【実施例1】
【0016】
実施例1では、半導体ウェハ上の微小試料をラマン測定する顕微ラマン分光装置および顕微ラマン分光システムの一例について説明する。
【0017】
ここで、半導体ウェハ上の微小試料とは、製造歩留りを下げる微小異物、デバイス特性に影響を及ぼす局所歪、またはキャリア濃度などを示し、ラマン活性があることが条件となる。また、微小試料とは、特にレーザ光の回折限界を超える微細な試料または微細な部位などを示し、微小試料のサイズはラマン励起光の波長以下、例えば1μm以下である。
【0018】
また、検査体として、半導体ウェハを例示したが、これに限定されるものではない。すなわち、ラマン分析は、半導体ウェハ上の微小試料の分析だけでなく、炭素系材料、例えばカーボンナノチューブまたはグラフィンなどの分析を行うことができる。例えばカーボンナノチューブの応力をラマンスペクトルに現れるピークのシフトから検出することができる。または、グラフィンの層数をラマンスペクトルの一のバンドの強度と他のバンドの強度との比から検出することができる。
【0019】
図1は、実施例1による顕微ラマン分光装置に備わる顕微ラマン光学系の一例を示す構成図である。
【0020】
顕微ラマン光学系100の光軸150を、
図1中の太線で示している。
【0021】
レーザ101から射出されたラマン励起光は、ビームスプリッタ134を介して分岐し、2つのレーザ光(照明光)となる。そして、一方のレーザ光は斜射光学系を通り、他方のレーザ光は落射光学系を通り、2つのレーザ光は半導体ウェハ上の微小試料10に照射される。ここでは、微小試料10を有する検査体の面(実施例1では半導体ウェハの主面)に対して一定の角度(90度未満)を有して斜めにレーザ光を照射することを斜射照明と言い、その光学系を斜射光学系と言う。また、微小試料10を有する検査体の面(実施例1では半導体ウェハの主面)に対して垂直にレーザ光を照射することを落射照明と言い、その光学系を落射光学系と言う。
【0022】
実施例1では、レーザ101から射出されたラマン励起光を分岐して、それぞれを斜射光学系と落射光学系とへ導いているが、分岐せずに、互いに波長の異なる2つ以上のレーザを実装してもよい。複数のレーザを実装することにより、蛍光をさける波長帯域を用いることができる、または斜射光学系と落射光学系とでそれぞれ異なる波長帯域を用いることができるので、ラマンスペクトルの広範囲帯域を同時に測定することができる。
【0023】
照射されたレーザ光により、微小試料10から放出されたラマン散乱光は、共焦点光学系を通り、分光器125へ導かれる。分光器125には、高感度冷却CCD(Charge Coupled Device)などの検出器126が実装されており、検出したラマン散乱光をスペクトル表示することができる。
【0024】
実施例1では、半導体ウェハ上の微小試料10のラマン測定を例示しているため、顕微ラマン光学系100に正立型顕微鏡(金属顕微鏡)の構成を用いているが、倒立型顕微鏡の構成を用いることもできる。
【0025】
次に、顕微ラマン光学系100について詳細に説明する。
【0026】
ラマン励起光は、レーザ101から射出され、偏光板または波長板などの偏光調整器102により偏光調整され、減衰フィルター103により強度調整される。さらに、ラマン励起光は、レーザラインフィルター104により波長帯域を制限され、空間フィルター105により任意の強度分布に調整されて、ビーム形成される。
【0027】
ビーム形成されたラマン励起光は、ビームスプリッタ134により分岐され、一方のレーザ光は斜射光学系130へ、他方のレーザ光は落射光学系へと導かれる。ビームスプリッタ134は強度調整機構を実装しており、レーザ光の強度分配比率を変更することができる。レーザ光の強度分配比率は、例えばビームスプリッタ134を入れ替えるまたは偏光回転させることにより、変更することができる。
【0028】
斜射光学系130は、ラマン検出光学系および落射光学系から独立している。斜射光学系130のレーザ光は、微小試料10の位置を検出するための暗視野顕微の照明光として用いられる。
【0029】
斜射光学系130では、レーザ光を偏光調整器133により偏光調整し、ガルバノミラーなどによって構成された走査光学系132により任意の位置に照射することを可能とする。さらに、斜射光学系130では、レーザ光を対物レンズ131により回折限界付近まで絞って、微小試料10に照射することができる。
【0030】
対物レンズ131は、液浸レンズを用いてもよい。また、対物レンズ131には、フォーカス調整機構(図示は省略)が実装されており、フォーカスおよびデフォーカスが可能である。フォーカス調整機構以外に、レボルバなどのレンズ交換機構(図示は省略)が実装されており、任意のレンズに変換することができる。
【0031】
斜射光学系130のレーザ光は、デフォーカスして視野内の全部を照らすようにして、暗視野顕微の照明に用いられる。暗視野顕微の照明は視野内の一部を照らすようにしてもよい。また、斜射光学系130のレーザ光は、回折限界付近まで、対物レンズ131の性能の限りに絞って照射されて、ラマン散乱光の励起にも用いることができる。
【0032】
この斜射光学系130により、ラマン励起光の波長以下、例えば1μm以下の微小試料10の位置検出およびラマン測定ができる。微小試料10の位置検出およびラマン測定については後述する。
【0033】
落射光学系は、ラマン検出光学系と兼用している。落射光学系とは別にラマン検出光学系を実装してもよい。落射光学系のレーザ光は、ラマン散乱を励起するための照明光として用いられる。
【0034】
落射光学系のレーザ光は、ビームスプリッタ115により微小試料10側へ反射され、走査光学系110により任意の位置に照射することが可能となり、対物レンズ111により微小試料10へ照射される。
【0035】
走査光学系110は、例えばガルバノミラー114、走査レンズ113、および結像レンズ112によって構成される。また、走査光学系110の結像レンズ112は視野像の結像レンズと兼用している。すなわち、周辺領域を含む微小試料10のラマン散乱光などをビームスプリッタ141によって分岐し、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)またはCCDなどのカメラ(ビデオカメラ)142へ導いて、光学顕微像(明視野像または暗視野像)を観察している。
【0036】
レーザ光は、斜射光学系または落射光学系によって導かれて、微小試料10へ照射される。微小試料10によって散乱した光の中には、とても微弱だが、レイリー散乱光とは波長または振動数の異なる非弾性散乱光のラマン散乱光が含まれている。このラマン散乱光は、落射光学系のレーザ光と逆のルートを通り、分光器125へと導かれる。
【0037】
ラマン散乱光は、対物レンズ111によって集光され、走査光学系110を介して、ビームスプリッタ115を透過し、結像レンズ121により集光される。集光されたラマン散乱光は、さらに、共焦点ピンホール122を通り、コリメートレンズ123により平行光にされ、ラマンフィルター124を介して分光器125へ導かれ、高感度冷却CCDなどの検出器126によって検出される。
【0038】
結像レンズ121、共焦点ピンホール122、コリメートレンズ123、および対物レンズ111を共焦点光学系と称する。一般に、共焦点レーザ顕微鏡などに用いられる機構では、対物レンズの焦点位置以外の光は、共焦点ピンホールにより取り除くことにより、鮮明な像を得ることができる。顕微ラマン分光の場合も同様にして、焦点(ピント)の合った部分(点)のみラマン測定をする。走査光学系110で走査することにより、視野内の別の点を測定することができる。
【0039】
ラマンフィルター124では、弾性散乱光であるレイリー散乱光を除去し、非弾性散乱光であるラマン散乱光のみを透過する。
【0040】
分光器125へ導かれたラマン散乱光は分光され、検出器126へ導かれてラマンスペクトルとなる。ラマン散乱光の振動数とラマン励起光の振動数との差はラマンシフトと呼ばれ、ラマンスペクトルの横軸に用いられる。一般に、ラマンシフトを用いることにより、ラマン励起光の波長に依存しないラマンスペクトルを得ることができる。
【0041】
実施例1においてラマン測定とは、ラマンスペクトルの測定である。ラマンスペクトルは物質固有のスペクトルを示し、物質の同定や定量に用いられる。
【0042】
実施例1においてラマン分析とは、例えばラマン測定で得たラマンスペクトルからピーク波数、バンド幅、ピークシフト量、およびバンド面積などを取得ること、または算出することである。その他、ラマンスペクトルをデータベースから検索すること、視野内の複数点のラマンスペクトルからラマンイメージを作成することもラマン分析と言う。ここで、ラマンイメージとは、ラマンスペクトルから得た任意の分析データをマッピングしたものを言い、例えば後述の
図6(d)にラマンイメージの画像を示す。
【0043】
なお、
図1に示した顕微ラマン光学系100では、レーザ101から射出されたラマン励起光を分岐して、微小試料10の位置を検出するためのレーザ光を斜射光学系へ、ラマン散乱光を励起するためのレーザ光を落射光学系とへ導いているが、これに限定されるものではない。
【0044】
図2は、実施例1による微小試料の位置を検出するためのレーザ光およびラマン散乱光を励起するためのレーザ光の種々の照射の態様を説明する模式図である。
【0045】
図2(a)は、前述の
図1を用いて説明した顕微ラマン光学系100を示す光学系の模式図であり、微小試料10の位置を検出するためのレーザ光LAPを斜射照明とし、ラマン散乱光を励起するためのレーザ光LAEを落射照明としている。
【0046】
図2(b)は、レーザから射出されたラマン励起光を分岐して、複数のレーザ光を微小試料に斜射照射する光学系の模式図である。微小試料10の位置を検出するためのレーザ光LAPとラマン散乱光を励起するためのレーザ光LAEとは斜射照明としているが、これらは互いに異なる斜射光学系から微小試料10へ照射される。なお、
図2(b)に示した光学系については、後述の
図8を用いて詳細に説明する。
【0047】
図2(c)は、レーザから射出されたラマン励起光を分岐せずに、レーザ光を微小試料10に斜射照射する光学系の模式図である。すなわち、微小試料10の位置を検出するためのレーザ光LAPをラマン散乱光を励起するためのレーザ光LAEと兼用している。
【0048】
図2(d)は、レーザから射出されたラマン励起光を分岐せずに、レーザ光を微小試料10に落射照射する光学系の模式図である。すなわち、微小試料10を傾けることにより、落射照明は微小試料10に対して斜射照明となり、実質的に、
図2(c)と同じ光学系となる。
【0049】
図3は、実施例1による顕微ラマン分析システムの一例を示す斜視図である。
【0050】
顕微ラマン分析システム200は、顕微ラマン分光装置201と、システムコントローラ202と、ミニエンバイロメントウェハ搬送システム203と、を有している。
【0051】
システムコントローラ202は、顕微ラマン分析システム200の全てを制御している。システムコントローラ202は、顕微ラマン分光装置201の制御を兼ねているが、顕微ラマン分光装置201を制御する別のシステムコントローラを実装して、このシステムコントローラとシステムコントローラ202とを互いに通信してもよい。
【0052】
ミニエンバイロメントウェハ搬送システム203は、ロードポート204と、ファンフィルターユニット207と、ウェハ搬送ロボット209と、アライナー211と、ディスプレイ212と、を有している。
【0053】
アライナー211は、半導体ウェハ206の偏芯量およびノッチ向きを検出し、これらをそろえる機能を有している。
【0054】
ディスプレイ212は、入力も兼ねたタッチパネルであり、顕微ラマン分光システム200のインターフェースとしての役割を有している。生産工場のホストへの通信以外に、ラマン分析の結果をディスプレイ212に表示し、ただちに生産プロセスへフィードバックすることが可能である。
【0055】
ロードポート204は、半導体ウェハ206を収納するカセット、例えばFOUP(Front Opening Unified Pod)205を開閉する機構を有している。
【0056】
ファンフィルターユニット207は、ミニエンバイロメントウェハ搬送システム203内および顕微ラマン分光装置201内をクリーンな環境にするためのファンとフィルターとを有しており、また、筺体内を陽圧にするため、ダウンフローを行う機能を有している。
【0057】
ウェハ搬送ロボット209は、半導体ウェハ206の顕微ラマン分光装置201への供給および顕微ラマン分光装置201からの排出をするためのウェハ搬送機構を有している。また、ウェハ搬送ロボット209は、アライナー211が検出した偏芯量を補正した形で、半導体ウェハ206の試料室への搬送を行い、半導体ウェハ206のラマン測定の大まかな位置決めを行う。
【0058】
図4は、実施例1による顕微ラマン分析システムの一例を示す断面図である。
【0059】
顕微ラマン分光装置201は、顕微ラマン光学系100と、試料室301と、試料室雰囲気調整器および検出器302と、ステージ303と、除振装置305と、ベース306と、を有している。
【0060】
試料室301は、試料周囲の雰囲気を安定にするために筺体で囲われており、半導体ウェハ206を載置する。試料室301内はどのような環境でもかまわないことから、試料室301内は、真空、窒素パージ、または高圧とすることができる。ただし、温度または試料室301の環境による微小試料10のドリフトは小さい方が好ましいことから、試料室雰囲気調整器および検出器302として、温度調整器および温度測定器を実装している。
【0061】
試料室雰囲気調整器は、測定環境を構築する機構であり、例えば真空または高圧などの圧力を調整する場合は圧力計、例えば窒素パージする場合は酸素濃度計が用いられる。ただし、試料室301の環境によって微小試料がドリフトしても、走査光学系(前述の
図1の走査光学系110,132)を用いることによって、微小試料が対物レンズの視野内から外れなければ追従して測定することができる。また、ステージ303を用いて、微小試料が対物レンズの視野内から外れないようにしてもよい。
【0062】
ステージ303は、ウェハ搬送ロボット209と併用して、微小試料を視野内へ移動する機構を有している。
【0063】
ここで、例えばステージ303に微小試料を傾斜する機構を設ければ、微小試料を傾けることにより、前述の
図2(d)に示したように、落射照明は微小試料に対して斜射照明となる。また、微小試料の位置を検出する光学系とラマン散乱光を励起する光学系とを共用すれば、光学系は1つで良い。
【0064】
除振装置305は、顕微ラマン光学系100、試料室301、およびステージ303を浮かせる機構であり、外乱の振動を除去することができる。
【0065】
ベース306は、除振装置305を介して顕微ラマン光学装置201を支えている。ベース306にシステムコントローラを実装してもよい。
【0066】
図5は、実施例1による第1の顕微ラマン光学系を拡大して示す模式図である。
図5では、斜射光学系および落射光学系のそれぞれの対物レンズより先の領域を拡大して示している。
【0067】
図5には、斜射光学系の光軸605の光を微小試料の位置検出に用い、落射光学系の光軸603の光をラマン散乱光の励起およびラマン散乱光の検出に用いた例を示している。対物レンズ131はあえてデフォーカスしており、顕微視野(対物レンズ111の視野)の範囲602より広い斜射照明範囲604を照射している。この場合、デフォーカスではなく、対物レンズ131を倍率の低いものに変換して、顕微視野の範囲602を照射してもよい。
【0068】
スポット601は、落射光学系のレーザ光のスポットであり、ラマン検出光学系の共焦点の測定範囲(ラマン散乱光の検出範囲)である。
【0069】
顕微視野の範囲602で、スポット601を走査光学系(前述の
図1に示す走査光学系110)によって走査することができる。
【0070】
図6(a)、(b)、(c)、および(d)はそれぞれ、実施例1による微小粒子の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)像、明視野像、暗視野像、およびラマンイメージの一例を示す画像図である。微小粒子の直径は、0.1μmである。
【0071】
図6(a)に、走査型電子顕微鏡により得られた微小試料10のSEM像を示す。微小試料10は、その直径が0.1μmの粒子であり、電子顕微鏡または原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)などによって、その形状を認識できるサイズの試料である。
【0072】
図6(b)に、微小試料10を落射光学系の照明によって測定した画像(明視野像)を示す。明視野像では、微小試料10の位置を把握することができない。このとき、白色LED(Light Emitting Diode)(図示は省略)を光源とした光を、ビームスプリッタによって落射光学系に導入している。この白色LEDの照射範囲は、前述の
図5に示したスポット601と同じである。
【0073】
また、明視野用の光源は、微小試料10のラマン測定には邪魔になることが多い。明視野用の光源は、ノイズとして検出器126に入ってしまうため、ラマン測定時は消すことになる。これでは、微小試料10の位置を検出し続けて追従するようなことはできない。
【0074】
しかし、実施例1による顕微ラマン光学系では、ラマン散乱光の励起に用いるレーザ光と同様の波長のレーザ光を斜射照明することによって、ラマン測定の邪魔をしないで、微小試料10の位置を検出し続けることができる。
【0075】
図6(c)に、微小試料10を斜射光学系の照明によって測定した画像(暗視野像)を示す。暗視野像では、明視野像では検出することのできなかった微小試料10の位置を検出することができる。
【0076】
明視野像ではその位置を検出しにくい微小試料10であっても、ラマン散乱光を観察する暗視野像であれば、その位置を検出することができる。微小試料10の形状は、SEMまたはAFMなどにより確認することができる。また、微小試料10の形状が予め分かっていれば、ラマン散乱光から微小試料10の形状をモデリング(計算)することも可能である。
【0077】
ところで、ラマン散乱光は、微小試料10の形状、レーザ光の偏光、およびレーザ光の入射角に大きく依存する。そのため、前述の
図1には省略したが、偏光調整器102,133(前述の
図1参照)には、例えば偏光調整機構を有している。ラマンスペクトルを測定している間(例えば高感度冷却CCDを露光している間)は、偏光状態を変更することまたは変更し続けることにより、ラマン散乱光の平均値を得ることができる。
【0078】
また、顕微ラマン分光装置は、レーザ光の入射角を変更できる機構を備えており、その機構は、例えば斜射光学系の実装ベースがステージで傾斜できる機構であり、最適なラマン散乱光を得るための角度調整機構を有している。これらの機構は、例えば、SEMまたはAFMでないとその形状が分からない微小試料10のラマン測定の際に有効である。
【0079】
図6(d)に、斜射照明にて検出した微小試料10の位置を走査光学系110(前述の
図1参照)、またはステージ303(前述の
図4参照)によって走査し、ラマンイメージングを行った画像(ラマンイメージ)を示す。
【0080】
ラマンイメージは、微小試料10に特有のラマンスペクトルのピークの強度分布を示した画像である。
図6(d)に示すように、微小試料10のラマン測定ができていることが分かる。
【0081】
さらに、微小試料10のラマン測定においては、微小試料10の位置を検出できない問題の他に、微小試料10のラマン散乱光がバックグランドのラマン信号に埋もれてしまう、ラマン活性が弱い、またはSN比が悪いなどの問題がある。
【0082】
その場合は、斜射光学系から微小試料10に照射するレーザ光を、回折限界近くまで絞って、斜めから照射する。
【0083】
図7は、実施例1による第2の顕微ラマン光学系を拡大して示す模式図である。
図7では、斜射光学系および落射光学系のそれぞれの対物レンズより先の領域を拡大して示している。
【0084】
回折限界近くまで絞ったレーザ光を斜射光学系により微小試料に照射し、ラマン散乱光の検出には、前述の
図5を用いて説明した落射光学系を用いる。これにより、SN比をよくして、バックグランドの情報を削減することができる。
【0085】
その理由は、バックグラウンドのラマン散乱光または蛍光などは斜射照明によって励起されるので、斜射光学系から微小試料に照射するレーザ光を回折限界近くまで絞ることにより、ラマン検出光学系にバックグランドのラマン信号が入らない、または入りにくい構造にすることができるからである。また、同様に、他のノイズに対しても、微小試料の位置を検出する光学系とラマン散乱光を励起する光学系とが別となるため、必要な信号のみを選択することができる。
【0086】
さらに、斜射光学系によるラマン散乱光の励起と落射光学系によるラマン散乱光の励起とを併用することにより、微小試料のラマン測定が可能である。斜射照明のレーザ強度と落射照明のレーザ強度との比を任意に調整し、微小試料ごとに適宜変更することにより、微小試料のラマン測定を行う。
【0087】
これらの場合、斜射光学系のレーザ光のスポットとラマン散乱光の検出位置とは同じ位置のスポット701となり、両者の位置の一致は、それぞれの軸に用意された走査光学系110,132(前述の
図1参照)およびステージ303(前述の
図4参照)によって実現される。
【0088】
このとき、落射光学系のレーザ光のスポットとラマン散乱光の検出位置とが同じになるように、顕微ラマン光学系は構成されているため、落射光学系のレーザ光はラマン散乱光の検出位置(共焦点位置)を的確に把握するためにも用いることができる。スポット701の合致は、斜射照明と落射照明との両者の画像処理により行う。
【0089】
この第2の光学系では、微小試料の位置を検出する光学系とラマン散乱光を励起する光学系とを別々に設けているが、例えば前述の
図2(c)および(d)に示したラマン励起光を分岐しない光学系にも回折限界近くまで絞ったレーザ光を用いることができる。
【0090】
図8は、実施例1による上面から見た第3の顕微ラマン光学系を拡大して示す模式図である。
図8では、斜射光学系および落射光学系のそれぞれの対物レンズより先の領域を拡大して示している。
【0091】
斜射照明を2系統実装しており、一方は、微小試料の位置を検出する照明であり、他方は、ラマン散乱光を励起する照明であり、落射光学系を介して、分光器によりラマン測定が行われる。このため、斜射光学系には対物レンズ802が追加されている。また、斜射光学系の一方のレーザ光のスポットと落射光学系のレーザ光のスポットとは同じ位置のスポット801となる。
【0092】
このように複数の斜射光学系を用いる、または落射光学系と斜射光学系との両方を用いる場合は、それぞれの光学系のレーザ光の波長を互いに異なる波長としておけば、光学系の切り替えにより、複数の波長をレーザ光に用いることができる。複数の波長のレーザ光を用いることは、蛍光対策など微小試料にとっては有効な対策となる場合がある。
【0093】
また、複数の斜射光学系で同時に照明できることにより、微小試料の位置を検出しつつ、ラマン測定ができるので、後述する追従機能を斜射照明のみで実現することができる。
【0094】
また、斜射照明と落射照明とによるラマン散乱光の励起を行いつつ、微小試料の位置を検出できるという利点もある。
【0095】
図9(a)および(b)はそれぞれ、実施例1による微小試料のラマン測定の一例を示す模式図、および実施例1による微小試料のラマン測定の他の例を示す模式図である。
【0096】
図9(a)に示すように、斜射光学系の光軸605および落射光学系の光軸603のスポット701に対して、微小試料10は十分小さい。
【0097】
そこで、
図9(b)に示すように、チップ増強ラマン分析または表面増強ラマン分析の照明にも、実施例1による顕微ラマン光学系を用いることができる。
【0098】
ここで、チップ増強ラマン分析においては、チップ(探針)903の先端902を近づけた微小試料10へのレーザ光を的確に照射することができる。または、表面増強ラマン分析においては、微粒子群基板901上の微小試料10へのレーザ光を的確に照射することができる。これにより、チップ903による増強部分のラマン信号のみ、または微粒子群基板901の増強部分のラマン信号のみを検出することができる。
【0099】
図10(a)および(b)はそれぞれ、実施例1による斜射光学系のレーザ光を広視野範囲に照射した場合の画像図、および実施例1による斜射光学系のレーザ光を狭視野範囲に照射した場合の画像図である。
【0100】
図10(a)および(b)に示すように、半導体ウェハ上に多くの突起がある場合は、測定部を限定するには広視野範囲に照射するよりも、狭視野範囲に照射する方が有効である。
【0101】
図11は、実施例1による斜射光学系のレーザ光を狭視野範囲に照射した場合のカメラの全視野像を示す画像図である。図中、符号1102は、前述の
図10(b)で示した狭視野範囲を示す。
【0102】
図11に示すように、ラマン散乱光により、微小試料をスポット1202として、その位置を認識することができる。
【0103】
図12は、実施例1による微小試料の追従機能を説明する画像図である。
【0104】
ラマン測定の対象が微小試料の場合、微小試料のラマン散乱光がバックグランドのラマン信号に埋もれてしまう、ラマン活性が弱い、またはSN比が悪いなどの問題の他に、温度などによるドリフトにより、微小試料の位置が光学系に対して移動するという問題がある。
【0105】
スポット1202は、レーザ光の波長および光学系にもよるが、可視光の場合は1μm程度である。これに対して、微小試料を載置するステージおよび光学系を支える部材は、1℃温度が変化するだけで、伸縮により0.1〜3μm程度動くことが多いため、微小試料の位置が変化して、微小試料の位置を検出するためのレーザ光およびラマン散乱光を励起するためのレーザ光から外れることがある。
【0106】
また、ラマン活性の強い微小試料であっても、長時間の露光が必要となる場合が多い。そのため、レーザ光を照射してラマン散乱光を検出している間に、スポットの位置と微小試料の位置とがずれることがある。
【0107】
しかし、暗視野による狭視野範囲の照明は、システムコントローラにより、走査光学系を用いて自動で微小試料の位置を追従することができるので、微小試料の位置ずれを回避することができる。例えば
図12に示すように、スポット1202をスポット1301へ移動させることができる。
【0108】
この機能は、微小試料が生体、細胞、または細菌などで動く場合にも用いることができる。また、追従機能により、露光時間を長くとることができるので、ラマン活性の弱い微小試料に対しても有効な機能である。
【0109】
図13は、実施例1によるラマンイメージングの走査方法を説明する画像図である。この走査方法によって得られた画像が前述の
図6(d)に示すラマンイメージである。
【0110】
暗視野像による微小粒子のラマン散乱光を目印にして、微小試料の位置検出およびラマン散乱光の励起に用いるスポット1202を、走査光学系またはステージによりスキャン方向1402へ走査することにより、ラマンイメージが得られる。
【0111】
次に、顕微ラマン分析システムの動作の一例を前述の
図3を用いて説明する。
【0112】
作業者は、システムコントローラ202への命令をディスプレイ212によって行う。システムコントローラ202のインターフェースを介してPC(Personal Computer)などからコマンド指令を送ってもよい。
【0113】
顕微ラマン分析システム200は、システムコントローラ202へ出された命令をもとにラマン測定を開始する。ラマン測定は、システムコントローラ202に予め実装されたプログラムによって自動で行われる。
【0114】
半導体ウェハ206が収納されたFOUP205がミニエンバイロメントウェハ搬送システム203のロードポート204に載置されると、ミニエンバイロメントウェハ搬送システム203がFOUP205を開けて、ウェハ搬送ロボット209が半導体ウェハ206を把持する。ウェハ搬送ロボット209は半導体ウェハ206を試料室へ搬送する。
【0115】
その後、顕微ラマン分光装置201によるラマン測定がスタートする。
【0116】
次に、顕微ラマン分析装置の動作フローの一例を
図14ならびに前述の
図1、
図3、および
図4を用いて説明する。
図14は、実施例1による顕微ラマン分光装置の動作フローの一例を説明するフロー図である。
【0117】
各動作は、システムコントローラ202に予め設定された命令およびデータをもとに、自動で行われる。
【0118】
<ステップP1>
ウェハ搬送ロボット209またはステージ303によって、測定試料を顕微視野の範囲へ移動する。
【0119】
<ステップP2>
測定試料によって、狭範囲照射(スポット照射)か広範囲照射かを選択する。対物レンズ131を入れ替える機構またはオートフォーカス機構により、斜射照明の照射範囲を選択する。
【0120】
<ステップP3>
減衰フィルター103によって、斜射照明の強度を調整する。
【0121】
<ステップP4>
斜射照明の偏光可変を設定する。ラマン散乱光は測定試料の形状によって強度が変化するため、適切な偏光方向に設定する必要がある。しかし、測定試料が粒子試料10の場合は、測定試料の形状を電子顕微鏡などで確認しない限り把握することができない。そこで、ラマン測定中の高感度冷却CCDを露光している間に、斜射光学系は偏光方向を少しふることができる機構を備えている。偏光方向をふることで平均値を得ることができる。その偏光可変を有効にするか無効にするかを設定する。可変動作をしない場合は、カメラ142で検出するレイリー散乱光の強度が一番大きいところで固定する。予め測定試料の形状が分かっていれば、固定のままスキップする。
【0122】
<ステップP5>
斜射照明の照射位置を設定する。測定試料の位置検出またはラマン散乱光の励起のための照明光として、照射位置は決定される。照射位置は走査光学系132によって設定される。
【0123】
<ステップP6>
斜射照明の照射位置の設定が終了したか否かを確認する。斜射光学系が2つ以上ある場合は、もう一度別の軸に対して、ステップP2からステップP5を繰り返す。
【0124】
<ステップP7>
落射照明の強度を設定する。落射照明の強度設定は、ビームスプリッタ134で分配率を変える、または分岐後の減衰フィルターで強度を調整することにより行う。ここでは、例えば測定試料の検出位置の目印用として落射照明の強度は微弱に設定される、またはラマン散乱光の励起用として落射照明の強度は強く設定される。ラマン測定とは別に明視野顕微の照明が必要な場合は、同一の落射光学系においてランプまたはLEDなどの照明の調整を行う。
【0125】
<ステップP8>
落射照明の照射位置および測定点を走査光学系110により決定する。
【0126】
<ステップP9>
測定試料のドリフトまたは測定試料自体の移動が生じた場合、レーザ光を追従させるか否かの追従機能の設定を行う。
【0127】
<ステップP10>
レーザ光を測定試料に照射して、ラマン測定を開始する。検出器126の測定(高感度冷却CCDの露光)を開始する。
【0128】
<ステップP11>
前記ステップP4に従い、必要があれば、ラマン測定中に偏光方向をふる(偏光方向を変化させる)。
【0129】
<ステップP12>
前記ステップP9に従い、必要があれば、測定試料の位置を常時監視し、レーザ光が常に照射するように、走査光学系110,132により追従する。
【0130】
<ステップP13>
検出器126の測定(高感度冷却CCDの露光)を終了する。ラマン励起光を停止し、ラマン測定を終了する。
【0131】
<ステップP14>
分光器125および検出器126によって測定したラマン散乱光をスペクトル表示し、格納する。
【0132】
<ステップP15>
スペクトル評価および分析を行い、例えば任意の波数の強度を格納する。ここで、例えば前述の
図6(d)に示したラマンイメージの画素の一点が測定できたことになる。
【0133】
スペクトル評価および分析は、様々に利用することができる。例えば任意のピークのシフト量を検出する、ラマンスペクトルから物質を特定する、または複数のピークの強度比から構造を理解するなどの利用がある。測定試料は、必ずしも粒子である必要はなく、半導体ウェハであれば、局所的な歪(応力)の測定などにも有効である。
【0134】
図14を用いて説明した動作フローでは、1つの測定点を測定する例を示したが、ラマンイメージングの場合は、レーザ走査、ステージ走査、または繰り返しのラマン測定が必要となる。必要がなければ、この設定部分は省略可能であり、他の測定点へ移動した後に同一の条件で、ステップP10からステップP14までを繰り返すこととなる。ここでは、ラマンイメージングのように複数点のラマンスペクトルを取得する動作フローは省略している。
【0135】
なお、実施例1では、微小試料の位置を検出する1つの光学系、およびラマン散乱光を励起する1つの光学系を備える顕微ラマン光学系について説明したが、これに限定されるものではなく、顕微ラマン光学系は、微小試料の位置を検出する1つの光学系、およびラマン散乱光を励起する1つの光学系を備える顕微ラマン光学系をそれぞれ2つ以上の備えてもよい。
【0136】
このように、実施例1によれば、明視野像では認識できない微小試料であっても、その位置を検出することができるので、ラマン測定およびラマン分析を行うことができる。
【0137】
また、微小試料であるために、バックグラウンドのラマン信号またはノイズに埋もれてしまうラマン散乱光も、斜射照明を用いることによって、検出することができる。
【0138】
また、微小試料がドリフトして位置ずれを起こしてしまう場合、または微小試料自体が移動してしまう場合でも、同一の測定点を追従することができる。追従することによって、SN比が向上し、露光時間を短くすることができる。露光時間を短くできることは、微小試料を焼失させてしまうようなミスを回避することができる。