【解決手段】繊維強化複合材料からなる円筒形の第2の円筒部材62の表面にコーティング層としての被膜であるめっき層633が形成された真空ポンプ用部品であって、めっき層633は、第2の円筒部材62の表面を柔軟性のある基材に砥粒が固着された研磨材を使って研磨することによって離型剤層632を含む表面部分を除去する第1の工程と、離型剤層632を含む表面部分が除去された後の第2の円筒部材62の表面621−1を投射材としてガラスパウダーを用いたブラスト処理によって粗面化する第2の工程を経て形成されている。
前記繊維強化複合材料の内周面は、投射材として鉄粉を用いたブラスト処理によって表面を除去するとともに粗面化する第3の工程を経て形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の真空ポンプ用部品。
前記被膜は、めっき処理及びその後の黒化処理を経て形成され、該黒化処理によって形成された面の黒色度は75%以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の真空ポンプ用部品。
【背景技術】
【0002】
従来、ターボ分子ポンプのアルミ合金製の回転翼の下部に繊維強化複合材料であるFRP(Fiber Reinforced Plastics)製の円筒を固定し、ネジ溝ポンプ部を構成する真空ポンプとしては、特許文献1及び特許文献2に開示されたものが知られている。
【0003】
ここで、この種の真空ポンプは、腐食性ガスを排気する必要があるので、各種部品の腐食を防ぐために、その表面にニッケル合金等からなる耐食性コーティングを施すのが一般的である。
【0004】
しかし、上記アルミ合金製の回転翼のコーティングに関しては、いくつかの発明が公知になっているが、FRP製の円筒に対するコーティングに関する発明は知られていない。
【0005】
FRP製の円筒は、その成型時に使用した離型剤がその表面に付着していたり、溶け込んだりしていることが多く、このためその表面をコーティングし、そのコーティング材であるめっき層等の被膜を、FRP製の円筒の表面に密着させるためには、事前にこの離型剤を除去する必要がある。
【0006】
特に、本発明の対象である真空ポンプにおいては、FRP製の円筒を高速で回転させる必要があるので、コーティング材である被膜がFRP製の円筒の表面から離脱するのを防止するためには、上記事前の離型剤の除去処理は必須になる。
【0007】
FRP製の円筒の表面に付着していたり、溶け込んだりしている離型剤の除去は、砥石、サンドペーパーやブラスト処理などで表面を削ることにより除去できるが、削りすぎた場合は、FRP内部の繊維にダメージを与え、素材の強度低下を引き起こす弊害がある。
【0008】
この場合、ダメージを受けるのは、表面付近の繊維のみであり、素材全体の強度が低下するのではないので、一般用ではほとんど影響のないレベルである。しかし、本発明が対象とする真空ポンプにおいては、上述したようにFRP製の円筒を高速(毎分3万回転程度)で回転させる必要があるので、FRP製の円筒の表面付近の繊維が寸断されると、この寸断箇所を起点として繊維が飛散し、この種の真空ポンプにおいては重大な不都合を発生させる。
【0009】
ところで、この種の真空ポンプで用いられるFRP製の円筒の表面の離型剤の除去に際しては、以下の条件を満たす必要がある。
【0010】
条件1…研磨量を厳密に管理し、FRP製の円筒の表面付近の繊維のダメージを防ぐ。
【0011】
条件2…この種のFRP製の円筒は、成型時の繊維の巻付きムラなどにより表面がうねっていることが多いので、この表面のうねりに追従した研磨を行わなければならない。
【0012】
条件3…離型剤の除去の後に形成されるめっき層の密着度を高めるために、離型剤の除去後のFRP製の円筒の表面に適切な大きさの凹凸を作る必要がある(アンカー効果)。
【0013】
ここで、細かい砥粒で研磨した場合には、研磨量を管理しやすいので条件1を満たしやすいが、表面の凹凸が小さくなるので条件3を満たしにくい。
【0014】
また、粗い砥粒で研磨した場合には、表面に適切なサイズの凹凸を作れるので条件3を満たしやすいが、研磨量の管理が難しくなり条件1を満たしにくい。
【0015】
一方、中程度の砥粒で研磨した場合には、条件1,条件3ともに満たしにくくなり、両者を同時に満たすことは難しい。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための実施例について、願書に添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明が適用される真空ポンプの断面図である。同図の真空ポンプ(複合ポンプ)P1は、半導体製造装置、フラット・パネル・ディスプレイ製造装置、ソーラー・パネル製造装置におけるプロセスチャンバやその他の密閉チャンバのガス排気手段等として利用される。
【0027】
同真空ポンプP1は、外装ケース1内に、回転翼13と固定翼14によりガスを排気する翼排気部Ptと、ネジ溝19を利用してガスを排気するネジ溝ポンプ部Psと、を有している。
【0028】
外装ケース1は、筒状のポンプケース1Aと有底筒状のポンプベース1Bとをその筒軸方向にボルトで一体に連結した有底円筒形になっている。ポンプケース1Aの上端部はガス吸気口2として開口しており、ポンプベース1Bの下端部側面にはガス排気口3を設けてある。
【0029】
ガス吸気口2は、ポンプケース1A上縁のフランジ1Cに設けた図示しないボルトにより、例えば半導体製造装置のプロセスチャンバ等、高真空となる図示しない密閉チャンバに接続される。ガス排気口3は、図示しない補助ポンプに連通するように接続される。ポンプケース1A内の中央部には各種電装品を内蔵する円筒状のステータコラム4が設けられており、ステータコラム4はその下端側がポンプベース1B上にネジ止め固定される形態で立設してある。
【0030】
ステータコラム4の内側にはロータ軸5が設けられており、ロータ軸5は、その上端部がガス吸気口2の方向を向き、その下端部がポンプベース1Bの方向を向くように配置してある。また、ロータ軸5の上端部はステータコラム4の円筒上端面から上方に突出するように設けてある。
【0031】
ロータ軸5は、ラジアル磁気軸受10とアキシャル磁気軸受11により径方向と軸方向が回転可能に支持され、この状態で駆動モータ12により回転駆動される。
【0032】
駆動モータ12は、固定子12Aと回転子12Bとからなる構造であって、ロータ軸5の略中央付近に設けられている。かかる駆動モータ12の固定子12Aはステータコラム4の内側に設置されており、同駆動モータ12の回転子12Bはロータ軸5の外周面側に一体に装着してある。
【0033】
ラジアル磁気軸受10は、駆動モータ12の上下に1組ずつ合計2組配置され、アキシャル磁気軸受11はロータ軸5の下端部側に1組配置されている。
【0034】
2組のラジアル磁気軸受10、10は、それぞれ、ロータ軸5に形成されたラジアル電磁石ターゲット10A、これに対向するステータコラム4内側面に設置された複数のラジアル電磁石10B、およびラジアル方向変位センサ10Cを備えて構成される。ラジアル電磁石ターゲット10Aは高透磁率材料の鋼板を積層した積層鋼板からなり、ラジアル電磁石10Bはラジアル電磁石ターゲット10Aを通じてロータ軸5を径方向に磁力で吸引する。
【0035】
ラジアル方向変位センサ10Cはロータ軸5の径方向変位を検出する。そして、ラジアル方向変位センサ10Cでの検出値(ロータ軸5の径方向変位)に基づきラジアル電磁石10Bの励磁電流を制御することによって、ロータ軸5は径方向所定位置に磁力で浮上支持される。
【0036】
アキシャル磁気軸受11は、ロータ軸5の下端部外周に取り付けた円盤形状のアーマチュアディスク11Aと、アーマチュアディスク11Aを挟んで上下に対向するアキシャル電磁石11Bと、ロータ軸5の下端面から少し離れた位置に設置したアキシャル方向変位センサ11Cとを備えて構成される。
【0037】
アーマチュアディスク11Aは透磁率の高い材料からなり、上下のアキシャル電磁石11Bはアーマチュアディスク11Aをその上下方向から磁力で吸引するようになっている。アキシャル方向変位センサ11Cはロータ軸5の軸方向変位を検出する。そして、アキシャル方向変位センサ11Cでの検出値(ロータ軸5の軸方向変位)に基づき上下のアキシャル電磁石11Bの励磁電流を制御することによって、ロータ軸5は軸方向所定位置に磁力で浮上支持される。
【0038】
前記ステータコラム4の外側には真空ポンプP1の回転体としてロータ6が設けられている。ロータ6は、ステータコラム4の外周を囲む円筒形状であって、その略中間に位置する円環板状の円形部材60を介して直径の異なる2つの筒体(第1の円筒部材61と第2の円筒部材62)をその軸方向に連結した構造になっている。
【0039】
前記第1の円筒部材61は、円形部材60と同じ材料(例えばアルミニウム又はその合金)で形成されている。この一方、前記第2の円筒部材62は、FRP(Fiber Reinforced Plastics)から形成されている。
【0040】
また、前記第1の円筒部材61は、アルミニウム塊又はその合金塊から切削加工等によって切り出したものである。
図1の真空ポンプP1では、前記円形部材60は、第1の円筒部材61の端部外周に設けられるフランジのような形態になっていて、第1の円筒部材61と一緒に前記アルミニウム塊又はその合金塊から切り出したものである。
【0041】
一方、前記第2の円筒部材62は、円形部材60や第1の円筒部材61とは別体に形成した後、円形部材60の外周に圧入で嵌め込み接合したものである。なお、第2の円筒部材62を円形部材60の外周に接着で接合してもよい。
【0042】
第1の円筒部材61の上端には端部材63が設けられており、この端部材63を介してロータ6とロータ軸5は一体化している。このような一体化の構造一例として、
図1の真空ポンプP1では、端部材63の中心にボス孔7を設けるとともに、ロータ軸5の上端部外周に段状の肩部(以下「ロータ軸肩部9」という)を形成している。そして、ロータ6とロータ軸5の一体化は、そのロータ軸肩部9より上のロータ軸5先端部を端部材63のボス孔7に嵌め込み、かつ、端部材63とロータ軸肩部9とをボルトで締め付け固定するものとした。
【0043】
前記第1及び第2の円筒部材61、62、端部材63並びに円形部材60からなるロータ6は、ロータ軸5を介して、ラジアル磁気軸受10、10及びアキシャル磁気軸受11により、その軸心(ロータ軸5)周りに回転可能に支持される。支持されたロータ6は、駆動モータ12によるロータ軸5の回転によって、ポンプ軸心周りに回転駆動される。
【0044】
従って、
図1の真空ポンプP1においては、ロータ軸5、ラジアル磁気軸受10、10及びアキシャル磁気軸受11、駆動モータ12からなるポンプ支持系・回転駆動系が、前記円形部材60や第1及び第2の円筒部材61、62をその中心周りに回転駆動する駆動手段として機能する。
【0045】
《翼排気部Ptの詳細構成》
図1の真空ポンプP1では、ロータ6の略中間位置(具体的には円形部材60の位置。以下でも同様)より上流(ロータ6の略中間位置からロータ6のガス吸気口2側端部までの範囲。以下でも同様)が翼排気部Ptとして機能する。翼排気部Ptの詳細構成は以下の通りである。
【0046】
ロータ6の略中間位置より上流側のロータ6構成部分、すなわち第1の円筒部材61は翼排気部Ptの回転体として回転する部分であり、第1の円筒部材61の外周面には、回転翼13が一体に複数設けられている。これら複数の回転翼13は、ロータ6の回転軸心であるロータ軸5又は外装ケース1の軸心(以下「ポンプ軸心」という)を中心として放射状に並んでいる。
【0047】
この一方、ポンプケース1Aの内周面側には固定翼14が複数設けられており、これらの固定翼14も、ポンプ軸心を中心として放射状に並んで配置されている。そして、前記のような回転翼13と固定翼14とがポンプ軸心に沿って交互に多段に配置されることにより、翼排気部Ptが形成される。
【0048】
いずれの回転翼13も、第1の円筒部材61の外径加工部と一体的に切削加工で切り出し形成したブレード状の切削加工品であって、ガス分子の排気に最適な角度で傾斜している。いずれの固定翼14もまた、ガス分子の排気に最適な角度で傾斜している。
【0049】
《翼排気部Ptの動作説明》
以上の構成からなる翼排気部Ptでは、駆動モータ12の起動により、ロータ軸5、ロータ6および複数の回転翼13が一体に高速回転し、最上段の回転翼13が、ガス吸気口2から入射したガス分子に対し、ガス吸気口2からガス排気口3側に向かう方向の運動量を付与する。この排気方向の運動量を有するガス分子が固定翼14によって次段の回転翼13側へ送り込まれる。以上のようなガス分子への運動量の付与と送り込み動作とが繰り返し多段に行われることで、ガス吸気口2側のガス分子は、ロータ6の下流に向かって順次移行し、ネジ溝ポンプ部Psの上流側に到達する。
【0050】
《ネジ溝ポンプ部Psの詳細構成》
図1の真空ポンプP1では、ロータ6の略中間位置より下流(ロータ6の略中間位置からロータ6のガス排気口3側端部までの範囲。以下でも同様)がネジ溝ポンプ部Psとして機能する。ネジ溝ポンプ部Psの詳細構成は以下の通りである。
【0051】
ロータ6の略中間より下流側のロータ6構成部分、すなわち第2の円筒部材62はネジ溝ポンプ部Psの回転部材として回転する部分であり、その第2の円筒部材62の外周にはネジ溝ポンプ部ステータとして筒状の固定部材18が設けられており、この筒状の固定部材(ネジ溝ポンプ部ステータ)18は第2の円筒部材62の外周を囲む構造になっている。なお、前記固定部材18はその下端部がポンプベース1Bで支持されている。
【0052】
固定部材18と第2の円筒部材62との間には、螺旋状のネジ溝ポンプ流路Sが設けられている。
図1の例では、第2の円筒部材62の外周面を凹凸のない曲面とし、かつ固定部材18の内面側に螺旋状のネジ溝19を形成することで、第2の円筒部材62と固定部材18との間にネジ溝ポンプ流路Sが形成される構成を採用している。これに代えて、そのようなネジ溝19を第2の円筒部材62の外周面に形成し、かつ固定部材18の内面を凹凸のない曲面とすることで、第2の円筒部材62と固定部材18との間にネジ溝ポンプ流路Sが形成されるように構成してもよい。
【0053】
前記ネジ溝19は、その深さが下方に向けて小径化したテーパコーン形状に変化するように形成してある。また、前記ネジ溝19は、固定部材18の上端から下端にかけて螺旋状に刻設してある。
【0054】
このネジ溝ポンプ部Psでは、ネジ溝19と第2の円筒部材62外周面でのドラッグ効果によりガスを圧縮しながら移送するため、ネジ溝19の深さは、ネジ溝ポンプ流路Sの上流入口側(ガス吸気口2に近い方の流路開口端)で最も深く、その下流出口側(ガス排気口3に近い方の流路開口端)で最も浅くなるように設定してある。
【0055】
《ネジ溝ポンプ部Psの動作説明》
先の《翼排気部Ptの動作説明》の欄で説明したようにネジ溝ポンプ部Psの上流側に到達したガス分子は、更にネジ溝ポンプ流路Sへ移行する。移行したガス分子は、第2の円筒部材62の回転によって生じる効果、すなわち、第2の円筒部材62外周面とネジ溝19でのドラッグ効果によって、圧縮されながらガス排気口3に向って移行し、最終的に図示しない補助ポンプを通じて外部へ排気される。
【0056】
上記構成の真空ポンプP1において、本発明に係るこの実施例の真空ポンプ用部品は、ネジ溝ポンプ部Psの構成部分である第2の円筒部材62に適用される。
【0057】
図2は
図1に示した真空ポンプP1のネジ溝ポンプ部Psを構成する第2の円筒部材62を抜き出して示した斜視図であり、
図3は、
図2に示したFRP製の円筒のAで示した部分の断面拡大図である。
【0058】
図1に示した真空ポンプP1において、ネジ溝ポンプ部Psを構成する第2の円筒部材62は、この実施例では、強化材に、例えば、炭素繊維が用いられ、母材には主にエポキシ樹脂が用いられる繊維強化複合材料から形成される。
【0059】
この場合、強化材である強化繊維631は、
図3に示すように、この第2の円筒部材62の周方向に沿って多層に巻付けられる。そして、この強化繊維631の巻付けムラによりこの第2の円筒部材62の表面621は平坦ではなく、多少のうねりが生じている。
【0060】
また、この実施例の第2の円筒部材62は、加熱、加圧成型により形成されるので、
図3に示すように、その表面621に、例えば、シリコン系の離型剤が付着若しくは溶け込んだ離型剤層632が形成されている。
【0061】
この離型剤層632の存在は、後に行われるコーティング処理としての無電解めっき処理により形成される、例えば、ニッケル合金からなるめっき層(被膜)の密着度を低下させる。
【0062】
このため、この実施例の第2の円筒部材62においては、まず、
図3に示す離型剤層632を含む表面部分を除去する、後に詳述する除去加工工程(第1の工程)が実行される。
【0063】
図4は、本発明に係る真空ポンプ用部品の表面処理工程を説明するフロー図である。
【0064】
この本発明に係る真空ポンプ用部品の表面処理工程においては、まず、
図3に示したような第2の円筒部材62の表面621に形成されている離型剤層632を含む表面部分を除去する第1の工程401が実施される。この第1の工程は、柔軟性のある基材に砥粒が固着された研磨材を使って
図3に示す第2の円筒部材62の表面621を研磨することによって
図5に示すように、離型剤層632を含む表面部分を除去する処理となる。なお、
図5は、離型剤層632を含む表面部分の除去後の状態を示すもので、実線で示す面621−1は、離型剤層632を含む表面部分の除去後の第2の円筒部材62の外形面(表面)を示しており、仮想線で示す面621は、離型剤層632を含む表面部分の除去前の第2の円筒部材62の外形面を示している。ここで柔軟性のある基材に砥粒が固着された研磨材としては
1)スポンジ表面に砥粒が接着されたもの
2)ナイロン不織布に砥粒が接着されたもの
3)ナイロン糸に砥粒が接着されたものを束ねたブラシ
4)スリットが入った砥粒接着研磨布からなるフラップホイール
等を用いることができる。
【0065】
この第1の工程においては、離型剤層632を含む表面部分の除去量が、強化繊維631に達して多量の強化繊維631を切断することがないように厳密に管理されなければならない。例えば、この第1の工程において、離型剤層632を含む表面部分の除去量が強化繊維631に達し、強化繊維631にダメージを与えると、この部分を起点として強化繊維631が剥がれて飛散し、この種の真空ポンプにおいては重大な不都合を生じさせる。したがって、ここで用いられる砥粒としては#240以上から選定するのが好ましく、例えば、#600の砥粒を用いる。
【0066】
上記第1の工程により、第2の円筒部材62の表面621に多少のうねりがあっても、この表面621のうねりに追従して、強化繊維631にダメージを与えることなく離型剤層632の除去を行うことが可能になる。
【0067】
図5に示すように第2の円筒部材62の表面621から離型剤層632を含む表面部分が除去されると、次に、離型剤層632を含む表面部分が除去された後の第2の円筒部材の表面621−1を粗面化する第2の工程402が実行される。
【0068】
この第2の工程は、投射材としてガラスパウダーを用いたブラスト処理によって第2の円筒部材62の表面621−1を
図6の示すように粗面化する処理となる。
【0069】
図7は、
図4に示した第2の工程で行われる投射材としてガラスパウダーを用いたブラスト処理の説明図である。
【0070】
この第2の工程で行われる、投射材としてガラスパウダーを用いたブラスト処理は、圧縮空気により投射材であるガラスパウダーを第2の円筒部材62の表面621−1に投射する空気式ブラスト処理が用いられ、この空気式ブラスト処理の加工空気圧力は、0.1〜0.6MPaに設定するのが好ましい。
【0071】
この第2の工程の空気式ブラスト処理で用いられるガラスパウダーは、不定形のガラス粒子からなっている。ガラスパウダーの製作方法は、ガラスあるいはガラスカレット(ガラス製品を回収した際に、いったん破砕した状態の「ガラス片」)を粉砕し、不定形のガラス微粒子とした。粉砕方法として、媒体撹拌ミル、ボールミル、ロールクラッシャー等を用いて行う。本実施例としては、乾式のボールミル法を使用した。この粉砕した微粒子を所望の粒径を得るため篩による分級処理をした。ガラスパウダーの粒子径は、0〜53μm(最大粒子径)、0〜75μm(最大粒子径)、0〜90μm(最大粒子径)、0〜150μm(最大粒子径)、100〜250μm(最大粒子径)、250〜500μm(最大粒子径)の粒子集合体を使用する。好ましくは、0〜150μm(最大粒子径)、100〜250μm(最大粒子径)が良い。
【0072】
したがって、圧縮空気により投射材であるガラスパウダー710を第2の円筒部材62の表面621−1に投射する空気式ブラスト処理を用いると、第2の円筒部材62の表面621−1には、このガラスパウダー710の形状に対応する不定形の凹凸711が形成される。
【0073】
また、この投射材としてガラスパウダーを用いた第2の工程のブラスト処理により、例えば、柔軟性のある基材に砥粒が固着された研磨材を使った第1の工程で離型剤層632の一部が残っていても、この残った離型剤層632の一部は、この第2の工程で除去されることになる。
【0074】
投射材としてガラスパウダーを用いた第2の工程のブラスト処理により形成される凹凸711は、鉄球等を用いたブラスト処理により形成される凹凸より細かくすることができ(鉄球等を用いたブラスト処理によっても鉄球等の球径を小さくすれば、細かな凹凸を形成することができるが、鉄球等の球径を小さくすると粉塵爆発を起こす可能性があり採用できない)、また、その形状は不定形となるので、後に、この第2の円筒部材62の表面621−1に、コーティング層であるめっき層633を無電解めっきにより形成する際の、第2の円筒部材62の表面621−1とめっき層との結合を強固にする、いわゆるアンカー効果を有する。
【0075】
次に、この第2の円筒部材62の内周面622(
図2)を、投射材として鉄粉を用いてブラスト処理する第3の工程403が実行される。
【0076】
図8は、
図4に示した第3の工程で行われる投射材として鉄粉を用いたブラスト処理の説明図である。
【0077】
この第3の工程で用いられる投射材としての鉄粉は、
図8に示すように球状の鉄粒子720が用いられ、この球状の鉄粒子720を第2の円筒部材62の内周面622に投射することにより、第2の円筒部材62の内周面622に、この球状の鉄粒子720に対応する凹凸721を形成する。
【0078】
この第3の工程は、第2の円筒部材62の内周面622に形成されている図示しない離型剤層を含むその表面部分を除去する離型剤層除去処理とその表面部分に凹凸を形成する粗面化処理を含むものとなる。
【0079】
なお、この第3の工程403においては、第2の工程のような優れたアンカー効果は得られないが、処理対象が第2の円筒部材62の内周面622であることから、第2の円筒部材62が高速回転しても、そこに後に形成されるめっき層が剥がれる虞はなく、また、この第3の工程においては、離型剤層除去処理とその表面の粗面化処理とが同時に行われるので、その結果工程数削減の効果もある。
【0080】
次に、第2の円筒部材62にめっき層を形成する第4の工程が実行される。
【0081】
この第4の工程では、第2の工程402で凹凸711が形成され、第3の工程403で凹凸721が形成されて、それぞれ粗面化された第2の円筒部材62を、無電解めっき液に浸漬することにより、例えば無電解ニッケルめっき層を形成する。
【0082】
この第4の工程においては、第2の円筒部材62の表面621に形成された凹凸711によるアンカー効果、第2の円筒部材62の内周面622に形成された凹凸721によるアンカー効果により、強力に密着されためっき層の形成が可能になる。
【0083】
図9は、
図4に示した第4の工程後の第2の円筒部材の表面の要部部分断面拡大図である。
【0084】
図9に示すように、第2の円筒部材62の表面621−2には、凹凸711の存在によるアンカー効果により、表面621−2に強固に密着されためっき層633が形成される。
【0085】
次に、第4の工程で形成されためっき層の表面を黒化する第5の工程405が実行される。この第5の工程の黒化処理は、第2の円筒部材62の放熱性を向上させるために行われるもので、具体的には、めっき層が形成された第2の円筒部材62を塩化第二鉄、塩化第二銅、硫酸第二鉄、硫酸第二銅等の溶液に浸漬し、その後、塩酸、硫酸、硝酸等に浸漬することにより行われる。ここで、めっき層の表面を黒化する第5の工程405で、塩酸、硫酸、硝酸等を用いる理由は、黒化処理の進行速度を遅くして、黒化処理を制御可能にするためで、これにより第2の円筒部材62に対して最適な黒化処理が可能になる。この黒化処理に要する時間は数時間程度である。
【0086】
図10は、
図4に示した第5の工程後の第2の円筒部材の表面の要部部分断面拡大図である。
【0087】
第2の円筒部材62の表面621−2には、めっき層633が形成され、そのめっき層633の表面に黒化された黒化層634が形成される。
【0088】
この第5の工程の黒化処理による第2の円筒部材62の黒化層の黒色度は、75%以上にするのが好ましい。
【0089】
なお、黒色度は、放射率に対応するもので、黒体が放出する光(黒体放射)のエネルギーを1としたときの比率を百分率で示したものである。
【0090】
なお上記実施例においては、翼排気部Ptとネジ溝ポンプ部Psとを有する複合型真空ポンプに本発明を適用した場合を示したが、本発明は、ネジ溝ポンプのみからなる真空ポンプにも同様に適用することができる。
【0091】
図11は、本発明が適用される他の真空ポンプ(ねじ溝ポンプ)P2の断面図である。
【0092】
同図の真空ポンプP2は、
図1の真空ポンプP1における翼排気部Ptを省略した形式であり、その基本的な構成として、円形部材60と、円形部材60をその中心周りに回転駆動する駆動手段(具体的には、ロータ軸5、ラジアル磁気軸受10、10及びアキシャル磁気軸受11、駆動モータ12からなるポンプ支持系・回転駆動系)と、円形部材60の外周に接合した円筒部材62と、円筒部材62の外周を囲むネジ溝ポンプ部ステータとしての固定部材18と、円筒部材62と固定部材18との間に形成されるネジ溝ポンプ流路Sと、を具備すること、並びに、円形部材60及び円筒部材62の回転によりネジ溝ポンプ流路Sを通じてガスを排気することは、
図1の真空ポンプP1と同様であるので、同一部材には同一符号を付し、その詳細説明は省略する。
【0093】
なお、円形部材60と円筒部材62とからなるロータ6は、
図1のロータ6と同様の構造でロータ軸5に一体化している。
【0094】
この
図11に示す真空ポンプP2の円筒部材62に対しても
図1に示した第2の円筒部材62と同様に本発明が適用可能である。
【0095】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内であれば、当業者の通常の創作能力によって多くの変形が可能である。