【解決手段】本発明の自然平衡ろ過装置は、ろ材層40のろ材が流動化しない流速で、ろ過水をろ材層40内を逆流させる小水量逆流機構51と、ろ材層40に加圧水を噴射する表面洗浄ノズル70とを備える。逆流洗浄の前に、小水量逆流機構51を動作させて、ろ材層40のろ材が流動化しない流速で、ろ過水をろ材層40内を逆流させながら、表面洗浄ノズル70から加圧水をろ材層40に噴射する。
前記小水量排水サイフォン管が、前記排水サイフォン管をその長手方向に沿って分割することにより構成されていることを特徴とする請求項3に記載の自然平衡型ろ過装置。
前記小水量逆流機構は、前記ろ材層の上方に設けられた小水量排水トラフと、前記小水量排水トラフと前記排水流出部とを連通する小水量排水トラフ連通路と、前記小水量排水トラフ連通路に設けられる小排水量弁とを備えることを特徴とする請求項1に記載の自然平衡型ろ過装置。
前記表面洗浄工程の後に、前記ろ材を流動化させながら前記ろ過水を前記ろ材層内を逆流させる逆流洗浄工程をさらに含むことを特徴とする請求項7または8に記載のろ材層の洗浄方法。
【背景技術】
【0002】
飲料水などの上水処理を目的とした開放型急速ろ過装置には、一般的に、重力型ろ過装置と、自然平衡型ろ過装置と呼ばれる方式がある。自然平衡型ろ過装置は、水の流入、停止、および洗浄水の排出を、サイフォン管やバルブが設置された配管などを利用して行うものである。サイフォン管が用いられるタイプの装置では、各サイフォン管の上部には、真空源に接続された真空配管が取り付けられている。このような自然平衡型のろ過装置は、そのろ材層の洗浄時にろ過水を用いる方式であり、高架水槽や洗浄ポンプが不要であるため、省エネルギーであるという特徴を有する。
【0003】
ろ過池にはろ材層が配置されており、ろ過池に流入した水は、ろ材層を通過し、ろ過水渠に流れこむ。ろ過を継続するに従い、ろ過中に捕捉した濁質(堆積物)がろ材層に蓄積してろ過抵抗が徐々に増加する。このため、ろ材層を必要に応じて洗浄しなければならない。
【0004】
ろ材層の洗浄には、逆流洗浄と表面洗浄との2種類の方式がある。逆流洗浄とは、一旦ろ過した清浄なろ過水をろ材層の逆側から流し、当該逆流ろ過水でろ材層内部を洗浄する洗浄方式である。この逆流洗浄では、ろ材層内部を通過する逆流ろ過水により、ろ材層を構成するろ材(例えば、アンスラサイトや珪砂)を流動化させながら堆積した濁質を排水流出部に押し流す。表面洗浄とは、固定式または回転式の表面洗浄ノズルから、0.15〜0.4MPaの加圧水をろ材層に噴射し、ろ材層表面に蓄積した濁質(堆積物)を粉砕する方式である。この表面洗浄は、ろ材が流動化せずに固定された状態で行われ、ろ材層に固着した堆積物を粉砕するため、ろ材層の洗浄効果を高めることができる。特に、逆流洗浄の前に表面洗浄を行うと、固着した堆積物を粉砕した後で、ろ材層のろ材を流動化させながら洗浄を行うことになるため、粉砕された堆積物が撹拌されて排水側に押し流され、ろ材層の洗浄効果を高めることができる。
【0005】
しかしながら、これまでの自然平衡型ろ過装置では、表面洗浄を逆流洗浄に先行して単独で行うことができなかった。これは、自然平衡型ろ過装置では、ろ材層の洗浄時も、ろ過池とろ過水渠とが連通しており、濁質を含んだ水がろ過水渠に漏洩するリスクがあるためである。そのため、自然平衡型ろ過装置では、逆流洗浄と同時か、あるいは、逆流洗浄の開始から若干遅らせて表面洗浄を行っていた。この場合、逆流洗浄によって、ろ材層内のろ材が流動化するため、表面洗浄による堆積物の破壊が充分に行われない可能性があった。また、充分なろ材層の洗浄を行おうとすると、表面洗浄を先行して行う場合に比べ、多量の逆流洗浄水を必要とするという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたもので、表面洗浄を逆流洗浄に先行して行うことができ、ろ材層の洗浄に要するろ過水を低減することのできる自然平衡型ろ過装置を提供することを目的とする。また、本発明は、このろ材層の洗浄方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するための本発明の一態様は、ろ材層が配置されるろ過池と、前記ろ材層を通過したろ過水が流入するろ過水渠と、前記ろ過池と排水手段で繋がれる排水流出部と、を備え、前記ろ過池内の水を、前記排水手段を通過させて前記排水流出部に導くことにより、前記ろ過水渠内の前記ろ過水を前記ろ材層内を逆流させて前記ろ材層を逆流洗浄する自然平衡型ろ過装置であって、前記ろ材層を構成するろ材が流動化しない流速で、前記ろ過水を前記ろ材層内を逆流させる小水量逆流機構と、前記小水量逆流機構が動作しているときに、前記ろ材層の上面に加圧水を噴射する表面洗浄ノズルとを備えたことを特徴とする自然平衡型ろ過装置である。
【0009】
本発明の好ましい態様は、前記ろ材が流動化しない流速は、0.05〜0.3m/minであることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記排水手段は、排水サイフォン管であり、前記小水量逆流機構は、前記排水サイフォン管よりも小径の小水量排水サイフォン管から構成されることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記小水量排水サイフォン管が、前記排水サイフォン管をその長手方向に沿って分割することにより構成されていることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記小水量逆流機構は、前記ろ過池と前記ろ過水渠とを繋ぐろ過水連通路を絞る絞り機構により構成されていることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記小水量逆流機構は、前記ろ材層の上方に設けられた小水量排水トラフと、前記小水量排水トラフと前記排水流出部とを連通する小水量排水トラフ連通路と、前記小水量排水トラフ連通路に設けられる小排水量弁とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の他の態様は、ろ材層が配置されるろ過池と、前記ろ材層を通過したろ過水が流入するろ過水渠と、前記ろ過池と排水手段で繋がれる排水流出部と、を備え、前記ろ過池内の水を、前記排水手段を通過させて前記排水流出部に導くことにより、前記ろ過水渠内の前記ろ過水を前記ろ材層内を逆流させて前記ろ材層を逆流洗浄する自然平衡型ろ過装置における前記ろ材層の洗浄方法であって、前記ろ材層を構成するろ材が流動化しない流速で、前記ろ過水を前記ろ材層内を逆流させながら、前記ろ材層の上面に加圧水を噴射する表面洗浄工程を含むことを特徴とするろ材層の洗浄方法である。
【0011】
本発明の好ましい態様は、前記ろ材が流動化しない流速は、0.05〜0.3m/minであることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記表面洗浄工程の後に、前記ろ材を流動化させながら前記ろ過水を前記ろ材層内を逆流させる逆流洗浄工程をさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、小水量逆流機構を動作させながら、表面洗浄ノズルから加圧水をろ材層に噴射する。したがって、ろ過水がろ材層内をゆっくりと(すなわち、ろ材を流動化させない程度の速度で)逆流するので、濁質を含んだ加圧水流がろ過水渠に流入することがない。このように、ろ材層のろ材が流動化せずに固定された状態でろ材の洗浄を行う表面洗浄を自然平衡型ろ過装置で行うことが可能になる。また、ろ材層の洗浄効果を高める洗浄方式である表面洗浄を、逆流洗浄に先行して行うことができるので、表面洗浄後に行われる逆流洗浄などのろ材層洗浄工程に使用されるろ過水の使用量を低減することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
まず、
図1および
図2を用いて、一般的な自然平衡型ろ過装置と、当該自然平衡型ろ過装置における水の流れについて説明する。
図1は、一般的な自然平衡型ろ過装置で水がろ過されている状態を示した模式図である。
図2は、一般的な自然平衡型ろ過装置のろ材層が逆流洗浄されている状態を示した模式図である。
図1に示されるように、自然平衡型ろ過装置は、沈殿池(図示せず)から延びる流入渠1と、この流入渠1の下方に配置されて水をろ過処理するろ過池2と、ろ過池2を通過したろ過水が流れ込むろ過水渠3と、ろ過池2に隣接して設置された排水流出部4とを有している。
【0015】
流入渠1の内部には、垂直堰5と溢流堰6が設けられていると共に、この垂直堰5を跨いで逆U字状の流入サイフォン管7が配置される。この流入サイフォン管7の両端部は、水没させた状態におかれている。そして、この流入サイフォン管7の頂部には、流入サイフォン形成弁11と流入サイフォン破壊弁12とを有する流入サイフォン形成管10が連結される。流入サイフォン形成弁11は、図示しない真空ポンプなどの真空源に接続されている。
【0016】
流入サイフォン形成弁11を開き、流入サイフォン破壊弁12を閉じると、流入サイフォン管7内が真空状態となって、この内部を水が流れ、溢流堰6を溢流した水が流入管8を通じてろ過池2内に流れ込む。流入サイフォン形成弁11を閉じた状態で、流入サイフォン破壊弁12を開くと、流入サイフォン管7内が大気圧状態になって、この内部の水流が失われ、流入渠1内の水は、垂直堰5と溢流堰6に堰き止められるようになっている。
【0017】
ろ過池2は、仕切壁20によって排水室21とろ過室22とに仕切られる。ろ過室22の内部には、排水室21に連通する逆洗排水トラフ30と、ろ材(例えば、アンスラサイトや珪砂)からなるろ材層40が設けられ、このろ材層40の下部に集水装置41が配置される。集水装置41は、ろ材層40を通過したろ過水を通水するための装置であり、集水装置41として、有孔ブロック型、ストレーナ型、多孔管型、多孔板型などの各種集水装置を用いることができる。このろ過池2は、そのろ材層40の下方において、ろ過水連通路42を介して、ろ過水渠3に連通する。このろ過水渠3は、ろ過水溢流堰45を介してろ過水流出路46に連通する。
【0018】
上記したように流入サイフォン管7を動作させることにより、流入管8からろ過池2内に水が流れ込み、当該流入水でろ過池2内の水位は上昇していく。そして、ろ過池2内の水位がろ過水溢流堰45よりも高い位置に達した時にろ過が開始される。水はろ材層40および集水装置41を通過し、ろ過水連通路42を通ってろ過水渠3に流入する。ろ材層40でろ過されたろ過水は、ろ過水溢流堰45を溢流して、ろ過水流出路46から外部に排水される。
【0019】
次に、
図2を参照して、ろ材層40の逆流洗浄について説明する。ろ過池2の排水室21と排水流出部4は、排水手段である逆U字状の排水サイフォン管50で繋がれており、この排水サイフォン管50の両端部は水没するようになっている。そして、排水サイフォン管50の頂部に、排水サイフォン形成弁61と排水サイフォン破壊弁62とを有する排水サイフォン形成管60が連結される。排水サイフォン形成弁61は、図示しない真空ポンプなどの真空源に接続されている。なお、ここに図示した自然平衡型ろ過装置では、ろ過池2と排水流出部4を繋ぐ排水手段として排水サイフォン管50を用いた例を示したが、排水サイフォン管50に代えて、ろ過池2と排水流出部4を繋ぐ排水配管に設置されたバルブを排水手段として用いることもできる。すなわち、本発明におけるろ過池2と排水流出部4とを繋ぐ排水手段としては、排水サイフォンであってもよいし、排水バルブであってもよい。本明細書では、主に排水手段として排水サイフォンが採用された例を説明する。
【0020】
排水サイフォン形成弁61を開き、排水サイフォン破壊弁62を閉じると、排水サイフォン管50内が真空状態となって、この内部をろ過池2内の水が流れ、排水流出部4に導かれる。排水バルブの場合は、排水配管に設置されたバルブを開くことでろ過池2内の水が排水流出部4に導かれる。ろ過池2内の水を排水流出部4に導くことにより、一旦ろ過したろ過水渠3内のろ過水が逆流する。これにより、逆流するろ過水がろ材層40の内部を通過し、当該逆流水は、逆洗排水トラフ30、排水室21、および排水サイフォン管50を通って排水流出部4内に導入される。排水バルブの場合は、逆流水は、逆洗排水トラフ30、排水室21、および排水配管を通って排水流出部4内に導入される。このようにして、ろ材層40の逆流洗浄が行われる。排水サイフォン形成弁61を閉じた状態で、排水サイフォン破壊弁62を開くと、排水サイフォン管50内が大気圧状態になって、このろ過水の流れが失われる。排水バルブの場合は、排水配管に設置されたバルブが閉じられる。排水流出部4に導入された排水は、排水流出渠9から外部に排水される。
【0021】
従来の自然平衡型ろ過装置では、上記した逆流洗浄が行われると同時か、または、逆流洗浄の開始から若干遅らせて、ろ材層40の表面洗浄を行っている。この表面洗浄は、固定式または回転式の表面洗浄ノズル70から、0.15〜0.4MPaの加圧水をろ材層40の上面に噴射し、ろ材層40の上面に蓄積した濁質(堆積物)を粉砕する洗浄方法である。加圧水に代えて、あるいはこれと併用して圧縮空気を噴射してもよい。以下の説明では、表面洗浄時に表面洗浄ノズル70から加圧水が噴射される例を説明するが、全ての実施形態において、加圧水に代えて、あるいはこれと併用して圧縮空気を噴射することができる。この加圧水には、ポンプなどで昇圧されたろ過水などが用いられる。従来の自然平衡型ろ過装置では、
図2に示すように、ろ材層の洗浄時も、ろ過池2とろ過水渠3とが連通しているので、濁質を含んだ水がろ過水渠3に漏洩するリスクがあるため、表面洗浄を単独で行うことができない。
【0022】
そこで、本発明では、ろ材層40のろ材が流動化しない流速で、ろ過水渠3内のろ過水を当該ろ材層40の逆側から通過させるための小水量逆流機構が設けられる。この小水量逆流機構を動作させると、ろ材層40の内部には当該ろ材層40を逆流する水流が存在しているので、表面洗浄ノズル70から加圧水をろ材層40の上面に噴射する表面洗浄を実施できる。以下、本発明の実施形態の構成を
図3乃至
図5を用いて説明する。
【0023】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る自然平衡型ろ過装置のろ材層が表面洗浄されている状態を示した模式図である。
図1および
図2に示した同一の構成要素には、同一の符号を付すことで、重複する説明を省略する。
【0024】
図3に示される自然平衡型ろ過装置の小水量逆流機構は、排水サイフォン管50内部に設けられた、当該排水サイフォン管50よりも小径の小水量排水サイフォン管51を備えている。小水量排水サイフォン管51も、排水サイフォン管50と同様に、その両端部が水没するように構成される。小水量排水サイフォン管51の頂部には、小水量排水サイフォン形成弁64と、小水量排水サイフォン破壊弁65とを有する小水量排水サイフォン形成管63が連結される。小水量排水サイフォン形成弁64は、図示しない真空ポンプなどの真空源に接続されている。
【0025】
小水量排水サイフォン管51を動作させる際には、小水量排水サイフォン形成弁64を開き、小水量排水サイフォン破壊弁65を閉じる。これにより、小水量排水サイフォン管51内が真空状態となって、この内部をろ過池2内の水が流れて、排水流出部4に導かれる。ろ過池2内の水を排水流出部4に導くことにより、一旦ろ過したろ過水渠3内のろ過水が逆流する。これにより、逆流するろ過水がろ材層40の内部を通過し、当該逆流水は、逆洗排水トラフ30、排水室21、および小水量排水サイフォン管51を通って排水流出部4内に導入される。小水量排水サイフォン形成弁64を閉じた状態で、小水量排水サイフォン破壊弁65を開くと、小水量排水サイフォン管51内が大気圧状態になって、このろ過水の流れが失われる。小水量排水サイフォン管51を介して排水流出部4に導入された排水は、排水流出渠9から外部に排水される。
【0026】
小水量排水サイフォン管51の口径は、逆流するろ過水によりろ材層40のろ材が流動化しない流速となるように設計される。より具体的には、ろ材層40内を逆流するときのろ過水の流速は、ろ材の重量や直径にもよるが、一般的なろ材である直径0.6mmの珪砂の場合、0.05〜0.3m/min、好ましくは、0.1〜0.2m/minである。流速が0.05m/minより小さいと、表面洗浄による加圧水流がろ過水渠3に漏洩する可能性がある。流速が0.3m/minより大きいと、ろ材が流動化してしまう。
【0027】
図示した例では、小水量排水サイフォン管51を、排水サイフォン管50の内部に配置する例を示したが、小水量排水サイフォン管51を、排水サイフォン管50の外部に設けてもよい。また、排水サイフォン管50をその長手方向に沿って仕切板などで分割することにより、小水量排水サイフォン管51を構成してもよい。
【0028】
このような構成によれば、小水量排水サイフォン管51を動作させることで、ろ材が流動化しない状態を維持しつつ、ろ材層40内に逆水流が存在することとなる。したがって、小水量排水サイフォン管51(すなわち、小水量逆流機構)を動作させている間は、表面洗浄ノズル70から加圧水をろ材層40に噴射する表面洗浄を行っても、濁質を含んだ水がろ過水渠3に流れていくことがない。このように、ろ材が流動化せずに固定された状態で行われることでろ材層の洗浄効果を高めることのできる表面洗浄を、自然平衡型ろ過装置で実施することができる。
【0029】
流入サイフォン管7、排水サイフォン管50、および小水量排水サイフォン管51の動作の制御は、制御部15によって行われる。具体的には、本発明の自然平衡型ろ過装置でろ過水処理を行う際には、制御部15が流入サイフォン管7の流入サイフォン形成弁11を開き、流入サイフォン破壊弁12を閉じるようにこれらに指令を発する。すると、上記したように、流入サイフォン管7内が真空状態となって、この内部を水が流れるので、流入管8からろ過池2内に水が流れ込む。ろ過処理を継続することで、ろ材層40のろ過抵抗、すなわち損失水頭が徐々に増加する。この損失水頭またはろ過継続時間が設定値に達したとき、制御部15は、流入サイフォン破壊弁12を開いて、ろ過池2内への水の流入を停止させる。
【0030】
ろ過池2への水の流入が停止すると、ろ過池2の水位は、徐々に低下する。ろ過池2の水位がろ過水溢流堰45の高さに達した時に、逆流洗浄に先立って本発明の表面洗浄を実施するために、制御部15は、小水量排水サイフォン管51の小水量排水サイフォン形成弁64を開き、小水量排水サイフォン破壊弁65を閉じるようにこれらに指令を発する。これにより、小水量排水サイフォン管51内が真空状態となって、この内部をろ過池2内の水が流れて、排水流出部4に導かれる。同時に、ろ過水はろ材層40のろ材を流動化させることなく、ろ材層40内を逆流する。さらに、制御部15は、表面洗浄ノズル70から加圧水をろ材層40に噴射するように、表面洗浄ノズル70を動作させる。加圧水に代えて、あるいはこれと併用して圧縮空気を用いることもできる。
【0031】
表面洗浄が所定の設定時間行われると、制御部15は、小水量排水サイフォン管51の小水量排水サイフォン破壊弁65を開くように指令を発する。これにより、排水流出部4への水の排出を停止させる。その後、制御部15は、排水サイフォン管50の排水サイフォン形成弁61を開き、排水サイフォン破壊弁62を閉じるように指令を発する。すると、排水サイフォン管50内が真空状態となって、この内部をろ過池2内の水が流れ、排水流出部4に導かれるようになり、逆流洗浄が開始される。この逆流洗浄では、ろ材層40のろ材が流動化する流速でろ過水がろ材層40内を逆流する。逆流洗浄が所定の設定時間行われると、制御部15は、排水サイフォン破壊弁62を開くように指令を発する。これにより、排水サイフォン管50から排水流出部4への水の排出が停止される。
【0032】
なお、この逆流洗浄の際に、表面洗浄ノズル70から加圧水をろ材層40に噴射してもよい。この逆流洗浄の際の表面洗浄ノズル70の動作は、逆流洗浄の実施時間の全部において実施されてもよいし、一部のみで実施されてもよい。
【0033】
その後、流入サイフォン管7の流入サイフォン形成弁11を開き、流入サイフォン破壊弁12を閉じて、ろ過を開始してもよいが、逆流洗浄の後に、スローダウン洗浄を実施してもよい。スローダウン洗浄とは、クリプトスポリジウム(耐塩素性原虫)対策として、逆流洗浄の後に、ろ材が流動化しない速度でろ過水をろ材層40内で逆流させてろ材層40を洗浄(すすぎ洗い)する洗浄方式である。なお、スローダウン洗浄時には、表面洗浄ノズル70からの加圧水の噴射は停止している。本実施形態によれば、小水量逆流機構である小水量排水サイフォン管51によるろ材が流動化しない流速でのろ材層40の洗浄が可能である。したがって、逆流洗浄後に、小水量排水サイフォン管51の小水量排水サイフォン形成弁64を開き、小水量排水サイフォン破壊弁65を閉じることにより、スローダウン洗浄を実施することができる。
【0034】
次に、本発明の第2の実施形態について、
図4を用いて説明する。
図4は、本発明の第2の実施形態に係る自然平衡型ろ過装置のろ材層が表面洗浄されている状態を示した模式図である。第1の実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付すことで、重複する説明を省略する。
【0035】
図4に示されるように、第2の実施形態における小水量逆流機構は、ろ過水連通路42を絞る絞り機構により構成されていることが第1の実施形態と異なる。この絞り機構は、ろ過水連通路42を絞ることが可能なゲート弁80と、当該ゲート弁80を動作させるためのモータ81とを備えている。ゲート弁80の開度は、逆流するろ過水により、ろ材層40のろ材が流動化しない流速(0.05〜0.3m/min、好ましくは、0.1〜0.2m/min)となるように調整されている。このようなゲート弁80による絞り機構によっても、小水量逆流機構を構成することができる。
【0036】
このゲート弁80の動作も制御部15によって制御されている。具体的には、ろ過処理を行っている時は、ゲート弁80は全開とされていて、ろ過水連通路42は閉塞されていない。逆流洗浄の前の表面洗浄を行う際には、制御部15は、予め設定された開度までゲート弁80を閉じるようにモータ81に指令を発して、ろ過水連通路42を狭くする。この状態で、制御部15は、排水サイフォン管50の排水サイフォン形成弁61を開き、排水サイフォン破壊弁62を閉じるようにこれらに指令を発して、排水サイフォン管50内に水が流れるようにする。これにより、ろ過水はろ材層40のろ材を流動化させることなく、ろ材層40内を逆流する。さらに、制御部15は、表面洗浄ノズル70から加圧水をろ材層40の上面に噴射するように、表面洗浄ノズル70を動作させる。加圧水に代えて、あるいはこれと併用して圧縮空気を用いることもできる。このようにして、本発明の表面洗浄が行われる。
【0037】
その後、逆流洗浄を行う際には、制御部15は、ゲート弁80の開度を全開にするようにモータ81に指令を発するだけでよい。この逆流洗浄は、ろ材層40のろ材を流動化させながら行われる。なお、この逆流洗浄の際に、表面洗浄ノズル70から加圧水をろ材層40に噴射してもよい。この逆流洗浄の際の表面洗浄ノズル70の動作は、逆流洗浄の実施時間の全部において実施されてもよいし、一部のみで実施されてもよい。逆流洗浄の後に、表面洗浄ノズル70の動作を停止させると共に、ゲート弁80を予め設定された開度まで再度閉じさせて、スローダウン洗浄を実施してもよい。
【0038】
次に、本発明の第3の実施形態について、
図5を用いて説明する。
図5は、本発明の第3の実施形態に係る自然平衡型ろ過装置のろ材層が表面洗浄されている状態を示した模式図である。第1の実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付すことで、重複する説明を省略する。
【0039】
図5に示されるように、第3の実施形態における小水量逆流機構は、ろ材層40の上方に設けられた小水量排水トラフ90と、この小水量排水トラフ90と排水流出部4とを連通する小水量排水トラフ連通路91と、小水量排水トラフ連通路91に設けられる小排水量弁92とを備えている。小水量排水トラフ90は、ろ過水溢流堰45の上端よりも下方に配置される。この小水量逆流洗浄機構で表面洗浄を行う際には、制御部15は、小排水量弁92に開指令を発する。すると、ろ過池2内の水は、小水量排水トラフ90および小水量排水トラフ連通路91を介して、排水流出部4に導かれる。この際、小排水量弁92の開度は、逆流するろ過水により、ろ材層40のろ材が流動化しない流速(0.05〜0.3m/min、好ましくは、0.1〜0.2m/min)となるように調整されている。このように、小水量排水トラフ90と、小水量排水トラフ連通路91と、小排水量弁92によっても、小水量逆流機構を構成することができる。
【0040】
上記したように、小排水量弁92の動作は、制御部15によって制御されている。具体的には、ろ過処理を行っている時は、小排水量弁92は全閉とされ、小水量排水トラフ連通路91から排水流出部4に水は流れない。逆流洗浄の前の表面洗浄を行う際には、制御部15は、予め設定された開度まで小排水量弁92を開けて、小水量排水トラフ90と排水流出部4とを小水量排水トラフ連通路91を介して連通させる。この状態で、制御部15は、表面洗浄ノズル70から加圧水をろ材層40に噴射するように、表面洗浄ノズル70を動作させる。加圧水に代えて、あるいはこれと併用して圧縮空気を用いることもできる。その後、逆流洗浄を行う際には、制御部15は、小排水量弁92の開度を全閉にするように指令を発する。さらに、制御部15は、排水サイフォン管50の排水サイフォン形成弁61を開き、排水サイフォン破壊弁62を閉じるようにこれらに指令を発して、排水サイフォン管50を介してろ過池2内の水を排水流出部4に導く。この逆流洗浄は、ろ材層40のろ材を流動化させながら行われる。
【0041】
なお、この逆流洗浄の際に、表面洗浄ノズル70から加圧水をろ材層40に噴射してもよい。この逆流洗浄の際の表面洗浄ノズル70の動作は、逆流洗浄の実施時間の全部において実施されてもよいし、一部のみで実施されてもよい。第3の実施形態においても、逆流洗浄の後に、排水サイフォン管50の水流を停止させるとともに、小排水量弁92を予め設定された開度まで開けて、スローダウン洗浄を実施してもよい。
【0042】
このような表面洗浄を実施するための小水量逆流機構を有する自然平衡型ろ過装置と、従来の自然平衡型ろ過装置の検証実験を行った。その実験結果について、以下に説明する。
【0043】
まず、浄水場の凝集沈殿水(平均濁度0.2度)を原水として、同一条件で一定時間ろ過を行い、ほぼ同量の濁質を捕捉させた2つのろ材を用意した。この2つのろ材の一方には、従来の逆流洗浄を行う条件でろ材の洗浄を行い、他方のろ材には、本発明の表面洗浄を行う条件でろ材の洗浄を行った。洗浄効果の判定には、洗浄排水中の濁質量を測定することにより実施した。
【0044】
(検証実験1)
図6に示す洗浄条件で、検証実験1を行った。実験例1は、本発明の表面洗浄を行う条件で実施した。具体的には、ろ材層内を0.2m/minの流速で逆流水を通水させながら、加圧された表面洗浄水をろ材層の上面に噴射する表面洗浄(
図6では、表面小逆洗と表す)を30秒間行い、その後、加圧された表面洗浄水をろ材層の上面に噴射する表面洗浄を行いながら、0.6m/minの流速での逆流洗浄を行う表面および逆流洗浄工程(
図6では、表面逆洗と表す)を1分間行い、最後に逆流水を0.6m/minの流速でろ材層内を通水させる逆流洗浄工程(
図6では、逆洗2と表す)を10分20秒間行った。洗浄に使用された総水量は、360Lであった。
【0045】
実験例2は、従来の逆流洗浄を行う条件で実施した。具体的には、0.6m/minの流速での逆流洗浄工程(
図6では、逆洗1と表す)を20秒間行った後、加圧された表面洗浄水をろ材層の上面に噴射する表面洗浄を行いながら、0.6m/minの流速での逆流洗浄を行う表面洗浄および逆流洗浄工程(
図6では、表面逆洗と表す)を6分間行い、最後に0.6m/minの流速で逆流洗浄工程(
図6では、逆洗2と表す)を13分20秒間行った。洗浄に使用された総水量は、650Lであった。
【0046】
上記条件で洗浄されたろ材の洗浄排水中の濁質量を測定すると、
図7に示されるように、従来の洗浄条件では、15.2であり、本発明の洗浄条件では、14.2であり、ほぼ同等の洗浄効果が得られた。この結果から、従来と同等の洗浄結果を得るために、本発明の洗浄方法で必要とされる水量は、従来と比較して約55%であり、大幅に水量を削減することができることが分かる。
【0047】
(検証実験2)
検証実験1と同様に、浄水場の凝集沈殿水(平均濁度0.2度)を原水とした、ほぼ同量の濁質を捕捉させた2つのろ材を再度用意した。この2つのろ材に対して、
図8に示す洗浄工程条件で検証実験2を行った。
【0048】
実験例3は、本発明の表面洗浄を行う条件で実施した。具体的には、ろ材層内を0.2m/minの流速で逆流水を通水させながら、加圧された表面洗浄水をろ材層の上面に噴射する表面洗浄(
図8では、表面小逆洗と表す)を30秒間行った後、逆流水を0.6m/minの流速でろ材層内を通水させる逆流洗浄工程(
図8では、逆洗2と表す)を9分間行った。洗浄に使用された総水量は、280Lであった。この実験例3は、本発明の洗浄条件において、表面逆洗工程が省略されている点で検証実験1とは異なっている。
【0049】
実験例4は、従来の逆流洗浄を行う条件で実施した。具体的には、0.6m/minの流速での逆流洗浄工程(
図8では、逆洗1と表す)を30秒間行った後、加圧された表面洗浄水をろ材層の上面に噴射する表面洗浄を行いながら、0.6m/minの流速での逆流洗浄を行う表面洗浄および逆流洗浄工程(
図8では、表面逆洗と表す)を5分15秒間行い、最後に0.6m/minの流速で逆流洗浄工程(
図8では、逆洗2と表す)を12分間行った。洗浄に使用された総水量は、585Lであった。
【0050】
上記条件で洗浄されたろ材の洗浄排水中の濁質量を測定すると、
図9に示されるように、従来の洗浄条件では、22.2であり、本発明の洗浄条件では、22.0であり、ほぼ同等の洗浄効果が得られた。この結果から、本発明の表面洗浄工程(
図6,8では、表面小逆洗工程)を行うと、表面逆洗工程が省略されていても、従来と同等の洗浄結果を得ることができることが分かる。また、従来と同等の洗浄結果を得るために、本発明の洗浄方法で必要とされる水量は、従来と比較して約48%であり、大幅に水量を削減することができることが分かる。
【0051】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。特に、これまでろ過したろ過水をろ材の洗浄に用いる自己水洗浄自然平衡型ろ過装置について説明してきたが、本発明の自然平衡型ろ過装置は、このような自己水洗浄自然平衡型ろ過装置が好ましいものの、本発明はこれに限られず、補給水ポンプあるいは高架水槽によりろ材層を洗浄する洗浄水を補給するろ過装置であっても適用が可能なものである。