(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-107082(P2015-107082A)
(43)【公開日】2015年6月11日
(54)【発明の名称】緑化資材および同資材を用いた土壌改良構造
(51)【国際特許分類】
A01G 1/00 20060101AFI20150515BHJP
A01G 9/02 20060101ALI20150515BHJP
【FI】
A01G1/00 303E
A01G1/00ZBP
A01G1/00 301C
A01G9/02 101U
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-251574(P2013-251574)
(22)【出願日】2013年12月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 次夫
(72)【発明者】
【氏名】今村 高之
(72)【発明者】
【氏名】山田 太志
(72)【発明者】
【氏名】土居 幹治
(72)【発明者】
【氏名】松本 淳一
【テーマコード(参考)】
2B022
2B327
【Fターム(参考)】
2B022AA05
2B022AB02
2B022AB03
2B022BA11
2B022BA23
2B022BB02
2B022BB05
2B327NC02
2B327NC21
2B327NC24
2B327NC36
2B327NC39
2B327NC40
2B327NC43
2B327NC51
(57)【要約】
【課題】簡単な施工で植物に施すことができる新たな緑化資材を得る。
【解決手段】クラゲの身が粉粒状または小片状に加工されたチップ体2と、生分解性のシート1とを含有する。チップ体2がシート1によって保持されている。生分解性のシート1は、好ましくは、ポリ乳酸繊維にて構成された不織布によって構成される。チップ体2は、一対のシート1、1の間に挟み込まれることができ、シート1の内部に埋設されていることができ、あるいは、シート1にて形成された包装体の内部に配されていることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラゲの身が粉粒状または小片状に加工されたチップ体と、生分解性のシートとを含有し、チップ体が前記シートによって保持されていることを特徴とする緑化資材。
【請求項2】
生分解性のシートが生分解性脂肪族ポリエステル製の繊維にて形成されていることを特徴とする請求項1記載の緑化資材。
【請求項3】
生分解性脂肪族ポリエステルが植物原料から得られたものであることを特徴とする請求項2記載の緑化資材。
【請求項4】
生分解性脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする請求項2または3記載の緑化資材。
【請求項5】
シートが布帛であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の緑化資材。
【請求項6】
布帛が不織布であることを特徴とする請求項5記載の緑化資材。
【請求項7】
一対のシートの間にチップ体が挟み込まれていることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載の緑化資材。
【請求項8】
シートの内部にチップ体が埋設されていることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載の緑化資材。
【請求項9】
シートにて形成された包装体の内部にチップ体が配されていることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載の緑化資材。
【請求項10】
育苗ポットの形態であることを特徴とする請求項1から8までのいずれか1項記載の緑化資材。
【請求項11】
請求項1から9までのいずれか1項記載の緑化資材が植物の近傍の土中に埋設されていることを特徴とする土壌改良構造。
【請求項12】
塩分が滲出可能な土壌における植物の根よりも下方に生分解性の繊維シートが埋設されていることを特徴とする請求項11記載の土壌改造構造。
【請求項13】
請求項9記載の緑化資材が、法面における植物の近傍の土中に埋設されていることを特徴とする土壌改造構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緑化資材および同資材を用いた土壌改良構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エチゼンクラゲなどの非食用のクラゲの利用方法として、このクラゲの身を乾燥させたうえで破砕または粉砕することで粉粒状または小片状のチップ体とし、このチップ体を土中に埋設することでその土壌を植物の生育に適するように改質すること、すなわちこのチップ体を緑化資材として利用することが知られている(特許文献1)。チップ体は、土壌と混ぜ合わされたうえで、植物に施される。このようなクラゲの身を乾燥させたチップ体は、保水性を有するとともに、最終的に微生物により分解されて遅効性の肥料として機能することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−74886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような従来の緑化資材を改良して、簡単な施工で植物に施すことができる新たな緑化資材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するため本発明の緑化資材は、クラゲの身が粉粒状または小片状に加工されたチップ体と、生分解性のシートとを含有し、チップ体が前記シートによって保持されていることを特徴とする。
【0006】
このような構成であると、チップ体はシートによって保持されているため土中に散逸することがなく、土壌を開削して緑化資材を敷設するだけでこの緑化資材を植物に施すことができ、従来のようにチップ体を土壌と混ぜ合わせたうえで施すものよりも簡便に作業することができる。シートは生分解性を有するため、クラゲの身と同様にやがては生分解され、このためシートが土壌中に残存して環境に悪影響を及ぼすことが無いという利点がある。
【0007】
本発明によれば、生分解性のシートが、生分解性脂肪族ポリエステル製の繊維にて形成されていることが好適である。このような構成であると、シートが保水性を有するため、クラゲの身を用いたチップ体の保水効果とシートによる保水効果との両方を期待することができる。この目的のためには、シートが布帛であることが好ましく、布帛が不織布であることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来のようにチップ体を土壌と混ぜ合わせたうえで植物に施すものと比べて、チップ体はシートによって保持されているため土中に散逸することがなく、土壌を開削して緑化資材を敷設するだけでこの緑化資材を植物に施すことができるため簡便に作業でき、しかもシートは生分解性を有するため、クラゲの身と同様にやがては生分解され、このためシートが土壌中に残存して環境に悪影響を及ぼすことが無いという利点がある。
【0009】
また本発明によれば、生分解性のシートが生分解性脂肪族ポリエステル製の繊維にて形成されていることで、クラゲの身を用いたチップ体の保水効果とシートによる保水効果との両方を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態の緑化資材の断面構造を示す図である。
【
図3】本発明の他の実施の形態の緑化資材の断面構造を示す拡大図である。
【
図4】
図1〜3に示す緑化資材の製造工程を示す図である。
【
図5】本発明のさらに他の実施の形態の緑化資材の断面構造を示す拡大図である。
【
図6】本発明の緑化資材を用いた土壌改良構造の一例を示す図である。
【
図7】本発明の土壌改良構造の他の例を示す図である。
【
図8】本発明の土壌改良構造のさらに他の例を示す図である。
【
図9】本発明の土壌改良構造のさらに他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示される緑化資材において1、1は一対のシートであり、生分解性を有する材料にて形成されている。シート1は、フィルムの形態とすることも可能であるが、生分解性の樹脂を用いた繊維構造体にて構成されていることが好ましく、それによって保水性を備えることができる。良好な保水性を備えるためには、繊維構造体は布帛であることが好ましく、布帛としては、織布、編地、不織布などを挙げることができる。なかでも不織布が、生産性などの観点から有利である。
【0012】
シートを構成する生分解性の樹脂としては、生分解性ポリエステルやその他の一般に知られている樹脂を挙げることができる。なかでもポリ乳酸が、とうもろこしなどの植物原料を用いて得ることができるので好適である。植物原料を用いた他の樹脂なども、もちろん用いることができる。
【0013】
図1および
図2に示すように、たとえば不織布にて構成された一対のシート1、1同士の間には、多数のチップ体2が挟み込まれている。このチップ体2は、クラゲの身を乾燥させたうえで破砕または粉砕することで、粉粒状または小片状としたものである。このようなチップ体2は、たとえば上述の特許文献1(特開2008−74886号公報)に記載されたものを好適に用いることができる。このチップ体2は、そのサイズを数ミリメートル程度としたものが、生産性、取り扱い性の点で好ましい。しかし、他のサイズのものでも差し支えない。チップ体2は、詳細には、特許文献1や、特開平5−185065号公報などに記載された方法で製造することができる。
図2において、4は不織布製のシート1を構成する繊維である。
【0014】
図1および
図2に示される緑化資材は、一対のシート1、1同士の間に多数のチップ体2を挟み込んだうえで、これらシート1、1同士を互いに一体化させることで、得ることができる。用いるチップ体2は、シート1、1の単位面積あたりの量が、植物の成育に適したものとなるようにする。
【0015】
たとえば、
図4に示すようにロール3aからシート1aを水平方向に繰り出し、その表面上に多数のチップ体2を散布し、その上に、ロール3bから繰り出したシート1bを重ねる。その後にシート1aとシート1bとを一体化させれば、
図1に示される緑化資材を得ることができる。
【0016】
不織布にて構成されたシート1a、1bを一体化するための手段の例としては、熱接着の手法を挙げることができる。すなわち、不織布を構成する繊維のうちに熱接着性を有する繊維を混在させておき、シート1a、1bに熱風などにより熱を付与することで熱接着性繊維による熱接着を行わせることができる。たとえば、不織布がポリ乳酸繊維にて構成されている場合には、不織布を構成する主たる繊維としてポリ乳酸100%にて構成された繊維を用い、熱接着性繊維としては、芯鞘構造の繊維であって、芯部をポリ乳酸にて構成するとともに、鞘部をそれよりも低融点の共重合ポリ乳酸にて構成した繊維を用い、それによって、この熱接着性繊維をバインダ繊維として利用することができる。この場合に、バインダ繊維は、不織布を構成する全繊維のうちの10〜60質量%程度を占めることが好適である。なお、不織布自体の製法は任意である。
【0017】
図3は、不織布にて構成された一対のシートを一体化するための他の手段を説明するものである。ここでは、ニードルパンチの手法により、一対のシートが一体化されている。すなわち、シートにニードルパンチが施されることによって、一方のシートを構成する繊維4と、他方のシートを構成する繊維4とが、互いに三次元的に交絡することで、両シートが一体化されている。これにより、チップ2は一体化されたシート1の内部に埋設された形となる。
【0018】
一対のシート同士を一体化するためには、このほかの手法を任意に利用することもできる。
シート1によってクラゲのチップ体2を保持させるための手法も、任意である。たとえば、
図4に示される手法のほかに、不織布を製造するための混綿段階や、カード工程後の段階などでチップ体2を混入させることもできる。
【0019】
以上のようにして得られたシート状の緑化資材は、これをロール状に巻き取った形のものとすることができる。あるいは、一定寸法ごとに裁断してパッド状とした構成を採用することもできる。
【0020】
図5は、本発明の他の実施の態様の緑化資材の例の断面構造を示す。ここでは、シート1によって包装体、すなわち図示の例では包装袋15が構成され、その内部に、チップ体2を含む土壌5が充填された構成となっている。
【0021】
図1〜
図3に示された緑化資材は、取扱い性などの観点から、シート1とチップ体2との合計の目付けが3000g/m
2以下であることが好ましく、500g/m
2以下であることがさらに好ましい。シート1とチップ体2との質量比は、(シート1)/(チップ体2)=90/10〜20/80とすることができる。好ましくは(シート1)/(チップ体2)=60/40〜40/60である。チップ体2の質量比をこの範囲とすることで、緑化資材がシート状体であることを維持しながら、チップ体2による所要の吸水性と肥料としての性能とをともに発揮させることができる。
【0022】
図6は、本発明の実施の形態の土壌改良構造を示す。ここで6は樹木などの植物であり、この植物6を地面7に植え付けるときに本発明の緑化資材8を土中に敷設する。図示のように、緑化資材8は連続したシートの形態でも良いし、分断されたパッドの形態でも良い。
【0023】
本発明の緑化資材8は、クラゲの身を用いたチップ体2が、保水性を有するとともに、可逆的に吸放水を行う機能を備える。このため、植物6の近傍の土中に埋設されたときには、植物6の近傍において所要の水分を保持することができ、しかも余剰の水分を放出することができるため、その植物6の近傍の水分の条件をその植物6に適したものとすることができる。またクラゲの身を用いたチップ体2は土中から水分をゆっくりと吸収し放出する性質を有しており、この性質は植物6の成育に適したものである。
【0024】
本発明の緑化資材は、チップ体2がシート1によって保持されているため、チップ体2が土中に散逸することがなく、土壌を開削して緑化資材を敷設するだけでこのチップ体2を植物の近傍の所定の場所に埋設することができる。また、従来のようにチップ体2を土壌と混ぜ合わせて植物に施す必要がないため、簡便に作業することができる。
【0025】
生分解性のシート1が、生分解性脂肪族ポリエステル製の繊維、特にポリ乳酸製の不織布にて形成されていることで、クラゲの身を用いたチップ体2の保水効果と不織布製のシート1による保水効果との両方を期待することができる。特に、不織布製のシート1は、降雨時の雨水を一時的に保水することができ、このためクラゲの身を用いたチップ体2が上述のように水分をゆっくりと吸収することを助ける働きをなすという利点がある。このように本発明の緑化資材は、十分な保水効果を有するため、人為的な散水が必要である場合には、次の散水までの期間を長くすることができる。
【0026】
クラゲの身を用いたチップ体2は、成分としてリンや窒素を含むため、土中に埋設した後1〜2年の間に、上述の保水機能を発揮しながら生分解して肥料となる。これに対しポリ乳酸不織布などを用いた生分解性のシート1は、土中において通常は3〜5年をかけて徐々に生分解していく。よって、シート1は、チップ体2が保水機能を発揮している間はこのチップ体2を確実に保持し、チップ体2が生分解したうえで肥料として機能している間は、その肥料を植物に確実に供給させ、シートとしての役割を終えた後は生分解により消滅するという、チップ体2の経時的な働きに合わせて機能しかつ消滅するという特長を有する。
【0027】
図7は、本発明の他の実施の形態の土壌改良構造を示す。たとえば砂漠などにおいては、土中から地表に塩分が上がってきて滲み出す現象が観察される。そのような場合には、図示のように、植物6の根9よりも下方に、たとえば不織布にて構成されたシート10を設置する。このようにすると、シート10が砂中における不均一層となることで、それ以上の塩分11の上昇を防止することができる。このシート10は、上述のシート1と同じものを用いることができる。場合によっては、シート10として、シート1とチップ体2とを含んだ緑化資材8を利用することもできる。その場合は、シート1が不均一層となることによる塩分の上昇防止効果に加えて、クラゲの身を用いたチップ体2が塩分を吸収する作用を有することで、塩分が植物6に到達することを確実に防止する効果を得ることができる。このため、幼木のような塩水に弱いものに用いた場合には、その成長を妨げることがないという利点がある。
【0028】
したがって本発明の緑化資材によると、降雨量の少ない地域や、塩害のあった地域での植樹後の活着率の向上を図ることができるとともに樹木の成長を助けることができ、それによって緑化を進めやすくすることができる。
【0029】
図8は、本発明の緑化資材および土壌改良構造の他の例を示す。ここでは、緑化資材によって育苗ポット12が形成されている。育苗ポット12の中には、土壌5と植物6とが収容されている。この育苗ポット12は、
図1〜
図3に示した緑化資材によって形成することができる。すなわち緑化資材はシート1とチップ体2とを含みシート1が生分解性脂肪族ポリエステル樹脂によって構成されている場合には、このシート1を熱成形することにより深底の育苗ポット12の形態とすることができる。シート1が前述のバインダ繊維として用いることができる熱接着性繊維を含んでいる場合には、これを含まない場合に比べて低温で容易に熱成形することができる。植物6は育苗ポット12のまま植林されるため、育苗ポット12の特にシート1は通根効果を有するものを使用する。図示の育苗ポット12も、上述のものと同様の保水効果と肥料化効果とを得ることができ、所定の時間の経過後は生分解して消滅する。
【0030】
図9および
図10は、本発明の土壌改良構造であって法面緑化に適用したものの例を示す。すなわち、法面13に植え付けされる植物6の根9の部分に、
図5に示した包装体の形態の緑化資材8が用いられている。この緑化資材8は、植物の根9の部分に配置されて土中に埋設されることで、上述の保水機能および肥料化機能のほかに、法面13を保護するための土嚢としての機能も有する。チップ体2と土壌5とを詰めた包装袋15をシート体1すなわちポリ乳酸繊維にて構成された不織布にて形成することで、従来の土嚢のように麻袋などに詰めたものに比べて耐久性を向上させることができる。図面は、植林後に植物6が成長して、その根9が、シート1にて形成された包装袋15を通根したときの状態を示す。
【0031】
図示の例では、緑化資材8よりも地表側の部分に、別の袋体14が設置されている。この袋体14は、シート1にて形成された包装袋15の内部に土壌5だけが詰め込まれたもので、チップ体2は含んでいない。この袋体14は、もっぱら法面を補強するために用いられ、上述のようにシート1を用いることでその耐久性が向上されたものとなっている。
【符号の説明】
【0032】
1 シート
2 チップ体
6 植物
8 緑化資材