【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、これまで、マイクロニードルに対応した、均一で定量性のある塗布方法を検討してきた。マイクロニードルへの塗布方法として、インクジェット方式の可能性を鋭意検討した。その結果、インクジェット方式の問題が以下のように明らかになってきた。
(1)インクジェット法でマイクロニードルに塗布すると、針の片面だけに薬液が付着して、全体にいきわたらせることが難しい。
(2)インクジェット法でマイクロニードルに塗布する場合、液滴を投下する位置を高精度に狙わなければ、
図1に示すように薬液が偏って付着するため、マイクロニードルの形状が変わってしまう。特に薬液の滴下回数が増えた場合、顕著になってくる。
(3)インクジェット法で大量の液滴をマイクロニードルに付着させると、液滴が重いため塗布したい場所から零れ落ちてしまう。そのため、少量の液滴しか使用できないので、1回の薬液の滴下で担持できる薬剤量は少量になる。そのため、何度も、滴下を繰り返さなければならないので、塗布方法としては時間が掛かり効率的ではない。
【0009】
しかし、本発明者らは、インクジェット法を使用しても、マイクロニードルの形状を工夫することにより、上記の問題が解決できることを見出した。即ち、マイクロニードルの形状を例えば
図2に示すような、台座部とその上に立つ針状部とからなる2段構造のマイクロニードル(2段針)にすることにより、以下の改善ができることが分かった。
a)2段針を使用することにより、台座部の上に立つ針にインクジェット法で液滴を投下し、針に付着した液滴がこぼれ落ちて2段形状の台座部上面に付着すると、
図2に示されるように表面張力が働く結果、台座部上面全体に広がりながら針の周り360°全体に液滴がいきわたって均質化する。
b)2段針の上記特徴(液滴の自重により台座部上面全体に液滴がまわり、マイクロニードルの台座部上面と、台座部上面において薬剤が盛り上がった分だけ柱身部に平均して薬剤が塗着される)により、マイクロニードルから、こぼれずに付着させることができる滴下液量が飛躍的に増える。
c)針に投下した液滴が自重により台座部上面全体に平均化して保持されるので、液滴を滴下する位置が少しズレても同じ形状に塗ることができる。例えば、
図3の2段針の場合、マイクロニードルの中心から±20μmまで、液滴の投下位置がズレても、滴下した液滴が自重により台座部上面全体に平均化して保持され、液滴がこぼれ落ちることはなかった。
【0010】
そこで、2段構造のマイクロニードル(2段針)が、どのような形状の場合に、インクジェット法で使用するために好適なものとなるのかを検討した。その結果、
図3や
図6で示される形状の2段針であることが良好な結果を与えることが見出された。
即ち、2段針の台座部上面の直径(D
3)とその上に立っている針状部(先端部と柱身部)の底面の直径(D
2)並びに一回に滴下する薬液の量(V)には、以下の相関関係があることが分かった。
ア)2段針の台座面と、その上に立っている針の曲面の表面張力を利用して液滴の形状を変形させるため、液滴が台座面と上記針の曲面の両方に、ある程度以上の面積で接触している必要がある。
イ)そのため、台座面の大きさは、以下の数1を充足することが望ましい。
【0011】
【数1】
【0012】
ウ)また、上記数1を充足する場合、台座部上面の直径(D
3)とその上に立っている針状部(先端部と柱身部)の底面の直径(D
2)の関係は、以下の数2を充足することが望ましい。
【0013】
【数2】
【0014】
なお、D
3がD
2の1.5倍以上あることが望ましい。
本発明者らは、これらの知見に基づき、本発明を完成させた。
【0015】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)台座部とその上に立つ針状部とからなる2段構造のマイクロニードル(2段針)に対して、薬剤を含有する薬液を、インクジェット方式のヘッドから定量吐出することにより、2段針の台座部上面に薬液を塗着させることを特徴とする薬剤を担持したマイクロニードルアレイ(マイクロニードルアレイ製剤)の製造方法。マイクロニードルアレイ製剤とは、薬剤を担持したマイクロニードルアレイのことをいう。
(2)前記マイクロニードルは、前記台座部とその上に立つ針状部とを有し、
前記針状部の先端部又柱身部に向け、前記インクジェット方式のヘッドを制御する工程、
薬液の粘度を所定範囲に調整する工程、及び
前記ヘッドから粘度を調整した薬液を定量吐出する吐出制御工程
を含む、マイクロニードルの台座部上面に薬剤を定量塗着することを特徴とする、上記(1)に記載の薬剤を担持したマイクロニードルアレイの製造方法。
(3)吐出制御工程が、薬液の液滴サイズを500〜1000nL/1滴となるように調節する、上記(1)又は(2)に記載の薬剤を担持したマイクロニードルアレイの製造方法。
(4)吐出制御工程が、薬液の液滴サイズを500〜1000nL/1滴となるように調節し、該液滴をマイクロニードルの先端部又は柱身部に着滴させ、マイクロニードルの台座部上面に薬剤を定量塗着することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の薬剤を担持したマイクロニードルアレイの製造方法。
(5)2段針のマイクロニードルは、台座部とその上に立つ針状部とを有し、上記台座部上面の直径(D
3)は、滴下する薬液の液滴の容量(V)と以下の数3を充足し、
【0016】
【数3】
【0017】
更に、上記数3を充足する場合、台座部上面の直径(D
3)とその上に立っている針状部(先端部と柱身部)の底面の直径(D
2)との関係は、以下の数4を充足する
【0018】
【数4】
【0019】
ことを特徴とする上記(1)〜(4)に記載の薬剤を担持したマイクロニードルアレイの製造方法。
(6)上記台座部上面の直径(D
3)が、その上に立っている針状部(先端部と柱身部)の底面の直径(D
2)の1.5倍以上であることを特徴とする上記(5)に記載の薬剤を担持したマイクロニードルアレイの製造方法。
(7)前記マイクロニードルの形状が、
(A)先端頂角(α)が15〜60°の範囲にあり、
(B)先端直径(D
0)が1〜20μmの範囲にあり、
(C)下記数(3)と(4)を満足し、
H/D
4≧3 (3)
(Hはマイクロニードルの全体の高さ、D
4は台座部底面の直径である)
β≧90−0.5α (4)
(βは柱身部の側面と台座部上面のなす角度、αは先端頂角である)
であることを特徴とする上記(1)〜(6)に記載の薬剤を担持したマイクロニードルアレイの製造方法。
(8)マイクロニードルの全体の高さ(H)が120〜800μmである上記(7)に記載の薬剤を担持したマイクロニードルアレイの製造方法。
(9)台座部の高さ(H
3)が100〜500μmである上記(1)に記載の薬剤を担持したマイクロニードルアレイの製造方法。
(10)マイクロニードルアレイが、熱可塑性樹脂で形成されていることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれかに記載の薬剤を担持したマイクロニードルアレイの製造方法。
(11)上記熱可塑性樹脂が生体分解性樹脂であることを特徴とする上記(10)に記載の薬剤を担持したマイクロニードルアレイの製造方法。
(12)上記生体分解性樹脂が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、植物由来ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンサクシネートからなる群より選ばれる少なくとも1種である上記(11)に記載の薬剤を担持したマイクロニードルアレイの製造方法。
【0020】
(13)インクジェット方式での薬液塗布用マイクロニードルアレイであって、マイクロニードルが
(A)先端頂角(α)が15〜60°の範囲にあり、
(B)先端直径(D
0)が1〜20μmの範囲にあり、
(C)台座部上面の直径(D
3)と薬液吐出量(V)が以下の数5を充足し、
【0021】
【数5】
【0022】
更に、下記数(2)〜(5)を満足し、
D
3<D
2 (2)
H/D
4≧3 (3)
(Hはマイクロニードルの全体の高さ、D
4は台座部底面の直径である)
β≧90−0.5α (4)
(βは柱身部の側面と台座部上面のなす角度、αは先端頂角である)
1.2≦A
3/A
2≦10 (5)
(A
3:台座部上面の面積、A
2:柱身部底面の面積)
であり、インクジェットの吐出ヘッドからの吐出される薬液量(V)を台座部上面に保持することを特徴とする、マイクロニードルアレイ。
(14)吐出薬液量(V)が500〜1000nLであることを特徴とする、上記(13)に記載のマイクロニードルアレイ。
(15)マイクロニードルアレイが、熱可塑性樹脂で形成されていることを特徴とする上記(13)又は(14)に記載のマイクロニードルアレイ。
(16)上記熱可塑性樹脂が生体分解性樹脂あることを特徴とする上記(15)に記載のマイクロニードルアレイ。
(17)上記生体分解性樹脂が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、植物由来ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンサクシネートからなる群より選ばれる少なくとも1種である上記(16)に記載のマイクロニードルアレイ。
【0023】
(18)2段構造のマイクロニードル(2段針)を用いて、薬剤を含有する薬液を、インクジェット方式のヘッドから定量吐出することにより、2段針の台座部上面に薬液を塗着させることを特徴とするマイクロニードルの塗布方法。
(19)2段針のマイクロニードルの形状が、台座部とその上に立つ針からなり、上記台座部上面の直径(D
3)と滴下する薬液の液滴の容量(V)とは、以下の数6を充足し、
【0024】
【数6】
【0025】
更に、上記数6を充足する場合、台座部上面の直径(D
3)とその上に立っている針状部(先端部と柱身部)の底面の直径(D
2)との関係は、以下の数7を充足する
【0026】
【数7】
【0027】
ことを特徴とする上記(18)に記載のマイクロニードルの塗布方法。
(20)上記台座部上面の直径(D
3)が、その上に立っている針状部(先端部と柱身部)の底面の直径(D
2)の1.5倍以上であることを特徴とする上記(19)に記載のマイクロニードルの塗布方法。
(21)2段針のマイクロニードルの形状が、
(A)先端頂角(α)が15〜60°の範囲にあり、
(B)先端直径(D
0)が1〜20μmの範囲にあり、
(C)下記数(3)と(4)を満足し、
H/D
4≧3 (3)
(Hはマイクロニードルの全体の高さ、D
4は台座部底面の直径である)
β≧90−0.5α (4)
(βは柱身部の側面と台座部上面のなす角度、αは先端頂角である)
であることを特徴とする、上記(18)〜(20)に記載のマイクロニードルアレイの塗布方法。