(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-10689(P2015-10689A)
(43)【公開日】2015年1月19日
(54)【発明の名称】密封摺動部材
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20141216BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20141216BHJP
【FI】
F16J15/34 F
F16J15/34 E
C09K3/10 N
C09K3/10 M
C09K3/10 Z
C09K3/10 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-138219(P2013-138219)
(22)【出願日】2013年7月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503227553
【氏名又は名称】イーグルブルグマンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀和
【テーマコード(参考)】
3J041
4H017
【Fターム(参考)】
3J041BC01
3J041BC02
3J041DA14
4H017AA04
4H017AA14
4H017AA17
4H017AA24
4H017AA29
4H017AB08
4H017AB12
4H017AB17
4H017AC03
4H017AC15
4H017AC16
4H017AD01
4H017AD06
4H017AE05
(57)【要約】
【課題】 低摩耗及び低摩擦な密封摺動部材を提供する。
【解決手段】
他の部材に対して摺動する摺動面(10A)を有し、当該摺動面を介して流体を密封する密封摺動部材であって、有機繊維から成る繊維状構造体(32)と、前記有機繊維の隙間に分散された固体潤滑剤及び熱硬化性樹脂と、を有する繊維質摺動材(30)を、前記摺動面に備えることを特徴とする密封摺動部材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の部材に対して摺動する摺動面を有し、当該摺動面を介して流体を密封する密封摺動部材であって、
有機繊維から成る繊維状構造体と、前記有機繊維の隙間に分散された固体潤滑剤及び熱硬化性樹脂と、を有する繊維質摺動材を、前記摺動面に備えることを特徴とする密封摺動部材。
【請求項2】
前記繊維質摺動材は、前記固体潤滑剤を含浸させた前記繊維状構造体が前記熱硬化性樹脂によって封孔処理されたものであることを特徴とする請求項1に記載の密封摺動部材。
【請求項3】
前記有機繊維はアラミド繊維から成ることを特徴とした請求項1又は請求項2に記載の密封摺動部材。
【請求項4】
前記固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレン、炭素及び二硫化モリブデンのいずれかを含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の密封摺動部材。
【請求項5】
前記繊維質摺動材の気孔率は、5%以下であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の密封摺動部材。
【請求項6】
互いに分離可能な複数の分割部を有する基材部を有し、
前記繊維質摺動材は、前記基材部に固定されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の密封摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシール等に用いられる密封摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシール等に用いられる密封摺動部材としては、摺動時の摩擦が少なく、また摺動による摩耗も少ない低摩耗で低摩擦な材料が好ましいが、これと同時に、メカニカルシール等が好適にシールとして機能するために、シール面からの漏洩を防止することも必要である。例えば、密封環におけるシール面からの漏洩を防止するために、メカニカルシールの摺動面に樹脂またはゴムのシール層を設ける技術が提案されている(特許文献1等参照)。
【0003】
一方、自動車のクラッチ等に用いる摩擦材料やシーリング材として、有機繊維を含む繊維補強材が提案されている(特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2007/058306
【特許文献2】特表2008−503661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の樹脂またはゴム等を用いた摺動部材では、摺動による摩耗が大きいという問題点を有している。また、従来の繊維補強材では、密封摺動部材として用いた場合に摩擦が大きすぎるという問題と、十分なシール性能を確保することが難しいという問題を有している。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされ、低摩耗で低摩擦な密封摺動部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明に係る密封摺動部材は、
他の部材に対して摺動する摺動面を有し、当該摺動面を介して流体を密封する密封摺動部材であって、
有機繊維から成る繊維状構造体と、前記有機繊維の隙間に分散された固体潤滑剤及び熱硬化性樹脂と、を有する繊維質摺動材を、前記摺動面に備えることを特徴とする密封摺動部材。
【0008】
本発明に係る密封摺動部材は、有機繊維から成る繊維状構造体を有する繊維質摺動材を摺動面に備えるため、摺動による摩耗を抑制することができ、また、有機繊維の隙間に分散された固体潤滑剤及び熱硬化性樹脂により、摺動面に潤滑性を与えると伴に好適なシール性能を奏する。すなわち、密封摺動部材は、繊維状構造体及びその隙間に分散された固体潤滑剤及び熱硬化性樹脂を有する繊維質摺動材が摺動面に備えられることにより、低摩耗で低摩擦な密封摺動部材を実現することができる。
【0009】
また、例えば、前記繊維質摺動材は、前記固体潤滑剤を含浸させた前記繊維状構造体が前記熱硬化性樹脂によって封孔処理されたものであることを特徴とする。
【0010】
固体潤滑剤を繊維状構造体に含浸させたのち熱硬化性樹脂によって封孔処理を行うことにより、繊維質摺動材の気孔率を低い値に抑え、摺動面からの密封流体の漏洩を防止すると伴に、他の材料との結合力が弱い固体潤滑剤を用いる場合であっても固体潤滑剤を繊維質摺動材に確実に固定し、固体潤滑剤が繊維質摺動材から脱落することを防止できる。
【0011】
また、例えば、前記有機繊維はアラミド繊維であっても良い。
【0012】
繊維状構造体を構成する有機繊維としては、有機化合物を主成分とする繊維であれば特に限定されないが、アラミド繊維を用いることにより、繊維質摺動材の強度及び耐摩耗性を効果的に高めることができる。なお、有機繊維は、加熱処理等によって部分的に無機化合物が組み込まれたものであっても良い。
【0013】
また、例えば、前記固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレン、炭素及び二硫化モリブデンのいずれかを含んでも良い。
【0014】
繊維質摺動材に含まれる固体潤滑剤としては特に限定されないが、固体潤滑剤がポリテトラフルオロエチレン、炭素及び二硫化モリブデンのいずれかを含むことにより、摺動面に対して効果的に潤滑性を付与し、摺動面での摩擦を低減することができる。
【0015】
また、例えば、前記繊維質摺動材の気孔率は、5%以下であっても良い。
【0016】
繊維質摺動材の気孔率を5%以下とすることにより、摺動面からの密封流体の漏洩を好適に防止することができる。
【0017】
また、例えば、本発明に係る密封摺動部材は、互いに分離可能な複数の分割部を有する基材部を有しても良く、前記繊維質摺動材は、前記基材部に固定されていても良い。
【0018】
複数の分割部を有する分割型の密封摺動部材では、基材部に組み付けのずれが生じたり、連結に伴うひずみが生じる恐れがあるが、摺動面に備えられた繊維質摺動材は、基材部のずれや変形を吸収し、摺動面の密封性能が不安定になることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(A)は、本発明の一実施形態に係る密封摺動部材の平面図、
図1(B)は
図1(A)の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す密封摺動部材の製造方法を表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1(A)は、本発明の一実施形態に係る密封摺動部材10を、摺動面10A側から観察した平面図であり、
図1(B)は密封摺動部材10の断面図である。密封摺動部材10は、例えばメカニカルシール装置の内部において、回転軸と伴に回転する回転部材と、回転しない静止部材との境界部に配置される。密封摺動部材10は、典型的には、回転部材側に固定されるものと、静止部材側に固定されるものが対になって使用される。密封摺動部材10は、対になって使用される他の摺動部材に対して摺動する摺動面10Aを有しており、摺動する摺動面10Aを介して流体を密封する。
図1に示す密封摺動部材10は、中央に貫通孔を有するリング状の形状を有しており、貫通方向に直交する面の一方が、摺動面10Aとなっているが、摺動部材の形状は特に限定されない。
【0021】
密封摺動部材10は、基材部20と繊維質摺動材30とを有している。基材部20は、分割線22を境に互いに分離可能な複数(実施形態では2つ)の分割部20A,20Bを有している。メカニカルシール装置の内部に組み込まれた状態では、分割部20A,20Bは、不図示のクランピングリング等を用いて、互いに離間しないように拘束される。基材部20の材質は特に限定されないが、例えば炭化珪素、炭素、金属若しくはこれらの複合材料を用いて作製される。
【0022】
繊維質摺動材30は、密封摺動部材10の摺動面10Aに備えられる。繊維質摺動材30は、基材部20に対して接着剤等により固定されている。密封摺動部材10は、製造方法において詳述するように、有機繊維から成る繊維状構造体と、繊維状構造体の隙間に分散された固体潤滑剤及び熱硬化性樹脂と、を有する。繊維状構造体は、有機繊維で繊維束(糸)を形成して織られた布であっても良く、有機繊維が織られることなく集合された不織布であっても良い。繊維状構造体を構成する有機繊維は特に限定されず、アラミド繊維、セルロース繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維等が挙げられるが、アラミド繊維から成る有機繊維を用いることが、摺動時の摩耗を抑制する観点から好ましい。繊維状構造体には、有機繊維を加熱等することによって無機化合物が組み込まれていても良く、また、繊維同士を結合し、若しくは繊維同士の結合を補強する樹脂等が含まれていても良い。繊維質摺動材30に含まれる有機繊維のサイズは特に限定されないが、例えば太さ10μm〜15μm、長さ1mm〜30mm程度とすることができる。
【0023】
繊維質摺動材30における繊維状構造体の隙間には、固体潤滑剤と熱硬化性樹脂が分散されている。繊維質摺動材30に含まれる固体潤滑剤としては、固体潤滑性を有する材料であれば特に限定されないが、例えばポリテトラフリオロエチレン(PTFE)や、炭素及び二硫化モリブデン等が挙げられる。固体潤滑剤の分散状態も特に限定されず、固体潤滑剤は、粒子の状態で分散していても良く、粒子が集合した塊を形成しつつ分散していても良く、また、網目状組織を形成していても良い。また、繊維質摺動材30に含まれる固体潤滑剤は、密封摺動部材10の用途等によって選定することができ、例えば食品用機械のシールとして密封摺動部材10が用いられる場合は、固体潤滑剤としてPTFEを用いることが好ましい。
【0024】
繊維質摺動材30に含まれる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられるが、特に限定されない。また、熱硬化性樹脂の分散状態についても特に限定されないが、例えば、繊維質摺動材30に分散された熱硬化性樹脂は、繊維状構造体の隙間を埋める3次元的な網目状組織を形成している。
【0025】
繊維質摺動材30は、繊維状構造体に固体潤滑剤を含浸させた繊維状構造体が熱硬化性樹脂によって封孔処理されたものであっても良い。また、繊維質摺動材30の気孔率は、摺動面からの密封流体の漏洩を好適に防止する観点から、5%以下であることが好ましく、2%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
以下に、密封摺動部材10の製造方法について
図2を用いて説明するが、密封摺動部材10の製造方法は、以下に述べる製造方法に限定されるものではない。
【0027】
図2は、
図1に示す密封摺動部材の製造方法を表す概念図である。製造方法における第1の工程では、
図2(A)に示すように、繊維質摺動材30(
図1参照)の一部となる繊維状構造体32を準備する。繊維状構造体32が不織布である場合、繊維状構造体32は、例えば有機繊維の短繊維から繊維集積層を形成した後、形成した繊維集積層に高圧水流を適用して短繊維を結合させることにより(水流絡合法)製造することができるが、繊維状構造体32の製造方法は特に限定されない。
図2に示す例では、繊維状構造体32の外形状は、繊維質摺動材30の外形状と略同一であり、リング状の形状を有しているが、回転軸に対して外径方向から取り付けることができるように、1カ所以上で切断されていても良い。
【0028】
製造方法における第2の工程では、
図2(A)に示すように、基材部20に対して繊維状構造体32を固定する。
図2に示す例では、基材部20を構成する分割部20A及び分割部20Bは、第2の工程の前にクランピングリング等を用いて回転軸等に固定されている。繊維状構造体32は、例えばフェノール樹脂系接着剤のような熱硬化性接着剤を用いて、基材に貼り付けることにより固定することができるが、繊維状構造体32を基材部20に固定する方法及び固定に用いる接着剤等は、特に限定されない。
【0029】
製造方法における第3の工程では、
図2(B)に示すように、固体潤滑剤を繊維状構造体32に含浸させ、固体潤滑剤が分散された繊維状構造体34を形成する。例えば固体潤滑剤としてPTFEを用いる場合は、PTFEのディスパージョンを基材部20に固定された繊維状構造体32に染み込ませることにより、PTFEを含浸させる。
【0030】
製造方法における第4の工程では、固体潤滑剤が分散された繊維状構造体34に対して、さらにエポキシ樹脂を含浸させて封孔処理を行ったのち、必要に応じて表面(摺動面10A)をラップすることにより、所定の気孔率を有する繊維質摺動材30を形成する。このようにして、
図1に示す密封摺動部材10を製造することができる。なお、上述の説明では、繊維状構造体32を基材部20に固定した後(第2の工程の後)、固体潤滑剤の含浸(第3の工程)を実施することにより、他の部材と接着し難い固体潤滑剤による接着力の低下を防止し、繊維状構造体32と基材部20との接着強度を好適に確保し、製造後における繊維質摺動材30と基材部20との固定強度を向上させている。ただし、繊維質摺動材30の基材部20に対する固定方法はこれに限定されず、固体潤滑剤が分散された繊維状構造体34を形成した後、又は固体潤滑剤が分散された繊維状構造体34に対してエポキシ樹脂を含浸させて繊維質摺動材30を形成した後に、基材部20に対する固定を行っても良い。
【0031】
本実施形態に係る密封摺動部材10は、有機繊維から成る繊維状構造体32を有する繊維質摺動材30を摺動面10Aに備えるため、摺動による摩耗を抑制することができる。また、有機繊維の隙間に分散された固体潤滑剤及び熱硬化性樹脂により、摺動面10Aに潤滑性を与えると伴に、好適なシール性能を奏する。
【0032】
また、製造方法で述べたように、固体潤滑剤を繊維状構造体32に含浸させたのち熱硬化性樹脂によって封孔処理を行うことにより、繊維質摺動材30の気孔率を抑制して摺動面からの密封流体の漏洩を防止すると伴に、PTFEのような他の材料との結合力が弱い固体潤滑剤を、繊維質摺動材30に確実に保持させることができる。
【0033】
繊維質摺動材30は、一体成形された基材に適用されても良く、
図1等に示すように、分割型の基材に適用されても良い。繊維質摺動材30を分割型の基材に用いることにより、基材部20に組み付けのずれが生じたり、連結に伴うひずみが生じた場合にも、摺動面10Aに備えられた繊維質摺動材30が基材部20のずれやひずみを吸収するように変形することができる。したがって、密封摺動部材10は、組み立て時のずれや締め付けによるひずみの影響が摺動面10Aに現れて密封性能が低下する分割型密封環の問題を、抑制することができる。
【符号の説明】
【0034】
10…密封摺動部材
10A…摺動面
20…基材部
20A,20B…分割部
30…繊維質摺動材
32…繊維状構造体