円形の骨孔が形成された膝関節の大腿骨下部を示す斜視図である。
図21】(a)はセンタードリルガイドの平面図、(b)はセンタードリルガイドの側面図、(c)は(a)のD−D線に沿った拡大切断端面図、(d)は(a)のE−E線に沿った拡大切断端面図である。
図22】本発明の他の実施形態に係るガイドピン刺し通し治具を示す側面図である。
図23】同ガイドピン刺し通し治具の背面図である。
図24】(a)は後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部の他の例を示す平面図、(b)はその側面図である。
図25】後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部をスライド可能に保持した同ガイドピン刺し通し治具のフレーム部の後端の断面図であって、(a)は複数のガイドピン挿通筒部が後方にスライド不能にロックされた状態を、(b)は複数のガイドピン挿通筒部が後方にスライド可能にロック解除された状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて、本発明のガイドピン刺し通し治具の実施例を詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明の一実施形態に係るガイドピン刺し通し治具を示す側面図、図2は同ガイドピン刺し通し治具の後方筒部のガイドピン挿通筒部に中空ドリルのガイドピンを挿通したところを示す側面図、図3は同ガイドピン刺し通し治具のフレーム部を示す側面図、図4は同フレーム部の背面図、図5図3のA−A線切断端面図、図6図3のB−B線切断端面図、図7は同フレーム部を前方斜め上側から見た図、図8(a)は前方筒部の平面図、図8(b)は前方筒部の側面図、図8(c)は前方筒部の正面図、図8(d)は図8(b)のC−C線断面図、図9(a)は後方筒部の片方のガイドピン挿通筒部の側面図、図9(b)はガイドピン挿通筒部の背面図、図10(a)(b)(c)はフレーム部の後端の挿通孔にガイドピン挿通筒部を挿通するときの説明図、図11(a)(b)はフレーム部の後端の挿通孔からガイドピン挿通筒部を引き抜くときの説明図である。
【0023】
図1図2に示すガイドピン刺し通し治具10は、後述するように、断裂した前十字靱帯(ACL)の再建術において、他の部位から採取した腱を膝関節に移植するのに必要な骨孔を中空ドリルで膝関節の大腿骨下部に穿孔する際に、中空ドリルを案内するガイドピンを大腿骨下部に対し、医師の意とする位置及び方向を正確に決めて刺し通すために使用されるものであって、略半円弧状に湾曲したフレーム部1と、フレーム部1の前端に脱着可能に取り付けられた前方筒部2と、フレーム部1の後端に脱着可能かつスライド可能に取り付けられた後方筒部3とを備えており、これらのフレーム部1、前方筒部2、後方筒部3はいずれも、チタンやステンレスなどの金属で製作されている。
尚、図1図2では、後方筒部3として片側の1本のガイドピン挿通筒部3aのみが表れているが、図14に示すように、後方筒部3は互いに平行な複数(2本)のガイドピン挿通筒部3a,3aを有するものである。
【0024】
略半円弧状に湾曲した前記フレーム部1は、図3図4に示すように、湾曲した丸パイプ部1aと、この丸パイプ部1aの前端に設けられた前方筒部取り付け用の取り付け部1bと、この丸パイプ部1aの後端に設けられた湾曲鞘部1cと、この湾曲鞘部1cにスライド可能に挿入された湾曲板部1dと、この湾曲板部1dの後端に設けられた後方筒部取り付け用の取り付け部1eと、この湾曲板部1dのスライドをロックするツマミ部1fとを備えたものであって、湾曲した丸パイプ部1a、湾曲鞘部1c、湾曲板部1dのそれぞれの中心線の曲率半径は同一とされている。この曲率半径は、フレーム部1が膝関節を跨ぐことができるように、50〜300mm、好ましくは80〜220mm、より好ましくは100〜180mmに設定するのがよい。
【0025】
図5図6に示すように、ツマミ部1fのネジ軸1gは、湾曲鞘部1cの側面(割溝が形成された側面と反対側の側面)に設けられたネジ孔1hに螺合されており、ツマミ部1fを指で回転させながらネジ軸1gをねじ込むと、ネジ軸1gの先端の当片1iが、湾曲板部1dの側面に形成された浅い凹溝1jの底面に圧接して、湾曲板部1dがスライド不能に固定されるようになっている。従って、ツマミ部1fを緩めた状態で湾曲板部1dを湾曲鞘部1c内で円弧方向にスライドさせた後、ツマミ部1fを回転させて湾曲板部1dをスライド不能に固定すれば、フレーム部1の全体の円弧長を調節することができ、それによって、図1に示す前方筒部2の中心軸線CL2と後方筒部3(ガイドピン挿通筒部3a)の中心軸線CL3が交差する角度θを最適な角度に設定できるようになっている。
【0026】
フレーム部1(丸パイプ部1a)の前端に設けられた取り付け部1bは、前方筒部2を脱着可能に取り付けるためのものであって、図7に示すように、この取り付け部1bの両側には、下端に係止爪1kを有する一対の挟持片1m,1mが支軸1n,1nによってそれぞれ揺動自在に軸着されており、双方の挟持片1m,1mの上端部間には圧縮スプリング1pが張設されている。この挟持片1m,1mの下端の係止爪1k,1kは、図3に示すように前後に位置がずれているため、前方筒部2を安定良く保持して取り付けることができるようになっている。また、この取り付け部1bの下面には、前方筒部2の取り付け位置を決める2つの位置決め凸部1q,1qが、前方筒部2の4つの嵌合孔2h[図8(a)を参照]のうちの2つの対角関係にある嵌合孔2hに対応するように配置されて設けられている。
【0027】
この取り付け部1bの下面に取り付けられる前方筒部2は、図8(a)(b)(c)(d)に示すように、真っ直ぐな円筒部2aと、円筒部2aの先端に設けられた穿孔照準部2bおよび位置決め突起2cと、円筒部2aの後方に設けられた偏平な筒基部2dとを備えたものであって、円筒部2aの先端から筒基部2dの後端まで真っ直ぐな筒孔2eが中心軸線CL2に沿って貫通している。
【0028】
穿孔照準部2bは、図8(c)に示すような長円形の開口を有する環状体に形成されており、図8(a)(b)に示すように3本の細い支持片2fで円筒部2aの先端に固定されている。このように穿孔照準部2bを長円形の開口を有する環状体としたのは、最終的に形成したい骨孔の開口端形状(前述した長方形ないし長円形)とほぼ合致する形状の環状体とすることで医師が骨孔をイメージしやすくするためであり、また、環状体に形成された穿孔照準部2bを細い支持片2fで円筒部2aの先端に固定したのは、後述するように、ガイドピンを刺し通したときに、ガイドピンの先端が穿孔照準部2bの開口まで到達したか否かを、細い支持片2f相互間の隙間からファイバースコープ等で確認できるようにするためである。
【0029】
この穿孔照準部2bの環状の先端面2gは、図8(a)に示すように、前方筒部2の中心軸線CL2に対して80°〜70°の角度、好ましくは75°の角度で傾斜しており、また先端面2gは、紙面に垂直な面でもある。すなわち、図8(a)でCL2をx軸、紙面においてCL2に垂直な軸をy軸、紙面に垂直な軸をz軸とすると先端面2gは、y軸に対して10°〜20°で傾斜しているが、z軸に対しては平行である。
そのため、前方筒部2を膝関節に前方から挿入して、穿孔照準部2bを大腿骨下部の骨孔を穿孔すべき箇所の湾曲斜面に沿わせて安定良く当てることができるようになっている。そして、穿孔照準部2bの先端面を大腿骨下部の上記湾曲斜面に当てて強く押し込むと、穿孔照準部2bの先端面から突き出す一対の尖った位置決め突起2c,2cが大腿骨下部の上記湾曲斜面に突き刺さり、穿孔照準部2bが位置決めされて仮止めされるようになっている。
【0030】
図8(a)(d)に示すように、前方筒部2の偏平な筒基部2dには、フレーム部1の前記取り付け部1bの下面に突設された2つの位置決め凸部1q,1qを脱着自在に嵌合できる4つの嵌合孔2hが前後左右に間隔をあけて形成されている。このように嵌合孔2hが4つ形成されているのは、前方筒部2の偏平な筒基部2dを中心軸線CL2の周りに上下に180°反転させて取り付け部1bに取り付ける際に、4つの嵌合孔2hのうちの2つの対角関係にある嵌合孔2hに2つの位置決め凸部1q,1qを嵌合できるようにするためである。
上記のように前方筒部2を中心軸線CL2の周りに上下に180°反転させて取り付けることができると、先端の穿孔照準部2bが反転前と反転後で左右対称の関係になるため、穿孔照準部2bの互いに逆方向に傾斜した先端面2gを、それぞれ左足と右足の大腿骨の骨孔を穿孔すべき湾曲斜面に安定良く当てることができる。即ち、右膝関節と左膝関節では、大腿骨下部の骨孔を穿孔すべき箇所の湾曲斜面が互いに逆向きに傾斜しているので、前方筒部2を上下に180°反転させることによって、穿孔照準部2bの傾斜した先端面2gを右膝関節と左膝関節とで逆向きに傾斜させて大腿骨下部の湾曲斜面に安定良く当てることができるのである。
なお、図12図20は、左の大腿骨下部に骨孔を穿孔する場合を説明したものであり、後方筒部3は左斜め背後に位置して、手術の空間が確保され、手術しやすいものとなっている。右の大腿骨下部に骨孔を穿孔する場合は、人体の左右を面対称にした形となり、右斜め背後に後方筒部3が位置して手術される。
【0031】
また、図8(c)に示すように、前方筒部2の偏平な筒基部2dは、後端厚肉部2iを除いて、片面(上面)2jと反対面(下面)2kが水平面に対して互いに逆向きに2°〜5°、好ましくは3.5°の角度で傾斜する傾斜面となっている。
これは、筒基部2dを取り付け部1bの下面に当接して取り付けたときに上記の角度を以て前方筒部2が傾斜するようにし、それによって、後述のごとくガイドピン挿通筒部3a,3aを通じて2本のガイドピン6,6を刺し通したときにガイドピン6,6の先端が穿孔照準部2bの開口に確実に突入できるようにするためである。
筒基部2dの上下両面2j,2kが互いに逆向きに3.5°の角度で傾斜していると、前方筒部2の中心軸線CL2と後方筒部3の中心軸線CL3が150°〜160°で交差する場合に、後方筒部3のガイドピン挿通筒部3a,3aを通じて刺し通した2本のガイドピン6,6の先端が穿孔照準部2bの開口に突入する。
【0032】
また、図8(a)(b)に示すように、偏平な筒基部2dの上下両面の両側部には、前方筒部2を上下に反転させてフレーム部1の前端の取り付け部1bに取り付ける場合でも、反転させないで取り付ける場合でも、取り付け部1bの挟持片1m,1mの係止爪1k,1kをガタつきなく係止させることができる被係止部2m,2nが形成されている。これらの被係止部2m,2nは、筒基部2dの上下両面の両側部を斜めに切り欠いて形成されたものであって、その切り欠き深さと傾斜角を変えることによって、挟持片1m,1mの係止爪1k,1kがガタつきなく確実に係止できるようにしたものである。
【0033】
上記の前方筒部2は、次の要領でフレーム部1の前端の取り付け部1bに簡単に取り付けることができる。先ず、取り付け部1bの一対の挟持片1m,1mの上部を、圧縮スプリング1pの弾発力に抗して両側から押し込み、挟持片1m,1mの下端の係止爪1k,1kを両側に開く。そして、この状態で取り付け部1bの位置決め凸部1q,1qを前方筒部2の筒基部2dの嵌合孔2h,2hに嵌合し、圧縮スプリング1pの復元力で挟持片1m,1mの下端を内側に回動させて係止爪1k,1kを筒基部2dの被係止部2m,2nに係止させると、取り付けが完了する。なお、前方筒部2を取り外すときは、挟持片1m,1mの上部を両側から押し込んで、係止爪1k,1kによる係止を解除し、取り付け部1bの位置決め凸部1q,1qを筒基部2dの嵌合孔2h,2hから抜き取ればよい。
上記のようにして前方筒部2をフレーム部1の前端の取り付け部1bに取り付けると、図1に示すように、前方筒部2が円弧状のフレーム部1の求心方向を向き、取り付け部1bから円弧の中心方向に直線的に伸び、前方筒部2の先端の穿孔照準部2bがフレーム部1の円弧の中心点付近に位置するようになる。
また、フレーム部1の前端に設けられた前方筒部2、および、フレーム部1の後端に設けられた後方筒部3がそれぞれ直線状に伸び、前方筒部2および後方筒部3のそれぞれの中心軸線CL2,CL3が対向する形で交差し、この交差の点が前方筒部2の先端に設けられた穿孔照準部2bになっていることから、穿孔照準部2bによって後方筒部3側から前方筒部2側に開口される位置を想定でき、そして前方筒部2及び後方筒部3から生体骨への到達が前方筒部2および後方筒部3のそれぞれの軸の延長上にあるため、生体を切開する部位の面積が小さくて済み、生体への負荷を小さくできる点で好ましい。
本実施例では、フレーム部1が円弧状に形成されているが、湾曲鞘部1c及び該湾曲鞘部1cにスライド可能に挿入された湾曲板部1d以外のフレーム部1の一部または全部、あるいは、湾曲鞘部1c及び湾曲板部1dを有しない場合のフレーム部の一部または全部は、円弧状でなくてもよい。
【0034】
フレーム部1の後端の取り付け部1eに取り付けられる後方筒部3は、図14に示すように、互いに平行な複数(2本)のガイドピン挿通筒部3a,3aを有するものであって、図9(a)(b)に示すように、それぞれのガイドピン挿通筒部3aには、ガイドピンを挿通するための真っ直ぐな筒孔3bが中心軸線CL3上に形成されている。このガイドピン挿通筒部3aは全体的には真っ直ぐな円筒形状をしているが、先端近傍部3cには先細り状のテーパーが付されており、その先端には仮固定手段として切込みのある鋭い開口3dが形成されている。そして、このガイドピン挿通筒部3aの先端寄りの部分と後端寄りの部分を除いた中央部分の外周面上部には、略1/4円弧幅にわたる鋸歯状のラチェット部3eがガイドピン挿通筒部3aの長さ方向に連なって形成されており、更に、ガイドピン挿通筒部3aの後端部には、ラチェット部3eと反対側(下方)に突き出す突片3fが形成されている。
【0035】
一方、フレーム部1の後端の取り付け部1eには、図1図4図10に示すように、ガイドピン挿通筒部3aをそれぞれスライド可能に取り付ける2つの挿通孔1r,1r(下側に割溝が形成された挿通孔)がフレーム部1の求心方向に沿って互いに平行に形成されており、これらの挿通孔1r,1rの内面上部には、ガイドピン挿通筒部3aのラチェット部3eと係合してガイドピン挿通筒部3aの後方へのスライドを阻止する係合凸子1s,1sが、圧縮スプリング1t,1tで背後(上方)から押されて少し突出している。
【0036】
従って、図10(a)に示すように、ガイドピン挿通筒部3aをフレーム部1の後端の取り付け部1eの後方から挿通孔1rに挿通すると、図10(b)に示すように、ガイドピン挿通筒部3aの先端部3cのテーパー面によって係合凸子1sが押し上げられ、更にガイドピン挿通筒部3aを挿通すると、図10(c)に示すように、係合凸子1sが圧縮スプリング1tに押されてガイドピン挿通筒部3aのラチェット部3eと係合し、ガイドピン挿通筒部3aの前方へのスライドは許容するけれども、後方へのスライドは阻止されるようになっている。
【0037】
そして、図11(a)に示すように、突片3fを回してガイドピン挿通筒部3aを上下に180°反転させると、係合凸子1sとガイドピン挿通筒部3aのラチェット部3eとの係合が解除されるので、その状態で図11(b)に示すようにガイドピン挿通筒部3aを後方へスライドさせると、フレーム部1の後端の取り付け部1eからガイドピン挿通筒部3aを引き抜いて取り出すことができるようになっている。
【0038】
上記のようにガイドピン挿通筒部3aをフレーム部1の取り付け部1eの挿通孔1rに挿入すると、図1に示すように、ガイドピン挿通筒部3aは円弧状のフレーム部1の求心方向を向いてスライド可能に取り付けられ、ガイドピン挿通筒部3aの先端の開口3dが前方筒部2の先端の穿孔照準部2bの近くまで達して、ガイドピン挿通筒部3aの中心軸線CL3が前方筒部2の先端の穿孔照準部2bを通ることになる。従って、図2に示すように、ガイドピン挿通筒部3aの筒孔に中空ドリルのガイドピン6を挿入すると、ガイドピン6の先端が前方筒部2の穿孔照準部2bの開口に突入することになる。
【0039】
前方筒部2の中心軸線CL2とガイドピン挿通筒部3aの中心軸線CL3とが交差する角度θは、90°より大きく180°より小さい角度とする必要があり、この実施形態のように膝関節の大腿骨下部に腱移植用の骨孔をあけるための中空ドリルのガイドピン6を刺し通す場合には、145°〜175°の角度に設定することが望ましく、特に、150°〜160°の角度に設定するのが最良である。このような角度に設定すると、膝関節の大腿骨下部に刺し通すガイドピンの方向が適正な範囲になる。
【0040】
前方筒部2の中心軸線CL2とガイドピン挿通筒部3aの中心軸線CL3との交差する角度θの調節は、前述したように、ツマミ部1fを緩めた状態で湾曲板部1dを湾曲鞘部1c内で円弧方向にスライドさせ、フレーム部1の全体の円弧長を増減させて角度θを所望の角度とした後、ツマミ部1fを回転させて当片1iを湾曲板部1dの凹溝1jの底面に圧接させ、湾曲板部1dをスライド不能に固定することによって容易に行うことができる。
【0041】
次に、図12図21を参照して、上記のガイドピン刺し通し治具の使用方法と、膝関節のACL再建術における骨孔の穿孔方法について説明する。
尚、図12図20では、ガイドピン刺し通し治具の形状や、膝関節の大腿骨下部の形状及び脛骨上部の形状などについて、概略的に図示している。
【0042】
まず、図12に示すように、前方筒部2を膝関節の内部に前方から挿入し、先端の穿孔照準部2bを大腿骨下部20の骨孔を穿孔すべき箇所の凹んだ湾曲斜面20aに当てて強く押し、先端の位置決め突起2c(図12では表れていない)を大腿骨下部20の湾曲斜面20aに突き刺して穿孔照準部2bを位置決めすると同時に仮止めする。そして、前方筒部2の筒孔2eに仮固定ピン5を挿通してその先端を大腿骨下部20の湾曲斜面20aに15mmほど突き刺し、この仮固定ピン5で前方筒部2を仮固定する。
穿孔照準部2bの位置決め作業は、穿孔照準部2bが前述したように最終的に形成したい骨孔の開口端形状(長方形ないし長円形)とほぼ合致する長円形の開口を備えた環状体であるため、医師が最終的に形成される骨孔の形状をイメージしながら、大腿骨下部20の湾曲斜面20aの適正な位置に穿孔照準部2bを当てて、容易に行うことができる。
【0043】
前方筒部2の仮固定作業が終わると、図13に示すように、ガイドピン刺し通し治具10のフレーム部1の前端の取り付け部1bに前方筒部2の筒基部2dを脱着可能に取り付けると共に、フレーム部1の後端の取り付け部1eの挿通孔1r,1rに後方筒部3の2本のガイドピン挿通筒部3a,3aを挿通し、その先端の鋭い開口3c(図13では表れていない)を大腿骨下部20に斜め背後から突き刺して仮固定した状態でガイドピン挿通筒部3a,3aを取り付ける。
【0044】
尚、前方筒部2の筒基部2dをフレーム部1の取り付け部1bに取り付ける要領については既に述べているので、ここでは説明を省略する。
また、ガイドピン挿通筒部3a,3aは、既述したように、挿通孔1r,1rの内面上部に露出する係合凸子1s,1sがラチェット部3e,3eに係合するため、抜け出し不能に取り付けられる。
【0045】
上記のように、前方筒部2と後方筒部3の2本のガイドピン挿通筒部3a,3aをフレーム部1の前端と後端の取り付け部1b,1eに取り付けると、円弧状に湾曲したフレーム部1は膝関節の大腿骨下部20を跨いだ状態となり、図1に示すように、ガイドピン挿通筒部3aの中心軸線CL3が前方筒部2の先端の穿孔照準部2bを通ることになる。
【0046】
前方筒部2の中心軸線CL2とガイドピン挿通筒部3aの中心軸線CL3が交差する角度θは、ガイドピン挿通筒部3aが大腿骨下部20の斜め背後から適正な角度で前方筒部2の穿孔照準部2bの方を向くように、フレーム部1の円弧長を予め調節して角度θを150°〜160°の範囲内に設定しておくことが望ましい。フレーム部1の円弧長の調節の仕方については既に述べているので、説明を省略する。
尚、角度θの設定(フレーム部1の円弧長の調節)は、ガイドピン挿通筒部3aを取り付けた後に行ってもよい。
【0047】
次いで、図14に示すように、中空ドリルのガイドピン6,6をガイドピン挿通筒部3a,3aの筒孔3b,3bに挿通し、ガイドピン6,6の先端が前方筒部2の穿孔照準部2bの開口に突入するまで大腿骨下部20に刺し通す。これらのガイドピン6,6の先端は錐のように尖っており、ガイドピン6,6を回転させると比較的容易に刺し通すことができる。ガイドピン6,6が大腿骨下部20を貫通してその先端が前方筒部2の穿孔照準部2bの開口に突入したか否かは、膝関節の内部にファイバースコープを挿入して、穿孔照準部2bの細い支持片2fの相互の隙間から確認すればよい。図14においては、前方筒部2の右側からファイバースコープを差し入れて観察することができ、右側には支持片2fがなく、大きな隙間(開口部)が確保され、ファイバースコープの視野を妨げず、確認しやすくなっている。
なお、本手術によれば、生体への開口は、前方筒部、後方筒部、ファイバースコープ、生理食塩水を手術部位に満たすための管の4か所をいずれも略棒状体を差し込むための小さな開口を設けるだけで良く、開口部が小さいため生体への負荷が小さく優れた手術方法である。
【0048】
ガイドピン6,6の先端が穿孔照準部2bに突入したことを確認できたら、ガイドピン挿通筒部3a,3aをフレーム部1の後端の取り付け部1eの挿通孔1r,1rから抜き取り、更にガイドピン6,6から抜き取る。そして、フレーム部1と前方筒部2を分離して膝関節から取り除き、仮固定ピン5も抜き取って、図15に示すように2本のガイドピン6,6のみを残し、大腿骨下部20へのガイドピン6,6の刺し通し作業を完了する。
尚、挿通孔1r,1rからガイドピン挿通筒部3a,3aを抜き取る要領や、フレーム部1と前方筒部2を分離する要領については既に述べているので、説明を省略する。
【0049】
膝関節のACL再建術において、本発明のガイドピン刺し通し治具10を使用し、上記の要領で2本のガイドピン6,6の刺し通し作業を行うと、図15に示すように、2本のガイドピン6,6を大腿骨下部20の斜め背後から、骨孔を穿孔すべき大腿骨下部20の適正な箇所(図12に示す大腿骨下面の凹んだ湾曲斜面20aの箇所)まで適正な方向に刺し通すことができるため、これらのガイドピン6,6に沿って中空ドリル(不図示)で大腿骨下部20に斜め背後から穿孔すると、大腿骨下部20の適正な箇所まで貫通する図16に示すような2つの丸い骨孔7,7を、適正な方向で互いに平行に形成することができる。
【0050】
そこで、次のステップでは、図17に示すように、センタードリルガイド8を大腿骨下部20の斜め背後から2つの骨孔7,7(図17では表れていない)に挿着し、センタードリルガイド8のガイド孔8aにセンタードリル(不図示)を挿入して、図18に示すように、2つの丸い骨孔7と骨孔7の間に更に連結用の孔7aをあけ、双方の骨孔7,7を連結する。
【0051】
このセンタードリルガイド8は、図21(a)(b)(c)(d)に示すように、センタードリルが挿入されるガイド孔8aを有する大径の基筒部8bと、前記骨孔7,7に挿着するために基筒部8bの先端に互いに平行に突き出して形成された2本の小径の割り筒部8c,8cと、基筒部8bの後端に略T字状に設けられた握り部8dとを備えたものであって、割り筒部8c,8cの中心線上には前記ガイドピン6,6を挿通するピン挿通孔8e,8eが形成されており、このピン挿通孔8e,8eは基筒部8bのガイド孔8aの両側まで延長して形成されている。尚、割り筒部8c,8cは、ガイド孔8aに挿入されるセンタードリルが緩衝しないように、対向する筒壁部に割り溝を形成したものである。
【0052】
かかるセンタードリルガイド8は、以下のように使用される。即ち、前記骨孔7,7に挿通されたまま残っている2本の前記ガイドピン6,6をピン挿通孔8e,8eに通して、割り筒部8c,8cを前記骨孔7,7まで誘導し、握り部8dを手で握って割り筒部8c,8cを前記骨孔7,7に挿入、固定し、ガイド孔8aから挿入したセンタードリル(不図示)で双方の骨孔7,7の間に前記連結用の孔7aをあけて双方の骨孔7,7を連結した後、割り筒部8c,8cを引き抜いてセンタードリルガイド8を取り除く。
尚、前記ガイドピン6,6が骨孔7,7から取り除かれている場合は、握り部8dを握って先端の割り筒部8c,8cを骨孔7,7に挿入、固定すればよく、その場合はピン挿通孔8e,8eが不要となるので、このピン挿通孔8e,8eは必ずしも形成する必要がない。
【0053】
上記のように、双方の骨孔7,7が連結用の孔7aで連結されると、図19に示すように、連結された骨孔をノミ9で長方形ないし長円形に切削するか、または、ダイレーターで押し広げ、図20に示すような従来の円形の骨孔とは異なる腱移植に適した長方形ないし長円形の骨孔70を形成する。このような長方形ないし長円形の骨孔70を形成すると、次のステップで、他の部位から採取した移植用腱の端部の略直方体形状の骨片を骨孔70に安定良く挿入でき、骨片と骨孔70の内面との間に固定用ネジ(例えば生体内分解吸収性ポリマーからなるネジ頭部のない固定用ネジ)をねじこむことによって、移植用腱の端部の骨片を強固に固定できる利点がある。
尚、移植用腱の他端の骨片は、膝関節の脛骨上部に穿孔された骨孔に挿入され、骨片と骨孔の内面との間にねじ込まれる固定用ネジによって固定される。
【0054】
次に、図22図25を参照して、本発明の他の実施形態に係るガイドピン刺し通し治具について説明する。
【0055】
図22は本発明の他の実施形態に係るガイドピン刺し通し治具を示す側面図、図23は同ガイドピン刺し通し治具の背面図、図24(a)は後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部の他の例を示す平面図、図24(b)はその側面図、図25は後方筒部の複数のガイドピン挿通筒部をスライド可能に保持した同ガイドピン刺し通し治具のフレーム部の後端の断面図であって、(a)は複数のガイドピン挿通筒部が後方にスライド不能にロックされた状態を、(b)は複数のガイドピン挿通筒部が後方にスライド可能にロック解除された状態を示す。
【0056】
この実施形態に係るガイドピン刺し通し治具11は、後方筒部30の構成とフレーム部1の後端の取り付け部11eの構成が、前記実施形態のものと相違している。
【0057】
即ち、この実施形態における後方筒部30は、図24(a)(b)に示すように、ガイドピンを挿通するための真っ直ぐな筒孔30bを有する複数(2本)のガイドピン挿通筒部30a,30aを並列させて一体的に設けたものであって、ガイドピン挿通用の互いに平行な2本の筒孔30bを有する断面形状が長円形の偏平な筒部とされている。そして、この後方筒部30の先端には、仮固定手段として矢頭状に鋭く尖った尖端部30dが形成されており、また、後端には、一回り厚肉とされたストッパー部30fが形成されている。
【0058】
一方、図22図23図25に示すように、フレーム部1の後端の取り付け部11eにはボタン収容凹部11sが形成されており、この収容凹部11sに押ボタン11tが収容されている。この押ボタン11tは、後述する球体11xを押すための押片11zを下部に設けたもので、ネジ11uが押ボタン11tの中心孔から背後の圧縮コイルスプリング11vの内側を通ってネジ孔にねじ込まれており、圧縮コイルスプリング11vによって押ボタン11tが押し出される方向に付勢されている。そのため、押ボタン11tとボタン収容凹部11sの奥端面との間には一定の隙間が確保されており、圧縮コイルスプリング11vの弾発力に抗して押ボタン11tをボタン収容凹部11sの奥端面に当たるまで押し込むことができるようになっている。
【0059】
そして、取り付け部11eの下部には、後方筒部30を挿通するための長円形の断面形状を有する挿通孔11r(下側に割り溝が形成された挿通孔)がフレーム部1の求心方向に形成されており、この挿通孔11rに斜め上側から連通する連通孔11wには、球体11xと圧縮コイルスプリング11yが収容されている。この球体11xは、圧縮コイルスプリング11yの弾発力で前記押片11zの先端に当たって挿通孔11rの内側に僅かに突き出しており、押ボタン11tを指先で押し込むと、前記押片11zが押ボタン11tと共に移動して球体11xを連通孔11wの奥側に押し込むようになっている。
【0060】
従って、図25(a)に示すように、後方筒部30を取り付け部11eの挿通孔11rに背後から挿入すると、球体11xが後方筒部30によって連通孔11wの内部に押し上げられるので、後方筒部30のストッパー部30fが取り付け部11eの壁面に当たるまで後方筒部30を挿入することができるが、後方筒部30を引き抜こうとすると、球体11xが押片11zの先端と後方筒部30の上面との隙間に噛み込むため、後方筒部30を引き抜くことが不可能になる。
けれども、図25(b)に示すように、押ボタン11tを指先で押し込むと、押片11zが押ボタン11tと共に移動し、圧縮コイルスプリング11yの弾発力に抗して押ボタン11tの先端で球体11xを連通孔11wの奥側に押し込むため、後方筒部30を容易に抜き取ることができる。
【0061】
この実施形態に係るガイドピン刺し通し治具11のその他の構成は、前記実施形態に係るガイドピン刺し通し治具10の構成と同様であるので、図22図25において同一部材に同一符合を付し、重複する説明を省略する。
【0062】
この実施形態に係るガイドピン刺し通し治具11も、前記実施形態に係るガイドピン刺し通し治具10と同様に、ACL再建術において膝関節の内部に前方筒部2を前方から挿入し、前方筒部2の先端の穿孔照準部2bを大腿骨下部20の骨孔を穿孔すべき適正な箇所(大腿骨下面の湾曲斜面20aとなっている箇所)に当てて位置決めし、後方筒部30をフレーム1後端の取り付け部11eの挿通孔11rに挿通して、後方筒部30の尖端部30dを大腿骨下部20に斜め背後から突き刺すことにより仮固定し、後方筒部30の2つのガイドピン挿通孔30b,30bから2本のガイドピン6,6を前方筒部2の穿孔照準部2bに達するまで刺し通すことによって、骨孔を穿孔すべき大腿骨下部20の適正な箇所に中空ドリルの2本のガイドピン6,6を斜め背後から適正な方向で刺し通すことができる。従って、これらのガイドピン6,6に沿って中空ドリルで大腿骨下部20に斜め背後から2つの骨孔7,7を穿孔し、これらの骨孔7,7の間に孔7aをあけて双方の骨孔7,7を連結すると共に、更に長方形ないし長円形に切削することによって、腱移植に適した長方形ないし長円形の骨孔を形成することが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
1 フレーム部
1b フレーム部の前端の取り付け部
1e フレーム部の後端の取り付け部
2 前方筒部
2b 穿孔照準部
2c 位置決め突起
2e 筒孔
2g 穿孔照準部の先端面
3,30 後方筒部
3a,30a ガイドピン挿通筒部
3b,30b 筒孔
3d 仮固定手段(切込みのある鋭い開口)
30d 仮固定手段(矢頭状の尖端部)
6 中空ドリルのガイドピン
7 骨孔
10,11 ガイドピン刺し通し治具
11e フレーム部の後端の取り付け部
20 大腿骨下部
CL2 前方筒部の中心軸線
CL3 後方筒部(ガイドピン挿通筒部)の中心軸線
θ 前方筒部の中心軸線と後方筒部の中心軸線とが交差する角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25