特開2015-108264(P2015-108264A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-108264(P2015-108264A)
(43)【公開日】2015年6月11日
(54)【発明の名称】岸壁補強構造及び岸壁補強方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20150515BHJP
【FI】
   E02B3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-251937(P2013-251937)
(22)【出願日】2013年12月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000141521
【氏名又は名称】株式会社技研製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】北村 精男
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA02
2D118BA05
2D118FB11
2D118FB39
2D118GA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】様々な岸壁に低コストで施工できる岸壁補強構造及び岸壁補強方法を提供する。
【解決手段】複数のスリット開口部を設けた鋼管杭10を岸壁1に沿って列状に埋設し、スリット開口部を杭材内部より押圧して拡開した後、鋼管杭10内に固化材料20を加圧充填し、鋼管杭10の海底への根入れ部分であって岸壁1とは反対面側の海側の地盤に突部10aを形成しする。鋼管杭10の前面に形成した複数の突部10aによって、鋼管杭10の根入れ部分の前面側(海側)の地盤G1を圧密補強するとともに、背面側(岸壁1側)の地盤G1も圧密補強することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
岸壁に沿って列状に埋設された複数の鋼管杭を備えた岸壁補強構造であって、
前記鋼管杭の周面には杭材内部より押圧されて拡開する少なくとも一葉の切片を有する複数のスリット開口部が設けられており、拡開した前記スリット開口部に固化材料を充填して形成した突部を有することを特徴とする岸壁補強構造。
【請求項2】
前記スリット開口部は、前記鋼管杭が水底より深く根入れされる部分の上半部における前記岸壁とは反対面側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の岸壁補強構造。
【請求項3】
前記スリット開口部は、前記鋼管杭が海底より深く根入れされる部分の上半部であって、海底面近傍の軟質層を除く前記岸壁とは反対の海側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の岸壁補強構造。
【請求項4】
杭材の根入れ部分に相当する周面に複数のスリット開口部が設けられている複数の鋼管杭を岸壁に沿って列状に埋設する工程と、
前記鋼管杭の内部より前記スリット開口部を押圧して拡開する工程と、
前記鋼管杭の内部に固化材料を加圧充填する工程と、
を有することを特徴とする岸壁補強方法。
【請求項5】
前記スリット開口部を拡開した箇所に固化材料を充填して突部を形成する工程を有することを特徴とする請求項4に記載の岸壁補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岸壁補強構造及び岸壁補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、老朽化した岸壁の改修や、岸壁の耐震補強を目的として、岸壁前面の海底を地盤改良する工事が行われることがあった。この工事を行う場合、大きな施工スペースを要するとともに施工機械が大型化するため、多大な費用がかかるうえ、狭隘な場所や供用中の港湾では工事自体が困難であり、また工事により海洋汚染を招く虞があった。
【0003】
また、既存の岸壁の前面の海底に杭を列状に打ち込んだ後、杭頭部と岸壁の間に水中コンクリートを打設して荷重伝達版を形成してなる岸壁補強構造が提案されている。この岸壁補強構造では、岸壁に作用する地震時水平力が荷重伝達版を介して杭に伝達されるようになっており、杭に伝達された地震時水平力は、杭の曲げ剛性によって支持されるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
また、既存の岸壁の前面の海底に壁体支持部材を敷設した後、その壁体支持部材を貫通して杭を打設してなる岸壁補強構造が提案されている。この岸壁補強構造では、岸壁に作用する地震時水平力が壁体支持部材を介して杭に伝達されるようになっており、杭に伝達された地震時水平力は、杭の曲げ剛性によって支持されるようになっている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−38524号公報
【特許文献2】特開2013−213402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1,2の何れの場合も、杭への荷重伝達を確実にする必要があるとともに、杭には十分な耐力が要求されるため、杭の大型化に伴い施工規模が大きくなる。その結果、供用中の港湾での施工が困難となるばかりか、工費が増大してしまう。また、上記特許文献2の技術では、海底を掘削するため海洋汚濁を招いてしまうことがある。
【0006】
本発明の目的は、様々な岸壁に低コストで施工できる岸壁補強構造及び岸壁補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
岸壁に沿って列状に埋設された複数の鋼管杭を備えた岸壁補強構造であって、
前記鋼管杭の周面には杭材内部より押圧されて拡開する少なくとも一葉の切片を有する複数のスリット開口部が設けられており、拡開した前記スリット開口部に固化材料を充填して形成した突部を有することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の岸壁補強構造において、
前記スリット開口部は、前記鋼管杭が水底より深く根入れされる部分の上半部における前記岸壁とは反対面側に設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の岸壁補強構造において、
前記スリット開口部は、前記鋼管杭が海底より深く根入れされる部分の上半部であって、海底面近傍の軟質層を除く前記岸壁とは反対の海側に設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、岸壁補強方法であって、
杭材の根入れ部分に相当する周面に複数のスリット開口部が設けられている複数の鋼管杭を岸壁に沿って列状に埋設する工程と、
前記鋼管杭の内部より前記スリット開口部を押圧して拡開する工程と、
前記鋼管杭の内部に固化材料を加圧充填する工程と、
を有することを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の岸壁補強方法において、
前記スリット開口部を拡開した箇所に固化材料を充填して突部を形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、様々な岸壁を低コストで補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の鋼管杭によって岸壁を補強した岸壁補強構造を示す概略断面図である。
図2図1のII−II線における断面図である。
図3】本実施形態の鋼管杭を示す側面図(a)と、上面図(b)である。
図4】施工前の鋼管杭を示す側面図である。
図5】鋼管杭のスリット開口部を示す拡大図である。
図6】スリット開口部を拡開するための押圧装置を示す概略断面図である。
図7】押圧装置によってスリット開口部を拡開した状態を示す概略断面図である。
図8】拡開したスリット開口部を示す拡大図である。
図9】鋼管杭内に固化材料を加圧充填するための注入装置を示す概略断面図である。
図10】岸壁補強構造の他の実施例を示す概略断面図である。
図11】スリット開口部の変形例であり、略+字形状のスリット開口部(a)、略H字形状のスリット開口部(b)、略U字形状のスリット開口部(c)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る岸壁補強構造及び岸壁補強方法の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態の岸壁補強構造100は、図1図2に示すように、例えば、港湾の岸壁1を補強するために構築された構造体であり、岸壁1に沿って列状に埋設された複数の鋼管杭10を備えている。ここでは、岸壁1と海Wとの境に複数の鋼管杭10が連設されて、壁状の杭列が形成されている。なお、図2に示すように、鋼管杭10間の隙間を塞いで止水性を得るために、杭状の閉塞部材30が鋼管杭10に沿って埋設されている。
岸壁1は、例えば、図1に示すように、地盤G1上に盛り固められた埋立土G2の表面をアスファルトなどからなる舗装面2で被覆した陸地である。なお、岸壁補強構造100が構築された岸壁1における舗装面2の縁であって鋼管杭10の上には、鋼管杭10の杭頭部を覆う車止め3などの構造物が設けられている。
【0016】
この岸壁補強構造100を構成する鋼管杭10は、例えば、図3(a)(b)に示すように、その周面に突出した複数の突部10aが設けられたものである。
突部10aは、鋼管杭10の周面に設けられた後述するスリット開口部10bが拡開された箇所に、後述する固化材料20が充填されて形成された突起である。
【0017】
ここで、岸壁補強構造100を構築するために用いる施工前の鋼管杭10について説明する。
施工前の鋼管杭10は、例えば、図4に示すように、杭材内部より押圧されて拡開する複数のスリット開口部10bを有している。
スリット開口部10bは、鋼管杭10の周面を杭材の軸心を通る仮想面で二分したうちの一方の面側に形成されている。特に、スリット開口部10bは、鋼管杭10が水底(例えば海底)より深く根入れされる部分の上半部における岸壁1とは反対側となる面に設けられている。
また、鋼管杭10の上端には、スリット開口部10bが形成されている箇所(面)を示すためのマーク11が設けられている。例えば、鋼管杭10におけるマーク11の下方と、そのマーク11から左右45°の範囲にスリット開口部10bが形成されている(図3(b)参照)。
なお、スリット開口部10bの数や位置は、岸壁1や地盤G1(地層)の状況に応じて任意に決められ、この態様に限られるものではない。
【0018】
このスリット開口部10bは、例えば、図5に示すように、杭材の周面に設けられた略X字形状を呈する切込み状の開口と、スリット開口部10bが拡開した際に外方へ突出する四葉の切片10cを有している。
【0019】
次に、上記した鋼管杭10を用いて、本発明に係る岸壁補強構造100を造成する方法について説明する。
【0020】
まず、杭材の周面にスリット開口部10bが設けられた鋼管杭10を、所定の施工位置(ここでは、岸壁1と海Wとの境)に埋設する。鋼管杭10の埋設は、回転圧入で行うことが好ましい。回転圧入であれば、鋼管杭先端に切削ビットを取り付けて既設の構造物を打ち抜けるうえ、地盤G1が硬質であっても騒音・振動もほとんどなく圧入でき、既設構造物および周辺地盤への影響を抑えることができる。
【0021】
鋼管杭10内部の土砂は、鋼管杭10の埋設時あるいは埋設後、掘削・排土する。
ここで、鋼管杭10内部の土砂を排土する際に、鋼管杭10の根入れ部分の地盤状況を確認することができる。例えば、海底の上層は地盤G1上にヘドロ等が堆積している軟質層G3であることが予想されるので、海底面近傍の軟質層G3よりも深くに鋼管杭10のスリット開口部10bが達しているか否かを確認することができる。
つまり、鋼管杭10が海底より深く根入れされた部分の上半部にあるスリット開口部10bが、海底面近傍の軟質層G3よりも深い層(地盤G1)に達していることを確認して、鋼管杭10を埋設することができる。
そして、所定の深度まで埋設された鋼管杭10の向きは例えばマーク11に基づき調整されており、岸壁1とは反対面側の海側にスリット開口部10bを向けるように鋼管杭10を埋設している。
【0022】
次いで、図6に示すように、スリット開口部10bを拡開するための押圧装置40を鋼管杭10内に挿入する。
押圧装置40は、例えば、図6に示すように、装置本体41と、装置本体41に設けられて押圧部42を左右方向に進退させるシリンダ43と、装置本体41の姿勢を安定させるとともに上下に移動させるための懸垂部44等を備えている。
そして、図示しないセンサーによってスリット開口部10bを検出したり、また図示しないカメラを用いてスリット開口部10bの位置を目視確認したりするなどして、押圧装置40の上下位置や向きを調整する。
この押圧装置40が適正な位置に配設された状態で、図7に示すように、シリンダ43を駆動させて押圧部42をスリット開口部10bに向けて押し出し、杭材内部より押圧してスリット開口部10bを拡開する。シリンダストロークを管理することで切片10cの突出量を制御できる。
各地点で押圧装置40を作動させて、図8に示すように、全てのスリット開口部10bを拡開して切片10cを外方に突出させた後、押圧装置40を鋼管杭10内から引き上げる。
【0023】
次いで、図9に示すように、鋼管杭10の内部に固化材料20を加圧充填するための注入装置50を鋼管杭10内に挿入する。なお、固化材料20としては、流動状態から固化して強度を有するものであればよく、例えば、コンクリートや樹脂などを用いることができる。
注入装置50は、例えば、図9に示すように、固化材料20の流路である注入管51と、中央の開口部分に注入管51が固定された円盤状の隔壁52と、隔壁52の周囲に設けられ鋼管杭10の内面に密着するシール部53と、固化材料20の流入量を切り替える開閉部54と、隔壁52の下面に設けられた圧力センサー55と、装置支持体56に取り付けられた加圧手段57と係止手段58とを備えている。
そして、所定の位置で係止手段58を作動させると、シリンダの駆動によって進退する当接部58aが鋼管杭10の内面に当接して、注入装置50の姿勢を安定させることができる。
この注入装置50が適正な位置に配設された状態で、注入管51を通じて隔壁52の開口から鋼管杭10内に固化材料20を注入する。そして、隔壁52まで固化材料20が満たされたら、加圧手段57を作動させ、シリンダの駆動によって隔壁52を下方に押し下げることで、予め設定された圧力で固化材料20を加圧する。また、固化材料充填用のポンプ圧によって加圧してもよい。この加圧によって鋼管杭10内に固化材料20を加圧充填すると、杭材周面のスリット開口部10bから固化材料20が漏出しつつ、スリット開口部10bが拡開した箇所に固化材料20が充填される。この際、固化材料20中の余剰水や空気もスリット開口部10bから排出される。なお、鋼管杭10内部の土砂を排土する際に確認した地盤G1の状況に応じて、固化材料20の充填量や充填圧をコントロールすることも容易である。例えば、図10に示すように、比較的軟弱な地盤G4にあっては、設定圧に到達するまで固化材料20を地盤G4に浸透させて充填することで地盤改良を図ることもできる。また、良好な地盤G1では固化材料20の浸透は少なく(図1参照)、材料のロスを図ることができる。
鋼管杭10内に固化材料20を所定量注入した後、加圧手段57と係止手段58を停止させ、注入装置50を鋼管杭10内から引き上げる。
なお、鋼管杭10の全長に亘って固化材料20を充填する必要はなく、例えば図1図10に示すように、少なくとも鋼管杭10にスリット開口部10bが形成されている範囲に固化材料20を充填すればよい。このとき、充填した固化材料20の上面が地盤G1(G4)面よりも上にあることが好ましい。鋼管杭10内に充填した固化材料20の範囲が多いほど(鋼管杭10内を固化材料20が占める割合が多いほど)、その鋼管杭10の剛性が高まることは言うまでもない。
【0024】
所定時間後、固化材料20が固化することで、外方に突出した切片10cとその切片10cに密着した固化材料20とからなる突部10aが形成される。こうして突部10aが形成された複数の鋼管杭10を造成することによって岸壁補強構造100を構築することができる。
【0025】
このように、岸壁1に埋設した鋼管杭10におけるスリット開口部10bが拡開されて外方に突出した切片10cが地盤G1に食い込み、地盤G1を押圧して圧密補強するので、地盤G1からの地盤反力が見込まれる。
さらに、その鋼管杭10内に固化材料20を充填することで、拡開した切片10cが硬化した固化材料20によって補強されるので、鋼管杭10に外力が作用しても外方に突出した切片10cが押し戻されることはない。
そして、杭材周面に突出した複数の突部10aが引抜き・押込み抵抗となるので、その突部10aを有する鋼管杭10の支持力や引抜抵抗力は向上するうえ、曲げモーメントの定常性を本杭長で調整できる。
したがって、岸壁1に地震時の水平力や岸壁後背地に荷重増加があっても、鋼管杭10の杭頭変位は抑止されるので、別途アンカー等の控えが不要となり、また後背地の沈下も抑止できる。
【0026】
特に、鋼管杭10における岸壁1とは反対面側の海側に突部10aが突出して地盤G1を加圧しており、その加圧した地盤G1からの反力によって鋼管杭10は背面側の岸壁1に向けて押圧されるので、岸壁1側の地盤G1も圧密補強される。
つまり、鋼管杭10の前面に形成した複数の突部10aによって、鋼管杭10の根入れ部分の前面側(海側)の地盤G1を圧密補強するとともに、背面側(岸壁1側)の地盤G1も圧密補強することができる。
その結果、列状に埋設された複数の鋼管杭10によって岸壁1側の地盤G1や埋立土G2が海側にはらみ出すことを抑止することができ、岸壁1側の地盤沈下を防止することができる優れた岸壁補強構造100を構築することができる。
【0027】
また、鋼管杭10の前面側に地盤G1を加圧する複数の突部10aを形成することによって、鋼管杭10の前面及び背面側の地盤G1を圧密補強することができ、効率的に岸壁1を補強することができるので、鋼管杭10の根入れ長を従来よりも短くすることが可能になる。つまり、鋼管杭10の支持力や引抜抵抗力が向上し、鋼管杭10による地盤G1の圧密補強力が向上した分、根入れ長(杭長)を短くすることができ、工期の短縮や工費の削減を図ることが可能になる。
【0028】
また、この岸壁補強構造100は、複数のスリット開口部10bを設けた鋼管杭10と、複数のスリット開口部10bを拡開した鋼管杭10内に加圧充填する固化材料20とからなり、比較的簡易な工法で構築することができるので、材料費を安価に抑えて工費の削減を図ることができる。
また、この岸壁補強構造100は、既設の鋼管杭10から反力をとって、新たな鋼管杭10を施工位置に圧入する従来周知の作業工程と、圧入した鋼管杭10内に押圧装置40や注入装置50を挿入しての作業工程によって造成することができ、大型の施工機械を使用することはないので、供用中の港湾など狭隘な場所であっても施工可能であり、所望する場所に施工することができる優れた技術である。
また、岸壁補強構造100を造成する際、海底を掘削することはなく鋼管杭10内から海底面最上層部を除く地盤G1(G4)に固化材料20が注入されるので、固化材料20の海底面への漏出がなく海洋を汚染することはない。
【0029】
また、杭材周面のスリット開口部10bから漏出した固化材料20が杭材を地盤G1に密着させ、さらに地盤G1を圧密し、突部10aと相まって引抜き・押込み抵抗として機能するので、鋼管杭10の支持力や引抜抵抗力がより一層向上する。
また、鋼管杭10内に固化材料20が充填されていることで、鋼管杭10の耐力や靱性が大幅に向上し、鋼管杭10の強度がより一層向上する。
【0030】
以上のように、複数の鋼管杭10を岸壁1に沿って連設し、その鋼管杭10の根入れ部分の前面側(海側)に突出する突部10aを形成するといった比較的簡易な工法(岸壁補強方法)によって岸壁1を補強することができる岸壁補強構造100は、様々な岸壁1に低コストで施工できる優れた技術である。
【0031】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、鋼管杭10に突部10aを形成するために鋼管杭10に設けるスリット開口部10bは、略X字形状を呈するものに限定されない。
例えば、図11(a)に示すように、スリット開口部10bは、杭材の周面に設けられた略+字形状を呈する切込み状の開口と、スリット開口部10bが拡開した際に外方へ突出する四葉の切片10cを有するものでもよい。
また、図11(b)に示すように、スリット開口部10bは、杭材の周面に設けられた略H字形状を呈する切込み状の開口と、スリット開口部10bが拡開した際に外方へ突出する二葉の切片10cを有するものでもよい。
また、図11(c)に示すように、スリット開口部10bは、杭材の周面に設けられた略U字形状あるいは略V字形状を呈する切込み状の開口と、スリット開口部10bが拡開した際に外方へ突出する一葉の切片10cを有するものでもよい。
また、スリット幅を横長とすれば、鉛直方向荷重に対して突部10aの受圧面積を大きくできるので、突部10aの数量を少なくでき好適である。
【0032】
なお、以上の実施の形態においては、岸壁補強構造100によって港湾の岸壁を補強することを例に説明したが、岸壁の新設時に本発明を適用して岸壁前面の地盤を補強しておけば、強固な構造物を造成できるのは言うまでもない。また、本発明はこれに限定されるものではなく、海や河川の護岸や運河の擁壁といった岸壁の他、道路擁壁、建築根切り土留などを補強する場合にも本発明を適用することができる。
【0033】
また、以上の実施の形態においては、スリット開口部10bは、鋼管杭10の周面のうち半面側に形成されているとしたが全周(全面)に亘って形成されていてもよい。また、スリット開口部10bは、鋼管杭10が水底より深く根入れされる部分の上半部に形成されているとしたが根入れ部分の全長に亘って形成されていてもよい。
【0034】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0035】
1 岸壁
10 鋼管杭
10a 突部
10b スリット開口部
10c 切片
11 マーク
20 固化材料
40 押圧装置
50 注入装置
G1 地盤
G2 埋立土
G3 軟質層
G4 地盤
W 海
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11