(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-112036(P2015-112036A)
(43)【公開日】2015年6月22日
(54)【発明の名称】ペットフード
(51)【国際特許分類】
A23K 1/18 20060101AFI20150526BHJP
A23K 1/16 20060101ALI20150526BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20150526BHJP
【FI】
A23K1/18 A
A23K1/16 304B
C12N1/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-254739(P2013-254739)
(22)【出願日】2013年12月10日
(71)【出願人】
【識別番号】398008974
【氏名又は名称】日清ペットフード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(72)【発明者】
【氏名】安田 知代
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 英和
(72)【発明者】
【氏名】木村 聖二
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B065
【Fターム(参考)】
2B005AA02
2B005AA03
2B150AA06
2B150AA07
2B150AB12
2B150AC05
2B150AE02
2B150DD12
2B150DD13
2B150DD26
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BD22
4B065BD31
4B065BD33
4B065BD42
4B065BD43
4B065CA43
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】ペットの腸内環境を改善し、糞便に起因する悪臭を抑制し得るペットフードを提供すること。
【解決手段】本発明のペットフードは、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)に属する乳酸菌を含有する。前記乳酸菌は、好ましくはロイコノストック・メセンテロイデスRIE株(受託番号FERM P−21110)である。前記乳酸菌の粉状物又は粒状物の含有量は好ましくは0.0001〜5質量%である。前記乳酸菌は、好ましくは、固形の前記ペットフードの表層部に偏在している。本発明のペットフードは、ドッグフード又はキャットフードとして特に有効である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)に属する乳酸菌を含有するペットフード。
【請求項2】
前記乳酸菌はロイコノストック・メセンテロイデスRIE株(受託番号FERM P−21110)である請求項1に記載のペットフード。
【請求項3】
前記乳酸菌の粉状物又は粒状物の含有量は0.0001〜5質量%である請求項1又は2に記載のペットフード。
【請求項4】
前記乳酸菌は、固形の前記ペットフードの表層部に偏在している請求項1〜3の何れか一項に記載のペットフード。
【請求項5】
ドッグフード又はキャットフードである請求項1〜4の何れか一項に記載のペットフード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペット(愛玩動物)として飼育される犬、猫等のペットフードに関し、特に、ペットの腸内環境の改善に有効なペットフードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のペットブームによりペットの飼育数は増大しており、それに伴い運動不足、栄養過多等によりペットの肥満が増大していることから、ペットの食事や健康管理に注目が集まっている。例えば特許文献1には、犬、猫を対象としたペットフードに、1−ケストース、ニストース及び1F−β−フラクトフラノシルニストースを含む短鎖オリゴフラクトースを含有させることで、犬、猫の胃腸の健康、糞尿臭が改善されることが記載されている。また特許文献2には、犬、猫を対象としたペットフードに梅エキスを含有させることで、犬、猫の糞尿臭及び体臭が消臭され、下痢症状を起こす頻度が低下することが記載されており、梅エキスとして、生梅を圧搾して得た梅ジュース若しくはその濃縮物、梅を塩漬けした後の梅酢若しくはその加工物等を用いることも記載されている。また特許文献3には、犬、猫を対象としたペットフードに、ローズマリー、ヒマワリ種子、生コーヒー豆、ブドウの果皮、ブドウの種子、リンゴ、にんじんの葉、茶の葉の各抽出物からなる群から選択される1種以上の抽出物と、フェノール性化合物を酸化する酵素とを含有する配合剤を含有させることで、犬、猫の糞尿臭が低減あるいは消臭されることが記載されている。
【0003】
また特許文献4には、鉄砲漬けから分離したロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)に属する乳酸菌を含有する抗アレルギー剤が、高いIgE抗体産生抑制作用を有することが記載されており、該乳酸菌を含有し抗アレルギー作用を有する抗アレルギー剤が提案されている。また特許文献4には、この乳酸菌が、受託番号FERM P−21110として寄託されている乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株であることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−126416号公報
【特許文献2】特開2005−278404号公報
【特許文献3】特開2000−50814号公報
【特許文献4】特開2008−231094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ペットの腸内環境を改善し、糞便に起因する悪臭を抑制し得るペットフードに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)に属する乳酸菌を含有するペットフードである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ペットの腸内環境を改善し、糞便に起因する悪臭を抑制し得るペットフードが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のペットフードは、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)に属する乳酸菌を含有する。この乳酸菌としては、ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株が好ましく用いられる。乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株は、独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号はFERM P−21110である。乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株は、食経験が豊富な素材(鉄砲漬け)から分離したものであるため、安全にペットフードに利用することができる。
【0009】
乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株の菌学的性質等の詳細は、特許文献4に記載されている。乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株に関し、特許文献4に記載されているのは、乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株が高いIgE抗体産生抑制作用を有し、ヒトの花粉症症状(くしゃみ発作、鼻汁、鼻閉等)の改善に有効ということであり、特許文献4には、乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株が犬や猫の腸内環境改善作用(犬や猫の糞便臭の低減作用)を有することは記載されていない。乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株が犬や猫等のペットの糞便に起因する悪臭の抑制効果等を奏することは、本発明者らによって初めて見出されたことである。
【0010】
乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株は、微生物の培養に通常用いられる培地を使用して、適当な条件下で培養することにより調製することができる。培養後、得られる乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株をそのまま使用しても良いし、更に必要に応じて、遠心分離等による粗精製;濾過等による固液分離;濾過滅菌、放射性殺菌、過熱式殺菌、加圧式殺菌等の公知の滅菌処理を施しても良い。また、乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株を乾燥して粉状物又は粒状物とすることができる。具体的な乾燥方法としては、特に制限されないが、例えば、スプレードライ、スプレークール、ドラムドライ、真空乾燥、凍結乾燥等が挙げられ、これらを単独で又は組み合わせて採用できる。その際、必要に応じて通常用いられる賦形剤を添加してもよい。
【0011】
本発明のペットフード中のロイコノストック・メセンテロイデスに属する乳酸菌(乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株)の含有量は、犬や猫等のペットの腸内環境を改善し得る量、より具体的には、ペットの糞便臭(特にインドール及びp−クレゾール)を低減し得る量であれば良く、ペットフードの形態、適用対象のペットの種類等に応じて適宜調整することができる。前記乳酸菌の粉状物又は粒状物の含有量は、本発明のペットフード中、ペットフードの全質量に対して、好ましくは0.0001〜5質量%、更に好ましくは0.001〜1質量%である。
【0012】
本発明のペットフードは、通常、前記乳酸菌の他に基本原料を含む。この基本原料としては、この種のペットフードにおいて原料として従来用いられているものを適宜用いることができ、例えば、肉粉、魚粉、穀粉類(小麦粉、トウモロコシ粉、大豆粉、米粉、各種澱粉類)、糟糠類(大豆粕、米ぬか、ふすま、胚芽、麦芽など)、おから、小麦グルテン、油脂類、ビタミン類、ミネラル類、卵製品、ガム類等の増粘剤、ゲル化剤、食塩、調味料、香辛料等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
本発明のペットフードは、流通、保存、販売、ペット類への給与時等の取扱い時に、大きな変形や崩れ等を生ずることなく、その固体形状を保持し得るものであれば良い。一般に、ペットフードは、水分含量が通常50質量%以上のモイストタイプ、水分含量が通常約20〜40重量%程度であるセミモイストタイプ、及び水分含量が通常約10重量%以下のドライタイプに大別されるところ、本発明のペットフードには、少なくともドライタイプ及びセミモイストタイプのペットフードが包含される。中でもドライタイプは、取り扱い性、製造の容易性、保存性等の点で優れていることから好ましい。
【0014】
本発明のペットフードの形状は特に制限されず、従来のドライタイプ、セミモイストタイプのペットフードと同様の形状にすることができ、例えば、ペレット状、粒状、スティック状、ドーナツ状、星型、ドッグボーン状、勾玉状、偏平丸状、球状、楕円形状、方形状等の所望の形状にすることができる。また、本発明のペットフードのサイズは特に制限されず、給与するペットの種類や年齢に応じたものとすることができる。例えば、ペレット状のものでは、直径を5〜10mm程度、長さを10〜15mm程度にすると、犬又は猫への給餌が容易で、嗜好性にも優れる。
【0015】
本発明のペットフードは、従来のペットフードの製造方法に準じて製造することができる。本発明のペットフードの製造方法の例示として、下記製法A〜Cが挙げられる。下記製法A〜Cにおいて、原料あるいはその粉砕物の成形は、この種の固形状ペットフードの製造において粉体原料の成形(造粒)に従来用いられている方法を利用して実施することができる。
(A)基本原料あるいはその粉砕物を用いて常法に従って、前記乳酸菌を含まない成形体を製造し、該成形体の表面に前記乳酸菌を付与する方法。
(B)基本原料の粉砕物に前記乳酸菌を添加して混合物を得、該混合物を常法に従って成形する方法。
(C)粉砕前の基本原料に前記乳酸菌を添加して混合物を得、該混合物を粉砕し、その粉砕物を常法に従って成形する方法。
【0016】
中でも、前記製法Aによって得られたペットフード、即ち、「前記乳酸菌を含まない内層部と、該内層部の表面を被覆し、前記乳酸菌を含む表層部とを含んで構成されるペットフード」(固形のペットフードで、表層部に前記乳酸菌が偏在しているペットフード)は、他の製法によって得られたペットフード(前記乳酸菌が均一に分散しているペットフード)に比して効果が得られやすいため、本発明で好ましく用いられる。製法Aにおいて、成形体の表面に前記乳酸菌を付与する方法としては、例えば粉状の前記乳酸菌を用い、該乳酸菌単独又は該乳酸菌と嗜好性素材等との混合物を、ダスティング等の手法により成形体にコーティングする方法等が挙げられる。前記乳酸菌の成形体表面への固定手段としては、例えば油脂を用いることができる。前記乳酸菌のコーティング添加量としては、成形体の全質量に対して、好ましくは0.0001〜5質量%、更に好ましくは0.001〜1質量%の範囲である。
【0017】
本発明のペットフードは、犬、猫、ウサギ、九官鳥等、家庭で飼育可能な小型の動物用の食餌として適している。本発明のペットフードは、特にドッグフード又はキャットフード、とりわけ後述する実施例において例証される通り、キャットフードとして好適であり、猫の腸内環境を改善し、猫に固有の糞便に起因する悪臭を効果的に抑制し得る。
【実施例】
【0018】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は実施例によって制限されるものではない。
【0019】
〔実施例1〕
基本原料として下記表1に示すものを用意し、エクストルーダー(ジョーダ鉄工株式会社製「EP−50」)を使用して、エクストルーダーへの原料の供給量60kg/時、エクストルーダーへの給水量13リットル/時、混練温度70℃〜90℃、バレル先端温度100℃〜130℃、バレル先端圧力5〜10バールの条件下に、基本原料を押出成形してストランド状に押し出した後、切断し、それを120℃で乾燥して、水分含量が8%のペレット状の成形体を製造した。この成形体は、直径8−9mm、長さ3−5mmであった。そして、成形体の表面全体を、常温で固形状を呈する油脂でコーティングし、更に、乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株の粉状物と嗜好性素材との混合物を成形体の表面全体にコーティングし、目的とするドライタイプのキャットフードを製造した。得られたキャットフードにおいて、乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株の粉状物の含有量は、該キャットフードの全質量に対して、0.01質量%であった。
【0020】
【表1】
【0021】
〔比較例1〕
前記乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスRIE株を用いなかった以外は実施例1と同様にして、ドライタイプのキャットフードを製造した。比較例1のペットフードは、前記成形体そのものである。
【0022】
〔キャットフード評価試験〕
平均年齢6歳の雌の猫(日本猫及びスコティッシュフォールド、平均体重3.1kg)5頭に対し、8週間にわたってキャットフードを給与して自由に摂取させた。その8週間の試験期間のうち、最初の4週間(対照区)は比較例1のキャットフードのみを給与し、残りの4週間(試験区)は実施例1のキャットフードのみを給与した。試験期間中は毎日、夕方16時にキャットフードを維持給与量(70×体重Kg)給与し、翌朝9時に食べ残しのキャットフードを回収した。また試験期間中、水は欠かさず給与した。対照区及び試験区それぞれにおいて、キャットフードの給与開始から23日目、24日目に糞便を回収した。対照区及び試験区それぞれにおいて、朝9時から夕方17時までに排泄された糞便を回収し、試験体である猫の細菌代謝産物量を下記方法により評価した。
【0023】
<細菌代謝産物量>
乾燥糞便中におけるインドール及びp−クレゾールそれぞれの含有量を測定した。これらの物質は、糞便の主要な悪臭成分であり、乾燥糞便中におけるこれらの含有量が少ないほど、糞便に起因する悪臭が抑制されていることを示す。インドール及びp−クレゾールの含有量の測定は次のようにして行った。糞便1.0gを50ml容ガラス試験管に精秤、1.0M燐酸緩衝液(pH6.0)を5ml加えて懸濁し、内部標準として0.04%p−イソプロピルフェノール100μlを加えた後、二硫化炭素5mlを加えて、振盪培養器で0℃30分抽出した。3000rpm15分遠心後、抽出液の下層4μlをマイクロシリンジに採り、GC(GC−2014:島津製作所)にて分析を行った。
【0024】
【表2】
【0025】
表2に示す結果から明らかなように、実施例1(試験区)には、比較例1(対照区)よりも優れた糞便臭の低減効果(細菌代謝産物量の中でも悪臭成分であるインドール及びp−クレゾールの低下)が認められた。