【解決手段】亜リン酸成分又は次亜リン酸成分、或いはその両方を含有する培養液、例えばめっき廃液を希釈し、含有リン酸濃度が所定濃度以下にかいしゃくされた液中で、或いはめっき廃液由来のリン成分を含有する液中で藻類を培養する。培養装置1は廃液貯留タンク11と希釈液貯留タンク12を備え、培養槽13において希釈されためっき廃液をリン成分として利用して藻類を培養する装置である。
前記培養成分は、前記亜リン酸及び前記次亜リン酸を主成分とし、更に前記主成分よりも少ない含有量の正リン酸を含有することを特徴とする請求項1記載の藻類培養組成物。
前記培養成分は、含有リン成分の濃度が希釈水によって所定濃度以下に希釈されたものであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の藻類培養組成物。
前記めっき廃液として、ターン数の進行に応じてリン成分又は有機酸成分、あるいはその両方の成分補給を行って繰り返しめっき処理された1ターン以上のめっき廃液を用いることを特徴とする請求項6ないし9のいずれか1項に記載の藻類培養組成物。
前記めっき廃液として、窒素又は無機塩類、あるいはその両方の成分を含む添加剤を含有するめっき廃液を用いることを特徴とする請求項6ないし10のいずれか1項に記載の藻類培養組成物。
前記めっき廃液として、窒素、無機塩類、硫酸、ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含むめっき廃液を用いることを特徴とする請求項6ないし10のいずれか1項に記載の藻類培養組成物。
前記めっき廃液として、亜リン酸イオンの含有量が次亜リン酸イオンの含有量よりも多いめっき廃液を用いることを特徴とする請求項6ないし12のいずれか1項に記載の藻類培養組成物。
前記めっき廃液として、硫酸イオンの含有量が次亜リン酸の含有量よりも多いめっき廃液を用いることを特徴とする請求項6ないし13のいずれか1項に記載の藻類培養組成物。
リン成分として亜リン酸及び次亜リン酸の少なくとも何れか一方を含有する培養組成物を収容する培養槽と、前記培養槽内に藻類を供給する供給手段とを備え、前記培養槽内の前記培養組成物で藻類を培養することを特徴とする藻類培養装置。
めっき廃液から重金属成分の量を低減してリン成分として亜リン酸及び次亜リン酸の少なくとも何れか一方を含有する組成物を得ることを特徴とする藻類培養組成物の製造方法。
リン成分として亜リン酸及び次亜リン酸の少なくとも何れか一方を含有するめっき廃液を用いた藻類の培養組成物を調整し、前記培養組成物中の亜リン酸又は次亜リン酸を藻類の栄養成分として消費することを特徴とするめっき廃液処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の一例を挙げて詳細に説明する。
【0013】
本発明は、亜リン酸成分又は次亜リン酸成分、或いはその両方を含有する藻類培養組成物(藻類の培養液あるいは培地等を含む)、或いはそれらを含有する産業廃液、例えば、めっき廃液などから得られる培養組成物を用いて藻類を培養する点にある。
【0014】
特に、本発明は、正リン酸以外に、亜リン酸や次亜リン酸を使って、培養成分であるリン成分の選択肢を増やして、藻類の培養を実現する点に特徴があり、正リン酸を併用してもよいが、正リン酸を使わずに亜リン酸又は次亜リン酸のみを用いた培養も可能である。また、藻類の大規模培養を行う場合には、例えば、寒天培地などの固体状のものに代えて、液体状の培地、培養液等の培養組成物を用いることが好ましい。
【0015】
なお、従来の藻類培養方法では、培養液に用いるリン源には正リン酸(オルトリン酸)成分が用いられてきた。これに対し、本発明は、亜リン酸成分又は次亜リン酸成分、あるいはその両方を正リン酸成分へと変換することなく用いて藻類を培養することが可能である。すなわち、本発明によれば、培養成分であるリン成分として亜リン酸や次亜リン酸の選択肢を増やすことができる。また、亜リン酸成分及び次亜リン酸成分については、亜リン酸、次亜リン酸に加え、各種リン酸塩、例えば亜リン酸ナトリウム、亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウムなどを使用することができる。また、これら本発明の藻類培養組成物におけるリン成分においては、藻類の種類によって最適な組み合わせを採用すればよいが、カリウム塩やナトリウム塩、あるいはアンモニウム塩等を用いることで、栄養成分の増強を図ることができる。
【0016】
さらに、亜リン酸成分又は次亜リン酸成分、或いはその両方を少なくとも含有していれば、正リン酸成分を添加して増殖(初期増殖等)を促進することも可能である。この場合には、培養液組成として亜リン酸及び次亜リン酸を主成分とし、その主成分よりも少ない含有量の正リン酸を含有させて藻類培養組成物とするのが好ましい。これにより、正リン酸の使用量を減らし、詳細は後述するが亜リン酸又は次亜リン酸を含有するめっき廃液の再利用を促すことが可能となる。
【0017】
このように、本発明によれば、藻類の培養組成物のリン成分として、新たに亜リン酸成分又は次亜リン酸成分、或いはその両方を利用することができ、正リン酸以外でこれまで培養に利用されていなかった他のリン成分に着目し、効果的な培養を実現することができる。
【0018】
ここで、脂肪酸や炭化水素を生産するクロレラ、ユーグレナ(ミドリムシ)、珪藻類、ボトリオコッカス等のような微細藻類を培養すれば、藻類を用いた自然エネルギー化の原料としても有効活用することができる。さらに、藻類としては、光合成の有無を問わず、亜リン酸成分又は次亜リン酸成分、或いはその両方を栄養源とすることが可能な藻類であれば特に限定されないが、例えば、脂肪酸を生産し、光合成を問わず生育できるクロレラなどの藻類が培養に適している。クロレラの活用方法としては、機能性食品、土壌肥料、飼料としての用途の他に、抽出した脂肪酸を原料とした自然エネルギーとしての活用も可能である。
【0019】
また、本発明に係る藻類の培養成分については、例えば、産業廃液としてめっき廃液等に含まれる亜リン酸、次亜リン酸成分を用いることが可能であり、環境負荷の低減という観点からも有効である。具体的には、めっき液は、例えば、還元剤として次亜リン酸ナトリウムが含まれており、めっき工程を経た副産物としてめっき液中に亜リン酸イオンが増加していくことで、亜リン酸イオン及び次亜リン酸イオンが含有成分となる。そして、このようにしてめっき廃液などに含まれる亜リン酸成分は、これまで有効な用途がなく、そのほとんどが処分対象となり、あるいは、環境負荷を考慮して、酸化剤、電解法、光触媒などを用いて酸化分解処理を行い、亜リン酸はそのまま或いは正リン酸に酸化、次亜リン酸は亜リン酸又は正リン酸に酸化した後、最終的にリン酸塩の形で回収しなければならなかった。しかしながら、本発明によれば、このような亜リン酸成分についても藻類の培養成分として有効活用ができ、非常に有効である。このような背景から、本発明では、藻類の培養において、めっき廃液を有効活用できるため、産業廃棄物として処分するための処理に要する設備投資や処理剤などのコスト、有価物としての回収の手間を低減することができることに加え、環境負荷を低減することができる。例えば、従来の無電解ニッケルめっき廃液処理においては、ニッケル回収のための設備とリン回収のための設備をそれぞれ設けるための設備費や運転コスト、設備場所の確保等を要していた。本発明によれば、めっき廃液処理の対象となるめっき廃液の少なくとも一部を藻類の培養に使うことで、めっき処理負荷の低減だけでなく、めっき廃液の有効活用を図れるものである。
【0020】
ここで、めっき廃液としては、培養組成物ないし培養成分としてそのままで用いてもよいが、重金属成分を低減または除去した後のものを用いるのが好ましい。また、めっき廃液としては、亜リン酸成分及び次亜リン酸成分、更に有機酸成分を含有する無電解ニッケルめっき廃液を用いることが望ましい。
【0021】
また、藻類の培養組成物として無電解ニッケルめっき廃液を用いる場合には、そのまま用いても良いが、重金属成分(ここではニッケル成分)を回収する処理、例えば、電気透析やイオン交換法等の低減処理又は除去を施した後の廃液を用いることが特に好ましい。その理由としては、ニッケル等の重金属成分を回収することで再利用できることに加え、めっき廃液中のリン成分や有機酸成分、或いはその両方の成分を、めっき後廃液中よりも処理後廃液中の方がそれらの成分の比率を高くすることができるためである。
【0022】
このように重金属成分を除去した後のめっき廃液を培養組成物ないし培養成分として用いれば、藻類の培養効率を高めることができる。なお、上記めっき廃液としては、リン成分(次亜リン酸、亜リン酸、亜リン酸ニッケル等のリン酸塩等)を含み、更に有機酸成分(クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸等)や窒素成分(アンモニア等)、無機塩類、硫酸からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含むめっき廃液を用いることが可能である。
【0023】
なお、本発明の藻類培養組成物における正リン酸の添加量に関しては、めっき廃液の希釈倍率が大きくなるにつれて亜リン酸、次亜リン酸成分よりも多くするのがよいが、めっき廃液の希釈倍率が小さい場合には、正リン酸の添加量を減らし、めっき廃液の再利用を促すことが可能となる。藻類培養組成物における亜リン酸成分は、基本的には正リン酸成分の方が少なく、Ni除去液の5000倍希釈培地では正リン酸成分の量とほとんど変わらない量となり、また次亜リン酸成分は、Ni含有液では1000倍希釈〜1倍(原液)、Ni除去液では10倍希釈〜1倍(原液)では正リン酸成分の方が少なくなり、正リン酸成分の量は、亜リン酸成分の同等量以下となる。したがって、正リン酸成分の量を減らすことが可能となり、亜リン酸又は次亜リン酸を含有するめっき廃液の再利用効率が高く、非常に効果的である。
【0024】
また、有機酸成分(クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸等)や窒素成分(アンモニア等)、無機塩類、硫酸からなる群から選択される少なくとも1つの成分については、本発明に係る藻類培養組成物において追加成分としてもよい。その場合には、培養組成として初めから添加してもよいし、藻類によっては、例えば、必要栄養素の量を調整して、必要栄養素を飢餓の状態で培養することにより、脂質量を増加させることが可能となる。
【0025】
さらに、めっき廃液としては、めっき処理にて繰り返し使っためっき廃液を用いることが好ましい。めっき処理を繰り返し行った後のめっき廃液は、藻類の栄養成分であるリン成分や有機酸成分の濃度が相対的に高いためである。具体的には、めっき廃液として、ターン数の進行に応じてリン成分又は有機酸成分、あるいはその両方の成分補給を行って繰り返しめっき処理された1ターン以上のめっき廃液を用いることが好ましく、更に好ましくは3ターン数以上、更に好ましくは5ターン以上のめっき廃液を用いれば有効である。
【0026】
下記表1には、無電解ニッケルめっき液1l(リットル)あたりの各ターンごとの成分含有量を示す。ここで、「ターン」とは、連続タイプのめっき液で、液の老化具合を知るときの指標であり、下記表1では建浴時に浴中に含まれるニッケルを(理論的に)全て使用した時点を1ターンとして表す。下記表1に示すように、ターン数が多くなるほど、1l(リットル)のめっき液(廃液)に含まれる硫酸イオン、亜リン酸イオン、各有機酸A〜Cの各成分の含有量が多くなる。すなわち、ターン数が多いめっき液ほど、藻類の培養液として栄養成分が多く、藻類を培養する上で非常に有利であることが分かる。ここで、ターン数が多いめっき液は、下記表1に示すように、亜リン酸イオンの含有量が次亜リン酸イオンの含有量よりも多く、硫酸イオンの含有量が次亜リン酸の含有量よりも多いことが分かる。このようにターン数が多いめっき液ほど藻類の栄養成分が多いため、これを培養液として用いれば、藻類の培養効率を高めることができる。なお、めっき廃液をそのまま培養液とすると、栄養成分が高濃度であるので、水や水道水などの希釈水により10倍〜1000倍に薄めたものを本発明の藻類培養組成物とすることが好ましい。
<表1> 無電解ニッケルめっき液の組成
【0028】
また、本発明においては、めっき廃液として窒素又は無機塩類、あるいはその両方の成分を含む添加剤を含有するめっき廃液を用いることが好ましい。めっき処理において窒素成分や無機塩類等の成分が添加されている場合には、そのままのめっき廃液を用いてもよいし、めっき廃液に窒素成分や無機塩類等の成分が不足していれば、それらを別途、添加剤として加えて本発明の藻類培養液とすることも可能である。これにより、藻類の培養効率を更に向上することができる。
【0029】
ここで、本発明においては、めっき廃液中には、めっき廃液中に含まれる亜リン酸成分又は次亜リン酸成分、或いはその両方を栄養素とできる藻類を選択し、且つ光合成に適した培養環境を整えることにより、ミドリゾウリムシなどの光合成を行いながら増殖する原生動物の培養も可能である。なお、上述したように、本発明は、めっき廃液由来の亜リン酸や次亜リン酸を用いることに限定されるものではなく、藻類の培養においてリン成分としての選択肢(従来は正リン酸だけの選択肢)を増やすものであって、めっき廃液に含まれるリン成分以外の亜リン酸や次亜リン酸を用いることができるものである。
【0030】
光合成を行う藻類及び原生動物を培養する場合は、LED照明、メタルハラルド灯、高圧ナトリウム灯、白色蛍光灯、白熱灯等を培養槽内の上部及び下部に各々設置することで、培養槽内の撹拌機構と相成って培養槽内の藻類及び原生生物全体に光照射が可能となる。また、その際の培養槽の深さは、例えば、培養槽の底側にいる藻類に対しても適度に光が届く範囲であることが好ましいが、必要に応じて攪拌機構など設ければよく、これに限定されない。また、植物は呼吸と光合成を交互に行うことを想定し、光照射時間は適宜調整すればよい。また、このような培養装置としては、培養環境条件の一つとして、外気(空気)や二酸化炭素等を適宜供給する設備を有する。なお、培養装置としては、めっき処理設備に接続し、めっき処理設備から排出されるめっき処理済液(めっき処理としては廃液)を、培養装置の培養槽に引き込んでシステム化してもよい。その場合には、めっき処理設備と培養槽との間に、めっき処理済液を希釈水によって希釈して含有リン成分の濃度を調整するリン成分濃度調整手段を設けるのが好ましい。
【0031】
また、上述したような本発明の藻類培養方法は、例えば、亜リン酸成分又は次亜リン酸成分、或いはその両方を有する培養組成物、例えばめっき廃液(めっき廃液に限定されるものではない)を収容するタンクと、藻類を培養する撹拌機構を備えた培養槽と、この培養槽内に上記培養組成物及び藻類を供給する供給手段とを備え、培養槽内のめっき廃液を用いて藻類を培養する藻類培養装置により効率的に実施することができる。
【0032】
なお、培養プロセスにおいては、藻類の栄養成分であるリン成分の濃度調整を行いながら一定期間使いながら、液の劣化等の液状態を考慮して全体又は半分程度を交換したり培養成分を補充したりしながら安定的な培養を行っていくのが好ましい。また、藻類培養装置等で使用済みとなった排出液については、例えば、リン成分が殆ど残っていないものであれば希釈水として活用してもよいし、リン成分が残っているものであればめっき液等を補充してリン成分の濃度調整を行って再利用してもよい。重金属などが予め排除されて環境負荷のない排出液については、廃水として処理してもよい。
【0033】
ここで、
図1を参照して、本発明の藻類培養装置の一実施形態例を説明する。
図1は、本発明に係る藻類培養装置の一例を示す概略構成図である。
【0034】
図1に示すように、本実施形態の藻類培養装置1は、廃液貯留タンク11と希釈液貯留タンク12とが個別の配管11a,12aを介して藻類の培養槽13にそれぞれ接続されている。また、廃液貯留タンク11及び希釈液貯留タンク12と培養槽13とを接続する配管11a,12aのそれぞれには、不純物等を取り除くフィルタ装置11b,12bが配置されている。培養槽13には、図示しないが、外部から藻類が適宜投入可能な投入口が設けられている。また、培養槽13の底側には、外気(空気)を取り入れるノズル14と、培養槽13内から培養組成物を排出する排出配管15とが接続されている。なお、この排出配管15には、バルブ16を介して藻類の回収装置(例えば、ろ過装置等)17が接続され、この回収装置17を経由して藻類回収済みの培養組成物を再び培養槽13に戻す循環配管18が接続されている。なお、上述した各配管11a,12a,15,18には、それぞれ送液用のポンプが接続され、流量が制御可能となっている。培養槽13内で培養した藻類は、培養槽13から直接回収してもよいし、回収装置17から回収してもよい。前者の場合には、回収装置17が培養槽13からの回収時に残った藻類を回収する役目を担う。
【0035】
このような構成の藻類培養装置1は、培養液貯留タンク11に、培養組成物、例えば所定のめっき廃液(高濃度の原液)を入れておき、高濃度のめっき廃液を希釈液(例えば水等)と共に培養槽13内に供給する。培養槽13では、高濃度の培養組成物ないし培養成分)が希釈水によって所定の濃度となるように調整され、この状態で藻類が投入され、ノズル14から適度に空気を供給されて、藻類の培養を行うようになっている。なお、培養槽13内に攪拌手段を設けて、必要に応じて槽内攪拌を行うようにしてもよい。希釈水としては、純水でもよいし水道水等でもよい。また、培養槽13から培養組成物の溶液を排出した後の培養組成物は、藻類の回収装置17を通って再び培養槽13に戻されるが、次の培養のために、培養組成物ないし培養成分と希釈水とを適量供給して、培養槽13内の培養組成物を調合する。このような調合処理においては、培養槽13内の藻類の栄養成分が所定量となるように調整すべく、図示しない制御部によって送液用の各ポンプを制御することにより、めっき廃液等の各供給量や排出量が調整される。
【0036】
なお、本実施形態の藻類供給装置1は、藻類を投入する投入口を設けたが、本発明はこれに限定されず、例えば、培養槽に対して藻類を自動的に供給する手段を接続してもよい。また、
図1では、藻類の培養槽13を1つ設けた例を説明しているが、培養槽13を複数設ける場合には、各培養槽に培養組成物ないし培養成分や希釈水を供給可能とすればよい。さらに、藻類の回収装置17と培養槽13とをつなぐ循環配管(管路)18に藻類回収後の溶液を一時的に貯留する貯留タンクを設けてもよい。
【0037】
ここで、本発明は、亜リン酸成分又は次亜リン酸成分、或いはその両方を有するめっき廃液を少なくとも含有する藻類培養液にも適用可能である。このような本発明の藻類培養液は、例えば、めっき廃液以外の亜リン酸や次亜リン酸を用いて実現できる一方、めっき廃液だけでも実現できるが、藻類の培養を促進するため、窒素成分(硝酸、硝酸塩、アンモニア等)、無機塩類(硫酸カリウム、硝酸カリウム等)等の藻類の培養に適した成分を適宜調整して混合することが好ましい。
【0038】
ところで、金属イオンを含む水溶液から金属を析出させる方法には、外部からの電流を用いる電気めっき法と、電気を作用させる必要のない無電解めっき法とがあり、後者には、被めっき物である金属を溶液に浸すだけでめっきが得られる浸漬めっき法と化学的還元を利用した化学めっき法がある。化学めっき法では、例えば、ニッケル、コバルト、銀、金、銅、及び高合金鋼を含む金属類によって固体表面に金属皮膜を形成することができる。特に、ニッケルによる無電解めっき(以下、無電解ニッケルめっき)は、耐蝕性や硬度が高く、光沢が得られることから、電子部品、家電製品、自動車部品、化学装置、工業設備等あらゆる金属素材、プラスチック、セラミック等の表面処理に使用されている。
【0039】
無電解ニッケルめっきを行った後の廃液(以下、無電解ニッケルめっき廃液)には、ニッケル塩、化学還元剤である次亜リン酸及びその酸化物である亜リン酸等の無機リン成分、水酸化ニッケル及び亜リン酸ニッケルの沈殿防止のための錯化剤やpH緩衝剤として有機酸などの有機系添加物を含んでおり、更にpH調製剤として硫酸や水酸化ナトリウム等も含まれている。
【0040】
ここで、このような無電解ニッケルめっき廃液中からニッケルを回収する方法としては、陰イオン交換膜にニッケルイオンを取り込ませて回収するイオン交換法、溶媒抽出法、置換析出法等がある。これらの方法により、無電解ニッケルめっき廃液中からニッケル成分を選択的に除去した廃液、すなわち、本発明に係る一つの藻類培養組成物を効率よく製造することができる。
【0041】
また、リンの回収方法としては、次亜リン酸イオンを紫外線照射下で過酸化水素と反応させ、正リン酸イオンに酸化した後、不溶性の塩として廃液中から除去する方法、次亜リン酸を過硫酸塩と反応させる事により亜リン酸又は正リン酸とし、不溶性の塩として廃液中から除去する処理方法、亜リン酸ニッケル又はニッケル以外の金属化合物を触媒として次亜リン酸を亜リン酸に酸化した後に、次亜塩素酸系酸化剤にて正リン酸に酸化した後に不溶性の塩として廃液中から除去する方法等を用いることができる。これにより、めっき廃液中からリン成分を選択的に抽出でき、このようなめっき廃液由来のリン成分を藻類の培養成分として有効に再利用することができる。すなわち、めっき廃液由来のリン成分をそのまま培養成分としてもよいし、既存にある培養液に、めっき廃液由来のリン成分を藻類培養液用の添加剤として加えて、本発明の藻類培養組成物とすることも可能である。つまり、本発明は、めっき廃液由来のリン成分からなる培養成分、あるいはこのような培養成分を含む藻類培養液用添加剤についても適用対象の範囲に含まれる。なお、めっき廃液由来のリン成分(めっき廃液から抽出した培養成分)を、めっき廃液に添加し、当該めっき廃液中のリン成分の濃度を高濃度に調整した廃液を藻類の培養組成物とすれば、藻類培養効率を高めることができる。
【0042】
ここで、上述した本実施形態では、藻類培養装置として、めっき廃液及び希釈水を培養槽に供給する構造を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上述したリン成分を回収する機能を備えたリン成分回収部、有機酸成分を回収する機能を備えた有機酸成分回収部、又はこれら各回収部で回収した各成分を培養槽へ供給する有効成分供給部、あるいは、各種添加剤を供給する添加剤供給部を設け、各供給量をめっき廃液や希釈水の供給と共に調整する調整機能(調整部)を設けることにより、藻類の栄養成分濃度を調整可能な藻類培養装置を実現することができる。
【0043】
また、上述した本実施形態においては、上記藻類培養組成物、及び装置で育成した藻類から抽出した脂肪酸、炭化水素など脂質成分はエネルギー源及び機能性製品の原料として使用することができる。また、脂肪酸、炭化水素などの脂質分を抽出した後の残渣は、飼料や燃焼材などとして有効利用することもできる。
【0044】
なお、本発明では、上述したように、亜リン酸成分又は次亜リン酸成分、或いはその両方を主なリン源としてそのまま利用することを特徴とする。そのため、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。また、本発明は、上記藻類培養方法を、脂肪酸或いは炭化水素を生産する微細藻類の培養方法としても適用可能である。さらに、本発明に関わる藻類培養装置は、亜リン酸成分又は次亜リン酸成分、或いはその両方を有する藻類培養組成物を収容する培養槽と、培養槽内に藻類を供給する供給手段とを備え、培養槽内の培養組成物中で藻類を培養することを特徴とするものであればよい。また、本発明に係
わる藻類培養組成物は、亜リン酸成分又は次亜リン酸成分、或いはその両方を少なくとも含有することを特徴とし、それらのリン源を含む廃液、例えば無電解ニッケルめっきの廃液などを利用することも可能であり、この場合にはめっき廃液処理方法となる。また、本発明は、めっき廃液中から重金属成分の量を低減して亜リン酸成分又は次亜リン酸成分、或いはその両方を少なくとも含有する組成物を得ることを特徴とする藻類培養組成物の製造方法も対象に含まれる。重金属成分の再利用も可能となり、残った成分は、藻類の培養組成物として有効に活用できるため、めっき廃液の再利用を効率的に行うことができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0046】
実施例1〜6ではクロレラ・ブルガリス(NIES−2170)を用いて培養実験を行った。また、実施例7ではボトリオコッカス・ブラウニー(「微細藻類」 Botryococcus braunii tsukuba1 原寄託日2010年12月9日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE−IPOD(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)にブダペスト条約の規定下で、受託番号FERM BP−11530として国際寄託済み)を用いて培養実験を行った。
【実施例1】
【0047】
200mL三角フラスコ内に100mLの培養液を準備した。培養液成分はCa(NO
3)
2・4H
2O:150mg/L、KNO
3:100mg/L、MgSO
4・7H
2O:40mg/L、VitaminB
12:0.1μg/L、Biotin:0.1μg/L、Thiamine HCl:10μg/L、PIVmetals
1):3mL/Lである。その培地を7つ準備し、(1)リンなし、(2)(3)リン酸水素ナトリウム、(4)(5)亜リン酸ナトリウム、(6)(7)次亜リン酸ナトリウムを換算リン量が7.2mg/Lになるようにそれぞれ加えた。(1)(2)(4)(6)をオートクレーブ滅菌、(3)(5)(7)をフィルタリング(ろ過)滅菌し、振とう培養を25日間行ったときの増殖傾向を比較検討した。
【0048】
その結果、
図2に示すように、正リン酸成分添加培養液(2)(3)>次亜リン酸成分添加培養液(6)(7)≧亜リン酸成分添加培養液(4)(5)>リン成分なし(1)の順に増殖傾向を示した。また、オートクレーブ滅菌の方がフィルタリング滅菌よりも若干増殖が大きい傾向にあったが、どちらの滅菌法を用いてもクロレラの増殖は確認された。また、培養後に各リン成分の減少が確認できたため、亜リン酸成分又は次亜リン酸成分を利用して藻類を培養することができることを確認した。
【実施例2】
【0049】
200mL三角フラスコ内に100mLの培養液を準備した。(1)廃液なし(水)、(2)5000倍希釈めっき廃液、(3)1000倍希釈めっき廃液、(4)100倍希釈めっき廃液、(5)10倍希釈めっき廃液、(6)1倍めっき廃液(原液)に、Ca(NO
3)
2・4H
2O:150mg/L、KNO
3:100mg/L、MgSO
4・7H
2O:40mg/L、VitaminB
12:0.1μg/L、Biotin:0.1μg/L、Thiamine HCl:10μg/L、PIVmetals
1):3mL/Lを上記6種の希釈液にそれぞれ添加して培養液を調製した。また、めっき廃液は、重金属成分を含有する無電解ニッケルめっき廃液を使用した。(1)は基準培地とするため、リン酸水素ナトリウムを換算リン量が7.2mg/Lになるように添加し、培養液を調製した。振とう培養を25日間行ったときの増殖傾向を比較検討した。
【0050】
その結果、
図3に示すように(1)>(2)(3)>(4)(5)(6)の順に増殖傾向を示したが、(4)〜(6)はほとんど増殖しなかった。(1)(2)(3)では培養後に各リン成分の減少が確認できたため、亜リン酸成分及び次亜リン酸成分を含み、且つ重金属成分を含むめっき廃液を利用して藻類を培養することができると確認したが、小さな増殖傾向にとどまっていた。
【実施例3】
【0051】
200mL三角フラスコ内に100mLの培養液を準備した。(1)廃液なし(水)、(2)5000倍希釈めっき廃液、(3)1000倍希釈めっき廃液、(4)100倍希釈めっき廃液、(5)10倍希釈めっき廃液、(6)1倍めっき廃液(原液)に、Ca(NO
3)
2・4H
2O:150mg/L、KNO
3:100mg/L、MgSO
4・7H
2O:40mg/L、VitaminB
12:0.1μg/L、Biotin:0.1μg/L、Thiamine HCl:10μg/L、PIVmetals
1):3mL/Lを上記6種の希釈液にそれぞれ添加して培養液を調製した。また、めっき廃液は、重金属成分を含有する無電解ニッケルめっき廃液を使用した。実施例2と正リン酸成分の効果を比較するため、(1)〜(6)全ての培地にリン酸水素ナトリウムを換算リン量が7.2mg/Lになるように添加し、培養液を調製した。振とう培養を25日間行ったときの増殖傾向を比較検討した。
【0052】
その結果、
図4に示すように(1)>(2)>(3)>(4)>(5)(6)の順に増殖傾向を示したが、(5)(6)はほとんど増殖しなかった。(1)〜(4)では培養後に各リン成分の減少が確認できたため、亜リン酸成分及び次亜リン酸成分を含むめっき廃液を利用して藻類を培養することができると確認した。また、めっき廃液に含まれている亜リン酸成分、次亜リン酸成分に加え、正リン酸成分を添加することで、培養初期からより藻類増殖を促進する効果があることがわかった。
【実施例4】
【0053】
200mL三角フラスコ内に100mLの培養液を準備した。(1)廃液なし(水)、(2)5000倍希釈めっき廃液、(3)1000倍希釈めっき廃液、(4)100倍希釈めっき廃液、(5)10倍希釈めっき廃液、(6)1倍めっき廃液(原液)に、Ca(NO
3)
2・4H
2O:150mg/L、KNO
3:100mg/L、MgSO
4・7H
2O:40mg/L、VitaminB
12:0.1μg/L、Biotin:0.1μg/L、Thiamine HCl:10μg/L、PIVmetals
1):3mL/Lを上記6種の希釈液にそれぞれ添加して培養液を調製した。また、めっき廃液は、重金属成分を低減させた無電解ニッケルめっき廃液を使用した。(1)は基準培地とするため、リン酸水素ナトリウムを換算リン量が7.2mg/Lになるように添加し、培養液を調製した。振とう培養を25日間行ったときの増殖傾向を比較検討した。
【0054】
その結果、
図5に示すように(5)>(1)>(4)>(2)(3)>(6)の順に増殖傾向を示した。また、培養後に各リン成分の減少が確認できたため、亜リン酸成分及び次亜リン酸成分を含むめっき廃液を利用して藻類を培養することができると確認した。
【実施例5】
【0055】
200mL三角フラスコ内に100mLの培養液を準備した。(1)廃液なし(水)、(2)5000倍希釈めっき廃液、(3)1000倍希釈めっき廃液、(4)100倍希釈めっき廃液、(5)10倍希釈めっき廃液、(6)1倍めっき廃液(原液)に、Ca(NO
3)
2・4H
2O:150mg/L、KNO
3:100mg/L、MgSO
4・7H
2O:40mg/L、VitaminB
12:0.1μg/L、Biotin:0.1μg/L、Thiamine HCl:10μg/L、PIVmetals
1):3mL/Lを上記6種の希釈液に添加して培養液を調製した。また、使用しためっき廃液は、重金属成分を低減させた無電解ニッケルめっき廃液を使用した。実施例4と正リン酸成分の効果を比較するため、(1)〜(6)全ての培地にリン酸水素ナトリウムを換算リン量が7.2mg/Lになるように添加し、培養液を調製した。振とう培養を25日間行ったときの増殖傾向を比較検討した。
【0056】
その結果、
図6に示すように(5)>(1)>(4)>(2)(3)>(6)の順に増殖傾向を示した。また、培養後に各リン成分の減少が確認できたため、亜リン酸成分及び次亜リン酸成分を含むめっき廃液を利用して藻類を培養することができると確認した。また、めっき廃液に含まれている亜リン酸成分、次亜リン酸成分に加え、正リン酸成分を添加することで、培養初期からより藻類増殖を促進する効果があることがわかった。
【実施例6】
【0057】
200mL三角フラスコ内に100mLの培養液(蒸留水を含む)を準備した。蒸留水以外の培養液成分は、Ca(NO
3)
2・4H
2O:150mg/L、KNO
3:100mg/L、MgSO
4・7H
2O:40mg/L、VitaminB
12:0.1μg/L、Biotin:0.1μg/L、Thiamine HCl:10μg/L、PIVmetals
1):3mL/L、Tris(hydroxymethyl)aminomathane:500mg/Lである。その培地を7つ準備し、(1)リンなし、(2)(3)リン酸水素ナトリウム、(4)(5)亜リン酸ナトリウム、(6)(7)次亜リン酸ナトリウムを換算リン量が7.2mg/Lになるようにそれぞれ加えた。(1)(2)(4)(6)をオートクレーブ滅菌、(3)(5)(7)をフィルタリング(ろ過)滅菌し、振とう培養を174日間行ったときの増殖傾向を比較検討した。
【0058】
その結果、
図7に示すように、正リン酸のみを用いた(2)及び(3)については、培養開始後数日の間にかなり増殖した後、定常期状態を80日までほぼ維持していた。これに対し、亜リン酸のみを用いた(4)及び(5)、次亜リン酸のみを用いた(6)(7)については、培養開始直後は正リン酸ほど増殖しないものの、170日を過ぎるまで順調に増殖傾向を示した。この結果からも明らかなように、クロレラ・ブルガリス(NIES−2170)は、正リン酸を使用しなくても、亜リン酸又は次亜リン酸を用いて増殖傾向を示すことがわかった。
【実施例7】
【0059】
培養試験管内に50mLの培養液(蒸留水を含む)を準備した。蒸留水以外の培養液成分は、NaNO
3:140mg/L、NH
4NO
3:22mg/L、MgSO
4・7H
2O:30mg/L、CaCl
2・2H
2O:10mg/L、Fe-Citrate:2mg/L、Citric acid:2mg/L、Biotin:2μg/L、Thiamine HCl:10μg/L、Vitamin B
6:1μg/L、Vitamin B
12:1μg/L、5倍のPIVmetals
1):1mL/L、MES:400mg/Lである。その培地を4つ準備し、(1)リンなし、(2)リン酸水素ナトリウム、(3)亜リン酸ナトリウム、(4)次亜リン酸ナトリウムを換算リン量が3.2mg/Lになるようにそれぞれ加えた。(1)をオートクレーブ滅菌、(2)(3)(4)をフィルタリング(濾過)滅菌し、1%-CO2でバブリング培養を119日間行ったときの増殖傾向を比較検討した。
【0060】
その結果、
図8に示すように、正リン酸のみを用いた(2)については、培養開始直後から増殖傾向を示し、定常期状態を80日までほぼ維持していた。これに対し、リンなしの(1)や亜リン酸のみを用いた(3)については119日間でほとんど増殖傾向は示さず、(1)は減少傾向を示した。次亜リン酸のみを用いた(4)については、培養開始直後は正リン酸ほど増殖しないものの、緩やかに増殖傾向を示した。この結果からも明らかなように、当該ボトリオコッカス株は、正リン酸を使用しなくても、次亜リン酸を用いて増殖傾向を示すことがわかった。
1)PIVmetals
Na
2EDTA・2H
2O:1000mg/L
FeCl
3・6H
2O:196mg/L
MnCl
2・4H
2O:36mg/L
ZnSO
4・7H
2O:22mg/L
CoCl
2・6H
2O:4mg/L
Na
2MoO
4・2H
2O:2.5mg/L