特開2015-110697(P2015-110697A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-110697(P2015-110697A)
(43)【公開日】2015年6月18日
(54)【発明の名称】フッ素ポリマー用分散剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20150522BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20150522BHJP
   C08L 33/16 20060101ALI20150522BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20150522BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20150522BHJP
   B01F 17/52 20060101ALI20150522BHJP
【FI】
   C08L27/18
   C08F265/06
   C08L33/16
   C09D201/00
   C09D7/12
   B01F17/52
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-253035(P2013-253035)
(22)【出願日】2013年12月6日
(11)【特許番号】特許第5719014号(P5719014)
(45)【特許公報発行日】2015年5月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000162076
【氏名又は名称】共栄社化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 英宏
(72)【発明者】
【氏名】橋村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】三冨 大輔
(72)【発明者】
【氏名】衣川 雅之
【テーマコード(参考)】
4D077
4J002
4J026
4J038
【Fターム(参考)】
4D077AA03
4D077AB06
4D077AC05
4D077BA01
4D077BA02
4D077BA07
4D077DD03X
4D077DD06X
4D077DD10X
4D077DD18X
4D077DE02X
4D077DE03X
4D077DE35X
4J002BD121
4J002BD151
4J002BG082
4J002GH00
4J002HA07
4J026AA45
4J026AA76
4J026AC36
4J026BA27
4J026BA29
4J026DA02
4J026DA08
4J026DB02
4J026DB09
4J026DB13
4J038CD102
4J038CD122
4J038CG182
4J038CH252
4J038FA281
4J038KA03
4J038NA09
4J038NA10
4J038PA17
(57)【要約】
【課題】炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基を有さず、分解しても長鎖パーフルオロアルキル含有残留物を生成する可能性がなく、フッ素ポリマーを十分に分散させて分散性に優れ、分散状態を長期間維持させて分散安定性に優れたフッ素ポリマー用分散剤を提供する。
【解決手段】フッ素ポリマー用分散剤は、 下記化学式(1)
CH=C(R)−CO−O−R−R ・・・(1)
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、−R−は−(CH−で示されnを1〜12とする基、−Rは炭素数2〜6で直鎖状、分岐鎖状、及び/又は脂環状のパーフルオロアルキル基)で表されるフッ素含有(メタ)アクリレートモノマー、及びアルキル(メタ)アクリレートモノマーが共重合した主鎖ポリマー部と、メチルメタクリレートモノマー(c)が重合した側鎖ポリマー部と有するグラフトポリマーを含むものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)
CH=C(R)−CO−O−R−R ・・・(1)
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、−R−は−(CH−で示されnを1〜12とする基、−Rは炭素数2〜6で直鎖状、分岐鎖状、及び/又は脂環状のパーフルオロアルキル基)で表されるフッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)の15重量部以上70重量部未満、及びアルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)の0.1重量部以上20重量部未満が共重合した主鎖ポリマー部と、メチルメタクリレートモノマー(c)が重合し、Fedors法で求めた溶解性パラメーター値を9.0〜10.3とし、重量平均分子量を3000〜100000とし、前記主鎖から伸長した側鎖ポリマー部とを重量比で16〜80:20〜84として有するグラフトポリマーを含むフッ素ポリマー用分散剤であり、前記グラフトポリマーが、Fedors法で求めた溶解性パラメーター値を8.5〜10.1とし、重量平均分子量を10000〜300000とし、ガラス転移点を60〜110℃とすることを特徴とするフッ素ポリマー用分散剤。
【請求項2】
前記フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)が、パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート及び/又はパーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレートであり、前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)が、炭素数1〜12のアルキル基を含有するアルキル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1に記載のフッ素ポリマー用分散剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフッ素ポリマー用分散剤と、それにより非水系液状媒体の中で分散されたフッ素ポリマーとを含んでいることを特徴とするフッ素ポリマー分散組成物。
【請求項4】
前記フッ素ポリマーがテトラフルオロエチレン樹脂の粉体又は液体であることを特徴とする請求項3に記載のフッ素ポリマー分散組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のフッ素ポリマー分散組成物とコーティング剤成分とを含むことを特徴とするコーティング剤。
【請求項6】
請求項5に記載のコーティング剤が塗装されて硬化して形成されていることを特徴とする塗装膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ポリマーを含む非水系組成物に配合され、フッ素ポリマーを非水系液状媒体中に分散させる分散性とその分散状態を安定して継続させる分散安定性とを付与するフッ素ポリマー用分散剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素ポリマーであるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素ポリマー粉末やフッ素ポリマーオイルは、フッ素ポリマーの持つ表面エネルギーが低く撥水性、撥油性であることと、比重が大きいことから、有機溶剤のような非水系液状媒体中で分散が非常に困難であった。
【0003】
そこで従来、フッ素ポリマーの分散剤として、パーフルオロオクチル基等の炭素数が8以上の長鎖パーフルオロアルキル基を有する化合物が使用されていた。
【0004】
しかし、近年、炭素数が8以上の長鎖パーフルオロアルキル基を有する化合物は、燃焼等により酸化されて分解され、例えばパーフルオロオクチル基からパーフルオロオクチル酸(PFOA)やパーフルオロオクチルスルフォン酸(PFOS)等の長鎖パーフルオロアルキル含有残留物を生成する可能性があることが明らかになった。
【0005】
これらPFOAやPFOSは、長鎖パーフルオロアルキル基の反応性が乏しいため、自然環境下で分解し難く、また生体内で代謝され難いから、環境への残留性や、生体への蓄積性及び有毒性が懸念されており、各国で使用が規制されている。そのため、炭素数が8以上の長鎖パーフルオロアルキル基を有する化合物に代えて、フッ素ポリマーの分散剤に用いることができ、分解してもPFOA、PFOS等を生成しない化合物が、用いられるようになってきた。
【0006】
その中で、炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物に代わる分散剤として、例えば、特許文献1に、炭素数8以下のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系脂肪族ポリマーエステルを含むフッ素系ポリマー微粒子分散組成物が開示され、特許文献2に、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリロイル基含有フッ素化合物とポリオキシアルキレン鎖含有エチレン性不飽和単量体との共重合体からなるフッ素ポリマー粒子用分散剤が開示され、特許文献3に、分岐鎖状のパーフルオロアルケニル基を有する含フッ素オリゴマーを含むPTFE分散剤が開示されている。これらの分散剤を用いた場合に、フッ素ポリマーは、分散性を有していても、分散安定性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−213062号公報
【特許文献2】特開2010−090338号公報
【特許文献3】特開2011−074129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、パーフルオロオクチル基等のような炭素数が8以上の長鎖パーフルオロアルキル基を有さず、燃焼等で酸化されてもPFOAやPFOS等のような長鎖パーフルオロアルキル含有残留物を生成する可能性がなく、フッ素ポリマーを非水系組成物中に分散させる分散性とその分散状態を安定して継続させる分散安定性とを付与するフッ素ポリマー用分散剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載されたフッ素ポリマー用分散剤は、下記化学式(1)
CH=C(R)−CO−O−R−R ・・・(1)
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、−R−は−(CH−で示されnを1〜12とする基、−Rは炭素数2〜6で直鎖状、分岐鎖状、及び/又は脂環状のパーフルオロアルキル基)で表されるフッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)の15重量部以上70重量部未満、及びアルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)の0.1重量部以上20重量部未満が共重合した主鎖ポリマー部と、メチルメタクリレートモノマー(c)が重合し、Fedors法で求めた溶解性パラメーター値を9.0〜10.3とし、重量平均分子量を3000〜100000とし、前記主鎖から伸長した側鎖ポリマー部とを重量比で16〜80:20〜84として有するグラフトポリマーを含むフッ素ポリマー用分散剤であり、前記グラフトポリマーが、Fedors法で求めた溶解性パラメーター値を8.5〜10.1とし、重量平均分子量を10000〜300000とし、ガラス転移点を60〜110℃とすることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載のフッ素ポリマー用分散剤は、請求項1に記載されたもので、前記フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)が、パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート及び/又はパーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレートであり、前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)が、炭素数1〜12のアルキル基を含有するアルキル(メタ)アクリレートであることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載のフッ素ポリマー分散組成物は、請求項1又は2に記載のフッ素ポリマー用分散剤と、それにより非水系液状媒体の中で分散されたフッ素ポリマーとを含んでいることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載のフッ素ポリマー分散組成物は、請求項3に記載されたもので、前記フッ素ポリマーがテトラフルオロエチレン樹脂の粉体又は液体であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載のコーティング剤は、請求項4に記載のフッ素ポリマー分散組成物とコーティング剤成分とを含むことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の塗装膜は、請求項5に記載のコーティング剤が塗装されて硬化して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフッ素ポリマー用分散剤は、炭素数6以下の短鎖のパーフルオロアルキル基しか有しないグラフトポリマーでフッ素ポリマーを分散させることができる。このようなグラフトポリマーが燃焼等で酸化されてもPFOAやPFOS等のような有害で残留性の高い長鎖パーフルオロアルキル含有残留物を生成しないから、このフッ素ポリマー用分散剤は、環境や生体に対し安全である。
【0016】
フッ素ポリマー用分散剤は、フッ素ポリマー粉末又はフッ素ポリマーオイルと共に非水系液状媒体に含有させれば、フッ素ポリマーを非水系液状媒体中に速やかに均一に分散させつつ、長期間状態を維持させることができる。
【0017】
フッ素ポリマー分散組成物とコーティング成分とを含むコーティング剤は、フッ素ポリマー分散組成物が優れたフッ素ポリマー分散性と分散安定性とを有するので、用時に、頻繁に撹拌したり振盪したりする必要がない。
【0018】
フッ素ポリマー分散組成物とコーティング成分とを含むコーティング剤を塗装したとき、フッ素ポリマー分散組成物のために、フッ素ポリマーやコーティング成分を凝集させないので、塗装むらや色分かれを生じない。
【0019】
さらに、そのコーティング剤が基材に塗装されて硬化して形成されている塗装膜は、均質であり、綺麗で平滑な仕上がりとなっており、基材の外観を美麗にする。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好ましい形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明のフッ素ポリマー用分散剤は、フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)、及び、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)が共重合した主鎖ポリマー部と、メチルメタクリレートモノマー(c)が重合した主鎖から伸長した側鎖ポリマー部とを有するフッ素含有(メタ)アクリル系グラフトポリマーを、フッ素ポリマーの分散のための有効成分として、含むものである。
【0022】
このようなフッ素含有(メタ)アクリル系グラフトポリマーは、主鎖ポリマー部を成すフッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)の15重量部以上70重量部未満と、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)の0.1重量部以上20重量部未満とが、側鎖ポリマー部を成すマクロモノマーと共に、共重合したものであることが好ましい。
【0023】
グラフトポリマーは、主鎖ポリマー部と側鎖ポリマー部とを重量比で16〜80:20〜84として有する。
【0024】
側鎖ポリマー部が20重量部未満である場合、フッ素ポリマーの分散性及び分散安定性が悪くなる。
【0025】
一方、側鎖ポリマー部が84重量部以上である場合、グラフトポリマーの反応性が悪くなり、その生成が困難となる。
【0026】
グラフトポリマーは、ランダム共重合されていてもよく、ブロック共重合されていてもよい。
【0027】
グラフトポリマーは、主鎖ポリマー部に、フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)に由来する繰返単位と、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)に由来する繰返単位と、側鎖ポリマー部を成すマクロモノマーに由来する繰返単位を、有している。フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)及びアルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)の各(メタ)アクリロイル基と、マクロモノマーの末端不飽和基とが、共重合して主鎖を形成している。マクロモノマー自身がメチルメタクリレートモノマー(c)の重合又は共重合した繰返単位を有しており、マクロモノマー中それの末端不飽和基に繋がるその繰返構造が、グラフトポリマーの側鎖を形成している。
【0028】
グラフトポリマーの重量平均分子量は、10000〜300000であることが好ましい。その重量平均分子量が10000未満の場合、フッ素ポリマーの分散安定性が低下してしまう恐れがある。一方、その重量平均分子量が300000を超える場合、フッ素ポリマー分散組成物及びそれを含むコーティング剤は、その粘度が高くなりすぎるために、取り扱いが困難になる。重量平均分子量が、20000〜200000であると一層好ましく、40000〜150000であるとなお一層好ましい。
【0029】
溶解性パラメーター値は、分散剤中の有効成分である重合体の極性を表す方法として用いられる。溶解性パラメーター値は分子構造から推算でき、いろいろな方法が提案されている。その中で、Fedors法による理論溶解性パラメーター値は、重合体の密度パラメーター値が不要なため比較的簡単に求められることからよく用いられている。
【0030】
Fedorsの理論溶解性パラメーター値は、以下の数式(1)から求めることができる。
【数1】
(数式(1)中Δe、Δvは、それぞれの原子又は原子団の蒸発エネルギー及びモル体積を表す。)
【0031】
グラフトポリマーは、Fedors法による溶解性パラメーター値が8.5〜10.1であることが好ましく、8.7〜9.5であることが、なお一層好ましい。
【0032】
グラフトポリマーの溶解性パラメーター値が8.5未満の場合、重合反応時に、反応溶媒へのグラフトポリマーの溶解性が悪くなるため、グラフトポリマーが析出し生成が困難となる場合や、生成できたとしても溶解性が悪すぎるためにグラフトポリマーが凝集し塗装膜の外観を損ねるおそれがある。
【0033】
一方、溶解性パラメーター値が10.1を超える場合、そのグラフトポリマーを用いて分散したフッ素ポリマーは、溶媒や樹脂との相溶性が良すぎるため、フッ素ポリマーは、十分な分散性又は分散安定性を得ることができない。
【0034】
グラフトポリマーは、ガラス転移点(Tg)が60〜110℃であることが好ましい。このガラス転移点とは、例えば示差走査熱量分析装置ThermoPlus EVO DSC8230(株式会社リガク製;商品名)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度5℃/分で測定したフッ素ポリマー用分散剤の示差走査熱量分析(DSC)チャートにおける、元のベースラインと変曲点での接線の交点温度として求められる値である。
【0035】
顔料などと比べテトラフルオロエチレンのようなフッ素ポリマー粒子は、比重が重く、また表面エネルギーが低く疎水性、疎油性であるため再凝集、沈殿しやすい。特にコーティング剤にエネルギーをかけて溶剤を乾燥させるような場合、コーティング剤の粘度は上昇していき、固形分濃度が徐々に上がっていく。このようなとき特に再凝集を起こす可能性が高くなる。このとき、分散剤であるグラフトポリマーのガラス転移点が60℃未満である場合、グラフトポリマーはフレキシブルな構造となり、粒子間の立体反発を保つことができず、凝集を防ぐことができない。そのため乾燥塗料にブツが発生してしまう。一方、グラフトポリマーのガラス転移点が60〜110℃の場合、グラフトポリマーは剛直な構造となり、粒子間の立体反発を保つことで再凝集を防ぎ、乾燥塗膜になったときにブツが発生しない。
【0036】
一方、グラフトポリマーのガラス転移点が110℃を超える場合、グラフトポリマーの溶解性が乏しくなり、またグラフトポリマーの粘度が高くなりすぎ、実用的でない。
【0037】
ガラス転移点を60〜110℃とするグラフトポリマーは、下記化学式(1)
CH=C(R)−CO−O−R−R ・・・(1)
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、−R−は−(CH−で示されnを1〜12とする基、−Rは炭素数2〜6で直鎖状、分岐鎖状、及び/又は脂環状のパーフルオロアルキル基)で表されるフッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)の15重量部以上70重量部未満、及びアルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)の0.1重量部以上20重量部未満(特にアルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)のうち、ドデシルアクリレート等のホモポリマーTgが低いアルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)を使用する場合は、配合量を少なくする必要がある。)が共重合した主鎖ポリマー部と、メチルメタクリレートモノマー(c)が重合し、重量平均分子量を3000〜100000とし、前記主鎖から伸長した側鎖ポリマー部とを重量比で16〜80:20〜84として有し、その重量平均分子量を10000〜300000に調製することで得られる。
【0038】
グラフトポリマーの主鎖ポリマー部を成す原料モノマーであるフッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)が15重量部未満である場合、グラフトポリマーのフッ素ポリマー界面への配向力が小さいため、フッ素ポリマー用分散剤に十分な分散効果を与えられない。
【0039】
一方、フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)が70重量部以上である場合、不活性溶媒への溶解性が悪くなるため、グラフトポリマーの生成が困難になる。
【0040】
フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)は、下記化学式(1)
CH=C(R)−CO−O−R−R ・・・(1)
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、−R−は−(CH−で示されnを1〜12とする基、−Rは炭素数2〜6で直鎖状、分岐鎖状、及び/又は脂環状のパーフルオロアルキル基)で表されるフッ素含有アクリレート又はフッ素含有メタクリレートである。
【0041】
−Rは、炭素数2〜6のものが好ましい。その中でもフッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)は、パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレートであると特に好ましい。パーフルオロヘキシル基は、直鎖状であるパーフルオロn−ヘキシル基であっても、分岐鎖状、又は脂環状であってもよい。
【0042】
−Rの炭素数が1のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロメチル基を有するフッ素含有(メタ)アクリレートを用いたグラフトポリマーを含むフッ素ポリマー用分散剤は、フッ素ポリマーとの親和性が弱くなり、フッ素ポリマーを完全に分散させることができない。
【0043】
一方、−Rの炭素数が7以上のパーフルオロアルキル基を有するフッ素含有(メタ)アクリレートを用いたグラフトポリマーを含むフッ素ポリマー用分散剤は、フッ素ポリマーに添加されたとき、フッ素ポリマーとの親和性が高いため、分散効果が高い。しかし、このフッ素ポリマー用分散剤は、溶剤やコーティング剤への相溶性が悪いため、経時で凝集を起こし、分散安定性が悪い。さらに、−Rの炭素数が7以上のパーフルオロアルキル基を有するフッ素含有(メタ)アクリレートは、その凝集力が強いため、本発明のフッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)を生成できる溶解性パラメーター値を有していても、重合反応時に不活性溶媒に溶解せず、生成が困難となる。
【0044】
さらに、−Rの炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基を有するフッ素含有(メタ)アクリレートを用いたグラフトポリマーを含むフッ素ポリマー用分散剤からは、環境への残留性や、生体への蓄積性及び有毒性が懸念されるPFOAやPFOS等の長鎖パーフルオロアルキル含有残留物が生成される可能性がある。
【0045】
フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)としては、例えば、パーフルオロエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−プロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロtert−ブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロsec−ブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−プロピルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ブチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロtert−ブチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロsec−ブチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ペンチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ヘキシルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロペンチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−プロピルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロtert−ブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロsec−ブチル(メタ)エチルアクリレート、パーフルオロiso−ペンチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ヘキシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロペンチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−プロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ブチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロtert−ブチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロsec−ブチル(メタ)プロピルアクリレート、パーフルオロiso−ペンチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロペンチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−プロピルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ブチルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロtert−ブチルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロsec−ブチル(メタ)ブチルアクリレート、パーフルオロiso−ペンチルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ヘキシルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロペンチルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−プロピルペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ブチルペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロtert−ブチルペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロsec−ブチル(メタ)ペンチルアクリレート、パーフルオロiso−ペンチルペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ヘキシルペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロペンチルペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシルペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−プロピルヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ブチルヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロtert−ブチルヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロsec−ブチル(メタ)ヘキシルアクリレート、パーフルオロiso−ペンチルヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ヘキシルヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロペンチルヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシルヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−プロピルヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ブチルヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロtert−ブチルヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロsec−ブチル(メタ)ヘプチルアクリレート、パーフルオロiso−ペンチルヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ヘキシルヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロペンチルヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシルヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−プロピルオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ブチルオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロtert−ブチルオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロsec−ブチル(メタ)オクチルアクリレート、パーフルオロiso−ペンチルオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ヘキシルオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロペンチルオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシルオクチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−プロピルノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ブチルノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロtert−ブチルノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロsec−ブチル(メタ)ノニルアクリレート、パーフルオロiso−ペンチルノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ヘキシルノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロペンチルノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシルノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−プロピルデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ブチルデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロtert−ブチルデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロsec−ブチル(メタ)デシルアクリレート、パーフルオロiso−ペンチルデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ヘキシルデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロペンチルデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシルデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルウンデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルウンデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルウンデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルウンデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルウンデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−プロピルウンデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ブチルウンデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロtert−ブチルウンデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロsec−ブチル(メタ)ウンデシルアクリレート、パーフルオロiso−ペンチルウンデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ヘキシルウンデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロペンチルウンデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシルウンデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルドデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルドデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルドデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルドデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルドデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−プロピルドデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ブチルドデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロtert−ブチルドデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロsec−ブチル(メタ)ドデシルアクリレート、パーフルオロiso−ペンチルドデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロiso−ヘキシルドデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロペンチルドデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシルドデシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0046】
フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)は、これらを単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。
【0047】
グラフトポリマーの主鎖ポリマー部を成すアルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)が0.1重量部未満である場合、グラフト重合の反応性が悪くなり、グラフトポリマーの生成が困難となってしまう。
【0048】
一方、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)が20重量部以上である場合、フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)及び側鎖ポリマー部の配合量が少なくなる為に、フッ素ポリマーの分散性及び分散安定性が不十分になってしまう。
【0049】
アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)は、例えば、炭素数1〜12で直鎖状、分岐鎖状、及び/又は環状のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートであり、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−,iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−,iso−,sec−,又はtert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、iso−アミル(メタ)アクリレート、iso−ヘキシル(メタ)アクリレート、iso−ヘプチル(メタ)アクリレート、iso−オクチル(メタ)アクリレート、iso−ノニル(メタ)アクリレート、iso−デシル(メタ)アクリレート、iso−ウンデシル(メタ)アクリレート、iso−ドデシル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、tert−アミル(メタ)アクリレート、sec−アミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0050】
アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)は、これらを単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。中でも炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートであることが好ましい。その中でも、メチル(メタ)アクリレートであることが、なお一層好ましい。
【0051】
グラフトポリマーの側鎖ポリマー部を成すマクロモノマーは、メチルメタクリレートモノマー(c)が重合又は共重合した繰返構造を有する側鎖形成用のポリマーであれば、特に限定されない。また、分散性および分散安定性を阻害しない限りは、他のモノマー(d)と共に共重合した共重合物を含んでいてもよい。他のモノマー(d)として、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−,iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−,iso−,sec−,又はtert−ブチル(メタ)アクリレート、スチレン、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフリフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0052】
側鎖ポリマー部を成すマクロモノマーは、側鎖形成用のポリマーとして単離可能なものであってもよく、その重量平均分子量が3000〜100000である。
【0053】
側鎖ポリマー部を成すマクロモノマーの溶解性パラメーター値は、前記数式(1)に従いFedors法で求めると、9.0〜10.3である。
【0054】
側鎖ポリマー部を成すマクロモノマーは、繰返構造がメチルメタクリレートモノマー(c)由来の繰返単位のみから成っていることが好ましい。またその繰返構造がメチルメタクリレートモノマー(c)由来の繰返単位のみから成っていると、メチルメタクリレートモノマー(c)は、他の(メタ)アクリレートモノマーより構造が小さく(即ちアルキル部が短く)、立体障害が小さいため、分子量が大きい側鎖ポリマー部へと重合しやすいため、グラフトポリマーの側鎖ポリマー部が長くなること、且つガラス転移点が高く硬い骨格を有するため、グラフトポリマーのガラス転移温度を高く保つことができ、より粒子間の立体反発性を高めることができることから、一層好ましい。
【0055】
このマクロモノマーは、その繰返構造の末端に、スペーサ構造を介して又は直接に、アクリロイル基のような不飽和基が、結合していることが好ましい。
【0056】
そのマクロモノマーは、より具体的には、メチルメタクリレートモノマーの重合体の末端へ、直接に、若しくは連鎖移動剤例えばβ−メルカプトエタノール由来のスペーサ構造と、エステル結合及び/又はウレタン結合のスペーサ構造とを介して、(メタ)アクリロイル基が結合した化合物であってもよい。また、市販のマクロモノマー、例えばメチルメタクリレートホモポリマー(分子量(Mw)=6000、溶解性パラメーター値=10.0)の末端基がメタクリロイル基となっているマクロモノマーであるマクロモノマーAA−6(東亞合成株式会社製;商品名)、ブチルアクリレートホモポリマー(分子量(Mw)=6000、溶解性パラメーター値=9.9)の末端基がメタクリロイル基となっているマクロモノマーであるマクロモノマーAB−6(東亞合成株式会社製;商品名)であってもよい。これらマクロモノマーは、単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。
【0057】
グラフトポリマーは、フッ素ポリマーの分散を阻害しない限りは、他のモノマーと共に共重合したグラフトポリマーでもよい。
【0058】
他のモノマーは、フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)及びメチルメタクリレートモノマー(c)の合計100重量部に対して、0〜10重量部未満であることが好ましく、0〜3重量部未満であると一層好ましい。
【0059】
他のモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸のような(メタ)アクリル酸モノマー、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリルアミドのような(メタ)アクリルアミドモノマー、スチレン、ビニルトルエンのような芳香族ビニルモノマー、ノルマルブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルのような直鎖状、又は環状の炭素数1〜12のアルキルビニルエーテルモノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニルのようなビニルエステルモノマーが挙げられる。
【0060】
グラフトポリマーの合成としては、マクロモノマー法が好ましい。マクロモノマー法は、側鎖ポリマー部の側鎖形成用のポリマーであるマクロモノマーと、主鎖ポリマー部を成すフッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)及びアルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)とを、それぞれの不飽和基で共重合させることにより、側鎖形成用のポリマー存在下で、主鎖を形成させるというものである。
【0061】
その一例として以下の方法が挙げられる。まず、メチルメタクリレートモノマー(c)と、β−メルカプトエタノールとを、ラジカル重合開始剤存在下、不活性溶媒中に滴下し、加熱して重合させる。それにより得たメチルメタクリレートモノマーの主鎖末端の水酸基に、イソシアネート基と(メタ)アクリロイル基をもつイソシアネート基含有モノマーであるカレンズMOI(2−イソシアナトエチルメタクリレート:昭和電工株式会社製;商品名、カレンズMOIは登録商標)又はカレンズAOI(2−イソシアナトエチルアクリレート:昭和電工株式会社製;商品名、カレンズAOIは登録商標)を触媒TN−12(ジブチル錫ラウレート:堺化学工業株式会社製;商品名)の下で反応させて、側鎖ポリマー部を形成するための側鎖形成用ポリマーであるメチルメタクリレートモノマーのマクロモノマーを合成する。そして、合成したメチルメタクリレートモノマーのマクロモノマーと、フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)と、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)とを、ラジカル重合開始剤存在下、不活性溶媒中に滴下し、加熱して重合させると、グラフトポリマーが調製される。
【0062】
また、マクロモノマー法で使用するマクロモノマーは、前記以外の公知の方法で合成されてもよい。
【0063】
グラフトポリマーの合成法としてマクロモノマー法について説明したが、その他に、例えば、ベンゾイルパーオキサイドやα,α’−アゾビスイソブチロニトリル等の開始剤により主鎖ポリマー部から水素、ハロゲンを引き抜き、ポリマーラジカルを作り、これに他のモノマーをグラフト重合させる等の連鎖移動法であってもよい。
【0064】
また、予め、グラフトポリマーを成す主鎖ポリマー部を形成するための主鎖ポリマーと、側鎖ポリマー部を形成するための側鎖形成用ポリマーとを別々に合成しておき、後で両ポリマーを結合させる方法であってもよい。具体的には、イソシアネート基のように活性水素と反応性のある基を有した主鎖ポリマー部を形成するための主鎖ポリマーと、片末端に水酸基等の活性水素基を有した側鎖ポリマー部を形成するための側鎖形成用ポリマーとを反応させて、両ポリマーを結合させる方法が挙げられる。前記以外の公知の方法で、側鎖形成用ポリマーと主鎖ポリマーとを結合させてもよい。
【0065】
主鎖ポリマー、側鎖形成用ポリマー、マクロモノマー、グラフトポリマーを重合・共重合によって調製する際、ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。ラジカル重合開始剤は、一般にラジカル重合に用いられる開始剤であれば、特に限定されないが、例えば、過酸化物、アゾ化合物等が用いられる。より具体的には、V−60(AIBN)(和光純薬工業株式会社の商品名)、V−65(和光純薬工業株式会社の商品名)、V−601(和光純薬工業株式会社の商品名)、パーブチルD・パーブチルO(日油株式会社の商品名、パーブチルは登録商標)、及びパーオクタO(日油株式会社の商品名、パーオクタは登録商標)が挙げられる。
【0066】
このフッ素ポリマー用分散剤は、フッ素ポリマーを非水系液状媒体に分散させるためのものである。
【0067】
フッ素ポリマー用分散剤は、このグラフトポリマーのみからなっていてもよく、必要に応じて、不活性溶媒や、それ以外の添加剤成分を含有していてもよい。フッ素ポリマー用分散剤は、グラフトポリマーを不活性溶媒で溶解又は懸濁させたものであってもよい。
【0068】
フッ素ポリマー用分散剤中の不活性溶媒は、グラフトポリマーを溶解又は懸濁させて希釈できるものであれば特に限定されないが、具体的にはキシレン、トルエン、シクロヘキサン等の炭化水素溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶剤;メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、カルビトール、ブチルカルビトール、ジエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル溶剤;n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、シクロヘキサノール、2−エチルヘキサノール、3−メチル−3−メトキシブタノール等のアルコール溶剤が挙げられる。これらの溶剤を、単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
【0069】
本発明のフッ素ポリマー分散組成物は、フッ素ポリマー用分散剤と、それにより非水系液状媒体の中で分散されたフッ素ポリマーとを含むものである。
【0070】
フッ素ポリマー分散組成物を調製する際、フッ素ポリマー用分散剤の用量は、フッ素ポリマー100重量部に対して、0.1〜40重量部であることが好ましい。その用量が0.1重量部未満であるとフッ素ポリマーを十分に分散できず、40重量部を超えると、フッ素ポリマーの性能、例えば滑り性などに悪影響を与えてしまう。その用量が0.5〜20重量部であることが一層好ましく、1〜10重量部であることがより一層好ましい。
【0071】
フッ素ポリマー分散組成物中、フッ素ポリマーが0.1〜60重量%となるように、非水系液状媒体で希釈される。
【0072】
フッ素ポリマーは、フッ素ポリマー粉末等の固体で有ることが好ましい。フッ素ポリマー粉末の平均粒径は、0.01μm〜100μmであることが好ましく、0.01μm〜10μmであることが、なお一層好ましい。フッ素ポリマーは、フッ素ポリマーオイル等の液体であってもよい。フッ素ポリマーオイルは、分散されて、平均粒径が0.01〜100μmの懸濁分散液となる。
【0073】
フッ素ポリマーは、フッ素含有モノマーの単独重合又は共重合物である。フッ素モノマーの具体例としては、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル、パーフルオロブチルビニルエーテル、パーフルオロイソブチルビニルエーテル、パーフルオロペンチルビニルエーテル、パーフルオロヘキシルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド、パーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。特にテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0074】
非水系液状媒体は、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキサン等の炭化水素溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶剤;メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、カルビトール、ブチルカルビトール、ジエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル溶剤;n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、シクロヘキサノール、2−エチルヘキサノール、3−メチル−3−メトキシブタノール等のアルコール溶剤が挙げられる。これらの溶剤を、単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
【0075】
フッ素ポリマー分散組成物の調製は、フッ素ポリマー、非水系液状媒体及びフッ素ポリマー用分散剤を混合した後に、ペイントシェーカー、ビーズミル、ボールミル、各種ミキサー、又は各種高圧湿式分散機等の分散装置を用いて、フッ素ポリマーを分散させることにより行うことができる。フッ素ポリマー分散組成物は、非水系液状媒体のみでは撥水・撥油性に優れ表面エネルギーの低いフッ素ポリマーを分散できないが、フッ素ポリマー用分散剤の添加により、フッ素ポリマーを非水系液状媒体中に分散させる分散性とその分散状態を安定して継続させる分散安定性とが、付与されている。そのため、フッ素ポリマーは、分散装置で容易く分散され、一旦分散した後に凝集したり沈降したりしない。
【0076】
本発明のコーティング剤は、本発明のフッ素ポリマー分散組成物と一般的なコーティング剤の調製に用いられるコーティング剤成分とを含むものである。
【0077】
コーティング剤は、コーティング剤成分を予め混合しておき、さらにフッ素ポリマー分散組成物を添加し、混合して調製される。それらを同時に、又は任意の順で混合してもよい。
【0078】
コーティング剤成分には、特に限定されないが、例えば顔料や染料のような着色剤、樹脂、希釈溶剤、触媒、機能付与性添加剤等が挙げられる。
【0079】
樹脂は、アクリルメラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、例えば、加熱硬化型、紫外線硬化型、電子線硬化型、酸化硬化型、光カチオン硬化型、過酸化物硬化型、酸/エポキシ硬化型のように、触媒存在下、又は触媒非存在下で、硬化するものである。
【0080】
希釈溶剤は、一般的に用いられる有機溶剤であれば、特に限定されないが、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキサン等の炭化水素溶剤;シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶剤;メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、カルビトール、ブチルカルビトール、ジエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル溶剤;酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル溶剤;n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、シクロヘキサノール、2−エチルヘキサノール、3−メチル−3−メトキシブタノール等のアルコール溶剤;が挙げられる。これらの溶剤は、単独で使用されてもよく、混合して使用されてもよく、さらに水を混合して使用されてもよい。
【0081】
コーティング剤は、上記成分の他に、任意成分である各種機能付与性添加剤、例えば増感剤、帯電防止剤、レベリング剤、湿潤剤、消泡剤、分散剤、粘度調整剤等が、必要に応じ適量添加されたものであってもよい。
【0082】
本発明の塗装膜は、このコーティング剤を基材上に塗装した被膜が、硬化されたものである。
【0083】
基材は、特に限定されないが、プラスチック、ゴム、紙、木材、ガラス、金属、石材、セメント材、モルタル材、セラミックス等の素材で形成されたもので、家電製品や自動車の部品、外装材、日用品、建材等が挙げられる。
【0084】
コーティング剤を塗装するには、例えば、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、バーコート、ドクターブレード、ロールコート、フローコートなどの公知の方法により行うことが好ましい。
【0085】
このようなフッ素ポリマー用分散剤により、フッ素ポリマーが優れた分散性及び分散安定性を有するメカニズムは、必ずしも明らかでないが、以下の通りであると推察される。
【0086】
一般のポリマー型分散剤は、その分散剤に含まれる分子内に、樹脂粒子への吸着部(親和部)と樹脂への相溶部を併せ持っており、立体障害により粒子間の反発力を高めることで分散効果を発揮する。本発明のフッ素ポリマー用分散剤中のグラフトポリマーも、同様のメカニズムで分散効果を発揮すると考える。フッ素ポリマーと同じフッ素部分を有する主鎖ポリマー部の中のフッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)が吸着部(親和部)として作用する。吸着部(親和部)がポリマーであることから、フッ素ポリマーに絡まり、強力且つ持続的に吸着することが可能であり、時間が経ってもフッ素ポリマーに吸着していることから、分散安定性に優れる。
【0087】
また、側鎖ポリマー部の中のメチルメタクリレートモノマーが樹脂相溶部として作用し、ポリマーであること且つガラス転移温度が高く、硬い骨格を有していることから、より立体障害が大きくなり、粒子同士の凝集を抑える。
【0088】
側鎖ポリマー部にフッ素ポリマーへの吸着部(親和部)があると、一分子内に側鎖ポリマー部はいくつもあるため、それぞれの側鎖ポリマー部に粒子が吸着してしまい、粒子同士の距離が短くなり、凝集を引き起こす。そのため、フッ素ポリマーへの吸着部(親和部)であるフッ素置換アルキル基含有(メタ)アクリレートモノマー(a)由来の繰返構造は、一分子内に1つの鎖しかない主鎖ポリマー部にある必要がある。
【実施例】
【0089】
本発明を適用するフッ素ポリマー用分散剤、その分散剤を含むフッ素ポリマー分散組成物、その組成物を含むコーティング剤、コーティング剤で形成された塗装膜を試作した実施例と、本発明を適用外の分散剤、組成物、コーティング剤、塗装膜を試作した比較例とを、示す。
【0090】
まず、本発明のフッ素ポリマー用分散剤に含まれるグラフトポリマーの側鎖ポリマー部を形成するための側鎖形成用のポリマーであるマクロモノマーを製造した例を製造例1及び2に示し、本発明の適用外の分散剤に用いるグラフトポリマーの側鎖ポリマー部を形成するための側鎖形成用のポリマーとなるマクロモノマーを製造した例を比較製造例1〜3に示す。
【0091】
(製造例1)
撹拌装置、還流冷却管、滴下ロート、温度計及び窒素ガス吹き込み口を備えた1000mLの反応容器に、下記表1に示すように側鎖ポリマー部を成す側鎖形成用ポリマーの繰返構造を形成するために、メチルメタクリレートモノマー(c)であるメチル メタクリレートの400重量部と、連鎖移動剤でもある末端水酸基導入剤のβ−メルカプトエタノールの1.56重量部と、不活性溶媒であるメチルイソブチルケトン(MIBK)の100重量部との仕込み原料混合液(A−1)を入れ、窒素ガス雰囲気下で85℃に昇温した。反応容器内の溶液温度を85℃に維持し、下記表1に示すように重合開始剤であるパーオクタOの1重量部と不活性溶媒であるMIBKの300重量部との滴下溶液(B−1)を滴下ロートにより3時間で等速滴下した。滴下終了後、反応容器内の溶液を100℃まで昇温させ、2時間反応させて、末端にヒドロキシエチルメルカプト基を有する共重合物を合成した。その後、反応容器内の溶液を80℃まで冷却し、窒素ガスの吹き込みを空気吹き込みに切り替え、下記表1に示すようにイソシアネート基含有モノマーであるカレンズMOIの3.72重量部と触媒であるTN−12の0.05重量部との追加原料(C−1)を投入し、80℃で3時間反応させ、その残分が40%となるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)で希釈し、製造例1の側鎖形成用ポリマーを得た。
【0092】
異なる分子量の分子を分離できるゲル浸透クロマトグラフィー(カラムは東ソー株式会社製で製品名TSKGEL SUPERMULTIPORE HZ−M、溶出溶媒はテトラヒドロフラン(THF))で、この側鎖形成用ポリマーを分子量ごとに溶出し、分子量分布を求めた。予め分子量既知のポリスチレン標準物質から校正曲線を得ておき、この製造例1の側鎖形成用ポリマーの分子量分布と比較して、製造例1の側鎖形成用ポリマーの重量平均分子量を求めた。その結果、この製造例1の側鎖形成用ポリマーの重量平均分子量は、ポリスチレン換算で30000であった。
【0093】
(製造例2、その製造比較例1及び2)
製造例1と同様な反応容器に、仕込み原料混合液、滴下溶液、追加原料混合液を下記表1の通りに変更したこと以外は、製造例1と同様の方法で、製造例2、製造比較例1及び2の側鎖形成用ポリマーを得た。製造例1の側鎖形成用ポリマーと同様に、ゲル浸透クロマトグラフィーで各製造例の側鎖形成用ポリマーの分子量分布を求めた。その分子量分布から求めたポリスチレン換算での重量平均分子量は、下記表1に示す。
【0094】
(製造比較例3)
製造例1と同様な反応容器に、仕込み原料混合液を(A−4)に変更し、滴下溶液を(B−4)に変更し、追加原料混合液を(C−4)に変更したこと以外は、製造例1と同様の方法で側鎖形成用ポリマーの製造を試みたが、反応中に重合物が析出してしまい、比較製造例3の側鎖形成用ポリマーを得ることができなかった。
【0095】
【表1】
【0096】
合成例1〜6は、マクロモノマーとして市販品又は製造例1,2で得られた側鎖形成用ポリマーを用い、本発明のフッ素ポリマー用分散剤に含まれるグラフトポリマーを調製した例を示し、比較合成例1〜7は、マクロモノマーとして市販品又は比較製造例1,2で得られた側鎖形成用ポリマーを用い、本発明の適用外のフッ素ポリマー用分散剤に含まれるグラフトポリマーを調製した例を示す。
【0097】
(合成例1)
撹拌装置、還流冷却管、滴下ロート、温度計及び窒素ガス吹き込み口を備えた1000mLの反応容器に、MIBK75重量部を入れ、窒素ガス雰囲気下で100℃に昇温した。反応容器内の溶液温度を100℃に維持し、下記表2に示すようにフッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)であるパーフルオロヘキシルエチルアクリレートの25重量部と、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)であるメチルメタクリレートの5重量部と、側鎖形成用ポリマーとしてマクロモノマーAA−6の70重量部と、重合開始剤としてパーブチルOの1重量部と、不活性溶媒としてMIBKの75重量部との混合滴下溶液(D−1)を滴下ロートにより3時間で等速滴下した。滴下終了後、反応容器内の溶液を100℃に維持したまま、6時間反応させてグラフトポリマーを得た。
【0098】
異なる分子量の分子を分離できるゲル浸透クロマトグラフィー(カラムは東ソー株式会社製で製品名TSKGEL SUPERMULTIPORE HZ−M、溶出溶媒はTHF)で、このフッ素ポリマー用分散剤のグラフトポリマーを分子量ごとに溶出し、分子量分布を求めた。予め分子量既知のポリスチレン標準物質から校正曲線を得ておき、このグラフトポリマーの分子量分布と比較して、グラフトポリマーの重量平均分子量を求めた。その結果、このフッ素ポリマー用分散剤のグラフトポリマーの重量平均分子量は、ポリスチレン換算で40000、Fedors法で求めた溶解性パラメーター値は8.7、ガラス転移温度が82℃であった。
【0099】
(合成例2〜6及び比較合成例1〜6)
合成例2〜6、比較合成例1〜6については下記表2の通りに変更したこと以外は、合成例1と同様の方法で、グラフトポリマーを得た。合成例1と同様にゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこれらのグラフトポリマーの重量平均分子量、Fedors法で求めた溶解性パラメーター値、ガラス転移温度について、纏めて下記表2に示す。
【0100】
(比較合成例7)
撹拌装置、還流冷却管、滴下ロート、温度計及び窒素ガス吹き込み口を備えた1000mLの反応容器に、MIBK81重量部を入れ、窒素ガス雰囲気下で110℃に昇温した。反応容器内の溶液温度を110℃に維持し、下記表2に示す滴下溶液(E−7)を滴下ロートにより3時間で等速滴下した。滴下終了後、反応容器内の溶液を110℃に維持したまま、3時間反応させて、グラフトポリマーを得た。合成例1と同様に、ゲル浸透クロマトグラフィーで求めたこのグラフトポリマーの重量平均分子量は、8000であった。
【0101】
【表2】
【0102】
(実施例1)
ウレタンアクリレートのUA−306I(共栄社化学株式会社の商品名)の100重量部と、テトラフルオロエチレン樹脂粉末のルブロンL−2(ダイキン工業株式会社製の商品名、ルブロンは登録商標)の40重量部と、MIBKの180重量部とフッ素ポリマー用分散剤として製造例1のグラフトポリマーの5重量部とをホモミキサーにて5000rpmで30分間予備分散を行い、その後、ナノヴェイタシステム(吉田機械興業株式会社製の湿式分散機の商品名)にて50MPaで分散し、フッ素ポリマー用分散剤としてテトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液を得た。
【0103】
(実施例2〜6及び比較例1〜7)
実施例1中の製造例1のグラフトポリマーを、下記表3に示すように製造例2〜6及び比較製造例1〜7のグラフトポリマーに代えて、調製したフッ素ポリマー用分散剤を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2〜6及び比較例1〜7のテトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液を得た。
【0104】
(ブランクの調製)
なお、実施例1でのグラフトポリマーを用いていないこと以外は、実施例1と同様の方法で、ブランク試料を得た。
【0105】
実施例1〜6と、比較例1〜7と、ブランクとのテトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液について、以下の分散性評価試験を行った。
【0106】
(初期での分散性の目視評価)
テトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液を調製した直後に、目視にて分散状態を確認した。
【0107】
初期目視評価は、沈殿物がない場合を○、沈殿物がある場合を×とする2段階で評価した。その結果を表3に示す。
【0108】
(初期粒度の分布測定)
テトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液調製直後に粒度分布計であるマイクロトラックMT3000II(日機装株式会社製;商品名、レーザー回折・散乱式、溶媒はMIBK)にて粒度分布測定を行った。
【0109】
初期粒度分布測定は、平均粒径が270nm以下を○、270nm〜400nmを△、400nm以上を×とする3段階で評価した。その結果を表3に示す。
【0110】
(経時での分散性の目視評価)
テトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液調製から、1ヶ月後に目視にて分散状態を確認した。
【0111】
経時目視評価は、沈殿物がない場合を○、沈殿物がある場合を×とする2段階で評価した。その結果を表4に示す。
【0112】
(経時粒度の分布測定)
テトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液を調製してから1ヶ月後に、粒度分布計であるマイクロトラックMT3000II(日機装株式会社製;商品名、レーザー回折・散乱式、溶媒はMIBK)にて粒度分布測定を行った。
【0113】
経時粒度分布測定は、平均粒径が270nm以下を○、270nm〜400nmを△、400nm以上を×とする3段階で評価した。その結果を表3に示す。
【0114】
【表3】
【0115】
表3から明らかな通り、本発明を適用する合成例のグラフトポリマーを含むフッ素ポリマー用分散剤を用いて調製された実施例のテトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液は、本発明を適用外の比較例やブランクのテトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液よりも、初期は沈殿物が無く、粒度分布も小さい。また、経時においても沈殿物が無く、粒度分布も小ささを維持している。従って、実施例で得られた本発明のフッ素ポリマー用分散剤は、フッ素ポリマーの分散剤として分散性及び分散安定性に優れることが確認された。
【0116】
(実施調製例1)
実施例1のテトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液に、光重合開始剤であるイルガキュア184(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン;チバスペシャルティ株式会社製)を3重量部添加し、ペイントシェーカーにて溶解し、コーティング剤を調製した。
【0117】
(実施調製例2〜6及び比較調製例1〜7)
実施調製例1での実施例1のテトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液を、実施例2〜6及び比較例1〜7のテトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液に代えたこと以外は、実施調製例1と同様の方法で、実施調製例2〜6及び比較調製例1〜7のコーティング剤を調製した。
【0118】
(比較調製例8)
実施調製例1での実施例1のテトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液を、上記のブランク試料に代えたこと以外は、実施調製例1と同様の方法で、比較調製例8のコーティング剤を調製した。
【0119】
(実施作製例1)
実施調製例1のコーティング剤を、ガラス板にバーコーター(No.22)を用いて塗装し、80℃で5分間溶剤を乾燥させた後、UV照射機にて600mJ/cmの照射量で硬化させ、塗装膜を得た。
【0120】
(実施作製例2〜6及び比較作製例1〜7)
実施作製例1での実施調製例1のコーティング剤を、下記表4に示すように実施調製例2〜6及び比較調製例1〜7のコーティング剤に代えたこと以外は、実施調製例1と同様の方法で、実施作製例2〜6及び比較作製例1〜7の塗装膜を得た。
【0121】
(ブランク塗装膜の作製)
実施調製例1のコーティング剤を、下記表4に示すように比較調製例8のコーティング剤に代えたこと以外は、実施調製例1と同様の方法で、ブランク塗装膜を得た。
【0122】
(初期および経時での塗装膜の目視評価)
調製直後のテトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液に光重合開始剤を添加したコーティング剤を塗装して得られた塗装膜と、調製後1ヶ月経ったテトラフルオロエチレン樹脂粉末分散液に光重合開始剤を添加したコーティング剤を塗装して得られた塗装膜を目視にて確認した。
【0123】
目視評価は、塗装膜にブツがなく平滑な状態であれば○、ブツがあり凸凹な状態であれば×とする2段階で評価した。その結果を表4に示す。
【0124】
【表4】
【0125】
表4から明らかな通り、本発明を適用する合成例のグラフトポリマーを含むフッ素ポリマー用分散剤を用いて調製された実施例に光重合開始剤を添加したコーティング剤を塗装して得られた塗装膜は、本発明を適用外の比較例やブランク塗装膜と比較して、調製直後でも長期間経過後でもブツがなく、優れた平滑性を示していた。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明のフッ素ポリマー用分散剤は、摺動性や非粘着性、潤滑性等の目的でプラスチック、塗料、グリース等に添加して用いられるテトラフルオロエチレン樹脂等のフッ素ポリマーを均一に分散させる分散剤として用いられる。このフッ素ポリマー用分散剤と、分散されたフッ素ポリマーとを含むフッ素ポリマー分散組成物は、家電製品や自動車の部品、外装材、日用品、建材等の基材への塗装に使用されるコーティング剤に添加されて用いられる。このコーティング剤が塗装されて硬化した塗装膜は、基材を綺麗で平滑に塗装して被覆するのに用いられる。
【手続補正書】
【提出日】2015年1月28日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)及びメチルメタクリレートモノマー(c)の合計100重量部に対して、下記化学式(1)
CH=C(R)−CO−O−R−R ・・・(1)
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、−R−は−(CH−で示されnを1〜12とする基、−Rは炭素数2〜6で直鎖状、分岐鎖状、及び/又は脂環状のパーフルオロアルキル基)で表される前記フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)の15重量部以上70重量部未満、及び前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)の0.1重量部以上20重量部未満が共重合した主鎖ポリマー部と、前記メチルメタクリレートモノマー(c)が重合し、Fedors法で求めた溶解性パラメーター値を9.0〜10.3とし、重量平均分子量を3000〜100000とし、前記主鎖から伸長した側鎖ポリマー部とを重量比で16〜80:20〜84として有するグラフトポリマーを含むフッ素ポリマー用分散剤であり、前記グラフトポリマーが、Fedors法で求めた溶解性パラメーター値を8.5〜10.1とし、重量平均分子量を10000〜300000とし、ガラス転移点を60〜110℃とすることを特徴とするフッ素ポリマー用分散剤。
【請求項2】
前記フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)が、パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート及び/又はパーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレートであり、前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)が、炭素数1〜12のアルキル基を含有するアルキル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1に記載のフッ素ポリマー用分散剤。
【請求項3】
前記グラフトポリマーが、前記フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)、前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)及び前記メチルメタクリレートモノマー(c)の合計100重量部に対して、最大でも10重量部を超えない、(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリルアミドモノマー、芳香族ビニルモノマー、直鎖状、又は環状の炭素数1〜12のアルキルを有するアルキルビニルエーテルモノマー、及びビニルエステルモノマーから選ばれる他のモノマーと共重合していることを特徴とする請求項1に記載のフッ素ポリマー用分散剤。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のフッ素ポリマー用分散剤と、それにより非水系液状媒体の中で分散されたフッ素ポリマーとを含んでいることを特徴とするフッ素ポリマー分散組成物。
【請求項5】
前記フッ素ポリマーがテトラフルオロエチレン樹脂の粉体又は液体であることを特徴とする請求項に記載のフッ素ポリマー分散組成物。
【請求項6】
請求項に記載のフッ素ポリマー分散組成物とコーティング剤成分とを含むことを特徴とするコーティング剤。
【請求項7】
請求項に記載のコーティング剤が塗装されて硬化して形成されていることを特徴とする塗装膜。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載されたフッ素ポリマー用分散剤は、フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)及びメチルメタクリレートモノマー(c)の合計100重量部に対して、下記化学式(1)
CH=C(R)−CO−O−R−R ・・・(1)
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、−R−は−(CH−で示されnを1〜12とする基、−Rは炭素数2〜6で直鎖状、分岐鎖状、及び/又は脂環状のパーフルオロアルキル基)で表される前記フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)の15重量部以上70重量部未満、及び前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)の0.1重量部以上20重量部未満が共重合した主鎖ポリマー部と、前記メチルメタクリレートモノマー(c)が重合し、Fedors法で求めた溶解性パラメーター値を9.0〜10.3とし、重量平均分子量を3000〜100000とし、前記主鎖から伸長した側鎖ポリマー部とを重量比で16〜80:20〜84として有するグラフトポリマーを含むフッ素ポリマー用分散剤であり、前記グラフトポリマーが、Fedors法で求めた溶解性パラメーター値を8.5〜10.1とし、重量平均分子量を10000〜300000とし、ガラス転移点を60〜110℃とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
請求項2に記載のフッ素ポリマー用分散剤は、請求項1に記載されたもので、前記フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)が、パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート及び/又はパーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレートであり、前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)が、炭素数1〜12のアルキル基を含有するアルキル(メタ)アクリレートであることを特徴とする。
請求項3に記載のフッ素ポリマー用分散剤は、前記グラフトポリマーが、前記フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー(a)、前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(b)及び前記メチルメタクリレートモノマー(c)の合計100重量部に対して、最大でも10重量部を超えない、(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリルアミドモノマー、芳香族ビニルモノマー、直鎖状、又は環状の炭素数1〜12のアルキルを有するアルキルビニルエーテルモノマー、及びビニルエステルモノマーから選ばれる他のモノマーと共重合していることを特徴とする。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
請求項に記載のフッ素ポリマー分散組成物は、請求項1〜3の何れかに記載のフッ素ポリマー用分散剤と、それにより非水系液状媒体の中で分散されたフッ素ポリマーとを含んでいることを特徴とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
請求項に記載のフッ素ポリマー分散組成物は、請求項に記載されたもので、前記フッ素ポリマーがテトラフルオロエチレン樹脂の粉体又は液体であることを特徴とする。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
請求項に記載のコーティング剤は、請求項に記載のフッ素ポリマー分散組成物とコーティング剤成分とを含むことを特徴とする。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
請求項に記載の塗装膜は、請求項に記載のコーティング剤が塗装されて硬化して形成されていることを特徴とする。