【解決手段】本発明の1つの導電体の前駆体溶液は、ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種の前駆体と、(1)アミノ基及び(2)窒素原子を含有する複素環式基の群から選択される少なくとも1つを側鎖基に備えた樹脂組成物とを溶質として含有する前駆体溶液であって、その前駆体に対するその樹脂組成物の重量比が2wt%以上50wt%である。また、本発明の1つの導電体薄膜は、前述の前駆体溶液を250℃以上600℃以下で加熱することにより形成された、ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種からなる。この導電体薄膜は、例えば、型押し加工によって前駆体層20aの型押し構造を形成しても、パターンの剥がれ、割れ又は崩れを確度高く防止ないし抑制し得る。
前記樹脂組成物が、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone)及び/又はポリエチレンイミン(Polyethyleneimine)である、
請求項1に記載の導電体の前駆体溶液。
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の前記前駆体溶液を、酸素を含まない雰囲気中において250℃以上600℃以下で加熱することにより形成された、ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種からなる、
導電体薄膜。
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の前記前駆体溶液を、酸素含有雰囲気中において250℃以上600℃以下で加熱することにより形成された酸化ルテニウムからなる、
導電体薄膜。
ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種の前駆体と、以下の(1)及び(2)の群から選択される少なくとも1つを側鎖基に備えた樹脂組成物と、
を溶質として含有するとともに、
前記前駆体に対する前記樹脂組成物の重量比が2wt%以上50wt%となるように調製する工程を含む、
導電体の前駆体溶液の製造方法。
(1)アミノ基
(2)窒素原子を含有する複素環式基
前記樹脂組成物が、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone)及び/又はポリエチレンイミン(Polyethyleneimine)である、
請求項8に記載の導電体の前駆体溶液の製造方法。
ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種の前駆体と、以下の(1)及び(2)の群から選択される少なくとも1つを側鎖基に備えた樹脂組成物と、を溶質として含有する前駆体溶液であって、前記前駆体に対する前記樹脂組成物の重量比が2wt%以上50wt%である導電体の前駆体溶液を、酸素を含まない雰囲気中において250℃以上600℃以下で加熱する焼成工程により、
ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種からなる導電体薄膜を形成する工程を含む、
導電体薄膜の製造方法。
(1)アミノ基
(2)窒素原子を含有する複素環式基
ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種の前駆体と、以下の(1)及び(2)の群から選択される少なくとも1つを側鎖基に備えた樹脂組成物と、を溶質として含有する前駆体溶液であって、前記前駆体に対する前記樹脂組成物の重量比が2wt%以上50wt%である導電体の前駆体溶液を、酸素含有雰囲気中において250℃以上600℃以下で加熱する焼成工程により、
酸化ルテニウムからなる導電体薄膜を形成する工程を含む、
導電体薄膜の製造方法。
(1)アミノ基
(2)窒素原子を含有する複素環式基
前記焼成工程の前に、前記前駆体溶液を出発材とする前駆体膜を、70℃以上200℃以下で加熱した状態で型押し加工を施すことによって、前記前駆体膜の型押し構造を形成する工程をさらに含む、
請求項11又は請求項12に記載の導電体薄膜の製造方法。
請求項11乃至請求項13のいずれか1項に記載の導電体薄膜を形成することによって、ゲート電極、ソース電極、及びドレイン電極の群から選択される少なくとも1つを形成する工程を含む、
薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に、前駆体又は前駆体溶液を焼成することによって形成される、実質的に金属といえるルテニウム(以下、「金属ルテニウム」、又は単に「ルテニウム」ともいう)又は酸化ルテニウムは、例えば、薄膜トランジスタ等の半導体装置、薄膜キャパシタ(メモリデバイスを含む)、又は微小電気機械システム等の固体電子装置(以下、総称して「固体電子装置」ともいう)に適用することが期待されている。しかしながら、前駆体又は前駆体溶液を焼成することによって形成される場合、金属ルテニウム又は酸化ルテニウムの導電体としての電気特性(例えば、抵抗値)又は数十〜数百ナノメートルの厚さの膜における膜自身及び成膜プロセスの信頼性や安定性が依然として不十分であるため、これまでは特に薄膜の導電体としての積極的な活用がなされていない。従って、薄膜の金属ルテニウム又は薄膜の酸化ルテニウムの各種デバイスへの適用と高性能化の開発は、未だ道半ばであるといえる。
【0005】
また、固体電子装置の一例である薄膜トランジスタでは、これまでに、ゲート電極、ソース電極、又はドレイン電極が複合酸化物によって形成された例は幾つか存在するが、薄膜トランジスタとしての電気特性の向上、及びその信頼性又は安定性の向上を実現する材料及びそのための適切な製造方法の選定は容易ではない。特に、これまでに広く採用されてきたゲート電極等は、真空プロセスやフォトリソグラフィー法を用いたプロセス等、比較的長時間、及び/又は高価な設備を要するプロセスによって形成されるのが一般的であるため、原材料や製造エネルギーの使用効率が非常に悪くなる。このような製造方法が採用された場合、薄膜トランジスタを製造するために多くの処理と長時間を要するため、工業性ないし量産性の観点から好ましくない。また、従来技術には、大面積化が比較的困難であるという問題が存在する。加えて、電気特性の向上、及びその信頼性又は安定性の向上を実現する材料及びそのための適切な製造方法の選定に関する各技術的課題は、その他の固体電子装置(薄膜キャパシタ等)にも当て嵌まる。
【0006】
本発明は、上述の諸問題の少なくとも1つを解決することにより、導電体として金属ルテニウム又は酸化ルテニウムを用いた固体電子装置の高性能化、高信頼性化、高安定性化、又はそのような固体電子装置の製造プロセスの簡素化と省エネルギー化を実現する。その結果、本発明は、工業性ないし量産性に優れた導電体の提供に大きく貢献するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、前駆体又は前駆体溶液を焼成することによって形成される導電体である金属ルテニウム又は酸化ルテニウムに着目し、固体電子装置に利用し得る導電体の前駆体又はその前駆体溶液を創出すべく鋭意研究と分析を重ねた。各種の固体電子装置の高性能化及び微細化が日進月歩で進められている今日では、固体電子装置の電極層や拡散バリア層として活用するためには、その導電体の薄膜化が実現できること、その薄膜形成後の信頼性ないし安定性に優れていること、及び電気特性が優れていることが産業界から強く要求される。加えて、従来と比較してその金属ルテニウム又は酸化ルテニウムの製造の容易化が図られなければ、産業界にとって魅力的なものとは言えない。
【0008】
しかしながら、本願発明者らが上述の問題を解決すべく研究開発に鋭意取り組んだ結果、電気特性が優れた導電体の前駆体又はその前駆体溶液を見出せたとしても、薄膜化後の経時的変化への耐性が低い、すなわち信頼性及び安定性に優れたものとは言えない例が多く見出された。本願発明者らの詳細な分析の結果、前駆体又は前駆体溶液を焼成することによって生じる熱収縮が、特にパターンを形成された膜における剥がれや割れを生じさせ得る原因となっていることを知見した。さらに研究開発を進めた結果、本願発明者らは、ある特定の材料を、金属ルテニウム又は酸化ルテニウムの前駆体溶液に含有させることにより、パターンが形成された焼成後の膜であっても、剥がれや割れが生じないようにすることが出来ることを見出した。加えて、その酸化物は、従来と比べて容易に製造し得るものであることも併せて見出された。本発明は上述の知見に基づいて創出された。
【0009】
本発明の1つの導電体の前駆体溶液は、ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種の前駆体と、(1)アミノ基及び(2)窒素原子を含有する複素環式基の群から選択される少なくとも1つを側鎖基に備えた樹脂組成物と、を溶質として含有する前駆体溶液であって、前述の前駆体に対する前述の樹脂組成物の重量比が2wt%以上50wt%である。
【0010】
この導電体の前駆体溶液によれば、その前駆体溶液の焼成によって形成される導電体がパターンを形成した薄膜であっても、確度高く剥がれや割れの発生を抑制又は防止することができる。従って、この導電体の前駆体溶液によれば、その導電体の前駆体溶液から形成される導電体薄膜を用いた各種の固体電子装置の信頼性及び安定性が向上することに貢献する。
【0011】
また、本発明の1つの導電体の前駆体溶液の製造方法は、ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種の前駆体と、(1)アミノ基及び(2)窒素原子を含有する複素環式基の群から選択される少なくとも1つを側鎖基に備えた樹脂組成物と、を溶質として含有するとともに、前述の前駆体に対する前述の樹脂組成物の重量比が2wt%以上50wt%となるように調製する工程を含む。
【0012】
この導電体の前駆体溶液の製造方法によれば、その前駆体溶液の焼成によって形成される導電体がパターンを形成した薄膜であっても、確度高く剥がれや割れの発生を抑制又は防止し得る前駆体溶液を提供することができる。従って、この導電体の前駆体溶液によれば、その導電体の前駆体溶液から形成される導電体薄膜を用いた各種の固体電子装置の信頼性及び安定性が向上することに貢献する。
【0013】
また、本発明の1つの導電体薄膜の製造方法は、ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種の前駆体と、(1)アミノ基及び(2)窒素原子を含有する複素環式基の群から選択される少なくとも1つを側鎖基に備えた樹脂組成物と、を溶質として含有する前駆体溶液であって、前述の前駆体に対する前述の樹脂組成物の重量比が2wt%以上50wt%である導電体の前駆体溶液を、酸素を含まない雰囲気中において300℃以上600℃以下で加熱する焼成工程により、ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種からなる導電体薄膜を形成する工程を含む。
【0014】
この導電体薄膜の前駆体溶液の製造方法によれば、その導電体薄膜がパターンを形成した薄膜であっても、確度高く剥がれや割れの発生を抑制又は防止し得る前駆体溶液を提供することができる。従って、この導電体薄膜の前駆体溶液の製造方法によれば、その導電体薄膜を用いた各種の固体電子装置の信頼性及び安定性が向上することに貢献する。加えて、比較的簡素な処理によって金属ルテニウム薄膜及び/又は酸化ルテニウム薄膜が形成されるため、工業性ないし量産性に優れた製造方法を提供することができる。
【0015】
また、本発明のもう1つの導電体薄膜の製造方法は、ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種の前駆体と、(1)アミノ基及び(2)窒素原子を含有する複素環式基の群から選択される少なくとも1つを側鎖基に備えた樹脂組成物と、を溶質として含有する前駆体溶液であって、前述の前駆体に対する前述の樹脂組成物の重量比が2wt%以上50wt%である導電体の前駆体溶液を、酸素含有雰囲気中において250℃以上600℃以下で加熱する焼成工程により、酸化ルテニウムからなる導電体薄膜を形成する工程を含む。
【0016】
この導電体薄膜の前駆体溶液の製造方法によれば、その導電体薄膜がパターンを形成した薄膜であっても、確度高く剥がれや割れの発生を抑制又は防止し得る前駆体溶液を提供することができる。従って、この導電体薄膜の前駆体溶液の製造方法によれば、その導電体薄膜を用いた各種の固体電子装置の信頼性及び安定性が向上することに貢献する。加えて、比較的簡素な処理によって酸化ルテニウム薄膜が形成されるため、工業性ないし量産性に優れた製造方法を提供することができる。
【0017】
なお、上述の各導電体薄膜の製造方法において、上述の各焼成工程の前に、上述の前駆体溶液を出発材とする前駆体膜を、70℃以上200℃で加熱した状態で型押し加工を施すことによって、その前駆体膜の型押し構造を形成する工程をさらに含むことは、好適な一態様である。この前駆体膜の型押し構造を形成する工程を経ることにより、その導電体薄膜の製造プロセスのさらなる簡素化と省エネルギー化を実現することができる。
【0018】
ところで、本願において、「型押し」は「ナノインプリント」と呼ばれることもある。また、本願において、「ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種の前駆体」とは、焼成することによって最終的にルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種が形成される前駆体を意味する。また、本願において「薄膜」の厚みを特に限定するものではないが、代表的には、1nm以上500nm以下の厚みの膜が「薄膜」に該当する。また、本願においては、「膜」は「層」とも表現される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の1つの導電体の前駆体溶液によれば、その前駆体溶液の焼成によって形成される導電体がパターンを形成した薄膜であっても、確度高く剥がれや割れの発生を抑制又は防止することができる。また、本発明の1つの導電体の前駆体溶液の製造方法によれば、その前駆体溶液の焼成によって形成される導電体がパターンを形成した薄膜であっても、確度高く剥がれや割れの発生を抑制又は防止し得る前駆体溶液を提供することができる。加えて、比較的簡素な処理によって金属ルテニウム薄膜又は酸化ルテニウム薄膜が形成されるため、工業性ないし量産性に優れた製造方法を提供することができる。
【0020】
従って、上述の前駆体溶液及び上述の前駆体溶液の製造方法によれば、その前駆体溶液から形成される導電体の薄膜を用いた各種の固体電子装置の信頼性及び安定性が向上することに貢献する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態である導電体の前駆体溶液、導電体薄膜、及び固体電子装置、並びにそれらの製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0023】
<第1の実施形態>
[導電体の前駆体溶液の製造]
本実施形態の導電体である金属ルテニウム又は酸化ルテニウムの前駆体溶液は、ルテニウム(Ru)を含む前駆体及び粘度平均分子量(Mw)が約10000である1wt%(前駆体溶液の総重量を基準とする)のポリビニルピロリドン(poly(vinilpyroridone),以下、「PVP」とも表記する)を溶質とする前駆体溶液である。より具体的には、本実施形態のルテニウム(Ru)を含む前駆体は、Ru(NO)(OAc)
3で表されるルテニウム錯体である。なお、Acはアセチル基である。また、本実施形態の前駆体溶液の溶媒は、プロピオン酸である。(さらに、モノエタノールアミンを添加剤として用いている。)本実施形態では、ルテニウム前駆体濃度が0.35mol/kgとなるように前駆体溶液の濃度が調製される。また、前駆体溶液の撹拌時の温度は、150℃である。なお、本実施形態における、ルテニウム(Ru)を含む前駆体に対するPVPの重量比率は、9.3wt%である。
【0024】
[導電体の前駆体層の製造方法]
上述のとおり調製された前駆体溶液を出発材として、
図1に示すように、公知のスピンコーティング法により、基板(例えば、酸化シリコン層に覆われたシリコン基板)10上に前駆体層20aを形成する。その後、予備焼成として、前駆体層20aを約5分間、70℃以上200℃以下(代表的には、約100℃)で加熱する。この予備焼成により、前駆体層20a中の溶媒を十分に蒸発させるとともに、将来的な塑性変形を可能にする特性を発現させるために好ましいゲル状態(熱分解前であって有機鎖が残存している状態と考えられる)を形成することができる。なお、前述のスピンコーティング法による前駆体層20aの形成及び予備焼成を複数回繰り返すことによって導電体薄膜20の所望の厚みを得ることができる。
【0025】
その後、前駆体層20aのパターニングを行うために、
図2に示すように、100℃〜150℃に加熱した状態で、前駆体層用型M1を用いて、2MPaの圧力で型押し加工を施す。その結果、
図3に示すように、本実施形態の前駆体層用型M1により、膜厚が約100nm〜500nmの厚層部と層厚が、約1nm〜約100nmの薄層部とを備える前駆体層20aが形成される。なお、上述の予備焼成、及び型押し加工の各工程は、例えば大気中で実施することができるが、それらの処理における雰囲気は特に限定されない。
【0026】
さらにその後、前駆体層20aを全面エッチングすることにより、型押し加工によって残すべき前駆体層20a以外の領域では、前駆体層20aが完全に除去される(前駆体層20aの全面に対するエッチング工程)。その結果、
図4に示すように、パターニングされた前駆体層20aが形成される。なお、本実施形態のエッチング工程は、真空プロセスを用いることないウェットエッチング技術を用いて行われたが、プラズマを用いた、いわゆるドライエッチング技術によってエッチングされることを妨げない。なお、プラズマ処理を大気圧下において行う公知技術を採用することも可能である。
【0027】
パターニングされた前駆体層20aを、酸素を含まない雰囲気中(例えば、窒素雰囲気中)において300℃以上600℃以下で所定時間(例えば10分間)加熱(本焼成)することにより、
図5に示すように、金属ルテニウム及び酸化ルテニウムの群から選択される少なくとも1種からなる、層厚が、約10nm〜約100nmの導電体薄膜20が形成される。なお、パターニングされた前駆体層20aを、酸素雰囲気中(例えば100体積%であるが、これに限定されない。)又は大気中(以下、総称して、「酸素含有雰囲気中」ともいう。)において250℃以上600℃以下で所定時間(例えば10分間)加熱(本焼成)すると、酸化ルテニウムからなる、導電体薄膜20が形成される。ところで、前述の各導電体薄膜20は、不可避不純物を含み得る(本願における、「導電体薄膜」についても同じ)。
【0028】
[導電体の前駆体層の評価]
図6は、型押し加工が施された直後(つまり、
図3の段階に相当)の前駆体層20aを光学顕微鏡により観察した結果である。なお、
図6における比較例(1)は、PVPが全く含まれていない前駆体溶液から形成された前駆体層である。また、
図6における比較例(2)は、PVPの代わりに、重量平均分子量が約6000である1wt%(前駆体溶液の総重量を基準とする)のポリエチレングリコール(poly(ethyleneglycol),以下、「PEG」とも表記する)が用いられた前駆体溶液から形成された前駆体層である。
【0029】
図6に示すように、本実施形態の前駆体層20aは、型押し加工が施された後も、パターン(凹凸)が綺麗に残っていることが確認された。一方、比較例(1)では、一部のパターンの剥がれが見られた。さらに、比較例(2)では、特にライン・アンド・スペースのパターンを形成しようとした領域のほぼ全域において、パターンが崩れてしまった。
【0030】
[導電体薄膜の評価(1)]
さらに、
図6で示す3つの例を、酸素含有雰囲気中、500℃で10分間焼成(本焼成)すると、本実施形態の導電体薄膜20のパターンには、依然として剥がれや崩れ、又は割れが見られなかったが、他の2つの比較例のパターンは、仮にパターンが残されたとしても、よりハッキリとした剥がれや割れが確認された。
【0031】
[導電体薄膜の評価(2)]
図7は、本実施形態において、酸素を含まない雰囲気中の一例である窒素雰囲気中において、250℃、300℃、400℃、及び500℃の各温度で加熱(本焼成)することによって形成された導電体薄膜20のXRD(X線回折)測定による分析結果である。また、
図8は、本実施形態において、酸素含有雰囲気中の一例である100体積%の酸素雰囲気中において250℃、300℃、400℃、及び500℃の各温度で加熱(本焼成)することによって形成された導電体薄膜20のXRD(X線回折)測定による分析結果である。なお、加熱時間は、いずれも10分間である。
【0032】
図7に示すように、酸素が含まれない雰囲気中で加熱した場合、特に300℃以上の加熱を行ったときには顕著に、金属ルテニウムの結晶に起因するピークが幾つか確認された。興味深いことに、水素等の還元雰囲気を形成するガスを導入することなく、金属ルテニウムの結晶が形成されていたならず、酸化ルテニウムの結晶に起因するピークも確認された。従って、酸素が含まれない雰囲気中で加熱した場合であっても、金属ルテニウムの結晶のみならず酸化ルテニウムの結晶が形成されることが分かった。
【0033】
一方、
図8に示すように、酸素雰囲気中で加熱した場合、酸化ルテニウムの結晶に起因するピークが確認された。
【0034】
さらに、本願発明者らは、上述の各導電体薄膜20の表面形態の違いの調査を行った。
図9は、本実施形態における導電体薄膜20の、焼成雰囲気の違いによる表面形態の違いを示すAFM像である。
【0035】
図9に示すように、酸素を含まない雰囲気中で加熱することによって形成された導電体薄膜の表面(以下、「導電体薄膜A」とも表記する)の方が、酸素雰囲気中で加熱することによって形成された導電体薄膜(以下、「導電体薄膜B」とも表記する)の表面よりも格段に平坦性に優れていることが明らかとなった。具体的には、導電体薄膜Bの表面のRMS(Root Mean Square)は7.25nmであったが、導電体薄膜Aの表面のRMSは一桁少ない0.89nmに過ぎなかった。さらに、結晶粒界に関しても、導電体薄膜Aの表面の方が導電体薄膜Bの表面に比べて緻密であることが確認された。従って、酸素を含まない雰囲気中で加熱することによって形成された導電体薄膜を採用することは、例えば、その導電膜を含む多層構造の膜(積層膜)を形成する際に極めて有利である。
【0036】
[導電体薄膜の評価(3)]
次に、PVPの含有量を変えることによる、本実施形態の導電体薄膜20の形態の変化を観察した。なお、本実施形態の加熱条件で予備焼成が行われた前駆体層に対して型押し加工を施した後、酸素含有雰囲気中、400℃で10分間焼成(本焼成)することによって形成された導電体薄膜を本評価対象として作製した。
【0037】
図10は、本実施形態の導電体薄膜20及びその変形例(1)〜(4)と、比較例(1)及び(2)の光学顕微鏡による表面観察結果である。なお、本実施形態の変形例(1)は、PVPの重量比率が0.5wt%(前駆体溶液の総重量を基準とする)である、金属ルテニウム又は酸化ルテニウムの前駆体溶液を出発材とする導電体薄膜である。また、本実施形態の変形例(2)は、PVPの重量比率が2wt%(前駆体溶液の総重量を基準とする)である、金属ルテニウム又は酸化ルテニウムの前駆体溶液を出発材とする導電体薄膜である。また、本実施形態の変形例(3)は、PVPの重量比率が3wt%(前駆体溶液の総重量を基準とする)である、金属ルテニウム又は酸化ルテニウムの前駆体溶液を出発材とする導電体薄膜である。また、本実施形態の変形例(4)は、PVPの重量比率が4wt%(前駆体溶液の総重量を基準とする)である、金属ルテニウム又は酸化ルテニウムの前駆体溶液を出発材とする導電体薄膜である。さらに、上述の比較例(1)、すなわちPVPが全く含まれていない前駆体溶液を出発材とする導電体薄膜の評価も行った。
【0038】
なお、本実施形態の変形例(1)における、ルテニウム(Ru)を含む前駆体に対するPVPの重量比率は、4.6wt%である。また、本実施形態の変形例(2)における、ルテニウム(Ru)を含む前駆体に対するPVPの重量比率は、18.5wt%である。また、本実施形態の変形例(3)における、ルテニウム(Ru)を含むPVPの前駆体に対する重量比率は、27.8wt%である。また、本実施形態の変形例(4)における、ルテニウム(Ru)を含む前駆体に対するPVPの重量比率は、37.1wt%である。
【0039】
図10に示すように、本実施形態の導電体薄膜20及びその変形例(1)〜(4)の導電体薄膜においては、いずれもパターンの剥がれや崩れ、あるいは割れが見られなかった。一方、比較例(1)では、一部のパターンの割れが確認された。従って、PVPの重量比率が、前駆体溶液の総重量を基準とするとした場合に、0.5wt%以上4wt%以下の範囲において、パターンの剥がれや崩れ、あるいは割れが確度高く防止ないし抑制されることが確認できた。また、前述の数値範囲のPVPを溶質とすることにより、最終的に形成される導電体薄膜20の抵抗率を低く抑えることができる。具体的には、4wt%以下であれば、約1×10
−3Ωcm以下を実現することができ、3wt%以下であれば、約1.1×10
−4Ωcm以下を実現することができる。さらに、2wt%以下であれば、約1×10
−4Ωcm以下を実現することができる。なお、PVPの重量比率が高まるほど、抵抗率が上昇する傾向があることも明らかとなった。
【0040】
また、本願発明者らの研究及び分析によれば、Ru(NO)(OAc)
3の代わりに、少なくとも、ルテニウム(Ru)を含む前駆体の他の例である、ルテニウム(III)クロリド、又はRu(III)(NO)(NO
3)
3を用いた場合に、本実施形態の効果と同様の効果が奏されることが分かった。従って、金属ルテニウム又は酸化ルテニウムを形成するための前駆体溶液の溶質の一つとして、窒素原子を含有する複素環式基を側鎖基に備えた樹脂組成物を採用することにより、本実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。
【0041】
加えて、上述の例を含め、ルテニウム(Ru)を含む前駆体の重量を基準とした場合において、PVPの重量比率が2wt%以上50wt%以下の範囲で、パターンの剥がれや崩れ、あるいは割れが確度高く防止ないし抑制することができる。加えて、上述の数値範囲であれば、最終的に形成される導電体薄膜20の抵抗率を低く抑えることができる。具体的には、50wt%以下であれば、約1×10
−3Ωcm以下を実現することができ、2wt%以下であれば、約1×10
−4Ωcm以下を実現することができる。なお、PVPの重量比率が高まるほど、抵抗率が上昇する傾向があることも明らかとなった。よって、上述の数値範囲であれば、導電体薄膜20の抵抗値を低く抑えつつ、パターンの剥がれや崩れ、あるいは割れが確度高く防止ないし抑制することができる。
【0042】
ところで、本実施形態では、金属ルテニウム又は酸化ルテニウムの前駆体溶液の溶質の一つとしてPVPを用いているが、導電体薄膜20のパターンの剥がれや崩れ、又は割れを防止ないし抑制する材料はPVPに限定されない。例えば、PVPの代わりに、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリオキサゾリン、メラミン樹脂、尿素樹脂、又はこれら樹脂の単位構造を含有した樹脂組成物が用いられても、本実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。これらの材料が用いられる例も本実施形態の変形例である。従って、アミノ基を側鎖基に備えた樹脂組成物を溶質の一つとして採用することにより、本実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。なお、もう一つの溶質であるルテニウム(Ru)を含む前駆体が、ルテニウム錯体であり、そのルテニウム錯体に対して、前述の樹脂組成物の少なくとも一部が配位していることは好適な一態様である。
【0043】
<第2の実施形態>
[導電体の前駆体溶液の製造]
本実施形態では、主として、第1の実施形態における金属ルテニウム又は酸化ルテニウムの前駆体溶液の溶質のうち、PVPの代わりにポリエチレンイミン(Polyethyleneimine,以下、「PEI」とも表記する)を用いている点を除いて、第1の実施形態と同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0044】
本実施形態の金属ルテニウム又は酸化ルテニウムの前駆体溶液は、第1の実施形態と同じルテニウム(Ru)を含む前駆体、及び重量平均分子量(Mw)が約25000である1wt%(前駆体総重量を基準とする)のPEIを溶質とする前駆体溶液である。また、本実施形態では、ルテニウム前駆体濃度が0.35mol/kgとなるように前駆体溶液の濃度が調製される。また、前駆体溶液の撹拌時の温度は、150℃である。なお、本実施形態における、PEIのルテニウム(Ru)を含む前駆体に対する重量比率は、9.3wt%である。また、本実施形態においては、第1の実施形態と同様に予備焼成が行われた後、前駆体層用型M1を用いて、2MPaの圧力で型押し加工が施される。その結果、
図4に示すように、型押し構造を有する前駆体層220aが形成される。さらにその後、本焼成が行わることによって、
図4に示すように、導電性薄膜220が形成される。
【0045】
図11は、本実施形態の導電体薄膜220及び第1の実施形態の変形例(5)における導電体薄膜、並びに上述の比較例(1)の変形例の光学顕微鏡による表面観察結果である。なお、比較例(1)の変形例と比較例(1)との違いは、型押し加工を施した際の圧力が、2MPaに変更された点のみである。
【0046】
図11に示すように、本実施形態の導電体薄膜220及び第1の実施形態の変形例(5)における導電体薄膜のパターンには、剥がれや崩れ、又は割れが見られなかったが、比較例(1)の変形例のパターンは、ハッキリとした割れが確認された。従って、本実施形態の導電体の前駆体溶液を出発材として導電体薄膜220のパターンを形成した場合であっても、確度高く剥がれや割れの発生を抑制又は防止し得る。
【0047】
また、本願発明者らの研究及び分析によれば、PEIの重量比率が、前駆体溶液の総重量を基準とするとした場合に、0.5wt%以上4wt%以下の範囲において、パターンの剥がれや崩れ、あるいは割れが確度高く防止ないし抑制されることが確認できた。前述の数値範囲のPEIを溶質とすることにより、最終的に形成される導電体薄膜20の抵抗率を低く抑えることができる。具体的には、4wt%以下であれば、約1×10
−3Ωcm以下を実現することができ、3wt%以下であれば、約1.1×10
−4Ωcm以下を実現することができる。さらに、2wt%以下であれば、約1×10
−4Ωcm以下を実現することができる。なお、PEIの重量比率が高まるほど、抵抗率が上昇する傾向があることも明らかとなった。
【0048】
また、本願発明者らの研究及び分析によれば、Ru(NO)(OAc)
3の代わりに、少なくとも、ルテニウム(Ru)を含む前駆体の他の例である、ルテニウム(III)クロリド、Ru(III)(NO)(NO
3)
3を用いた場合に、本実施形態の効果と同様の効果が奏されることが分かった。従って、金属ルテニウム又は酸化ルテニウムを形成するための前駆体溶液の溶質の一つとして、アミノ基を側鎖基に備えた樹脂組成物を採用することにより、本実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。
【0049】
加えて、上述の例を含め、ルテニウム(Ru)を含む前駆体の重量を基準とした場合において、PEIの重量比率が2wt%以上50wt%以下の範囲で、パターンの剥がれや崩れ、あるいは割れが確度高く防止ないし抑制することができる。加えて、上述の数値範囲であれば、最終的に形成される導電体薄膜20の抵抗率を低く抑えることができる。具体的には、50wt%以下であれば、約1×10
−3Ωcm以下を実現することができ、9.3wt%以下であれば、約1×10
−4Ωcm以下を実現することができる。なお、PEIの重量比率が高まるほど、抵抗率が上昇する傾向があることも明らかとなった。よって、上述の数値範囲であれば、導電体薄膜20の抵抗値を低く抑えつつ、パターンの剥がれや崩れ、あるいは割れが確度高く防止ないし抑制することができる。
【0050】
なお、本実施形態では、金属ルテニウム又は酸化ルテニウムの前駆体溶液の溶質の一つとしてPEIを用いているが、導電体薄膜20のパターンの剥がれや崩れ、又は割れを防止ないし抑制する材料はPEIに限定されない。例えば、PEIの代わりに、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリオキサゾリン、メラミン樹脂、尿素樹脂、またこれら樹脂の単位構造を含有した樹脂組成物が用いられても、本実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。これらの材料が用いられる例も本実施形態の変形例である。従って、窒素原子を含有する複素環式基を側鎖基に備えた樹脂組成物を溶質の一つとして採用することにより、本実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。なお、もう一つの溶質であるルテニウム(Ru)を含む前駆体が、ルテニウム錯体であり、そのルテニウム錯体に対して、前述の樹脂組成物の少なくとも一部が配位していることは好適な一態様である。
【0051】
[第1及び第2の実施形態の導電体薄膜の加熱収縮率及び電気特性評価]
さらに、本願発明者らは、上述の各実施形態の導電性薄膜20,220の製造過程における、前駆体層を加熱することによって生じる膜厚の収縮率を調査するとともに、最終的に得られる導電体薄膜20,220の電気特性を調査した。表1は、導電性薄膜20,220の形成過程における膜厚の収縮率と、導電体薄膜20,220の抵抗率とを示している。なお、表1に示す述の各実施形態の導電性薄膜20,220は、酸素を含まない雰囲気中の一例である窒素雰囲気中又は酸素含有雰囲気中の一例である100体積%の酸素雰囲気中において500℃で加熱(本焼成)した場合の結果である。また、上述の比較例(1)の結果も表1に示した。
【0053】
表1に示すように、酸素雰囲気中で加熱することによって形成した導電体薄膜20,220に比べて、窒素雰囲気中で加熱することによって形成した導電体薄膜20,220の方が、膜厚収縮率が高く、かつ低抵抗であることが明らかとなった。この結果は、窒素雰囲気中で加熱することによって形成した導電体薄膜20,220の緻密化が促進されたことを示している。また、窒素雰囲気中で加熱することによって金属ルテニウムの存在が支配的になることとも相俟って、該導電体薄膜20,220の少なくとも電気特性が向上したといえる。なお、本願発明者らの研究及び分析によれば、特に、酸素を含まない雰囲気中及び酸素含有雰囲気中のいずれで加熱した場合であっても、300℃以上600℃以下の加熱(本焼成)によって形成した導電体薄膜20,220の抵抗率が低くなる傾向があることが明らかとなった。特に、酸素を含まない雰囲気中において加熱すると、300℃以上600℃以下の加熱(本焼成)によって導電体薄膜20,220の抵抗率が6.9×10
−5Ωcm以下となり、400℃以上600℃以下の加熱(本焼成)によってその抵抗率が3.0×10
−5Ωcm以下となることが明らかとなった。上述のとおり、酸素を含まない雰囲気中及び酸素含有雰囲気中のいずれで加熱された場合であっても、各種の固体電子装置を動作させるための十分に低い抵抗率を得ることができた。
【0054】
なお、第1の実施形態及び第2の実施形態において、導電体薄膜20,220のパターンの剥がれや崩れ、又は割れが確度高く防止ないし抑制できるメカニズムは、未だ明確ではない。しかし、本願発明者らの研究と分析によれば、導電体の前駆体層が加熱されることによってルテニウムの周囲の有機成分が分解するために前駆体層の体積が急速に減少したとしても、PVP又はPEIが、その体積の減少による前駆体層の縦方向と横方向の収縮応力の違いの影響を緩和していると考えられる。一般的に、上述の各実施形態のように、前駆体溶液を出発材とし、それを焼成することによって各種の膜を形成する方法(本願では、便宜上、「溶液法」とも表記する)においては、有機成分の分解と結晶化の過程を経るため、型押し加工によるパターニングのみならず、インクジェット法やスクリーン印刷法などによるパターニングにとっても避けて通れない課題となり得る。そのため、上述の各実施形態において示された各効果は、そのような各種のパターニングの形成技術の向上に大いに貢献し得る。
【0055】
一つの好適な適用例として、柔軟な基板(例えば樹脂製基板)上に、上述の各実施形態の導電体薄膜20,220を形成した例が挙げられる。
図12は、ポリイミド製の基板上に、第1の実施形態において酸素を含まない雰囲気中で加熱することによって形成した導電体薄膜20(
図12におけるX)のを指で曲げている写真である。
図12に示すように、基板を曲げても、その曲げが導電体薄膜に与える応力によって、膜の剥がれや崩れ、又は割れが生じないことが分かる。従って、
図12に示す結果は、上述の各実施形態の導電体薄膜20,220の用途が格段に広がる余地があることを示している。
【0056】
<第3の実施形態>
[薄膜トランジスタの製造]
以下に、本実施形態における固体電子装置の一例である薄膜トランジスタ100及びその製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。
【0057】
図13〜
図19は、それぞれ、本実施形態における薄膜トランジスタ100の製造方法の一過程を示す断面模式図である。また、本実施形態の薄膜トランジスタは、いわゆるボトムゲート構造を採用しているが、本実施形態はこの構造に限定されない。従って、当業者であれば、通常の技術常識を以って本実施形態の説明を参照することにより、工程の順序を変更することにより、トップゲート構造を形成することができる。また、本出願における温度の表示は、校正されたヒーターの設定温度を表している。加えて、図面を簡略化するため、各電極からの引き出し電極のパターニングについての記載は省略する。
【0058】
(1)ゲート電極の形成、及びゲート絶縁層の前駆体層の形成
本実施形態では、まず、
図13に示すように、基板10及び最終的にゲート電極となる第1実施形態の導電体薄膜20上に、前駆体層20aの形成方法と同様に、シリコン(Si)を含む前駆体を溶質とする前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層30aを形成する。ここで、この導電体薄膜20は、上述のとおり、金属ルテニウム及び/又は酸化ルテニウムを含む膜、あるいは酸化ルテニウムを含む膜である。また、本実施形態における導電体薄膜20の厚みは約30nmである。また、本実施形態のゲート絶縁層用前駆体層30aを形成する前駆体溶液の溶質であるシリコン(Si)を含む前駆体の例は、テトラエトキシシランであり、その溶媒の例は、2−メトキシエタノールである。
【0059】
なお、本実施形態においては、ゲート電極、ソース電極、及びドレイン電極について、代表的に、第1の実施形態の導電性薄膜20を用いて説明するが、本実施形態はこの態様に限定されない。例えば、第1の実施形態の導電性薄膜20の代わりに、第2の実施形態の導電性薄膜220、又はその他の各実施形態の変形例の導電性薄膜を用いることも採用し得る一態様である。
【0060】
(2)ゲート絶縁層の形成
その後、
図14に示すように、予備焼成として、約5分間、ゲート絶縁層用前駆体層30aを大気中において150℃に加熱する。予備焼成温度は、80℃以上200℃未満が好ましい。そして、予備焼成を行った後、本焼成として、ゲート絶縁層用前駆体層30aを、酸素雰囲気中、約20分間、500℃に加熱することにより、
図14に示すゲート絶縁層30(不可避不純物を含み得る。以下、同じ。)が形成される。なお、本実施形態におけるゲート絶縁層30の厚みは約170nmである。
【0061】
なお、本実施形態では、ゲート絶縁層のパターニングを行うために、ゲート絶縁層用前駆体層30aに対する予備焼成の後に、導電体薄膜20のパターニングと同様に、ゲート絶縁層専用の型(図示しない)を用いて型押し加工を施すことも、採用し得る他の一態様である。また、ゲート絶縁層を形成するための型押し加工に対しても、ゲート電極としての導電体薄膜20のパターニングと同様の好適な加熱温度範囲や圧力等の諸条件が適用し得る。
【0062】
(3)チャネルの形成
その後、ゲート絶縁層30上に、前駆体層20aの形成方法と同様に、インジウム(In)を含む前駆体及び亜鉛(Zn)を含む前駆体を溶質とするチャネル用前駆体溶液を出発材とするチャネル用前駆体層が形成する。その後、上述の導電体薄膜20の形成方法と同様に予備焼成及び本焼成が行われる。その結果、ゲート絶縁層30上に、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とからなるチャネル用酸化物層400(不可避不純物を含み得る。以下、同じ。)が形成される。なお、本実施形態のチャネル用酸化物層40の厚みは約20nmである。なお、本実施形態のチャネル用前駆体層を形成するチャネル用前駆体溶液の溶質であるインジウム(In)を含む前駆体の例はインジウムアセチルアセトナートであり、その溶媒の例はプロピオン酸である。また、亜鉛(Zn)を含む前駆体の例は塩化亜鉛であり、その溶媒の例は2−メトキシエタノールである。
【0063】
なお、本実施形態では、チャネルのパターニングを行うために、チャネル用前駆体層に対する予備焼成の後に、導電体薄膜20のパターニングと同様に、チャネル専用の型(図示しない)を用いて型押し加工を施すことも、採用し得る他の一態様である。また、チャネルを形成するための型押し加工に対しても、ゲート電極としての導電体薄膜20のパターニングと同様の好適な加熱温度範囲や圧力等の諸条件が適用し得る。
【0064】
(4)ソース電極及びドレイン電極の形成
本実施形態では、その後、第1又は第2の実施形態と同様に、溶液法を採用した上で型押し加工を施すことにより、金属ルテニウム及び/又は酸化ルテニウムからなるソース電極54及びドレイン電極52(但し、いずれも不可避不純物を含み得る。以下、同じ。)が形成される。なお、本実施形態のソース電極54及びドレイン電極52は、いずれも、第1の実施形態の導電体薄膜20と同一材料を用いて形成される。
【0065】
まず、チャネル用酸化物層40上に、公知のスピンコーティング法により、金属ルテニウム又は酸化ルテニウムの前駆体溶液を出発材とするソース/ドレイン電極用前駆体層50aを形成する。
【0066】
その後、予備焼成として、前駆体層20aを約5分間、約100℃で加熱する。さらにその後、ソース/ドレイン電極のパターニングを行うために、
図16に示すように、100℃〜150℃に加熱した状態で、前駆体層用型M2を用いて、2MPaの圧力で型押し加工を施す。その結果、
図17に示すように、将来的にソース電極及びドレイン電極となる領域(
図17の(a))上には、膜厚が約100nm〜500nmのソース/ドレイン電極用前駆体層50aが形成される。また、将来的にチャネル用酸化物層40が残される領域(
図17の(b))上には、約5nm〜約100nmの膜厚のソース/ドレイン電極用前駆体層50aが形成される。一方、将来的にチャネル用酸化物層40が取り除かれる領域(
図17の(c))上には、約1nm〜約100nmの膜厚のソース/ドレイン電極用前駆体層50aが形成される。なお、上述の予備焼成、及び型押し加工の各工程は、例えば大気中で実施することができるが、それらの処理における雰囲気は特に限定されない。
【0067】
その後、本焼成として、ソース/ドレイン電極用前駆体層50aを、大気中で、約5分間、500℃に加熱することにより、
図18に示すように、ソース/ドレイン電極用酸化物層50が形成される。
【0068】
その後、ソース/ドレイン電極用酸化物層50の全面に対して、アルゴン(Ar)プラズマによるドライエッチングを行う。その結果、最も薄い領域(
図18の(c))のソース/ドレイン電極用酸化物層50が最初にエッチングされ、その後継続して、露出したチャネル用酸化物層40がエッチングされることになる。続いて、2番目に薄い領域(
図18の(b))のソース/ドレイン電極用酸化物層50が完全にエッチングされるとともに、最も薄い領域(
図18の(c))におけるチャネル用酸化物層40が完全にエッチングされたときに、プラズマ処理を停止する。このように、本実施形態では、上述の領域(b)と領域(c)の各層厚を調整することにより、領域(b)のチャネル用酸化物層40を残した状態で、領域(c)のチャネル用酸化物層40が取り除かれる。その結果、
図19に示すように、チャネル領域自身の分離が実現されるとともに、ソース電極54及びドレイン電極52がチャネル領域を介して完全に分離されるように形成される。このソース電極54及びドレイン電極52の形成により、
図19に示す薄膜トランジスタ100が製造される。なお、本実施形態の導電体薄膜20が、ゲート電極、ソース電極、及びドレイン電極の群から選択される少なくとも1つとして活用されることも、採用し得る他の一態様である。
【0069】
なお、本実施形態のエッチング工程は、アルゴン(Ar)プラズマによるドライエッチングによってエッチングされたが、真空プロセスを用いることないウェットエッチング技術を用いて行われることを妨げない。
【0070】
また、本実施形態の薄膜トランジスタ100の製造方法を採用すれば、真空プロセスを用いることなく各種の前駆体溶液を加熱すればよいため、従来のスパッタ法と比較して大面積化が容易になるとともに、工業性又は量産性を格段に高めることが可能となる。
【0071】
<第4の実施形態>
[薄膜キャパシタの製造]
以下に、本実施形態における固体電子装置の一例である薄膜キャパシタ200及びその製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。
【0072】
図20〜
図23は、それぞれ、本実施形態における薄膜キャパシタ200の製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図20に示すように、薄膜キャパシタ200においては、基板(例えば、酸化シリコン層に覆われたシリコン基板)10上に、下部電極層を形成する導電体薄膜20が形成される。次に、導電体薄膜20上に誘電体である酸化物層60が形成されて、その後、酸化物層60上に、上部電極層を形成する導電体薄膜20が形成される。従って、薄膜キャパシタ200は、上部電極層を形成する導電体薄膜20と下部電極層を形成する導電体薄膜20との間に酸化物層60が配置されたサンドイッチ構造を備える。
【0073】
なお、本実施形態においても、代表的に、第1の実施形態の導電性薄膜20を用いて説明するが、本実施形態はこの態様に限定されない。例えば、第1の実施形態の導電性薄膜20の代わりに、第2の実施形態の導電性薄膜220、又はその他の各実施形態の変形例の導電性薄膜を用いることも採用し得る一態様である。
【0074】
(1)下部電極層及び上部電極層の形成
図21は、下部電極層を形成する導電体薄膜20の形成工程を示す図である。本実施形態においては、薄膜キャパシタ200の下部電極層及び上部電極層を形成する導電体薄膜20は、いずれも第1の実施形態の導電体薄膜20によって形成される例を説明する。なお、第1の実施形態では導電体薄膜20本焼成としての加熱温度は500℃であったが、本実施形態の導電体薄膜20本焼成としての加熱温度は550℃である。その他の導電体薄膜20の製造方法は、第1の実施形態において述べたとおりである。
【0075】
(2)誘電体である酸化物層の形成
下部電極層を形成する導電体薄膜20上に、誘電体である酸化物層60が形成される。酸化物層60は、(a)前駆体層の形成及び予備焼成の工程、(b)本焼成の工程、の順で形成される。本実施形態においては、薄膜キャパシタ200の製造工程の酸化物層60が、パイロクロア型結晶構造の結晶相を有する、ビスマス(Bi)とニオブ(Nb)とからなる酸化物によって形成される例を説明する。
【0076】
(a)前駆体の層の形成及び予備焼成
図22に示すように、下部電極層を形成する導電体薄膜20上に、公知のスピンコーティング法により、ビスマス(Bi)を含む前駆体及びニオブ(Nb)を含む前駆体を溶質とする前駆体溶液を出発材とする前駆体層60aが形成される。ここで、酸化物層60のためのビスマス(Bi)を含む前駆体の例は、オクチル酸ビスマス、塩化ビスマス、硝酸ビスマス、又は各種のビスマスアルコキシド(例えば、ビスマスイソプロポキシド、ビスマスブトキシド、ビスマスエトキシド、ビスマスメトキシエトキシド)が採用され得る。また、本実施形態における酸化物層60のためのニオブ(Nb)を含む前駆体の例は、オクチル酸ニオブ、塩化ニオブ、硝酸ニオブ、又は各種のニオブアルコキシド(例えば、ニオブイソプロポキシド、ニオブブトキシド、ニオブエトキシド、ニオブメトキシエトキシド)が採用され得る。また、前駆体溶液の溶媒は、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールの群から選択される1種のアルコール溶媒、又は酢酸、プロピオン酸、オクチル酸の群から選択される1種のカルボン酸である溶媒であることが好ましい。
【0077】
その後、予備焼成として、酸素含有雰囲気中で所定の時間、80℃以上250℃未満の温度範囲で予備焼成を行う。
【0078】
(b)本焼成
その後、本焼成として、前駆体層60aを、酸素雰囲気中で、所定の時間、例えば550℃で加熱する。その結果、
図23に示すように、下部電極層上に、ビスマス(Bi)とニオブ(Nb)とからなる、酸化物層60が形成される。なお、また、本焼成の温度が550℃の場合には、比誘電率の高いパイロクロア型結晶構造の結晶相を得ることができる。
【0079】
また、酸化物層60の膜厚の範囲は30nm以上が好ましい。酸化物層60の膜厚が30nm未満になると、膜厚の減少に伴うリーク電流及び誘電損失の増大により、固体電子装置に適用するには実用的ではなくなるため好ましくない。
【0080】
酸化物層60を形成した後、酸化物層60上に、下部電極層を形成する導電体薄膜20の形成工程と同様に、上部電極層を形成する導電体薄膜20を形成する。この上部電極層を形成する導電体薄膜20の形成により、
図20に示す薄膜キャパシタ200が製造される。
【0081】
また、本実施形態の薄膜キャパシタ200の製造方法を採用すれば、真空プロセスを用いることなく各種の前駆体溶液を加熱すればよいため、従来のスパッタ法と比較して大面積化が容易になるとともに、工業性又は量産性を格段に高めることが可能となる。
<その他の実施形態>
【0082】
ところで、上述の各実施形態における型押し工程において、予め、型押し面が接触することになる各前駆体層の表面に対する離型処理及び/又はその型の型押し面に対する離型処理を施しておき、その後、各前駆体層に対して型押し加工を施すことが好ましい。そのような処理を施すことにより、各前駆体層と型との間の摩擦力を低減することができるため、各前駆体層に対してより一層精度良く型押し加工を施すことが可能となる。なお、離型処理に用いることができる離型剤としては、界面活性剤(例えば、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等)、フッ素含有ダイヤモンドライクカーボン等を例示することができる。
【0083】
また、第1の実施形態及び第2の実施形態に示す各樹脂組成物を混合したものを、金属ルテニウム又は酸化ルテニウムを形成するための前駆体溶液の溶質の一つとして採用することも、好適な一態様である。従って、アミノ基及び窒素原子を含有する複素環式基の群から選択される少なくとも1つを側鎖基に備えた樹脂組成物を溶質として含有する前駆体溶液は、最終的に形成される導電体薄膜である金属ルテニウム及び/又は酸化ルテニウムのパターンの剥がれや崩れ、あるいは割れを確度高く防止ないし抑制することに貢献し得る。
【0084】
また、第4の各実施形態においては、型押し加工の例を示さなかったが、第4の各実施形態においても、第3の実施形態と同様に型押し加工を施すことができる。
【0085】
また、第3及び第4の各実施形態において、固体電子装置としての薄膜トランジスタ100及び薄膜キャパシタ200を例示したが、固定電子装置の例はこれらに限定されない。例えば、微小電気機械システムに適用することができる。また、第1の実施形態及びその変形例並びに第2の実施形態の導電体薄膜は、例えば、
図24に示すように、酸化物層60が上部電極層(導電体薄膜20)と下部電極層(導電体薄膜20)との間にサンドイッチされた薄膜キャパシタ300における拡散バリア層70としても用いることができる。
【0086】
以上述べたとおり、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。