【解決手段】評価処理では、アクセルペダルを操作する足の足関節の背屈動作を司る第一筋の第一筋強度(即ち、筋電位)を第一筋電位センサにて計測して取得する(S140)。アクセルペダルを操作する足の足関節の底屈動作を司る第二筋の第二筋強度(即ち、筋電位)を第二筋電位センサにて計測して取得する(S140)。さらに、第一筋電位センサ及び第二筋電位センサで計測した筋電位の時系列変化それぞれに基づいて同期的活動レベルMを評価指標として算出する(S210)。そして、評価指標と予め規定された評価基準との差分が規定値以上であれば、自動車の運転中に、車載情報機器42を操作することに起因したストレスを乗員が感じているものと評価する(S220)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
〈ストレス評価システムの構成〉
図1に示すストレス評価システム1は、自動車に搭載されるものであり、自動車の運転者が感じるストレスを評価するシステムである。
【0018】
このストレス評価システム1は、センサ群8と、アンプ16と、計時装置18と、ストレス評価装置20とを備えている。
このうち、センサ群8は、第一筋電位センサ10と、第二筋電位センサ12と、アクセル開度センサ14とを備えている。
【0019】
第一筋電位センサ10は、アクティブ電極を備え、そのアクティブ電極により筋電位を計測する周知のセンサである。第一筋電位センサ10は、運転者の筋肉のうち、アクセルペダルを操作する足の第一筋に取り付けられ、第一筋の活動量を筋電位にて計測する。
【0020】
なお、ここで言う第一筋とは、足関節の背屈動作を司る筋肉であり、例えば、
図2(A)に示す前脛骨筋及び第三腓骨筋の少なくとも一方である。また、ここで言う第一筋の活動量は、特許請求の範囲に記載された第一筋強度の一例であり、第一筋の収縮状態を含む情報である。
【0021】
第二筋電位センサ12は、アクティブ電極を備え、そのアクティブ電極により筋電位を計測する周知のセンサである。第二筋電位センサ12は、運転者の筋肉のうち、アクセルペダルを操作する足の第二筋に取り付けられ、第二筋の活動量を筋電位にて計測する。
【0022】
なお、ここで言う第二筋とは、足関節の底屈動作を司る筋肉であり、例えば、
図2(B)に示す腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋、長腓骨筋、及び短腓骨筋のうちの少なくとも一つである。また、ここで言う第二筋の活動量は、特許請求の範囲に記載された第二筋強度の一例であり、第二筋の収縮状態を含む情報である。
【0023】
本実施形態における第一筋電位センサ10及び第二筋電位センサ12は、2つの筋電位センサ10,12をまとめて装着可能なようにウェアラブルに構成されていることが好ましい。ウェアラブルを実現する方法としては、運転者の足に装着されるバンドに2つの筋電位センサ10,12を組み込むことが考えられる。
【0024】
アクセル開度センサ14は、アクセルペダルの操作量(踏み込み量)を検出する周知のセンサである。以下、アクセル開度センサ14によって検出されるアクセルペダルの操作量を、アクセル開度とも称す。
【0025】
アンプ16は、入力信号を増幅して出力する周知のアンプである。このアンプ16は、第一筋電位センサ10及び第二筋電位センサ12からの信号を増幅する。なお、第一筋電位センサ10及び第二筋電位センサ12からアンプ16への信号の入力、及びアンプ16からストレス評価装置20への信号の入力は、有線の通信線を介して行われても良いし、無線によって行われても良い。
【0026】
計時装置18は、時刻を計測する周知の装置である。
〈接続装置の構成〉
ストレス評価システム1には、音声出力装置40と、車載情報機器42と、無線装置50とが接続されている。
【0027】
音声出力装置40は、ストレス評価装置20からの制御指令に従って音声を出力する周知の装置(いわゆるスピーカ)である。
車載情報機器42は、少なくとも、目的地までの経路を案内するナビゲーション機能を備えた周知の装置である。本実施形態における車載情報機器42は、運転者が上肢にて操作可能ように、自動車のダッシュボード上やダッシュボードの外表面に埋設して配置されている。
【0028】
この車載情報機器42は、
図3に示すように、画像出力装置70と、操作装置71と、第1通信インターフェイス72と、第2通信インターフェイス73と、ラジオ受信装置74と、現在位置検出装置75と、地図情報記憶装置76とを備えている。
【0029】
このうち、画像出力装置70は、各種画像を表示する周知の表示装置(いわゆる液晶ディスプレイなど)である。
操作装置71は、情報の入力を受け付ける機構であり、操作パネル710と操作具711とを有している。操作パネル710は、画像出力装置70と一体に形成された周知のタッチパネルである。操作具711は、画像出力装置70の周囲に配置されたボタンである。
【0030】
第1通信インターフェイス72は、ストレス評価装置20や車載制御装置との間で情報通信を実行する。ここで言う車載制御装置とは、自動車に搭載された車載機器を制御する制御装置であって、ストレス評価装置20とは異なる車載機器(例えば、クルーズコントロールシステムやカーエアコンなど)を制御する制御装置である。
【0031】
第2通信インターフェイス73は、携帯情報端末との間で通信を実行する。ラジオ受信装置74は、ラジオ放送局からの電波を受信する。
現在位置検出装置75は、自車両の現在位置及び進行方向の方位を検出する周知の装置である。この現在位置検出装置75には、GPS衛星からの信号を受信するGPS受信機と、ジャイロセンサと、地磁気センサとが少なくとも接続されている。そして、現在位置検出装置75は、GPS受信機と、ジャイロセンサと、地磁気センサからの信号に従って、現在位置及び進行方向の方位を検出する。
【0032】
地図情報記憶装置76は、書き換え可能な不揮発性の記憶装置であり、例えば、ハードディスクドライブや、フラッシュメモリによって構成されている。この地図情報記憶部76には、少なくとも、地図データが記憶されている。地図データは、ノードデータ、リンクデータ、コストデータ、道路データ、地形データ、マークデータ、交差点データ、施設のデータ、案内用の音声データ、音声認識データ等の各種データを備えている。
【0033】
このような車載情報機器42は、ナビゲーション機能を構成する機能の一部として、電話番号による目的地検索機能や、地図スクロール機能を備えている。さらに、車載情報機器42は、ナビゲーション機能とは別の機能として、ラジオ選局機能やカーエアコン制御機能、オーディオ機能を備えている。
【0034】
ここで言う電話番号による目的地検索機能とは、操作パネル710にテンキーボタンを表示し、その表示したテンキーボタンを介して入力された電話番号に従って、目的地を検索する周知の機能である。なお、入力された電話番号に関する情報は、経路探索時の目的地探索のための情報として利用される他、車載情報機器42や車載情報機器42に接続された携帯電話を介して電話をかける際の相手先の電話番号を特定する情報として利用される。
【0035】
地図スクロール機能は、目的地までの経路を案内することを目的として、地図情報記憶装置76に記憶された地図画像の一部を画像出力装置70上に表示している場合に、操作装置71を介した操作に従って地図画像をスクロールさせる周知の機能である。
【0036】
ラジオ選局機能とは、操作装置71を介して受け付けた操作に従って、受信するラジオ電波の周波数を選局する機能であり、この機能によって選局された周波数の電波を受信して、受信した電波に対応する音声が音声出力装置40を介して出力される。
【0037】
無線装置50は、データセンタ52との間で無線による情報通信を実行する装置である。そのデータセンタ52は、ROM,RAM,CPU,記憶装置を少なくとも有した周知のコンピュータを中心に構成され、さらに、無線装置50と間で無線による情報通信を実行する無線通信装置を備えている。このデータセンタ52には、詳しくは後述する評価基準が格納される。
【0038】
〈ストレス評価装置〉
ストレス評価装置20は、ROM22と、RAM24と、メモリ26と、CPU32とを少なくとも有した周知のコンピュータを中心に構成された電子制御装置である。
【0039】
このうち、ROM22は、電源が切断されても記憶内容を保持する必要がある処理プログラムやデータを格納する。RAM24は、処理プログラムやデータを一時的に格納する。CPU32は、ROM22やRAM24に記憶された処理プログラムに従って各種処理を実行する。
【0040】
ROM22には、第一筋電位センサ10からの筋電位、及び第二筋電位センサ12からの筋電位に基づいて、車載情報機器42を操作することにより運転者が感じるストレスを評価する評価処理を、ストレス評価装置20が実行するための処理プログラムが格納されている。
【0041】
メモリ26は、少なくとも、評価処理を実行するストレス評価装置20が参照する評価指標と、評価基準とを格納する記憶装置である。このメモリ26は、電力供給が遮断された場合(即ち、電源オフ時)にも記憶内容が保持され、かつ、記憶内容を書き換え可能な不揮発性記憶装置(例えば、ハードディスドライブやフラッシュメモリ)であっても良い。
【0042】
そして、メモリ26は、評価指標を記憶する第1記憶領域28と、評価基準を記憶する第2記憶領域30とを備える。
ここで言う評価指標とは、車載情報機器42を操作することにより運転者が感じるストレスを評価するための指標であり、第一筋電位センサ10からの筋電位、及び第二筋電位センサ12からの筋電位を数値処理した結果である。なお、ここで言う数値処理とは、例えば、第一筋電位センサ10及び第二筋電位センサ12にて計測され、かつ時間軸に沿って順次変化する筋電位の二乗平均平方根(RMS(Root Mean Square))の平均値や、RMSの標準偏差を導出することを含む。
【0043】
また、評価基準とは、車載情報装置を操作することにより運転者がストレスを感じている状態での評価指標として規定されたものである。この評価基準は、予め実験によって算出された固定値であっても良いし、他の自動車に搭載されたストレス評価システム1で導出された評価指標に基づいて、順次更新されても良い。
【0044】
後者の場合、評価基準は、データセンタ52にて導出されて更新されることが好ましい。この場合、ストレス評価装置20は、規定間隔ごとに、無線装置50を介してからデータセンタ52から評価基準を受信して、第2記憶領域30に記憶された評価基準を更新しても良い。
【0045】
〈評価処理〉
次に、ストレス評価装置20が実行する評価処理について説明する。
この評価処理は、イグニッションスイッチがオンされると起動される処理であり、起動されると、イグニッションスイッチがオフされるまでの期間中、繰り返し実行される。
【0046】
この評価処理は、起動されると、
図4に示すように、まず、車載情報機器42の画像出力装置70にメッセージを表示する(S110)。この画像出力装置70に表示されるメッセージは、第一筋電位センサ10を第一筋に取り付け、第二筋電位センサ12を第二筋に取り付けるように促すものである。
【0047】
続いて、第一筋電位センサ10による筋電位及び第二筋電位センサ12による筋電位の計測が可能になったか否かを判定する(S120)。このS120では、第一筋電位センサ10が第一筋に取り付けられ、第二筋電位センサ12が第二筋に取り付けられていれば、各筋電位センサ10,12による筋電位の計測が可能であるものと判定する。
【0048】
このS120での判定の結果、第一筋電位センサ10及び第二筋電位センサ12による筋電位の計測が不可能であれば(S120:NO)、計測可能となるまで待機する。なお、待機中のストレス評価装置20は、第一筋電位センサ10及び第二筋電位センサ12を正しく取り付け直すように促しても良い。
【0049】
そして、第一筋電位センサ10及び第二筋電位センサ12による筋電位の計測が可能となると(S120:YES)、計時装置18から現在の時刻を取得する(S130)。
続いて、第一筋電位センサ10及び第二筋電位センサ12からの計測結果(即ち、筋電位)それぞれを、予め規定されたサンプリング周期でサンプリングする(S140)。すなわち、S140では、第一筋電位センサ10で計測した筋電位、及び第二筋電位センサ12で計測した筋電位のそれぞれを取得する。
【0050】
さらに、そのサンプリングした結果(取得した筋電位)それぞれと、S130にて取得した現在の時刻とを対応付けた筋電位情報を生成し、RAM24に格納する(S150)。
【0051】
そして、アクセル開度センサ14からアクセル開度(操作量情報の一例)を取得し(S160)、その取得したアクセル開度をS130にて取得した現在の時刻と対応付けて、RAM24に格納する(S170)。
【0052】
続いて、RAM24に格納されているアクセル開度の中から、規定条件を満たす全てのアクセル開度を取得して、その取得したアクセル開度の平均値(以下、「開度平均値」と称す)及びアクセル開度の標準偏差(以下、「開度標準偏差」と称す)を算出する(S180)。ここで言う規定条件とは、現在の時刻から、予め規定された期間前までの時刻が対応付けられていることである。
【0053】
なお、ここで言う開度平均値は、規定条件を満たすアクセル開度を周知の算術平均(相加平均)することによって求められるものである。また、開度標準偏差は、規定条件を満たすアクセル開度を標本集合とした周知の標準偏差として求めたものである。
【0054】
そして、S180にて算出された開度平均値が予め規定された第一閾値よりも大きいか否かを判定する(S190)。第一閾値は、アクセルペダルが踏まれ、自動車が規定速度以上で走行していることを表している場合のアクセル開度として予め規定されたものである。
【0055】
このS190での判定の結果、開度平均値が第一閾値未満であれば(S190:NO)、S110へと戻る。一方、S190での判定の結果、開度平均値が第一閾値よりも大きければ(S190:YES)、開度標準偏差が第二閾値よりも小さいか否かを判定する(S200)。第二閾値は、自動車の車速の変動が予め規定された規定範囲内である場合のアクセル開度のばらつきとして予め規定されたものである。
【0056】
そのS200での判定の結果、開度標準偏差が第二閾値以上であれば(S200:NO)、S110へと戻る。すなわち、自動車の車速が規定速度未満である場合や、自動車の車速が規定速度以上であっても、車速の変動が大きい場合、第一筋または第二筋の筋電位には、アクセルペダルを運転者が操作することに起因した収縮が表れている可能性が高い。このため、運転者が感じているストレスを評価することなく、S110へと戻る。
【0057】
一方、S200での判定の結果、開度標準偏差が第二閾値よりも小さければ(S200)、S210へと進む。すなわち、自動車の車速が規定速度以上であり、かつ車速の変動が規定範囲内であれば、第一筋または第二筋の筋電位には、アクセルペダルの操作よりも、車載情報機器42を操作することに起因した収縮が表れている可能性が高い。このため、S210へと移行して、運転者が感じているストレスを評価する。
【0058】
そのS210では、評価指標(強度情報の一例)として同期的活動レベルMを導出する。この評価指標の導出は、具体的には、以下の手順で実施すれば良い。
まず、RAM24に格納された全ての筋電位情報の中から、規定条件を満たす第一筋電位センサ10からの時間軸に沿った信号(以下、「第一筋時系列データ」と称す)、及び規定条件を満たす第二筋電位センサ12からの時間軸に沿った信号(以下、「第二筋時系列データ」と称す)に前処理を施す。
【0059】
この前処理では、まず、規定周波数(例えば、200[Hz])以下の信号を通過するローパスフィルタ及び設定周波数(例えば、15[Hz])以上の信号を通過するハイパスフィルタに、第一筋時系列データ及び第二筋時系列データのそれぞれを通す。さらに、前処理では、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタを通過した第一筋時系列データ及び第二筋時系列データのそれぞれに対して全波整流を実施する。
【0060】
そして、本実施形態では、下記(1)式に従って同期的活動レベルMを算出する。
【0061】
【数1】
この(1)式において、EMGzen(t)は、前処理が施された第一筋時系列データであり、EMGhih(t)は、前処理が施された第二筋時系列データである。また、(1)式における符号Tは、移動平均の区間(移動平均にて平均を算出する点数)である。
【0062】
すなわち、評価指標の導出では、前処理が施された第一筋時系列データEMGzen(t)及び第二筋時系列データEMGhih(t)のそれぞれ(筋電位のサンプリング点のそれぞれ)について二乗値を算出する。そして、第一筋時系列データEMGzen(t)の二乗値、及び第二筋時系列データEMGhih(t)の二乗値のそれぞれを、規定点数T(例えば、100点)ごとに単純移動平均する。さらに、その単純移動平均の結果のそれぞれについての平方根を算出し、その平方根同士の積の平方根を、同期的活動レベルM(即ち、評価指標)として算出する。
【0063】
換言すれば、S210では、車載情報機器42を操作することに起因して運転者が感じているストレスを同期的活動レベルMという客観的な数値として算出する。
続いて、評価処理では、S210にて導出した同期的活動レベルMとメモリ26に格納されている評価基準とを比較照合する(S220)。具体的には、S220では、同期的活動レベルMと評価基準との差分を導出し、その差分が大きいほど、強いストレスを受けているものと評価する。つまり、S220では、評価指標と評価基準との差分が、規定値以上であれば、自動車の運転中に、車載情報機器42を操作することに起因したストレスを運転者が感じているものと評価する。
【0064】
なお、本実施形態における評価は、ストレスレベルによって表される。このストレスレベルは、同期的活動レベルMと評価基準との差分に応じて3段階に設定されている。ストレスレベル1は、ストレスをほとんど受けていないことを意味する。ストレスレベル2は、自動車を運転することに注意が必要なレベルのストレスを受けていることを意味する。ストレスレベル3は、自動車を運転することが危険(禁止操作と同程度)なレベルのストレスを受けていることを意味する。
【0065】
そして、評価処理では、S220での評価の結果、ストレスレベル2またはストレスレベル3であると評価された場合、ユーザ提示処理を実行する(S230)。
このユーザ提示処理では、例えば、評価の結果、ストレスレベル3であれば、車載情報機器42の操作を全面的に禁止すると共に、その旨を音声出力装置40から出力する。また、評価の結果、ストレスレベル2であれば、車載情報機器42の操作のうち、運転中に行うと高いストレスを受ける操作(以下、「高ストレス操作」と称す)を禁止すると共に、その旨を音声出力装置40から出力する。
【0066】
ここで言う高ストレス操作には、例えば、車載情報機器42における電話番号による目的地検索機能を実現するために、車載情報機器42が操作装置71を介して各種情報の入力を受け付ける操作を含んでいても良い。また、高ストレス操作には、例えば、車載情報機器42におけるラジオ選局機能を実現するために、車載情報機器42が操作装置71を介して各種情報の入力を受け付ける操作を含んでいても良い。
【0067】
なお、S220での評価の結果、ストレスレベル1である場合には、S230において、禁止されていた操作の実施を許可するように切り替えても良い。
そして、評価処理は、イグニッションスイッチがオフされるまでの期間中、繰り返し実行され、イグニッションスイッチがオフされると終了する。
【0068】
つまり、評価処理では、アクセルペダルを操作する足の足関節の背屈動作を司る第一筋の収縮状態を表す第一筋強度(即ち、筋電位)を第一筋電位センサ10にて計測して取得する。また、評価処理では、アクセルペダルを操作する足の足関節の底屈動作を司る第二筋の収縮状態を表す第二筋強度(即ち、筋電位)を第二筋電位センサ12にて計測して取得する。
【0069】
さらに、評価処理では、第一筋時系列データと第二筋時系列データとに基づいて同期的活動レベルMを評価指標として算出する。そして、評価指標と評価基準との差分が、規定値以上であれば、自動車の運転中に、車載情報機器42を操作することに起因したストレスを乗員が感じているものと評価する。
〈実証実験〉
次に、発明者らが行った、本発明のメカニズムを実証するための実証実験、及びその実証実験の結果について説明する。
【0070】
まず、実証実験では、複数の被験者(運転者)について、予め規定した実験内容の実験を実施した。この実証実験の実験内容は、自動車の運転者が2つの課題を同時に遂行することである。そして、2つの課題とは、自動車の運転に関する主課題、及び車載情報機器42の操作に関する副課題である。
【0071】
ここでの主課題は、運転者が車両を通常運転する際に保持する車間距離にて、一定速度で走行している先行車両に追従するように自車両を走行させることである。
一方、副課題は、操作無し課題(CONTROL)、手の移動課題(HAND)、地図スクロール課題(MAP)、ラジオ選局課題(RADIO)、電話番号による目的地検索課題(TEL)のそれぞれである。
【0072】
操作無し課題(CONTROL)とは、車載情報機器42の操作を一切行わないというものである。手の移動課題(HAND)とは、車載情報機器42において規定されている特定の領域へと片方の手を移動させるものである。
【0073】
地図スクロール課題(MAP)とは、画像出力装置70に表示された指示内容に従って、画像出力装置70に表示された地図をスクロールするものである。ラジオ選局課題(RADIO)とは、画像出力装置70に表示された指示内容に従って、受信するラジオ電波の周波数を選局するものである。電話番号による目的地検索課題(TEL)とは、画像出力装置70に表示された指示内容に従って入力した電話番号に対応する目的地を設定するものである。
【0074】
なお、実証実験では、テストコースにて自動車を被験者が運転する際に、主課題と副課題のそれぞれとを同時に実施した。そして、主課題と副課題のそれぞれとを同時に実施している期間中、第一筋電位センサ10にて、アクセルペダルを操作する足の前脛骨筋の筋電位を継続して計測し、第二筋電位センサ12にて、アクセルペダルを操作する足の腓腹筋の筋電位を継続して計測した。さらに、それらの計測した前脛骨筋の筋電位と腓腹筋の筋電位とを解析した結果に基づいて、車載情報機器42を操作することに起因したストレスと、同期的活動レベルMとの関係を評価した。
【0075】
その評価結果を、
図5に示す。この
図5は、副課題(TASK)それぞれと、同期的活動レベルM(図中:Standardzed Synchrous Activity Level)との関係を示したものである。ただし、ここでの同期的活動レベルMは、平均値であり、さらに、被験者ごとに副課題間で標準化している。
【0076】
また、
図5に示す関係とは、各副課題を要因とする一要因分析と、ボンフェローニ(Bonferroni)の方法による多重比較の結果である。なお、
図5中の十字記号†は、10%水準で有意であることを、記号*は、5%水準で有意であることを、記号**は、1%水準で有意であることを表している。
【0077】
この
図5に示すように、操作無し課題(即ち、主課題だけ)を実施した場合の同期的活動レベルに対して、ラジオ選局課題や、電話番号による目的地検索課題を実施した場合の同期的活動レベルMが有意に大きくなっていると言える。
【0078】
したがって、発明者らは、アクセルペダルを操作する足の前脛骨筋の筋電位の時系列変化と腓腹筋の筋電位の時系列変化とから求められる同期的活動レベルMが、車載情報機器42を操作することに起因したストレス、即ち、精神的負担に反応を示すという知見を得ることができた。
【0079】
しかも、同期的活動レベルMは、副課題の難易度が高いほど大きくなり、副課題の難易度が高いほど、高いストレスを運転者が受けていることがわかる。なお、副課題の難易度は、HMIを介した車載情報機器42の操作の回数が多いほど高くなる。つまり、課題の難易度は、高いものから順に、電話番号による目的地検索課題(TEL)、ラジオ選局課題(RADIO)、地図スクロール課題(MAP)、手の移動課題(HAND)、操作無し課題(CONTROL)である。
[実施形態の効果]
以上説明したように、本発明者らは、車載情報機器42を操作することに起因したストレスによって、拮抗関係にある第一筋及び第二筋の両方の筋肉が同時に活動している活動量を評価した同期的活動レベルMが変化するという知見を得た。
【0080】
そして、ストレス評価装置20では、この知見に基づいて、運転者が受けるストレスを同期的活動レベルMに従って評価している。このため、ストレス評価装置20によればHMIを介して車載情報機器42を操作することに起因して運転中の運転者(乗員)が受けるストレスを評価できる。
【0081】
つまり、ストレス評価装置20によれば、車載情報機器を操作することに起因したストレスを客観的に評価できる。
ところで、自動車が加減速するように運転者がアクセルペダルを操作している場合、その運転者の第一筋及び第二筋は、いずれか一方だけが収縮する可能性が高い。一方、規定速度以上の一定の速度で自動車が走行するように自動車の運転者がアクセルペダルを操作している場合、その運転者の第一筋及び第二筋は、アクセルペダルの操作だけではいずれも大きく収縮しない可能性が高く、車載情報機器42を操作することに起因してストレスを感じた場合に収縮する可能性が高い。
【0082】
このため、ストレス評価装置20では、ストレスの評価を実行する条件を、自動車の車速が規定速度以上であり、かつ車速の変動が規定範囲内である場合としている。
このような条件の下で、運転者が受けるストレスを評価するストレス評価装置20によれば、運転者が受けているストレスをより正確に評価できる。
【0083】
また、ストレス評価装置20では、運転者が受けるストレスの大きさに応じて、車載情報機器42に対する操作のうち、高ストレス操作の実施を禁止している。
このため、ストレス評価装置20によれば、移動体の運転支援制御における制御内容を、運転者が受けるストレス量に応じたより安全な制御内容へと変更でき、移動体の安全な走行を実現できる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0084】
例えば、上記実施形態の評価処理におけるS210では、評価指標として同期的活動レベルMを算出していたが、S210にて算出する評価指標は、同期的活動レベルMに限るものではない。すなわち、本発明における評価指標は、平均活動レベルSであっても良いし、同時活動率Bであっても良い。
【0085】
ここで言う平均活動レベルSは、下記(2)式に従って算出すれば良い。
【0086】
【数2】
すなわち、平均活動レベルSは、前処理が施された第一筋時系列データEMGzen(t)と第二筋時系列データEMGhih(t)との積を算出する。そして、第一筋時系列データEMGzen(t)と第二筋時系列データEMGhih(t)との積を、規定点数T(例えば、100点)ごとに単純移動平均し、その単純移動平均の結果の平方根を、平均活動レベルS(即ち、評価指標)として算出する。
【0087】
このような平均活動レベルSが、車載情報機器42を操作することに起因したストレス、即ち、精神的負担に反応を示すことの実証実験の結果を、
図6に示す。実証実験の内容は、上記実施形態に記載した通りであるため、ここでの詳しい説明は省略する。
【0088】
この
図6は、副課題(TASK)それぞれと、平均活動レベルS(図中:Standardzed Average Activity Level)との関係を示したものである。ただし、ここでの平均活動レベルSは、平均値であり、さらに、被験者ごとに副課題間で標準化している。
【0089】
また、
図6に示す関係とは、各副課題を要因とする一要因分析と、ボンフェローニ(Bonferroni)の方法による多重比較の結果である。なお、
図6中の十字記号†は、10%水準で有意であることを、記号*は、5%水準で有意であることを、記号**は、1%水準で有意であることを表している。
【0090】
この
図6に示すように、操作無し課題(即ち、主課題だけ)を実施した場合の平均活動レベルSに対して、ラジオ選局課題や、電話番号による目的地検索課題を実施した場合の平均活動レベルSが有意に大きくなっていると言える。
【0091】
したがって、平均活動レベルSは、車載情報機器42を操作することに起因したストレス、即ち、精神的負担に反応を示す。
この結果、評価指標として平均活動レベルSを用いたとしても、上記実施形態のストレス評価装置20と同様の効果を得ることができる。
【0092】
なお、評価指標としての同時活動率Bは、同期的活動レベルMを平均活動レベルSで除すことで算出すれば良い。このような同時活動率Bを評価指標として用いた場合であっても、上記実施形態のストレス評価装置20と同様の効果を得ることができる。
【0093】
また、上記実施形態では、車載情報機器42としてナビゲーション装置を想定していたが、車載情報機器42は、これに限るものではない。車載情報機器42は、例えば、オーディオ専用の装置であっても良いし、ナビゲーション専用の装置であっても良いし、カーエアコン専用の装置であっても良い。すなわち、車載情報機器42は、運転者が上肢にて操作する操作装置71を介して入力された情報に従って、各種処理を実行して特定の機能を実現する車載機器、即ち、乗員が上肢によって操作する車載情報機器であれば、どのようなものであっても良い。
【0094】
さらに、上記実施形態では、第一筋電位センサ10及び第二筋電位センサ12を、それぞれ、アクセルペダルを操作する足の第一筋及び第二筋に装着して、筋電位を計測していた。しかしながら、第一筋電位センサ10及び第二筋電位センサ12を装着する足は、アクセルペダルを操作する足とは反対側の足であっても良い。すなわち、評価指標を導出するための筋電位は、アクセルペダルを操作する足とは反対側の足にて計測したものでも良い。
【0095】
上記実施形態のストレス評価装置20では、ストレスを評価する対象人物を運転者としていたが、ストレス評価装置20において、ストレスを評価する対象人物は、これに限るものではなく、例えば、自動車の乗員であれば、誰であっても良い。
【0096】
また、上記実施形態のストレス評価システム1は、自動車に搭載されていたが、ストレス評価システム1を搭載する対象は、自動車に限るものではなく、例えば、電車や、航空機、船舶などの移動体であっても良い。
【0097】
なお、上記実施形態の構成の一部を、課題を解決できる限りにおいて省略した態様も本発明の実施形態である。また、上記実施形態と変形例とを適宜組み合わせて構成される態様も本発明の実施形態である。また、特許請求の範囲に記載した文言によって特定される発明の本質を逸脱しない限度において考え得るあらゆる態様も本発明の実施形態である。