(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-104112(P2015-104112A)
(43)【公開日】2015年6月4日
(54)【発明の名称】移動体端末試験装置および試験方法
(51)【国際特許分類】
H04W 24/06 20090101AFI20150508BHJP
H04W 88/02 20090101ALI20150508BHJP
【FI】
H04W24/06
H04W88/02 150
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-245990(P2013-245990)
(22)【出願日】2013年11月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079337
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 誠志
(72)【発明者】
【氏名】藤樫 晴之
(72)【発明者】
【氏名】新江 大
(72)【発明者】
【氏名】音成 伸俊
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA26
5K067AA33
5K067BB04
5K067DD44
5K067EE02
5K067EE10
5K067FF16
5K067GG08
5K067HH21
5K067LL08
(57)【要約】
【課題】移動体端末が基地局等の出力電力低下指示に即応するか否かを、確実に且つ短時間に判別できるようにする。
【解決手段】設定手段23は、ランダムアクセス手順の過程で移動体端末1からの送信信号に対する無応答を一定期間継続することで、端末内部の出力指定値が飽和レベルを超えた領域に入っていると予測される指定値飽和超え状態に設定する。データ送信指定手段24、25は、指定値飽和超え状態の移動体端末1に対し、M個およびMより小さいN個のリソースブロックを割当て、その割り当てたリソースブロックにデータが挿入された信号を送信させ、その電力を電力測定手段26が測定する。判定手段27は、リソースブロック数M、Nのときの測定値の差が、M、Nの比で決まる許容範囲に入るか否かを判定し、その判定結果から、移動体端末1が出力電力低下指示に即応するか否かを判別する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象の移動体端末との間で基地局を模した通信を行ない、前記移動体端末に対する試験を行なう移動体端末試験装置において、
前記移動体端末との間のランダムアクセス手順の過程で、前記移動体端末からの送信信号に対する無応答を前記移動体端末の出力電力が飽和レベルに達してから所定期間が経過するまで継続することで、前記移動体端末の出力電力を端末内部で指定するための出力指定値が前記飽和レベルを超えた領域に入っていると予測される指定値飽和超え状態に設定する設定手段(23)と、
前記指定値飽和超え状態に設定された移動体端末に対し、アップリンクの物理チャネルに2以上のM個のリソースブロックを割り当てて、該割り当てたM個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信させる第1のデータ送信指示手段(24)と、
前記指定値飽和超え状態に設定された移動体端末に対し、アップリンクの物理チャネルに前記Mより小さいN個のリソースブロックを割り当てて、該割り当てたN個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信させる第2のデータ送信指示手段(25)と、
前記第1のデータ送信指示手段および第2のデータ送信指示手段の指示によって前記移動体端末が送信した信号の物理チャネルの電力を測定する電力測定手段(26)と、
前記第1のデータ送信指示手段の指示により前記移動体端末が送信したときに前記電力測定手段で測定された第1の測定値と、前記第2のデータ送信指示手段の指示により前記移動体端末が送信したときに前記電力測定手段で測定された第2の測定値との差が、前記数M、Nの比で決まる許容範囲に入るか否かを判定する判定手段(27)とを有し、
前記第1の測定値と第2の測定値の差が前記許容範囲に入るとき、試験対象の移動体端末を前記指定値飽和超え状態における出力電力低下指示に即応する即応型と判定し、前記第1の測定値と第2の測定値の差が前記許容範囲に入らないとき、試験対象の移動体端末を前記指定値飽和超え状態における出力電力低下指示に即応しない非即応型と判定することを特徴とする移動体端末試験装置。
【請求項2】
試験対象の移動体端末との間で基地局を模した通信を行ない、前記移動体端末に対する試験を行なう移動体端末試験方法において、
前記移動体端末との間のランダムアクセス手順の過程で、前記移動体端末からの送信信号に対する無応答を前記移動体端末の出力電力が飽和レベルに達してから所定期間が経過するまで継続することで、前記移動体端末の出力電力を端末内部で指定するための出力指定値が前記飽和レベルを超えた領域に入っていると予測される指定値飽和超え状態に設定する段階(S1〜S5)と、
前記指定値飽和超え状態に設定された移動体端末に対し、アップリンクの物理チャネルに2以上のM個のリソースブロックを割当て、該M個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信させ、その信号の物理チャネルの電力を測定し、また、前記指定値飽和超え状態に設定された移動体端末に対し、アップリンクの物理チャネルに前記Mより小さいN個のリソースブロックを割当て、該N個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信させ、その信号の物理チャネルの電力を測定する段階(S6〜S9)と、
前記移動体端末が前記M個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信したときに測定された第1の測定値と、前記移動体端末が前記N個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信したときに測定された第2の測定値との差が、前記数M、Nの比で決まる許容範囲に入るか否かを判定する段階(S10)とを含み、
前記第1の測定値と第2の測定値の差が前記許容範囲に入るとき、前記移動体端末を前記指定値飽和超え状態における出力電力低下指示に即応する即応型と判定し、前記第1の測定値と第2の測定値の差が前記許容範囲に入らないとき、前記移動体端末を前記指定値飽和超え状態における出力電力低下指示に即応しない非即応型と判定することを特徴とする移動体端末試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話やスマートフォン等の移動体端末(以下、単に端末と記す場合がある)の送信電力に関する試験を行なう技術に関し、試験装置(擬似基地局)との間のランダムアクセス手順の過程で、試験装置側が故意に無応答を所定期間継続することで、移動体端末の出力電力が飽和レベルに達し、さらに送信電力を指定するための出力指定値が飽和レベルを超えた所定領域にはいるような指定値飽和超え状態において、基地局等からの出力電力低下指示に対して速やかに出力電力を飽和レベル以下に低下させる機能を移動体端末がもっているか否かを容易に判別できるようにするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体端末の試験には種々の項目があるが、そのうちの重要な試験項目として出力電力の制御機能がある。
【0003】
1つの基地局と多数の移動体端末との同時通信が行なわれるシステムでは、移動体端末の出力電力を適正に行なう必要があり、このために、移動体端末は、基地局との接続の際に、基地局側から指示されたランダムアクセスプリアンブル種別を特定のチャネル、比較的低い出力電力で送信し、これに対する基地局側からの応答情報によりアップリンク(UL)やダウンリンク(DL)のタイミング等を特定して、通信状態に移行している。
【0004】
このランダムアクセスの手順で、移動体端末は基地局側からの応答がない場合、出力電力を所定ステップ増加させ、再度ランダムアクセスプリアンブルを送信するという処理を繰り返すことになる。
【0005】
この出力電力の増加機能を試験する場合、試験装置は、移動体端末からの送信に対して故意に応答しないで受信信号レベルをモニタすることで、移動体端末の出力電力が順次増加していく様子を把握できる。
【0006】
この試験の際に、移動体端末は、内部で出力電力を指定するための出力指定値を所定ステップで順次増加させていくが、基地局側からの応答が継続して無い場合、移動体端末の出力電力が飽和した後も継続的に端末内部の出力指定値を増加更新させる端末とそうでない端末とがあり、試験対象の移動体端末がどちらのタイプであるかを特定することも一つの重要な試験となっている。
【0007】
これを確認するために考えられる方法としては、移動体端末の出力電力が飽和レベルに達し、さらに送信電力を指定するための出力指定値が飽和レベルを超えた所定領域に入ったと予測される指定値飽和超え状態において、クローズドループパワー制御を用いて移動体端末に対してその出力電力を所定値ΔQ(例えば1dB)低下させてデータ送信させるための出力電力低下指示を与える方法である。
【0008】
この出力電力低下指示を受けた移動体端末は、内部の出力指定値を所定値ΔQ減少させて所定のチャネルでデータ等の送信を行ない、これを試験装置で受信してそのレベルを測定する。
【0009】
ここで、出力飽和後に内部の出力指定値が増加更新されない移動体端末の場合、出力電力低下指示を受けた後の出力電力は飽和レベルから所定値ΔQ分下がることになる。これに対し、出力飽和後も内部の出力指定値が増加更新される移動体端末の場合、出力電力低下指示を受けて出力指定値を所定値ΔQ分下げても飽和レベルから変化しない、あるいは所定値ΔQ分下がらない。
【0010】
したがって、試験装置側で、出力電力低下指示を与えた後の移動体端末からの信号の受信レベルが飽和時の受信レベルより所定値ΔQ分下がれば、出力電力低下指示に即応する移動体端末と特定することができ、受信レベルが飽和時の受信レベルのまま変化しない、あるいは所定値ΔQ分下がらなければ、出力電力低下指示に即応しない移動体端末と特定することができる。
【0011】
なお、移動体端末の出力電力の制御の試験を行なう装置の構成例は、次の特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−46431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、クローズドループパワー制御において1度の出力電力低下指示で低下できる値は規格的に数dB以下と少ないため、移動体端末の出力電力の低下が、出力電力低下指示によるものか、試験環境の変化等によるものかを判別することが困難である。
【0014】
このため、クローズドループパワー制御における出力電力低下指示を連続的に複数回行ない、移動体端末内部の出力指定値を順次低下させて、受信レベルの変化の傾向を求める方法も考えられるが、試験結果が得るまでに時間がかり、また、受信レベルの変化の傾向を調べる等、複雑な処理が必要となる。
【0015】
本発明は、これらの問題を解決し、指定値飽和超え状態の移動体端末が、基地局等の出力電力低下指示に即応するか否かを、確実に且つ短時間に判別できる移動体端末試験装置および試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、請求項1の本発明の移動体端末試験装置は、
試験対象の移動体端末との間で基地局を模した通信を行ない、前記移動体端末に対する試験を行なう移動体端末試験装置において、
前記移動体端末との間のランダムアクセス手順の過程で、前記移動体端末からの送信信号に対する無応答を前記移動体端末の出力電力が飽和レベルに達してから所定期間が経過するまで継続することで、前記移動体端末の出力電力を端末内部で指定するための出力指定値が前記飽和レベルを超えた領域に入っていると予測される指定値飽和超え状態に設定する設定手段(23)と、
前記指定値飽和超え状態に設定された移動体端末に対し、アップリンクの物理チャネルに2以上のM個のリソースブロックを割り当てて、該割り当てたM個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信させる第1のデータ送信指示手段(24)と、
前記指定値飽和超え状態に設定された移動体端末に対し、アップリンクの物理チャネルに前記Mより小さいN個のリソースブロックを割り当てて、該割り当てたN個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信させる第2のデータ送信指示手段(25)と、
前記第1のデータ送信指示手段および第2のデータ送信指示手段の指示によって前記移動体端末が送信した信号の物理チャネルの電力を測定する電力測定手段(26)と、
前記第1のデータ送信指示手段の指示により前記移動体端末が送信したときに前記電力測定手段で測定された第1の測定値と、前記第2のデータ送信指示手段の指示により前記移動体端末が送信したときに前記電力測定手段で測定された第2の測定値との差が、前記数M、Nの比で決まる許容範囲に入るか否かを判定する判定手段(27)とを有し、
前記第1の測定値と第2の測定値の差が前記許容範囲に入るとき、試験対象の移動体端末を前記指定値飽和超え状態における出力電力低下指示に即応する即応型と判定し、前記第1の測定値と第2の測定値の差が前記許容範囲に入らないとき、試験対象の移動体端末を前記指定値飽和超え状態における出力電力低下指示に即応しない非即応型と判定することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項2の移動体端末試験方法は、
試験対象の移動体端末との間で基地局を模した通信を行ない、前記移動体端末に対する試験を行なう移動体端末試験方法において、
前記移動体端末との間のランダムアクセス手順の過程で、前記移動体端末からの送信信号に対する無応答を前記移動体端末の出力電力が飽和レベルに達してから所定期間が経過するまで継続することで、前記移動体端末の出力電力を端末内部で指定するための出力指定値が前記飽和レベルを超えた領域に入っていると予測される指定値飽和超え状態に設定する段階(S1〜S5)と、
前記指定値飽和超え状態に設定された移動体端末に対し、アップリンクの物理チャネルに2以上のM個のリソースブロックを割当て、該M個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信させ、その信号の物理チャネルの電力を測定し、また、前記指定値飽和超え状態に設定された移動体端末に対し、アップリンクの物理チャネルに前記Mより小さいN個のリソースブロックを割当て、該N個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信させ、その信号の物理チャネルの電力を測定する段階(S6〜S9)と、
前記移動体端末が前記M個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信したときに測定された第1の測定値と、前記移動体端末が前記N個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信したときに測定された第2の測定値との差が、前記数M、Nの比で決まる許容範囲に入るか否かを判定する段階(S10)とを含み、
前記第1の測定値と第2の測定値の差が前記許容範囲に入るとき、前記移動体端末を前記指定値飽和超え状態における出力電力低下指示に即応する即応型と判定し、前記第1の測定値と第2の測定値の差が前記許容範囲に入らないとき、前記移動体端末を前記指定値飽和超え状態における出力電力低下指示に即応しない非即応型と判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明では、指定値飽和超え状態に設定された試験対象の移動体端末から、M個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信させ、その受信電力を測定して第1の測定値とし、Mより小さいN個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信させ、その受信電力を測定して第2の測定値とし、両者の差が数M、Nの比で決まる許容範囲に入るか否かを判定し、その判定結果に基づいて、移動体端末が出力電力低下指示に即応する即応型か、出力電力低下指示に即応しない非即応型かを判定している。
【0019】
この判定は、移動体端末のアップリンクの出力電力が、リソースブロック数の対数と出力指定値との和に依存し、出力指定値が飽和後も増加更新される端末に対して、多くのリソースブロックを割当てると、出力電力(第1の測定値)が飽和領域に入ってしまい(即ち、出力指定値が飽和レベルを超えてしまい)、少ないリソースブロックを割当てたときの出力電力(第2の測定値)との差が、個数比M/Nで決まる電力差より小さくなるのに対し、出力指定値が飽和後増加更新されない端末では、多くのリソースブロックが割当てられても、出力電力(第1の測定値)が飽和領域まで入らず(即ち、出力指定値が飽和レベルを超えず)、少ないリソースブロックを割当てたときの出力電力(第2の測定値)との差は、個数比M/Nで決まる電力差に等しくなる点を利用したものである。
【0020】
したがって、異なる2種類のリソースブロック数の割当て処理だけで、移動体端末が、基地局等からの出力電力低下指示に即応する即応型か、出力電力低下指示に即応しない非即応型かを確実に且つ速やかに特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】本発明の実施形態の処理手順を示すフローチャート
【
図3】指定値飽和超え状態に達するまでの移動体端末の出力信号の電力変化を示す図
【
図4】移動体端末が異なるリソースブロック数でデータを送信する場合の説明図
【
図5】実施形態の判定処理に関する具体的な数値例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した移動体端末試験装置20(以下、単に試験装置20と記す)の構成例を示している。
【0023】
この試験装置20は、LTE方式で試験対象の移動体端末1との間で基地局を模した通信を行い、移動体端末1に対する試験を行なう所謂擬似基地局装置であり、送受信部21と試験処理部22とで構成されている。
【0024】
送受信部21は、試験処理部22からのデータ信号で変調された高周波信号を移動体端末1に与え、移動体端末1からの高周波信号をデータ信号に復調して試験処理部22に与える。
【0025】
試験処理部22は、送受信部21を介して移動体端末1との間で試験に必要なデータの授受を行ない、移動体端末1に対する各種試験を行なう。
【0026】
この試験処理部22の試験内容は多岐に渡るため、ここでは、移動体端末1が基地局側からの出力電力低下指示に即応するか否かを判別するための構成要件を記載し、
図2に、それらの構成要件による処理手順を示す。
【0027】
移動体通信システムでは、移動体端末は、基地局との接続の際のランダムアクセス手順の過程において、基地局側から指示されたランダムアクセスプリアンブル種別を特定のチャネル、比較的低い出力電力で送信し、これに対する基地局側からの応答情報によりアップリンク(UL)やダウンリンク(DL)のタイミング等を特定して、通信状態に移行している。
【0028】
この試験処理部22も上記同様の通信を行なうが、設定手段23は、
図2に示しているように、ランダムアクセスプリアンブル種別等の制御情報を移動体端末1に送信し(S1)、これに対して移動体端末1から試験装置20側に送られてくる送信信号のプリアンブルチャネル(以下、PRACHと記す)の信号レベルを監視する(S2)。通常の基地局と移動体端末との通信の場合、基地局はPRACHの信号レベルが十分なレベルにあれば、移動体端末に即座に応答して移動体端末との間でデータを通信する状態へ移行するが、この設定手段23は、移動体端末1に応答せずに待機する。
【0029】
このように試験装置20側からの応答が無いと、移動体端末1は送信電力が足りないものと判断し、自発的に送信電力を指定するための出力指定値を、所定ステップΔP(例えばΔP=2dB)増して、再度、試験装置20へ出力するという処理を、試験装置20側からの応答があるまで繰り返す(この移動体端末1の自発的な出力制御をオープンループパワー制御と呼ぶ)。
【0030】
したがって、移動体端末1が特定チャンネル(PRACH)で送信する信号の出力電力は、
図3のように所定時間間隔で所定ステップΔPずつ増加し、出力電力が飽和レベルに達した後もこれを継続する。
【0031】
設定手段23は、移動体端末1の送信信号のレベルが増加している期間T1、および、そのレベルが飽和レベルに達した状態で移動体端末1から送信信号を所定回受信するまでの期間T2、移動体端末1への無応答を継続する(S2〜S5)。なお、移動体端末1は、上記送信処理を予め決められた回数Kまで行い、その間に試験装置20からの応答がなければ、試験装置20と接続処理を停止するので、T1+T2の期間全体の送信回数は、Kより小さい値に設定されているものとする。
【0032】
このように、移動体端末1の送信電力が飽和レベルに達した後も所定の送信回数分無応答を継続することで、試験対象の移動体端末1を、その内部で累積される出力指定値が飽和レベルを大きく超えた所定領域に入っていると予測される指定値飽和超え状態に設定することができる。なお、この段階では移動体端末1が、実際にその内部で飽和レベルを超える領域の出力指定値をもつか否かは不明である。
【0033】
第1のデータ送信指示手段24は、設定手段23によって指定値飽和超え状態に設定された移動体端末1に対し、現状の出力指定値を維持したまま、アップリンクの物理チャネル(PUSCH)において割当て可能なリソースブロックの数のうち、2以上のM個(例えば100、50等)を割当て、その割り当てたM個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信させる(S6)。
【0034】
ここで、リソースブロックは、OFDM(直交周波数分割多重)を用いたLTE方式の移動体通信において、周波数軸方向に15kHz間隔で隣接配置される12個のサブキャリアからなり、これを時間軸方向に1m秒で区切ったブロックを1単位とするものであり、必要に応じてユーザに柔軟に割当てることができるようになっている。
【0035】
この指示を受けた移動体端末1は、
図4の(a)のように、M個のリソースブロックにデータが挿入された信号を出力する。
【0036】
また、第2のデータ送信指示手段25は、指定値飽和超え状態に設定された移動体端末1に対し、現状の出力指定値を維持したまま、アップリンクの物理チャネル(PUSCH)において割当て可能なリソースブロックの数のうち、Mより小さいN個(例えば1、2、3等)を割当て、その割り当てたN個のリソースブロックにデータが挿入された信号を送信させる(S8)。
【0037】
この指示を受けた移動体端末1は、
図4の(b)のように、N個のリソースブロックにデータが挿入された信号を出力する。
【0038】
電力測定手段26は、第1のデータ送信指示手段24および第2のデータ送信指示手段25の指示によって移動体端末1が送信した信号の物理チャネルの帯域電力を測定し(S7、S9)、それぞれを第1の測定値Pm、第2の測定値Pnとして判定手段27に出力する。
【0039】
なお、処理の手順は
図2の例に限らず、N個のリソースブロックによるデータ送信指示とレベル測定を、M個のリソースブロックによるデータ送信指示とレベル測定の前に行なってもよい。
【0040】
判定手段27は、測定値Pm、Pnの差が、数M、Nの比で決まる許容範囲に入るか否かを判定する(S10)。
【0041】
ここで、第1の測定値Pmと第2の測定値Pnとの差が許容範囲に入るとき、試験対象の移動体端末1を指定値飽和超え状態における出力電力低下指示に即応する即応型と判定し、第1の測定値Pmと第2の測定値Pnの差が許容範囲に入らないとき、試験対象の移動体端末1を前記指定値飽和超え状態における出力電力低下指示に即応しない非即応型と判定する(S11、S12)。
【0042】
なお、試験処理部22は、上記試験結果や他の試験項目についての試験結果等を表示部30に表示させる。
【0043】
前記したように、判定手段27による判定は、移動体端末1のアップリンクの出力電力が、リソースブロック数の対数と出力指定値との和に依存していて、出力指定値が飽和後も累積されて大きくなる端末に対して、多くのリソースブロックを割当てると、出力電力(第1の測定値Pm)が飽和領域に入ってしまい(即ち、出力指定値が飽和レベルを超えてしまい)、少ないリソースブロックを割当てたときの出力電力(第2の測定値Pn)との差は、個数比M/Nで決まる電力差より小さくなるのに対し、出力指定値が飽和後累積されない端末では、多くのリソースブロックが割当てられても、出力電力(第1の測定値Pm)が飽和領域まで入らず(即ち、出力指定値が飽和レベルを超えず)、少ないリソースブロックを割当てたときの出力電力(第2の測定値Pn)との差は、個数比M/Nで決まる電力差に等しくなる点を利用したものである。
【0044】
したがって、異なる2種類のリソースブロック数の割当て送信指示の処理だけで、移動体端末1が、基地局等からの出力電力低下指示に即応する即応型か、出力電力低下指示に即応しない非即応型かを確実に特定することができる。
【0045】
次に、具体的な数値例を説明する。
移動体端末1のアップリンク時のデータ送信の出力電力は、次式(1)に示すように、割当てられたリソースブロック数Rの対数の10倍(電力換算値)、内部の出力指定値f、損失等の定数cの和によって決まる電力Prと、移動体端末1が出力可能な最大出力電力Pmaxのうちの低い方で規定される。
Pr=10log R+f+c (dBm) ……(1)
【0046】
説明を簡単化するため定数cを0とする。ここで、出力指定値fが小さい(例えばf=0dBm)の端末では、
図5のように、リソースブロック数R=1、10、100のときの出力電力がそれぞれ0、10、20(dBm)となる直線Aの特性となり、今R=M=100、R=N=1であれば、測定値の差は、Pm−Pn=20(dB)となる。なお、ここでは、最大出力電力Pmaxを23(dBm)としている。
【0047】
一方、リソースブロック数の比M/Nから理論的に得られる電力の差も、
10log(M/N)=20(dB)
であるから、例えば許容範囲の広さを±3dBとして、この理論値20(dB)を中心とする許容範囲20±3(dB)に、測定値の差が入れば、その移動体端末1は、設定手段23による設定段階で飽和後の出力指定値が累積されないで、基地局等からの出力電力低下指示に即応する即応型と判断できる。
【0048】
これに対し、設定手段23による設定段階で飽和後も累積されて出力指定値fが大きくなっている(例えばf=12dBm)移動体端末1では、直線Aを出力指定値f分上方にシフトした特性となるが、リソースブロック数Rが100に達する前に最大出力電力Pmaxと交わり、その交点よりリソースブロックが多い範囲では最大出力電力23(dBm)に制限された折れ線Bとなる。
【0049】
したがって、この折れ線Bの特性で、R=M=100のときの第1の測定値Pm′は23(dBm)、R=N=1のときの第2の測定値Pn′は、fと等しく12(dBm)となり、測定値の差は、Pm′−Pn′=11(dB)となる。
【0050】
これに対し、リソースブロック数の比M/Nから理論的に得られる電力の差は前記したように20(dB)であり、これを中心とする前記許容範囲20±3(dB)に、測定値の差11(dB)は入らなくなる。これによって、試験対象の移動体端末1は、飽和後の出力指定値が累積されて、基地局等からの出力電力低下指示に即応しない非即応型であると判断できる。
【0051】
このように、上記構成の試験装置20によれば、異なる2種類のリソースブロック数の割当て送信指示処理だけで、試験対象の移動体端末1が、基地局等からの出力電力低下指示に即応する即応型か、即応しない非即応型かを速やかに且つ確実に特定することができる。
【0052】
なお、上記説明では、M=100、N=1の例を示したが、上記判断を確実に行なうためにはMとNの比M/Nが大きい(最大となるのは、Mを割当て可能なリソースブロック数の最大値とし、Nを最小値1とする場合である)方が有利であるが、判定に用いる許容範囲の広さに対して十分大きければ任意であり、許容範囲の広さを前記したように±3dBとすれば、MとNの比を10程度に下げることもできる。
【符号の説明】
【0053】
1……移動体端末、20……移動体端末試験装置、21……送受信部、22……試験処理部、23……設定手段、24……第1の送信指示手段、25……第2の送信指示手段、26……電力測定手段、27……判定手段、30……表示部