【解決手段】本発明に係る焼酎は、単式蒸留機で蒸留した麦焼酎であって、1−ブタノールの濃度が0.30ppm以上であり、濁度が0.10NTU以下であることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る焼酎およびその製造方法を実施するための形態(実施形態)について説明する。
【0012】
[焼酎]
本発明の実施形態に係る焼酎とは、単式蒸留機で蒸留した麦焼酎または単式蒸留機で蒸留した芋焼酎であって、1−ブタノールの濃度が所定値以上であり、濁度が所定値以下であることを特徴とする。
まず、各焼酎の定義等について簡単に説明した後、本発明の実施形態に係る焼酎の特有の事項を説明する。
【0013】
(単式蒸留焼酎)
単式蒸留焼酎とは、穀類または芋類、これらの麹および水を原料として発酵させたアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したものであり、焼酎乙類とも呼ばれる。そして、単式蒸留焼酎は、蒸留が基本的に1回であるため、原料由来の独特な風味を有する。
【0014】
(連続式蒸留焼酎)
連続式蒸留焼酎とは、アルコール含有物を連続式蒸留機により蒸留したものであり、焼酎甲類とも呼ばれる。そして、連続式蒸留焼酎は、何度も蒸留を行うため、単式蒸留焼酎と比較し、独特な風味は減少するが、連続蒸留機を用いて製造することから大量生産に適しているため、比較的安価である。
【0015】
(混和焼酎)
混和焼酎とは、単式蒸留焼酎と連続式蒸留焼酎とを混和したものである。そして、混和焼酎は、混和の割合によって、甲乙混和焼酎(焼酎乙類を5%以上50%未満混和した焼酎)と、乙甲混和焼酎(焼酎乙類を50%以上95%未満混和した焼酎)とに分類される。
【0016】
(麦焼酎)
麦焼酎とは、主原料(掛原料)として麦類を用いて製造された焼酎である。そして、主原料である麦類としては、オオムギ、ハダカムギ、ライムギ等を用いることができ、特に限定されない。
なお、主原料として麦類を用いて製造された単式蒸留焼酎が麦焼酎であるとともに、主原料として麦類を用いて製造された単式蒸留焼酎に連続式蒸留焼酎を混和させた混和焼酎や、主原料として麦類を用いて製造された連続式焼酎も麦焼酎である。
【0017】
(芋焼酎)
芋焼酎とは、主原料(掛原料)として芋類を用いて製造された焼酎である。そして、主原料である芋類としては、サツマイモ、ジャガイモ、キャッサバ、ヤマノイモ、サトイモ、コンニャクイモ等を用いることができ、特に制限されない。
なお、主原料として芋類を用いて製造された単式蒸留焼酎が芋焼酎であるとともに、主原料として芋類を用いて製造された単式蒸留焼酎に連続式蒸留焼酎を混和させた混和焼酎や、主原料として芋類を用いて製造された連続式焼酎も芋焼酎である。
【0018】
(1−ブタノール)
本発明の実施形態に係る焼酎は、1−ブタノールを含有する。
そして、1−ブタノールは、構造式がCH
3(CH
2)
3OHで表される化合物であり、n−ブチルアルコールとも呼ばれる。また、この1−ブタノールは、焼酎の独特な風味の付加に関与する成分の1つであり、独特な風味を有するか否かを決定する指標にもなる成分である。
【0019】
本発明の実施形態に係る焼酎(単式蒸留焼酎)が麦焼酎である場合、1−ブタノールの濃度は0.30ppm(0.00030mg/ml)以上である。1−ブタノールの濃度が0.30ppm以上であることにより、麦焼酎を口に含んだ際に、麦由来の独特な風味を確認することができる。また、麦焼酎を嗅いだ際に、華やかな香りを確認することができる。そして、麦由来の独特な風味や華やかな香りをより確実に確認できるように、1−ブタノールの濃度は0.34ppm以上であるのが好ましい。
【0020】
本発明の実施形態に係る焼酎(単式蒸留焼酎)が芋焼酎である場合、1−ブタノールの濃度は0.60ppm(0.00060mg/ml)以上である。1−ブタノールの濃度が0.60ppm以上であることにより、芋焼酎を口に含んだ際に、芋由来の独特な風味を確認することができる。また、芋焼酎を嗅いだ際に、華やかな香りを確認することができる。そして、芋由来の独特な風味や華やかな香りをより確実に確認できるように、1−ブタノールの濃度は0.65ppm以上であるのが好ましい。
そして、1−ブタノールの濃度の測定については、ガスクロマトグラフィー等により測定することができる。
【0021】
(濁度)
本発明の実施形態に係る焼酎(単式蒸留焼酎)の濁度は、0.10NTU以下である。濁度が0.10NTU以下であると、焼酎の白濁が目立たず、透明感のある焼酎であると消費者に判断されるからである。そして、透明感をより確実なものとするため、濁度は0.05NTU以下であるのが好ましい。
なお、焼酎の濁度の測定については、吸光光度計等により測定することができる。
【0022】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る焼酎によれば、1−ブタノールの濃度を所定値以上に規定していることから、麦や芋由来の独特な風味を保持した焼酎とすることができる。また、本発明の実施形態に係る焼酎によれば、濁度を所定値以下に規定していることから、白濁しておらず透明感のある焼酎とすることができる。
【0023】
次に、本発明の実施形態に係る焼酎の製造方法について説明する。
[焼酎の製造方法]
本発明の実施形態に係る焼酎(単式蒸留焼酎)の製造方法は、液温を10℃以上とした焼酎をろ過するろ過工程、を含むことを特徴とする。そして、本発明の実施形態に係る焼酎の製造方法は、以下に説明する各工程を含んでもよい。
まず、単式蒸留焼酎の製造方法の全体の流れを説明し、その後、本発明の特徴であるろ過工程を説明する。
【0024】
(単式蒸留焼酎の製造方法)
単式蒸留焼酎の製造方法は、
図1に示すように、一次もろみ製造工程S1、二次もろみ製造工程S2、蒸留工程S3、蒸留後ろ過工程S4、割水工程S5、割水後ろ過工程S6等の工程を含んで構成される。
【0025】
一次もろみ製造工程S1では、まず、一次もろみの原料となる米、麦、芋を洗米(麦、芋)・浸漬し、蒸した後、放冷する。そして、放冷した後の原料に種麹(白麹菌、黒麹菌等)を種付して、製麹を行う。その後、焼酎酵母や水等が加えられ、一次熟成もろみ(酒母)が製造される。
【0026】
二次もろみ製造工程S2では、一次もろみ製造工程S1で製造された一次熟成もろみに、水や主原料(掛原料)である麦、芋等を加える。そして、温度等を管理しながら数日〜数十日間、発酵させることにより、二次熟成もろみが製造される。
なお、主原料として麦を用いた場合は麦焼酎、芋を用いた場合は芋焼酎、というように、主原料の種類により焼酎の種類が決定される。
【0027】
蒸留工程S3では、二次もろみ製造工程S2で製造された二次熟成もろみを単式蒸留機により蒸留する。なお、単式蒸留機による蒸留については、蒸留機内の温度が100℃前後である常圧蒸留と、50℃あるいは60℃以下である減圧蒸留とが存在するが、いずれでもよい。
【0028】
蒸留後ろ過工程S4では、蒸留工程S3後の原酒中の油脂成分を除去するためにろ過を施す。ろ過処理に用いる装置等については、特に限定されず、この点、以下の各ろ過工程についても同様である。
【0029】
割水工程S5では、アルコール度数を下げるために、蒸留後ろ過工程S4後の焼酎に水を加える。
割水後ろ過工程S6では、割水工程S5の割水により、アルコール度数が低くなることで析出する油脂成分を除去するためにろ過を施す。
そして、通常、この割水後ろ過工程S6を経た焼酎をビン詰めし、出荷する。
【0030】
(ろ過工程)
本発明の実施形態に係る焼酎(単式蒸留焼酎)の製造方法は、蒸留後ろ過工程S4および割水後ろ過工程S6のうち少なくとも1つの工程が、焼酎の液温を10℃以上としたろ過工程(以下、適宜「規定のろ過工程」という)であればよく、割水後ろ過工程S6が規定のろ過工程であるのがより好ましい。
【0031】
次に、連続式蒸留焼酎および混和焼酎の製造方法について説明する。
(連続式蒸留焼酎の製造方法)
連続式蒸留焼酎の製造方法については、単式蒸留焼酎の製造方法と異なる点を中心に説明する。
まず、連続式蒸留焼酎の製造方法について、単式蒸留焼酎の製造方法と大きく異なる点は、
図1に示す蒸留工程S3において、単式蒸留機ではなく連続式蒸留機を用いる点である。そして、連続式蒸留焼酎の製造方法は連続式蒸留機を用いることから、当該蒸留機により蒸留された原酒には、油性成分がほとんど含まれていない。したがって、通常、油性成分を除去するような蒸留後ろ過工程S4や割水後ろ過工程S6の処理は施さず、不純物を取り除く程度の簡易なろ過処理のみ行う。
さらに、通常、連続式蒸留焼酎の製造方法における蒸留の対象は、糖蜜等から作られる酒類原料用アルコールや、穀物等のデンプン質原料を麹等で糖化し発酵させたものが用いられる。
【0032】
(混和焼酎の製造方法)
混和焼酎の製造方法は、前記した製造方法で製造された単式蒸留焼酎と、前記した製造方法で製造された連続式蒸留焼酎とを混和する混和工程(図示せず)を含んで構成される。また、混和工程後に、油性成分を除去するための混和後ろ過工程(図示せず)を設けてもよい。
なお、混和工程では、通常、
図1に示す割水後ろ過工程S6の後の単式蒸留焼酎と、連続式蒸留焼酎とを混和するが、蒸留工程S3の後、蒸留後ろ過工程S4の後、または割水工程S5の後の単式蒸留焼酎と、連続式蒸留焼酎とを混和してもよい。これらの場合は、混和工程の後に、油性成分を除去するための混和後ろ過工程を設けるのが好ましい。
【0033】
なお、本発明の「規定のろ過工程」を混和焼酎の製造方法に適用してもよい。
具体的には、製造する焼酎が混和焼酎である場合、単式蒸留焼酎を製造する際の蒸留後ろ過工程S4、割水後ろ過工程S6、および混和後ろ過工程のうち少なくとも1つの工程が、規定のろ過工程であればよく、混和後のろ過工程が規定のろ過工程であるのがより好ましい。
【0034】
なお、本発明の実施形態に係る焼酎の製造方法は、前記のとおり、焼酎の液温を10℃以上としたろ過工程、を含んでいればよい。したがって、本発明の実施形態に係る焼酎の製造方法は、単式蒸留後(蒸留工程S3の後)の原酒を購入し、当該原酒に規定のろ過工程の処理を施すといった形式であってもよい。
また、本発明の「規定のろ過工程」を混和焼酎の製造方法に適用する場合は、単式蒸留後(蒸留工程S3の後)の原酒と、連続式蒸留焼酎とを購入し、それぞれを混和した後、規定のろ過工程の処理を施すといった形式であってもよい。
【0035】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る焼酎の製造方法によれば、規定のろ過工程を含むことから、1−ブタノールの濃度が所定値以上であるとともに濁度が所定値以下である焼酎を製造することができる。その結果、麦や芋由来の独特な風味を保持するとともに、白濁していない焼酎を製造することができる。
【0036】
なお、本発明の実施形態に係る焼酎およびその製造方法において、明示していない特性や条件については、従来公知のものであればよく、前記特性や条件によって得られる効果を奏する限りにおいて、限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明に係る焼酎およびその製造方法について説明する。
【0038】
[サンプルの準備]
麦焼酎(アルコール度数25度、主原料:麦、麹:麦麹、常圧単式蒸留、無ろ過の状態、市販品)を用意し、ろ過を施さなかったサンプルと、所定の液温にした後、ろ過(フィルター名:セルロース・アセテート、品番:25CS045AN、孔径:0.45μm、販売:アドバンテック(株))を施したサンプルを準備した。
なお、無ろ過のものをサンプルNo.1−0とし、ろ過温度が2℃のものをサンプルNo.1−1、ろ過温度が10℃のものをサンプルNo.1−2、ろ過温度が15℃のものをサンプルNo.1−3、ろ過温度が20℃のものをサンプルNo.1−4、ろ過温度が25℃のものをサンプルNo.1−5とした。
【0039】
また、芋焼酎(アルコール度数25度、主原料:サツマイモ、麹:黒麹、常圧単式蒸留、無ろ過の状態、市販品)を用意し、ろ過を施さなかったサンプルと、所定の液温にした後、ろ過(フィルター名:セルロース・アセテート、品番:25CS045AN、孔径:0.45μm、販売:アドバンテック(株))を施したサンプルを準備した。
なお、無ろ過のものをサンプルNo.2−0とし、ろ過温度が2℃のものをサンプルNo.2−1、ろ過温度が10℃のものをサンプルNo.2−2、ろ過温度が15℃のものをサンプルNo.2−3、ろ過温度が20℃のものをサンプルNo.2−4、ろ過温度が25℃のものをサンプルNo.2−5とした。
【0040】
[1−ブタノールの濃度測定]
サンプル中の1−ブタノールの濃度は、SPME(固相マイクロ抽出法)法にて分析を行った。
具体的には、20mlのヘッドスペース用バイアル瓶にサンプル10mlをとり、40℃、15分間ヘッドスペース中の香気成分をSPMEファイバーにて抽出し、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS、アジレント・テクノロジー(株))を用いて分析した。
【0041】
(条件)
詳細な条件は次の通りである。
カラム:DB−WAX 30m×0.25mmID×0.25μm、40〜240℃、5℃/min
抽入口:スプリットレス−270℃
ガス流量:ヘリウム
流速:1.0ml/min
【0042】
[パルミチン酸エチル等の濃度測定]
焼酎に含まれるパルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチルの抽出方法としては、アルコール5度程度になるように水で希釈した試料をジクロロメタンにて30分間振とうした。振とう後、ジクロロメタン相を回収し、濃縮後、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS、アジレント・テクノロジー(株))を用いて分析を行った。
【0043】
(条件)
詳細な条件は次の通りである。
カラム:DB−WAX 30m×0.25mmID×0.25μm、40〜240℃、5℃/min
抽入口:スプリットレス−270℃、注入量:1μl
ガス流量:ヘリウム
流速:1.0ml/min
【0044】
[濁度の測定]
前記の方法により準備したサンプルの濁度については、液温20℃で、吸光光度計(SHIMADZU社製、UV−1600)を用いて、EBC値(波長:660nm)を計測し、当該EBC値からNTU値を算出した。
なお、NTU値の算出については、「NTU値=EBC値×19.7÷0.245」という式を用いて行った。
【0045】
[華やかな香りの評価]
前記の方法により準備したNo.1−1〜1−5、No.2−1〜2−5に係るサンプルの香りについて、よく訓練された専門のパネル3名が下記評価基準に則って1〜5点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、香りの評価については、サンプルを口に含まずに評価を行った。
【0046】
(華やかな香り)
5点:極めて強い華やかな香りがある。
4点:強い華やかな香りがある。
3点:華やかな香りがある。
2点:弱い華やかな香りがある。
1点:全く華やかな香りがない。
【0047】
[焼酎としての独特な風味の評価]
前記の方法により準備したNo.1−1〜1−5、No.2−1〜2−5に係るサンプルの風味について、よく訓練された専門のパネル3名が下記評価基準に則って1〜5点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、風味(香りや味わい)の評価については、サンプルを口に含んで評価を行った。そして、焼酎としての独特な風味とは、麦焼酎の場合は、麦由来の独特な風味のことであり、芋焼酎の場合は、芋由来の独特な風味のことである。
【0048】
(焼酎としての独特な風味)
5点:極めて強い独特な風味がある。
4点:強い独特な風味がある。
3点:独特な風味がある。
2点:弱い独特な風味がある。
1点:全く独特な風味がない。
【0049】
以下、表1および表2には、1−ブタノールの濃度と濁度を示すとともに、表3および表4には、評価結果(華やかな香り、独特な風味)を示す。
なお、表1および表2には、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチルの濃度も参考値として示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
表1に示すサンプルNo.1−2〜1−5については、ろ過温度が本発明の規定する温度以上であったことから、1−ブタノールの濃度が所定値以上となった。その結果、これらのサンプルは、表3に示す「華やかな香り」および「独特な風味」の評価において、ろ過温度の低かったサンプルNo.1−1と比較し、点数が2倍以上となった。加えて、これらのサンプルは、ろ過を施していないサンプルNo.1−0とは異なって、濁度が0NTUと非常に低く、白濁していなかった。
【0055】
表2に示すサンプルNo.2−2〜2−5については、ろ過温度が本発明の規定する温度以上であったことから、1−ブタノールの濃度が所定値以上となった。その結果、これらのサンプルは、表4に示す「華やかな香り」および「独特な風味」の評価において、ろ過温度の低かったサンプルNo.2−1と比較し、点数が2倍以上となった。加えて、これらのサンプルは、ろ過を施していないサンプルNo.2−0とは異なって、濁度が0NTUと非常に低く、白濁していなかった。
【0056】
以上説明したように、焼酎の液温を所定温度以上にした状態で、焼酎をろ過することにより、1−ブタノールの濃度を所定値以上とするとともに、濁度を所定値以下とすることができることがわかった。その結果、本発明によると、白濁していないとともに、独特の風味を保持した焼酎を提供できることが確認された。