(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-108197(P2015-108197A)
(43)【公開日】2015年6月11日
(54)【発明の名称】吸水性多孔シート
(51)【国際特許分類】
D06M 11/79 20060101AFI20150515BHJP
F24F 6/04 20060101ALI20150515BHJP
F24F 6/00 20060101ALI20150515BHJP
C08J 9/40 20060101ALI20150515BHJP
【FI】
D06M11/79
F24F6/04
F24F6/00 D
C08J9/40
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【公開請求】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-213819(P2013-213819)
(22)【出願日】2013年10月11日
(11)【特許番号】特許第5639702号(P5639702)
(45)【特許公報発行日】2014年12月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100112896
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 宏記
(72)【発明者】
【氏名】篠原 研一
【テーマコード(参考)】
3L055
4F074
4L031
【Fターム(参考)】
3L055BA02
3L055DA11
4F074AA59
4F074AA66
4F074CB91
4F074CE04
4F074CE15
4F074CE36
4F074CE75
4F074CE97
4F074DA43
4F074DA47
4L031AB34
4L031BA20
4L031DA08
4L031DA12
(57)【要約】
【課題】加湿装置に適用された際に長期間にわたって高い抗微生物性を維持でき、かつ、吸水性にも優れる吸水性多孔シートを提供する。
【解決手段】
多孔性基材と、
前記多孔性基材の表面の少なくとも一部を覆うシリカ粒子と、
前記シリカ粒子の表面の少なくとも一部に担持された抗微生物剤と、
を含む、吸水性多孔シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性基材と、
前記多孔性基材の表面の少なくとも一部を覆うシリカ粒子と、
前記シリカ粒子の表面の少なくとも一部に担持された抗微生物剤と、
を含む、吸水性多孔シート。
【請求項2】
前記多孔性基材が、繊維により構成されてなる、請求項1に記載の吸水性多孔シート。
【請求項3】
前記シリカ粒子の含有量が、0.1〜10質量%である、請求項1または2に記載の吸水性多孔シート。
【請求項4】
前記シリカ粒子と前記抗微生物剤との合計における、前記抗微生物剤の含有量が、10〜50質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
【請求項5】
前記抗微生物剤が、抗菌剤及び抗カビ剤の少なくとも一方を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
【請求項6】
前記抗微生物剤が、トリクロサン、クロルヘキシジン、ジンクピリチオン、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、チアベンダゾール、フルオロフォルペット、クロルキシレノール、カルベンダジン、キャプタン、クロロタロニル、及びメチルスルホニルテトラクロルピリジンからなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
【請求項7】
極性有機溶媒にシリカ粒子及び抗微生物剤が分散された分散体に多孔性基材を浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程の後、前記多孔性基材を乾燥させる乾燥工程と、
を備える、吸水性多孔シートの製造方法。
【請求項8】
前記極性有機溶媒として、炭素数1〜6の低級アルコール、アセトン、及びジエチルエーテルからなる群から選択された少なくとも1種を用いる、請求項7に記載の吸水性多孔シートの製造方法。
【請求項9】
前記乾燥工程において、前記多孔性基材を50〜100℃の温度下、30〜180分間乾燥させる、請求項7または8に記載の吸水性多孔シートの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の吸水性多孔シートを備える、加湿装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加湿装置などに使用される吸水性多孔シート、当該吸水性多孔シートを備えた加湿装置、及び当該吸水性多孔シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空調機などには、室内の湿度を調整することを目的として、加湿器などが搭載されている。例えば、気化式の加湿器には、水が入れられた給水槽と、当該給水槽内の水に端部が浸漬された多孔性吸水性シートとを備えた、加湿装置が設けられている。加湿装置においては、多孔性水性シートに吸水された水が蒸発することにより、加湿が行われる。このような加湿装置に使用される多孔性吸水性シートには、加湿効率を高める観点から、高い吸水性が求められる一方、湿度の高い環境で長期間にわたって使用されるため、優れた抗微生物性(抗菌性、抗カビ性など)が求められている。そこで、このような多孔性吸水性シートにおいて、優れた吸水性と抗微生物性とを長期にわたり維持することを目的として、各種の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、抗菌性熱接着性繊維によって構成繊維が結合されており、抗菌性熱接着性繊維は融点が異なる2以上の樹脂成分からなる複合繊維であり、樹脂成分の中で最も低い融点を有する低融点成分が繊維表面の少なくとも一部に露出しており、低融点成分に抗菌剤が含まれており、構成繊維に親水性の無機粒子が付着していることを特徴とする蒸散性不織布が開示されている。
【0004】
また、例えば特許文献2には、親水性多孔質微粉末と抗菌剤とを配合した合成樹脂エマルジョンを基材に含浸することにより、前記親水性多孔質微粉末と抗菌剤とが合成樹脂を介して基材に付着していることを特徴とする加湿器用気化促進材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−70859号公報
【特許文献2】特開平6−74500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1は、気化式の加湿装置の模式図である。
図1を用いて、加湿装置による一般的な加湿機構を説明する。なお、
図1は、本発明の加湿装置10を、吸水性多孔シートの配列方向(厚み方向)から見た場合の模式図である。本発明の加湿装置10は、主に気化式の加湿装置として、空調機などに搭載されて用いられる。加湿装置10においては、複数の吸水性多孔シート1が、略等間隔で、互いに略平行となるように配列されている。各吸水性多孔シート1の一部は、槽2の給水槽2a中に挿入されており、給水槽2aには、給水管2a1から供給された水3が貯められている。給水槽2aは、吸水性多孔シート1に水3を供給する水供給手段として機能する。具体的には、吸水性多孔シート1の端部1a1が、給水槽2aの中にある水3に浸漬されており、吸水部1aを形成している。吸水性多孔シート1においては、毛管現象の働きによって、吸水部1aから水が吸い上げられ、吸水性多孔シート1全体に水が行き渡る。そして、複数の吸水性多孔シート1の間を通る風により、吸水性多孔シート1の加湿部1bの表面から水が気化し、空気が加湿される。また、吸水性多孔シート1の加湿部1bの下部において、気化しなかった水が排水槽2bにドレンされ、排水管2b1により排出される。排水槽2bと給水槽2aとは、間仕切壁4によって隔てられている。このように、加湿装置10内においては、水が絶えず流れており、これにより、加湿装置10中にスケールが溜まることが抑制されている。したがって、吸水性多孔シート1に抗微生物剤が含まれる場合にも、吸水性多孔シート1において抗微生物剤が強固に付着していなければ、この水の流れによって抗微生物剤が流出し、抗菌性が低下してしまう。
【0007】
特許文献1に開示された蒸散性不織布においては、低融点成分の樹脂に抗菌剤を練りこんだ抗菌性熱接着性繊維を用いるため、抗菌剤が流出しにくいという利点を有する。しかしながら、特許文献1に開示された蒸散性不織布においては、抗菌剤が樹脂に練り込まれているため、繊維の表面に位置する抗菌剤の量が非常に少なくなり、蒸散性不織布に高い抗菌性を付与することが困難であるという問題がある。また、特許文献1に開示された蒸散性不織布においては、抗菌性熱接着性繊維によって構成繊維が結合されたものであるため、抗菌性熱接着性繊維を不織布全体に均一に分散させることが難しく、抗菌性にムラが生じやすいという問題もある。さらに、樹脂に練り込むことができる抗菌剤の種類や量の選択が限られるという問題もある。
【0008】
また、特許文献2の加湿器用気化促進剤においても、合成樹脂エマルジョン中に抗菌剤が配合されているため、抗菌剤が流出しにくいという利点を有するものの、特許文献1と同様、表面に位置する抗菌剤の量が少なくなるため、加湿器用気化促進剤に高い抗菌性を付与することが困難であるという問題がある。また、特許文献2の加湿器用気化促進剤においては、合成樹脂エマルジョン中の親水性多孔質微粉末の粒子径が大きいと、合成樹脂エマルジョンが沈降しやすくなり、粒子径が小さい場合には凝集しやすくなるため、構成樹脂エマルジョンを基材に均一性高く塗付することが困難であるという問題がある。
【0009】
このような状況下、本発明は、加湿装置に適用された際に長期間にわたって高い抗微生物性を維持でき、かつ、吸水性にも優れる吸水性多孔シート、当該吸水性多孔シートを備えた加湿装置、及び当該吸水性多孔シートの製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、多孔性基材と、多孔性基材の表面の少なくとも一部を覆うシリカ粒子と、シリカ粒子の表面の少なくとも一部に担持された抗微生物剤とを含む吸水性多孔シートとすることにより、樹脂などに抗微生物剤を練り込んでいないにもかかわらず、長期間にわたる高い抗微生物性を維持でき、かつ、吸水性にも優れることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0011】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 多孔性基材と、
前記多孔性基材の表面の少なくとも一部を覆うシリカ粒子と、
前記シリカ粒子の表面の少なくとも一部に担持された抗微生物剤と、
を含む、吸水性多孔シート。
項2. 前記多孔性基材が、繊維により構成されてなる、項1に記載の吸水性多孔シート。
項3. 前記シリカ粒子の含有量が、0.1〜10質量%である、項1または2に記載の吸水性多孔シート。
項4. 前記シリカ粒子と前記抗微生物剤との合計における、前記抗微生物剤の含有量が、10〜50質量%である、項1〜3のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
項5. 前記抗微生物剤が、抗菌剤及び抗カビ剤の少なくとも一方を含む、項1〜4のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
項6. 前記抗微生物剤が、トリクロサン、クロルヘキシジン、ジンクピリチオン、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、チアベンダゾール、フルオロフォルペット、クロルキシレノール、カルベンダジン、キャプタン、クロロタロニル、及びメチルスルホニルテトラクロルピリジンからなる群から選択された少なくとも1種である、項1〜5のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
項7. 極性有機溶媒にシリカ粒子及び抗微生物剤が分散された分散体に多孔性基材を浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程の後、前記多孔性基材を乾燥させる乾燥工程と、
を備える、吸水性多孔シートの製造方法。
項8. 前記極性有機溶媒として、炭素数1〜6の低級アルコール、アセトン、及びジエチルエーテルからなる群から選択された少なくとも1種を用いる、項7に記載の吸水性多孔シートの製造方法。
項9. 前記乾燥工程において、前記多孔性基材を50〜100℃の温度下、30〜180分間乾燥させる、項7または8に記載の吸水性多孔シートの製造方法。
項10. 項1〜6のいずれかに記載の吸水性多孔シートを備える、加湿装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加湿装置に適用された際に、長期間にわたって高い抗微生物性を維持でき、かつ、吸水性にも優れる吸水性多孔シートを提供することができる。さらに、本発明によれば、当該吸水性多孔シートを備えた加湿装置、及び当該吸水性多孔シートの製造方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】加速通水試験を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の吸水性多孔シートは、多孔性基材と、多孔性基材の表面の少なくとも一部を覆うシリカ粒子と、シリカ粒子の表面の少なくとも一部に担持された抗微生物剤とを含むことを特徴とする。以下、本発明の吸水性多孔シート、当該吸水性多孔シートの製造方法、及び当該吸水性多孔シートを備えた加湿装置について詳述する。
【0015】
1.吸水性多孔シート
本発明の吸水性多孔シートは、多孔性基材と、多孔性基材の表面の少なくとも一部を覆うシリカ粒子と、シリカ粒子の表面の少なくとも一部に担持された抗微生物剤とを含む。
【0016】
多孔性基材としては、多孔性であり、後述のシリカ粒子によって表面の少なくとも一部を覆うことにより、吸水できるシート状の基材であれば、特に制限されない。多孔性基材は、多孔性基材を構成する素材の間隔によって形成された気孔を多数有し、通常、一方側の面から他方側の面に貫通する連続気孔と、一方側の面から他方側の面に通じていない非貫通性の気孔とを、それぞれ多数有する。連続気孔としては、構成素材の間隔をぬって折れ曲がり、一方の面から他方の面に貫通しているものや、一方の面から他方の面に直線的に貫通しているものなどが挙げられる。
【0017】
多孔性基材としては、好ましくは、繊維により構成されたもの、すなわち、繊維をシート状に成形したものが挙げられる。多孔性基材が繊維により構成されている場合、繊維間が上記の気孔を形成する。
【0018】
繊維としては、例えば、有機繊維、無機繊維、またはこれらを組み合わせた複合繊維などを使用することができる。有機繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維などが挙げられ、好ましくはポリエステル繊維などが挙げられる。また、無機繊維としては、例えば、ガラス繊維などが挙げられる。繊維は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
多孔性基材が繊維により構成される場合、多孔性基材の形態としては、例えば、長繊維または短繊維からなる不織布、織物、編物などが挙げられ、これらの中でも短繊維からなる不織布が好ましい。不織布としては、ニードルパンチ法、スパンレース法、抄紙法等公知の方法により得られるものが挙げられる。
【0020】
繊維の繊度としては、多孔性基材が多孔性となり、後述のシリカ粒子によって表面の少なくとも一部を覆うことができれば、特に制限されない。スケール抑制のため水が絶えず流れるようにしつつ、吸水性多孔シート全体に水が行き渡るようにする観点から、繊維の繊度は1〜30dtexが好ましく、3〜17dtexがより好ましい。
【0021】
多孔性基材が繊維により構成される場合、多孔性基材の厚みと気孔率を制御する観点から、バインダーの役割をする融着繊維を含むことが好ましい。融着繊維としては、例えば芯鞘構造を有する有機繊維が挙げられる。芯鞘構造を有する有機繊維の具体例としては、例えば、芯部がポリエチレンテレフタレートなどにより構成されており、鞘部がポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体などにより構成されているものが挙げられ、市販品としてはユニチカ社製の商品名メルテイ4080などが挙げられる。多孔性基材を構成する繊維全体に対する融着繊維の割合(質量%)は、10〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0022】
多孔性基材の形態を短繊維からなる不織布とした場合の繊維長としては、例えば、ニードルパンチ法、スパンレース法により得られる場合、好ましくは10〜100mm程度、より好ましくは30〜80mm程度が挙げられる。また、例えば、抄紙法により得られる場合の繊維の繊維長としては、好ましくは3〜30mm程度、より好ましくは3〜10mm程度が挙げられる。
【0023】
また、多孔性基材は、剛性、耐久性などの強度を高めることなどを目的として、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などの樹脂(以下、「強化樹脂」ということがある)を含んでいてもよい。例えば、多孔性基材が繊維により構成されている場合、これらの強化樹脂は、繊維間において繊維同士を結合し、多孔性基材の強度を高めるように機能する。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂などが挙げられ、これらの中でも好ましくは150℃以下の温度で熱流動性を示すフェノール樹脂が挙げられる。なお、かかる熱流動性を示すフェノール樹脂とは、JIS−K−6911〔成形材料(円板式流れ)〕に基づく伸びが3〜15cmのものをいう。熱流動性を有するフェノール樹脂の形態としては、粉粒体状であるものが好ましく、かかるフェノール樹脂の具体例としては、フェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られる熱硬化性のフェノール・アルデヒド樹脂、フェノール類とアルデヒド類と含窒素化合物とを反応させて得られる熱硬化性の含窒素フェノール・アルデヒド樹脂などが挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。本発明において、強化樹脂を用いる場合、多孔性基材中における繊維と強化樹脂との質量比は、例えば50:50〜95:5程度、好ましくは60:40〜80:20程度とすることができる。
【0024】
なお、多孔性基材が強化樹脂を含む場合、後述するシリカ粒子の吸湿剤としての機能と、抗微生物剤を効果的に担持する担体としての機能とを阻害しないようにする。これらの機能を阻害しないようにする方法としては、例えば、先に多孔性基材に強化樹脂を含浸させ、熱処理して強化樹脂含有多孔性基材を得た後、これを極性有機溶媒にシリカ粒子及び抗微生物剤が分散された後述の分散体に当該基材を浸漬する方法が挙げられる。この方法により、シリカ粒子や抗微生物剤が強化樹脂中に取り込まれることを抑制することができる。
【0025】
多孔性基材における繊維密度(繊維の目付)は、基材の厚みによって異なるが、例えば厚み2mmの基材の場合、500〜900g/m
2程度が挙げられる。
【0026】
本発明の吸水性多孔シートにおいて、シリカ粒子は、多孔性基材の表面の少なくとも一部を覆い、多孔性基材の親水性を高める吸湿剤として機能することに加えて、後述の抗微生物剤を効果的に担持する担体として機能し、抗微生物剤による抗微生物性を高める。本発明の吸水性多孔シートにおいては、シリカ粒子としてコロイダルシリカを用い、コロイダルシリカを多孔性基材に含浸、乾燥して得られるものが特に好ましい。コロイダルシリカを用いた場合、シリカ粒子を多孔性基材の外側部分だけでなく、多孔性基材全体に均一性高く付着させることができる。シリカ粒子が多孔性基材全体に均一性高く付着していることにより、吸水性多孔シートの吸水性をより高めることが可能となり、さらに、後述の通り、シリカ粒子に担持された抗微生物剤による、より長期間の優れた抗微生物性を奏することができる。
【0027】
シリカ粒子の形状としては、例えば、球状、多面体状などが挙げられる。また、シリカ粒子の一次粒子径としては、1〜300nm程度、好ましくは1〜100nm程度が挙げられる。なお、シリカ粒子の一次粒子径は、JIS Z 8830 2013 窒素吸着BET法により測定される比表面積を、球状粒子の直径として換算し得られた値である。
【0028】
本発明の吸水性多孔シートにおけるシリカ粒子の含有量としては、好ましくは0.5〜10質量%程度、より好ましくは1〜6質量%程度が挙げられる。
【0029】
本発明の吸水性多孔シートにおいて、抗微生物剤は、上記シリカ粒子の表面の少なくとも一部に担持されており、吸水性多孔シートが加湿装置に適用された場合に、加湿装置に細菌やカビなどの微生物が繁殖することを抑制するために用いられる。上述の通り、従来、加湿装置に使用される吸水性多孔シートにおいて、抗微生物剤が水によって流出し、抗微生物性が経時によって大幅に低下するという問題があった。そこで、例えば特許文献1や特許文献2などにおいては、吸水性多孔シートに抗菌剤などを長期間にわたって保持させるために、吸水性多孔シートを構成する繊維や合成樹脂エマルジョンに抗菌剤を練り込むことが提案されている。しかしながら、これらの方法では、抗菌剤などは長期間にわたって保持できるものの、繊維や合成樹脂エマルジョンの表面に位置する抗菌剤などの量は、少なくならざるを得ない。このため、特許文献1や特許文献2に開示されたような方法では、長期間にわたる高い抗微生物性を維持することは困難である。これに対して、本発明においては、上記のシリカ粒子の表面の少なくとも一部の上に抗微生物剤が担持されているため、吸水性多孔シートは、加湿装置に適用された際に、長期間にわたって高い抗微生物性を維持できる。
【0030】
本発明においては、抗微生物剤が繊維や合成樹脂エマルジョンなどに練り込まれていないにもかかわらず、長期間にわたって高い抗微生物性を維持することができる機序の詳細は必ずしも明らかではないが、例えば次のように考えることができる。すなわち、本発明の吸水性多孔シートでは、多孔性基材の表面の少なくとも一部をシリカ粒子が覆っており、さらにシリカ粒子の表面に抗微生物剤が担持されている。そして、抗微生物剤が担持されたシリカ粒子は、多孔性基材の表面上で凝集しており、抗微生物剤がシリカ粒子の凝集体中に取り込まれていると考えられる。このような凝集体においては、凝集体内部に位置する抗微生物剤が外部と完全には遮断されていないため、凝集体の内側に位置する抗微生物剤も水の流れなどによって徐々に凝集体の外側に移動することができる。このため、凝集体の外側に位置する抗微生物剤が水に流された場合にも、内側に位置する抗微生物剤が外側に移動することによって、長期間にわたって抗微生物性が維持されるものと考えられる。特に、コロイダルシリカを用いた場合、シリカ粒子は、多孔性基材の表面で好適に凝集体を形成することができると考えられる。従って、シリカ粒子としてコロイダルシリカを用いた場合には、より長期間にわたって高い抗微生物性を維持できる。さらに、シリカ粒子としてコロイダルシリカを用いた場合、多孔性基材全体に均一性高くシリカ粒子を付着させることができる。このため、シリカ粒子に担持された抗微生物剤も、シリカ粒子と共に多孔性基材の内部にまで担持させることができる。なお、合成樹脂エマルジョンとシリカ粒子と抗微生物剤とを含む溶媒中に多孔性基材を浸漬し、シリカ粒子で被覆された合成樹脂エマルジョンを多孔性基材に担持する方法も考えられる。しかしながら、このような方法では、シリカ粒子が合成樹脂エマルジョンの表面において略均一に被覆されるため、シリカ粒子が凝集体を形成しにくい。したがって、合成樹脂エマルジョンを用いた方法では、抗微生物剤を取り込むことが可能な凝集体が非常に少なくなるため、長期間にわたって高い抗微生物性を維持することは困難である。
【0031】
さらに、本発明の吸水性多孔シートは、吸水性にも優れる。これは、本発明の吸水性多孔シートは、多孔性基材全体に均一性高くシリカ粒子が付着していることに起因すると考えられる。特に、シリカ粒子としてコロイダルシリカを用いた場合には、多孔性基材全体に、より均一性高く付着させることができるため、吸水性多孔シートの吸水性をより一層高めることができる。
【0032】
本発明の吸水性多孔シートは、長期間にわたって高い抗微生物性を維持でき、かつ、吸水性にも優れるため、例えば後述するような加湿装置に好適に使用することができる。特に、本発明の吸水性多孔シートは、吸水性多孔シートの下部から水を吸い上げて用いる吸い上げ方式の加湿装置に特に好適に使用することができる。
【0033】
本発明の吸水性多孔シートにおいて、抗微生物剤としては、上記のシリカ粒子に担持できるものであれば、特に制限されないが、水による流失を抑制する観点からは、例えば、水への溶解度が600ppm以下であり、水への溶解度の低いものが好ましい。抗微生物剤としては、公知の抗菌剤、抗カビ剤などを使用することができる。抗菌剤の具体例としては、イルガサン(登録商標、別名:トリクロサン、IUPAC名:5−クロロ−2−[2,4−ジクロロフェノキシル]フェノール)、塩酸クロルヘキシジン、ジンクピリチオン(IUPAC名:ビス(2−ピリジルチオ)亜鉛−1,1’−ジオキサイド)、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールなどが挙げられる。また、抗カビ剤の具体例としては、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、チアベンダゾール、フルオロフォルペット(IUPAC名:2−(ジクロロ−フルオロメチル)スルファニルイソインドール−1,3−ジオン)、クロルキシレノール、カルベンダジン、キャプタン、クロロタロニル及びメチルスルホニルテトラクロルピリジンなどが挙げられる。抗微生物剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、抗菌剤と抗カビ剤とを併用してもよい。
【0034】
本発明の吸水性多孔シートにおいて、上記のシリカ粒子と抗微生物剤との合計における、抗微生物剤の含有量としては、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜20質量%程度が挙げられる。抗微生物剤の含有量がこのような範囲にあることにより、抗微生物剤による優れた抗微生物性と、シリカ粒子による高い吸水性とを効果的に発揮することができる。
【0035】
上記の通り、本発明の多孔性基材は、上記のような気孔を多数有するため、本発明の吸水性多孔シートも、同様の気孔を多数有する。吸水性多孔シートが連続気孔を有するか否かは、例えば、次のようにして判断することができる。まず、吸水性多孔シートを直径10mm、厚さ1mmの円板状に切り抜き、この円板に1Nl/minの割合で空気を流した場合に、圧力損失が1000mmH
2O/mm以下の場合に連続気孔を有すると判断する。本発明の吸水性多孔シートは、当該圧力損失が500mmH
2O/mm以下であることが好ましい。
【0036】
本発明における吸水性多孔シートの気孔率としては、好ましくは60〜85%程度、より好ましくは65〜80%程度が挙げられる。気孔率がこのような範囲にあることによって、吸水性多孔シートにより優れた吸水性とより高い強度を付与することができる。なお、本発明において、気孔率とは、吸水性多孔シートの全容積における気孔の容積比率を百分率で表したものであり、次のようにして測定して得られた値である。すなわち、まず、吸水性多孔シートの乾燥重量W(g)と体積V(cm
3)を測定し、次に吸水性多孔シートの比重ρ(g/cm
3)を測定して、以下の式により算出することができる。
【数1】
【0037】
本発明における吸水性多孔シートの吸水性としては、以下の条件で測定して得られた値が150秒以内であることが好ましく、100秒以内であることがより好ましく、80秒以内であることがさらに好ましい。
<吸水性の測定条件>
吸水多孔シートを幅20mm、長さ150mm、厚み2mmにカットし、長手方向に垂直に立てた状態で下端から30mmの高さまで水中に浸漬し、浸漬してから水が水面から70mmの高さに上昇するまでの時間を測定する。
【0038】
本発明の吸水性多孔シートは、200ml/hの速度で、75L、好ましくは150L、さらに好ましくは225Lの通過水量となるようにして、長さ方向(厚み方向とは垂直方向)に水を流した後において、JIS L1902−2008(繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果)9定性試験(ハロー法)に準拠した抗菌性及び抗カビ性試験を行った場合に、吸水性多孔シートの周囲に菌及びカビが繁殖しない阻止帯(ハロー)が形成される。このため、本発明の吸水性多孔シートは、加湿装置に適用された際に長期間にわたって高い抗微生物性を維持できる。
【0039】
2.吸水性多孔シートの製造方法
本発明の吸水性多孔シートは、例えば次のようにして製造することができる。まず、多孔性基材を準備する。多孔性基材はニードルパンチ法、抄紙法等を用いて成形した不織布、織物や編物などが挙げられる。上記の多孔性基材が融着繊維を含み、加熱圧縮して所定の厚み、気孔率に調整して固定化する場合、加熱温度としては、融着繊維の融着成分の融点に応じて適宜設定すればよい。例えば融点110℃の上述のメルティ4080を融着繊維として使用する場合、加熱温度は130〜200℃程度が挙げられる。圧力としては、10,000〜30,000kg/m
2程度が挙げられる。また、吸水性多孔シートの剛性、耐久性などの強度を高めることなどを目的として上記の強化樹脂を用いる場合、上記の繊維を強化樹脂の分散液に浸漬し、遠心分離機や絞りローラーなどで分散液を絞った後、上記のようにして加熱圧縮することにより、多孔性基材に強化樹脂を含浸することができる。なお、強化樹脂を分散させる溶媒としては、特に制限されず、例えば、水、メタノール、エタノール、メチルケトン、エチレングリコールなどが挙げられる。強化樹脂の分散液中の強化樹脂の割合は、例えば、5〜50質量%程度とすればよい。また、強化樹脂の分散液には、必要に応じて、カルボキシメチルセルロースなどの増粘剤を配合してもよい。
【0040】
次に、極性有機溶媒に上記のシリカ粒子及び抗微生物剤が分散された分散体に多孔性基材を浸漬する浸漬工程を行う。浸漬工程に用いられる極性有機溶媒としては、シリカ粒子及び抗微生物剤を分散させることができれば、特に制限されないが、シリカ粒子及び抗微生物剤の分散性に優れ、抗微生物剤をシリカ粒子に担持させた状態で多孔性基材全体に均一性高く当該シリカ粒子を付着させる観点からは、炭素数1〜6程度の低級アルコール、アセトン、ジエチルエーテルなどが好ましく、これらの中でも特にメタノール、イソプロピルアルコール(IPA)が好ましい。これらの極性溶媒を用いることにより、シリカ粒子を多孔性基材の内側にまで均一に担持させることができ、かつ、シリカ粒子によって形成される上記のような凝集体の内側に抗微生物剤を取り込ませることが可能になるため、長期間にわたって高い抗微生物性を維持でき、かつ、吸水性にも優れる吸水性多孔シートが得られる。極性有機溶媒は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよいし、水と混合して使用してもよい。浸漬工程において、極性有機溶媒に含まれるシリカ粒子の濃度は、例えば1〜30質量%程度とすればよい。また、抗微生物剤の濃度は、例えば0.1〜10質量%程度とすればよい。
【0041】
次に、上記の浸漬工程で浸漬した多孔性基材を乾燥させる乾燥工程を行う。乾燥工程は、多孔性基材を上記の分散体から引き上げて、極性有機溶媒を乾燥させることにより行うことができる。極性有機溶媒を乾燥させる方法としては、特に制限されないが、例えば、遠心分離機、ロールプレス機などを用い、分散体の絞り率が10〜150質量%程度となるように浸漬した多孔性基材を絞った後、温度50〜100℃程度の乾燥機で0.5〜15時間程度乾燥させることにより行うことができる。以上のようにして、本発明の吸水性多孔シートが得られる。
【0042】
3.加湿装置
本発明の加湿装置は、上記の吸水性多孔シートを備える。このため、加湿装置は、長期間にわたって高い抗微生物性を維持でき、かつ、吸水性にも優れる。本発明の加湿装置の具体例を、
図1の模式図を用いて説明する。本発明の加湿装置10は、主に気化式の加湿装置として、空調機などに搭載されて用いられる。加湿装置10においては、複数の吸水性多孔シート1が、略等間隔で、互いに略平行となるように配列されている。各吸水性多孔シート1の一部は、槽2の給水槽2a中に挿入されており、給水槽2aには、給水管2a1から供給された水3が貯められている。給水槽2aは、吸水性多孔シート1に水3を供給する水供給手段として機能する。具体的には、吸水性多孔シート1の端部1a1が、給水槽2aの中にある水3に浸漬されており、吸水部1aを形成している。吸水性多孔シート1においては、毛管現象の働きによって、吸水部1aから水が吸い上げられ、吸水性多孔シート1全体に水が行き渡る。そして、複数の吸水性多孔シート1の間を通る風により、吸水性多孔シート1の加湿部1bの表面から水が気化し、空気が加湿される。また、吸水性多孔シート1の加湿部1bの下部において、気化しなかった水が排水槽2bにドレンされ、排水管2b1により排出される。排水槽2bと給水槽2aとは、間仕切壁4によって隔てられている。このように、加湿装置10内においては、水が絶えず流れており、これにより、加湿装置10中にスケールが溜まることが抑制されている。したがって、吸水性多孔シート1に抗微生物剤が含まれる場合にも、吸水性多孔シート1において抗微生物剤が強固に付着していなければ、この水の流れによって抗微生物剤が流出してしまうが、本発明の吸水性多孔シート1においては、抗微生物剤がシリカ粒子に担持されているため、水の流れによっても抗微生物剤が流出し難い。このため、本発明の加湿装置においては、長期間にわたって高い抗微生物性を維持できる。さらに、本発明の加湿装置においては、シリカ粒子が吸水性多孔シート1全体に均一に付着しているため、吸水性にも優れる。このため、本発明の加湿装置は、空調機などに適用される加湿器に好適に用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0044】
実施例1
繊度11dtex、繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート短繊維80質量部と、芯部が繊度4.4dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレート及び鞘部が融点110℃のポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体である芯鞘型複合短繊維20質量部とからなる混繊不織布(目付700g/m
2)を、加熱プレス成形機にて170℃、2kg/cm
2で5分間加熱加圧し、厚み2mmの部分融着した多孔性基材を得た。次に、下記処方1とした分散液に、得られた多孔性基材を含浸し、遠心分離機で絞り率50質量%に絞った後、雰囲気温度60℃とした乾燥機中で12時間乾燥し、吸水性多孔シート(気孔率73%)を得た。なお、吸水性多孔シートにおけるコロイダルシリカの含有量は、2.4質量%である。また、イルガサン及び3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメートの合計含有量は、コロイダルシリカとの合計中、17質量%である。
【0045】
<処方1>
コロイダルシリカ(一次粒子径10nm) 5質量%
イルガサン 0.5質量%
3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート 0.5質量%
イソプロピルアルコール(IPA) 残部
【0046】
実施例2
繊度11dtex、繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート短繊維80質量部と、芯部が繊度4.4dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレート及び鞘部が融点110℃のポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体である芯鞘型複合短繊維20質量部とからなる混繊不織布(目付450g/m
2)を、フェノール樹脂(ユニチカ社製ユニベックスUA−30)と増粘剤(CMC:カルボキシメチルセルロース)を含む分散液に含浸し、ロールプレス機で絞った後、乾燥炉を通過させて乾燥し、樹脂含浸混繊不織布(目付750g/m
2)とした。次いで、樹脂含浸混繊不織布を加熱プレス成形機にて170℃、2kg/cm
2で5分間加熱加圧し、厚み2mmの部分融着した多孔性基材を得た。次に、前記処方1とした分散液に、得られた多孔性基材を含浸し、遠心分離機で絞り率50質量%に絞った後、雰囲気温度60℃とした乾燥機中で12時間乾燥し、吸水性多孔シート(気孔率73%)を得た。なお、吸水性多孔シートにおけるコロイダルシリカの含有量と、イルガサン及び3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメートの合計含有量は、実施例1と同様である。
【0047】
実施例3
繊度3.3dtex、繊維長5mmのポリエチレンテレフタレート短繊維30質量部と、芯部が繊度4.4dtex、繊維長5mmのポリエチレンテレフタレート及び鞘部が融点110℃のポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体である芯鞘型複合短繊維30質量部と、フェノール樹脂(ユニチカ社製ユニベックスUA−30)40質量部とを、乾式抄紙機にて混合成形した樹脂混合混繊不織布(目付700g/m
2)を加熱プレス成形機にて170℃、2kg/cm
2で5分間加熱加圧し、厚み2mmの部分融着した多孔性基材を得た。次に、前記処方1とした分散液に、得られた多孔性基材を含浸し、遠心分離機で絞り率50質量%に絞った後、雰囲気温度60℃とした乾燥機中で12時間乾燥し、吸水性多孔シート(気孔率73%)を得た。なお、吸水性多孔シートにおけるコロイダルシリカの含有量と、イルガサン及び3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメートの合計含有量は、実施例1と同様である。
【0048】
実施例4
分散液を下記処方3とした以外は、実施例1と同様に行い、吸水性多孔シート(気孔率73%)を得た。なお、吸水性多孔シートにおけるコロイダルシリカの含有量は、1.0質量%である。また、イルガサン及び3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメートの合計含有量は、コロイダルシリカとの合計中、33質量%である。
<処方3>
コロイダルシリカ(一次粒子径10nm) 2質量%
イルガサン 0.5質量%
3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート 0.5質量%
イソプロピルアルコール(IPA) 残部
【0049】
比較例1
繊度11dtex、繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート短繊維80質量部と、芯部が繊度4.4dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレート及び鞘部が融点110℃のポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体である芯鞘型複合短繊維20質量部とからなる混繊不織布(目付700g/m
2)を、下記処方4の分散液に含浸し、ロールプレス機で、絞り率100質量%で絞った後、乾燥炉を通過させて乾燥し、薬剤含浸混繊不織布を得た。
【0050】
<処方4>
イルガサン 0.5質量%
3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート 0.5質量%
増粘剤(CMC:カルボキシメチルセルロース) 3.0質量%
水 残部
【0051】
次に、薬剤含浸混繊不織布を加熱プレス成形機にて180℃、1kg/cm
2で5分間加熱加圧し、厚み2mmの部分融着した多孔性基材を得た。さらに、下記処方5とした分散液に、前記多孔性基材を含浸し、遠心分離機で絞り率50質量%に絞った後、雰囲気温度60℃とした乾燥機中で12時間乾燥し、吸水性多孔シート(気孔率73%)を得た。
<処方5>
コロイダルシリカ(一次粒子径10nm) 5質量%
イソプロピルアルコール(IPA) 残部
【0052】
比較例2
繊度11dtex、繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート短繊維80質量部と、芯部が繊度4.4dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレート及び鞘部が融点110℃のポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体である芯鞘型複合短繊維20質量部とからなる混繊不織布(目付450g/m
2)を、下記処方6とした分散液に含浸し、ロールプレス機で絞り率100質量%として絞った後、乾燥炉を通過させて乾燥し、樹脂薬剤含浸混繊不織布(目付750g/m
2)とした。
【0053】
<処方6>
水 残部
フェノール樹脂(ユニチカ社製ユニベックスUA−30) 67質量%
イルガサン 0.5質量%
3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート 0.5質量%
増粘剤(CMC:カルボキシメチルセルロース) 3.0質量%
【0054】
次に、樹脂薬剤含浸混繊不織布を加熱プレス成形機にて170℃、2kg/cm
2で5分間加熱加圧し、厚み2mmの部分融着した多孔性基材を得た。さらに、前記処方5とした分散液に、得られた多孔性基材を含浸し、遠心分離機で絞り率50質量%に絞った後、雰囲気温度60℃とした乾燥機中で12時間乾燥し、吸水性多孔シート(気孔率73%)を得た。
【0055】
比較例3
繊度3.3dtex、繊維長5mmのポリエチレンテレフタレート短繊維30質量部と、芯部が繊度4.4dtex、繊維長5mmのポリエチレンテレフタレート及び鞘部が融点110℃のポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体である芯鞘型複合短繊維30質量部と、フェノール樹脂(ユニチカ社製ユニベックスUA−200)40質量部と、イルガサン1質量部と、チアベンダゾール1質量部とを、乾式抄紙機にて混合成形した樹脂混合混繊不織布(目付700g/m
2)を加熱プレス成形機にて170℃、2kg/cm
2で5分間加熱加圧し、厚み2mmの部分融着した多孔性基材を得た。次に、前記処方5とした分散液に、得られた多孔性基材を含浸し、遠心分離機で絞り率50質量%に絞った後、雰囲気温度60℃とした乾燥機中で12時間乾燥し、吸水性多孔シート(気孔率73%)を得た。
【0056】
次に、実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた吸水性多孔シートについて以下のような加速通水試験を実施し、0L、75L、150L、225Lの各通過水量通水後における抗菌性、抗カビ性を以下のように評価した。また、実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた吸水性多孔シートの吸水性を以下のようにして測定した。
【0057】
<加速通水試験>
加速通水試験の様子を
図2に示す。各実施例において得られた吸水性多孔シートを幅60mm、長さ450mm、厚み2mmにカットし、長さ方向において上端から100mmの箇所に折り目を付け、折り目から上端までの部分を、幅60mm、長さ100m、厚み5mmにカットした下記の挟み込む吸水性多孔シート11で上下から挟み込み、吸水性多孔シートの厚み部分から水が漏れないように側面の1つを取り除いた容器に固定した。容器は水平になるように台の上に固定し、吸水性多孔シートの折り目から下端までの部分を、容器の側面を取り除いた部分から45度の角度で垂れ下がるようにした。固定した部分の中央部に、水道水が吸水性多孔シートの表面を走らず、吸水性多孔シートに吸収されシート内部の気孔を通過して下端から滴下するように、水道水を200ml/hの速度で所定の通過水量に達するまで滴下した。所定の通過水量に達した時点で吸水性多孔シートの下端から50mmの部分を切り取り、抗菌性及び防カビ性評価のための試料とした。
【0058】
(挟み込む吸水性多孔シート)
繊度11dtex、繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート短繊維80質量部と、芯部が繊度4.4dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレート及び鞘部が融点110℃のポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体である芯鞘型複合短繊維20質量部とからなる混繊不織布(目付700g/m
2)を、加熱プレス成形機にて170℃、2kg/cm
2で5分間加熱加圧し、厚み2mmの部分融着した多孔性基材を得た。次に、下記処方7とした分散液に、得られた多孔性基材を含浸し、遠心分離機で絞り率50質量%に絞った後、雰囲気温度60℃とした乾燥機中で12時間乾燥し、上記挟み込む吸水性多孔シート(気孔率73%)を得た。
【0059】
<処方7>
コロイダルシリカ(一次粒子径10nm) 5質量%
イソプロピルアルコール(IPA) 残部
【0060】
<抗菌性>
JIS L1902−2008(繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果)9定性試験(ハロー法)に準拠して抗菌性を評価した。吸水性多孔シートを28mm×28mmにカットして試験片とし、普通寒天培地に大腸菌、黄色ブドウ球菌を加えた培地をシャーレに入れて固め、試験片を中央に置いた。このシャーレを37℃で48時間放置し、培地上に菌が繁殖した状況で、試験片の周囲に菌が繁殖しない阻止帯(ハロー)の有無を確認し、吸水性多孔シートの抗菌性を評価した。試料の周囲に阻止帯のあるものは抗菌性があるものとして+とし、阻止帯のないものは抗菌性がないものとして−とした。結果を表1に示す。
【0061】
<抗カビ性>
抗菌性と同様にJIS L1902−2008(繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果)9定性試験(ハロー法)に準拠して抗カビ性を評価した。吸水性多孔シートを28mm×28mmにカットして試験片とし、普通寒天培地に濃度が10
6〜10
7個/mlの黒コウジ黴、青黴を加えた培地をシャーレに入れて固め、試験片を中央に置いた。このシャーレを37℃で48時間放置し、培地上にカビが繁殖した状況で、試験片の周囲にカビが繁殖しない阻止帯(ハロー)の有無を確認し、吸水性多孔シートの抗カビ性を評価した。試料の周囲に阻止帯のあるものは抗カビ性があるものとして+とし、阻止帯のないものは抗カビ性がないものとして−とした。
【0062】
<吸水性>
得られた吸水性多孔シートを幅20mm、長さ150mm、厚み2mmにカットし、長手方向に垂直に立てた状態で下端から30mmの高さまで水中に浸漬し、浸漬してから水が水面から70mmの高さに上昇するまでの時間を測定し、吸水性を評価した。実用性の観点から、100秒以内を合格とした。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示されるように、抗微生物剤を担持したシリカ粒子で多孔性基材の表面を覆った実施例1〜4の吸水性多孔シートでは、加速通水試験で150Lの水を流した後にも、優れた抗菌性及び抗カビ性を有しており、吸水性にも優れていた。特に、シリカ粒子と抗微生物剤との合計量に対する抗微生物剤の量が15〜20質量%の範囲内である実施例1〜3の吸水性多孔シートでは、225Lの水を流した後にも、優れた抗菌性及び抗カビ性を有していた。一方、シリカ粒子を用いなかった比較例1の吸水性多孔シートでは、加速通水試験で75Lの水を流した時点で、既に抗菌性及び抗カビ性が失われていた。また、シリカ粒子の代わりにフェノール樹脂を用いた比較例2の吸水性多孔シートにおいても、加速通水試験で75Lの水を流した時点で、既に抗菌性及び抗カビ性が失われていた。さらに、フェノール樹脂と抗微生物剤とを繊維と共に加熱加圧して、フェノール樹脂中に抗微生物剤が含まれるようにした比較例3の吸水性多孔シートについても、加速通水試験で75Lの水を流した時点で、既に抗菌性及び抗カビ性が失われていた。
【符号の説明】
【0065】
1…吸水性多孔シート
1a…吸水部
1a1…端部
1b…加湿部
2…槽
2a…給水槽
2a1…給水管
2b…排水槽
2b1…排水管
3…水
4…間仕切壁
10…加湿装置
11…挟み込み吸水性多孔シート
【手続補正書】
【提出日】2014年1月22日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性基材と、
前記多孔性基材の表面の少なくとも一部を覆うシリカ粒子と、
前記シリカ粒子の表面の少なくとも一部に担持された抗微生物剤と、
を含む、吸水性多孔シート。
【請求項2】
前記多孔性基材が、繊維により構成されてなる、請求項1に記載の吸水性多孔シート。
【請求項3】
前記シリカ粒子の含有量が、0.1〜10質量%である、請求項1または2に記載の吸水性多孔シート。
【請求項4】
前記シリカ粒子と前記抗微生物剤との合計における、前記抗微生物剤の含有量が、10〜50質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
【請求項5】
前記シリカ粒子と前記抗微生物剤との合計における、前記抗微生物剤の含有量が、15〜20質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
【請求項6】
前記抗微生物剤が、抗菌剤及び抗カビ剤の少なくとも一方を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
【請求項7】
前記抗微生物剤が、トリクロサン、クロルヘキシジン、ジンクピリチオン、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、チアベンダゾール、フルオロフォルペット、クロルキシレノール、カルベンダジン、キャプタン、クロロタロニル、及びメチルスルホニルテトラクロルピリジンからなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
【請求項8】
下記測定条件で測定される時間が150秒以内である吸水性を備える、請求項1〜7のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
<吸水性の測定条件>
吸水性多孔シートを幅20mm、長さ150mm、厚み2mmにカットし、長手方向に垂直に立てた状態で下端から30mmの高さまで水中に浸漬し、浸漬してから水が水面から70mmの高さに上昇するまでの時間を測定する。
【請求項9】
200ml/hの速度で75Lの通過水量となるようにして、長さ方向(厚み方向とは垂直方向)に水を流した後において、JIS L1902−2008に準拠した抗菌性及び抗カビ性試験を行った場合に、吸水性多孔シートの周囲に菌及びカビが繁殖しない阻止帯が形成される、請求項1〜8のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
【請求項10】
極性有機溶媒にシリカ粒子及び抗微生物剤が分散された分散体に多孔性基材を浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程の後、前記多孔性基材を乾燥させる乾燥工程と、
を備える、請求項1〜9のいずれかに記載の吸水性多孔シートの製造方法。
【請求項11】
前記極性有機溶媒として、炭素数1〜6の低級アルコール、アセトン、及びジエチルエーテルからなる群から選択された少なくとも1種を用いる、請求項10に記載の吸水性多孔シートの製造方法。
【請求項12】
前記乾燥工程において、前記多孔性基材を50〜100℃の温度下、30〜180分間乾燥させる、請求項10または11に記載の吸水性多孔シートの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の吸水性多孔シートを備える、加湿装置。
【手続補正書】
【提出日】2014年9月16日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性有機溶媒にコロイダルシリカ及び抗微生物剤が分散された分散体に多孔性基材を浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程の後、前記多孔性基材を乾燥させる乾燥工程と、
を備える方法により得られた、吸水性多孔シート。
【請求項2】
前記コロイダルシリカに由来するシリカ粒子と、前記抗微生物剤が、吸水性多孔シートの表面に存在している、請求項1に記載の吸水性多孔シート。
【請求項3】
前記多孔性基材が、繊維により構成されてなる、請求項1または2に記載の吸水性多孔シート。
【請求項4】
前記シリカ粒子の含有量が、0.1〜10質量%である、請求項2に記載の吸水性多孔シート。
【請求項5】
前記シリカ粒子と前記抗微生物剤との合計における、前記抗微生物剤の含有量が、10〜50質量%である、請求項2〜4のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
【請求項6】
前記シリカ粒子と前記抗微生物剤との合計における、前記抗微生物剤の含有量が、15〜20質量%である、請求項2〜4のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
【請求項7】
前記抗微生物剤が、抗菌剤及び抗カビ剤の少なくとも一方を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
【請求項8】
前記抗微生物剤が、トリクロサン、塩酸クロルヘキシジン、ジンクピリチオン、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、チアベンダゾール、フルオロフォルペット、クロルキシレノール、カルベンダジン、キャプタン、クロロタロニル、及びメチルスルホニルテトラクロルピリジンからなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
【請求項9】
下記測定条件で測定される時間が150秒以内である吸水性を備える、請求項1〜8のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
<吸水性の測定条件>
吸水性多孔シートを幅20mm、長さ150mm、厚み2mmにカットし、長手方向に垂直に立てた状態で下端から30mmの高さまで水中に浸漬し、浸漬してから水が水面から70mmの高さに上昇するまでの時間を測定する。
【請求項10】
200ml/hの速度で75Lの通過水量となるようにして、長さ方向(厚み方向とは垂直方向)に水を流した後において、JIS L1902−2008に準拠した抗菌性及び抗カビ性試験を行った場合に、吸水性多孔シートの周囲に菌及びカビが繁殖しない阻止帯が形成される、請求項1〜9のいずれかに記載の吸水性多孔シート。
【請求項11】
極性有機溶媒にコロイダルシリカ及び抗微生物剤が分散された分散体に多孔性基材を浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程の後、前記多孔性基材を乾燥させる乾燥工程と、
を備える、吸水性多孔シートの製造方法。
【請求項12】
前記極性有機溶媒として、炭素数1〜6の低級アルコール、アセトン、及びジエチルエーテルからなる群から選択された少なくとも1種を用いる、請求項11に記載の吸水性多孔シートの製造方法。
【請求項13】
前記乾燥工程において、前記多孔性基材を50〜100℃の温度下、30〜180分間乾燥させる、請求項11または12に記載の吸水性多孔シートの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載の吸水性多孔シートを備える、加湿装置。