特開2015-108529(P2015-108529A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-108529(P2015-108529A)
(43)【公開日】2015年6月11日
(54)【発明の名称】温度センサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/22 20060101AFI20150515BHJP
【FI】
   G01K7/22 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-250673(P2013-250673)
(22)【出願日】2013年12月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂口 知三
(72)【発明者】
【氏名】松本 達也
(72)【発明者】
【氏名】大溝 陽一
【テーマコード(参考)】
2F056
【Fターム(参考)】
2F056QF01
2F056QF04
2F056QF08
(57)【要約】
【課題】防水性を損ねず、温度検知能力を高めた温度センサを提供する。
【解決手段】温度を検知するための素子部2が、熱伝導性樹脂3により、ケースに収納されていない状態で、封止されている。これにより、良好な防水性や気密性を維持しながら、検知対象となる箇所の熱が、熱伝導性樹脂3を介して、良好に素子部2に伝達されるため、熱応答性も極めて良好となり、温度検知能力を高めた温度センサ1を提供することができる。また、熱伝導性樹脂3を金属などのケースには収納しないことにより、温度変化の大きい環境でも信頼性を低下させることがなくなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度を検知するための素子部が、熱伝導性樹脂により、ケースに収納されていない状態で、封止されていることを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
前記熱伝導性樹脂は外部に露出する状態で配設されていることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
前記熱伝導性樹脂に、この熱伝導性樹脂よりも熱伝導性が低い低熱伝導性樹脂が隣接した状態で配設されていることを特徴とする請求項1または2に記載の温度センサ。
【請求項4】
前記熱伝導性樹脂の周囲に低熱伝導性樹脂が配設され、前記低熱伝導性樹脂により前記熱伝導性樹脂が覆われていることを特徴とする請求項3に記載の温度センサ。
【請求項5】
前記熱伝導性樹脂が絶縁性を有するものであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の温度センサ。
【請求項6】
前記熱伝導性樹脂が、素子部の周囲に封止された絶縁性を有する熱伝導性絶縁樹脂と、この熱伝導性絶縁樹脂の周囲に封止された導電性を有する熱伝導性導電樹脂とであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の温度センサ。
【請求項7】
前記熱伝導性樹脂が硬質系樹脂であり、前記低熱伝導性樹脂が軟質系樹脂であることを特徴とする請求項4に記載の温度センサ。
【請求項8】
前記熱伝導性樹脂が軟質系樹脂であり、前記低熱伝導性樹脂が硬質系樹脂であることを特徴とする請求項4に記載の温度センサ。
【請求項9】
前記素子部がサーミスタであることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の温度センサ。
【請求項10】
前記熱伝導性樹脂が、熱伝導性充填材を含有する熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の温度センサ。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂またはポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の温度センサ。
【請求項12】
前記低熱伝導性樹脂が、前記熱可塑性樹脂の基材となる熱伝導性樹脂と同じ種類または同系の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項3または4に記載の温度センサ。
【請求項13】
射出成形法を用いて、封止される素子部の少なくとも一部を熱伝導性樹脂により包み込んでなる温度センサを製造する温度センサの製造方法であって、
金型のキャビティ内に素子部を配置して溶融した熱伝導性樹脂を注入するに際し、熱伝導性樹脂を注入する前に、素子部を筒状治具により周方向から保持して所定位置に固定し、
キャビティへ溶融した熱伝導性樹脂が注入開始されて満たされるにつれて、前記筒状治具をキャビティ内からキャビティ外に後退させる
ことを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項14】
熱伝導性樹脂のキャビティへの注入時に熱伝導性樹脂が流入して前記筒状治具を押す圧力を利用して、前記筒状治具をキャビティ内からキャビティ外に後退させることを特徴とする請求項13に記載の温度センサの製造方法。
【請求項15】
射出成形法を用いて、封止される素子部を熱伝導性樹脂により包み込み、この素子部が熱伝導性樹脂により包み込まれた中間封止体をさらに熱伝導性樹脂よりも熱伝導性が低い低熱伝導性樹脂により包み込んでなる温度センサを製造する温度センサの製造方法であって、
一次成形用金型のキャビティ内に素子部を一次成形用の筒状治具により周方向から保持して所定位置に固定された状態で配置する一次配置工程と、
一次成形用金型のキャビティへ、溶融した熱伝導性樹脂を注入し、この際に、一次成形用の筒状治具を一次成形金型のキャビティ内からキャビティ外に排出させて、素子部を表面に露出させることなく封止成形して、中間封止体を製造する一次成形工程と、
二次成形用金型のキャビティ内に中間封止体を二次成形用の筒状治具により周方向から保持して所定位置に固定された状態で配置する二次配置工程と、
二次成形用金型のキャビティへ、溶融した低熱伝導性樹脂を注入し、この際に、二次成形用の筒状治具を二次成形金型のキャビティ内からキャビティ外に排出させて、中間封止体を表面に露出させることなく封止成形する二次成形工程と、
を有することを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項16】
射出成形法を用いて、封止される素子部を絶縁性を有する熱伝導性樹脂により包み込み、この素子部が前記絶縁性を有する熱伝導性樹脂により包み込まれた中間封止体をさらに導電性を有する熱伝導性樹脂により包み込んでなる温度センサを製造する温度センサの製造方法であって、
一次成形用金型のキャビティ内に素子部を一次成形用の筒状治具により周方向から保持して所定位置に固定された状態で配置する一次配置工程と、
一次成形用金型のキャビティへ、溶融した絶縁性を有する熱伝導性樹脂を注入し、この際に、一次成形用の筒状治具を一次成形金型のキャビティ内からキャビティ外に排出させて、素子部を表面に露出させることなく封止成形して、中間封止体を製造する一次成形工程と、
二次成形用金型のキャビティ内に中間封止体を二次成形用の筒状治具により周方向から保持して所定位置に固定された状態で配置する二次配置工程と、
二次成形用金型のキャビティへ、溶融した導電性を有する熱伝導性樹脂を注入し、この際に、二次成形用の筒状治具を二次成形金型のキャビティ内からキャビティ外に排出させて、中間封止体を表面に露出させることなく封止成形する二次成形工程と、
を有することを特徴とする温度センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は温度センサに関し、特に温度検知能力を高めた温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1、2等に開示されているように、防水性を高めるために温度センサ素子等の電子部品を熱可塑性樹脂や金属ケースで包み込むことは既に広く行われている。また、この場合に、前記温度センサを、金型を用いた射出成形法により樹脂封止したり、金属ケースに液状樹脂を用いて封入したりして製造することも既に知られている。このように、素子を射出成形法等により樹脂封止して温度センサを製造すると、防水性や気密性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−46121号公報
【特許文献2】特開平9−74001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の温度センサにおける素子の樹脂封止は、防水性や気密性を高めることはできたが、封止樹脂によって用いる素子の温度応答性が低下する問題があった。
【0005】
例えば、樹脂封止された温度センサにおいて、用いる素子の温度応答性を高めるためには、以下のような方法が考えられる。
(ア)樹脂封止をできる限り薄肉で行う。
(イ)必要最低限の樹脂封止を行う。
【0006】
しかしながら、前記(ア)の方法の場合には、高い加工精度が要求され、例え樹脂封止できたとしても、部分的に素子が露出したり、薄肉にするあまり必要とする防水性等が確保できなくなったりするおそれがある。
【0007】
また、前記(イ)の方法の場合、単に素子のみを樹脂封止しただけでは、素子と素子に結合する配線部との間の隙間から水等の侵入があり、十分な防水性を確保できないおそれがある。また、温度センサとして用いる場合に、経時的に防水性が低下する等の問題を発生するおそれもある。
【0008】
さらに、前記素子を金属ケースに液状樹脂を用いて封入する場合、液状樹脂に空気を巻き込まないよう減圧処理をする必要が生じたり、液状樹脂の硬化のために、例えば、150℃で2時間処理する必要が生じたり、工程的に煩雑となり、また作業効率が低下する課題を生じていた。
【0009】
本発明は、上記問題や課題を解決するもので、防水性を損ねず、温度検知能力、生産性を高めた温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、本発明に至ったものである。
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)温度を検知するための素子部が、熱伝導性樹脂により、ケースに収納されていない状態で、封止されていることを特徴とする温度センサ。
(2)前記熱伝導性樹脂は外部に露出する状態で配設されていることを特徴とする前記(1)の温度センサ。
(3)前記熱伝導性樹脂に、この熱伝導性樹脂よりも熱伝導性が低い低熱伝導性樹脂が隣接した状態で配設されていることを特徴とする前記(1)または(2)の温度センサ。
(4)前記熱伝導性樹脂の周囲に低熱伝導性樹脂が配設され、前記低熱伝導性樹脂により前記熱伝導性樹脂が覆われていることを特徴とする前記(3)の温度センサ。
(5)前記熱伝導性充填材が絶縁性を有するものである前記(1)〜(4)の温度センサ。
(6)前記熱伝導性樹脂が、素子部の周囲に封止された絶縁性を有する熱伝導性絶縁樹脂と、この熱伝導性絶縁樹脂の周囲に封止された導電性を有する熱伝導性導電樹脂とである前記(1)〜(4)の温度センサ。
(7)前記熱伝導性樹脂が硬質系樹脂であり、前記低熱伝導性樹脂が軟質系樹脂であることを特徴とする前記(4)の温度センサ。
(8)前記熱伝導性樹脂が軟質系樹脂であり、前記低熱伝導性樹脂が硬質系樹脂であることを特徴とする前記(4)の温度センサ。
(9)前記素子部がサーミスタであることを特徴とする前記(1)〜(8)の温度センサ。
(10)前記熱伝導性樹脂が、熱伝導性充填材を含有する熱可塑性樹脂であることを特徴とする前記(1)〜(9)の温度センサ。
(11)前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂またはポリエステル系樹脂であることを特徴とする前記(1)〜(10)の温度センサ。
(12)前記低熱伝導性樹脂が、前記熱可塑性樹脂の基材となる熱伝導性樹脂と同じ種類または同系の熱可塑性樹脂であることを特徴とする前記(3)または(4)の温度センサ。
(13)射出成形法を用いて、封止される素子部の少なくとも一部を熱伝導性樹脂により包み込んでなる温度センサを製造する温度センサの製造方法であって、
金型のキャビティ内に素子部を配置して溶融した熱伝導性樹脂を注入するに際し、熱伝導性樹脂を注入する前に、素子部を筒状治具により周方向から保持して所定位置に固定し、
キャビティへ溶融した熱伝導性樹脂が注入開始されて満たされるにつれて、前記筒状治具をキャビティ内からキャビティ外に後退させる
ことを特徴とする温度センサの製造方法。
(14)熱伝導性樹脂のキャビティへの注入時に熱伝導性樹脂が流入して前記筒状治具を押す圧力を利用して、前記筒状治具をキャビティ内からキャビティ外に後退させることを特徴とする前記(13)の温度センサの製造方法。
(15)射出成形法を用いて、封止される素子部を熱伝導性樹脂により包み込み、この素子部が熱伝導性樹脂により包み込まれた中間封止体をさらに熱伝導性樹脂よりも熱伝導性が低い低熱伝導性樹脂により包み込んでなる温度センサを製造する温度センサの製造方法であって、
一次成形用金型のキャビティ内に素子部を一次成形用の筒状治具により周方向から保持して所定位置に固定された状態で配置する一次配置工程と、
一次成形用金型のキャビティへ、溶融した熱伝導性樹脂を注入し、この際に、一次成形用の筒状治具を一次成形金型のキャビティ内からキャビティ外に排出させて、素子部を表面に露出させることなく封止成形して、中間封止体を製造する一次成形工程と、
二次成形用金型のキャビティ内に中間封止体を二次成形用の筒状治具により周方向から保持して所定位置に固定された状態で配置する二次配置工程と、
二次成形用金型のキャビティへ、溶融した低熱伝導性樹脂を注入し、この際に、二次成形用の筒状治具を二次成形金型のキャビティ内からキャビティ外に排出させて、中間封止体を表面に露出させることなく封止成形する二次成形工程と、
を有することを特徴とする温度センサの製造方法。
(16)射出成形法を用いて、封止される素子部を絶縁性を有する熱伝導性樹脂により包み込み、この素子部が前記絶縁性を有する熱伝導性樹脂により包み込まれた中間封止体をさらに導電性を有する熱伝導性樹脂により包み込んでなる温度センサを製造する温度センサの製造方法であって、
一次成形用金型のキャビティ内に素子部を一次成形用の筒状治具により周方向から保持して所定位置に固定された状態で配置する一次配置工程と、
一次成形用金型のキャビティへ、溶融した絶縁性を有する熱伝導性樹脂を注入し、この際に、一次成形用の筒状治具を一次成形金型のキャビティ内からキャビティ外に排出させて、素子部を表面に露出させることなく封止成形して、中間封止体を製造する一次成形工程と、
二次成形用金型のキャビティ内に中間封止体を二次成形用の筒状治具により周方向から保持して所定位置に固定された状態で配置する二次配置工程と、
二次成形用金型のキャビティへ、溶融した導電性を有する熱伝導性樹脂を注入し、この際に、二次成形用の筒状治具を二次成形金型のキャビティ内からキャビティ外に排出させて、中間封止体を表面に露出させることなく封止成形する二次成形工程と、
を有することを特徴とする温度センサの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、温度を検知するための素子部を熱伝導性樹脂により封止したことにより、良好な防水性や気密性を維持しながら、検知対象となる箇所の熱が、熱伝導性樹脂を介して、良好に素子部に伝達されるため、熱応答性も極めて良好となり、温度検知能力を高めた温度センサを提供することができる。また、熱伝導性樹脂を金属などのケースには収納しないことにより、温度変化の大きい環境でも信頼性を低下させることがなくなる。
【0012】
また、前記熱伝導性樹脂に低熱伝導性樹脂を隣接させることで、熱伝導性樹脂に伝達された熱が、低熱伝導性樹脂により遮断されて、低熱伝導性樹脂の周囲に伝達することを防止できて、熱がいたずらに外部に伝達したり放射されたりして外部に漏洩することを防止することができる。
【0013】
また、前記熱伝導性樹脂の周囲に低熱伝導性樹脂を配設し、この低熱伝導性樹脂により前記前記熱伝導性樹脂を覆うことにより、温度センサとしての強度が向上して、耐衝撃性向上し、信頼性を向上させることができる。
【0014】
また、熱伝導性樹脂の周囲を低熱伝導性樹脂で封止する場合に、熱伝導性樹脂を硬質系樹脂とし、低熱伝導性樹脂を軟質系樹脂とすることにより、低熱伝導性樹脂として用いる軟質系樹脂が、外部からの衝撃に対する緩衝層として機能し、素子部の破壊を防ぐ役割を果たす。
【0015】
また、熱伝導性樹脂の周囲を低熱伝導性樹脂で封止する場合に、熱伝導性樹脂を軟質系樹脂とし、低熱伝導性樹脂を硬質系樹脂とすることにより、素子部と接する熱伝導性樹脂としての軟質系樹脂が外部からの衝撃に対する緩衝層として機能し、素子部の破壊を防ぐ役割を果たす。また、温度センサの外周が硬質系樹脂で覆われるため、ずれ等が生じにくく、特に温度センサの位置決めに対し精緻に対応が可能となる。
【0016】
また、熱伝導性樹脂に用いられる熱可塑性樹脂と、低熱伝導性樹脂に用いられる熱可塑性樹脂とを、同じ熱可塑性樹脂を用いたり、同じ材料系(同系)の熱可塑性樹脂を用いたりすることにより、互いに強固に結合され、例えば温度変化の大きい環境下でも、良好な信頼性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態(第1の実施の形態)に係る温度センサの断面図である。
図2】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図3】同温度センサの製造方法の工程を説明する斜視図である。
図4】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図5】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図6】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図7】比較例としての温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図8】同比較例としての温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図9】同比較例としての温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図10】本発明の他の実施の形態(第2の実施の形態)に係る温度センサの断面図である。
図11】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図12】本発明のその他の実施の形態(第3の実施の形態)に係る温度センサの断面図である。
図13】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図14】本発明のさらに他の実施の形態(第4の実施の形態)に係る温度センサの断面図である。
図15】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図16】同温度センサの製造方法の工程を説明する斜視図である。
図17】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図18】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図19】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図20】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図21】同温度センサの製造方法の工程を説明する斜視図である。
図22】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図23】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図24】同温度センサの製造方法の工程を説明する断面図である。
図25】本発明のさらに他の実施の形態(第5の実施の形態)に係る温度センサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る温度センサ1は、温度を検知するための素子部2が熱伝導性樹脂3により封止された構成とされている。また、素子部2を封止して全周から覆っている熱伝導性樹脂3は、金属などのケースには収納されず、この実施の形態では、熱伝導性樹脂3が外部に露出している。
【0019】
また、温度を検知するための素子部2には、被覆された1対の電線4が接続されている。なお、図示しないが、素子部2には1対の接続用端子が設けられ、また、電線4は、金属からなって導電性を有する芯線部が絶縁性を有する電線被覆材4aにより覆われた構造とされている。そして、この実施の形態では、素子部2の端子と電線4の芯線部とが半田などの接続材(接続金属)で接続されているが、これらの接続部は、電線被覆材4aなどにより覆われ(電線被覆材4aとは別途の被覆材で覆ってもよい)、接続部は外部には露出していない。なお、本発明の実施の形態に係る素子部2は、例えば、温度検知用のサーミスタである。
【0020】
本発明の温度センサに用いる熱伝導性樹脂3とは、熱伝導性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、絶縁性であっても導電性であってもよい。このような特性を有する熱伝導性樹脂3としては、熱伝導性充填材(いわゆる、熱伝導性フィラー)を含有する熱可塑性樹脂(基材)を用いることが好ましい。
【0021】
本発明に用いることができる前記熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー等の単体樹脂、およびそれらの共重合体、エラストマー、ホットメルト、混合物が挙げられる。なかでも成形性、耐薬品性、経済性の点でポリアミド樹脂が好ましく、封止性、接着性の点で、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。また、温度センサ1として用いる際の可とう性、素子部2に接続する電線4および電線被覆材4aとの密着性を考慮すると、柔軟性を有する熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系ホットメルト、ポリエステル系ホットメルトが特に好ましい。
【0022】
本発明に用いることができる熱伝導性充填材としては、特に限定されるものではないが、例えば、熱伝導率が5W/(m・K)以上であることが好ましい。なお、充填材として機械的性質を改善する目的で用いられるものや、導電性、絶縁性、磁性、圧電性、電磁波吸収の機能を付与する目的で用いられるものでも、上記熱伝導率を有するものは、本発明において充填材として用いることが可能である。
【0023】
熱伝導性充填材の形態としては、球状、粉状、繊維状、針状、鱗片状、ウィスカ状、マイクロコイル状、ナノチューブ状が挙げられる。
熱伝導性充填材の熱伝導率は、その焼結品を用いて測定することができる。
【0024】
熱伝導性充填材の具体的な例としては(括弧内に熱伝導率の代表値(単位:W/(m・K)を記す。)、タルク(5〜10)、酸化アルミニウム(36)、酸化マグネシウム(60)、酸化亜鉛(25)、炭酸マグネシウム(15)、炭化ケイ素(160)、窒化アルミニウム(170)、窒化ホウ素(210)、窒化ケイ素(40)、カーボン(10〜数百)、黒鉛(10〜数百)等の無機系充填材、銀(427)、銅(398)、アルミニウム(237)、チタン(22)、ニッケル(90)、錫(68)、鉄(84)、ステンレス(15)等の金属系充填材が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記例示した熱伝導性充填材のうち、熱可塑性樹脂に配合した際の熱伝導効率が高いことから、黒鉛、窒化ホウ素を使用することが好ましい。また、経済性の点では、タルク、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛を使用することが好ましい。また、タルクや窒化ホウ素は電気絶縁性を有しているので、これを配合することにより、熱伝導性樹脂3に電気絶縁性を付与することができる。
【0026】
電気絶縁性を有する熱伝導性樹脂と、導電性を有する熱伝導性樹脂の使い分けは、例えば、温度を検知するための素子部と素子部に接続する配線の接点が露出している場合は、電気絶縁性を有する熱伝導性樹脂を用いて樹脂封止を行うことが好ましい。一方、前記接点が他の手段を用いてすでに電気絶縁性の確保ができている場合には、導電性を有する熱伝導性樹脂を用いて樹脂封止を行うことが好ましい。なお、前記のような使い分けは、特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜使い分けができるものとし、また、電気絶縁性を有する熱伝導性樹脂と、導電性を有する熱伝導性樹脂を組み合わせて用いることもできる。なお、この点については後述する。
【0027】
黒鉛の形態としては、例えば、球状、粉状、繊維状、針状、鱗片状、ウィスカ状、マイクロコイル状、ナノチューブ状が挙げられる。なかでも鱗片状黒鉛は、熱可塑性樹脂に配合した際に熱伝導効率を高くすることができるため、特に好ましい。鱗片状黒鉛の平均粒径は、1〜300μmであることが好ましく、5〜150μmであることがさらに好ましい。平均粒径が1μm未満では、分散不良により凝集塊が生じやすくなり、均一な成形体が得られず、機械的物性が低下したり熱伝導性にバラツキが生じたりすることがある。平均粒径が300μmを超えると、熱伝導性樹脂中に高濃度に充填することが難しくなったり、成形体表面が粗くなったりする場合がある。
【0028】
タルクの形態としては、例えば、板状、鱗状、鱗片状、薄片状が挙げられる。なかでも鱗片状タルク、薄片状タルクは、成形体としたときに平面方向に配向しやすく、その結果、熱伝導率を高めることができるため、特に好ましい。鱗片状タルクの平均粒径は、上述と同様の理由から、1〜200μmであることが好ましく、5〜100μmであることがさらに好ましい。
【0029】
窒化ホウ素の形態としては、例えば、板状、鱗片状、薄片状が挙げられる。なかでも鱗片状窒化ホウ素、薄片状窒化ホウ素は、成形体としたときに平面方向に配向しやすく、その結果、熱伝導率を高めることができるため、特に好ましい。鱗片状窒化ホウ素の平均粒径は、上述と同様の理由から、1〜200μmであることが好ましく、5〜100μmであることがさらに好ましい。窒化ホウ素の結晶系は、特に限定されるものではなく、六方晶系、立方晶系、その他いずれの結晶構造の窒化ホウ素であっても適用可能である。なかでも、六方晶系結晶構造を有する窒化ホウ素は、熱伝導率が大きいので好ましい。
【0030】
酸化マグネシウムの形態としては、例えば、球状、繊維状、紡錘状、棒状、針状、筒状、柱状が挙げられる。なかでも球状酸化マグネシウムは、熱可塑性樹脂に配合したときに樹脂の流動性の低下を抑えることができるため、特に好ましい。酸化マグネシウムを含有することにより、熱伝導性樹脂の絶縁性を低下させずに熱伝導性を向上させることができる。球状酸化マグネシウムの平均粒径は、上述と同様の理由から、0.5〜150μmであることが好ましく、1〜100μmであることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の熱伝導性樹脂3において、熱可塑性樹脂と熱伝導性充填材との容量比は、熱可塑性樹脂と熱伝導性充填材が20/80〜95/5(容量%)であることが好ましく、30/70〜90/10(容量%)であることがより好ましい。熱伝導性充填材の配合量が5容量%未満では十分な熱伝導性を得ることができなくなる場合があり、配合量が80容量%を超えると、流動性が著しく低下するため成形加工時の負荷が高くなりすぎ操業性が低下する場合がある。
【0032】
上記構成によれば、温度を検知するための素子部2を熱伝導性樹脂3により封止しているため、良好な防水性や気密性を維持しながら、検知対象となる箇所の熱が、熱伝導性樹脂3を介して、良好に素子部2に伝達されるため、熱応答性も極めて良好となり、温度検知能力を高めた温度センサ1を提供することができる。
【0033】
また、上記構成によれば、熱伝導性樹脂3を金属などのケースには収納していないため、例えば温度変化の大きい環境でも信頼性を低下させることがなく、良好な信頼性を維持できる。つまり、熱伝導性樹脂を金属のケースに収納した場合には、温度変化の大きい環境下で長年用いると、熱膨張率に比較的大きな差があることなどに起因して、金属のケースと熱伝導性樹脂との界面(境界面)で剥離して隙間を生じ、熱の応答性が急激に低下してしまうおそれがあるが、本発明のように、熱伝導性樹脂3を金属などのケースに収納しないことで、このような不具合の発生を防止できて、良好な信頼性を維持可能である。
【0034】
前記熱伝導性樹脂3は、公知の方法で任意の形状に成形することができる。中でも、成形の自由度が高く、精度の高い加工が可能な点で、射出成形法が好ましい。
【0035】
次に、前記温度センサ1の製造方法の1例である、温度センサ1を、金型を用いた射出成形法により樹脂封止して製造する場合の例を図面に基づき説明する。図2図6は同実施の形態に係る封止成形体の製造方法の各製造工程を示す断面図(図3は斜視図)である。
【0036】
図2における11は上金型、12は下金型であり、これらの上金型11と下金型12とは相対的に昇降自在に配設され、上金型11と下金型12とが合わされた際に熱伝導性樹脂3が注入されるキャビティ(樹脂注入空間部)13が形成されている。また、上金型11(または下金型12でもよい)には、キャビティ13へ樹脂を注入する注入口となるゲート14が形成されている。
【0037】
また、上金型11と下金型12とが合わされる一方側の領域(図2図4図6における右側の領域)において電線2が挟持されるよう構成されており、上金型11と下金型12とが合わされる他方側の領域(図2図4図6における左側の領域)には、被封止部材としての素子部2を周方向から保持する筒状治具(スリーブ状治具)15と、この筒状治具15を案内する案内部材16とが配設されている。
【0038】
ここで、この実施の形態では筒状治具15は金属製の円筒形状体とされ、案内部材16は金属製の円柱形状体とされている。また、筒状治具15の内周寸法と案内部材16の外周寸法とが対応した大きさとされ、案内部材16と筒状治具15とはその中心軸心が一致した状態で、筒状治具15が軸心方向に沿ってスライド自在とされている。なお、案内部材16は筒状治具15よりも軸心方向に対して少し長い寸法とされ、その一端部が上金型11と下金型12とに挟持されて案内部材16の位置が固定される。
【0039】
筒状治具15はその内径が、熱伝導性樹脂3で封止する素子部2の最大直径に略対応する寸法、若しくは素子部2の最大直径よりも若干大きな直径とされ、素子部2を保持可能な小さめの直径で、封止する対象物の長さと略同じ長さとすることが好ましい。また、キャビティ13へ熱伝導性樹脂3を注入する注入口となるゲート14は、電線4の電線被覆材4aに側方(この実施の形態では上方)から臨む位置に配設されている。
【0040】
上記構成において、キャビティ13内に素子部2を配置して溶融した熱伝導性樹脂3を注入するに際し、図2図3に示すように、熱伝導性樹脂3を注入する前に、予め、素子部2を筒状治具15により周方向から保持して所定位置に固定する。例えば、上金型11を下金型12から上方に離反させた状態で、下金型12上のキャビティ13に対応する箇所に、電線4、素子部2、案内部材16および筒状治具15を載せ、筒状治具15は、素子部2と、この素子部2に接続された電線4の先端部を囲む位置までキャビティ13内に突出させて、素子部2などを保持する。そして、この状態で、上金型11を下降させるなどして下金型12と合わせる。
【0041】
次に、図4に示すように、ゲート14を通してキャビティ13へ溶融した熱伝導性樹脂3を注入開始する。そして、この後、図5図6に示すように、キャビティ13へ溶融した熱伝導性樹脂3が満たされるにつれて、筒状治具15をキャビティ13内からキャビティ13外に後退させる。この際、例えば、熱伝導性樹脂3のキャビティ13への注入時に熱伝導性樹脂3が流入して筒状治具15を押す圧力を利用して、筒状治具15をキャビティ13外に後退させる。
【0042】
この際、素子部2は筒状治具15により周方向から保持して所定位置に固定されているので、熱伝導性樹脂3がキャビティ13内に流れ込んでも、ゲート14と反対側に流されてしまうような不具合は発生しない。
【0043】
すなわち、比較例を図7図9に示すが、筒状治具15や案内部材16が設けられず、キャビティ13内で素子部2が支持されていない場合には、ゲート14を通してキャビティ13へ熱伝導性樹脂3が注入されると、流入した熱伝導性樹脂3により素子部2がゲート14と反対側に流されてしまい、最終的に、素子部2が外部に露出したり、素子部2が中心からずれた偏った位置に配置されたりして、素子部2が容易に損傷したり、熱を感知する能力が径方向に対して著しく異なったりして、温度センサとしての信頼性が著しく低下するおそれがある。
【0044】
これに対して、本発明によれば、素子部2は筒状治具15により周方向から保持して所定位置に固定されているので、熱伝導性樹脂3がキャビティ13内に流れ込んでも、ゲート14と反対側に流されてしまうような不具合は発生せず、中心(軸心位置)に素子部2が配設された温度センサ1を良好に製造することができる。したがって、素子部2の周囲の熱伝導性樹脂3の厚みが極めて均一となるので、温度センサ1の検出感度や応答精度が極めて良好に保持されて高い信頼性のものを得ることができる。したがって、このような温度センサ1を備えた電気部品または電子部品は高い信頼性を有することとなり、しかも、熱応答性も良好となる。
【0045】
また、本発明の実施の形態では、筒状治具15により素子部2を周方向の全周にわたって位置規制した状態で保持しているので、素子部2の位置決めを極めて良好に行える。すなわち、素子部2を保持する方法として、保持用ピンなどを設けて複数の点で素子部2を保持することが考えられるが、本発明によれば、筒状治具15により素子部2を周方向の全周にわたって、また点ではなくて面で、位置規制するため、保持用ピンなどで保持する場合よりも素子部2の位置決めを極めて良好に行える。
【0046】
また、熱伝導性樹脂3のキャビティ13への注入時に熱伝導性樹脂3が流入して筒状治具15を押す圧力を利用して、筒状治具15をキャビティ13内からキャビティ13外に後退させることにより、筒状治具15を外部から移動させる駆動機構などを別途に設けなくても済むので、温度センサ1の製造コストを安価に済ますことが可能となる。
【0047】
しかしながら、これに限るものではなく、筒状治具15を外部から移動させるシリンダ装置などを設けて、キャビティ13に溶融した熱伝導性樹脂3が満たされつつある際に、筒状治具15をキャビティ13外に後退させる力を、例えば機械的に移動させる外部シリンダや外部モータなどの駆動機構により外部から与えて、筒状治具15をキャビティ13外に後退させてもよい。これにより、キャビティ13へ熱伝導性樹脂3が流入した際の筒状治具15への押圧力だけでは筒状治具15をキャビティ13外に後退させることが困難な場合でも、外部からの力により筒状治具15をキャビティ13外に良好に後退させることができて、信頼性を向上させることができる。なお、筒状治具15を後退させるタイミングは、熱伝導性樹脂3を注入するシリンダ装置の移動量など、熱伝導性樹脂3の注入量に応じて調整したり、キャビティ13内の圧力を検知する検知手段を設けて、前記圧力に応じて調整したりするとよいがこれに限るものではない。
【0048】
また、上記の実施の形態では、素子部2が温度検知用のサーミスタである場合を述べたが、これに限るものではなく、温度検知用の熱伝対でもよい。また、熱伝導性樹脂3の注入場所であるキャビティ13に対する素子部2および筒状治具15の位置を調整することで、素子部2を温度センサ1(熱伝導性樹脂3)の中心以外の所定の位置(例えば、上端から所定距離離れた場所や、他の部品から所定距離離れた場所など)に配置する場合にも良好に適用できる。さらに、筒状治具15も円筒形状に限るものではなく、素子部2の形状に合わせて角筒形状やその他の筒形状のものを用いることもできる。
【0049】
上記実施の形態では、素子部2および電線4を熱伝導性樹脂3のみにより封止して、温度センサ1を構成した場合を述べたが、これに限るものではない。図10は本発明の他の実施の形態(第2の実施の形態)に係る温度センサ1を示す断面図である。図10に示すように、この温度センサ1では、熱を検知する領域である素子部2の周囲(図10においては温度センサ1の前部(先端部)寄り箇所)は熱伝導性樹脂3により封止されている一方で、温度センサ1における、熱を検知する必要のない領域、例えば、温度センサ1の後部寄り箇所に、熱伝導性樹脂3よりも熱伝導性の低い低熱伝導性樹脂5が、熱伝導性樹脂3に隣接した封止状態で配設されている。
【0050】
低熱伝導性樹脂5としては、熱伝導性充填材(いわゆる、熱伝導性フィラー)を含有させずに、上記熱伝導性樹脂3の熱可塑性樹脂と同様な材料を用いることが好ましいが、これに限るものではない。
【0051】
この構成によれば、熱伝導性樹脂3に伝達された熱が、低熱伝導性樹脂5により遮断されて、低熱伝導性樹脂5の周囲、この実施の形態では温度センサ1の後部側に伝達することを防止できる。すなわち、熱伝導性樹脂3を介して温度センサ1に伝えられた熱が、いたずらに外部に伝達したり放射されたりして、熱が漏洩することを防止することができる。
【0052】
なお、この温度センサ1の製造方法としては、上記図2図6に示す工程と同様な手法を用いて、まず、素子部2および電線4を熱伝導性樹脂3のみにより封止してなる中間封止体6を製造する。そして、この後、図11に示すように、中間封止体6を、低熱伝導性樹脂5の注入領域23aも有するキャビティ(樹脂注入空間部)内に配設し、上金型21や下金型22に形成されたゲート24から、溶融した低熱伝導性樹脂5を注入する。これにより、熱漏洩の少ない温度センサ1を製造することができる。
【0053】
上記第2実施の形態では、後部のみ低熱伝導性樹脂5が配設されている温度センサ1の場合を説明したが、これに限るものではない。図12は本発明のさらに他の実施の形態(第3の実施の形態)に係る温度センサ1を示す断面図である。図12に示すように、この温度センサ1は、例えば、温度検出対象の領域が温度センサ1における素子部2の側方のみである場合を示し、温度センサ1の後部だけではなく、温度センサ1の前端部(先端部)にも低熱伝導性樹脂5が配設されている。
【0054】
この構成によれば、熱伝導性樹脂3に伝達された熱が、低熱伝導性樹脂5により遮断されて、低熱伝導性樹脂5の周囲、この実施の形態では温度センサ1の後部側(後方側)および先端部側(前方側)に伝達することを防止できる。すなわち、熱伝導性樹脂3を介して温度センサ1に伝えられた熱がいたずらに外部に伝達したり放射されたりして、熱が漏洩することを防止することができる。
【0055】
なお、この温度センサ1の製造方法としては、上記図2図6に示す工程と同様な手法を用いて、まず、素子部2および電線4を熱伝導性樹脂3のみにより封止してなる中間封止体6を製造する。そして、この後、図13に示すように、中間封止体6を、低熱伝導性樹脂5の注入領域23a、23bも有するキャビティ(樹脂注入空間部)内に配設し、上金型21や下金型22に形成されたゲート24、25から、溶融した低熱伝導性樹脂5を注入する。これにより、熱漏洩の少ない温度センサ1を製造することができる。
【0056】
さらに、上記実施の形態では、熱伝導性樹脂3の少なくとも外周部は外部に露出している温度センサ1の場合を説明したが、これに限るものではない。図14は本発明の他の実施の形態(第4の実施の形態)に係る温度センサ1を示す断面図である。図14に示すように、この温度センサ1は、例えば、素子部2は周囲から熱伝導性樹脂3で封止されているが、熱伝導性樹脂3の周囲を覆うようにさらにこの外側から低熱伝導性樹脂5で封止されている。
【0057】
この構成によれば、熱伝導性樹脂3の周囲が低熱伝導性樹脂5で封止されているため、低熱伝導性樹脂5により覆われていないものと比較すると若干応答性が低下してしまう。しかしながら、熱伝導性樹脂3の周囲を低熱伝導性樹脂5で封止しているため、温度センサ1として、低熱伝導性樹脂5が設けられていないものと比較して、強度的には優れたものを実現できる。つまり、例えば、熱伝導性樹脂3として、熱可塑性樹脂に多量の熱伝導性充填材を含有させると、熱伝導性樹脂3として比較的もろくなって、強度的に低くなるなどして、強い衝撃を受けた場合に損傷する可能性がある。
【0058】
これに対して、熱伝導性樹脂3の周囲を低熱伝導性樹脂5で封止して外周から覆うと、温度センサ1としての強度が向上して、耐衝撃性向上し、信頼性を向上させることができる。
【0059】
さらに、熱伝導性樹脂3の周囲を低熱伝導性樹脂5で封止する場合、熱伝導性樹脂5を硬質系樹脂とし、低熱伝導性樹脂5を軟質系樹脂とすることができる。この場合、低熱伝導性樹脂5として用いる軟質系樹脂が、外部からの衝撃に対する緩衝層として機能し、素子部2の破壊を防ぐ役割を果たす。反対に熱伝導性樹脂3を軟質系樹脂とし、低熱伝導性樹脂5を硬質系樹脂とすることもできる。この場合、素子部2と接する熱伝導性樹脂3としての軟質系樹脂が外部からの衝撃に対する緩衝層として機能し、素子部2の破壊を防ぐ役割を果たす。加えて、温度センサ1の外周が硬質系樹脂で覆われるため、ずれ等が生じにくく、特に温度センサ1の位置決めに対し精緻に対応が可能となる。
【0060】
また、熱伝導性樹脂3に用いられる熱可塑性樹脂と、低熱伝導性樹脂5に用いられる熱可塑性樹脂とを、同じ熱可塑性樹脂を用いたり、同じ材料系(同系)の熱可塑性樹脂を用いたりすることにより、互いに強固に結合される。したがって、例えば温度変化の大きい環境でも、熱伝導性樹脂3と低熱伝導性樹脂5との界面(境界面)で剥離して隙間を生じることがなく、熱の応答性が急激に低下してしまうこともないので、良好な信頼性を得ることができる。
【0061】
この温度センサ1の製造方法としては、図15図19に示すように、本発明の第1の実施の形態の温度センサ1の製造方法と同様な方法により、素子部2および電線4を熱伝導性樹脂(一次成形用樹脂)3により封止してなる中間封止体6を、一次成形用の案内部材36や筒状治具35を備えた一次成形用の上金型31および下金型32によって製造する。すなわち、一次成形用の金型31、32のキャビティ33内に素子部2を一次成形用の筒状治具35により周方向から保持して所定位置に固定された状態で配置する(一次配置工程)。そして、一次成形用の金型31、32のキャビティ33へ、溶融した熱伝導性樹脂(一次成形用樹脂)3をゲート34から注入し、この際に、一次成形用の筒状治具35を一次成形金型31、32のキャビティ33内からキャビティ33外に排出させて、素子部2を表面に露出させることなく封止成形して、中間封止体6を製造する(一次成形工程)。
【0062】
この後、図20図24に示すように、二次成形用の案内部材46や筒状治具45を備えた二次成形用の上金型41および下金型42を用いて、中間封止体6を低熱伝導性樹脂(二次成形用樹脂)5で封止して、温度センサ1を製造する。すなわち、二次成形用の金型41、42のキャビティ43内に中間封止体6を二次成形用の筒状治具45により周方向から保持して所定位置に固定された状態で配置する(二次配置工程)。そして、二次成形用の金型41、42のキャビティ43へ、溶融した低熱伝導性樹脂(二次成形用樹脂)5をゲート44から注入し、この際に、二次成形用の筒状治具45を二次成形金型41、42のキャビティ43内からキャビティ43外に排出させて、中間封止体6を表面に露出させることなく封止成形して、温度センサ1を製造する(二次成形工程)。
【0063】
この製造方法によれば、一次成形用の熱伝導性樹脂3が注入される際(一次成形工程)には、素子部2が一次成形用の筒状治具35により周方向から保持して所定位置に固定されている(すなわち位置決められている)ので、素子部2の位置決めを良好に行える。また、二次成形用の低熱伝導性樹脂5が注入される際(二次成形工程)には、中間封止体6が二次成形用の筒状治具45により周方向から保持して所定位置に固定されている(すなわち位置決められている)ので、中間封止体6の位置決めも良好に行える。この結果、温度センサ1として良好な防水性等のシール性能を得られるだけでなく、温度センサ1として、検出感度や応答精度が極めて良好に保持されて高い信頼性を有するものを得ることができる。また、素子部2が熱伝導性樹脂3と低熱伝導性樹脂5とにより二重に覆われるため、極めて良好に保護され、さらに信頼性が向上する。
【0064】
また、上記製造方法では、熱伝導性樹脂3と低熱伝導性樹脂5とのキャビティ33、43への注入時に熱伝導性樹脂3や低熱伝導性樹脂5が流入して一次成形用の筒状治具35または二次成形用の筒状治具45を押す圧力を利用して、これらの筒状治具35、45をキャビティ33、43外に排出させるとよく、この場合には、筒状治具35、45に対して外力、例えば機械的に移動させる外部シリンダや外部モータなどの駆動機構を設けて力などを与えなくても済んで、ひいては温度センサ1の製造コストを安価に済ますことが可能となる。
【0065】
しかしながら、これに限るものではなく、筒状治具35、45を外部から移動させるシリンダ装置などを設けて、キャビティ33、43に溶融した熱伝導性樹脂3や低熱伝導性樹脂5が満たされつつある際に、筒状治具35、45をキャビティ33、43外に後退させる力を、例えば機械的に移動させる外部シリンダや外部モータなどの駆動機構により外部から与えて、筒状治具35、45をキャビティ33、43外に後退させてもよい。これにより、キャビティ33、43へ熱伝導性樹脂3や低熱伝導性樹脂5が流入した際の筒状治具35、45への押圧力だけでは筒状治具35、45をキャビティ33、43外に後退させることが困難な場合でも、外部からの力により筒状治具35、45をキャビティ33、43外に良好に後退させることができて、信頼性を向上させることができる。なお、筒状治具35、45を後退させるタイミングは、熱伝導性樹脂3や低熱伝導性樹脂5を注入するシリンダ装置の移動量など、熱伝導性樹脂3や低熱伝導性樹脂5の注入量に応じて調整したり、キャビティ33、43内の圧力を検知する検知手段を設けて、前記圧力に応じて調整したりするとよいがこれに限るものではない。
【0066】
また、上記構成では、両方の筒状治具35、45により、温度センサ1の中心軸心と筒状治具35、45の中心軸心とが一致する姿勢で、温度センサ1を保持している。これにより、温度センサ1の中心軸心と筒状治具35、45の中心軸心とが一致し、温度センサ1を極めて良好な姿勢で安定して保持することができる利点がある。なお、少なくとも一方の筒状治具35、45により、温度センサ1の中心軸心と筒状治具35、45の中心軸心とが一致する姿勢で、温度センサ1を保持するように構成しても、封止成形体6の中心軸心と筒状治具35の中心軸心とを一致させたり、中間封止体6の中心軸心と筒状治具45の中心軸心とを一致させたりできて、これによっても、温度センサ1や中間封止体6を極めて良好な姿勢で安定して保持することができる利点がある。
【0067】
また、上記の実施の形態では、何れも熱伝導性樹脂3としては、1種類のものを用いた場合を図示したがこれに限るものではなく、図25に示すように、素子部2の本体(素子部本体)2aから突出された接続用端子2bと、電線4の芯線部4bとが半田などの接続材7により接続され、この接続部が電線被覆材4aにより覆われていない状態である場合などには、素子部2を、絶縁性を有する熱伝導性樹脂3Aにより封止させ、さらにこの絶縁性を有する熱伝導性樹脂3Aを、電気導電性を有する熱伝導性樹脂3Bにより封止して覆って、温度センサ1を構成してもよい。
【0068】
この構成によれば、素子部2と電線4との間の接続部から電流や電気信号が漏れることを防止しながら、良好な応答性や防水性も得ることが可能となる。なお、このような構成の温度センサ1を製造する場合にも、図15図19に示すような、一次成形用の案内部材36や筒状治具35を備えた一次成形用の上金型31および下金型32を用いて、まず、素子部2および電線4を、絶縁性を有する熱伝導性樹脂(一次成形用樹脂)3Aにより封止してなる中間封止体を製造し、この後、図20図24に示すように、二次成形用の案内部材46や筒状治具45を備えた二次成形用の上金型41および下金型42を用いて、前記中間封止体を、電気導電性を有する熱伝導性樹脂(二次成形用樹脂)3Bで封止することにより、温度センサ1を良好に製造することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 温度センサ
2 素子部
3 熱伝導性樹脂
3A 絶縁性を有する熱伝導性樹脂
3B 導電性を有する熱伝導性樹脂
4 電線
5 低熱伝導性樹脂
6 中間封止体
11、21、31、41 上金型
12、22、32、42 下金型
13、23、33、43 キャビティ
14、24、34、44 ゲート
15、25、35、45 筒状治具(スリーブ状治具)
16、26、36、46 案内部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図19
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図21
図22
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図24
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