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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-105831(P2015-105831A)
(43)【公開日】2015年6月8日
(54)【発明の名称】X線トポグラフィ装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20 20060101AFI20150512BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20150512BHJP
【FI】
   G01N23/20
   H01L21/66 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-246533(P2013-246533)
(22)【出願日】2013年11月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100093953
【弁理士】
【氏名又は名称】横川 邦明
(72)【発明者】
【氏名】表 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森川 恵一
(72)【発明者】
【氏名】上ヱ地 義徳
(72)【発明者】
【氏名】土屋 政博
(72)【発明者】
【氏名】藤村 健
(72)【発明者】
【氏名】禧久 敦徳
【テーマコード(参考)】
2G001
4M106
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001DA01
2G001DA02
2G001DA09
2G001EA02
2G001FA06
2G001FA18
2G001GA05
2G001GA06
2G001HA13
2G001JA13
2G001KA03
2G001LA11
4M106CB19
4M106DH25
4M106DH34
4M106DH39
4M106DJ15
(57)【要約】
【課題】数百枚といった多数枚のセクショントポグラフィ像を実験室レベルのX線源を用いて短時間内で取得できるようにする。
【解決手段】X線源Fと、多層膜ミラー12と、スリット13aと、2次元X線検出器21と、試料Sを複数のステップ位置へ順次に移動させる試料移動装置20とを有するX線トポグラフィ装置。X線源Fは微小焦点である。多層膜ミラー12は単色で平行で強度の強いX線を形成し、多層膜ミラー12がX線を平行化する方向はスリット13aの幅方向であり、試料Sのステップ幅Sdはスリット13aの幅よりも小さくなっており、微小焦点の大きさの値、スリット13aの幅の値及び多層膜ミラー12から出射されるX線の強度の値の各値の組み合わせは、検出器21が1分以下の所定時間内でX線を受光したときに得られるX線画像のコントラストを、当該X線画像を観察する上で十分なコントラストとすることができる値の組み合わせである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の内部構造に対応してX線を用いて2次元画像を形成するX線トポグラフィ装置において、
前記試料を照射するX線を発生するX線源と、
前記試料と前記X線源との間に設けられた多層膜ミラーと、
前記試料と前記X線源との間に設けられておりX線の幅を規制するスリットを備えたスリット部材と、
前記試料から出たX線を2次元的に検出する2次元X線検出手段と、
前記試料と当該試料を照射するX線とを相対的にステップ的に移動させることにより、前記試料を複数のステップ位置へ順次に移動させる試料移動手段と、
を有しており、
前記X線源は微小焦点からX線を発生し、
前記多層膜ミラーは、前記X線源から出たX線から単色で平行で強度の強いX線を形成し、
前記多層膜ミラーがX線を平行化する方向は前記スリット部材のスリットの幅方向であり、
前記試料移動手段によって移動する試料のステップ幅は前記スリットの幅よりも小さくなっており、
前記微小焦点の大きさの値、前記スリットの幅の値、及び前記多層膜ミラーから出射されるX線の強度の値の各値の組み合わせは、前記2次元X線検出手段が1分以下の所定時間内でX線を受光したときに得られるX線画像のコントラストを、当該X線画像を観察する上で十分なコントラストとすることができる値の組み合わせである
ことを特徴とするX線トポグラフィ装置。
【請求項2】
前記複数のステップ位置における各ステップ位置で前記試料にX線を前記所定時間照射し、そのときに当該試料から出るX線を前記2次元X線検出手段によって検出することにより、各ステップ位置に関する2次元断面画像を取得し、
それら複数の2次元断面画像を並べて3次元画像を形成し、
当該3次元画像に関して測定によって得られた面とは別の平面に沿ってデータを取り出して第2の2次元画像を取得する
ことを特徴とする請求項1記載のX線トポグラフィ装置。
【請求項3】
前記第2の2次元画像に基づいて転位密度を算出することを特徴とする請求項2記載のX線トポグラフィ装置。
【請求項4】
前記微小焦点は直径が100μmの円に収まる大きさの焦点であり、前記スリットの幅は10〜50μmである
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のX線トポグラフィ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶試料の内部結晶欠陥構造に対応してX線を用いて2次元画像を形成するX線トポグラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1により、X線トポグラフィ装置が知られている。この文献には1枚の単独のX線トポグラフィ像を撮影することが開示されている。しかしながら、特許文献1には、1つの試料に関して複数のX線トポグラフィ像を取得することは開示されていない。
【0003】
特許文献2には、X線を用いて複数のセクショントポグラフィ(すなわち2次元断面画像)を取得し、それらを多重露出することが記載されている。しかしながら、多重露光の詳細は説明されていない。一般的な解釈によれば、大きなステップ移動によって1つの2次元検出器に複数の画像を多重露光することであろうと考えられる。
【0004】
特許文献3には、10〜50μmの小さなX線源からX線を出射すること、そのX線の幅をスリットによって規制すること、及び試料をステップ移動させて複数の回折像を得ることが開示されている。しかしながら、引用文献3では、試料に照射されるX線の強度については触れられていない。X線源が小さく、しかもX線の幅をスリットによって規制した場合は、試料に到達するX線の強度が非常に弱くなり、所望の1枚のX線像を得るために極めて長時間、例えば数時間〜十時間を必要とする。従って、数百といった多数枚のX線像を取得しようという考えは全く起こり得なかった。
【0005】
非特許文献1には、試料を放射光に対してステップ移動させながら各ステップ位置において放射光によって試料の断面トポグラフィ画像(section topograph)を取得すること、及びそれらの断面トポグラフィ画像を重ねることによって3D(3次元)画像を得ることが開示されている。放射光はもともと強度の強いX線を含んでおり、複数の断面トポグラフィ画像を比較的短時間で得ることができる。そのため複数の断面トポグラフィ画像を得るための時間もかなり短縮できる。しかしながら、放射光施設を一般的な企業の研究現場や製造現場で活用することは不可能である。
【0006】
非特許文献1には、実験室レベルのX線源を用いることについては全く触れられていない。実験室レベルのX線源は強度が弱いので、このX線源を用いて実用的な時間内に複数の断面トポグラフィ画像を取得する等という発想は全く想定外であるということである。
【0007】
非特許文献2には、試料を走査しながらその試料のいくつかの部分の断面像を放射光を用いて撮影し、これらの像をコンピュータ上で積み重ねることによって、結晶中の格子歪みの3次元分布を推測することが開示されている。この非特許文献2においても実験室レベルのX線源を用いることについては全く触れられていない。実験室レベルのX線源は強度が弱いので、このX線源を用いて実用的な時間内に複数の断面トポグラフィ画像を取得する等という発想は全く想定外であるということである。
【0008】
特許文献4には、ゾーンプレート等といったX線集光手段を用いて試料に集光されたX線を照射するようにしたX線トポグラフィ装置が開示されている。この特許文献4には、微小焦点からX線を出射すること、X線を単色化すること、X線を平行ビームにすること、及びX線の強度を高めること、のいずれの技術についても触れられていない。従って、特許文献4の装置では多数枚のセクショントポグラフィ像を短時間で取得することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−124983号公報
【特許文献2】特開2006−284210号公報
【特許文献3】WO2008/052287A1
【特許文献4】特開2007−240510号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】http://cheiron2010.spring8.orjp/text/bl/11_BL19B2.pdf(ファイルスタンプ日時:30-Sep-2010)「放射光施設Spring-8 ビームラインBL19B2」
【非特許文献2】Spring-8 利用者情報/2008年1月号/利用者懇談会研究会報告「X線トポグラフィ研究会の現状報告」/富山大学理学部 飯田敏、大阪大学大学院工学研究科 志村考功、財団法人高輝度光科学研究センター産業利用推進室 梶原堅太郎
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した従来の各X線トポグラフィ装置における問題点に鑑みて成されたものであって、数百枚といった多数枚のセクショントポグラフィ像を実験室レベルのX線源を用いて実用的に許容される短時間内、例えば1時間〜十数時間内で取得できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るX線トポグラフィ装置は、単結晶試料の内部結晶欠陥構造に対応してX線を用いて2次元画像を形成するX線トポグラフィ装置において、前記試料を照射するX線を発生するX線源と、前記試料と前記X線源との間に設けられた多層膜ミラーと、前記試料と前記X線源との間に設けられておりX線の幅を規制するスリットを備えたスリット部材と、前記試料から出たX線を2次元的に検出する2次元X線検出手段と、前記試料と当該試料を照射するX線とを相対的にステップ的に移動させることにより、前記試料を複数のステップ位置へ順次に移動させる試料移動手段とを有しており、前記X線源は微小焦点からX線を発生し、前記多層膜ミラーは、前記X線源から出たX線から単色で平行で強度の強いX線を形成し、前記多層膜ミラーがX線を平行化する方向は前記スリット部材のスリットの幅方向であり、前記スリットの幅は前記試料の厚さに対して十分に細くなっており、前記試料移動手段によって移動する試料のステップ幅は前記スリットの幅よりも小さくなっており、前記微小焦点の大きさの値、前記スリットの幅の値、及び前記多層膜ミラーから出射されるX線の強度の値の各値の組み合わせは、前記2次元X線検出手段が1分以下の所定時間内でX線を受光したときに得られるX線画像のコントラストを、当該X線画像を観察する上で十分なコントラストとすることができる値の組み合わせであることを特徴とする。
【0013】
このX線トポグラフィ装置によれば、放射光施設のような巨大なX線源を用いることなく、実験室レベルのX線源により、数百枚等といった多数の2次元断面画像(いわゆる、セクショントポグラフィ)を産業界での研究過程及び製造過程で許容される時間内(例えば1時間〜十数時間内)で作成することが可能となる。そしてこれら多数の2次元断面画像を観察することにより、試料結晶内の構造を知ることができる。
【0014】
上記構成において、X線強度の値は、X線源が微小焦点であったり、試料に照射されるX線がスリットによって細く絞られる場合であっても、1分以下の所定時間内でX線画像において十分なコントラストが得られるようなX線強度の値である。このようなX線強度は多層膜モノクロメータを用いることによって安定して獲得できる。
【0015】
また、1分以下に限定したのは、1分以上だとすると数百枚の2次元断面画像を得るために非常に長い時間がかかってしまい、実用的でないからである。
【0016】
上記構成において、微小焦点のX線源、単色で平行なX線、細いスリットは分解能の高い鮮明なセクショントポグラフィ像を得るための要件である。多層膜ミラーは単色で平行で、しかも強度が強いX線を形成するための要素である。多層膜ミラーによってX線の強度を強くすることにより、X線源の焦点を微小焦点にし、その微小焦点から出たX線を細いスリットに通す場合でも、実用上で許容される短い所定時間内においてX線画像に関して十分なコントラストを得ることができる。
【0017】
一般に、X線解析の分野で十分なコントラストとは、図4において、シグナル(S)がノイズ(N)よりも十分に大きいことである。ノイズ(N)は通常、ばらつきの平均値の3倍の値である。そして、十分なシグナル(S)は通常、ノイズ(N)の1.5倍以上、すなわち
S≧1.5N
である。
【0018】
図5及び図6は測定データのコントラストの例を示している。図5の例及び図6の例は、いずれも、観察する上で十分なコントラストが得られている例である。いずれの例でも転位が明瞭に抽出されている。画像上では転位が黒い点で表されている。ラインに沿ったプロファイルにおいては画像上の黒い点に対応したピークが見えている。SN比はピーク強度によって変わる。ノイズレベルは100程度と考えられるので、図5の弱いピークでSN比は4程度である。図6の強いピークではSN比>10となる。図5及び図6の測定に関して1枚あたりの測定時間は60秒である。
【0019】
X線の光子統計に基づくと、SN比は特定時間の1/2乗で向上するので、測定時間の60秒をその1/4である15秒に減らしても、図5の弱いピークの場合において、なおSN比2を確保できる計算になる。
【0020】
多層膜モノクロメータは、図2に符号50示すように、重元素層51と軽元素層52とを滑らかな表面を持った基板53上に交互に複数回積層することによって形成されるモノクロメータである。重元素層51と軽元素層52は適宜の成膜法、例えばスパッタリング法によって適宜の厚さで交互に周期的に積層される。重元素層51と軽元素層52との積層構造を周期的に複数層繰り返すことにより、特性X線、例えばCuKα線をその多層膜の周期構造に起因して効率良く回折できる。その結果、出射側に強度の強い回折X線R0を得ることができる。
【0021】
多層膜モノクロメータ50の表面P1は放物面状に形成することができる。こうすれば、その表面P1の全面において入射X線R1を平行方向に回折させることができる。また、異なる入射角で入射するX線R1が多層膜モノクロメータ50の表面P1の全てで反射するよう、多層膜モノクロメータ50の格子面間隔は、場所によって異ならせてある。具体的には、入射角の大きくなるX線入射側の格子面間隔が小さく、入射角が小さくなるX線出射側の格子面間隔が大きくなり、それらの中間位置で格子面間隔が連続的に変化する。
【0022】
以上のように多層膜モノクロメータ50の表面P1を放物面とし、その放物面内の各位置での格子面間隔を調整することにより、モノクロメータ50は強度の強い平行X線ビームR2を出射する。さらに、X線出射側における一対の重元素層51及び軽元素層52の合計の厚さ、すなわち1周期分の積層厚さT2を、X線入射側の積層厚さT1よりも大きくすることにより、モノクロメータ50から出射され、スリットを通過して試料に照射するX線強度を多層膜ミラーを用いない場合のX線強度よりも強くすることができる。
【0023】
なお、重元素としては、例えばW(タングステン)、Mo(モリブデン)、Ni(ニッケル)等が考えられる。軽元素としては、例えばSi(シリコン)、C(炭素)、BC等が考えられる。また、積層構造としては、2種類の元素を用いた2層構造や、3種類以上の元素を用いた複数層構造が考えられる。また、重元素層51と軽元素層52の積層数は、例えば200層程度とすることができる。また、1つの重元素層51及び1つの軽元素層52から成る1周期の層厚は、例えば20Å〜120Å程度に設定できる。
【0024】
本発明に係るX線トポグラフィ装置においては、前記複数のステップ位置における各ステップ位置で前記試料にX線を前記所定時間照射し、そのときに当該試料から出るX線を前記2次元X線検出手段によって検出することにより各ステップ位置に関する2次元断面画像を取得し、それら複数の2次元断面画像を並べて3次元画像を形成し、当該3次元画像に関して測定によって得られた面とは別の平面に沿ってデータを取り出して第2の2次元画像を取得することができる。
【0025】
本発明に係るX線トポグラフィ装置においては、前記第2の2次元画像に基づいて転位密度を算出することができる。
【0026】
本発明に係るX線トポグラフィ装置において、前記微小焦点は直径が100μmの円に収まる大きさの焦点とすることができ、前記スリットの幅は10〜50μmとすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るX線トポグラフィ装置によれば、放射光施設のような巨大なX線源を用いることなく、実験室レベルのX線源により、数百枚等といった多数の2次元断面画像(いわゆる、セクショントポグラフィ)を産業界での研究過程及び製造過程で許容される時間内(例えば1時間〜十数時間内)で作成することが可能となる。そしてこれら多数の2次元断面画像を観察することにより、試料内の結晶欠陥構造を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係るX線トポグラフィ装置の一実施形態を示す図である。
図2図1に示したX線トポグラフィ装置の主要部品である多層膜ミラーの一例を示す断面図である。
図3図1のX線トポグラフィ装置によって行われる動作の流れを示すフローチャートである。
図4】X線画像における転位像とバックグランドとのコントラストを示すグラフである。
図5】コントラストが良い場合の一例であるX線画像とその画像に対応した回折X線プロファイルを示す図である。
図6】コントラストが良い場合の他の一例であるX線画像とその画像に対応した回折X線プロファイルを示す図である。
図7図1のX線トポグラフィ装置によって求められる2次元断面画像(セクショントポグラフィ像)の一例を示す図である。
図8図1のX線トポグラフィ装置によって求められる3次元画像の一例を示す図である。
図9図1のX線トポグラフィ装置によって求められる第2の2次元画像の一例を示す図である。
図10】実験によって求められたエピタキシャル膜表面近傍における第2の2次元画像を示す図である。
図11】実験によって求められたエピタキシャル膜基板界面の1ヶ所における第2の2次元画像を示す図である。
図12】実験によって求められたエピタキシャル膜基板界面の他の1ヶ所における第2の2次元画像を示す図である。
図13】実験によって求められた基板内部の1ヶ所における第2の2次元画像を示す図である。
図14】実験によって求められた基板内部の他の1ヶ所における第2の2次元画像を示す図である。
図15】実験によって求められた基板裏側における第2の2次元画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るX線トポグラフィ装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、本明細書に添付した図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0030】
図1は本発明に係るX線トポグラフィ装置の一つの実施形態を示している。ここに示すX線トポグラフィ装置1は、測定系2と制御系3とを有している。測定系2は、入射光学系4と、試料台5と、受光光学系6とを有している。
【0031】
(入射光学系)
入射光学系4は、X線管11と、多層膜ミラー12と、スリット部材13とを有している。X線管11は、陰極であるフィラメント14と、陽極であるターゲット15とを有している。通電によってフィラメント14から電子が放出され、その電子がターゲット15の表面に当たった領域がX線焦点Fであり、このX線焦点FからX線が放射される。X線焦点FがX線源として機能する。放射されたX線はX線窓16からポイントフォーカスのX線として取り出される。こうして取り出されたX線の焦点は微小焦点であり、その焦点サイズは直径100μmの円に収まる大きさである。X線焦点Fから試料Sまでの距離D1は800mmである。
【0032】
多層膜ミラー12は、図2に示した多層膜モノクロメータ50によって形成されている。この多層膜ミラー12はX線管11から出たX線を単色化し、平行化し、さらに強度を強くする。ここでの平行化は、スリット部材13のスリット13aの幅方向Hに沿った方向で達成されている。多層膜ミラー12によってX線を単色化、平行化、及び高強度化することにより、後述するように、400枚程度といった多数枚のセグメントトポグラフィ像(すなわち2次元断面画像)を短時間内で作成できるようになった。
【0033】
スリット13aの幅は、例えば10〜50μmの範囲内の所定の幅である。スリット13aの幅が10μm未満であると、X線強度が弱くなり過ぎて鮮明なセグメントトポグラフィ像を得ることができなくなるおそれがある。一方、スリット13aの幅が50μmを超えると、シャープなセグメントトポグラフィ像を得ることができなくなるおそれがある。
【0034】
(試料台)
試料台5に測定対象である試料結晶(以下、単に試料ということがある)Sが取り付けられている。試料台5は模式的に描かれている。試料Sの厚さd1は例えば、0.2〜2.0mmである。試料Sは図1の紙面を貫通する方向へ延在している。試料S内に存在する複数の結晶格子面kのそれぞれはおおよそ試料Sの厚さd1の方向に沿って延びている。また、それらの結晶格子面kは試料Sの厚さd1の方向におおよそ直交する方向に沿って互いに等間隔で平行に並んでいる。
【0035】
試料台5には試料移動装置20が付設されている。試料移動装置20は試料台5を矢印A方向へ間欠的すなわちステップ的に直線移動させることができる。そして矢印A’方向へ復帰のために直線移動させることができる。A−A’方向は試料表面と平行な方向である。試料移動装置20は任意の直線駆動機構を用いて構成されている。そのような直線駆動機構は、例えばパルスモータ等といった動力源によって駆動される送りねじ軸を用いた機構によって構成できる。パルスモータは、その出力軸の回転角度を制御可能なモータの1つである。
【0036】
スリット部材13のスリット13aを通過したX線R3-1 は試料Sを幅方向(d1方向)に貫通する。試料台5がA方向へ所定のステップ幅で移動して、それに応じて試料Sが同じステップ幅でA方向へ移動すると、試料Sの次のステップ位置にX線R3-2が入射する。以後、試料Sが一定のステップ幅で移動するごとに、X線R3-3、3-4,…が試料Sの各ステップ位置に入射する。
【0037】
試料Sのステップ移動(すなわち間欠移動)のステップ幅Sdはスリット部材13のスリット13aの幅よりも小さくなっている。これにより、X線R3-1、X線R3-2、…X線R3-nによって形成される複数のセクショントポグラフィ像(すなわち2次元断面画像)のうちの互いに隣り合うもの同士の間に隙間が出来てしまうことを防止して、それらのセクショントポグラフィ像を連続してつなげることができる。
【0038】
(受光光学系)
受光光学系6は2次元X線検出器21を有している。2次元X線検出器21は図1の紙面を貫通する方向へ延在しており、試料Sから出たX線、すなわち回折X線R4を平面的、すなわち2次元的に受光する。この2次元X線検出器21は、例えばフォトンカウンティング型ピクセル2次元X線検出器(すなわち、パルス計数型ピクセルアレイ2次元検出器)や、2次元CCD検出器によって形成できる。
【0039】
フォトンカウンティング型ピクセル2次元X線検出器は、X線によって励起されるフォトンを直接に電気信号に変換して出力するピクセル(画素)を複数個、2次元的に配列して成るX線検出器である。2次元CCD検出器は、複数のCCD(Charge Coupled Device:電荷結合素子)素子を平面的に並べて成るX線検出器である。
【0040】
(制御系)
制御系3は、本実施形態ではコンピュータによって構成されている。具体的には、制御系3は、CPU24と、ROM(Read Only Memory)25と、RAM(Random Access Memory)26と、メモリ27と、それらを結ぶバス28とを有している。メモリ27はハードディスク等といった機械式メモリや、半導体メモリ、等によって形成されている。バス28には、画像表示手段の1つであるプリンタ29及び画像表示手段の他の1つであるディスプレイ30が接続されている。
【0041】
測定系2の構成要素であるX線管11、2次元X線検出器21及び試料移動装置20はインターフェース31を介してバス28に接続されている。メモリ27の内部には、測定系2を動かして所望のトポグラフィ測定を実現するための機能実現手段であるトポグラフィ実現ソフトウエア34、及び測定によって求められたデータを解析するためのソフトウエアである転位密度解析ソフトウエア35がインストールされている。また、メモリ27の内部には、測定されたデータや解析されたデータを記憶するための領域であるデータファイル36が設けられている。
【0042】
(動作)
次に、図1のX線トポグラフィ装置1の動作を図3のフローチャートを用いて説明する。まず、ステップS1において初期調整を行って図1の各要素を所定の初期位置に配置する。次に、オペレータによって開始の指示がされていれば(ステップ2でYES)測定を開始する。
【0043】
具体的には、ステップS3において図1のX線管11からX線を放射する。放射されたX線は多層膜ミラー12によって単色化され、平行化され、さらに強度が高められる。それらの処理を受けたX線はその後、スリット部材13のスリット13aによって幅が狭められた上で試料Sに入射する。この入射X線は図1では符号R3-1 で示されている。このX線照射は所定時間、例えば1分以下の所定時間にわたって行われる。このとき、入射X線R3-1と結晶格子面kとの間で回折条件が満足されると、回折X線R4が発生する。このX線R4は2次元X線検出器21によって検出される(ステップS4)。
【0044】
図7は、図1の2次元X線検出器21によって検出される2次元断面画像(いわゆるセクショントポグラフィ像)の一例を示している。図中、符号G1で示される1つの細長い長方形状の画像が図1の入射X線R3-1 によって得られた2次元断面画像を示している。図1において入射X線R3-1の進行路上に格子欠陥Dが存在すると、その部分において欠陥に対応した強度の強い回折X線R4-1 が発生し、この高強度の回折X線により2次元断面画像G1内に黒い点が形成される。つまり、2次元断面画像G1内で黒い点が形成された位置に対応する試料S内の位置に格子欠陥が存在していることが分かる。
【0045】
図7において、矢印Bで示す方向が図1におけるX線R3-1の進行方向(すなわち試料Sの厚さ方向)に対応している。図7の2次元断面画像G1の幅L1は図1において入射X線R3-1 が試料Sを通過する経路に対応している。図7において矢印Cで示す方向が図1における走査方向Cに対応している。図7において符号Eで示す方向は、図1において紙面を貫通する方向(すなわち試料Sの走査方向Cに直交する方向)である。
【0046】
入射X線R3-1 が試料Sに照射される上記の所定時間とは、2次元X線検出器21によって作成される2次元断面画像G1においてバックグランドと黒い点との間で十分なコントラスト、すなわち十分なSN比を得ることができる時間である。本実施形態では入射光学系4の中のX線光路上に多層膜ミラー12を設けてX線の強度を高めているので、多層膜ミラーを用いていない従来の装置に比べてX線照射時間を著しく短くすることができた。具体的には、従来のX線トポグラフィ装置では1つの2次元断面画像G1を得るのに数十分かかったことに対し、本実施形態では1分以下の所定時間、好ましくは10〜20秒、より好ましくは10秒によって十分なコントラストが得られるようにX線源11と多層膜ミラー12の特性を最適化した。
【0047】
このようにしてX線露光のための所定時間が経過すると(図3のステップS5でYES)、CPU24(図1)は2次元X線検出器21からX線強度信号を取り出し(図3のステップS6)、その信号データ(すなわち図7の2次元断面画像G1に相当するデータ)をメモリ27のデータファイル36内に記憶する(図3のステップS7)。
【0048】
試料Sに対する1つの位置において入射X線R3-1 による撮影が終了すると、CPU24は試料移動装置20に指令して試料台5従って試料Sを所定のステップ幅Sdだけ矢印A方向へ移動させ、その移動後の位置に停止させる(図3のステップS8でNO、ステップS9)。このステップ幅Sdは例えば10μmである。このステップ幅Sdはスリット部材13のスリット13aの幅よりも小さい値として設定される。
【0049】
これにより、ステップ幅Sdだけ隔たった隣のステップ位置に入射X線R3-2 が入射する状態になる。この状態で図3のステップS3からステップS7が繰り返されて、図7の2次元断面画像G2がX線強度信号のデータとして得られ、記憶される。入射X線R3-2 の進行路上に格子欠陥Dが存在すれば、その欠陥に対応して強度の強い回折X線R4-2 が発生し、その回折X線によって2次元断面画像G2内に黒い点が現れる。
【0050】
これ以降、2次元断面画像G1、G2、…Gnが所定の多数枚、例えば400枚得られるまで、試料Sのステップ移動及びX線測定が繰り返して行われる(図3のステップS8でNO、ステップS9)。これにより、図7に示すように、試料Sの各ステップ位置に関する多数枚の2次元断面画像G1、G2、…Gnが記憶される。
【0051】
所定枚数の測定が終了して(ステップS8でYES)、さらにオペレータによって解析の指令がなされると(ステップS10でYES)、CPU24は図3のステップS11において図8に模式的に示すような3次元画像Jを生成し、それをメモリ内に記憶する。この3次元画像Jは、試料Sの各ステップ位置に関する多数枚(本実施形態では400枚)の2次元断面画像G1,G2,G3,…Gnを3次元座標Z内で重ねて並べることによって形成されている。3次元座標Zは、横軸が移動距離Xであり、縦軸が試料走査方向に直交する方向Eであり、高さ軸がX線の進行方向(又は試料の厚さd1の方向)である。
【0052】
CPU24はその後、ステップS12において第2の2次元画像を生成して、それをメモリ内に記憶する。具体的には、測定した面とは別の平面で3次元画像Jを切り出して、その平面内での転位像(黒点)のデータを集めてメモリ内に記憶する。例えば、図8において3次元画像Jの表面P2内に属するデータを集めて記憶したり、表面から距離d2だけ離れた平面P3内に属するデータを集めて記憶する。
【0053】
このような第2の2次元画像は、例えば図9の左側の写真のように表される。この写真は、SiCウエハを図1の試料Sとして測定を行って図8に示したような3次元画像Jを生成し、さらに表面P2又はその近傍の表面内の転位データを集めたものを画像として表示したものである。測定条件は、次の通りであった:
ステップ移動間隔:10μm
取得した2次元断面画像(セクショントポグラフィ像):400枚
1枚の2次元断面画像のための測定時間:50秒
視野:4mm×6mm
この写真において長い線は転位がこの平面内で延びていることを示しており、ドットは転位が試料の厚さ方向に延びていることを示している。
【0054】
図9の右側の写真は比較のため、試料の同じ場所をトラバーストポグラフィの手法を用いて測定して得られた2次元画像を示している。トラバーストポグラフィにおいては断面内のデータが2次元X線検出器によって積算されるので、試料内に存在するすべての転位が重なって現れてしまう。そのため、試料の内部のある深さにおける転位情報を正確に反映することが出来なかった。これに対し、図9の左側に示した本実施形態の場合は、当該深さの平面における転位情報を極めて正確に反映している。このため、本実施形態によれば、基底面転位、貫通らせん転位、貫通刃状転位を正確に区別して識別できることが明らかになった。
【0055】
次に、CPUは図3のステップS13において転位密度の計算を行う。すなわち、図9の左側の写真のようにして得られた平面内の転位像に基づいて転位密度(個/cm)を計算する。その後、必要に応じてディスプレイ30を用いた画像表示を行い(ステップS14、S15)、さらに必要に応じてプリンタ29を用いた画像の印刷を行う(ステップS16、S17)。
【0056】
以上のように、本実施形態によれば、X線入射ビームに沿った断面に存在する転位像をコントラスト高く測定することが可能である。セクショントポグラフィ像を照射断面を少しずつずらしながら多数回測定し、それらを解析することにより、ウエハ内部における転位の3次元的な構造が得られる。得られた3次元画像を表面に平行な方向に切り出し、深さ一定の面内に存在する転位像を得ることが出来る。
【0057】
本実施形態によれば、表面付近に存在する転位や表面から一定の深さに存在する転位のみを観測することが可能であり、放射光を用いた反射X線トポグラフィとの比較により、貫通刃状転位が観測可能であることが証明された。また、本実施形態によれば、転位がどのように走っているかを明確に知ることが出来る。例えば、表面に平行であるとか、裏から表へ延びているとか、表から裏側に延び、再び向きを変えて表側に出ていくとか、を判定できる。また、表面は貫通転位による点が多いとか、内部は基底面転位による線が多いとかを明確に判定できる。
【0058】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、図1の多層膜ミラー12は図2に示した形状の多層膜ミラーに限られず、必要に応じて任煮の形状とすることができる。また、図3に示した制御の流れは1つの実施例であり必要に応じて改変できる。
【0059】
(実施例)
SiC基板上にSiCエピタキシャル膜を約10μm成長させて成る結晶、すなわち基板と膜が同じ結晶であるホモエピタキシャル結晶を試料として、図1のX線トポグラフィ装置によって測定を行った。その結果、エピタキシャル膜の表面近傍において図10に示す第2の2次元画像が得られた。エピタキシャル膜と基板の1つの界面において図11に示す第2の2次元画像が得られた。エピタキシャル膜と基板の他の1つの界面において図12に示す第2の2次元画像が得られた。基板の内部の1ヶ所において図13に示す第2の2次元画像が得られた。基板の内部の他の1ヶ所において図14に示す第2の2次元画像が得られた。そして、基板の裏側において図15に示す第2の2次元画像が得られた。
【符号の説明】
【0060】
1.X線トポグラフィ装置、2.測定系、3.制御系、4.入射光学系、5.試料台、6.受光光学系、11.X線管、12.多層膜ミラー、13.スリット部材、13a.スリット、14.フィラメント(陰極)、15.ターゲット(陽極)、16.X線窓、20.試料移動装置、21.2次元X線検出器、27.メモリ、28.バス、29.プリンタ(画像表示手段)、30.ディスプレイ(画像表示手段)、31.インターフェース、34.トポグラフィ実現ソフトウエア、35.転位密度解析ソフトウエア、36.データファイル、50.多層膜モノクロメータ、51.重元素層、52.軽元素層、53.基板、B.厚さ方向、C.走査方向、D.格子欠陥、D1.距離、d1.試料の厚さ、d2.面の隔たり距離、E.走査方向に直交する方向、F.X線焦点、G1,G2,G3、…Gn.2次元断面画像、H.スリット幅方向、J.3次元画像、k.結晶格子面、L1.2次元断面画像の幅、P1:表面、P2,P3.3次元画像の切出し表面、R1:入射X線、R2:回折X線、R3-1,R3-2,入射X線、R4-1,4-2.回折X線、S.試料結晶、Sd.ステップ幅、T1:入射側の厚さ、T2:出射側の厚さ、X.試料移動軸、Z.3次元座標
図1
図2
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図15