(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-112035(P2015-112035A)
(43)【公開日】2015年6月22日
(54)【発明の名称】乳酸発酵豆乳の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 1/20 20060101AFI20150526BHJP
A23C 11/10 20060101ALI20150526BHJP
【FI】
A23L1/20 Z
A23C11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-254688(P2013-254688)
(22)【出願日】2013年12月10日
(71)【出願人】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(71)【出願人】
【識別番号】390022231
【氏名又は名称】マルサンアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】岡田 早苗
(72)【発明者】
【氏名】田中 尚人
(72)【発明者】
【氏名】菅原 誠
(72)【発明者】
【氏名】本多 芳孝
【テーマコード(参考)】
4B001
4B020
【Fターム(参考)】
4B001AC08
4B001AC31
4B001BC14
4B001EC05
4B020LB18
4B020LC05
4B020LG05
4B020LK18
4B020LP18
4B020LQ10
(57)【要約】
【課題】製品保存中の乳酸酸度の変化率が20%以下となるようなプレーンタイプの乳酸発酵豆乳を製造する方法を提供する。
【解決手段】豆乳、ビタミンB12要求性乳酸菌およびビタミンB12を含有する調合液を発酵させてプレーンタイプの乳酸発酵豆乳を製造する方法において、製品の保存期間中の乳酸酸度の上昇率が20%以下となるように、調合液中のビタミンB12量を調節する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆乳、ビタミンB12要求性乳酸菌およびビタミンB12を含有する調合液を発酵させてプレーンタイプの乳酸発酵豆乳を製造する方法において、製品の保存期間中の乳酸酸度の上昇率が20%以下となるように、調合液のビタミンB12量を調節することを特徴とする乳酸発酵豆乳の製造方法。
【請求項2】
製品1g当たりの乳酸菌数が1×107個から1×109個の範囲となるようにビタミンB12量を調節する請求項1の方法。
【請求項3】
調合液のビタミンB12の濃度が0.005μg/100g以上、0.1μg/100g未満である請求項1または2の方法。
【請求項4】
ビタミンB12要求性乳酸菌が、ラクトバシルス・デルブリュッキ・サブスピーシーズ・デルブリュッキ(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)である請求項1から3のいずれかの方法。
【請求項5】
ラクトバシルス・デルブリュッキ・サブスピーシーズ・デルブリュッキ(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)が、ラクトバシルス・デルブリュッキ・サブスピーシーズ・デルブリュッキ(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii TUA4408L株(NRIC0701株)である請求項5の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存中の乳酸酸度変化が少なく、安定した風味を維持することのできるプレーンタイプの乳酸発酵豆乳を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆を原料とする豆乳は、大豆タンパク質を始め、イソフラボン、レシチン、サポニンなどの多くの栄養成分を含む。この豆乳を乳酸発酵させてヨーグルト様の風味とした乳酸発酵豆乳が提案されている。
【0003】
乳酸発酵豆乳の製造方法としては、特許文献1−11など多くの技術が知られている。これら従来技術は、いずれも蔗糖やブドウ糖果糖液糖などの糖類を添加することによって甘味を付与したり、フレーバーや果汁を添加することによって味を調整したもの(味付きタイプの乳酸発酵豆乳)である。
【0004】
一方、本特許出願の出願人は、植物由来のビタミンB12要求性乳酸菌であるラクトバシルス・デルブリュッキ・サブスピーシーズ・デルブリュッキ(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii:以下、「L. delbrueckii」と記載することがある)TUA4408L株を用いて豆乳を発酵させ、味付きタイプではない、いわゆるプレーンタイプの乳酸発酵豆乳を開発し、商品化している(商品名:豆乳グルト)。また、同じくL. delbrueckii TUA4408L株を用いた乳酸発酵飲料(商品名:豆乳飲料オレンジヨーグルト味、豆乳+カルシウム350)を商品化している。
【0005】
なお、L. delbrueckii TUA4408L株を用いて製造した乳酸発酵豆乳については、その優れた便秘改善効果(非特許文献1)などが知られている。また、L. delbrueckii乳酸菌は高いビタミンB12要求性を有することから、ビタミンB12を定量する技術にも利用されている(特許文献12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61-141840号公報
【特許文献2】特開昭62-205735号公報
【特許文献3】特開昭63-7743号公報
【特許文献4】特開昭63-276979号公報
【特許文献5】特開平2-18043号公報
【特許文献6】特開平2-167044号公報
【特許文献7】特開平5-184320号公報
【特許文献8】特開平6-276979号公報
【特許文献9】特開平8-66161号
【特許文献10】特開平10-201416号公報
【特許文献11】特開2002-51720号公報
【特許文献12】特開2010-239874号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】菅原誠他、薬理と医療、第41巻、第9号、第905-909ページ、2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プレーンタイプの乳酸発酵豆乳は、プレーンヨーグルトと同様に、それ自体の乳酸発酵風味を楽しむことができる。また好みの味を付与して楽しむことや、調理材料としても使用することができる。さらには、味付けのための添加物の糖分やコレステロールを含まないため、豆乳それ自体の栄養機能を損なわないという利点を有してもいる。
【0009】
しかしながら、プレーンタイプの乳酸発酵豆乳はその保存中にも乳酸酸度が上昇して酸味が強く感じられるなど、風味の低下が問題となっていた。例えば、従来製法の場合には、発酵終了時の製品の乳酸酸度は0.50%であっても、10℃で14日間保存した場合の乳酸酸度は0.65%から0.70%程度まで上昇する(変化率は30から40%)。
【0010】
本発明者らは、研究の結果、保存中の乳酸酸度の変化は風味を維持するためには0.1%以下が好ましいことを見出した。味付きタイプの乳酸発酵豆乳は、pH調整剤や甘味料などの添加成分によって保存中の乳酸酸度の上昇を抑制することができるが(例えば、特許文献11)、プレーンタイプの乳酸発酵豆乳の場合には乳酸酸度を調整するための添加成分を含まないため、保存中の乳酸酸度の上昇による風味の低下(過度の酸味など)が避けられないという問題が存在した。
【0011】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、製品保存中の乳酸酸度の変化が0.1%以下(変化率が20%以下)となるようなプレーンタイプの乳酸発酵豆乳を製造する方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本出願は、上記の課題を解決するものとして、豆乳、ビタミンB12要求性乳酸菌およびビタミンB12を含有する調合液を発酵させてプレーンタイプの乳酸発酵豆乳を製造する方法において、製品保存期間中の乳酸酸度の変化が0.1%以下(変化率が20%以下)となるように、調合液中のビタミンB12量を調節することを特徴とする乳酸発酵豆乳の製造方法を提供する。
【0013】
前記の方法においては、製品1g当たりの乳酸菌数は1×10
7個から1×10
9個の範囲(好ましくは1×10
7個から1×10
8個の範囲)となるビタミンB12量に調節することを好ましい態様としている。
【0014】
また、調合液のビタミンB12の濃度が0.005μg/100g以上、0.1μg/100g未満であることを別の好ましい態様としている。
【0015】
さらに、前記の方法においては、ビタミンB12要求性乳酸菌が、L. delbrueckiiであること、より具体的にはL. delbrueckii TUA4408L株(NRIC0701株)であることをまた別の好ましい態様としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、製品保存中の乳酸酸度変化が少なく、安定した風味を維持することのできるプレーンタイプの乳酸発酵豆乳を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1で製造した乳酸発酵豆乳サンプルの保存中の乳酸酸度の変化を示したグラフである。
【
図2】実施例1で製造した乳酸発酵豆乳サンプルの保存中の乳酸菌数の変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、豆乳、ビタミンB12要求性乳酸菌およびビタミンB12を含有する調合液を発酵させて乳酸酸度0.40%から0.60%のプレーンタイプ乳酸発酵豆乳を製造する方法であり、調合液中のビタミンB12濃度を調節することによって、保存期間中の乳酸酸度の変化が0.1%以下(変化率が20%以下)(乳酸酸度が0.48%から0.70%以下)とする。
【0019】
本発明に用いる豆乳は、大豆や脱皮大豆から常法により得られる豆乳を用いることができる。
【0020】
ビタミンB12要求性乳酸菌は、プレーンタイプの乳酸発酵豆乳製品(商品名:豆乳グルト)の発酵に使用されているL. delbrueckii TUA4408L株(東京農業大学一般公開No:NRIC0701株)を使用することが好ましいが、ビタミンB12要求性乳酸菌として公知(特許文献12)のL. delbrueckii NRIC0700株、L. delbrueckii NRIC0705株、L. delbrueckii NRIC0755株、L. delbrueckii NRIC0756株などを使用することもできる。
【0021】
これらの乳酸菌は、液体菌、凍結菌または粉体菌のいずれの状態でも使用できる。調合液に添加する際の乳酸菌(スターター)の菌数は、1g当たり1×10
5から1×10
7個未満の範囲が好ましい。菌数やビタミンB12濃度の調節のためには粉体菌の使用がより好ましい。
【0022】
ビタミンB12は、製品の保存期間中(1〜10℃で21日間)の乳酸酸度の変化が20%以下(具体的には、製品の乳酸酸度0.40%から0.60%、好ましくは乳酸酸度0.50±0.04%が、保存期間中に0.48%(製品乳酸酸度0.40%の場合)から0.70%(製品酸度0.60%の場合)の範囲)に留まるように調合液のビタミンB12量を調節する。
【0023】
本発明の乳酸発酵豆乳の具体的製造工程を示せば、例えば以下のとおりである。
【0024】
先ず、豆乳(大豆固形分として7.0%から9.5%が好ましい)とビタミンB12量を調節した調合液を90〜95℃で15〜20分間殺菌した後、約42〜44℃に冷却し、スターター(所定量の乳酸菌)を添加して調合液を調製する。この調合液を1カップあたり400g程度充填し、乳酸菌に適した温度でおよそ7時間から10時間かけて発酵させる。発酵終了後は冷蔵庫で冷却して乳酸発酵豆乳製品となる。
【0025】
以下、実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
表1にL. delbrueckii TUA4408L株(NRIC0701株)の菌数およびビタミンB12量等を示したスターター(液体菌、凍結菌および凍結菌のビタミンB12制御)を用いて調合液を調製し、乳酸発酵豆乳を製造した。
【0027】
先ず、固形分7.4±0.5%(マイクロ波水分計)、pH6.6±0.3(pHメーター)の豆乳とビタミンB12の量を調節した調合液150kgを殺菌(90〜95℃、15〜20分)し、冷却(42〜44℃)の後、スターターを添加して調合液を調製した。この調合液を1カップに400g充填し、約42.5から44.5℃の温度で7時間から10時間かけて発酵させた。発酵終了後は冷蔵庫で冷却して乳酸発酵豆乳サンプルを製造した。スターターのL. delbrueckii TUA4408L株が液体菌のものを2サンプル(液体1、2)、凍結菌のものを2サンプル(凍結1、2)、凍結菌ビタミンB12制御のものを4サンプル(制御1−4)、それぞれ製造した。製造後の各サンプルの発酵時間および菌数は表1に示したとおりである。
【0028】
【表1】
【0029】
試験1:乳酸酸度の変化
実施例1で製造した乳酸発酵豆乳の各サンプルの製造後と、10℃のインキュベーター内で21日間保存した場合の乳酸酸度を以下の方法で計測した。サンプルを10g秤量し、同量の蒸留水を添加後、0.1%フェノールフタレイン溶液を数滴添加し、0.1mol/L NaOHで液がピンクに変化するまで滴定して以下の式で乳酸酸度を求めた。
乳酸酸度=滴定量×係数×ファクター÷10
(係数は0.9、ファクターは0.1mol/L NaOHのファクター)
結果は
図1および表2に示したとおりである。従来方法で製造したサンプル(液体1、2、凍結1、2)の21日間の保存中における乳酸酸度の変化量は0.180%から0.210%であった。これに対して本発明方法で製造したサンプル(制御1−4)の乳酸酸度の変化量はいずれも0.1%以下(具体的には0.044%から0.074%の範囲)であり、発酵終了後の乳酸酸度(約0.50%)からの変化率は20%以下であった。
【0030】
【表2】
【0031】
試験2:菌数の測定
実施例1で製造した乳酸発酵豆乳の各サンプルの製造後と、10℃のインキュベーター内で21日間保存した場合の乳酸菌数を平板希釈法により以下の方法で計測した。サンプル1mlを9ml生理食塩水に希釈し、10倍希釈液とし、シャーレに希釈液を1ml滴下する。BCP加プレートカウント寒天培地(栄研)を適量添加し、混釈した後、40℃で3日間培養し、菌数を数えた。
【0032】
結果は
図2に示したとおりである。従来方法で製造したサンプル(液体1、2、凍結1、2)の発酵終了後の菌数は約1×10
9個であり、この菌数が約14日後まで維持されるのに対して、本発明方法で製造したサンプル(制御1−4)の場合には発酵終了後の菌数を約4×10
7個と制御している。このことが、保存中の乳酸酸度の過度の上昇を抑制していることが確認された。
試験3:官能検査
実施例1で製造した乳酸発酵豆乳のサンプル(制御1−4および液体1、2)を、製品品質に精通した検査者が試食し、その品質を以下の基準で評価した。
【0033】
5点:劣化がなく、品質低下が認められない
4点:良好な品質を有する
3点:商品として許容範囲にある品質を有する
2点:明らかに劣化が認められる
1点:極端な劣化が認められる
結果は表3に示したとおりである。従来方法で製造したサンプル(液体1、2)に比べて、本発明方法で製造したサンプル(制御1−4)は明らかに高い品質を有することが確認された。
【0034】
【表3】
【実施例2】
【0035】
L. delbrueckii TUA4408L株(NRIC0701株)の粉体菌を用いて、表4に示したビタミンB12量によって実施例1と同様の方法により乳酸発酵豆乳のサンプルを製造した。また、表4右側の2サンプルは実機試作サンプルであり、他はテーブル試作サンプルである。
【0036】
表4に示したように、ビタミンB12の濃度が0.02μg/100g以上、0.1μg/100g未満である場合には、サンプル1g当たりの乳酸菌数が1×10
7個から1×10
8個の範囲となり、乳酸酸度は0.4%から0.6%の範囲となることが確認された。
【0037】
【表4】