【解決手段】光ラジカル重合開始剤を含むアリルエステル樹脂組成物を硬化して得られる硬化物に400〜500nmの波長の光を含み、かつ400〜500nmの波長領域の放射照度の総量が200〜400nmの波長領域の放射照度の総量に対して100倍以上である光を照射する。
光ラジカル重合開始剤を含むアリルエステル樹脂組成物を硬化して得られる硬化物に光を照射する硬化物の色調改善方法であって、照射光が400〜500nmの波長の光を含み、かつ400〜500nmの波長領域の放射照度の総量が200〜400nmの波長領域の放射照度の総量に対して100倍以上であることを特徴とする硬化物の色調改善方法。
照射する光の光源が、白熱電球、ハロゲンランプ、蛍光灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ナトリウム灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、ネオン灯、太陽、LED、レーザーの少なくとも1つである請求項1〜6のいずれかに記載の色調改善方法。
前記光源とコールドミラー、熱線カットフィルター、紫外線カットフィルターより選ばれる1種類以上を組み合わせて、調光された光を照射する請求項7〜10のいずれかに記載の色調改善方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の色調改善方法は光ラジカル重合開始剤を含むアリルエステル樹脂組成物に400〜500nmの波長の光を含む光を照射することを特徴とする。
【0018】
[アリルエステル樹脂]
本発明において使用するアリルエステル樹脂組成物を構成するアリルエステル樹脂は硬化性樹脂の1種である。
【0019】
一般的に、「アリルエステル樹脂」というと硬化する前のプレポリマー(オリゴマーや添加剤、反応性モノマー(「反応性希釈剤」とも言う。)、溶媒を含む)を指す場合とその硬化物を指す場合の二通りの場合があるが、本明細書中では「アリルエステル樹脂」は硬化物を示し、「アリルエステル樹脂組成物」は硬化前のプレポリマーを示すものとする。
【0020】
[アリルエステル樹脂組成物]
本発明において用いられるアリルエステル樹脂組成物はアリル基またはメタリル基(以下、あわせて(メタ)アリル基と言う場合がある。すなわち、本明細書では「(メタ)アリル」とは「メタアリル」または「メタリル」を指す。(メタ)アリルアルコールも同様である。)とエステル構造を有する化合物を主な硬化成分として含有する組成物である。
【0021】
(メタ)アリル基とエステル構造を有する化合物は、(1)(メタ)アリル基及び水酸基を含む化合物(表現を簡略化するため、以下では「(メタ)アリルアルコール」と略記する。)とカルボキシル基を含む化合物とのエステル化反応、(2)(メタ)アリル基及びカルボキシル基を含む化合物と水酸基を含む化合物とのエステル化反応、または(3)(メタ)アリルアルコールとジカルボン酸からなるエステル化合物と多価アルコールとのエステル交換反応により得ることができる。カルボキシル基を含む化合物がジカルボン酸とジオールとのポリエステルオリゴマーである場合には、末端のみ(メタ)アリルアルコールとのエステルとすることもできる。
【0022】
(メタ)アリルアルコールとジカルボン酸からなるエステル化合物の具体例としては、一般式(1)
【化5】
(R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基のいずれかの基を表し、A
1はジカルボン酸に由来する、脂環式構造及び/または芳香環構造を有する1種以上の有機残基を表す。)
で示される化合物の中から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。この化合物は後述のアリルエステルオリゴマーの原料となる他、反応性希釈剤(反応性モノマー)として本発明のアリルエステル樹脂組成物に含まれていてもよい。
【0023】
一般式(1)中のA
1は後述の一般式(2)、一般式(3)におけるA
2、A
3と同様のものが好ましい。
【0024】
アリルエステル樹脂組成物の主な硬化成分である(メタ)アリル基とエステル構造を有する化合物としては、アリル基及び/またはメタリル基を末端基とし、多価アルコールとジカルボン酸とから形成されたエステル構造を有するアリルエステル化合物(以下、これを「アリルエステルオリゴマー」と記載することがある。)であることが好ましい。
【0025】
本発明のアリルエステル樹脂組成物には上記化合物以外の成分として、後述する光重合開始剤を必須成分とし、そのほかに多官能(メタ)アクリル化合物、熱重合開始剤、反応性モノマー(反応性希釈剤)、他のモノマー、添加剤、その他ラジカル反応性の樹脂成分などを含有してもよい。
【0026】
[アリルエステルオリゴマー]
本発明において用いられるアリルエステル樹脂組成物の主成分は、一般式(2)
【化6】
(式中、R
3は水素原子またはメチル基を表し、A
2はジカルボン酸に由来する、脂環式構造及び/または芳香環構造を有する1種以上の有機残基を表す。)
で示される基を末端基として有し、かつ一般式(3)
【化7】
(式中、A
3はジカルボン酸に由来する、脂環式構造及び/または芳香環構造を有する一種以上の有機残基を表し、Xは多価アルコールから誘導された1種以上の有機残基を表す。ただし、Xはエステル結合によって上記一般式(2)で示される基を末端基とし、上記一般式(3)で示される構造を構成単位とする分岐構造を形成することができる。)
で示される構造を構成単位として有するアリルエステルオリゴマーであることが好ましい。
【0027】
上記アリルエステルオリゴマーにおいて、前記一般式(2)で示される末端基の数は少なくとも2個以上であるが、前記一般式(3)のXが分岐構造を有する場合には3個以上となる。この場合、各末端基のR
3も複数個存在することになるが、これらの各R
3は必ずしも同じ種類でなくてもよく、ある末端はアリル基、他の末端はメタリル基という構造であっても構わない。また、全ての末端がアリル基またはメタリル基である必要はなく、硬化性を損なわない範囲で、その一部はメチル基またはエチル基などの非重合性基であってもよい。A
2で示される構造についても同様に、各末端基で異なっていてもよい。例えば、ある末端のA
2はベンゼン環、他方はシクロヘキサン環という構造であってもよい。
【0028】
一般式(2)におけるA
2はジカルボン酸に由来する、脂環式構造及び/または芳香環構造を有する1種以上の有機残基である。ジカルボン酸に由来する部分はA
2に隣接するカルボニル構造で示されている。したがって、A
2の部分はベンゼン骨格やシクロヘキサン骨格を示す。
【0029】
A
2構造を誘導するジカルボン酸としては特に制限はないが、原料の入手しやすさの点からは、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル−m,m’−ジカルボン酸、ジフェニル−p,p’−ジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4’−ジカルボン酸、p−フェニレンジ酢酸、p−カルボキシフェニル酢酸、メチルテレフタル酸、テトラクロルフタル酸が好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が特に好ましい。中でも分子内に芳香環を有さない1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を用いることが耐光性の点で好ましく、高い透明性が求められる用途には1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を用いることが好ましい。
【0030】
また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、A
2構造を誘導するジカルボン酸に加え、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水エンディック酸、無水クロレンド酸などの(反応時において)非環状のジカルボン酸を使用してもよい。
【0031】
一般式(3)で示される構造単位は、アリルエステルオリゴマー中に少なくとも1つは必要であるが、この構造が繰り返されることによりアリルエステルオリゴマー全体の分子量がある程度大きくなった方が適切な粘度が得られるので作業性が向上し、硬化物の靭性も向上するので好ましい。しかし、分子量が大きくなりすぎると硬化物の架橋点間分子量が大きくなりすぎるため、ガラス転移温度(Tg)が低下し、耐熱性が低下するおそれもある。用途に応じて適切な分子量に調整することが大切である。アリルエステルオリゴマーの質量平均分子量は500〜200,000が好ましく、1,000〜100,000がさらに好ましい。
【0032】
また、一般式(3)におけるA
3はジカルボン酸に由来する、脂環式構造及び/または芳香環構造を有する1種以上の有機残基であり、その定義及び好ましい化合物の例は一般式(2)におけるA
2と同様である。
【0033】
一般式(3)中のXは、多価アルコールから誘導された1種以上の有機残基を表す。多価アルコールとは2個以上の水酸基を有する化合物であり、X自体は、多価アルコールの水酸基以外の骨格部分を示す。多価アルコール中の水酸基は少なくとも2個が存在していればよいため、原料となる多価アルコールが3価以上、すなわち、水酸基が3個以上のときは、未反応の水酸基が存在していてもよい。多価アルコールの炭素数は2〜20が好ましい。
【0034】
炭素数2〜20の多価アルコールのうち、2価のアルコールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノール−Aのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノール−Aのプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールA、2,2−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパンなどが挙げられる。
また、3価以上の多価アルコールの具体例としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジペンタリスリトールなどが挙げられる。これらの多価アルコールの2種以上の混合物であってもよい。また、上述の具体例に限定されるものではない。
【0035】
アリルエステルオリゴマー中の一般式(3)で示される構造単位としては、同一の構造単位が繰り返されていても、異なる構造単位が含まれていてもよい。つまり、アリルエステルオリゴマーは共重合タイプであってもよい。この場合、1つのアリルエステルオリゴマーには数種類のXが存在することになる。例えば、Xの1つがプロピレングリコール由来の残基、もう1つのXがトリメチロールプロパン由来の残基であるという構造でもよい。この場合、アリルエステルオリゴマーはトリメチロールプロパン残基の部分で枝分かれすることになる。A
3も同様にいくつかの種類が存在してもよい。以下にR
3がアリル基、A
2及びA
3がイソフタル酸由来の残基、Xがプロピレングリコールとトリメチロールプロパンの場合の構造式を示す。
【化8】
【0036】
[アリルエステルオリゴマーの製造方法]
本発明に用いられるアリルエステルオリゴマーは、多価カルボン酸のアリルエステルモノマーと2〜6個の水酸基を有する多価アルコールとのエステル交換反応により製造することができる。多価カルボン酸のアリルエステルモノマーは多価カルボン酸と(メタ)アリルアルコールのエステルであり、特にジカルボン酸のアリルエステルモノマーが好ましい。具体的には、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジアリル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸ジアリル、メチルテトラヒドロフタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、コハク酸ジアリル、マレイン酸ジアリルなどが挙げられる。これらアリルエステルモノマーは、必要に応じて2種以上併用することもできる。また、上述の具体例に限定されるものではない。
【0037】
多価アルコールとしては前述のX構造を誘導する多価アルコールを使用する。
【0038】
末端に(メタ)アリルエステル基を有するアリルエステルオリゴマーを得るためには、これらの使用比率として、2価のカルボン酸のカルボキシル基よりも、多価アルコールのヒドロキシル基を少なく用いる必要がある。
【0039】
本発明で使用するエステル交換反応触媒としては、従来知られているエステル交換触媒が使用できるが、特に好ましいのはアルカリ金属、アルカリ土類金属及びそれらの酸化物、及び弱酸塩、Mn、U、Zn、Cd、Zr、Pb、Ti、Co及びSnの酸化物、水酸化物、無機酸塩、アルコラート、有機酸塩、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ジクロライドなどの有機錫化合物などを挙げることができる。中でも、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイドが好ましい。
【0040】
使用量は、触媒の活性によって異なるが、適度な速度でアリルアルコールを留出させ得るような量を使用すべきである。一般的には、多価カルボン酸のアリルエステルモノマーに対して0.0001〜1質量%、特に好ましくは0.001〜0.5質量%程度を使用することが好ましい。
【0041】
この製造工程における反応温度は、特に制限はないが、好ましくは120〜230℃の範囲、より好ましくは140〜200℃の範囲である。
反応の実施の形態としては、反応の進行を促進させるため、減圧下で行うか、適当な溶媒を使用して副生するアリルアルコールを反応系外に除去しながら行う必要がある。
アリルエステルオリゴマーの具体的な製造方法は例えば特公平6−74239号公報(US4959451)に記載されている。
【0042】
[多官能(メタ)アクリル化合物]
本発明で使用する多官能(メタ)アクリル化合物は、分子内に少なくとも2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である。なお、前述のように本明細書では「(メタ)アクリル」とは「アクリル」または「メタクリル」を指し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」または「メタアクリレート」を指す。多官能(メタ)アクリル化合物の例としてはエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ポリブタジエンジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン及び2,2−ビス(4−(ω−(メタ)アクリロイロキシポリエトキシ)フェニル)プロパン、ジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのエチレンオキサイド付加物のトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の三官能の(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのエチレンオキサイド付加物のテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の4官能以上の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。その他、内部骨格にウレタン結合を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート、内部骨格にエステル結合を有する多官能のポリエステルポリオールの(メタ)アクリレート、内部骨格にエーテル結合を有する多官能のポリエーテルポリオールの(メタ)アクリレート、内部骨格にカーボネート結合を有する多官能のポリカーボネートポリオールの(メタ)アクリレート、多官能エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との反応によって得られるエポキシ(メタ)アクリレート等を用いることができる。
【0043】
エポキシ(メタ)アクリレートの具体例としてはビスフェノールAジグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、ビスフェノールFアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル、ノボラック型ポリグリシジルエーテル類等と(メタ)アクリル酸との反応物等が挙げられる。
【0044】
上記の多官能(メタ)アクリル化合物は、1種単独で、または2種以上混合または組み合わせて用いることができる。これらの多官能(メタ)アクリル化合物の使用量には特に制限はないが、アリルエステルオリゴマー100質量部に対して、1〜100質量部であることが好ましく、10〜70質量部であることがより好ましく、20〜50質量部であることが特に好ましい。多官能(メタ)アクリル化合物の使用量が1質量部未満であると、架橋密度が低くなり耐熱性が不十分になったりすることがある。また、使用量が100質量部を超えるとアリルエステル樹脂自体の優れた透明性が発現されなかったり、アリルエステル樹脂由来の機械強度が低下したりする場合がある。
【0045】
[光重合開始剤]
本発明において用いられるアリルエステル樹脂組成物は光重合開始剤を含有する。光重合開始剤は活性エネルギー線により開裂しラジカルを発生することで樹脂組成物を硬化させる。
【0046】
本発明における光重合開始剤はアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含むことが好ましい。アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤は高い光開始活性とフォトブリーチング効果を有する。フォトブリーチング効果とは光を吸収して光重合開始剤が開裂すると、分解後の開始剤残渣は紫外線を吸収しなくなり、内部への紫外線透過を妨げなくなることである。そのため、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤は内部硬化性に優れ、厚膜の硬化が可能な光重合開始剤である。また、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤とアルキルフェノン系光重合開始剤、チタノセン系光重合開始剤、オキシムエステル系光重合開始剤、オキシルフェニル酢酸エステル系光重合開始剤を組み合わせて用いることができる。
【0047】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤は大きく分類すると、一般式(5)
【化9】
(式中、複数のR
4は、それぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基のいずれかの基を表す。)で示される構造を有するモノアシルフォスフィンオキサイドと、一般式(6)
【化10】
(式中、複数のR
5は、それぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、メチルペンチル基のいずれかの基を表す。)で示されるビスアシルフォスフィンオキサイドに分類される。モノアシルフォスフィンオキサイドとしては2、4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリエチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリフェニルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビスアシルフォスフィンオキサイドとしてはビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドが挙げられる。
【0048】
また、アルキルフェノン系光重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルフォリニル)フェニル]−1−ブタノン、及びオリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]}が挙げられる。チタノセン系光重合開始剤としては、ビス(η5−シクロペンタジエニル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル)チタニウムが挙げられる。オキシムエステル系光重合開始剤としては2−(2−オキソ-2−フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステル、オキシルフェニル酢酸エステル系光重合開始剤としては2−(−2−オキソ―2−フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(−2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルが挙げられる。
【0049】
[熱重合開始剤]
本発明において用いられるアリルエステル樹脂組成物には熱重合開始剤を併用してもよい。使用できる熱重合開始剤としては特に制限はなく、一般に用いられているものを使用することができる。中でも、アリル基の重合開始の点からラジカル重合開始剤を添加することが望ましい。ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物などが挙げられる。
【0050】
有機過酸化物としては、ジアルキルパーオキサイド、アシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシエステルなどの公知のものが使用可能である。その具体例としては、ジイソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジサッシニックアシッドパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス[4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル]プロパン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジ(t−ヘキシル)パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキシド、及びt−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0051】
アゾ化合物としては、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)などが挙げられる。
【0052】
これらの光重合開始剤及び熱重合開始剤は1種でもよく、2種以上を混合ないし組み合わせて用いてもよい。アリルエステル樹脂組成物のフィルムまたはシートの半硬化はUVなどの活性エネルギー線の照射によると、半硬化で止める反応制御が容易となる。また、その後の二次硬化、さらにその後の後硬化には有機過酸化物などの熱硬化型のラジカル重合開始剤が適している。したがって、2種類以上の硬化剤を組み合わせることがより好ましく、特に光重合開始剤と熱重合開始剤を組み合わせることが好ましい。
【0053】
本発明におけるアリルエステル性樹脂組成物は光重合開始剤単独で用いてもよく、熱重合開始剤と組み合わせて用いてもよい。これらの重合開始剤の配合量には特に制限はないが、アリルエステルオリゴマー、多官能(メタ)アクリル化合物、反応性モノマーなどラジカル重合性成分の合計100質量部に対し、重合開始剤(合計)を0.1〜10質量部配合することが好ましく、0.5〜5質量部配合することがより好ましい。重合開始剤の配合量が0.1質量部より少ないと十分な硬化速度を得ることが困難であり、また配合量が10質量部を超えると、最終的な硬化物が脆くなり、機械的強度が低下する場合がある。
【0054】
[反応性モノマー]
本発明において用いられるアリルエステル樹脂組成物には、硬化反応速度のコントロール、粘度調整(作業性の改善)、架橋密度の向上、機能付加などを目的として、反応性モノマー(反応性希釈剤)を加えることもできる。反応性モノマーとしては特に制限はなく、種々のものが使用できるが、アリルエステルオリゴマーと反応させるためにはビニル基、アリル基などのラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を有するモノマーが好ましい。例えば、不飽和脂肪酸エステル、芳香族ビニル化合物、飽和脂肪酸または芳香族カルボン酸のビニルエステル及びその誘導体、架橋性多官能モノマーなどが挙げられる。中でも、架橋性多官能性モノマーを使用すれば、硬化物の架橋密度を制御することもできる。これら反応性モノマーの好ましい具体例を以下に示す。なお、前述の多官能(メタ)アクリル化合物も架橋性多官能性モノマーの1種である。以下にこれ以外の具体例を示す。
【0055】
不飽和脂肪酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;
フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、1−ナフチル(メタ)アクリレート、フルオロフェニル(メタ)アクリレート、クロロフェニル(メタ)アクリレート、シアノフェニル(メタ)アクリレート、メトキシフェニル(メタ)アクリレート及びビフェニル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸芳香族エステル;
フルオロメチル(メタ)アクリレート及びクロロメチル(メタ)アクリレートなどのハロアルキル(メタ)アクリレート;
さらに、グリシジル(メタ)アクリレート、アルキルアミノ(メタ)アクリレート、及びα−シアノアクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0056】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、スチレンスルホン酸、4−ヒドロキシスチレン及びビニルトルエンなどを挙げることができる。
【0057】
飽和脂肪酸または芳香族カルボン酸のビニルエステル及びその誘導体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル及び安息香酸ビニルなどを挙げることができる。
【0058】
架橋性多官能モノマーとしては、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジメタリル、テレフタル酸ジアリル、トリメリット酸トリアリル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジアリル、1,5−ナフタレンジカルボン酸ジアリル、1,4−キシレンジカルボン酸アリル及び4,4’−ジフェニルジカルボン酸ジアリルなどの芳香族カルボン酸ジアリル類;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル及びジビニルベンゼンなどの二官能の架橋性モノマー;トリ(メタ)アリルイソシアヌレート、トリ(メタ)アリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート及びジアリルクロレンデートなどの三官能の架橋性モノマーなどが挙げられる。
【0059】
上記の反応性モノマーは、1種単独で、または2種以上混合または組み合わせて用いることができる。これらの反応性モノマーの樹脂成分の使用量には特に制限はないが、アリルエステルオリゴマー100質量部に対して、1〜1000質量部であることが好ましく、2〜500質量部であることがより好ましく、5〜100質量部であることが特に好ましい。反応性モノマーの使用量が1質量部未満であると、粘度低下効果が小さくいために作業性が悪化したり、反応性モノマーとして多官能性モノマーを使用した場合には架橋密度が低くなり耐熱性が不十分になったりすることがある。また、使用量が1000質量部を超えるとアリルエステル樹脂自体の優れた透明性が発現されなかったり、アリルエステル樹脂由来の機械強度が低下したりする場合がある。
【0060】
[ラジカル反応性の樹脂成分]
本発明において用いられるアリルエステル樹脂組成物は、諸物性を改良する目的でラジカル反応性の樹脂成分を含んでいてもよい。これら樹脂成分としては不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などが挙げられる。
【0061】
不飽和ポリエステル樹脂は、多価アルコールと不飽和多塩基酸(及び必要に応じて飽和多塩基酸)とのエステル化反応による縮合生成物を、必要に応じてスチレンなどの重合性不飽和化合物に溶解したもので、例えば「ポリエステル樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社,1988年発行,第16頁〜第18頁及び第29頁〜第37頁などに記載されている樹脂を挙げることができる。この不飽和ポリエステル樹脂は、公知の方法で製造することができる。
【0062】
ビニルエステル樹脂はエポキシ(メタ)アクリレートとも呼ばれ、一般にエポキシ樹脂に代表されるエポキシ基を有する化合物と(メタ)アクリル酸などの重合性不飽和基を有するカルボキシル化合物のカルボキシル基との開環反応により生成する重合性不飽和基を有する樹脂、またはカルボキシル基を有する化合物とグリシジル(メタ)アクリレートなどの分子内にエポキシ基を持つ重合性不飽和化合物のエポキシ基との開環反応により生成する重合性不飽和基を有する樹脂を指す。詳しくは「ポリエステル樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社,1988年発行,第336頁〜第357頁などに記載されており、その製造は、公知の方法により行うことができる。
【0063】
ビニルエステル樹脂の原料となるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、ビスフェノールFアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル、ノボラック型ポリグリシジルエーテル類などが挙げられる。
【0064】
上記のラジカル反応性の樹脂成分は、1種単独で、または2種以上混合または組み合わせて用いることができる。これらのラジカル反応性の樹脂成分の使用量には特に制限はないが、アリルエステルオリゴマー100質量部に対して、1〜1000質量部であることが好ましく、2〜500質量部であることがより好ましく、5〜100質量部であることが特に好ましい。反応性モノマーの使用量が1質量部未満であると、ラジカル反応性の樹脂成分由来の機械強度向上などの効果が小さく、作業性や成形性が悪化することがある。また、使用量が1000質量部を超えるとアリルエステル樹脂自体の耐熱性が現れない場合がある。
【0065】
[添加剤]
本発明において用いられるアリルエステル樹脂組成物には、硬度、強度、成形性、耐久性、耐水性を改良する目的で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、消泡剤、レベリング剤、離型剤、撥水剤、難燃剤、低収縮剤、架橋助剤などの添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0066】
酸化防止剤としては、特に制限はなく、一般に用いられているものを用いることができる。中でも、ラジカル連鎖禁止剤であるフェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤が好ましく、フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。フェノール系酸化防止剤としては2,6−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)及び1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンなどが挙げられる。
【0067】
紫外線吸収剤としては、特に制限はなく、一般に用いられているものを用いることができる。中でも、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤が好ましく、特に、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましい。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール及び2−(2−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0068】
滑剤としては、特に制限はなく、一般に用いられているものを用いることができる。中でも、金属石鹸系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、脂肪族炭化水素系滑剤などが好ましく、金属石鹸系滑剤が特に好ましい。金属石鹸系滑剤としては、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸アルミニウムなどが挙げられる。これらは複合体として用いてもよい。
【0069】
消泡剤としては、ポリエーテルや界面活性剤などの有機系消泡剤やシリコーン系消泡剤などが挙げられる。
レベリング剤としては、シリコーン系レベリング剤、アクリル系レベリング剤などが挙げられる。
離型剤としては、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤、ワックス系離型剤、ポリビニルアルコール系離型剤、ステアリン酸金属塩などが挙げられる。
撥水剤としては、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤、ワックス系撥水剤などが挙げられる。
難燃剤としては、トリメチルホスフェートなどのリン系難燃剤、水酸化アルミニウムなどの無機系難燃剤、シアヌル酸メラミンなどのノンハロゲン有機化合物系難燃剤などが挙げられる。
低収縮剤としては、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、スチレン−酢酸ビニル系ブロック共重合体などの有機高分子系低収縮剤などが挙げられる。
架橋助剤としては、イソシアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリメタリル、シアヌル酸トリアリルなどの架橋助剤などが挙げられる。
【0070】
これらの添加剤は上述した具体例に制限されるものではなく、本発明の目的、または効果を阻害しない範囲であらゆるものを添加することができる。
【0071】
[アリルエステル樹脂組成物の硬化方法]
本発明に用いられるアリルエステル樹脂組成物は所定の形状へ賦形した後、活性エネルギー線を照射して硬化させることができる。アリルエステル樹脂のフィルムまたはシートは、アリルアステル樹脂組成物を他のフィルムまたはシート、平板などの基材上に展伸し、樹脂組成物を加熱あるいは活性エネルギー線を照射して、硬化して得ることができる。加熱または活性エネルギー線の照射時には基材上の樹脂組成物をカバーフィルムまたはシートで被覆してもよい。
【0072】
活性エネルギー線としては、電離放射線、すなわち、紫外線または電子線などが挙げられる。電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含む光線を用いればよい。紫外線量としては、用いる活性エネルギー線硬化型樹脂組成物やフィルムシートの厚みに応じて適宜選択すればよく、通常10〜700mJ/cm
2程度であり、100〜500mJ/cm
2が好ましい。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯などが用いられる。
【0073】
電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂組成物やフィルムの厚みに応じて適宜選定すればよく、通常加速電圧70〜300kV程度であることが好ましい。また、照射線量は、樹脂組成物がゲル化する程度の量が好ましく、通常5〜300gGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
【0074】
本発明における組成物は活性エネルギー線の照射により硬化されるが、必要に応じて硬化後にさらに加熱処理により熱硬化を行うことができる。加熱処理は熱風乾燥器、オーブン、オートクレーブなどを用いて行えばよい。加熱温度は使用したラジカル重合開始剤の種類によるが、通常は100℃〜200℃、好ましくは120℃〜180℃である。100℃以下では硬化が十分に進まず、200℃を超えると着色しやすくなる。
【0075】
前記基材としては、活性エネルギー線を照射しても急激な劣化を生じないものであれば特に制限はない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、金属やガラスなどのフィルムやシートを用いることができる。前記カバーフィルム、シートを使用する場合には基材と同じ材質、形状、サイズのものが好ましい。これは基材とカバーフィルム、シート間での収縮やひずみの差を小さくするためである。なお、活性エネルギー線を照射する場合カバーフィルムまたはシートは当該活性エネルギー線が透過する材質を用いる必要がある。
【0076】
前記基材及びカバーフィルムまたはシートは、フィルムまたはシートを基材から剥がし易くする目的で、剥離剤を塗布して形成した剥離層を設けて剥離シートとして用いることができ、フィルムまたはシートの片面、または両面に設けることができる。前記剥離シートは、例えば、剥離シート上に樹脂組成物を硬化後に所定の厚さとなるように展伸(塗布)し、塗布した樹脂組成物側からエネルギー線を照射して樹脂組成物をゲル化させて半硬化フィルムまたはシートを形成して、さらに剥離シートを重ねることで、剥離シートが両面に設けられたフィルムまたはシートを得ることができる。
【0077】
剥離剤としては、アルキド系樹脂、シリコーン系樹脂などを含む剥離剤を用いることができる。剥離層は、剥離剤を基材の表面上に塗布することにより設けられる。基材上にアリルエステル樹脂組成物を展伸させる方法としては、特に制限なく、例えばロールコーター、スプレー、スピンコートなどの各種塗布方法により行うことができる。樹脂組成物の塗布量は、樹脂組成物の硬化後の厚さが後述する所望の厚さとなるように適宜選択すればよい。
【0078】
[光照射による色調改善方法]
本発明の硬化物の色調改善方法について説明する。本発明はアリルエステル樹脂組成物を硬化して得られる硬化物(以下「硬化物」という。)に400〜500nmの波長の光を含み、かつ400〜500nmの波長領域の放射照度の総量が200〜400nmの波長領域の放射照度の総量に対して100倍以上である光を照射することを特徴とする。
【0079】
硬化物に照射する光は400〜500nmの波長領域の放射照度の総量が200〜400nmの波長領域の放射照度の総量に対して100倍以上である。200〜400nmの波長領域の光は、硬化物の着色を促進することがあるので、400〜500nmの波長領域の光照射による色調改善効果を相殺することがある。したがって、200〜400nmの波長領域の光の相対強度は400〜500nmの波長領域の放射照度に対して小さい方が好ましい。なお、放射照度は光源のスペクトルを波長範囲において積分し、算出する。
【0080】
さらには、380nm未満の波長の光は硬化物に着色を起こす可能性があるため、照射光は380nm未満の波長の光を含まないことがより好ましい。ここで言う「含まない」とは、波長200〜800nm領域のスペクトルの放射照度の総量に対して、200〜380nmの領域のスペクトルの放射照度が1%以下であることを意味する。
【0081】
照射光には500nmを超える波長の光が含まれていてもよい。この波長領域の光自体は硬化物の色調への影響は少ないが、赤外領域の光が照射されると熱線吸収により硬化物の温度が上昇し、この温度上昇が色相その他へ悪影響を及ぼすことがある。また、緑色LEDのように400〜500nmの波長領域の光強度が相対的に小さい場合には、総光量を大きくしてやれば、本発明の色調改善効果を得ることが可能となる。
【0082】
本発明の光照射処理に用いられる光源の例としては、太陽光等の自然光や人工光源が挙げられる。人工光源の例としては、白熱電球、ハロゲンランプ等のフィラメントからの熱放射光、蛍光灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ナトリウム灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等のアーク放電によるもの、ネオン灯等のグロー放電によるもの、LED、レーザー等が挙げられる。
【0083】
光照射時の硬化物の着色を防ぐことを目的に、照射される光は、フィルターを透過させることにより調光することができる。使用するフィルターは、具体的にはガラスに特定の波長の光を選択的に吸収する物質を混ぜるか、基板の表面に特定の波長の光を吸収する光学薄膜を成膜することにより、特定の波長の光の透過を阻止できる光学フィルターが挙げられる。光学フィルターの具体例としては、可視光フィルター、紫外線フィルター、赤外線フィルターが挙げられる。また光学フィルターとしては、数ナノメートルから数十ナノメートルの波長範囲の光を選択的に照射することのできるバンドパスフィルターや、特定の波長以下の波長の光を透過させるショートパスフィルターや特定の波長以上の波長の光を透過させることのできるロングパスフィルターが挙げられる。これら光学フィルターは複数のフィルターを併用することもできる。
【0084】
光照射の方法は、硬化物に効率的に光が照射されればよく、その方法は限定されない。硬化物がフィルム状、シート状の場合、平面部分に対して光が垂直に照射されるよう光源を設置することが望ましい。また、照射の際、光源は平面部分の片側に設置してもよく、両側に設置してもよい。被照射物である活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物が光源に対して固定あるいは移動している状態でもよい。移動している例としては、長尺状の硬化物を搬送しながら光を照射する光照射方法が挙げられる。
【0085】
光を照射する際は、硬化物の表面温度の上昇を防ぐことが好ましく、硬化物の表面温度が150℃以下であることが好ましい。表面温度が150℃を超えると硬化物が再着色する可能性がある。硬化物を150℃以下に保持するためには、光源から発生する熱線を効率的に取り除くことが必要である。そのような方法としては、水冷ジャケット方式のように、光源の外回りに二重管のジャケットを取り付け、ジャケット内に純水を流す方法、コールドミラー方式のように、光源を金属薄膜を多層蒸着したパイレックス(登録商標)ガラスで囲んで赤外線を透過させ、かつ反射した紫外線を基材に照射する方法、熱線カットフィルターを用いる方式等がある。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの記載により限定されるものではない。
【0087】
[硬化物の色調測定]
色調はJISZ8729に規定されるL*a*b*表色系のうち、b*で評価した。b*が0に近いほど色調が良好とする。
使用機器:日本電色工業社製 測色色差計ZE6000。
測定方法:D65光/10°視野、40mm×40mm×厚さ200μmの硬化物の色調を測定した。
【0088】
[b*減少率]
実施例記載のb*減少率は以下の式から計算した。
【数1】
式中、b*
0は光照射または暗所保管前のb*、b*
tは光照射または暗所保管24h後のb*を表す。
【0089】
合成例1:アリルエステルオリゴマー(1)の合成
蒸留装置の付いた2リットルの三つ口フラスコに、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル1625g、トリメチロールプロパン167g、ジブチル錫オキサイド0.813gを仕込み、窒素気流下、180℃で反応した。エステル交換反応で生成してくるアリルアルコールを留去しながら加熱を続けた。留去されたアリルアルコールが約170gになったところで反応系内を徐々に、約4時間かけて6.6kPaまで減圧し、アリルアルコールの留出速度を速めた。留出液がほとんどでなくなったところで、反応系を0.5kPaに減圧し、さらに1時間反応させた後、反応物を冷却し、アリルエステルオリゴマー(1)を得た。
【化11】
【0090】
フィルム成形:
合成例1で製造したアリルエステルオリゴマー(1)70質量部とトリメチロールプロパントリアクリレート30質量部とパーヘキシルI(登録商標、日油株式会社製)1質量部、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(Lucirin TPO、BASF社製)0.5質量部を均一となるまで混合し、アリルエステル脂組成物(1)を調製した。次いで当該樹脂組成物を硬化後の厚さが200μmとなるようにPETフィルム上にアプリケーターを用いて塗布した。塗布面にPETフィルムを被せた後、紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製アイグランデージ、メタルハライドランプ)を用いて200mW/cm
2、800mJ/cm
2の条件で紫外線を照射した後、半硬化フィルムを130℃に設定したオーブン内に2時間投入した。オーブンから取り出し、両方のPETフィルムを剥がし厚さ200μmの硬化フィルム(1)を得た。
【0091】
実施例1:青色LED
フィルム成形で得られた硬化フィルム(1)を40mm×40mmにカットし、室温で青色LEDによる光を照射した。光源はフィルム上方10cmに設置し、フィルム片面に光を照射した。照射時間は0、1、2、24時間とした。照射後、フィルムの色調を測定した。
光源:パワーLED光源LAJ4C LAJ4C−052(岩崎電気株式会社製)。
光源から照射される光の相対スペクトルを
図1に示す。
【0092】
実施例2:蛍光灯(1)
硬化フィルム(1)を40mm×40mmにカットし、室温で蛍光灯による光を照射した。光源はフィルム上方10cmに設置し、フィルム片面に光を照射した。照射後、フィルムの色調を測定した。
光源:3波長昼光15W FL15EDK−PL(株式会社日立製作所製)。
光源から照射される光の相対スペクトルを
図2に示す。
【0093】
実施例3:キセノンアークランプ
硬化フィルム(1)1を40mm×40mmにカットし、キセノンアークランプを紫外線カットフィルターにより調光した光を照射した。照射する際のフィルム温度は65℃とした。光源はフィルム上方20cmに設置し、フィルム片面に光を照射した。照射後、フィルムの色調を測定した。
照射装置:卓上型耐光性試験機サンテストXLS+(東洋精機株式会社製)。
照射光:波長290nm〜800nm、750W/m
2(300〜800nm放射照度モニタリングで測定)、紫外線カットフィルターにより400nm以下の光線をカットした。
光源から照射される光の相対スペクトルを
図3に示す。
【0094】
比較例1:赤色LED
硬化フィルム(1)を40mm×40mmにカットし、室温で赤色LEDによる光を照射した。光源はフィルム上方10cmに設置し、フィルム片面に光を照射した。照射後、フィルムの色調を測定した。
光源:パワーLED光源LAJ4C LAJ4C−051(岩崎電気株式会社製)。
光源から照射される光の相対スペクトルを
図5に示す。
【0095】
比較例2:蛍光灯(2)
硬化フィルム(1)を40mm×40mmにカットし、室温で蛍光灯による光を照射した。蛍光灯はフィルム上方10cmに設置し、フィルム片面に光を照射した。照射後、フィルムの色調を測定した。
光源:3波長昼光15W FL15D(パナソニック株式会社製)。
光源から照射される光の相対スペクトルを
図6に示す。
【0096】
比較例3:蛍光灯(3)
硬化フィルム(1)を40mm×40mmにカットし、室温で蛍光灯による光を照射した。蛍光灯はフィルム上方10cmに設置し、フィルム片面に光を照射した。照射後、フィルムの色調を測定した。
光源:クリーンルーム用蛍光ランプ FLR40SY/MP NU(株式会社東芝)。
光源から照射される光の相対スペクトルを
図7に示す。
【0097】
比較例4:暗所
硬化フィルム(1)を40mm×40mmにカットし、室温、空気下で遮光し、0、1、2、24時間保管した後にフィルムの色調を測定した。
【0098】
比較例5:キセノンアークランプ(紫外線カットフィルター無し)
フィルム成形で得られたフィルムを40mm×40mmにカットし、キセノンアークランプによる光を紫外線カットフィルターを用いずに照射した。照射する際のフィルム温度は65℃とした。光源はフィルム上方20cmに設置し、フィルム片面に光を照射した。照射後、フィルムの色調を測定した。
照射装置:卓上型耐光性試験機サンテストXLS+(東洋精機株式会社製)。
照射光:波長290nm〜800nm、750W/m
2(300〜800nm放射照度モニタリングで測定)。
【0099】
実施例1〜3及び比較例1〜5の結果をまとめて表1に示す。
【表1】
【0100】
参考例1:温度の影響
硬化フィルム(1)を実施例1と同じ条件で1時間光照射した後、150℃のオーブンに1時間入れた。加熱後のフィルムの色調を測定した。その結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
400〜500nmの波長の光を含む光を照射した実施例1〜3の試験片は光を照射していない比較例5の試験片と比べてb*が減少した。また、400〜500nmの波長の光をほぼ含まない単色LEDの光を照射した比較例1、2ではb*が減少していない。400〜500nmの光を含まない蛍光灯(3)の光を照射した比較例4の試験片はb*が減少しないことから400〜500nmの光を照射することを必須とする本発明は色調改善効果が優れている。
【0103】
380nm未満の光を含む蛍光灯(2)の光を照射した比較例3の試験片は380nm未満の波長を実質的に含まない蛍光灯(1)の光を照射した実験例2と比較して、b*が減少する速度が遅い。また、380nm未満の波長をかなり含むキセノンアークランプの光を照射した比較例5はb*が増加している。このことから、380nm未満の波長の光の照射は色調改善効果を低下させる、または硬化物が着色するため望ましくない。
【0104】
400〜500nmの波長の光を含む蛍光灯の光を照射した試験片に対して、150℃の加熱を行った参考例1の試験片は加熱前と比較してb*が増加している。このことから活性エネルギー性樹脂硬化物の着色を防ぐために光照射時の温度は150℃以下が好ましい。