【解決手段】溶接トーチ2と、フィラーワイヤ供給用のフィラーユニット3とを備えた溶接装置1であって、フィラーユニット3は、アーム体18と可動体19とを備えており、アーム体18及び可動体19に、曲面状の壁面40、41が形成されており、可動体19は、アーム体18に、可動体19の曲面状の壁面40がアーム体18の曲面状の壁面41に沿って摺動可能に取り付けられている。
前記アーム体及び前記可動体の一方に曲線状の凸部が形成され、他方に前記凸部と係合する凹部が形成され、前記凸部と前記凹部とが係合した状態で、前記可動体が回転移動可能である請求項1又は2に記載の溶接装置。
前記可動体に、前記アーム体と重なり合う延出部が形成されており、前記アーム体及び前記軸体の少なくとも一方に長穴が形成されており、前記延出部及び前記アーム体が、前記長穴に通した軸体を介して連結されている請求項1から3のいずれかに記載の溶接装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1の溶接装置における角度調整機構は、円弧状長孔にボルト状の支持具を組み合わせたものであった。この構成では、円弧状長孔を支持具の軸に沿って回転移動させるには、円弧状長孔の幅を支持具の軸径よりも大きくしておく必要があった。このため、フィラーユニットの軌跡は完全な円弧になるとは限らず、単にフィラーユニットを回転移動させるというだけでは、精密な角度設定はできなかった。
【0005】
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、構造を複雑化させることなく、簡単な操作でフィラーユニットの精密な角度調整が可能になる溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の溶接装置は、溶接トーチと、フィラーワイヤ供給用のフィラーユニットとを備えた溶接装置であって、前記フィラーユニットは、アーム体と可動体とを備えており、前記アーム体及び前記可動体に、曲面状の壁面が形成されており、前記可動体は、前記アーム体に、前記可動体の曲面状の壁面が前記アーム体の曲面状の壁面に沿って摺動可能に取り付けられていることを特徴とする。この構成によれば、可動体の壁面とアーム体の壁面とが互いに摺動しながら、可動体が可動するので、簡単な操作でフィラーユニットの精密な角度調整が可能になる。すなわち、壁面同士を密着状態で当接させても互いに摺動可能であるので、摺動中のがたつきは防止され精密な角度調整が可能になる。また、壁面同士の係合構造を追加しても、構造が特別複雑化することはなく、複雑な機構を用いることも不要である。
【0007】
前記本発明の溶接装置においては、前記各曲面状の壁面は、前記可動体の回転中心が、溶接部となるように形成されていることが好ましい。この構成によれば、可動体の角度調整をしても、フィラーユニットが支持するフィラーワイヤの先端は常に溶接部に向くので、フィラーワイヤの最適位置への調整が容易になる。
【0008】
また、前記アーム体及び前記可動体の一方に曲線状の凸部が形成され、他方に前記凸部と係合する凹部が形成され、前記凸部と前記凹部とが係合した状態で、前記可動体が回転移動可能であることが好ましい。この構成によれば、精密な角度調整がより有利になる。
【0009】
また、前記可動体に、前記アーム体と重なり合う延出部が形成されており、前記アーム体及び前記軸体の少なくとも一方に長穴が形成されており、前記延出部及び前記アーム体が、前記長穴に通した軸体を介して連結されていることが好ましい。この構成によれば、簡単な構造で可動体を可動可能にしつつ、アーム体と可動体とを連結することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、構造を複雑化させることなく、簡単な操作でフィラーユニットの精密な角度調整が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1〜
図6は、本発明の一実施形態に係る溶接装置1の外観図を示している。
図1は正面図、
図2は背面図、
図3は平面図、
図4は底面図、
図5は左側面図、
図6は右側面図である。
図7は、溶接部近傍の拡大図を示している。本実施形態では、溶接装置1はTIG溶接用の溶接装置の例で説明するが、これに限るものではなく、本発明は、溶接トーチとは別にフィラーユニットを設けた溶接装置に適用可能である。
【0013】
溶接装置1は、溶接トーチ2と、フィラーワイヤ供給用のフィラーユニット3とを主要構成としている。溶接装置1は、本体用べース4を介して構造体(図示せず)に取り付けられる。溶接トーチ2は支持体5により支持され、フィラーユニット3はスライダ用ベース15を介して支持体5に支持されている。
【0014】
溶接トーチ2は、タングステン電極6と母材10(
図7)との間でアークを発生させるものである。ノズル7からはアルゴン又はヘリウムなどの不活性ガスが母材10に向けて吹き付けられる。このことにより、不活性ガス雰囲気中で、溶接部11(
図7)を大気から遮断しながら溶接を行うことができ、溶融金属の酸化、窒化を防止できる。
【0015】
フィラーユニット3は、溶加棒であるフィラーワイヤ12を供給するためのものである。
図7に示したように、フィラーワイヤ12は供給管13に挿通される。フィラーワイヤ12の消耗に伴い、供給手段(図示せず)により、フィラーワイヤ12が溶接部11に向けて送られていく。
【0016】
フィラーユニット3は、XY軸スライダ16及びZ軸スライダ17により、X軸、Y軸及びZ軸方向の直線方向の位置調整が可能である。さらに、可動体19により角度調整が可能である。X軸は溶接装置1の高さ方向の軸であり(
図1参照)であり、Y軸は溶接装置1の幅方向の軸であり(
図3参照)、Z軸はX軸及びY軸に直交する方向の軸である(
図1及び
図3参照)。角度調整とは、
図7に示した角度θの調整のことである。角度θは溶接トーチ2の中心軸と供給管13の中心軸とのなす角度である。以下、フィラーユニット3の直線方向の位置調整及び角度調整について説明する。
【0017】
最初にX軸方向の位置調整について説明する。
図8はXY軸スライダ16近傍の拡大斜視図を示している。スライダ用ベース15と一体の半筒状突起20にXYスライダ16が係合している。調整ボルト21は、
図5に示したように縮径部分22が爪23に挟まれており、軸方向の移動が規制されている。XY軸スライダ16には調整ボルト21が挿通し、この挿通部分にはねじが形成されている。この構成では、調整ボルト21を回転させると、XY軸スライダ16が半筒状突起20に沿ってX軸方向に移動する。このことにより、フィラーユニット3がX軸方向に移動する。
【0018】
Y軸方向の移動についても、X軸方向の移動と同様である。
図2において、中間べース24と一体の半筒状突起25に、XY軸スライダ16が係合している。
図3において、調整ボルト26は縮径部分27が爪28に挟まれており、軸方向の移動が規制されている。XY軸スライダ16には調整ボルト26が挿通し、挿通部分にはねじが形成されている。この構成では、調整ボルト26を回転させると、XY軸スライダ16が半筒状突起25に沿ってY軸方向に移動する。このことにより、フィラーユニット3がY軸方向に移動する。
【0019】
Z軸方向についても、X軸方向及びY軸方向の移動と同同様である。
図8において、中間べース24と一体の半筒状突起30に、Z軸スライダ17が係合している。調整ボルト31は縮径部分32が爪33に挟まれており、軸方向の移動が規制されている。Z軸スライダ17には調整ボルト31が挿通し、挿通部分にはねじが形成されている。この構成では、調整ボルト31を回転させると、Z軸スライダ17が半筒状突起30に沿ってZ軸方向に移動する。このことにより、フィラーユニット3がZ軸方向に移動する。
【0020】
次に、フィラーユニット3の角度調整について説明する。
図9は、フィラーユニット3の先端側の分解斜視図を示している。可動体19には曲面状の壁面40が形成されており、アーム体18にも曲面状の壁面41が形成されている。可動体19にはアーム体18と重なり合う延出部42が形成されている。延出部42には丸穴43が形成され、アーム体18には長穴44が形成されている。ワッシャ45及び長穴44を通した軸体であるボルト46を、延出部42の丸穴43に締め付けることにより、可動体19及びアーム体18が互いに圧接されて固定される。
図1はこの状態を示している。
【0021】
一方、ボルト46を緩めると、可動体19とアーム体18との圧接状態が緩和され、延出部42に固定されているボルト46は、長穴44に沿って回転移動が可能になる。この移動により、ボルト46と一体の可動体19が移動する。この移動の際、可動体19の壁面40は、アーム体18の壁面41に沿って摺動可能であるので、精密な角度調整が可能になる。
【0022】
これに対し、長穴44とボルト46の係合のみによって、回転移動させる構成では、長穴44とボルト46との間の隙間により可動体19のがたつきが生じ、精密な角度調整が困難になる。すなわち、本実施形態のように、壁面同士の係合構造では、壁面同士を密着状態で当接させても壁面同士が互いに摺動可能であるので、摺動中のがたつきは防止され精密な角度調整が可能になる。また、壁面同士の係合構造を追加しても、構造が特別複雑化することはなく、複雑な機構を用いることも不要である。
【0023】
本実施形態では、精密な角度調整をより有利にするために、
図9に示したように、可動体19に曲線状の凸部50を形成し、アーム体18に凸部50と係合する曲線状の凹部51を形成している。可動体19の回転移動中は、凸部50と凹部51とが互いに案内されるので、角度調整の安定性が高まり、精密な角度調整により有利になる。
図9では、可動体19に凸部50を形成しアーム体18に凹部51を形成しているが逆の配置としてもよい。
【0024】
以上、フィラーユニット3の角度調整について説明したが、
図9に示した壁面40及び壁面41が互いに摺動する構成は一例であり、適宜変更してもよい。例えば、壁面40及び壁面41は端面で形成された壁面であるが、凸部50及び凹部51と同様に、凸部及び凹部で形成された壁面としてもよい。同様に、ボルト46及びワッシャ45による連結構造も一例であり、適宜変更してもよい。例えば、丸穴43にねじを形成する代りにナットを用いてもよい。また、ボルト46に代えて、丸穴43の位置に延出部42と一体に軸体を立設させた構成でもよい。
【0025】
また、曲面状の壁面40及び壁面41、曲線状の凸部50及び凹部51における曲面及び曲線については、円弧面や円弧でもよいがこれに限るものではない。長穴44については、その幅をボルト46の直径よりも少し大きくして、可動体19が移動できるようにする必要がある。このため、長穴44の形状は、必ずしも円弧状等の曲線状である必要はなく直線状であってもよい。さらに、
図9では長穴44は、アーム体18に形成しているが、可動体19に形成してもよい。
【0026】
以下、フィラーユニット3の角度調整についてさらに具体的に説明する。
図7において、フィラーユニット3は前記のとおり角度調整ができるので、フィラーワイヤ13の傾斜角度を最適な角度に設定可能である。本実施形態においては、壁面40及び壁面41の曲面形状を円弧とする場合は、この円弧の中心が溶接部11となるようにようにしておくことが好ましい。この構成によれば、フィラーユニット3を任意の位置に角度調整しても、フィラーワイヤ13の先端が常に溶接部11に向くので、最適位置への調整が容易になる。
図7の構成では、壁面40及び壁面41が円弧であり、この円弧は溶接部11を中心とする半径rの円の円弧である。
【0027】
図7は、フィラーユニット3の角度調整によるフィラーワイヤ13の傾斜角度の調整範囲も示している。実線で示したフィラーユニット3は、角度θを最大とした状態を示している。2点鎖線で示したフィラーユニット3は、角度θを最小とした状態を示している。
図7では、フィラーユニット3は、実線の位置と2点鎖線の位置との間で角度調整が可能になるが、フィラーワイヤ13の先端が常に溶接部11に向くことになる。
【0028】
より具体的には、フィラーワイヤ13の先端が溶接部11に向くことにより、フィラーワイヤ13の先端が溶接プールに向くので、フィラーワイヤ13の先端を最適な充填位置に向けることができる。この場合、フィラーワイヤ13の先端の向くべき最適点が
図7の溶接部11から僅かにずれた点(例えば溶接プールの端部)であっても、X軸、Y軸及びZ軸方向の位置調整により、フィラーワイヤ13の先端を最適点に向けることができる。
【0029】
また、壁面40及び壁面41の円弧の中心が溶接部11となるようにした構成は、
図7において、タングステン電極6先端の溶接部11からの基準高さに基づいて設定すればよい。この構成では、実際の溶接時のタングステン電極6先端の高さが基準高さからずれていても、X軸、Y軸及びZ軸方向の位置調整により、壁面40及び壁面41の円弧の中心を溶接部11とすることができる。
【0030】
また、
図7では、フィラーユニット3の角度調整範囲は、実線の位置と2点鎖線の位置との間であるが、
図1に示したアーム体18について、曲げ角度の異なるアーム体18を複数個用意しておき、別のアーム体18に交換することにより、角度調整範囲を変更することができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、前記実施形態は一例であり適宜変更してもよい。例えば、X軸、Y軸及びZ軸方向の位置調整機構は、同様の機能を有するものであれば、他の構造であってもよい。また、X軸、Y軸及びZ軸方向の位置調整機構は、各軸方向のすべてについて備えていなくてもよく、必要な方向のみの位置調整機構を採用したものであってもよい。