(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-10088(P2015-10088A)
(43)【公開日】2015年1月19日
(54)【発明の名称】多成分配合点眼剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4166 20060101AFI20141216BHJP
A61K 31/714 20060101ALI20141216BHJP
A61K 31/737 20060101ALI20141216BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20141216BHJP
A61K 47/34 20060101ALI20141216BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20141216BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20141216BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20141216BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20141216BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20141216BHJP
【FI】
A61K31/4166
A61K31/714
A61K31/737
A61K31/704
A61K47/34
A61K47/10
A61K47/18
A61K9/08
A61P27/02
A61K47/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-147985(P2013-147985)
(22)【出願日】2013年6月27日
(71)【出願人】
【識別番号】307020615
【氏名又は名称】キョーリンリメディオ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三上 好美
(72)【発明者】
【氏名】宮本 崇史
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC04
4C076CC10
4C076DD08E
4C076DD09E
4C076DD37R
4C076DD49R
4C076DD59Q
4C076FF36
4C076FF61
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086DA39
4C086EA10
4C086EA19
4C086EA26
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA58
4C086NA03
4C086ZA33
4C086ZB11
(57)【要約】
【課題】 本発明は、アラントイン、シアノコバラミン及び任意にその他の有効成分を配合した点眼剤の安定化方法、並びにアラントイン、シアノコバラミン及び任意にその他の有効成分を配合した安定化点眼剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 点眼剤のpHを特定の範囲に調整すること、点眼剤中のアラントインの含有量を特定の範囲に調整すること、コンドロイチン硫酸ナトリウムとグリチルリチン酸二カリウムの含有量を特定の範囲に調整すること、非イオン性界面活性剤の含有量を調整しつつ防腐剤として塩化ベンザルコニウムと特定量のクロロブタノールを添加することにより、不安定な有効成分であるアラントイン、シアノコバラミン及び任意にその他の有効成分を含有する安定な点眼剤を提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラントイン及びシアノコバラミンを含有する点眼剤のpHを4.7〜5.9に調整することにより、該点眼剤中のアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されることを特徴とする、アラントイン及びシアノコバラミンを含有する点眼剤の安定化方法。
【請求項2】
アラントイン及びシアノコバラミンを含有する点眼剤のpHを4.7〜5.9に調整すること、並びにアラントインの含有量を0.02〜0.1w/v%に調整することにより、該点眼剤中のアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されることを特徴とする、請求項1に記載の安定化方法。
【請求項3】
アラントイン、シアノコバラミン、コンドロイチン硫酸ナトリウム及びグリチルリチン酸二カリウムを含有する点眼剤のpHを4.7〜5.9に調整すること、並びにアラントインの含有量を0.02〜0.1w/v%、コンドロイチン硫酸ナトリウムの含有量を0.05〜0.2w/v%及びグリチルリチン酸二カリウムの含有量を0.05〜0.15w/v%に調整することにより、該点眼剤中の析出物の発生が防止されるとともにアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されることを特徴とする、請求項1に記載の安定化方法。
【請求項4】
アラントイン、シアノコバラミン、トコフェロール類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類、ポリソルベート類、塩化ベンザルコニウム及びクロロブタノールを含有する点眼剤のpHを4.7〜5.9に調整すること、並びにアラントインの含有量を0.02〜0.1w/v%、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類の含有量を0.1〜0.3w/v%、ポリソルベート類の含有量を0.02〜0.15w/v%及びクロロブタノールの含有量を0.2〜0.4w/v%に調整することにより、該点眼剤が保存効力試験に適合し、かつ該点眼剤中の析出物の発生が防止されるとともにアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されることを特徴とする、請求項1に記載の安定化方法。
【請求項5】
アラントイン、シアノコバラミン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、トコフェロール類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類、ポリソルベート類、塩化ベンザルコニウム及びクロロブタノールを含有する点眼剤のpHを4.7〜5.9に調整すること、並びにアラントインの含有量を0.02〜0.1w/v%、コンドロイチン硫酸ナトリウムの含有量を0.05〜0.2w/v%、グリチルリチン酸二カリウムの含有量を0.05〜0.15w/v%、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類の含有量を0.1〜0.3w/v%、ポリソルベート類の含有量を0.02〜0.15w/v%及びクロロブタノールの含有量を0.2〜0.4w/v%に調整することにより、該点眼剤が保存効力試験に適合し、かつ該点眼剤中の析出物の発生が防止されるとともにアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されることを特徴とする、請求項1に記載の安定化方法。
【請求項6】
アラントイン及びシアノコバラミンを含有するpH4.7〜5.9の点眼剤であって、該点眼剤中のアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されていることを特徴とする、アラントイン及びシアノコバラミンを含有する点眼剤。
【請求項7】
アラントイン0.02〜0.1w/v%及びシアノコバラミンを含有するpH4.7〜5.9の点眼剤であって、該点眼剤中のアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されていることを特徴とする、請求項6に記載の点眼剤。
【請求項8】
アラントイン0.02〜0.1w/v%、シアノコバラミン、コンドロイチン硫酸ナトリウム0.05〜0.2w/v%及びグリチルリチン酸二カリウム0.05〜0.15w/v%を含有するpH4.7〜5.9の点眼剤であって、該点眼剤中の析出物の発生が防止されているとともにアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されていることを特徴とする、請求項6に記載の点眼剤。
【請求項9】
アラントイン0.02〜0.1w/v%、シアノコバラミン、トコフェロール類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類0.1〜0.3w/v%、ポリソルベート類0.02〜0.15w/v%、塩化ベンザルコニウム及びクロロブタノール0.2〜0.4w/v%を含有するpH4.7〜5.9の点眼剤であって、保存効力試験に適合し、かつ析出物の発生が防止されているとともにアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されていることを特徴とする、請求項6に記載の点眼剤。
【請求項10】
アラントイン0.02〜0.1w/v%、シアノコバラミン、コンドロイチン硫酸ナトリウム0.05〜0.2w/v%、グリチルリチン酸二カリウム0.05〜0.15w/v%、トコフェロール類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類0.1〜0.3w/v%、ポリソルベート類0.02〜0.15w/v%、塩化ベンザルコニウム及びクロロブタノール0.2〜0.4w/v%を含有するpH4.7〜5.9の点眼剤であって、保存効力試験に適合し、かつ析出物の発生が防止されているとともにアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されていることを特徴とする、請求項6に記載の点眼剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラントイン及びシアノコバラミンを配合した点眼剤の安定化方法、並びにアラントイン及びシアノコバラミンを配合した安定化点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有効成分を10種類以上配合する一般点眼薬がいくつか販売されている(特許文献1)。これらの点眼薬は多種類の有効成分を配合するため、多様な効果を発揮し、使用者の利便に資すると考えられる。
【0003】
一般点眼薬の製造承認は、「眼科用薬製造(輸入)承認基準」に基づいて行われており、配合可能な有効成分として種々のものが当該基準に記載されている。当該基準に適合する限り、多成分を配合することは可能であるが、有効成分を10種類以上配合する市販の点眼剤は数点にすぎない。
【0004】
その理由として、多種類の有効成分を配合すると、有効成分同士あるいは有効成分と添加物の相互作用により有効成分が分解するおそれのあることや、それぞれの有効成分の安定な条件が異なるため、全ての有効成分を同時に安定化することが困難であること等が挙げられる。そして、これまでに知られている多成分点眼薬は配合する有効成分の組合せがそれぞれ異なるため、生じる課題について確立された解決手段は存在しない。
【0005】
例えば、アラントインは、抗炎症作用や細胞賦活作用を有するために点眼剤等の処方に用いられるものであるが、一般に、アラントインはpH6以上では加水分解が起こることが報告されている(非特許文献1、2)。したがって、アラントインを配合する点眼剤はなるべく酸性であることが望ましいが、アラントイン以外の有効成分の中には、逆に酸性で不安定なものもあるため、これらの有効成分の両方を配合する点眼剤では各有効成分の安定性の確保が課題となる。また、アラントインの安定性についてpH以外の要因、例えば他の有効成分や添加物との相互作用、点眼剤中のアラントインの含有量の影響等についての報告はないため、アラントインと他の有効成分を配合する点眼剤の開発には課題が多い。
【0006】
また、コンドロイチン硫酸塩類とグリチルリチン酸塩類の両方を配合した点眼剤では、液性を酸性領域にすると、コンドロイチン硫酸塩類及びグリチルリチン酸塩類由来の沈殿が生ずることが報告されている(特許文献2)。したがって、有効成分としてアラントインに加えて、さらにコンドロイチン硫酸塩類及びグリチルリチン酸塩類を配合した点眼剤では、アラントインの安定化のために液性を酸性にすると、析出物が生じるおそれがある。
【0007】
また、点眼剤には保存剤(防腐剤)や界面活性剤(可溶化剤)を添加することが多いが、塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム、ビタミンE類などの脂溶性の有効成分及び非イオン性界面活性剤を配合する場合、非イオン性界面活性剤の量やアスパラギン酸マグネシウム・カリウムの量が多いと、防腐剤の防腐効果が損なわれるとの報告がある(特許文献3)。したがって、有効成分としてアスパラギン酸マグネシウム・カリウム及びビタミンE類などを含有する点眼剤では、保存効力の発現が課題となる。
【0008】
さらに、防腐剤としてクロロブタノールを配合した眼科用剤は、熱や光によりクロロブタノールが経時的に分解することでpHが低下することが知られており、これにより配合成分の不安定化や析出等の問題が生じるという課題が報告されている(特許文献4)。したがって、不安定なアラントイン及びシアノコバラミンと、析出物が生じやすいコンドロイチン硫酸塩類及びグリチルリチン酸塩類を配合する点眼剤であって、防腐剤としてクロロブタノールを含有する点眼剤では、保存時におけるクロロブタノールの分解を抑制し、pHを一定範囲に留めることが課題となる。
【0009】
このように、アラントインと他の有効成分を配合する点眼剤においては、不安定なアラントインの安定性を確保しつつ、その他の有効成分の安定性も確保する必要があり、さらに多種類の有効成分や添加物を含有する場合には、これらの化合物の析出を防止したり、保存効力を発現するための種々の課題が存在する。これらの課題は、配合する有効成分の種類が増えるにつれて、さらに複雑になることが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−144509
【特許文献2】特開2005−330271
【特許文献3】特開平10−109930
【特許文献4】特開2011−105706
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】薬学雑誌、113巻7号、515−524頁、1993年
【非特許文献2】平成16年度愛媛衛環研年報7、2004年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、アラントイン、シアノコバラミン及び任意にその他の有効成分を配合した点眼剤の安定化方法、並びにアラントイン、シアノコバラミン及び任意にその他の有効成分を配合した安定化点眼剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、点眼剤のpHを特定の範囲に調整することで、点眼剤中のアラントイン及びシアノコバラミンの分解を抑制することができることを見出した。また、点眼剤中のアラントインの含有量を特定の範囲に調整することで、アラントインの分解を抑制できることを見出した。また、コンドロイチン硫酸ナトリウムとグリチルリチン酸二カリウムの含有量を特定の範囲に調整することで、析出物の発生を防止できることを見出した。また、トコフェロール類及び任意にアスパラギン酸マグネシウム・カリウム並びに非イオン性界面活性剤を配合する点眼剤であっても、非イオン性界面活性剤の含有量を調整し、防腐剤として塩化ベンザルコニウムと特定量のクロロブタノールを添加することで有効な保存効力が発揮されることを見出し、さらに、これらの含有量を特定の範囲に調整することで点眼剤のpHの変動が抑えられることを見出した。これらの結果、不安定な有効成分であるアラントイン、シアノコバラミン及び任意にその他の有効成分を含有する安定な点眼剤を提供することができる。
【0014】
すなわち本発明は、
(1)アラントイン及びシアノコバラミンを含有する点眼剤のpHを4.7〜5.9に調整することにより、該点眼剤中のアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されることを特徴とする、アラントイン及びシアノコバラミンを含有する点眼剤の安定化方法、
(2)アラントイン及びシアノコバラミンを含有する点眼剤のpHを4.7〜5.9に調整すること、並びにアラントインの含有量を0.02〜0.1w/v%に調整することにより、該点眼剤中のアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されることを特徴とする、上記(1)に記載の安定化方法、
(3)アラントイン、シアノコバラミン、コンドロイチン硫酸ナトリウム及びグリチルリチン酸二カリウムを含有する点眼剤のpHを4.7〜5.9に調整すること、並びにアラントインの含有量を0.02〜0.1w/v%、コンドロイチン硫酸ナトリウムの含有量を0.05〜0.2w/v%及びグリチルリチン酸二カリウムの含有量を0.05〜0.15w/v%に調整することにより、該点眼剤中の析出物の発生が防止されるとともにアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されることを特徴とする、上記(1)に記載の安定化方法、
(4)アラントイン、シアノコバラミン、トコフェロール類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類、ポリソルベート類、塩化ベンザルコニウム及びクロロブタノールを含有する点眼剤のpHを4.7〜5.9に調整すること、並びにアラントインの含有量を0.02〜0.1w/v%、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類の含有量を0.1〜0.3w/v%、ポリソルベート類の含有量を0.02〜0.15w/v%及びクロロブタノールの含有量を0.2〜0.4w/v%に調整することにより、該点眼剤が保存効力試験に適合し、かつ該点眼剤中の析出物の発生が防止されるとともにアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されることを特徴とする、上記(1)に記載の安定化方法、
(5)アラントイン、シアノコバラミン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、トコフェロール類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類、ポリソルベート類、塩化ベンザルコニウム及びクロロブタノールを含有する点眼剤のpHを4.7〜5.9に調整すること、並びにアラントインの含有量を0.02〜0.1w/v%、コンドロイチン硫酸ナトリウムの含有量を0.05〜0.2w/v%、グリチルリチン酸二カリウムの含有量を0.05〜0.15w/v%、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類の含有量を0.1〜0.3w/v%、ポリソルベート類の含有量を0.02〜0.15w/v%及びクロロブタノールの含有量を0.2〜0.4w/v%に調整することにより、該点眼剤が保存効力試験に適合し、かつ該点眼剤中の析出物の発生が防止されるとともにアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されることを特徴とする、上記(1)に記載の安定化方法、
【0015】
(6)アラントイン及びシアノコバラミンを含有するpH4.7〜5.9の点眼剤であって、該点眼剤中のアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されていることを特徴とする、アラントイン及びシアノコバラミンを含有する点眼剤、
(7)アラントイン0.02〜0.1w/v%及びシアノコバラミンを含有するpH4.7〜5.9の点眼剤であって、該点眼剤中のアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されていることを特徴とする、上記(6)に記載の点眼剤、
(8)アラントイン0.02〜0.1w/v%、シアノコバラミン、コンドロイチン硫酸ナトリウム0.05〜0.2w/v%及びグリチルリチン酸二カリウム0.05〜0.15w/v%を含有するpH4.7〜5.9の点眼剤であって、該点眼剤中の析出物の発生が防止されているとともにアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されていることを特徴とする、上記(6)に記載の点眼剤、
(9)アラントイン0.02〜0.1w/v%、シアノコバラミン、トコフェロール類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類0.1〜0.3w/v%、ポリソルベート類0.02〜0.15w/v%、塩化ベンザルコニウム及びクロロブタノール0.2〜0.4w/v%を含有するpH4.7〜5.9の点眼剤であって、保存効力試験に適合し、かつ析出物の発生が防止されているとともにアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されていることを特徴とする、上記(6)に記載の点眼剤、
(10)アラントイン0.02〜0.1w/v%、シアノコバラミン、コンドロイチン硫酸ナトリウム0.05〜0.2w/v%、グリチルリチン酸二カリウム0.05〜0.15w/v%、トコフェロール類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類0.1〜0.3w/v%、ポリソルベート類0.02〜0.15w/v%、塩化ベンザルコニウム及びクロロブタノール0.2〜0.4w/v%を含有するpH4.7〜5.9の点眼剤であって、保存効力試験に適合し、かつ析出物の発生が防止されているとともにアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されていることを特徴とする、上記(6)に記載の点眼剤、
【0016】
(11)点眼剤中に、さらに塩酸テトラヒドロゾリン、ネオスチグミンメチル硫酸塩、イプシロン−アミノカプロン酸、クロルフェニラミンマレイン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、L−アスパラギン酸マグネシウム・カリウム及びタウリンからなる群から選ばれる1〜7種の有効成分を含有することを特徴とする、上記(5)に記載の安定化方法、
(12)点眼剤中に、さらに塩酸テトラヒドロゾリン、ネオスチグミンメチル硫酸塩、イプシロン−アミノカプロン酸、クロルフェニラミンマレイン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、L−アスパラギン酸マグネシウム・カリウム及びタウリンからなる群から選ばれる1〜7種の有効成分を含有することを特徴とする、上記(10)に記載の点眼剤、に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、アラントイン、シアノコバラミン及び任意にその他の有効成分を配合した安定な点眼剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、点眼剤中のアラントイン及びシアノコバラミンが安定化されるとは、例えば、本発明の点眼剤を40℃で3ヶ月間保存した後の該点眼剤中のアラントイン及びシアノコバラミンの残存率が85%以上であることをいい、さらに好ましくは当該残存率が90%以上であることをいい、特に好ましくは当該残存率が95%以上であることをいう。
【0019】
本発明において、点眼剤中の析出物の発生が防止されるとは、例えば、40℃で3ヶ月間又は50℃で2ヶ月間保存した後の本発明の点眼剤を第十六改正日本薬局方の点眼剤の不溶性異物検査法に従い観察したときに、澄明で、たやすく検出される不溶性異物を認めないことをいう。
【0020】
本発明において、点眼剤が保存効力試験に適合するとは、本発明の点眼剤が第十六改正日本薬局方の保存効力試験法において、保存効力があると判定されることをいう。
【0021】
本発明の点眼剤のpHは、アラントインとシアノコバラミンの分解を抑制し、さらにコンドロイチン硫酸ナトリウム及びグリチルリチン酸二カリウムを含有する場合は析出物の発生を防止するため、pH4.7〜5.9であることが好ましく、pH5.3〜5.9であることがさらに好ましく、pH5.5が特に好ましい。
【0022】
本発明の点眼剤は、アラントインの含有量が少ないほどアラントインの分解が抑制できるため、アラントインの含有量は0.01〜0.3w/v%が好ましく、0.02〜0.1w/v%がさらに好ましく、0.06w/v%が特に好ましい。
【0023】
本発明の点眼剤において、シアノコバラミンの含有量は0.001〜0.02w/v%が好ましく、0.01〜0.02w/v%がさらに好ましく、0.02w/v%が特に好ましい。
【0024】
本発明の点眼剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、アラントイン及びシアノコバラミン以外にも種々の有効成分を含有することができる。使用者の利便に資する点眼剤とするためには、アラントイン及びシアノコバラミン以外の有効成分も含有することが好ましい。アラントイン及びシアノコバラミン以外の有効成分としては、例えば、「眼科用薬製造(輸入)承認基準」の別表I(以下、基準別表という)A〜F欄に記載されているものが挙げられる。
【0025】
本発明の点眼剤は、基準別表A欄に記載されている、エピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硝酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン又はdl−塩酸メチルエフェドリンのうち1種を含有することができる。本発明の点眼剤においては、塩酸テトラヒドロゾリンを含有することが好ましい。
【0026】
本発明の点眼剤において、塩酸テトラヒドロゾリンの含有量は0.001〜0.05w/v%が好ましく、0.01〜0.05w/v%がさらに好ましく、0.05w/v%が特に好ましい。
【0027】
本発明の点眼剤においては、基準別表B欄に記載されている、ネオスチグミンメチル硫酸塩を含有することが好ましい。
【0028】
本発明の点眼剤において、ネオスチグミンメチル硫酸塩の含有量は0.001〜0.005w/v%が好ましく、0.003〜0.005w/v%がさらに好ましく、0.005w/v%が特に好ましい。
【0029】
本発明の点眼剤は、基準別表C欄に記載されている、イプシロン−アミノカプロン酸、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛又は塩化リゾチームのうち1〜3種を含有することができる。本発明の点眼剤においては、イプシロン−アミノカプロン酸及びグリチルリチン酸二カリウムを含有することが好ましい。
【0030】
本発明の点眼剤において、イプシロン−アミノカプロン酸の含有量は0.5〜5.0w/v%が好ましく、0.8〜1.2w/v%がさらに好ましく、1.0w/v%が特に好ましい。
【0031】
本発明の点眼剤において、グリチルリチン酸二カリウムの含有量は0.01〜0.25w/v%が好ましく、析出物の発生を防止するため、0.05〜0.15w/v%がさらに好ましく、0.1w/v%が特に好ましい。
【0032】
本発明の点眼剤は、基準別表D欄に記載されている、塩酸ジフェンヒドラミン又はマレイン酸クロルフェニラミンを含有することができる。本発明の点眼剤においては、クロルフェニラミンマレイン酸塩を含有することが好ましい。
【0033】
本発明の点眼剤において、クロルフェニラミンマレイン酸塩の含有量は0.001〜0.03w/v%が好ましく、0.01〜0.03w/v%がさらに好ましく、0.03w/v%が特に好ましい。
【0034】
本発明の点眼剤は、基準別表E欄に記載されている、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム又は酢酸トコフェロールのうち1〜3種を含有することができる。本発明の点眼剤においては、ピリドキシン塩酸塩及び酢酸トコフェロールを含有することが好ましい。
【0035】
本発明の点眼剤において、ピリドキシン塩酸塩の含有量は0.01〜0.1w/v%が好ましく、0.03〜0.07w/v%がさらに好ましく、0.05w/v%が特に好ましい。
【0036】
本発明の点眼剤において、酢酸トコフェロールの含有量は0.001〜0.05w/v%が好ましく、0.01〜0.05w/v%がさらに好ましく、0.025w/v%が特に好ましい。
【0037】
本発明の点眼剤においては、酢酸トコフェロールに替えて他のトコフェロール類を含有しても良い。トコフェロール類としては、酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、トコフェロールなどが挙げられ、酢酸トコフェロールが好ましい。酢酸トコフェロールとしては酢酸d−α−トコフェロール又は酢酸dl−α−トコフェロールが好ましく、酢酸d−α−トコフェロールが特に好ましい。コハク酸トコフェロールとしては、コハク酸d−α−トコフェロール、コハク酸dl−α−トコフェロール又はコハク酸dl−α−トコフェロールカルシウムが好ましい。トコフェロールとしてはd−α−トコフェロール又はdl−α−トコフェロールが好ましい。トコフェロール類の含有量は0.001〜0.05w/v%が好ましく、0.01〜0.05w/v%がさらに好ましく、0.025w/v%が特に好ましい。
【0038】
本発明の点眼剤は、基準別表F欄に記載されている、L−アスパラギン酸カリウム、L−アスパラギン酸マグネシウム、L−アスパラギン酸マグネシウム・カリウム、アミノエチルスルホン酸又はコンドロイチン硫酸ナトリウムのうち1〜3種を含有することができる。本発明の点眼剤においては、L−アスパラギン酸マグネシウム・カリウム、タウリン(アミノエチルスルホン酸)及びコンドロイチン硫酸ナトリウムを含有することが好ましい。
【0039】
本発明の点眼剤において、L−アスパラギン酸マグネシウム・カリウムの含有量は0.1〜2.0w/v%が好ましく、0.5〜1.5w/v%がさらに好ましく、1.2w/v%が特に好ましい。
【0040】
本発明の点眼剤において、タウリンの含有量は0.1〜1.0w/v%が好ましく、0.2〜0.6w/v%がさらに好ましく、0.4w/v%が特に好ましい。
【0041】
本発明の点眼剤において、コンドロイチン硫酸ナトリウムの含有量は0.01〜0.5w/v%が好ましく、析出物の発生を防止するため、0.05〜0.2w/v%がさらに好ましく、0.1w/v%が特に好ましい。
【0042】
本発明の点眼剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、基準別表A〜F欄に記載されている有効成分以外にも点眼剤に通常用いられる充血除去成分、眼筋調節薬、抗炎症薬、収斂薬、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、ビタミン類、アミノ酸類、局所麻酔薬、ステロイド成分など種々の有効成分を含有することができる。
【0043】
本発明の点眼剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、点眼剤の添加物として通常用いられるものを含有することができる。添加物は、1種又は2種以上を任意の割合で併用して含有しても良い。添加物としては、増粘剤、糖類、溶解補助剤、抗酸化剤、防腐剤(保存剤)、pH調節剤、等張化剤、清涼化剤、緩衝剤、安定化剤などが挙げられる。
【0044】
「増粘剤」としては、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、マクロゴールなどが挙げられる。
【0045】
「糖類」としては、グルコース、シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなどが挙げられる。
【0046】
「溶解補助剤」としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポロキサミン、ポリソルベート類、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類、アルキルジアミノエチルグリシン、アルキル4級アンモニウム塩、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。本発明の点眼剤においては、ポリソルベート類及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類を含有することが好ましい。
【0047】
ポリソルベート類としては、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80などが挙げられる。
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100などが挙げられる。
【0048】
本発明の点眼剤においては、ポリソルベート80及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を含有することが好ましい。
【0049】
本発明の点眼剤を保存効力試験に適合するものとし、かつ析出物の発生を防止するために、ポリソルベート類の含有量は0.02〜0.15w/v%が好ましい。また、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類の含有量は0.1〜0.3w/v%が好ましく、0.15〜0.2w/v%がさらに好ましい。同様の理由により、ポリソルベート80の含有量は0.02〜0.15w/v%が好ましく、0.02〜0.05w/v%がさらに好ましい。また、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60の含有量は0.1〜0.3w/v%が好ましく、0.15〜0.2w/v%がさらに好ましい。
【0050】
「抗酸化剤」としては、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ヒドロキノン、没食子酸プロピル、亜硫酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
【0051】
「防腐剤」としては、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。本発明の点眼剤においては、有効な保存効力を達成するため、塩化ベンザルコニウム及びクロロブタノールを併用し含有することが好ましい。
【0052】
塩化ベンザルコニウムの含有量は0.001〜0.01w/v%が好ましく、0.01w/v%が特に好ましい。クロロブタノールの含有量は、有効な保存効力を達成するために、0.2〜0.4w/v%が好ましく、pHの低下による析出物の発生を防止するため0.2〜0.3w/v%がさらに好ましく、0.2w/v%が特に好ましい。
【0053】
「pH調整剤」としては、塩酸、リン酸、酢酸、酒石酸、ホウ酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミンなどが挙げられる。
【0054】
「等張化剤」としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、ホウ酸、グリセリン、プロピレングリコールなどが挙げられる。
【0055】
「清涼化剤」としては、d−カンフル、dl−カンフル、ゲラニオール、d−ボルネオール、l−メントール、リュウノウ、ウイキョウ油、ハッカ水、ハッカ油、ベルガモット油、ユーカリ油などが挙げられる。
【0056】
「緩衝剤」としては、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、酒石酸塩緩衝剤、アミノ酸などが挙げられる。
【0057】
「安定化剤」としては、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどが挙げられる。本発明の点眼剤においては、エデト酸ナトリウムを含有することが好ましい。
【0058】
エデト酸ナトリウムの含有量は0.01〜0.04w/v%が好ましい。
【0059】
本発明の点眼剤は、例えば、1回1〜3滴、1日3〜6回の範囲で点眼することができるが、これに限られず、任意の用法、用量で使用することができる。
【0060】
本発明の点眼剤の効能、効果としては、例えば、目の疲れ、結膜充血、眼病予防(水泳のあと、ほこりや汗が目に入ったときなど)、紫外線その他の光線による眼炎(雪目など)、眼瞼炎(まぶたのただれ)、ハードコンタクトレンズを装着しているときの不快感、目のかすみ、目のかゆみ(目やにの多いときなど)が挙げられる。
【0061】
本発明の点眼剤は、点眼剤の製造方法として公知の方法により製造できる。例えば、蒸留水又は精製水に、有効成分と添加物とを溶解させ、所定の浸透圧及びpHに調整し、容器に充填することにより製造できる。場合によっては滅菌処理工程を製造工程中に入れることもできる。
【0062】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【実施例9】
【0063】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 1.5g及び酢酸d−α−トコフェロール0.25gを混合し融解させる。これに、塩酸テトラヒドロゾリン0.5g、ネオスチグミンメチル硫酸塩0.05g、シアノコバラミン0.2g、ピリドキシン塩酸塩0.5g、L−アスパラギン酸マグネシウム・カリウム(等量混合物)12g、タウリン4g、コンドロイチン硫酸ナトリウム1g、クロルフェニラミンマレイン酸塩0.3g、イプシロン−アミノカプロン酸10g、グリチルリチン酸二カリウム1g、アラントイン0.6g、ポリソルベート80 0.2g、クロロブタノール2g、ベンザルコニウム塩化物0.1g、1−メントール0.16g、d−ボルネオール0.08g、エデト酸ナトリウム水和物0.1g、ホウ酸2.75gを混合し、希塩酸でpHを5.5に調整した後、精製水で全量を1000mLとし、無菌ろ過し点眼容器に充填して点眼剤とする。
【0064】
その他の実施例も実施例9と同様にして製造した。
【0065】
以下に、各実施例の処方内容を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
[試験例1]アラントイン及びシアノコバラミンの安定性に対するpHの影響
点眼剤中のアラントイン及びシアノコバラミンの安定性に対するpHの影響を検討するため、種々のpHの点眼剤を40℃で3ヶ月間保存し、アラントイン及びシアノコバラミンの残存率を評価した。その結果を以下に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
点眼剤のpHが6.0以上の場合、アラントインの残存率は90%を下回った。したがって、アラントインの安定性に適したpHは5.9以下である。一方、シアノコバラミンはpH5.5で最も安定であり、pH5.2では残存率は低下した。したがって、アラントイン及びシアノコバラミンの両方の安定性に適したpHは5.3〜5.9であり、5.5が最も適していることが判明した。
【0072】
[試験例2]アラントイン及びシアノコバラミンの安定性に対するアラントイン含有量の影響
アラントイン及びシアノコバラミンの安定性に対するアラントインの含有量の影響を検討するため、種々のアラントイン含有量の点眼剤を40℃で3ヶ月間保存し、アラントイン及びシアノコバラミンの残存率を評価した。その結果を以下に示す。
【0073】
【表5】
【0074】
驚くべきことに、アラントインの含有量が少ないほどアラントインの残存率が向上し、特に含有量が0.1w/v%以下になると残存率は顕著に向上した。一方、シアノコバラミンの残存率には大きな差異はなかった。したがって、アラントインの安定性に適したアラントインの含有量は0.06〜0.1w/v%であり、0.06w/v%が最も適していることが判明した。
【0075】
[試験例3]析出物の発生に対するpHの影響
コンドロイチン硫酸塩類とグリチルリチン酸塩類を配合した点眼剤では、酸性領域では、これら化合物由来の沈殿が生じてしまうことが報告されている。したがって、有効成分としてアラントイン及びシアノコバラミンに加えて、さらにコンドロイチン硫酸ナトリウム及びグリチルリチン酸二カリウムを配合した点眼剤では、アラントイン及びシアノコバラミンの安定性を保持しつつ、コンドロイチン硫酸ナトリウム及びグリチルリチン酸二カリウム由来の析出物の発生を防止する必要がある。そこで、これら4種の有効成分を含有し、かつ、種々のpHの点眼剤を50℃で2ヶ月間保存し、保存後の析出物の発生に対するpHの影響を評価した。以下にその結果を示す。
【0076】
【表6】
【0077】
保存前のpHが5.2以下の点眼剤の場合、保存後のpHは5.16に低下し析出物が発生した。一方、保存前の点眼剤のpHが6.0の場合、保存後のpHは5.68に低下したが、析出物は認められなかった。したがって、保存後の析出物の発生を防止するためには、点眼剤のpHは5.3以上が好ましい。
【0078】
[試験例4]析出物の発生に対するコンドロイチン硫酸ナトリウム及びグリチルリチン酸二カリウム含有量の影響
コンドロイチン硫酸ナトリウム及びグリチルリチン酸二カリウムを種々の含有量で含有する点眼剤を50℃で2ヶ月間保存し、保存後の析出物の発生に対するこれら含有量の影響を評価した。以下にその結果を示す。
【0079】
【表7】
【0080】
コンドロイチン硫酸ナトリウム及びグリチルリチン酸二カリウムの含有量が少ないと析出物の発生が抑えられた。したがって、析出物の発生を防止するためには、コンドロイチン硫酸ナトリウムの含有量は0.5w/v%未満、グリチルリチン酸二カリウムの含有量は0.25w/v%未満であることが好ましいことが判明した。
【0081】
[試験例5]保存効力試験
点眼剤に防腐剤、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム及び/又は非イオン性界面活性剤を配合する場合、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム及び/又は非イオン性界面活性剤の量が多いと、防腐剤の防腐効果が損なわれるとの報告がある。しかしながら、非イオン性界面活性剤はトコフェロール類などの油溶性成分を配合する場合に溶解補助剤として用いられるものであるから、配合量を減らすと析出物が発生するリスクがある。
【0082】
また、非イオン性界面活性剤の一つであるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60は、酸性条件下やグリチルリチン酸塩類と同時に配合すると加水分解され、析出物を生じることが報告されている。
【0083】
したがって、有効成分としてアラントイン及びシアノコバラミンに加えて、さらにトコフェロール類を配合し、溶解補助剤として非イオン性界面活性剤を配合した点眼剤の場合、アラントイン及びシアノコバラミンの安定性を保持しつつ、保存効力試験に適合させることには困難が伴う。本発明者らは、これら3種の有効成分を含有し、かつ、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類及びポリソルベート類を含有する点眼剤を用いて、第十六改正日本薬局方の保存効力試験法に従い、保存効力を評価した。その結果、保存剤として塩化ベンザルコニウムのみを0.005w/v%含有する点眼剤では、保存効力が認められず、さらにその含有量を0.01w/v%と高濃度にしても保存効力は認められなかった。そこで、保存剤として塩化ベンザルコニウム及びクロロブタノールを併用し検討を行った。塩化ベンザルコニウム0.01w/v%と、さらに種々の含有量のクロロブタノールを含有する点眼剤について、保存効力と、50℃で2ヶ月間保存したときの析出物の発生を検討した結果を以下に示す。
【0084】
【表8】
【0085】
保存剤として塩化ベンザルコニウム0.01w/v%とクロロブタノール0.2w/v%以上含有する点眼剤では析出物の発生が認められず、また、上記保存効力試験法に適合する良好な保存効力を示した。しかしながら、驚くべきことに、クロロブタノールを0.2w/v%含有する点眼剤と比較して、クロロブタノールを0.3w/v%含有する点眼剤では保存後のpHの低下が大きくなった。このことから、クロロブタノールの含有量が多くなると点眼剤のpHが顕著に低下して、析出物の発生や、シアノコバラミンその他の有効成分の分解等のおそれが懸念される。したがって、有効な保存効力を達成するにはクロロブタノールの含有量は0.2w/v%以上が好ましいものの、pHの低下を抑制するためには0.3w/v%以下が好ましく、0.2w/v%が特に適していることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、点眼剤中の化学的に不安定なアラントイン及びシアノコバラミンの分解を抑制し、さらに多種類の有効成分を含有した点眼剤において、析出物の発生を抑えた安定な多成分配合点眼剤を供給することが可能である。