【解決手段】回転軸線回りに回転方向Rで回転される工具本体の先端部に、工具本体の平面視で工具本体の先端部から最外周部へ延びる円弧状切れ刃と、この円弧状の切れ刃に連なる第1外周切れ刃を備え、この円弧状切れ刃は、回転軸線方向からの正面視でS字形状をなしている刃先交換式ボールエンドミルであって、インサートは第1外周切れ刃と離間して形成された第2外周切れ刃を有し、インサートの最先端部と円弧状の切れ刃の円弧中心点Oとを通る直線をL1としたとき、第2外周切れ刃は第1外周切れ刃よりも直線L1方向の後方側となるように設定されている。
略平板形状のインサートの切れ刃として、ねじれ形状を有する円弧状の切れ刃と、該円弧状の切れ刃に連なる第1外周切れ刃が設けられ、インサートクランプネジにより、工具本体のインサート取付座に着脱自在にネジ固定されたインサートであって、該インサートが該インサート取付座に取り付けられた状態における側面視において、該インサートは該第1外周切れ刃と離間して形成された第2外周切れ刃を有し、該インサートの最先端部と該円弧状の切れ刃の円弧中心点Oとを通る直線をL1としたとき、該第2外周切れ刃は、該第1外周切れ刃よりも該直線L1方向の後方側に形成されていること、を特徴とするインサート。
請求項1に記載の該インサートが該インサート取付座に取り付けられた状態における側面視において、該第1外周切れ刃の接線を線分E、該第2外周切れ刃の接線を線分F、としたとき、該線分Eと該線分Fとの交差角度(度)は、零度または鋭角で交差していること、を特徴とするインサート。
請求項1または請求項2に記載の該インサートが該インサート取付座に取り付けられた状態における側面視において、該インサートの該第1外周切れ刃が該円弧状の切れ刃に連なっているのとは反対側の端部と該第2外周切れ刃の端部とは、第3外周切れ刃を間に介して連結されており、該第3外周切れ刃の接線を線分G、としたとき、該線分Gと該直線L1との交差角度δ(度)が、25≦δ≦45であること、を特徴とするインサート。
請求項1から請求項3のいずれかに記載の該インサートが該インサート取付座に取り付けられた状態における側面視において、該円弧状の切れ刃の最先端部と、該円弧状の切れ刃の円弧中心点Oを通り、該回転軸線と直交する直線を線分Mとし、該線分Mと該円弧状の切れ刃とが交差する点を点S、としたとき、該第2外周切れ刃の該端部は、該点Sを基準として、該直線L1方向の後方側となるように形成され、かつ、該点Sを基準として、インサート厚み方向に小さくなる側に形成されていること、を特徴とするインサート。
請求項1から請求項4のいずれかに記載の該インサートが、該工具本体の回転軸線方向の先端部に開口し、該回転軸線を含んで該工具本体の後方に向かって形成され、該工具本体の先端部を2分割するように一対の先端半体部を形成するスリット状のインサート嵌合溝からなるインサート取付座に挿入され、該インサート嵌合溝と交差して該一対の先端半体部に形成されたインサート固定用ネジ穴に挿通されたインサートクランプネジにより、該インサート取付座に着脱自在にネジ固定され、該回転軸線の回りに回転する該円弧状の切れ刃の回転軌跡が半球状をなし、該第1外周切れ刃の回転軌跡が略円筒状をなし、該第2外周切れ刃の回転軌跡が該第1外周切れ刃の回転軌跡よりも内周側となるように設定されていることを特徴とする刃先交換式ボールエンドミル。
【背景技術】
【0002】
金型等の被削材に平面及び曲面を含む三次元加工を行うために従来から刃先交換式ボールエンドミルが使用されている。刃先交換式ボールエンドミルを用いた被削材の三次元仕上げ加工で良好な加工面粗さとするために、ビビリ振動の発生を抑制するとともに、切屑の排出性を向上させて、切れ刃にチッピングや欠損が発生しないようにする必要がある。このためには、刃先交換式ボールエンドミルの円弧状切れ刃や外周切れ刃の形状や設定要件が重要である。そのため、従来から円弧状切れ刃や外周切れ刃に関する種々の提案がされている。
【0003】
特許文献1(特開2004−291096号)は、ねじれた円弧状切れ刃を有するスローアウェイチップであって、回転軸線に直交する位置でのチップ本体の厚さが0.5D〜0.9D(Dはチップ本体の平板部の厚さ(mm)である。)の範囲内であり、回転方向最凸点における放射角度が40〜70度に設定されたスローアウェイチップを提案している。ここで、特許文献1の
図2より、円弧状切刃35の後端35Cは、円弧状切刃の後端側に配置され、円弧状切刃の回転軌跡がなす略半球の中心O1を通って軸線Oに対する傾斜角βが100度となるような直線L方向に位置している。従って、円弧状切刃は傾斜角βが100度の位置まで伸びている例が開示されている。さらに後端側には、後端面32に向けて斜めに切り欠かれてなる面取り部36が形成されている。
【0004】
特許文献2(特開平11−197932号)は、略板状のスローアウェイチップにおいて、円板の一部を切り欠いたカット面39、40を有し、円板の円弧状の外周面に沿って円弧状の切刃が形成されているボールエンドミルを提案している。ここで、特許文献2の
図1より、この円弧状の切刃26、33の後端部にあるカット面の稜線部には、戻り切削加工用の端部切刃42、43が形成されている。このため、このスローアウェイチップをボールエンドミルに装着し、切削加工において戻り切削する際に、端部切刃によって戻り切削の切削幅に亘って切削できることが開示されている。更に、段落番号(0011)には、カット面の逃げ角が8度のポジに設定されていることが記載されている。
【0005】
特許文献3(特開平4―146015号)は、ボールエンドミルを構成するスローアウェイチップにおいて1枚のチップに回転中心を含む左右の2刃を設け、左右の2刃はそれぞれ回転中心より、軸線方向に90°を超える円弧状の切れ刃を形成させたボールエンドミル用のスローアウェイチップを提案している。この円弧状切れ刃は、ボールエンドミルを上方に抜き上げる加工方法を可能にするものと記載されている。ここで、特許文献3の
図1(B)には、軸線方向に90度を超える円弧状の外周切れ刃が、また特許文献3の
図2(B)には直線状の外周切れ刃の例が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献1に記載の発明には、スローアウェイチップは、傾斜角βが100度の位置まで伸びている円弧状切れ刃を開示しているものの、この後端側には外周切れ刃までは有してない。従って、本発明が規定するような第1、第2外周切れ刃に関する記載については、示唆も開示もされていない。更に、立ち壁面を有する被削材を良好な表面粗さで三次元仕上げ加工するのに適さない。
また、特許文献2、特許文献3には、円弧状切れ刃とこれに連なる外周切れ刃を持ったボールエンドミルについての記載はあるものの、本発明が規定するような外周切れ刃に関する記載については、示唆も開示もされていない。具体的には、本発明のインサートが、第1外周切れ刃と第2外周切れ刃の両者を有し、両者は離間して形成され、また第2外周切れ刃は第1外周切れ刃よりも工具本体の回転軸線方向の後方側に形成されていることであるが、特許文献2、特許文献3には、示唆も開示もされていない。
【0008】
本発明のインサートおよびこのインサートを装着した刃先交換式ボールエンドミルは、第1の目的として、インサートは第1外周切れ刃と離間して形成された第2外周切れ刃を有し、第2外周切れ刃は、第1外周切れ刃よりも工具本体の回転軸線方向の後方側に形成されていることによって、実質的な外周切れ刃長さを、より長く設定することが可能となる。そのため、工具の使い勝手がよくなり、例えば、立壁側面部の切削加工時に、軸方向切込み量を大きく設定することができるので、加工能率の向上に寄与することができる。また、立壁側面部に沿った引き上げ切削加工時にも、実質的な外周切れ刃長さが長いことによって、工具本体に被削面が接触するのを回避することができる。
【0009】
本発明の第2の目的として、第2外周切れ刃は第1外周切れ刃と離間して形成され、第1外周切れ刃よりも工具本体の回転軸線方向の後方側に形成されているために、第1外周切れ刃よりも逃げ面の幅が広く、切れ刃の厚みも厚いことから、切れ刃強度に優れる。従って、切れ刃の耐欠損性、耐チッピング性が向上し、切れ刃の劣化を回避して、長寿命化を図ることができる。
【0010】
更に、工具本体の回転軸線方向の後方側に備える第2外周切れ刃が、回転軸線方向の前方側に備える第1外周切れ刃の切削負荷を軽減させることができる。この様に、第1外周切れ刃の切削負荷を軽減させることにより、切れ刃の摩耗を抑えて、切れ味を良好に維持できるので、被削材表面の面粗さ品質を向上させることができる。
【0011】
本発明の請求項1に記載の発明は、略平板形状のインサートの切れ刃として、ねじれ形状を有する円弧状の切れ刃と、該円弧状の切れ刃に連なる第1外周切れ刃が設けられ、インサートクランプネジにより、工具本体のインサート取付座に着脱自在にネジ固定されたインサートであって、該インサートが該インサート取付座に取り付けられた状態における側面視において、該インサートは該第1外周切れ刃と離間して形成された第2外周切れ刃を有し、該インサートの最先端部と該円弧状の切れ刃の円弧中心点Oとを通る直線をL1としたとき、該第2外周切れ刃は、該第1外周切れ刃よりも該直線L1方向の後方側に形成されていることを特徴としている。
【0012】
さらに本発明のインサート及び工具本体について詳細を述べると、本発明のインサートは、略平板形状の本体の一方の外側面部から他方の外側面部まで貫通するネジ挿通穴が設けられ、略平板形状をなす外側面部にはすくい面部、外周面には逃げ面部が設けられている。このすくい面部と逃げ面部との交差稜線にはインサート切れ刃として、ねじれ形状を有する円弧状の切れ刃と、円弧状の切れ刃に連なるねじれ形状を有する第1外周切れ刃が設けられている。
一方、工具本体は回転軸線方向の先端部に開口し、回転軸線を含んで工具本体の後方に向かって形成され、工具本体の先端部を2分割するように一対の先端半体部を形成するスリット状のインサート嵌合溝からなるインサート取付座を有し、インサートはこのインサート取付座に挿入される。
本発明のインサートは、インサート嵌合溝と交差して一対の先端半体部に形成されたインサート固定用ネジ穴に挿通されたインサートクランプネジにより、回転軸線の回りに回転する円弧状の切れ刃の回転軌跡が半球状をなすようにインサート取付座に着脱自在にネジ固定されている。
【0013】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインサートに係り、該インサート取付座に取り付けられた状態における側面視において、該第1外周切れ刃の接線を線分E、該第2外周切れ刃の接線を線分F、としたとき、該線分Eと該線分Fとの交差角度(度)は、零度または鋭角で交差していることを特徴としている。
【0014】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のインサートに係り、該インサート取付座に取り付けられた状態における側面視において、該インサートの該第1外周切れ刃が該円弧状の切れ刃に連なっているのとは反対側の端部と該第2外周切れ刃の端部とは、第3外周切れ刃を間に介して連結されており、該第3外周切れ刃の接線を線分G、としたとき、該線分Gと該直線L1との交差角度δ(度)が、25≦δ≦45であることを特徴としている。
【0015】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載のインサートに係り、該インサート取付座に取り付けられた状態における側面視において、該円弧状の切れ刃の最先端部と、該円弧状の切れ刃の円弧中心点Oを通り、該回転軸線と直交する直線を線分Mとし、該線分Mと該円弧状の切れ刃とが交差する点を点S、としたとき、該第2外周切れ刃の該端部は、該点Sを基準として、該直線L1方向の後方側となるように形成され、かつ、該点Sを基準として、インサート厚み方向に小さくなる側に形成されていることを特徴としている。
【0016】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載のインサートを該工具本体に装着した刃先交換式ボールエンドミルに係り、該工具本体の回転軸線方向の先端部に開口し、該回転軸線を含んで該工具本体の後方に向かって形成され、該工具ル本体の先端部を2分割するように一対の先端半体部を形成するスリット状のインサート嵌合溝からなるインサート取付座に挿入され、該インサート嵌合溝と交差して該一対の先端半体部に形成されたインサート固定用ネジ穴に挿通されたインサートクランプネジにより、該インサート取付座に着脱自在にネジ固定され、該回転軸線の回りに回転する該円弧状の切れ刃の回転軌跡が半球状をなし、該第1外周切れ刃の回転軌跡が略円筒状をなし、該第2外周切れ刃の回転軌跡が該第1外周切れ刃の回転軌跡よりも内周側となるように設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のインサート及び刃先交換式ボールエンドミルは、次の効果を奏することができる。まず第1の効果は、本発明の刃先交換式ボールエンドミルは、第1外周切れ刃と第2外周切れ刃とが離間して形成されることによって、実質的な外周切れ刃長さをより長く設定することが可能となるため、工具の使い勝手がよくなる。例えば、立壁側面部の切削加工時に、軸方向切込み量を大きく設定することができるので、加工能率の向上に寄与することができる。また、立壁側面部に沿った引き上げ切削加工時にも、実質的な外周切れ刃長さが長いことによって、工具本体に被削面が接触するのを回避することができる。
【0018】
第2の効果は、第1外周切れ刃と離間して形成された第2外周切れ刃を有し、また、第2外周切れ刃は第1外周切れ刃よりも切れ刃の耐欠損性、耐チッピング性の向上を図り、切れ刃の劣化を回避して、長寿命化を図ることができる。その理由は、工具本体の回転軸線方向の後方側に備える第2外周切れ刃が、回転軸線方向の前方側に備える第1外周切れ刃の切削負荷を軽減させることができるからである。また、第1外周切れ刃の切削負荷を軽減させることにより、切れ刃の摩耗を抑えて、切れ味を良好に維持できるので、被削材表面の面粗さ品質を向上させることができる。
こうして、上記の様な効果を有するインサート及びこのインサートが取り付けられた刃先交換式ボールエンドミルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明に係る刃先交換式ボールエンドミルの実施形態について説明する。本発明のボールエンドミルは、刃先交換式のボールエンドミル(以下、「刃先交換式ボールエンドミル」と記載する。)に適用する。特に、工具径がφ12mm以下の小径の刃先交換式ボールエンドミルに適している。この理由は、小径となる場合、同時にインサートの厚みが薄くなるために生じる課題を解決するのに適しているからである。以下に説明する本発明の実施形態は、ボール刃となる円弧状切れ刃を備えたインサートを工具本体に着脱自在に装着した刃先交換式ボールエンドミルについて説明する。
【0021】
図1は回転軸線L(以下、「軸線L」という。)を中心として回転する本発明の実施形態の一例を示す刃先交換式ボールエンドミル(1)について、その構成例を示す斜視図である。
図2は
図1に示す刃先交換式ボールエンドミル(1)に装着しているインサートの斜視図、
図3は
図1に示す工具本体のインサート取付座にインサートを装着していないとき、軸線Lの前方から工具本体の先端部を見たときの正面図、
図4は同じく工具本体の先端部の側面図、
図5は同じく工具本体の先端部の平面図である。以下の説明において、刃先交換式ボールエンドミル(1)を単に「ボールエンドミル(1)」と記載する場合がある。
【0022】
(刃先交換式ボールエンドミルの構成)
図1に示すように、刃先交換式ボールエンドミル(1)は、工具本体(2)と、工具本体(2)の後端側に、この工具本体(2)と一体に形成されているシャンク部(3)と、工具本体(2)の先端部(2a)から工具本体(2)の後方に向けて形成されたインサート取付座(4)(
図4参照)に着脱自在に装着され、切れ刃を備えたインサート(5)と、インサート取付座(4)にインサート(5)をネジ締付けにより固定するためのクランプネジ(6)から構成されている。工具本体(2)とシャンク部(3)は、例えば、SKD61等の合金工具鋼から製造されている。
【0023】
図3及び
図4に示すように、インサート取付座(4)は、工具本体(2)の先端部(2a)に開口し、さらに、工具本体(2)の径方向に延びて工具本体(2)の外周面に開口するとともに、工具本体(2)の先端部(2a)から後方のシャンク部(3)の方向に向かって軸線Lを含んで所定の長さほど形成されたスリット状の嵌合溝(8)から構成されている。
図4に示す符号「7」は、シャンク部(2)の端部に設けた傾斜縮径部である。
【0024】
図4に示すように、嵌合溝(8)(インサート取付座(4))は、互いに平行な2つの内側面部(8a)及び内側面部(8b)と、底部となる底面部(8c)から構成され、内側面部(8a)と内側面部(8b)との間の溝部の中間位置を軸線Lが底面部(8c)に向けて通るように、機械加工により形成されている。なお、以下の説明において、内側面部(8a)を一方の内側面部(8a)、内側面部(8b)を他方の内側面部(8b)と記載する場合がある。
【0025】
工具本体(2)の先端部(2a)から軸線Lを含むようにスリット状の嵌合溝(8)を形成したことにより、工具本体(2)の先端部(2a)は底面部(8c)を基準位置として2つに分割された先端半体部(9a)と先端半体部(9b)が構成されることになる。そして、先端半体部(9a)、(9b)の一方の表面部から、嵌合溝(8)と交差して他方の先端半体部9b(又は9a)内に達するインサート固定用ネジ穴(10)(
図3参照)を形成している。このインサート固定用ネジ穴(10)の向きは、
図3に示す通り、工具本体(2)のインサート嵌合溝(8)が工具本体(2)の径方向に延びる向きと直交する方向に形成されている。
また、一方の先端半体部(9a)を通って、他方の先端半体部(9b)内に達するインサート固定用ネジ穴(10)の内周面には、インサートクランプネジ(6)の雄ネジ部とネジ嵌合させるための雌ネジ部が刻設されている。
【0026】
(インサートの構成)
切れ刃を備えているインサート(5)の構成例を、
図2及び
図6を参照して説明する。なお、
図6(a)、(b)及び(c)は、それぞれ
図2に示すインサート(5)の平面図、正面図及び側面図である。
【0027】
インサート(5)は、例えば、炭化タングステン(WC)とコバルト(Co)を含む超硬合金(以下、「WC基超硬合金」という。)から製造されている。インサート(5)は
図6(c)に示すように厚さ(T)を有し、略平板形状をなしている。また、
図6に示すとおり、平面状の外側面部(5g)と、この外側面部(5g)と対向する位置に配置された平面状の外側面部(5h)を備え、側面視では
図6(c)に示すように略4角形状をなしている。一対の外側面部(5g)と外側面部(5h)は平行になるように形成されている。
【0028】
図2及び
図6に示す符号「5a」は、インサート(5)の最先端部である。最先端部(5a)はインサート(5)を工具本体(2)のインサート取付座4(嵌合溝8)に装着したときに、軸線Lと交差する部位であって、刃先交換式エンドミル(1)の軸線L方向における最下点(最先端部)になる。
【0029】
インサート(5)は、上記した一対の外側面部(5g)と外側面部(5h)とを繋ぐ側面部として、
図6(b)に示すように、最先端部(5a)から紙面の左右方向に円弧状に形成された円弧状側面部(第2側面部)(5b1)、(5b2)と、円弧状側面部(第3側面部)(5c1)、(5c2)が形成されている。さらに、インサート(5)の後端部には、
図6(a)に示すように、底側面部(5f)が形成されている。底側面部(5f)は、インサート(5)をインサート取付座(4)に装着したときに、嵌合溝(8)の底面部(8c)と密着する側面部になる。
【0030】
図6(a)に示す直線L1は、インサート(5)の最先端部(5a)と円弧中心点Oとを通る直線であって、インサート(5)を工具本体(2)のインサート取付座4に装着したときには、この直線L1は工具本体(2)の軸線Lに一致するように装着される。なお、上記した円弧中心点Oとは、後述するインサート(5)が備えている円弧状の切れ刃の円弧の中心を示す。また、
図6(a)に示す直線Mは、円弧中心点Oを通り直線L1と直交する直線である。
【0031】
また、
図2及び
図6(a)に示すように、インサート(5)は一方の外側面部(5g)から他方の外側面部(5h)に向けて貫通するネジ挿通穴(5p)を備えている。ネジ挿通穴(5p)は、インサート(5)をインサート取付座(4)に装着して固定するときに、クランプネジ(6)を挿通させるための穴である。なお、上記した円弧中心点Oは、インサート(5)の厚さTの中央部に位置する点である。
【0032】
続いて、本発明のボールエンドミルが備えている特徴となる構成であって、被削材に切削加工を行うためにインサート(5)が備えている切れ刃について説明する。
図8に示すように、工具本体(2)のインサート取付座(4)に装着するインサート(5)は、一対のボール刃となる円弧状切れ刃と、一対のねじれ形状を有する第1外周切れ刃(5k1、5k2)を備えている。ここで、ねじれ形状を有する第1外周切れ刃とは、
図8において、インサート(5)がインサート取付座(4)に装着された状態を側面視でみたとき、回転軸線Lに対して傾斜させた設定にしていることである。
これにより、インサート取付座(4)にインサート(5)を装着して刃先交換式ボールエンドミル(1)を回転軸線Lの回りにR方向に回転させると、一対の円弧状切れ刃(5i1、5i2)の回転軌跡は略半球状をなし、一対の第1外周切れ刃(5k1、5k2)の回転軌跡は略円筒状をなすことになる。
【0033】
一方、
図6(a)、
図9に示すインサート(5)の平面図においては、ねじれ形状を有する第1外周切れ刃(5k1、5k2)は、インサートの平面視において直線状となり、直線L1または軸線Lと第1外周切れ刃(5k1、5k2)との関係は、平行な直線関係となっている。
【0034】
まずはじめに、円弧状切れ刃について説明する。
図2、
図6(b)に示すように、一対の円弧状切れ刃(5i1、5i2)は、インサート(5)の最先端部(5a)から形成された、一方の逃げ面となる側面部(5b1)とすくい面(5d)との稜線部に沿って形成された円弧状の切れ刃(5i1)と、他方の逃げ面となる傾斜側面部(5b2)とすくい面(
図6(a)には図示されない)との稜線部に沿って形成された円弧状の切れ刃(5i2)とから構成されている。これら一対の円弧状切れ刃(5i1、5i2)は最先端部(5a)を介して一体の切れ刃として形成されているが、1個のインサート(5)を装着した刃先交換式ボールエンドミル(1)は、2枚の円弧状の切れ刃を備えた2枚刃のボールエンドミルと言われている。
なお、以下の説明において、これら円弧状切れ刃(5i1)と(5i2)のことを、まとめて(5i1、5i2)と記載したり、単に円弧状切れ刃(5i1)、及び円弧状切れ刃(5i2)と記載する。
【0035】
この一対の円弧状切れ刃(5i1、5i2)は、
図2、
図6(b)に示すように、傾斜側面部(5b1、5b2)の稜線部であって刃先交換式エンドミル(1)の回転方向Rの前方側に向かって凸形状をなし、直線L1の前方側からみた正面視においては、円弧状切れ刃(5i1、5i2)は最先端部(5a)を中心とした略S字形状をなすように形成されている。
【0036】
図6、
図7に示す符号「Q」は、円弧状切れ刃(5i1、5i2)が回転方向Rの前方側に向かって最も突出している位置を示している。以下の説明においてこの円弧状切れ刃(5i1、5i2)が回転方向Rの前方に最も突出している位置Qのことを、「円弧状切れ刃が回転方向Rの前方側に向かって最も突出している最突出部Q」又は単に「最突出部Q」と記載する場合がある。なお、
図6(a)に示す直線Kは、円弧中心点Oと最突出部Qとを結ぶ直線である。
また、
図2、
図6(a)に示すように、円弧状切れ刃(5i1、5i2)の回転方向Rの前面側には、すくい面(5d)となる緩やかな凸形状をなす曲面部が形成されている。
【0037】
次に、円弧状切れ刃と外周切れ刃との繋ぎ部について説明する。
図6(a)に示すように、円弧状切れ刃(5i1)の端部Sは、直線Mがそれぞれ円弧状切れ刃(5i1、5i2)と交差する点であって、円弧状の切れ刃(5i1)と第1外周切れ刃(5k1)とを繋ぐ繋ぎ部になり、他方の端部Sは円弧状切れ刃(5i2)の端部と第1外周切れ刃(5k2)とを繋ぐ繋ぎ部になる。さらに、インサート(5)の平面視において、これら端部S、Sは円弧状切れ刃(5i1、5i2)の最外周部に相当する。また、インサート(5)を工具本体(2)に装着したときには、これら端部Sは、工具本体(2)の最外周部になる。従って、以下の説明においてこれら端部Sのことを、「繋ぎ部S」又は「最外周部S」と記載する場合がある。
【0038】
次に、外周切れ刃について説明する。
図6(a)に示すように、インサート(5)の最先端部(5a)から一対の円弧状切れ刃(5i1、5i2)に連なって、ねじれ形状を有する第1外周切れ刃(5k1、5k2)と、第2外周切れ刃(5L1、5L2)および第3外周切れ刃(5m1、5m2)が形成されている。一対のねじれ形状を有する第1外周切れ刃は、最先端部(5a)から形成されている円弧状切れ刃(5i1)の端部Sから一体に繋がって形成されている。さらに第3外周切れ刃(5m1)を間に介して第2外周切れ刃(5L1)へと繋がって形成されている。
同様に、第1外周切れ刃(5k2)は、最先端部(5a)から形成されている円弧状切れ刃(5i2)の端部Sから一体に繋がって形成されている。さらに第3外周切れ刃(5m2)を間に介して第2外周切れ刃(5L2)へと繋がって形成されている。
【0039】
図6(c)に示すように、円弧状切れ刃(5i1)を横側面側からみた稜線は、繋ぎ部Sを通ってねじれ形状を有する第1外周切れ刃(5k1)に繋がっている。さらに、第2外周切れ刃(5L1)は、第3外周切れ刃(5m1)を間に介して、第1外周切れ刃(5k1)と繋がっている。
同様に、円弧状切れ刃(5i2)を横側面側からみた稜線も、繋ぎ部Sを通ってねじれ形状を有する第1外周切れ刃(5k2)に繋がっている。さらに、第2外周切れ刃(5L2)は、第3外周切れ刃(5m2)を間に介して、第1外周切れ刃(5k2)と繋がっている。
【0040】
上記に示した第1外周切れ刃、第2外周切れ刃および第3外周切れ刃は、被削材の立壁側面部の切削加工を行うときに、被削材の立壁面の近傍に作用するために設けられた切れ刃であり、被削材の立壁面における仕上げ加工の面性状を良好に維持するために有効な切れ刃である。
【0041】
本発明の請求項1に記載の発明は、
図6(c)のインサートの側面視において示すように、インサート(5)は、第1外周切れ刃(5k1、5k2)と、これに離間して形成された第2外周切れ刃(5L1、5L2)とを有している。インサート(5)の最先端部(5a)と円弧状の切れ刃(5i1、5i2)の円弧中心点Oとを通る直線をL1としたとき、第2外周切れ刃は、第1外周切れ刃よりも直線L1方向の後方側に形成されている。
従って、本発明のインサートおよびこのインサートを装着した刃先交換式ボールエンドミルは、上記の第1外周切れ刃と第2外周切れ刃とを備えることによって、実質的な外周切れ刃長さを、より長く設定することが可能となる。そのため、例えば、立壁側面部の切削加工時に、軸方向切込み量を大きく設定することができるので、加工能率の向上に寄与することができる。
【0042】
本発明の請求項2に記載の発明は、、
図6(c)および
図11のインサートの側面視において示すように、第1外周切れ刃(5k1)の接線を線分E、第2外周切れ刃(5L1)の接線を線分F、としたとき、この線分Eと線分Fとの交差角度(度)は零度、または鋭角で交差していることが好ましい。ここで交差角度が零度の場合は、線分Eと線分Fとが平行な関係にあることを示す。このように線分Eと線分Fとが平行であるとき、または10度以下の好ましい鋭角度で交差するように設定することによって、第1外周切れ刃(5k1)と、第2外周切れ刃(5L1)の軸方向すくい角の差を小さく抑えることができる。そのため、両方の切れ刃の切削抵抗差を小さく制御できることから、切削加工時の工具振動を少なくすることができるため、好ましい。
【0043】
本発明の請求項3に記載の発明は、
図6(c)および
図11のインサートの側面視において示すように、インサートの第1外周切れ刃(5k1)における点Sとは反対側の端部Uと、第2外周切れ刃(5L1)の端部Vとにより、第3外周切れ刃(5m1)を間に介して連結されている。ここで、第3外周切れ刃の接線を線分G、としたとき、該線分Gと該回転軸線との交差角度δ(度)が、25≦δ≦45の範囲であることが好ましい。ここで交差角度δ値は、第3外周切れ刃の軸方向すくい角に相当する。この軸方向すくい角は、負の値をもつ配置設定となるため、一般的には、第3外周切れ刃の切削抵抗を増大させる傾向を示す。従って、δ値が45度を超えて大きい場合は、切削抵抗を増大させることから、切れ味を良好に維持することが困難となるので、被削材表面の面粗さ品質の劣化を招くといった不都合がある。一方、δ値が25未満の場合、第3外周切れ刃の肉厚部分を確保することが困難となるため、切れ刃の耐欠損性、耐チッピング性の劣化を招くといった不都合がある。
【0044】
本発明の請求項4に記載の発明は、
図6(a)、
図8に示すように、円弧状の切れ刃における回転軸線方向の最先端部(5a)と、円弧状の切れ刃の円弧中心点Oを通り、回転軸線と直交する直線を線分Mとし、線分Mと円弧状の切れ刃とが交差する点を点Sとしたとき、該第2外周切れ刃の該端部Vは、該点Sを基準として、該直線L1方向の後方側となるように形成され、かつ、該点Sを基準として、インサート厚み方向に小さくなる側に形成形成されていることが好ましい。即ち、端部Vがインサート厚み方向に小さくなる側とは、外側面部側となるように形成されていることを意味している。
上記のように、第2外周切れ刃の始点に相当する端部Vの配置を設定することよって、工具回転時における切れ刃と被削材とが接触して食付くタイミングは、第1外周切れ刃よりも第2外周切れ刃の方が遅れて接触することになる。そのことによって、被削材への食付き時の衝撃を緩和させる効果を有する。従って、第2外周切れ刃は第1外周切れ刃よりも切れ刃の耐欠損性、耐チッピング性の向上を図ることができ、切れ刃の劣化を回避して、長寿命化を図ることができる。
【0045】
(インサート取付座にインサートを固定したときの状態)
本発明の実施形態を示す刃先交換式エンドミル(1)は、工具本体(2)の先端部(2a)に形成したインサート取付座(4)に、クランプネジ(6)を用いてインサート(5)を着脱自在に固定している。
図7、
図8、
図9は、それぞれ
図3、
図4、
図5に対応させて、工具本体(2)のインサート取付座(4)に一つのインサート(5)を装着して固定したときの状態を示す図面である。
【0046】
インサート取付座(4)に一つのインサート(5)を装着して固定したときには、インサート(5)の外側面部(5g)、(5h)はそれぞれインサート嵌合溝(8)の一方の内側面部(8a)と、他方の内側面部(8b)に強固に密着し、インサート(5)の底側面部(5f)はインサート嵌合溝(8)の底面部(8c)に密着して、インサート(5)の固定位置が所定の精度を確保するようになされる。
そして、インサート取付座(4)にインサート(5)を装着して固定したときには、インサート(5)の最先端部(5a)は軸線L上に沿ってインサート取付座(4)から突出させ、さらに、一対の円弧状の切れ刃(5i1、5i2)、一対の第1外周切れ刃(5k1、5k2)、一対の第2外周切れ刃(5L1、5L2)、一対の第3外周切れ刃(5m1、5m2)、及び第2横側面部(5b1、5b2)、第3横側面部(5c1、5c2)もインサート取付座(4)から外側方向に若干突出している。
【0047】
前記したように、本発明の実施形態となる刃先交換式ボールエンドミル(1)においては、
図6(a)や
図9に示すように、円弧状の切れ刃(5i1、5i2)はそのそれぞれの端部Sに連なるねじれ形状を有する第1外周切れ刃(5k1、5k2)と、第2外周切れ刃(5L1、5L2)及び、第3外周切れ刃(5m1、5m2)、を設けていることも重要な特徴になる。
図11に示すように、円弧状の切れ刃(5i1、5i2)の接線、第1外周切れ刃(5k1、5k2)、第2外周切れ刃(5L1、5L2)及び、第3外周切れ刃(5m1、5m2)とは、直線L1に対して傾斜させた設定にしている。この傾斜している状態を「ねじれ形状を有する」と表現している。
【0048】
本発明の請求項5に記載の刃先交換式ボールエンドミルに係る発明は、回転軸線の回りに回転する円弧状の切れ刃の回転軌跡が半球状をなし、第1外周切れ刃の回転軌跡が略円筒状をなしている。
また、
図8に示すように、インサート(5)がインサート取付座(4)に取り付けられた状態における側面視において、第2外周切れ刃は、第1外周切れ刃よりも工具本体の回転軸線方向の後方側に形成されており、
図6(a)、
図9に示すインサート(5)の平面図において、第2外周切れ刃は、インサートの平面視において直線状となるが、直線L1と第2外周切れ刃との配置関係は、非平行な直線関係に設定されており、第2外周切れ刃は直線L1方向に傾斜していることから、インサート(5)がインサート取付座(4)に取り付けられて工具本体(2)が軸線Lの回りにR方向に回転したとき、一対の第2外周切れ刃(5L1、5L2)の回転軌跡は第1外周切れ刃(5k1、5k2)の回転軌跡よりも内周側となるように設定されていることが好ましい。即ち、第2外周切れ刃の回転軌跡は、円錐形状をなすように形成されている。
上記のように設定することによって、第2外周切れ刃には、5度程度の逃がし角度を備えることとができるため、切削抵抗の低減化に有効に作用する。
【0049】
前記したように、本発明の効果は、実施形態となるインサートおよびこれを装着した刃先交換式ボールエンドミル(1)を用いて彫り込み加工を行う際、特に立壁側面部の切削加工時に、ねじれ形状を有する一対の外周切れ刃(5k1、5k2)、一対の第2外周切れ刃(5L1、5L2)及び、一対の第3外周切れ刃(5m1、5m2)、が設けられていることにより、軸方向切込み量を大きく設定することができるので、加工能率の向上に寄与することができる。
また、立壁側面部に沿った引き上げ切削加工時にも、実質的な外周切れ刃長さが長いことによって、工具本体に被削面が接触するのを回避することができる。更に、第2外周切れ刃、第3外周切れ刃を備えることによって、第1外周切れ刃の切削負荷を軽減させることとなり、切れ刃の摩耗を抑えて、切れ味を良好に維持できるので、立壁側面部における仕上げ加工において、被削材表面の面粗さ品質を向上させることができる。
【0050】
これに対して、インサート(5)の平面視において、この一対の外周切れ刃がそれぞれ円弧形状を有するような従来例の場合、或は、外周切れ刃がねじれ形状を有していない場合には、切削抵抗が増大する傾向にあり、加工面に削り残しによる段差部が発生して、加工面の表面粗さが低下するといった不都合が生じる。
【0051】
また、
図6(a)に示すように、インサート(5)は、インサートの平面視において直線状の第1外周切れ刃(5k1、5k2)を備えていることによって、インサート(5)の切れ刃に再研摩処理を施すことが可能となり、繰り返し再生利用することができる。これに対して、外周切れ刃が円弧形状を有する従来例の場合は、切れ刃に再研摩処理を施すことによって切れ刃の外径寸法は変化し、これによって外径寸法が減少してしまうため、再研摩処理を施すことが困難である。
【0052】
(実施例)
ボールエンドミルの工具本体は、刃先径がφ10mm、シャンク径がφ10mm、全長100mm、首下長さ35mm、首下径がφ9.8mm、のシャンクタイプの形状である。工具本体の基材は、超硬合金とSKD61相当材とをロウ材で接合した基材を用い、旋盤加工により外観形状を整えた後、シャンク部を研磨加工により仕上げた。また、インサート固定部はマシニングセンターにてフライス加工により形成した。インサートを着脱するためのクランプネジは、呼び径がM3.5、ピッチが0.35mmのサイズを使用した。
本発明例1、比較例2のインサート形状を示す写真を、
図12から
図15に示す。
【0053】
本発明例1のインサートの基材はWC−Co系の超硬合金製とし、インサート表面のコーティング被膜は、CrSi系の窒化物被膜を施した。
インサートの形状は
図12、
図13に示すように、円弧状の切れ刃の半径寸法が5mm、厚さ寸法T値が2.7mm、点Sにおけるインサートの厚さt(mm)を0.48T、側面視における第1外周切れ刃の投影長さF1(mm)は1.06T、側面視における第2外周切れ刃の投影長さF2(mm)は0.63T、とした。
また第1外周切れ刃の接線を線分Eと、第2外周切れ刃の接線を線分Fとの交差角度(度)は零度で両者は平行とし、第3外周切れ刃の接線を線分Gと直線L1との交差角度(度)δ値は、35度の負角で交差するように設定した。
また、
図10に示すように、放射角度5度における円弧状切れ刃の放射方向すくい角、α値を+4.2度、放射角度90度における円弧状切れ刃の放射方向すくい角、β値を+0.5度、円弧状切れ刃の最突出部における放射方向すくい角、γ値を+4.8度、円弧状切れ刃の最突出部、点Qにおける放射角度を45度、となるように設定した。
また第1外周切れ刃の軸方向すくい角を22度、刃先に対する外周面の逃げ角は、切れ刃の最先端部においては15度とし、最外周部に向かうに従って連続的に減少させ、最外周部では11度となるように設定した。
更に、第2外周切れ刃の始点に相当する端部Vの配置は、点Sを基準として、直線L1方向の後方側となるように形成され、かつ、点Sを基準として、インサート厚み方向に小さくなる側に形成した。
【0054】
本発明例1のインサートは、回転軸線の回りに回転する該円弧状の切れ刃の回転軌跡は、半球状をなし、第1外周切れ刃の回転軌跡は略円筒状をなし、第2外周切れ刃の回転軌跡は第1外周切れ刃の回転軌跡よりも内周側となるように設定した。
【0055】
比較例2のインサートは、
図14、
図15に示すように、第1外周切れ刃と離間して存在してるような第2外周切れ刃を有していない。この要件以外は、ほぼ本発明例1のインサートと略同形状の同材質で製作した。
【0056】
作製した本発明例1、比較例2のインサートを刃先交換式ボールエンドミルの工具本体に装着して、切削評価を行なった。それぞれのインサートを取付けた工具本体は、工具保持具であるチャックへ取付けた後、フライス盤の主軸に装着した。下記の切削条件を用いて立壁側面部の等高線加工を実施した。その際に、切込み量(ap)を増加させたときの被削材表面の面粗さを、面粗さ計を用いて測定した。面粗さ、Rmax(μm)の測定結果を、表1に示す。
【0057】
(切削条件)
被削材 :炭素鋼S50C(プラスチック金型用途)硬さ:220HB、
切削速度(Vc) :200m/分
主軸の回転数(n) :6370回転/分
切込み量(ap) :0.5から4.0mmまで、0.5mm刻みで増加
径方向切込み幅(ae):0.2mm(一定)
1刃辺りの送り(fz):0.1mm
テーブル送り(Vf) :1274mm/分
加工方法 :乾式、立壁側面部の等高線加工
【0059】
表1には、本発明例1、比較例2の各インサートによる加工において被削材表面の面粗さ、Rmax(μm)を評価した結果を示す。表1によると、切込み量(ap値)の条件が0.5(mm)の同一条件の場合における比較では、第1、第2外周切れ刃を備えた本発明例1は、Rmax値が3.48(μm)となり、被削材の加工面は光沢のある良好な結果を示した。一方、第2外周切れ刃を備えていない比較例2は、Rmax値が18.44(μm)を示し、本発明例1よりも劣る結果となった。
【0060】
本発明において、被削材表面の面粗さ、Rmax値が50(μm)を以下を満たすとき良好であるとする判定基準を設定して評価した。そこで本発明例1、比較例2とを比較すると、本発明例1は、切込み量(ap値)を3.0(mm)の条件まで大きくした場合であっても、面粗さは目標の判定基準値を満足する良好な状態を維持することができた。一方、比較例2は、切込み量(ap値)を1.5(mm)の条件が限界となり、2.0(mm)の条件ではRmax値が89.24(μm)と大きくなり、目標の判定基準値を満足することができなかった。これより、本発明例1は、立壁側面部の切削加工時に、軸方向切込み量を大きく設定することができることから、加工能率の向上に寄与することが確認できた。また、本発明例1は、ap値を3.0(mm)の条件に設定した場合であっても、Rmax値の目標値を満足することができた理由として、立壁側面部の切削加工時に、実質的な外周切れ刃長さを長く設定できることによって、工具本体に被削面が接触するのを回避できたことが影響しているものと考えられる。
【0061】
本発明に係るインサートの基体の材質は、前記した超硬合金の他に、サーメット、高速度鋼、炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、及びこれらの混合体からなるセラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、多結晶ダイヤモンドあるいは立方晶窒化硼素からなる硬質相と、セラミックスや鉄族金属などの結合相とを超高圧下で焼成する超高圧焼成体を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1:刃先交換式ボールエンドミル(ボールエンドミル)、
2:工具本体、
2a:工具本体の先端部、
3:シャンク部、
4:インサート取付座、
5:インサート、
5a:最先端部、
5b1、5b2:第2横側面部、
5c1、5c2:第3横側面部、
5d:すくい面部、
5e:逃げ面部、
5f:底側面部、
5g:外側面部、
5h:外側面部、
5i1、5i2:円弧状の切れ刃、
5k1、5k2:第1外周切れ刃、
5L1、5L2:第2外周切れ刃、
5m1、5m2:第3外周切れ刃、
5p:ネジ挿通穴、
6:クランプネジ、
7:傾斜縮径部、
8:インサート嵌合溝、
8a、8b:内側面部、
8c:底面部、
9a、9b:先端半体部、
10:インサート固定用ネジ穴、
F1:側面視における第1外周切れ刃の投影長さ(mm)
F2:側面視における第2外周切れ刃の投影長さ(mm)
K:円弧中心点Oと最突出部Qとを結んだ直線、
L:回転軸線(軸線)、
L1:インサートの最先端部(5a)と円弧中心点Oとを通る直線、
L2:直線L1と平行な直線、
M:円弧状の切れ刃の円弧中心点を通り、回転軸線と直交する直線、
O:円弧状切れ刃の円弧中心点、
Q:円弧状切れ刃の最突出部、
S:直線Mと円弧状切れ刃とが交差する点(繋ぎ部S、又は最外周部S)、
T:インサートの厚さ、
U:第1外周切れ刃の端部(第1外周切れ刃と第3外周切れ刃との繋ぎ部)、
V:第2外周切れ刃の端部、始点(第2外周切れ刃と第3外周切れ刃との繋ぎ部)、
α:放射角度5度における円弧状切れ刃の放射方向すくい角、
β:放射角度90度における円弧状切れ刃の放射方向すくい角、
γ:円弧状切れ刃の最突出部における放射方向すくい角、
δ:線分Gと工具回転軸線Lの交差角度(度)δ。