【実施例1】
【0013】
図1は、実施例1に係る波長可変レーザ100の全体構成を示すブロック図である。
図1に示すように、波長可変レーザ100は、レーザデバイスとして、波長を制御可能な半導体レーザ30(チューナブル半導体レーザ)を備えている。本実施例の半導体レーザ30は、レーザ領域に連結してSOA(Semiconductor Optical Amplifier)となる領域が設けられている。このSOAは、光出力制御部として機能する。SOAは光出力の強度を任意に増減させることができる。また光出力の強度を実質的にゼロに制御することもできる。さらに波長可変レーザ100は、検知部50、メモリ60、コントローラ70などを備える。検知部50は、出力検知部および波長ロッカ部として機能する。コントローラ70は、波長可変レーザ100の制御を行うものであり、その内部にはRAM(Random Access Memory)を備えている。波長可変レーザ100の各部は、筐体80内に配置されている。
【0014】
図2は、本実施例における半導体レーザ30の全体構成を示す模式的断面図である。
図2に示すように、半導体レーザ30は、SG−DFB(Sampled Grating Distributed Feedback)領域Aと、CSG−DBR(Chirped Sampled Grating Distributed Bragg Reflector)領域Bと、SOA(Semiconductor Optical Amplifier)領域Cとを備える。すなわち、半導体レーザ30は、半導体構造内に波長選択ミラーを有するレーザである。
【0015】
一例として、半導体レーザ30において、フロント側からリア側にかけて、SOA領域C、SG−DFB領域A、CSG−DBR領域Bがこの順に配置されている。SG−DFB領域Aは、利得を有しサンプルドグレーティングを備える。CSG−DBR領域Bは、利得を有さずにサンプルドグレーティングを備える。SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bが
図1のレーザ領域に相当し、SOA領域Cが
図2のSOA領域に相当する。
【0016】
SG−DFB領域Aは、基板1上に、下クラッド層2、活性層3、上クラッド層6、コンタクト層7、および電極8が積層された構造を有する。CSG−DBR領域Bは、基板上1に、下クラッド層2、光導波層4、上クラッド層6、絶縁膜9、および複数のヒータ10が積層された構造を有する。各ヒータ10には、電源電極11およびグランド電極12が設けられている。SOA領域Cは、基板1上に、下クラッド層2、光増幅層19、上クラッド層6、コンタクト層20、および電極21が積層された構造を有する。
【0017】
SG−DFB領域A、CSG−DBR領域BおよびSOA領域Cにおいて、基板1、下クラッド層2、および上クラッド層6は、一体的に形成されている。活性層3、光導波層4、および光増幅層19は、同一面上に形成されている。SG−DFB領域AとCSG−DBR領域Bとの境界は、活性層3と光導波層4との境界と対応している。
【0018】
SOA領域C側における基板1、下クラッド層2、光増幅層19および上クラッド層6の端面には、端面膜16が形成されている。本実施例では、端面膜16はAR(Anti Reflection)膜である。端面膜16は、半導体レーザ30のフロント側端面として機能する。CSG−DBR領域B側における基板1、下クラッド層2、光導波層4、および上クラッド層6の端面には、端面膜17が形成されている。本実施例では、端面膜17はAR膜である。端面膜17は、半導体レーザ30のリア側端面として機能する。
【0019】
基板1は、例えば、n型InPからなる結晶基板である。下クラッド層2はn型、上クラッド層6はp型であり、それぞれ例えばInPによって構成される。下クラッド層2および上クラッド層6は、活性層3、光導波層4、および光増幅層19を上下で光閉込めしている。
【0020】
活性層3は、利得を有する半導体により構成されている。活性層3は、例えば量子井戸構造を有しており、例えばGa
0.32In
0.68As
0.92P
0.08(厚さ5nm)からなる井戸層と、Ga
0.22In
0.78As
0.47P
0.53(厚さ10nm)からなる障壁層が交互に積層された構造を有する。光導波層4は、例えばバルク半導体層で構成することができ、例えばGa
0.22In
0.78As
0.47P
0.53によって構成することができる。本実施例においては、光導波層4は、活性層3よりも大きいエネルギギャップを有する。
【0021】
光増幅層19は、電極21からの電流注入によって利得が与えられ、それによって光増幅をなす領域である。光増幅層19は、例えば量子井戸構造で構成することができ、例えばGa
0.35In
0.65As
0.99P
0.01(厚さ5nm)の井戸層とGa
0.15In
0.85As
0.32P
0.68(厚さ10nm)の障壁層が交互に積層された構造とすることができる。また、他の構造として、例えばGa
0.44In
0.56As
0.95P
0.05からなるバルク半導体を採用することもできる。なお、光増幅層19と活性層3とを同じ材料で構成することもできる。
【0022】
コンタクト層7,20は、例えばp型Ga
0.47In
0.53As結晶によって構成することができる。絶縁膜9は、窒化シリコン膜(SiN)または酸化シリコン膜(SiO)からなる保護膜である。ヒータ10は、チタンタングステン(TiW)で構成された薄膜抵抗体である。ヒータ10のそれぞれは、CSG−DBR領域Bの複数のセグメントにまたがって形成されていてもよい。
【0023】
電極8,21、電源電極11およびグランド電極12は、金(Au)等の導電性材料からなる。基板1の下部には、裏面電極15が形成されている。裏面電極15は、SG−DFB領域A、CSG−DBR領域BおよびSOA領域Cにまたがって形成されている。
【0024】
端面膜16および端面膜17は、1.0%以下の反射率を有するAR膜であり、実質的にその端面が無反射となる特性を有する。AR膜は、例えばMgF
2およびTiONからなる誘電体膜で構成することができる。なお、本実施例ではレーザの両端がAR膜であったが、端面膜17を有意の反射率を持つ反射膜で構成する場合もある。
図2における端面膜17に接する半導体に光吸収層を備えた構造を設けた場合、端面膜17に有意の反射率を持たせることで、端面膜17から外部に漏洩する光出力を抑制することができる。有意の反射率としては、たとえば10%以上の反射率である。なお、ここで反射率とは、半導体レーザ内部に対する反射率を指す。
【0025】
回折格子(コルゲーション)18は、SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bの下クラッド層2に所定の間隔を空けて複数箇所に形成されている。それにより、SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bにサンプルドグレーティングが形成される。SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bにおいて、下クラッド層2に複数のセグメントが設けられている。ここでセグメントとは、回折格子18が設けられている回折格子部と回折格子18が設けられていないスペース部とが1つずつ連続する領域のことをいう。すなわち、セグメントとは、両端が回折格子部によって挟まれたスペース部と回折格子部とが連結された領域のことをいう。回折格子18は、下クラッド層2とは異なる屈折率の材料で構成されている。下クラッド層2がInPの場合、回折格子を構成する材料として、例えばGa
0.22In
0.78As
0.47P
0.53を用いることができる。
【0026】
回折格子18は、2光束干渉露光法を使用したパターニングにより形成することができる。回折格子18の間に位置するスペース部は、回折格子18のパターンをレジストに露光した後、スペース部に相当する位置に再度露光を施すことで実現できる。SG−DFB領域Aにおける回折格子18のピッチと、CSG−DBR領域Bにおける回折格子18のピッチとは、同一でもよく、異なっていてもよい。本実施例においては、一例として、両ピッチは同一に設定してある。また、各セグメントにおいて、回折格子18は同じ長さを有していてもよく、異なる長さを有していてもよい。また、SG−DFB領域Aの各回折格子18が同じ長さを有し、CSG−DBR領域Bの各回折格子18が同じ長さを有し、SG−DFB領域AとCSG−DBR領域Bとで回折格子18の長さが異なっていてもよい。
【0027】
SG−DFB領域Aにおいては、各セグメントの光学長が実質的に同一となっている。CSG−DBR領域Bにおいては、少なくとも2つのセグメントの光学長が、互いに異なって形成されている。それにより、CSG−DBR領域Bの波長特性のピーク同士の強度は、波長依存性を有するようになる。SG−DFB領域Aのセグメントの平均光学長とCSG−DBR領域Bのセグメントの平均光学長は異なっている。このように、SG−DFB領域A内のセグメントおよびCSG−DBR領域Bのセグメントが半導体レーザ30内において共振器を構成する。
【0028】
SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bそれぞれの内部においては、反射した光が互いに干渉する。SG−DFB領域Aには活性層3が設けられており、キャリア注入されると、ピーク強度がほぼ揃った、所定の波長間隔を有する離散的な利得スペクトルが生成される。また、CSG−DBR領域Bにおいては、ピーク強度が異なる、所定の波長間隔を有する離散的な反射スペクトルが生成される。SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bにおける波長特性のピーク波長の間隔は異なっている。これら波長特性の組み合わせによって生じるバーニア効果を利用して、発振条件を満たす波長を選択することができる。
【0029】
図1に示すように、半導体レーザ30は、第1温度制御装置31上に配置されている。第1温度制御装置31は、ペルチェ素子を含み、TEC(Thermoelectric cooler)として機能する。第1サーミスタ32は、第1温度制御装置31上に配置されている。第1サーミスタ32は、第1温度制御装置31の温度を検出する。第1サーミスタ32の検出温度に基づいて、半導体レーザ30の温度を特定することができる。
【0030】
波長可変レーザ100においては、検知部50が半導体レーザ30のフロント側に配置されている。検知部50が波長ロッカ部として機能することから、波長可変レーザ100は、フロントロッカタイプと呼ぶことができる。検知部50は、第1受光素子42、ビームスプリッタ51、エタロン52、第2温度制御装置53、第2受光素子54、および第2サーミスタ55を備える。
【0031】
ビームスプリッタ41は、半導体レーザ30のフロント側からの出力光を分岐する位置に配置されている。ビームスプリッタ51は、ビームスプリッタ41からの光を分岐する位置に配置されている。第1受光素子42は、ビームスプリッタ51によって分岐された2つの光の一方を受光する位置に配置されている。エタロン52は、ビームスプリッタ51によって分岐された2つの光の他一方を透過する位置に配置されている。第2受光素子54は、エタロン52を透過した透過光を受光する位置に配置されている。
【0032】
エタロン52は、入射光の波長に応じて透過率が周期的に変化する特性を有する。本実施例においては、エタロン52としてソリッドエタロンを用いる。なお、ソリッドエタロンの当該周期的な波長特性は、温度が変化することによって変化する。エタロン52は、ビームスプリッタ51によって分岐された2つの光の他方を透過する位置に配置されている。また、エタロン52は、第2温度制御装置53上に配置されている。第2温度制御装置53は、ペルチェ素子を含み、TEC(Thermoelectric cooler)として機能する。
【0033】
第2受光素子54は、エタロン52を透過した透過光を受光する位置に配置されている。第2サーミスタ55は、エタロン52の温度を特定するために設けられている。第2サーミスタ55は、例えば第2温度制御装置53上に配置されている。本実施例では、第2温度制御装置53の温度を第2サーミスタ55で検出することで、エタロン52の温度を特定している。
【0034】
メモリ60は、書換え可能な記憶装置である。書き換え可能な記憶装置としては、典型的にはフラッシュメモリが挙げられる。コントローラ70は、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、電源などを備える。RAMは、中央演算処理装置が実行するプログラム、中央演算処理装置が処理するデータなどを一時的に記憶するメモリである。
【0035】
筐体80には、温度検知部81が配置されている。半導体レーザ30の温度は、半導体レーザ30の発振波長に応じて制御される。したがって、半導体レーザ30の発振波長に応じて筐体80の温度が変化する。温度検知部81は、筐体80の温度を検出し、コントローラ70に伝える。温度検知部81はコントローラ70に内蔵されていてもよい。エタロン52は、筐体80の温度の影響を受ける。そのため、筐体80の温度は、エタロン52の周囲温度とみなすこともできる。
【0036】
メモリ60は、波長可変レーザ100の各部の初期設定値およびフィードバック制御目標値をチャネルに対応させて記憶している。チャネルとは、半導体レーザ30の発振波長に対応する番号である。各チャネルの波長は、波長可変レーザ100の波長可変帯域内において、離散的に定められている。例えば、各チャネルは、ITU−T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)のグリッド波長(50GHz間隔)に対応している。または、ITU−Tグリッドの間隔よりも狭めた間隔で、初期設定値を用意してもよい。本実施例においては、各チャネルの波長が基本波長と定義される。
【0037】
図3は、上記初期設定値およびフィードバック制御目標値を示す図である。
図3に示すように、上記初期設定値は、SG−DFB領域Aの電極8に供給される初期電流値I
LD、SOA領域Cの電極21に供給される初期電流値I
SOA、半導体レーザ30の初期温度値T
LD、エタロン52の初期温度値T
Etalon、および各ヒータ10に供給される初期電力値P
Heater1〜P
Heater3を含む。これら初期設定値は、チャネルごとに定められている。上記フィードバック制御目標値は、コントローラ70のフィードバック制御を行う際の目標値である。フィードバック制御目標値は、第1受光素子42が出力する光電流の目標値I
m1、および第1受光素子42が出力する光電流I
m1に対する第2受光素子54が出力する光電流I
m2の比の目標値I
m2/I
m1を含む。制御目標値も、チャネルごとに定められている。なお、これらの各値は、波長可変レーザ100の出荷前に、波長計を使ったチューニングによって個体ごとに取得される。
【0038】
本実施例に係る波長可変レーザ100は、要求波長が基本波長と一致しなくても、当該要求波長を出力することができる。基本波長と異なる波長での出力を可能とする制御のことを、以下、グリッドレス制御と称する。
図4は、グリッドレス制御における要求波長と基本波長との関係を表す図である。
図4に示すように、グリッドレス制御においては、要求波長は、基本波長と隣接する他の基本波長との間の波長である。なお、要求波長は、基本波長と一致していてもよい。
【0039】
図5は、グリッドレス制御の原理を示す図である。
図5において、横軸は波長を示し、縦軸は比I
m2/I
m1(エタロン52の透過率)の正規化値を示す。
図5において、実線は、エタロン52の初期温度値T
Etalonに対応する波長特性である。また、点線は、エタロン52の温度を第2温度制御装置53によって上昇させた場合の波長特性である。ここで、実線上の黒丸における比I
m2/I
m1がフィードバック目標値として採用されている場合、エタロン52が初期温度値T
Etalonであると、基本波長で発振することになる。一方、エタロン52が点線で示される波長特性に対応した温度であると、比I
m2/I
m1が基本波長を得るための値(点線上の黒丸)であっても、実際の発振波長はエタロン特性の変更分だけ、その基本波長からシフトする。つまり、要求波長と基本波長との波長差だけエタロン特性をシフトすることで、フィードバック目標値である比I
m2/I
m1はそのままで、要求波長を実現することができる。すなわち、要求波長と基本波長との波長差分ΔFに基づき、エタロン温度を変更するための演算をし、これをエタロン温度として適用することで、要求波長を実現することができる。
【0040】
上記したように、エタロン52の波長特性は、その温度にしたがってシフトする。エタロン52における周波数変動量/温度変化量[GHz/℃]を、エタロン52の温度補正係数C1と称する。なお、ここでは波長を周波数で表現している。温度補正係数C1は、波長可変レーザの駆動条件の波長変化に対する変化率に相当する。温度補正係数C1は、メモリ60に格納されている。
図6は、メモリ60に格納されている温度補正係数C1の例である。本実施例においては、温度補正係数C1は、
図3の各チャネルに共通の値である。
【0041】
グリッドレス制御の要求波長を実現するためのエタロン52の設定温度をTetln_A[℃]とする。またエタロン52の初期温度、すなわち選択された基本波長に対応したエタロン52の温度をTetln_B[℃]とする。Tetln_BはT
Etalonに相当し、メモリ60から取得される。さらに、基本波長とグリッドレス制御の要求波長との波長差分(絶対値)をΔF1[GHz]とする。この場合、各パラメータの関係は、下記式(1)のように表すことができる。式(1)に基づいてグリッドレス制御の要求波長を得るために必要な設定温度Tetln_Aを求めることができる。
Tetln_A=Tetln_B+ΔF1/C1 (1)
第2温度制御装置53の温度を設定温度Tetln_Aに制御することによって、比I
m2/I
m1をそのまま利用して、グリッドレス制御の要求波長を得ることが可能となる。
【0042】
以上の動作を実行することにより、
図5に示すように、エタロン52の特性がシフトした分だけ、基本波長からシフトした波長(要求波長)によって半導体レーザ30をレーザ発振させることができる。前述したグリッドレス制御の要求波長は、メモリ60に記録された条件での発振によって得られる波長(基本波長)以外の波長である。しかしながら、グリッドレス制御の要求波長での発振を得るためには、基本波長を出力する場合と同様、レーザ発振を停止させた状態から実行する必要がある。
【0043】
一方、波長可変レーザの性能として、基本波長あるいは要求波長を問わず、一旦発振した出力波長を微調整(ファインチューニング)する機能を搭要した。たとえば、このファインチューニングを採用すれば、ユーザがそれぞれの通信回線で波長を最適化することができる。したがって、このファインチューニングには、波長可変レーザ100が発振状態を維持したままで、その発振波長を変更する動作が必要となる。
【0044】
ここで、ファインチューン範囲について整理する。
図7は、ファインチューン範囲を表す図である。
図7に示すように、例えば基本波長Ch1におけるグリッドレス範囲をCh1グリッドレス範囲とし、Ch2におけるグリッドレス範囲をCh2グリッドレス範囲とする。Ch1グリッドレス範囲とCh2グリッドレス範囲との境界は、基本波長Ch1と基本波長Ch2との中間の波長である。要求波長を実現するためのファインチューニングを行う際には、Ch1グリッドレス範囲ではCh1の近似式を用い、Ch2グリッドレス範囲ではCh2の近似式を用いる。
【0045】
ファインチューニングを実現するためには、発振波長を示すパラメータの他に、ファインチューニングのためのパラメータが波長可変レーザに入力される必要がある。典型的な波長可変レーザの入力パラメータは、例えば、表1のように、指定された発振波長(基本波長あるいは要求波長)と、ファインチューニング値によって示される。ファインチューニング値は、指定された発振波長からの差分波長(ΔF2[GHz])によって示される。
【表1】
そして、このファインチューニング値は、波長可変レーザ100が発振している間も変更可能であり、それに応じて、波長可変レーザ100はその発振波長を変更できる必要がある。
【0046】
ファインチューニングで波長を微調整する場合においても、エタロン52の温度を変化させることによって波長を変更することが考えられる。
図8(a)は、この場合のファインチューニングを表す図である。ファインチューニングの要求波長を実現するためのエタロン52の設定温度をTetln_C[℃]とする。また、グリッドレス制御の要求波長を実現するためのエタロン52の設定温度は、上述したように、Tetln_A[℃]である。グリッドレス制御の要求波長とファインチューニングの要求波長との波長差分(絶対値)をΔF2[GHz]とする。この場合、各パラメータの関係は、下記式(2)のように表すことができる。式(2)に基づいてファインチューニングの要求波長を得るために必要な設定温度Tetln_Cを求めることができる。
Tetln_C=Tetln_A+ΔF2/C2 (2)
第2温度制御装置53の温度を設定温度Tetln_Cに制御することによって、比I
m2/I
m1をそのまま利用して、要求波長を得ることが可能となる。なお、温度補正係数C2は、
図6に示すように、メモリ60に格納されている。温度補正係数C2は、温度補正係数C1と同じ値であってもよいが、ファインチューニング用に温度補正係数C1と異なる値に設定されていてもよい。
【0047】
あるいは、ファインチューニングの際にエタロン52の温度を変化させず(一定値に保持し)、AFC制御の光透過率ターゲットを変化させることが考えられる。すなわち、フィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1を変化させる。
図8(b)は、フィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1の変化を表す図である。
【0048】
エタロン52の波長と透過率との関係を取得することによって、ファインチューニングにおける波長変化量に対する比I
m2/I
m1の変化量を求めることができる。例えば、エタロン52の波長と透過率との関係を下記式(3)で近似することができる。下記式(3)において、Target_A[A.U.]は、ファインチューニングの要求波長における比I
m2/I
m1であり、Target_B[A.U.]は、グリッドレス制御の要求波長における比I
m2/I
m1である。なお、ターゲット補正係数B1は、
図6に示すように、メモリ60に格納されている。下記式(3)は1次式で近似されているが、高次式で近似してもよい。
Target_A=Target_B+ΔF2/B1 (3)
【0049】
このように、ファインチューニングを行う場合、エタロン52の温度を変更する方式と、フィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1を変化させる方式とがある。本実施例においては、コントローラ70は、ファインチューニングを行う場合に、これらの方式のいずれかを選択して実行する。それにより、自由度の高いファインチューニングを実現することができる。
【0050】
続いて、ファインチューニングの実現方式の選択における判定基準の例について説明する。1例として、ファインチューニングにおける周波数変化の符号に応じて、ファインチューニングの方式を選択してもよい。本実施例においては、フィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1を一定に維持した状態でエタロン52の温度を下げると、AFC制御において半導体レーザ30の発振周波数は大きくなる。例えば、半導体レーザ30が高温(例えば80℃)で動作しており、その高温の影響を回避するためにエタロン52の温度を第2温度制御装置53により冷却している場合、半導体レーザ30の発振周波数を大きくするためにエタロン52の温度を下げようとすると(例えば40℃→30℃)、第2温度制御装置53の消費電力が増加することになる。そこで、ファインチューニングの際に発振周波数を増加させる場合には、フィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1を変化させる方式を採用する。この場合、第2温度制御装置53の消費電力の増加を回避することができる。一方、ファインチューニングの際に発振周波数を低下させる場合には、エタロン52の温度を変更する方式を採用する。この場合、発振周波数を小さくするためにエタロン52の温度を上げようとすると、第2温度制御装置53の消費電力が低下する。このような判断基準を採用することにより、消費電力を抑制することができる。
【0051】
次に、温度検知部81の検出温度とエタロン52の温度との関係に応じて、ファインチューニングの方式を選択してもよい。すなわち、エタロン52の温度とエタロン52の周囲温度との関係に応じて、ファインチューニングの方式を選択してもよい。例えば、ファインチューニングにおける周波数変化の符号と同じ符号でファインチューン範囲の最大値までチューニングした場合のエタロン52の温度(FTF温度)を見積もる。この場合において、FTF温度までエタロン52の温度を変更した場合にエタロン52の温度が温度検知部81の検出温度に近づく場合、エタロン52の温度を変更する方式を採用する。この場合、第2温度制御装置53の消費電力を低下させることができる。一方、FTF温度までエタロン52の温度を変更した場合にエタロン52の温度が温度検知部81の検出温度から離れる場合、フィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1を変化させる方式を採用する。この場合、第2温度制御装置53の消費電力の増加を回避することができる。
【0052】
なお、ファインチューニングの実現方式の選択における判定基準の例は、上記に限られない。
【0053】
図9は、ファインチューニングを行う際のフローチャートの一例である。
図9に示すように、コントローラ70は、波長要求を受ける(ステップS1)。この要求波長は、グリッドレス制御の要求波長であり、図示しない外部入出力装置からの入力によるものである。一例として、196.1070[THz]が要求波長として指示されたとする。典型的にはRS232C規格に対応した入出力装置が採用される。また、外部入出力装置からの入力情報にファインチューニングの要求波長情報があってもよい。
【0054】
グリッドレス制御の要求波長は、メモリ60に格納されている基本波長同士の間の波長帯域の全域にわたって受容される。つまり、入力された要求波長が基本波長に該当しなくても、その入力は拒否されない。また、波長可変レーザ100は、入力された要求波長が基本波長から最大で隣接する基本波長に一致するための間の波長全域にわたって、波長制御可能に構成される。このためには、エタロン52の波長特性のシフト幅が、隣接する基本波長の差の範囲にわたって可変であればよい。また、メモリ60には、
図3の基本波長のうち、最大値または最小値となる波長(スタートグリッド)および基本波長間の波長差(グリッド波長間隔)が記録されている。
【0055】
次に、コントローラ70は、要求波長に応じて、基本波長を選択する(ステップS2)。例えば、コントローラ70は、要求波長とスタートグリッド波長との差を求め、これをグリッド波長間隔で除した整数部を、チャネル番号Chとして採用する。コントローラ70は、得られたチャネル番号Chに対応する基本波長を選択する。例えば、チャネル番号Chとして得られた値にグリッド波長間隔を乗じた値をスタートグリッド波長に加算することによって得られる。一例として、選択された基本波長が196.1000[Thz]であったとする。
【0056】
次に、コントローラ70は、基本波長とグリッドレス制御の要求波長との波長差分ΔF1を算出する(ステップS3)。上記例では、ΔF1=+7.0[GHz]である。次に、コントローラ70は、波長差分ΔF1に基づいて、更新設定値を算出する(ステップS4)。初期設定値として格納されているエタロン温度Tetln_Bが36.000[℃]であり、温度補正係数C1が−1.800[GHz/℃]だとすると、Tetln_Aは32.111[℃]となる。また、コントローラ70は、グリッドレス制御の要求波長での半導体レーザ30の駆動条件を演算する。例えば、コントローラ70は、メモリ60から図示しない補正係数を参照し、初期電流値I
LD、初期温度値T
LD、および初期電力値P
Heater1〜P
Heater3と、波長差分ΔF1とから更新設定値を演算する。
【0057】
次に、コントローラ70は、更新設定値を自身のRAMに書き込む(ステップS5)。次に、コントローラ70は、RAMに書き込まれた更新設定値を用いて半導体レーザ30を駆動させる(ステップS6)。なお、SOA領域Cについては、この時点では半導体レーザ30から光が出力されないように制御する。次に、コントローラ70は、第1サーミスタ32の検出温度TH1がT
LDの範囲内にあるか否かを判定する(ステップS7)。ここでT
LDの範囲とは、更新設定値の温度値T
LDを中心とする所定範囲である。ステップS7において「No」と判定された場合、コントローラ70は、第1サーミスタ32の検出温度TH1が温度値T
LD近づくように第1温度制御装置31に供給される電流値を変更する。
【0058】
コントローラ70は、ステップS7と並行して、第2サーミスタ55の検出温度TH2が設定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS8)。この場合の設定範囲は、更新設定値に含まれる設定温度Tetln_Aに基づいて決定される。例えば、上記設定範囲は、設定温度Tetln_Aを中心とする所定範囲とすることができる。ステップS8において「No」と判定された場合、コントローラ70は、第2サーミスタ55の検出温度TH2が設定温度Tetln_Aに近づくように第2温度制御装置53に供給される電流値を変更する。
【0059】
コントローラ70は、ステップS7およびステップS8の両方で「Yes」と判定されるまで待機する。ステップS7およびステップS8の両方で「Yes」と判定された場合、コントローラ70は、シャッタオープンの動作を行う(ステップS9)。具体的には、SOA領域Cの電極21に供給される電流を初期電流値I
SOAに制御する。それにより、半導体レーザ30から更新設定値に基づく更新波長のレーザ光が出力される。
【0060】
次に、コントローラ70は、第1温度制御装置31による温度値T
LDを制御目標とした温度制御を終了する(ステップS10)。次に、コントローラ70は、第1温度制御装置31によるAFC制御を開始する(ステップS11)。つまり、第1温度制御装置31の温度が、フィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1を満たすようにフィードバック制御される。エタロン52の入力光と出力光の比(前後比)は、半導体レーザ30の発振波長を示している。また、第1温度制御装置31は半導体レーザ30の波長を制御するパラメータである。すなわちステップS11では、前後比がI
m2/I
m1になるように第1温度制御装置31の温度をフィードバック制御することで、半導体レーザ30の波長を制御する。それにより、要求波長が実現される。
【0061】
コントローラ70は、比I
m2/I
m1がステップS2で選択された基本波長における目標値I
m2/I
m1を中心とする所定範囲内にあることを確認すると、AFCロックフラグを出力する(ステップS12)。その後、ファインチューニングの要求波長を受けた場合、コントローラ70は、ファインチューニングの要求波長に応じてファインチューニングの方式を選択する(ステップS13)。ステップS13においては、上述した判定基準に従ってファインチューニングの方式を選択する。
【0062】
ステップS13において、エタロン52の温度を変更する方式が選択された場合、コントローラ70は、ファインチューニングの要求波長が実現されるように、上記式(2)に従ってエタロン52の温度を変更する(ステップS14)。例えば、ΔF2=+10GHzであり、温度補正係数C2が−1.800[GHz/℃]であり、設定温度Tetln_Aが32.111[℃]であったとすると、設定温度Tetln_Cは、31.555[℃]となる。
【0063】
ステップS13において、フィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1を変化させる方式が選択された場合、コントローラ70は、ファインチューニングの要求波長が実現されるように、上記式(3)に従ってフィードバック制御目標値を変更する(ステップS15)。例えば、ΔF2=+1GHzであり、補正係数B1=−32[GHz]であり、Target_B=0.55であるとすると、Target_Aは、0.52となる。
【0064】
ステップS14またはステップS15の実行により半導体レーザ30の発振波長が変化し、これがファインチューニングの要求波長あるいはその値に対する所定の幅を持った範囲に入ることが確認されれば、コントローラ70は、AFCロックフラグを再度出力する(ステップS16)。その後、フローチャートの実行が終了する。
【0065】
本実施例においては、ファインチューニングを行う場合に、エタロン52の温度を変更する方式およびフィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1を変化させる方式のいずれかを選択して実行することができる。それにより、自由度の高いファインチューニングを実現することができる。また、波長差分ΔF2の符号に応じて方式を選択することに決めておくことによって、判定基準が簡略化される。
【0066】
また、ファインチューニングにおいて、半導体レーザ30の発振周波数を増加させる場合にフィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1を変化させる方式を採用することによって、第2温度制御装置53の消費電力の増加を回避することができる。一方、発振周波数を低下させる場合にエタロン52の温度を変更する方式を採用することによって、第2温度制御装置53の消費電力を低下させることができる。
【0067】
また、ファインチューニングにおいて、エタロン52の温度を周囲温度に近づける場合にエタロン52の温度を変更する方式を採用することによって、第2温度制御装置53の消費電力を低下させることができる。エタロン52の温度を周囲温度から離す必要がある場合にフィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1を変化させる方式を採用することによって、第2温度制御装置53の消費電力の増加を回避することができる。
【0068】
(他の例)
フィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1は、第1受光素子42が受光する光強度をP1とし、第2受光素子54が受光する光強度をP2とすると、P2/P1と表すことができる。典型的には、これら光強度を第1受光素子42および第2受光素子54において電流に変換して検出用の抵抗に流し、発生する電圧として光強度を検出している。第1受光素子42の出力電流に対する検出抵抗をR1とし、第2受光素子54の出力電流に対する検出抵抗をR2とすると、下記式(4)の関係が得られる。なお、I
m2×R2はV2、I
m1×R1はV1と表すこともできる。
P2/P1=(I
m2×R2)/(I
m1×R1) (4)
【0069】
エタロン52を用いたAFC制御では、周波数変化を、エタロン52の透過後の光強度P2の変化に変換して制御に用いている。しかしながら、制御回路にて実際に使用するのは、電流I
m2を抵抗で電圧に変換したV2であることが多い。通常、抵抗R2は固定値であるが、電流I
m2の変化を打ち消して電圧V2を一定に保つように抵抗R2を変化させることにより、ターゲット値P2/P1(=V2/V1)を一定にしたまま所望の周波数を実現することも可能である。フィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1を変化させる方式では、エタロン52の透過率曲線に沿って目標値を変化させることになるが、抵抗値を変化させる場合には、前記透過率曲線の逆数にあたる抵抗値変化が必要となる。抵抗変化に必要な式が透過率曲線より簡便であり、必要な精度で変化可能な可変抵抗を用いれば、抵抗値変化の方式は有用な方式である。
【0070】
上記例では、エタロン52の周囲温度として、温度検知部81の検出結果を用いたが、それに限られない。例えば、第1サーミスタ32の検出結果をエタロン52の周囲温度として代用してもよい。
【0071】
上記例では、エタロン52としてソリッドエタロンを採用したが、それ以外のエタロンを用いることもできる。例えば、ミラー間に液晶層が介在する液晶エタロンをエタロン52として用いてもよい。この場合、液晶に印加される電圧を制御することによって、液晶エタロンの波長特性をシフトさせることができる。また、印加電圧に応じてミラー間のギャップ長を変更可能なエアギャップエタロンをエタロン52として用いてもよい。この場合、印加電圧を制御することによって、エアギャップエタロンの波長特性をシフトさせることができる。これら液晶エタロンあるいはエアギャップエタロンのいずれの場合であっても、第2温度制御装置53によって温度制御がなされる。ただし、この場合の温度制御は波長特性のシフトのためではなく、温度要因による波長特性の変動を防止するためである。このため温度は一定に制御される。
【0072】
なお、上記例において、基本波長を第1波長と称することができ、グリッドレス制御の要求波長を第2波長と称することができ、Target_Bを第1目標値と称することができ、Target_Aを第2目標値と称することができ、Tetln_Bをエタロン52の第1制御値と称することができ、Tetln_Aをエタロン52の第2制御値と称することができ、Tetln_Cをエタロン52の第3制御値と称することができる。
【0073】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。