【実施例】
【0014】
実施例では、化粧用のパフとして好適に用いられ、
図1に示すような平板状の多孔質体Pを製造する場合を挙げて説明する。多孔質体Pは、セルが三次元で連通する網目構造を有し、柔軟性および自身の弾力性により曲げたり凹んだ状態から元に戻る形状復元性を有している。また、多孔質体Pは、表面に微細なセル孔が露出しており、これにより化粧料の保持や伸ばしや掻き取りなどを好適に行い得るようになっている。多孔質体Pは、射出成形により得るべき該多孔質体Pの外形に合わせた形状に形成された成形物から水溶性核材を抽出除去する抽出法によって形成される。実施例の抽出法を簡単に説明すると、熱可塑性樹脂と水溶性核材と水溶性化合物とを少なくとも含む混合物を、図示しない射出成形機において該熱可塑性樹脂が溶融する程度に加熱し、射出成形機から溶融させた混合物を成形型10においてホットランナー12を通してゲート14からキャビティ16に射出する(
図2参照)。そして、温度調節手段18により冷却された成形型10において、混合物を冷却固化することで成形物を得て、該成形物を水につけて水溶性核材および水溶性高分子化合物等の水溶性物質を抽出除去する。このように、水溶性核材を抽出除去することで熱可塑性樹脂からなる骨格が残ると共に三次元的に連通するセルが形成された多孔質体Pを得ている。
【0015】
前記多孔質体Pの骨格をなす熱可塑性樹脂としては、水に不溶性で、かつ加熱することで溶融する樹脂であり、また人体(肌)に悪影響を与えないものであれば、特に制限されることなく使用できる。例えば、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリエーテルポリエステル系、スチレン系およびポリアミド系などの熱可塑性エラストマー(TPE);ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)および熱可塑性ポリオレフィン(TPO)などのポリオレフィン;熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU);ポリアミド;ポリイミド;およびポリアセタールなどを使用することができる。ポリエチレンとして、低密度ポリエチレン(LD−PE)、高密度ポリエチレン(HD−PE)、直鎖低密度ポリエチレン(LL−PE)およびα−オレフィン化ポリエチレンなどが挙げられる。この中でも、ポリオレフィン樹脂を選択することで、リサイクル性を向上させることができる。また、これらの熱可塑性樹脂を2種類以上併用することもできる。
【0016】
前記水溶性核材としては、前記成形物をなす熱可塑性樹脂が熱溶融する溶融温度において熱的に安定で、射出成形時に形状を維持し得る物質であり、かつ水に漬けた際に該水に溶ける水溶性を有するものが用いられる。水溶性核材としては、NaCl、KCl、CaCl
2、NH
4Cl、NaNO
3、NaNO
2などの無機物や、トリメチロールエタン(TME)、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、しょ糖、可溶性でんぷん、ソルビトール、グリシン、有機酸(リンゴ酸、クエン酸、グルタミン酸またはコハク酸)のナトリウム塩などの有機物を用いることができる。また、水溶性核材としては、非吸湿性で、固結し難いという風化性の特性を有する、硫酸ナトリウム無水物(無水芒硝)、炭酸ナトリウム無水物、メタケイ酸ナトリウム無水物および四ホウ酸ナトリウム無水物なども用いることができる。そして、これらの水溶性核材を2種類以上併用することも可能である。
【0017】
前記水溶性高分子化合物は、水に溶解し、射出成形時の混合物(熱可塑性樹脂)の粘度を低下させる粘度調整剤や、射出成形時の混合物の流動抵抗を低下させる滑剤として機能するものである。また、水溶性高分子化合物は、熱可塑性樹脂よりも融点が低いものが用いられ、熱可塑性樹脂が溶融状態にあるときに水溶性高分子化合物も溶融しており、成形型10において熱可塑性樹脂が固化した後に水溶性高分子化合物が固化する。なお、水溶性高分子化合物としては、常温で固体にあるものが望ましい。水溶性高分子化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール;ポリエチレングリコールラウリルエーテル、ポリエチレングリコールセチルエーテルなどのポリエチレングリコールモノアルキルエーテル;ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステルなどのポリエチレングリコールモノカルボン酸エステル;ポリエチレングリコールソルビタンラウリル酸エステルなどのポリエチレングリコールソルビタンモノカルボン酸エステル;ポリエチレングリコールジアセテート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジオレエートなどのポリエチレングリコール誘導体;ポリビニルピロリドン;メチルセルロース;カルボキシメチルセルロースナトリウムなどを使用することができる。また、これらの高分子化合物を2種類以上併用することもできる。
【0018】
前記多孔質体Pには、着色剤、充填剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防カビ剤、親水化剤などの成分を任意に配合することができる。また、前記混合物には、水溶性高分子化合物等の添加剤とは別にまたは併せて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂を配合してもよい。成形物の成形時に溶解した熱可塑性樹脂中において、水溶性核材が該熱可塑性樹脂の流動性を妨げるように作用するが、フッ素樹脂を混合物に配合しておくことで、熱可塑性樹脂の適切な流動性を担保することができ、成形物の射出成形を行い易くできる。
【0019】
前記熱可塑性樹脂と水溶性核材を含む水溶性物質との混合割合は、体積百分率で10:90〜40:60の範囲内が好適である。熱可塑性樹脂の割合が10%未満の場合には、水溶性物質の抽出・除去時に多孔質体が形状を維持できず崩壊してしまう。一方、熱可塑性樹脂の割合が40%を越える場合、すなわち水溶性物質が60%未満の場合には、十分なセルが形成されなくなってしまい、その結果十分な三次元連通網目構造が形成されず、空隙率も低下してしまうことで多孔質体Pの感触が悪化する。特に、熱可塑性樹脂の混合割合は、15〜38%の範囲内が好適である。ここで、熱可塑性樹脂と水溶性核材を含む水溶性物質との混合割合を調節することで、多孔質体Pは、空隙率を62%〜85%の範囲に設定することができる。そして、空隙率を前記範囲に設定することで、多孔質体Pの肌ざわりを向上することができる。
【0020】
前記多孔質体Pは、平均セルサイズが10μm〜250μmの範囲にあり、かつ密度が0.13g/cm
3〜0.40g/cm
3の範囲に設定するのが好ましい。抽出法で得られる多孔質体Pでは、水溶性核材の粒径が略そのままセルの大きさとなり、水溶性核材の粒径を分級等により調節することで、多孔質体Pのセルサイズを適宜に調節することができる。そして、多孔質体Pのセルサイズおよび密度を前述の範囲に設定することで、多孔質体Pの肌ざわりを向上することができる。
【0021】
実施例の多孔質体Pを製造する際に用いる成形型10について説明する。
図2に示すように、成形型10は、相対的に開閉可能な第1型20と第2型22とからなり、第1型20と第2型22との間に、得るべき多孔質体Pの外形に合わせたキャビティ16が画成されている。実施例の成形型10は、上下方向に型20,22が開閉するよう構成され、該成形型10の上下方向が多孔質体Pの厚み方向となると共に該成形型10の水平方向(パーティングが基本的に延在する方向)が多孔質体Pの板面方向となるよう、キャビティ16が形成されている。すなわち、多孔質体P(成形物)は、その長手が、成形型10のパーティングに沿う姿勢で該成形型10において射出成形される。また、成形型10は、第1型20に上下に延在するようにホットランナー12が配設され、第1型20の上面でホットランナー12の上端部に接続する射出成形機から該ホットランナー12に溶融状態の混合物が供給される。ホットランナー12は、図示しないヒータ等の加熱手段で流路が加熱されて、射出成形機から供給された混合物の溶融状態を保つよう構成される。成形型10は、ホットランナー12の周囲に隙間Sが設けられており、空気による断熱層を形成することで、キャビティ16を画成する型部分24,26に対するホットランナー12からの熱伝導を防止している。第1型20の下面に開口するホットランナー12の射出口12aと、キャビティ16の一側縁(ホットランナー12に近い側の側縁)に設けられたゲート14との間には、パーティングに沿って延在するランナー部28が設けられている。なお、ゲート14は、キャビティ16の側縁における略中央に開口し、ランナー部28およびキャビティ16よりも狭小な開口幅になっている。そして、成形型10は、射出成形機で溶融させた混合物がホットランナー12に加圧供給され、ホットランナー12からランナー部28を通して、ゲート14を介してキャビティ16に溶融した混合物が射出される。
【0022】
前記成形型10は、該成形型10の温度を調節する温度調節手段18を備えている。実施例の温度調節手段18は、第1型20および第2型22の夫々の内側に設けられた媒体流路18aからなり、媒体流路18aに水等の熱交換用媒体が流通される。第1型20および第2型22には、水平方向の一方に延在する媒体流路18aが、水平方向の他方に離間して複数並べて配置されており、成形型10を構成する材料と媒体流路18aを流通する媒体とが熱伝導するよう構成される。実施例の成形型10では、キャビティ16におけるゲート14に近い部位を挟む上下位置に離間して、媒体流路18aが第1型20および第2型22の夫々に配置されると共に、キャビティ16におけるゲート14から遠い部位を挟む上下位置に離間して、媒体流路18aが第1型20および第2型22の夫々に配置されている。また、成形型10には、ホットランナー12を垂直方向に挟んでキャビティ16と反対側に上下に離間して、媒体流路18aが第1型20および第2型22の夫々に配置されている。温度調節手段18は、成形型10の温度が高いときは媒体流路18aを流通する媒体によって熱を奪って成形型10を冷却し得る一方、成形型10の温度が低いときは媒体流路18aを流通する媒体から熱を与えて成形型10を加温し得るようになっている。なお、温度調節手段18は、溶融した混合物をキャビティ16で冷却固化させるために、基本的に成形型10を冷却するよう機能している。すなわち、温度調節手段18は、熱可塑性樹脂が溶融する高い温度にある混合物を、熱可塑性樹脂より融点が低い水溶性高分子化合物が固化し得る低い温度まで冷却し得るように設定されている。
【0023】
前記成形型10は、ゲート14およびキャビティ16におけるゲート14付近の領域を画成する第1型部分24を、該キャビティ16におけるゲート14から遠い領域を画成する第2型部分26よりも熱伝導率が高い材料で構成している。すなわち、成形型10は、ゲート14から遠い領域(ゲート14からの混合物の流動距離が長い領域)であるほどキャビティ16を構成する材料の熱伝導率が段階的に低くなっており、実施例のキャビティ16は、ゲート14に近い領域と遠い領域との2段階で熱伝導率を異ならしている。実施例の成形型10は、射出成形用の型に使用可能な一般的な材料からなる第2型部分26が大部分を占め、第2型部分26に形成された凹部に第1型部分24が嵌り込むように配設された所謂入れ子構造になっている。
【0024】
前記第1型部分24を構成する材料としては、金属材料が好適であり、金属材料の中でも、亜鉛、銅、ベリリウムなどの比較的熱伝導率に優れた金属やこれらの合金を用いることができる。また、第1型部分24を構成する材料としては、その熱伝導率が60W/m・K〜250W/m・Kの範囲にあるものが用いられる。第1型部分24の熱伝導率が60W/m・Kより低いと、ゲート14近傍の熱影響を十分に解消することができず、第1型部分24の熱伝導率が250W/m・Kより高い材料は大幅なコストアップになってしまい、費用対効果が小さい。第1型部分24でキャビティ16を画成する領域は、ホットランナー12や媒体流路18aの位置関係など、キャビティ16におけるゲート14付近への熱影響の大きさによって設定される。すなわち、ホットランナー12がゲート14に接続される構成や前記ランナー部28が短い構成など、ホットランナー12がゲート14に近い場合には、キャビティ16がホットランナー12から受ける熱影響の範囲が広くなるから、キャビティ16において第1型部分24で画成される範囲が広く設定される。また、媒体流路18aがキャビティ16におけるゲート14近傍に配置できない場合など、温度調節手段18による冷却が足らないときには、キャビティ16がホットランナー12から受ける熱影響の範囲が広くなるから、キャビティ16において第1型部分24で画成される範囲が広く設定される。従って、キャビティ16において第1型部分24で構成される領域は、ゲート14の周囲だけではなく、キャビティ16においてゲート14からの混合物の流動距離が最も長くなる部位(実施例ではキャビティ16においてゲート14が設けられた側縁と対向する側縁)とゲート14との間の中間部を越える領域に亘って第1型部分24で構成してもよい。このように、第1型部分24は、キャビティ16におけるゲート14付近を少なくとも含む領域を構成している。なお、第2型部分26としては、鋼材などの汎用の金属材料を用いることができる。
【0025】
前記第1型部分24は、媒体流路18aに接触するようになっている。実施例では、第1型部分24の内側を延在するように媒体流路18aが設けられており、第1型部分24から媒体流路18aに直接的に熱伝導するよう構成されている。すなわち、第1型部分24は、第2型部分26等の他の部分を介して媒体流路18aに熱伝導するのではなく、第1型部分24が温度調節手段18によって直接冷却されるようになっている。なお、ホットランナー12の周辺部については、熱伝導率が高い材料からなる第1型部分24で構成せずに、第2型部分26でホットランナー12の周辺部を構成したり、第2型部分26と同様の第1型部分24よりも熱伝導率が低い材料で構成するのがよい。
【0026】
実施例に係る多孔質体Pの製造方法について説明する。混合物準備工程では、熱可塑性樹脂、水溶性核材、水溶性高分子化合物および任意の添加物を、一軸式もしくは二軸式押出機、ニーダ、加圧式ニーダ、コニーダ、バンバリーミキサ、ヘンシェルミキサまたはロータミキサその他の混練機などを用いて混合・混練し、押出機などを使用してペレット状の混合物を形成する。ここで、水溶性核材は、分級により大きさが揃えられており、多孔質体に要求される物性に応じた三次元連通網目構造を得られるよう、適宜サイズの水溶性核材が用いられる。この混合・混練について、特殊な装置は必要なく、また混練速度なども限定されない。混練時の温度は、使用する熱可塑性樹脂などの溶融温度によって適宜設定されるが、この熱可塑性樹脂の溶融温度で、水溶性核材が溶融または昇華することがない。また、混練時間は各種混合物の物性により左右されるが、該混合物が十分に混合・混練されればよいが、主材料である熱可塑性樹脂の劣化を抑えるために、通常では30〜40分程度が好ましい。なお、混合物準備工程は、前記内容に限定されず、混合する材料に合わせて適宜内容で行われる。
【0027】
射出成形工程では、射出成形機でペレット状の混合物を加熱して、熱可塑性樹脂を溶融させることで、熱可塑性樹脂より融点が低い水溶性高分子化合物も溶融する一方、水溶性核材はソリッド状態を保っている。溶融させた混合物を、射出成形機からホットランナー12およびランナー部28を通じてゲート14を介してキャビティ16に射出圧を加えつつ押し込んで、該キャビティ16に溶融状態の混合物を充填する。ここで、キャビティ16は、該キャビティ16を画成する型部分24,26がゲート14から離れるほど熱伝導率が低くなるように構成され、キャビティ16におけるゲート14から遠い領域で型温度が過剰に下がることがないように設定されている。キャビティ16に混合物を充填した後に、キャビティ16を保圧した状態で所要の冷却時間に亘って混合物を冷却することで、溶融している熱可塑性樹脂および水溶性高分子化合物を固化させる。時間の経過につれて、融点が高い熱可塑性樹脂がまず固化し、その後に熱可塑性樹脂よりも融点が低い水溶性高分子化合物が固化することで、目的とする多孔質体Pの外形と同じ外形で成形された成形物が得られる。そして、所要の冷却時間を経過した後に、成形型10を開いて成形物を取り出す。ここで、成形型10は、キャビティにおけるゲートから遠い領域が水溶性高分子化合物の融点以下に温度降下するタイミングで、ホットランナー12の熱影響を受けている該キャビティ16におけるゲート14付近の領域を該水溶性高分子化合物の融点以下まで温度降下させるように設定している。ここで、ゲート14を含むキャビティ16におけるゲート14付近の領域を画成する第1型部分24を、該キャビティ16におけるゲート14から遠い領域を画成する第2型部分26より熱伝導率が高い材料を用いることで、ホットランナー12の熱影響を受けているゲート14付近の冷却を促進している。すなわち、キャビティ16を熱伝導率が異なる材料を用いて画成し、該材料の熱伝導率の違いを利用して型温度が均一になるよう温度管理している。
【0028】
抽出工程では、前記射出成形工程で得られた成形物を、適宜温度の水に浸漬し、水溶性核材(水溶性物質)を抽出・除去する。なお、抽出工程では、混合物に水溶性高分子化合物等の他の水溶性添加剤が配合されていれば、この水溶性添加剤も抽出・除去される。抽出工程では、成形物の形状・厚さなどにもよって異なるが24〜48時間程度、水に浸漬し、水溶性核材および水溶性添加物を水に溶解させることで、成形物から除去する。このように、水溶性物質が水に溶けることで、成形物に表面から空隙ができ、この空隙が内側に次第に進行する。この際の成形物の浸漬は、どのような方法であってもよいが、成形物全体を水に接触させる水中浸漬による抽出・除去が好ましい。このとき使用される水の温度についても、特に限定がなく、室温程度であってもよいが、各水溶性物質の効率的な除去のために、15〜60℃の温水を利用することが好ましい。そして、水から引き上げて乾燥等の所要の後処理を行うことで、微細なセルを多数備える三次元連通網目構造とされた多孔質体Pが得られる。
【0029】
〔実施例の作用〕
次に、実施例に係る多孔質体Pの製造方法の作用について説明する。ゲート14およびキャビティ16におけるゲート14付近の領域を画成する第1型部分24を、該キャビティ16におけるゲート14から遠い領域を画成する第2型部分26よりも熱伝導率が高い材料で構成した成形型10を用いて射出成形している。これにより、射出成形工程において、ホットランナー12の熱影響を受けるキャビティ16におけるゲート14付近の領域においても、キャビティ16におけるゲート14から遠い領域と同様に冷却することができる。ここで、60W/m・K〜250W/m・Kの範囲の熱伝導率を有する金属材料で第1型部分24を構成することで、ホットランナー12の熱影響を受けても第1型部分24で熱を円滑に逃がすことができる。すなわち、キャビティ16におけるゲート14付近の領域を熱伝導率が高い第1型部分24で構成することで、当該領域の熱を逃がし易くなり、ホットランナー12の熱影響を受けるゲート14付近を含めたキャビティ16全体を略均一に温度降下させることができる。しかも、実施例の第1型部分24は、温度調節手段18の媒体流路18aに接しているので、媒体流路18aを流通する媒体と好適に熱交換して、より円滑に熱を逃がすことができる。従って、キャビティ16の全体に亘って熱可塑性樹脂より融点が低い水溶性高分子化合物を適切に固化させることができ、スキン層の剥離や表面形状の悪化など、ゲート14付近の水溶性高分子化合物の固化不良に起因して生じる多孔質体Pの成形不良を防止することができる。そして、キャビティ16におけるゲート14から遠い領域が水溶性高分子化合物の融点以下に温度降下したときに、ホットランナー12の熱影響を受けている該キャビティ16におけるゲート14付近の領域についても該水溶性高分子化合物の融点以下まで温度降下させることが可能であるから、水溶性高分子化合物が最短で固化するゲート14から遠い領域に合わせて冷却時間を設定しても、キャビティ16全体として水溶性高分子化合物を固化させることができる。従って、射出成形にかかるサイクルタイムを短縮することができる
【0030】
また、溶融した混合物は、キャビティ16に射出された際に、型面との接触により次第に温度降下するが、キャビティ16全体を熱伝導率が高い第1型部分24で画成するのではなく、キャビティ16におけるゲート14から遠い領域を第1型部分24より熱伝導率が低い第2型部分26で画成している。すなわち、溶融された混合物がキャビティ16への射出途中で過度に熱が奪われることを防止して、適度な溶融状態を保ったままキャビティ16におけるゲート14から遠い領域まで充填できるから、ウェルドマークの発生など成形不良の発生を回避できる。また、溶融された混合物がキャビティ16への射出途中で過度に熱が奪われることを防止できるから、混合物の流動状態がキャビティ16の途中で悪化することはなく、キャビティ16におけるゲート14付近の領域を熱伝導率が高い第1型部分24で画成することによって、冷却時間(サイクルタイム)の延長を招くことはない。
【0031】
(変更例)
前述した構成に限定されず、例えば以下のようにも変更することが可能である。
(1)成形型は、実施例の構成に限定されず、スライドコアを有する等、適宜の型構造を採用し得る。また、第1型部分が第2型部分に配設された入れ子構造に限られず、第1型部分および第2型部分が共に入れ子構造であったり、第2型部分が第2型部分に配設された入れ子構造である等、適宜の型構造を採用し得る。なお、成形型は、1個の成形物を成形するものであっても、複数の成形物を同時成形するものであってもよい。
(2)ホットランナーがランナー部を介さずにゲートに接続する構成であってもよい。
(3)ゲートの位置は、多孔質体の端縁を画成するキャビティの側縁に限定されず、多孔質体の板面を画成するキャビティの面に開口する等、多孔質体の形状等に応じて適宜設定される。
(4)温度調節手段の熱交換流路の配置は、実施例に限定されず、例えば第1型部分の外面に接触させる等、キャビティの形状等の諸条件に合わせて適宜の位置に設定される。また、温度調節手段は、フィン等を介して空気と熱交換するものであってもよい。
(5)実施例では、熱伝導率が異なる第1型部分と第2型部分とでキャビティを画成したが、キャビティにおけるゲート付近を画成する第1型部分と、キャビティにおいてゲートからの混合物の流動距離が最も長くなる部位を含む、キャビティのゲートから遠い領域を構成する第2型部分との間を、1または複数の第3の型部分で構成してよい。この場合であっても、キャビティにおけるゲートから遠い領域からゲートに近づくほどに、熱伝導率が高くなるように型部分を構成するのが望ましい。