【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 分離技術会年会2013技術・研究発表講演要旨集(発行者:分離技術会年会2013実行委員会、発行日:平成25年5月24日、37ページ、演題番号S1−P23、タイトル:「カーボンモノリスカラムの溶質保持特性の評価」) 分離技術会年会2013(日時:平成25年5月24日〜25日、場所:日本大学生産工学部津田沼キャンパス、演題番号S1−P23、タイトル:「カーボンモノリスカラムの溶質保持特性の評価」)
【解決手段】カーボンモノリス多孔質体からなり、酸化還元反応活性を有し、上記カーボンモノリス多孔質体が、カーボンモノリスの表面に反応性基を有し、上記カーボンモノリス多孔質体は、カーボンモノリス形成材が三次元の網目状に連結されて形成されてなる骨格からなり、該骨格は連続した空隙を有し、上記骨格における空隙率が60〜80%であり、上記骨格の表面積が40〜350m
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のカラム充填剤を、さらに詳細に説明する。
<全体構成>
本発明のカラム充填剤は、カーボンモノリス多孔質体からなり、酸化還元反応活性を有するものである。
【0011】
(カーボンモノリス)
上記カーボンモノリスは、炭素を主成分とする化合物からなる、一体型の構造であるモノリス構造を有する多孔質体を意味する。本実施形態における構造を
図1(a)に示す。
モノリス構造により、物理的強度が高く耐圧性に優れ、高流速の送液が低背圧で可能になる。
【0012】
(カーボン)
上記カーボンモノリス多孔質体は、カーボン(炭素)が主成分の炭素系化合物をその形成材料とする。
これにより、耐熱性や移動相のpHや有機溶媒などに対する化学的安定性が高くなる。
本発明のカラム充填剤において用いることができる、上記カーボンモノリスの炭素系化合物の分子構造は、特に制限されないが、化1に示す分子構造等を好ましく挙げることができる。
【化1】
【0013】
(反応性基)
上記カーボンモノリス多孔質体を構成する上記炭素系化合物は、反応性基を有するのが好ましい。
上記反応性基は、カーボンモノリスの表面に形成された酸化物基であるのが好ましく、該酸化物基としては、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、クロメン構造を有する基、ピロン構造を有する基、フェノール性水酸基などが挙げられ、中でもクロメン構造を有する基、ピロン構造を有する基、カルボニル基が好ましい。酸化物基の具体例を化2に示す。
また、上記反応性基としては、他のヘテロ原子を含む構造、例えばアミノ基、ニトロ基、ピリジン構造を有する基、チオール基、硫酸基などを挙げることもできる。
このような反応性基を有することにより、本発明のカーボンモノリス多孔質体が、より優れた後述する酸化還元活性を有することとなり、より優れた分離性能及び分離選択性を有するようになる。
【化2】
式中、Rは任意の置換基を示す。
そして、上記酸化物基を有するカーボンモノリスの構造を摸式的に化3に示す。なお、化3は、カーボンモノリスに酸化物基が結合している状態を摸式的に示すものであり、一つのカーボンモノリスに複数の酸化物基が結合しているように示しているが、これに制限されず、一種の酸化物基のみを有する形態でも、任意の2種以上を有する形態でもよい。
化3に示すように、本発明に用いられるカーボンモノリスは、カーボンモノリスを構成する炭素化合物に残基として酸化物基が存在する。
【化3】
【0014】
(多孔質体)
上記カラム充填剤における多孔質体の構造は、特に制限されないが、カーボンモノリス形成材が三次元の網目状に連結されて形成されてなる骨格からなり、該骨格は連続した空隙を有するのが好ましい。
これにより、より耐圧性に優れ、通常の粒子充填型カラムと比較して流路径が大きいことで、より高流速の送液が低背圧で可能となり、また表面積が大きくなることでより優れた分離性能が得られるものとなる。
本実施形態においては、
図1(b)に示すようにカーボンモノリス形成材が三次元の網目状に連結されて形成されてなる骨格からなり、該骨格は連続した空隙を有するように形成されている。
【0015】
(空隙)
上記カラム充填剤の空隙率は、好ましくは60〜80%であり、さらに好ましくは75〜80%である。
上記空隙率がこの範囲であると、液体クロマトグラフィーのカラムの充填剤などに用いた場合、より使用時の背圧が低い状態で通液することができるため、高流速で用いることが可能となる。
また、上記骨格の表面における空隙の平均孔径は、好ましくは0.2〜3.5μmであり、さらに好ましくは0.2〜2μmであるのが好ましい。
上記空隙の平均孔径がこの範囲であると、液体クロマトグラフィーのカラムの充填剤などに用いた場合、より使用時の背圧が低い状態で通液することができるため、高流速で用いることが可能となる。
【0016】
(細孔)
また、上記骨格はその表面にマイクロ孔およびメソ孔が形成されているのが好ましい。後述する製造方法により得られるカーボンモノリスは、その骨格に微細なマイクロ孔を有すると認められる。これは例えばガス吸着測定装置(装置名: BELSORP−max、日本ベル社製)を用い窒素吸着法(Horvath-Kawazoe法)にて測定することで確認することができる。しかし、上記細孔のマイクロ孔径は分布が大きく正確に測定することが困難であるが通常孔径1〜20Åの範囲内の細孔が形成されていると考えられる。
【0017】
(表面積)
本発明のカラム充填剤の表面積は、好ましくは40〜1500m
2/gであり、さらに好ましくは40〜350m
2/gであり、もっとも好ましくは40〜100m
2/gである。上記表面積がこの範囲であると、化学物質との結合能や後述する酸化還元能等の相互作用がより高くなる。
【0018】
なお、上記空隙率(%)は、[サンプル質量]/[体積]により求めたバルク密度、およびヘリウムピクノメーター(装置名:Accupyc 1330、Micromeritics社製)を用いてヘリウムピクノメトリー法にて測定した骨格密度を用い、(1−[バルク密度]/[骨格密度])×100により算出した。
なお、上記空隙の平均孔径は、水銀圧入測定装置(装置名:Pore Master 60-GT、Quantachrome Instruments社製)を用いて水銀圧入法にて測定した値、
上記表面積はガス吸着測定装置(装置名:BELSORP−max、日本ベル社製)を用い窒素吸着法(t-plot)法にて測定した値を意味する。
【0019】
(その他の成分など)
本発明のカラム充填剤は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分等を含有してもよい。
他の成分としては、特に制限されず、後述するように有機ポリマー、メゾフェーズピッチ、バイオマス(木材など)などを熱処理して炭素化したものなどを用いることができ、上記多孔質体の細孔等の構造の製造のしやすさなどの観点から、有機ポリマーからなる多孔体を熱処理して炭素化したものを用いるのが好ましい。
また、カーボンモノリスの表面に窒素、ボロン、硫黄、リンなどをドープしてもよく、これらをドープすることで表面に多種の官能基を導入することもできる。
【0020】
(大きさ・形状)
本発明のカラム充填剤の大きさは、特に制限されず、用途に応じて任意のものを使用することができる。
本発明のカラム充填剤の外部形状は、特に制限されず、用途や後述するカラムの形状や大きさなどに応じて任意のものを使用することができる。本実施形態においては円柱状である。
上記カラム充填剤の成形方法は、特に制限されず、公知の方法により成形することができる。例えば、上記カラム充填剤の製造後に切断等による物理的な方法、金属製のカラム外装容器を型としてカラムの内部で原料から製造する方法などの方法により成形することができる。
【0021】
(酸化還元活性)
本発明のカラム充填剤は、酸化還元活性を有する。
これにより、クロマトグラフィー中にカラム内の化学物質の酸化還元反応を行うことが可能な、カラムとして好適に用いることができる。
本発明のカラム充填剤により酸化還元反応が可能な物質としては、金属等の酸化還元性物質(酸化還元される物質)、カテコール、ヒドロキノン等が挙げられる。
上記カラム充填剤の酸化還元活性は、酸化剤や還元剤の通液処理、充填剤に電位を印加することなどにより制御することができる。例えば、酸化剤による処理をした場合にはカラム充填剤が酸化活性を有するようになり、還元剤による処理をした場合にはカラム充填剤が還元反応活性を有するようになる。
上記酸化剤の例としては過酸化水素、過マンガン酸カリウムなどが挙げられ、中でも過酸化水素が好ましく挙げられる。また、上記還元剤の例としては亜硫酸ナトリウム、塩化ヒドロキシルアンモニウムなどが挙げられる。
上記カラム充填剤の酸化還元活性は、また、酸化剤や還元剤の濃度や種類を変えることなどで制御することができ、その制御は可逆的に行うことができる。例えば、還元処理された本発明のカラムを過酸化水素などの酸化剤を含む溶液で処理すると容易に元の状態に回復できる。
また、上記の処理に必要な酸化剤や還元剤の濃度は、PGCカラムの場合よりも低濃度で行うことが可能であるため、上記の酸化還元活性の制御をより確実に行うことができる。
【0022】
(製造方法:カラム充填剤)
本発明のカラム充填剤の製造方法は、特に制限されないが、例えば、有機ポリマーを熱処理により炭素化する等の方法により製造できる。
その中でも、上記カラム充填剤における上記表面積、空隙率、空隙の平均孔径、及び細孔の細孔径を制御する観点から、J. Hasegawaら著、Macromolecules、2009、 42、 1270-1277ページ、J. Hasegawaら著、Comptes Rendus Chimie、 2010、 13、 207-211ページ、G. Hasegawaら著、CARBON, 2010、 48, 1757-1766ページ、G. Hasegawaら著、Materials Letters, 2012、 76, 1-4ページなどに記載されるように、スピノーダル分解型の相分離を伴う重合反応を用いて製造される、細孔径や細孔容積が制御されたマクロ多孔性架橋高分子ゲルを、不活性雰囲気下で熱処理することで直接炭素化しカーボンモノリスを得る方法など、を用いて製造することが好ましい。
以下、上記製造方法の一例を説明する。
まず、上述のマクロ多孔性架橋高分子ゲルとして、レゾルシノール−ホルムアルデヒド(RF)ゲルを用いる場合、マクロ孔を有する3次元モノリス構造ゲルは以下のように製造することができる。
レゾルシノール(Resorcinol)を塩化鉄水溶液/エタノールの混合液に溶解させ、一様な溶液としたのち、氷冷下でホルムアルデヒド水溶液(35 wt.%)を加え、30〜40℃、24〜48時間の条件で処理し、湿潤ゲルを得ることができる。得られた湿潤ゲルを60〜80℃、24〜72時間乾燥させ、乾燥状態の鉄含有レゾルシノール−ホルムアルデヒドゲル(RFゲル)のマクロ孔を有する3次元モノリス構造体を製造することができる。
本発明で用いられる上記カーボンモノリス多孔質体の上記表面積、空隙率、空隙の平均孔径、及び細孔の細孔径の制御は、上記RFゲルの3次元モノリス構造を重合反応条件などで制御することにより行うことができる。
次に、得られた上記鉄含有RF多孔質ゲルを、800〜1500℃、2〜10時間の条件で処理することにより、鉄の触媒炭素化によりグラファイト化されたカーボンモノリスを得ることができる。その後、塩酸/エタノール溶液での洗浄により、カーボンモノリス中に含まれる鉄を除去し、カーボンモノリスを得ることができる。
また、上記RFゲルの作製過程において、塩化鉄水溶液/エタノールの代わりに塩酸水溶液/エタノールを用い、マクロ孔を有するRFゲルを作製し、これを800〜1600℃、2〜10時間の条件で処理することによってもカーボンモノリスを得ることができる。
また、上述のマクロ多孔性架橋高分子ゲルとして、ポリ(ジビニルベンゼン)(PDVB)を用い、マクロ孔を有する3次元モノリス構造ゲルを以下のように製造し、カーボンモノリス多孔質体を製造することもできる。
まず、ジビニルベンゼン(Divinylbenzene、 DVB)及び1,3,5-トリメチルベンゼン(1,3,5-trimethylbenzene、 TMB)の混合液に、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane、 PDMS)を均質化させるために撹拌し、超音波処理により脱気処理をし、該溶液に2,2’-azobis(isobutyronitrile) (AIBN)を加え、窒素を供給した後、Ethyl-2-methyl-2-butyltellanyl propionate(BTEE)をリビングラジカル重合のプロモーターとして添加しリビングラジカル重合を行い、重合反応後に得られる溶液を、60〜120℃、12〜48時間の条件で加熱処理を行い、湿潤ゲルを得ることができる。得られた湿潤ゲルをテトラヒドロフラン(THF)で洗浄し、乾燥状態のポリ(ジビニルベンゼン)(PDVB)のマクロ孔を有する3次元モノリス構造体を製造することができる。
本発明で用いられる上記カーボンモノリス多孔質体の上記表面積、空隙率、空隙の平均孔径、及び細孔の細孔径の制御は、上記PDVBの3次元モノリス構造の重合反応条件などを制御することで行うことができる。
化4を参照しながら、上記PDVBゲルにおいての炭素化処理を説明する。
次に、得られた上記PDVB製の3次元モノリス構造体を、濃硫酸で、40〜120℃、12〜24時間の条件で処理することによるスルホン化処理を行う。(化4(a))
上記スルホン化処理を行うことにより、熱処理による炭素化した際の3次元ネットワーク構造の萎縮や重量減少を、抑制することができ、より正確に上記表面積、空隙率、空隙の平均孔径、及び細孔の細孔径の制御が可能となる。これは、300℃付近で、隣接する芳香環がスルホン基で架橋され(化4(b))、さらに、500℃付近で芳香属環構造が形成され(化4(c))、600〜800℃で、芳香環構造の伸長が起こることにより、よりスムーズに炭素化が進行するためであると考えられる。
上記スルホン化処理後、600〜800℃で、2時間、不活性雰囲気下で加熱処理を行い、本発明のカラム充填剤としてのカーボンモノリス多孔質体を得る(化4(d))。
【化4】
【0023】
(使用方法・用途:カラム充填剤)
本発明のカラム充填剤は、カラムに充填(装着)することで、クロマトグラフィーのカラムとし、後述するようなクロマトグラフィーに用いることができる。
なお、カラムへの充填方法や、上記カラム充填剤を充填したカラムの使用方法については後述する。
本発明のカラム充填剤は、化学物質の上記カラム充填剤への吸着に基づくクロマトグラフィー(吸着クロマトグラフィーと呼ぶこともある)のカラムの充填剤として用いることができる。
また、本発明のカラム充填剤は、酸化還元反応活性を有することから、カラム内で酸化還元反応を行うクロマトグラフィーの充填剤として好適に用いることができる。
また、本発明のカラム充填剤は、上記カラム充填剤がモノリス構造であり高流速でも背圧が低い特徴を有することから、HPLCなどの高圧、高速のクロマトグラフィーに好適に用いることができる。
また、本発明のカラム充填剤は、耐熱性やすぐれた化学的安定性を有することから高温条件のクロマトグラフィー、低pH、高pH、有機溶媒を使用するクロマトグラフィーに好適に用いることができる。
また、本発明のカラム充填剤は、上述の特徴を有することから、後述する本発明のカラムシステムに好適に用いることができる。
【0024】
次に、本発明のカラムについて詳述する。
<カラム>
本発明のカラムは、上記カラム充填剤を具備してなるものである。
上記カラムの具体的な例としては、液体クロマトグラフィーなどで用いられる金属、樹脂、ガラスなどの材料で製造された耐圧性を有する外装容器に上記カラム充填剤を装着し通液可能になされているものが挙げられる。上記カラムの他の例としては、キャピラリーカラム、遠心機や真空装置などにより通液するスピンカラム、マルチウェルプレートタイプのカラムなどに上記カラム充填剤を備えたものなどが挙げられる。
上記カラムの形状、大きさ、形成材料などは、特に限定されず、用途などに応じて任意のものを用いることができるが、HPLCなどで用いる場合には、上記外装容器が耐圧性や耐化学薬品性を有する材料で形成されているのが好ましい。
本発明のカラムにおけるその他の構成要素については、特に制限されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、他の要素を加えて構成してもよい。そのようなものの例としては、上記カラム充填剤の側面を被覆する被覆材、カラム充填剤の上面に設けられるフィルター、通液孔、クロマトグラフィー配管との結合部品などが挙げられる。
本実施形態においては、円柱状で上面及び底面に通液孔が設けられている市販のカラム外装容器(商品名:RCM 8X10 CARTRIDGE HOLDER、Waters社製)に、上述の本発明のカラム充填剤(円柱状、直径4.6mm×長さ83mm)を装着したものである。
本発明のカラムは、公知のカラム製造方法により製造することができる。
【0025】
(使用方法・用途:カラム)
本発明のカラムは、上述の吸着クロマトグラフィーに用いることができ、その他にも、逆相クロマトグラフィー、逆相分配クロマトグラフィー(イオン対クロマトグラフィー)、順相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、電気化学クロマトグラフィー(EMLC)、超臨海流体クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーに用いることができる。
また、本発明のカラムは、上記カラム充填剤がモノリス構造であり高流速でも背圧が低い特徴を有することから、HPLCなどの高圧、高速のクロマトグラフィーに好適に用いることができる。
また、本発明のカラムは、酸化還元活性を有するため、カラム内で酸化還元反応を行うクロマトグラフィーに好適に用いることができる。
また、本発明のカラムは、上記カラム充填剤が耐熱性にすぐれ且つ化学的安定性を有することから、高温条件のクロマトグラフィー、低pH、高pH、有機溶媒を使用するクロマトグラフィーに好適に用いることができる。
本発明のカラムの使用方法については、例えば、吸着クロマトグラフィーに用いる場合は、通常の吸着クロマトグラフィーにおける公知の方法により行うことができる。
また、カラム内で化学物質の酸化還元処理を行うクロマトグラフィーに用いる場合は、上述したような酸化剤や還元剤などによる処理を行ったカラムに、対象試料を導入することなどにより、試料の酸化還元反応を行うことができる。
本発明のカラムの対象試料は、特に制限はないが、本発明のカラムが酸化還元活性を有することから、金属をはじめとする酸化還元性物質(酸化還元されうる物質)などが好ましい。
本発明のカラムは、後述する本発明のカラムシステムのように、種類が異なるカラムと組み合わせて用いることもできる。
【0026】
<カラムシステム>
本発明のカラムシステムは、複数の性質の異なるカラムを連結して構成されたカラムシステムであって、少なくとも一つの酸化還元反応性を有しない無反応性カラムと、上記本発明のカラムとを連結してなる。
このような構成を有することにより、単独のカラムで分離が困難な化学物質を、本発明のカラムを用いて酸化還元反応により化学種を変換させることで、カラム内の移動速度を変化させ、それらの物質を分離することを可能にするものである。また、本発明のカラムシステムは、上記本発明のカラムを用いているため、通常のカラムを連結した場合に比して、より耐圧性が高く、化学的安定性が高くなる。
上記無反応性カラムは、酸化還元反応性を有しないものであれば、特に制限なく、各種クロマトグラフィーカラム用いることができる。
本発明のカラムシステムの好ましい具体例をとして、本発明のカラムを2つのODSカラム(無反応性カラム)の中間に備えてなるカラムシステムを例として、以下に説明する。
実施例で用いたモデル試料としてのCo(II)-EDTA錯体、Cu(II)-EDTA錯体およびFe(III)-EDTA錯体の混合物は、ODSカラム単独で分離した場合、後述する比較例1(
図6(a))に見られるようにFe(III)-EDTA錯体と、Co(II)-EDTA錯体及びCu(II)-EDTA錯体の混合物と、に分離され、Co(II)-EDTA錯体とCu(II)-EDTA錯体とを分離することが困難である。
本発明のカラムシステムを用いた場合は、
図8に示すようにモデル試料におけるCo-EDTA錯体は前段のODSカラム内をCo(II)-EDTA錯体として移動するが、本発明のカラム内で酸化されてCo(III)-EDTA錯体に変換され、後段のODSカラム内をCo(III)-EDTA錯体として移動することになる。
これにより、Co-EDTA錯体の移動速度が前段のODSカラムと後段のODSカラムで変化するので、Co-EDTA錯体をFe(III)-EDTA錯体とCu(II)-EDTA錯体の間に溶出させることができ、これらを分離することができる。
【0027】
(製造方法:カラムシステム)
本発明のカラムシステムは、例えば、カラムを市販の部品などを用いて連結させるなど、公知の方法により製造することができる。
【0028】
(使用方法・用途:カラムシステム)
本発明のカラムシステムは、通常のクロマトグラフィーカラムと同様に、クロマトグラフィーシステムなどに連結して使用することができる。
本発明のカラムシステムは、単独のクロマトグラフィーカラムで分離が困難な化学物質を分離するクロマトグラフィーに適用することができ、特に、同じ電荷をもつ金属錯体などの、分離が困難であって酸化還元されうる物質に対して好適に用いることができる。
【0029】
本発明は上述した実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
例えば本発明のカラムシステムは、二次元オンライン酸化還元化学種変換高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に適用することができる。また、上記カーボンモノリスをEMLCの固定相兼作用電極として使用すれば、上述した従来のPGCを用いたEMLCにおける問題点を解消することができ、高分解性能のカラムを提供することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明について実施例及び比較例を示してさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0031】
〔実施例1〕本発明のカラムによる、1mM Co(II)-EDTA錯体及びモデル試料の分離
本発明のカラムを用いて、モデル試料の分離を行った。
【0032】
(カラム充填剤の製造)
本発明のカラム充填剤は、上述のマクロ多孔性架橋高分子ゲルとして、レゾルシノール−ホルムアルデヒド(RF)ゲルからなるマクロ孔を有する3次元モノリス構造体を、スピノーダル分解を伴う重合反応により合成し、スルホン化処理を行った後、加熱処理により直接炭素化することで製造した。
まず、3.3gのレゾルシノール(Resorcinol)および0.81gの塩化鉄6水和物を9.0mLの蒸留水・4.65mLのエタノール混合液に溶解させ、一様な溶液としたのち、氷冷下で、4.5mLのホルムアルデヒド水溶液(35wt.%)を加え、5分間攪拌した。この溶液を30℃の水浴中で10分間攪拌したのち、内径8mmのガラス管に移し、30℃の水浴中、48時間の条件で処理し、湿潤ゲルを得た。得られた湿潤ゲルを80℃、72時間乾燥させ、乾燥状態の鉄含有レゾルシノール−ホルムアルデヒドゲル(RFゲル)のマクロ孔を有する3次元モノリス構造体を得た。
次に、得られた上記鉄含有RF多孔質ゲルを、管状炉中でアルゴンガス気流中(1L/min)、1500℃、5時間の条件で加熱処理することにより、鉄・カーボン複合体モノリスを得た。その後、1M塩酸/エタノール溶液で60℃、12時間の洗浄を3回繰り返すことにより、カーボンモノリス中に含まれる鉄を除去し、さらにエタノールで洗浄したのち、60℃、24時間乾燥させることで本発明のカラム充填剤(カーボンモノリス)を得た。
得られた本発明のカラム充填剤は、
円柱状で内径4.6mm、高さ83mm
上記骨格における空隙率:75%
上記骨格の表面積:100m
2/g
上記骨格の表面における空隙の平均孔径:およそ1.5μm、
上記細孔のマイクロ孔径:
およそ6Å
であった。
また、本発明のカラム充填剤としてカーボンモノリスの化学構造は、化1に示す構造であった。また、正確に確認はできていないものの、後述する酸化還元特性と上述の原料及び製造方法から、その表面にはカルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシ基などが存在していると考えられる。
なお、上記空隙率(%)は、[サンプル質量]/[体積]により求めたバルク密度、およびヘリウムピクノメーター(装置名Accupyc 1330、Micromeritics社製)を用いてヘリウムピクノメトリー法にて測定した骨格密度を用い、(1−[バルク密度]/[骨格密度])×100により算出した。
なお、上記空隙の平均孔径は、水銀圧入測定装置(装置名Quantachrome Instruments、Pore Master 60-GT社製)を用い水銀圧入法にて測定した値であり、
上記表面積はガス吸着測定装置(装置名BELSORP−max、日本ベル社製)を用い窒素吸着法(t-plot)法により算出した値である。
また、上記細孔のマイクロ孔径はガス吸着測定装置(装置名BELSORP−max、日本ベル社製)を用い窒素吸着法(Horvath-Kawazoe法)にて測定した値でありその結果を
図2に示す。
【0033】
(カラムの製造)
本発明のカラムは、
図3(a)に示すように、上記カーボンモノリスを円柱状の直径4.6mm×長さ83mmに成形し、カーボンモノリスの両端に、テフロン(登録商標)(PTFE)フィルター(商品名:PF100、ADVANTEC社製)をはさみ、PTFEエンドフィッティングを取り付け、熱収縮チューブ(商品名:FEP-050、ハギテック社製)で全体を覆い、120℃、10分間処理することで固定した。これを
図3(b)に示すように、ポリカーボネート(PC)のパイプに入れ、主剤としてEPICLON 850(DIC株式会社製)を10g、硬化剤としてEPICLON B-570-H(DIC株式会社製)を9g、開始剤としてN,N-Dimethylbenzylamine(東京化成工業株式会社製)を0.1mLの割合で加えた混合液をPCパイプ中の隙間に流し入れ、120℃、30分間処理することで混合液を硬化させた。これを市販のカラム外装容器(商品名:RCM 8X10 CARTRIDGE HOLDER、Waters社製)に装着して、本発明のカラムを得た。
なお、本発明のカラムは、Pressure Relief Plug (型番:RCM 8x10、 Waters社製)を用いてHPLCシステムに取り付けた。
【0034】
(試薬)
本実施例におけるHPLC測定で用いた試薬は、以下のとおりである。
アセトニトリルは関東化学社製の高速液体クロマトグラフィー用を使用した。
Ethylenediamine-N,N,N',N'-tetraacetic acid, disodium salt, dehydrate (2NA(EDTA・2Na))、Co(II)-EDTA錯体、Cu(II)-EDTA錯体およびFe(III)-EDTA錯体は同仁化学研究所社製のものを用いた。酢酸、酢酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、テトラブチルアンモニウムクロリド(TBACl)、酢酸コバルト(II)四水和物、酢酸ナトリウム三水和物、35%過酸化水素水および活性炭は関東化学社製のものを使用した。
HPLC測定の移動相として、濃度4.6mMのTBAClおよび濃度50mM酢酸緩衝液(pH=5.0)を含む、濃度2%(w/v)アセトニトリル-水混合溶媒を調整した。上記移動相は、使用する前に孔径0.20μmのメンブランフィルター(型名:JGWP04700、MILLIPORE社製)を用いて吸引濾過し、その後よく脱気したものを使用した。
なお、使用した水はすべて日本ミリポア社製Direct-Qシステムにより精製した超純水を使用した。
【0035】
(HPLC測定装置)
HPLCに用いた装置は、島津製作所社製の脱気装置(商品名:オンラインデガッサ、型名:DGU-20A3)、送液ポンプ(商品名:送液ユニット、型名:LC-20AD)、インジェクター(商品名:オートサンプラ、型名:SIL-20AC)、カラムオーブン(商品名:カラムオーブン、型名:CTO-20AC)、フォトダイオードアレイ検出器(商品名:フォトダイオードアレイ検出器、型名:SPD-M20A)、およびシステムコントローラ(商品名:システムコントローラ、型名:CBM-20A(図示せず))から構成される。システムの詳細を
図4に示す。
なお、データ解析は島津製作所社製のソフトウェア(商品名:LabSolutions LC、Ver5.54)を用いて行った。
【0036】
(HPLC測定:Co(II)-EDTA錯体)
本発明のカラムの酸化還元活性を調べるため、測定試料として濃度1mMのCo(II)-EDTA錯体を用いてHPLC測定を行いカラムからの溶出液におけるUV吸収スペクトルデータをフォトダイオードアレイ検出器により取得した。
得られた結果を
図5(d)に示す。
HPLC条件:
試料投入量:10μL
カラム:本発明のカラム(内径:4.6mm、カラム長:83mm)
カラム温度:40℃
移動相:濃度4.6mMのTBAClおよび濃度50mM酢酸緩衝液(pH=5.0)を含む、濃度2%(w/v)アセトニトリル-水混合溶媒
流速:0.5mL/min
検出波長:190〜800nm
【0037】
(HPLC測定:モデル試料)
本発明のカラムの分離特性を調べるため、Co(II)-EDTA錯体、Cu(II)-EDTA錯体およびFe(III)-EDTA錯体をそれぞれ移動相に溶解させ1mMに調整したものをモデル試料としてHPLC測定を行った。
その結果を
図6(c)に示す。また、HPLC測定時における送液圧力は1.8MPaであった。(図示せず)
なお、HPLC測定は上記(Co(II)-EDTA錯体のHPLC条件)と同様の条件で行った。
【0038】
〔比較例1〕ODSカラムによる、Co(II)-EDTA錯体、Co(III)-EDTA錯体、及びモデル試料の分離
カラムを市販のODSカラム(商品名:CAPCELL
PAK C18 UG120、粒径3μm、内径:4.6mm、カラム長:100mm、資生堂社製)に変えて、実施例1と同様にして、濃度1mMのCo(II)-EDTA錯体及び濃度1mMのCo(III)-EDTA錯体をそれぞれ単独に用いて、カラムの酸化還元活性を調べるためHPLC測定を行い、カラムから溶出液におけるUV吸収スペクトルデータを得、上記モデル試料を用いてHPLC測定を行った。
Co(II)-EDTA錯体における結果を
図5(a)、Co(III)-EDTA錯体における結果を
図5(b)、モデル試料における結果を
図6(a)に示す。また、HPLC測定時における送液圧力は3.9MPaであった。(図示せず)
【0039】
(Co(III)-EDTA錯体の調整)
なお、用いた濃度1mMのCo(III)-EDTA錯体は、Co(III)-EDTA錯体は市販されていないため、H. Oginoら、Inorg. Chem.、1989、28、3656ページの記載に従い合成したものを1mMの濃度に上記移動相に溶解させて調整した。
Co(III)-EDTAの合成方法を以下に説明する。
Co(III)-EDTA錯体の合成は、まず、12.9mLの15%過酸化水素水に、12.5gの酢酸コバルト(II)四水和物、10.1gの酢酸ナトリウム三水和物、18.5gの2NA(EDTA・2Na)および4.12gの活性炭を加え、全体が250mLとなるように超純水を加え、1時間攪拌した後、室温で24時間静置した。
次に、24時間静置後の上記混合液を濾過して混合液内の活性炭を除去し、100℃の油浴で1時間加熱した後、氷浴で1時間冷却した。
最後に、冷却後の該溶液にエタノールを添加し、再結晶化したものを吸引濾過により収集しCo(III)-EDTA錯体20.4gを得た。
【0040】
〔比較例2〕PGCカラムによる、1mM Co(II)-EDTA錯体及びモデル試料の分離
カラムを市販のPGCカラム(商品名:Hypercarb、粒径3μm、内径:4.6 mm、カラム長:100mm、Thermo SCIENTIFIC社製)に変えて、実施例1と同様にして、カラムの酸化還元活性を調べるため濃度1mMのCo(II)-EDTA錯体を用いてHPLC測定を行いカラムから溶出液における吸収スペクトルデータを得、カラムの分離特性を調べるため上記モデル試料を用いてHPLC測定を行った。また、HPLC測定時における送液圧力は5.3MPaであった。(図示せず)
Co(II)-EDTA錯体における結果を
図5(c)、モデル試料における結果を
図6(b)に示す。
【0041】
〔実施例2〕還元処理による本発明のカラムの金属-EDTA錯体の保持挙動の変化
本発明のカラムを還元処理した場合における金属-EDTA錯体の保持挙動の変化を調べた。
カラムの還元処理は、1mM、5mM、10mMの亜硫酸ナトリウムを含む移動相をカラムに60mL(0.5mL/min、120min)通液した後、亜硫酸ナトリウムを含まない移動相を30mL(0.5mL/min、60min)通液して洗浄することにより行った。なお、還元処理を行わない場合の実験も行い比較対象とした。
HPLCの測定は上記モデル試料を用いて、上記還元処理の後、実施例1と同様にして行った。
その結果を
図7(b)に示す。
【0042】
〔比較例3〕還元処理によるPGCカラムの金属-EDTA錯体の保持挙動の変化
PGCカラムを還元処理した場合における金属-EDTA錯体の保持挙動の変化を調べた。
HPLC測定で使用するカラムを、比較例2で用いたPGCカラムに変えた以外は、実施例2と同様にして、上記モデル試料を用いてHPLC測定を行い、PGCカラムを還元処理した場合における金属-EDTA錯体の保持挙動の変化を調べた。
その結果を
図7(a)に示す。
【0043】
〔実施例3〕本発明のカラムシステムによる、モデル試料の分離
本発明のカラムシステムを用いて、上記モデル試料の分離を調べた。
本発明のカラムシステムは、実施例1で得られた本発明のカラムを、無反応性カラムとしての2つのODSカラム(商品名:L-column ODS、粒子径:5μm、内径:4.6mm、カラム長:150mm、化学物質評価研究機構製)の中間に連結したものである。
使用カラムを、本発明のカラムシステムに変えた以外は、実施例1と同様にして、上記モデル試料を用いてHPLC測定を行った。
その結果を
図9に示す。
【0044】
(結果と考察)
図5は、カラムの酸化活性を確認するために、(本発明のカラム)、比較例1(ODSカラム)及び2(PGCカラム)において、Co(II)-EDTA錯体を注入したカラムにおける溶出液のUV吸収スペクトルを測定した結果である。
なお、カラムを通さずに測定したCo(II)-EDTA錯体の極大吸収波長は215nmであり(図示せず)、また、カラムを通さずに確認したCo(III)-EDTA錯体の極大吸収波長は230nmであった(図示せず)。
ODSカラム(比較例1)においては、Co(II)-EDTA錯体を注入してこれが溶出した際に得られたUV吸収スペクトルの極大吸収波長は215nmであり、また、Co(III)-EDTA錯体を注入した際に得られたUV吸収スペクトルの極大吸収波長は230nmであった。
この結果は、ODSカラムに注入されたCo(II)およびCo(III)-EDTA錯体は、カラム内で変化することなくそのまま溶出したことを示している。
これに対して、本発明のカラム(実施例1)及びPGCカラム(比較例2)では、Co(II)-EDTA錯体を注入した際に得られたUVスペクトルの極大吸収波長は共に230nmであった。
このことから、本発明のカラム(実施例1)は、PGCカラムと同様に、Co(II)-EDTA錯体がカラムにより酸化されてCo(III)-EDTA錯体として溶出することがわかる。
【0045】
本願発明者らは、PGCの酸化還元電位は−0.2〜0.5V(vs.Ag/AgCl)の範囲で変化することを報告している(M.Shibukawa, A.Unno, T.Miura, A.Nagoya, K.Oguma, Anal.Chem., 75, 2775 (2003).)。また、Oginoらは金属(II/III)-EDTA錯体酸化還元対の酸化還元電位を測定し、Co-EDTA錯体は約0.2V、他の金属-EDTA錯体(V, Cr, Fe, Mn, Ru)の電位は−0.1V以下もしくは0.6V以上であると報告している(H.Ogino, K.Ogino: Inorg.Chem.,28, 3656(1989).)。これらの結果は、PGCまたはカーボンモノリスの酸化還元電位と一致する電位を有する化学種がPGCまたはカーボンモノリス上で酸化還元反応を起こすことを示している。
【0046】
図6は、カラムの溶質保持特性を比較するために、実施例1(本発明のカラム)、比較例1(ODSカラム)及び2(PGCカラム)において上記モデル試料を用いてHPLC測定を行った結果である。
ODSカラム(比較例1)においては、はじめにFe(III)-EDTA錯体が溶出し、その後Cu(II)-EDTA錯体とCo(II)-EDTA錯体が一緒に溶出した。Fe(III)-EDTA錯体の電荷は−1価、Cu(II)-EDTA錯体とCo(II)-EDTA錯体の電荷は−2価なので、TBAClをイオン対試薬として用いた逆相HPLCにおいて、これらの金属EDTA錯体の保持挙動は極めて妥当であると考えられる。
一方、本発明のカラム(実施例1)及びPGCカラム(比較例2)においては、はじめにFe(III)-EDTA錯体とCo-EDTA錯体が一緒に溶出し、その後、Cu(II)-EDTA錯体が溶出した。
この結果は、注入したCo-EDTA(II)錯体が、カラム内で酸化されてCo(III)-EDTA錯体に変化したことを示している。
以上の結果から、ODSカラム(比較例1)は酸化還元反応に影響を及ぼさないが、本発明のカラム(実施例1)及びPGCカラム(比較例2)は酸化還元性を有し、ODSカラムとは異なる溶質保持選択性を示すことがわかる。
また、本発明のカラム(実施例1)はPGCカラム(比較例2)に比して、高速に分離できていることがわかる。
本発明のカラム(実施例1)のHPLC測定時における送液圧力は1.8MPaであったのに対し、ODSカラム(比較例1)では3.9MPaであった。また、PGCカラム(比較例2)では5.3MPaであった。このことから、本発明のカラムは使用時の背圧が低いものであることが判る。
【0047】
図7は、還元処理によるカラムの溶質保持特性の変化を比較するために、実施例2(本発明のカラム)及び比較例3(PGCカラム)で得られたカラムを用いて、亜硫酸ナトリウムでカラムを還元処理した後に、上記モデル試料を用いてHPLC測定を行った結果である。
本発明のカラム(実施例2)とPGCカラム(比較例3)のいずれにおいても、酸化や還元を受けないFe(III)-EDTA錯体及びCu(II)-EDTA錯体の保持時間は、還元剤の濃度に関わらず変化しなかった。これに対して、Co-EDTA錯体の保持時間は、還元処理により増加していた。
PGCカラム(比較例3)においては、1mMの還元剤で処理したとき、Co-EDTA錯体はCo(II)-EDTA錯体とCo(III)-EDTA錯体の平衡混合物として溶出し、Fe(III)-EDTA錯体とCu(II)-EDTA錯体の間にピークが現れた。この結果は、1mM濃度の還元剤の処理では、酸化還元反応を二次的化学平衡として利用し単一のカラムで分離するにはこの条件でよいが、化学種変換ユニットとして使用するには不十分であることを示している。なお、5mM以上の濃度の還元剤で処理では、Co(II)-EDTA錯体は酸化されずに、完全にCo(II)-EDTA錯体として溶出した。
一方、本発明のカラム(実施例2)においては、1mM以上の濃度の還元剤の処理により、Co(II)-EDTA錯体は酸化されずに完全にCo(II)-EDTA錯体として溶出した。
この結果は、本発明のカラム(実施例2)はPGCカラム(比較例3)よりも還元処理の影響を受けやすいことを示している。
以上の結果から、本発明のカラム(実施例2)は、PGCカラム(比較例3)と同様に酸化還元性を有するが、PGCカラム(比較例3)より低濃度の還元剤で十分にその酸化還元活性を制御可能であり、酸化反応を行ったカラムをPGCカラムよりも効率よく復元可能であることがわかる。
【0048】
図9は本発明のカラムシステムで、モデル試料を分離した結果である。
Co-EDTA錯体は、Fe(III)-EDTA錯体とCu(II)-EDTA錯体との間に溶出され、Co錯体が他の金属錯体から完全に分離されたことがわかる。
以上から、本発明のカラムシステムにより行ったオンラインの酸化還元反応による化学種変換を用いた分離手法は、分離速度や分離能及び分離選択性に優れ、酸化還元活性が高く容易に制御することができ、酸化還元反応によって異なる化学種に変換できる化合物を選択的に分離・定量できる有用な手法であることがわかる。
本発明のカラムシステムは、金属錯体だけでなく、酸化還元反応をされうる他の有機化合物や生体試料の分析にも適用できると考えられ、幅広い分野での応用が期待される。