【課題】特に、カラーフィルタに使用した場合、微細化されて高コントラストを達成したジケトピロロピロール顔料であっても、輝度やコントラストを損なうことなく耐熱性を付与できる顔料誘導体を開発し、優れたジケトピロロピロール系顔料組成物を提供すること。
【背景技術】
【0002】
カラー液晶表示装置は、下記のような工程を経て製造されるため、カラー液晶表示装置を構成するカラーフィルタ用の顔料には高い耐熱性が要求されている。即ち、カラーフィルタの上に液晶を駆動させるための透明電極が、蒸着あるいはスパッタリングによって形成され、さらに、その上に液晶を一定方向に配向させるための配向膜が形成されるが、その際に、カラーフィルタは、一般的に、200℃以上、好ましくは230℃以上の高温にさらされる。このため、カラーフィルタに用いられる顔料には、高い耐熱性が求められている。
【0003】
カラーフィルタに用いられる赤色顔料としては、高い輝度とコントラストを有する、ジケトピロロピロール系顔料、特にC.I.ピグメントレッド254が広く用いられているが、近年の高コントラスト化の要望に応えるべく、これらの顔料を、高度に微細化して使用した場合は、特に、顔料の耐熱性が劣ることにより、下記の問題を生じる場合があった。即ち、ジケトピロロピロール系顔料は昇華性を有するため、カラーフィルタ用の顔料として高度に微細化された顔料を使用し、カラーフィルタが高温にさらされた場合には、顔料が加熱された際に、昇華による結晶性の異物を生成してしまい、このことが原因して製品の歩留まりが低下することが知られている。
【0004】
これに対し、上記した結晶性の異物の発生を改善する手段として、種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、ジケトピロロピロール系顔料の優れた色調を失うことがないまま、非常に高いコントラスト比と異物の発生が抑制された顔料組成物として、特定の構造を有するジケトピロロピロール化合物を含むジケトピロロピロール系顔料組成物についての提案がある。また、特許文献2には、加熱処理によってもジケトピロロピロール系顔料の結晶状の異物(結晶析出)が起こらない顔料分散組成物として、ジケトピロロピロール系顔料と、特定構造式のジアリールジケトピロロピロール化合物と、顔料誘導体とを含むものが提案されている。そして、これらの組成物はカラーフィルタ用として優れているとされている。
【0005】
一方、特許文献3では、特定の構造を有するシス型およびトランス型のチアジンインジゴ誘導体を顔料分散剤とすることを提案している。そして、この顔料分散剤は、広範な樹脂に対し顔料を微細に分散でき、特に赤色系統の顔料群において、顔料の色相や鮮明性をほとんど損なうことなく、高い鮮明性を保ちながら分散に優れた効果を発揮するとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した特許文献3では、シス型およびトランス型のチアジンインジゴ誘導体を顔料分散剤としてのみ用いており、顔料の耐熱性に関する記載は全くみられず、勿論、高温にさらされるカラーフィルタの用途で求められているような顔料の耐熱性に関する課題についての記載も一切ない。本発明者らの検討によれば、特許文献3に記載の技術によっては、高度に微細化されたジケトピロロピロール顔料の耐熱性を改善する効果はほとんど見られないものであった。
【0008】
また、本発明者らの検討によれば、上記した特許文献1や2で提案されている顔料分散組成物は、高コントラストでありながら耐熱性が高いカラーフィルタ用に好適なものであるものの、これらの技術では、輝度の低下を引き起こすという別の課題があった。このため、コントラスト、輝度、耐熱性のすべてを両立する手法が望まれる。
【0009】
したがって、本発明の目的は、カラー液晶表示装置、及びカラー撮像管素子等に用いられるカラーフィルタの製造に使用した際に特に有用な、耐熱性に劣るジケトピロロピロール顔料を使用したものであるにも関わらず、高い輝度とコントラストの実現が可能であり、さらに耐熱性に優れ、色調を失うことがなく、製造の際に結晶性の異物の生成が抑制されて、製品歩留まりの向上効果が得られる、ジケトピロロピロール系顔料組成物、並びに、該顔料組成物と皮膜形成材料とを含有してなる顔料着色剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の本発明により、上記課題が解決できることを見出した。
即ち、本発明は、ジケトピロロピロール顔料と、下記式(1)および/または式(2)で表される顔料誘導体とを含むことを特徴とするジケトピロロピロール系顔料組成物を提供する。
(但し、式中Xは、ハロゲノ基、メチル基、メトキシ基およびトリフルオロメチル基からなる群から選択されるいずれかの官能基であり、Yは塩基性窒素原子を有する炭素数2〜30の、脂肪族、脂環式またはヘテロ脂環族のアミンの反応残基であり、nは1〜3の整数を表す。)
【0011】
本発明の顔料組成物の好ましい形態としては、上記顔料誘導体の配合割合が、ジケトピロロピロール顔料100質量部に対して0.05〜40質量部であることが挙げられる。
【0012】
また、本発明は、別の実施形態として、上記いずれかのジケトピロロピロール系顔料組成物と、皮膜形成材料とを含有してなることを特徴とする顔料着色剤を提供する。本発明の顔料着色剤は、その用途が、カラーフィルタ用顔料着色剤である場合に特に有用であり、好ましい形態として挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カラー液晶表示装置、及びカラー撮像管素子等に用いられるカラーフィルタの製造に使用した際に特に有用な、耐熱性に劣るジケトピロロピロール顔料を使用しているにも関わらず、高い輝度とコントラストの実現が可能であることに加え、耐熱性に優れ、色調を失うことなく、製造の際に結晶性の異物の生成が抑制されて、製品歩留まりの向上効果が得られる、ジケトピロロピロール系顔料組成物、並びに、該顔料組成物と皮膜形成材料とを含有してなる顔料着色剤が提供される。すなわち、本発明者らは、特に、カラーフィルタに使用した場合に、微細化されて高コントラストを達成したジケトピロロピロール顔料でありながら、その輝度を損なうことなく、ジケトピロロピロール顔料に耐熱性を付与できる顔料誘導体を見出し、これを用いることで、上記した優れた効果が得られる、実用価値のある、ジケトピロロピロール系顔料組成物、並びに、これを含有してなる顔料着色剤の提供が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、好ましい実施形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記式(1)、(2)で表される、シス型またはトランス型の非対称チアジンインジゴ誘導体を、ジケトピロロピロール顔料に併用させることで、高コントラストを達成すべく高度に微細化されたジケトピロロピロール系顔料を用いた場合であっても、その高い輝度とコントラストとを損なうことなく、高い耐熱性を付与できることを見出して、本発明に至った。
【0015】
具体的には、本発明の顔料組成物は、ジケトピロロピロール顔料と、下記式(1)および/または式(2)で表される顔料誘導体を含むことを特徴とする。
(但し、式中Xは、ハロゲノ基、メチル基、メトキシ基およびトリフルオロメチル基からなる群から選択されるいずれかの官能基であり、Yは塩基性窒素原子を有する炭素数2〜30の、脂肪族、脂環式またはヘテロ脂環族のアミンの反応残基であり、nは1〜3の整数を表す。)
【0016】
上記した特有の顔料誘導体を用いた本発明の顔料組成物及びこれを用いた顔料着色剤は、特に、カラーフィルタに使用した場合に、高コントラストでありながら、高輝度、高耐熱性のいずれをも達成することができる。以下、本発明のジケトピロロピロール系顔料組成物、顔料着色剤のそれぞれについて説明する。
【0017】
<ジケトピロロピロール系顔料組成物>
(ジケトピロロピロール顔料)
本発明で使用するジケトピロロピロール顔料は、特に限定されないが、具体的には、例えば、C.I.ピグメントレッド254、255、264、272、C.I.ピグメントオレンジ71、73、または81等が挙げられる。本発明の顔料組成物を、カラーフィルタ用途に用いる場合は、特に色相の面から、C.I.ピグメントレッド254を用いることが最も好ましい。
【0018】
(顔料誘導体)
本発明のジケトピロロピロール系顔料組成物は、上記ジケトピロロピロール顔料とともに、特有の顔料誘導体を併有してなる。本発明を特徴づける顔料誘導体は、下記の一般式(1)または一般式(2)で表される、シス型またはトランス型の非対称チアジンインジゴ誘導体である。
【0019】
上記式(1)または(2)におけるXは、ハロゲノ基、メチル基、メトキシ基およびトリフルオロメチル基からなる群から選択されるいずれかの官能基であるが、本発明においては、ハロゲノ基であることが好ましい。さらにはクロロ基であることが最も好ましい。
【0020】
上記式(1)または(2)におけるYは、塩基性窒素原子を有する炭素数が2〜30の、脂肪族、脂環式またはヘテロ脂環族のアミンの反応残基であり、用いられる塩基性窒素原子を有するアミンとしては以下のものが挙げられる。例えば、N,N−ジメチルアミノメチルアミン、N,N−ジエチルアミノメチルアミン、N,N−ジプロピルアミノメチルアミン、N,N−ジブチルアミノメチルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアミン、N,N−ジエチルアミノエチルアミン、N,N−ジプロピルアミノエチルアミン、N,N−ジブチルアミノエチルアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルアミン、N,N−ジプロピルアミノプロピルアミン、N,N−ジメチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノブチルアミン、N,N−ジプロピルアミノブチルアミン、N,N−ジブチルアミノブチルアミン、N,N−ジメチルアミノラウリルアミン、N,N−ジエチルアミノラウリルアミン、N,N−ジブチルアミノラウリルアミン、N,N−ジメチルアミノステアリルアミン、N,N−ジエチルアミノステアリルアミン、N,N−ジエタノールアミノエチルアミン、N,N−ジエタノールアミノプロピルアミン、N−アミノプロピルモルホリン、N−アミノプロピル−4−ピペコリン、N−アミノプロピルピペリジン、N,N−ジエチルアミノエトキシプロピルアミン、N,N,N”,N”−テトラメチルジエチレントリアミン、N,N,N”,N”−テトラエチルジエチレントリアミン、N,N,N”,N”−テトラ(n−プロピル)ジエチレントリアミン、N,N,N”,N”−テトラ(i−プロピル)ジエチレントリアミン、N,N,N”,N”−テトラ(n−ブチル)ジエチレントリアミン、N,N,N”,N”−テトラ(i−ブチル)ジエチレントリアミン、N,N,N”,N”−テトラ(t−ブチル)ジエチレントリアミン、3,3’−イミノビス(N,N−ジメチルプロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジエチルプロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジ(n−プロピル)プロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジ(n−ブチル)プロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジ(i−ブチル)プロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジ(t−ブチル)プロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジメチルプロピルアミン)、2,9−ジメチル−2,5,9−トリアザデカン、2,10−ジメチル−2,10−トリアザデカン、2,12−ジメチル−2,6,12−トリアザトリデカン、2,12−ジメチル−2,5,12−トリアザトリデカン、2,16−ジメチル−2,9,16−トリアザヘプタデカン、3−エチル−10−メチル−3,6,10−トリアザウンデカン、5,13−ジ(n−ブチル)−5,9,13−トリアザヘプタデカン、ジ−(2−ピコリル)アミン、ジ−(3−ピコリル)アミンなどを挙げることができ、いずれも使用することができる。これらのうちで特に好ましいものとしては、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルアミン、N,N−ジプロピルアミノプロピルアミン、3,3’−イミノビス(N,N−ジメチルプロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジエチルプロピルアミン)などが挙げられる。
【0021】
上記式(1)または(2)におけるnは、1〜3の整数であって、1が最も好ましい。
【0022】
本発明を特徴づける上記で説明した一般式(1)または一般式(2)で表される顔料誘導体は、下記に挙げるような公知の方法で得ることができる。下記に、その手順の一例を挙げて、その概略を説明する。
【0023】
例えば、まず、特表2001−519837号公報に開示された方法で、下記式(3)で示されるトランス型の非対称チアジンインジゴ誘導体を得る。
続いて、特開2007−314785号公報に開示された方法で、上記式(3)で示されるトランス型の非対称チアジンインジゴ誘導体をクロルスルホン化し、さらに、特定のアミンを反応させることで、先の一般式(1)または一般式(2)で示される顔料誘導体を得ることができる。
【0024】
上記で用いる特定のアミンとしては、例えば、以下のものが挙げられる。例えば、N,N−ジメチルアミノメチルアミン、N,N−ジエチルアミノメチルアミン、N,N−ジプロピルアミノメチルアミン、N,N−ジブチルアミノメチルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアミン、N,N−ジエチルアミノエチルアミン、N,N−ジプロピルアミノエチルアミン、N,N−ジブチルアミノエチルアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルアミン、N,N−ジプロピルアミノプロピルアミン、N,N−ジメチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノブチルアミン、N,N−ジプロピルアミノブチルアミン、N,N−ジブチルアミノブチルアミン、N,N−ジメチルアミノラウリルアミン、N,N−ジエチルアミノラウリルアミン、N,N−ジブチルアミノラウリルアミン、N,N−ジメチルアミノステアリルアミン、N,N−ジエチルアミノステアリルアミン、N,N−ジエタノールアミノエチルアミン、N,N−ジエタノールアミノプロピルアミン、N−アミノプロピルモルホリン、N−アミノプロピル−4−ピペコリン、N−アミノプロピルピペリジン、N,N−ジエチルアミノエトキシプロピルアミン、N,N,N”,N”−テトラメチルジエチレントリアミン、N,N,N”,N”−テトラエチルジエチレントリアミン、N,N,N”,N”−テトラ(n−プロピル)ジエチレントリアミン、N,N,N”,N”−テトラ(i−プロピル)ジエチレントリアミン、N,N,N”,N”−テトラ(n−ブチル)ジエチレントリアミン、N,N,N”,N”−テトラ(i−ブチル)ジエチレントリアミン、N,N,N”,N”−テトラ(t−ブチル)ジエチレントリアミン、3,3’−イミノビス(N,N−ジメチルプロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジエチルプロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジ(n−プロピル)プロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジ(n−ブチル)プロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジ(i−ブチル)プロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジ(t−ブチル)プロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジメチルプロピルアミン)、2,9−ジメチル−2,5,9−トリアザデカン、2,10−ジメチル−2,10−トリアザデカン、2,12−ジメチル−2,6,12−トリアザトリデカン、2,12−ジメチル−2,5,12−トリアザトリデカン、2,16−ジメチル−2,9,16−トリアザヘプタデカン、3−エチル−10−メチル−3,6,10−トリアザウンデカン、5,13−ジ(n−ブチル)−5,9,13−トリアザヘプタデカン、ジ−(2−ピコリル)アミン、ジ−(3−ピコリル)アミンなどを挙げることができ、いずれも使用することができる。これらのうちで特に好ましいものとしては、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルアミン、N,N−ジプロピルアミノプロピルアミン、3,3’−イミノビス(N,N−ジメチルプロピルアミン)、3,3’−イミノビス(N,N−ジエチルプロピルアミン)などが挙げられる。
【0025】
本発明を特徴づける先述した一般式(1)または一般式(2)で表される顔料誘導体は、シス型またはトランス型の非対称チアジンインジゴ誘導体であるが、これらは単独で用いることも、混合して用いることもできる。本発明者らの検討によれば、上記構造の顔料誘導体は、高度に微細化されたジケトピロロピロール顔料と共に用いられた場合に、該顔料に高い耐熱性を付与することができる。そのメカニズムについては明らかではないが、本発明者らは、以下のような理由によるものと考えている。即ち、一般式(1)または一般式(2)で表される構造の顔料誘導体において、Yで示される塩基性窒素原子を有する炭素数2〜30の、脂肪族、脂環式またはヘテロ脂環族のアミンの反応残基を有する官能基(−SO
2Y)が、1分子中に一個のみ存在することで、併用するジケトピロロピロール顔料への顔料誘導体の親和性がより強くなるものと推定され、さらに、Xで示される置換基の存在により耐熱性が付与されたものと推定される。そして、Xがハロゲノ基の場合、さらに好ましくはクロロ基の場合には、さらに優れた耐熱性を発揮するものと推定される。
【0026】
(ジケトピロロピロール顔料と顔料誘導体との配合)
本発明のジケトピロロピロール系顔料組成物は、上記したようなジケトピロロピロール顔料100質量部に対して、一般式(1)および/または一般式(2)で示される顔料誘導体を0.05〜40質量部の割合で配合することが好ましい。さらに好ましい顔料誘導体の配合割合は、1〜20質量部程度である。顔料誘導体の配合割合が少なすぎると、目的とする耐熱性付与の効果が充分に得られにくくなる場合があるので好ましくない。一方、顔料誘導体の配合割合が多すぎると、多く用いただけの効果が得られず、経済性に劣るばかりか、本来のジケトピロロピロール顔料の色調を大きく損なう場合があるため好ましくない。
【0027】
本発明のジケトピロロピロール系顔料組成物は、ジケトピロロピロール顔料と、一般式(1)または一般式(2)で示される顔料誘導体とを従来公知の方法により混合して製造することができ、製造方法は特に限定されない。例えば、ジケトピロロピロール顔料粉末と顔料誘導体の粉末とを分散機を使用せずに混合する方法:ジケトピロロピロール顔料粉末と顔料誘導体とを、ニーダー、ロール、アトライター、横型ビーズミルなどの各種分散機で機械的に混合する方法:水系または有機溶剤系などの顔料のサスペンションに、本発明を特徴づける顔料誘導体を溶解または微分散させた液を添加および混合し、顔料表面に顔料誘導体を均一に沈着させる方法:硫酸などの強い溶解力をもつ溶媒に顔料および顔料誘導体を溶解した後、水などの貧溶媒によって共析出させる方法などがある。上記したように、顔料組成物を調製する場合、本発明を特徴づける顔料誘導体は、溶液、スラリー、ペーストおよび粉末のどの形態で使用してもよく、いずれの形態でも本発明の効果を発揮させることができる。
【0028】
<顔料着色剤>
本発明の顔料着色剤は、上記で説明した本発明のジケトピロロピロール系顔料組成物と、樹脂などの皮膜形成材料とを含有してなることを特徴とする。以下、本発明の顔料着色剤の製造方法および用途について説明する。本発明の顔料着色剤は、例えば、上記の微細化した本発明のジケトピロロピロール顔料組成物と、(共)重合体、オリゴマーおよび/またはモノマーなどから選択される皮膜形成材料を含有させることで得られる。
【0029】
本発明の顔料着色剤は、画像表示用、画像記録用、印刷インキ用、筆記用インキ用、プラスチック用、顔料捺染用、塗料用などの着色剤として広範に使用することができる。特に、着色画素の透明性が問題となる画像表示材料としてのカラーフィルタ用着色剤にも使用することができ、特に有用である。勿論、画像記録剤、例えば、インクジェットインク或いは電着記録液、電子写真方式現像剤の形成材料としても有用であり、これらは、それぞれインクジェット記録方法或いは電着記録方式、電子写真方式などの画像記録方法に使用され、高品位な画像の提供を可能にする。
【0030】
以下、画像表示用の顔料着色剤として、代表例にカラーフィルタ用の顔料着色剤(分散液)を挙げて、本発明を説明する。
カラーフィルタ用の顔料着色剤を調製する場合、まず、本発明の顔料組成物を、皮膜形成材料として機能し得る適当な樹脂を含む有機溶剤などの溶液に添加してプレミキシングし、分散処理する。具体的には、下記の方法などが挙げられる。例えば、上記顔料組成物を、縦型媒体分散機、横型媒体分散機、ボールミルなどの分散機械で均一に混合磨砕した後、皮膜形成性能を有する重合体(皮膜形成材料)を含む液中に添加混合する方法や、硫酸などに、顔料、本発明を特徴づける顔料誘導体を溶解した後に、該硫酸溶液を水中に析出させ、顔料と顔料分散剤とを固溶体ないし共析体として分離し、得られた顔料組成物を上記したと同様に、皮膜形成材料、カチオン系の高分子分散剤などを含む液中に添加混合し、ダイノミルなどの横型湿式媒体分散機(ビーズミル)にて磨砕分散する方法などがある。
【0031】
上記した方法において用いる、顔料分散液にするための皮膜形成材料を含む液としては、従来公知のカラーフィルタ用顔料分散液に使用されている皮膜形成性重合体を用いることができる。また、液媒体としては、有機溶剤、水、有機溶剤と水との混合物を用いることができる。また、顔料分散液には、必要に応じて従来公知の添加剤、例えば、分散助剤、平滑化剤、密着化剤などの添加剤を添加することができる。
【0032】
本発明の顔料組成物と、皮膜形成材料とを含むことを特徴とする本発明の顔料着色剤において、その用途にもよるが、顔料組成物の添加割合は、皮膜形成材料100質量部に対し、顔料組成物を5〜500質量部の範囲で用いることが好ましい。また、皮膜形成材料を含む液としては、感光性の皮膜形成材料を含む液、または、非感光性の皮膜形成材料を含む液を使用することができる。感光性の皮膜形成材料を含む液としては、例えば、紫外線硬化性インキ、電子線硬化インキなどに用いられる感光性の皮膜形成材料を含む液が挙げられる。非感光性の皮膜形成材料を含む液としては、例えば、凸版インキ、平版インキ、グラビアインキ、スクリーンインキなどの印刷インキに使用するワニス、常温乾燥および焼き付け塗料に使用するワニス、電着塗装に使用するワニス、熱転写リボンに使用するワニスなどが挙げられる。
【0033】
上記感光性の皮膜形成材料の具体的なものとしては、例えば、感光性環化ゴム系樹脂、感光性フェノール系樹脂、感光性ポリアクリレート系樹脂、感光性ポリアミド系樹脂、感光性ポリイミド系樹脂など、および、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエポキシアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂などが挙げられる。さらに、これらに、反応性希釈剤として各種のモノマーを加えることができる。
【0034】
また、上記したような感光性樹脂を含む顔料分散液に、ベンゾインエーテル、ベンゾフェノンなどの光重合開始剤を加え、従来公知の方法により練肉することにより、光硬化性の感光性顔料分散液とすることができる。また、上記の光重合開始剤に代えて熱重合開始剤を使用して熱硬化性顔料分散液とすることもできる。
【0035】
一方、非感光性の皮膜形成材料の具体的なものとしては、例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体、可溶性ポリアミド系樹脂、可溶性ポリイミド系樹脂、可溶性ポリアミドイミド系樹脂、可溶性ポリエステルイミド系樹脂、スチレン−マレイン酸エステル系共重合体の水溶性塩、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸系共重合体の水溶性塩、水溶性アミノポリエステル系樹脂などが挙げられ、これらを使用することができる。
【実施例】
【0036】
次に、実施製造例、比較製造例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中、「部」または「%」とあるのは特に断らない限り質量基準である。
[顔料誘導体の作製]
<実施製造例1>
ジメチルホルムアミド250mlと酢酸20mlとの混合溶液に、無水ジクロロマレイン酸25g(0.15モル)を溶解し、その中に1時間にわたって25℃以下で2−アミノベンゼンチオール亜鉛塩23.53g(0.075モル)を添加した。その後、2−アミノ−5−メチルベンゼンチオール亜鉛塩25.6g(0.075モル)を、1時間にわたって添加し、130℃まで徐々に加熱して、その温度で24時間撹拌した。得られた懸濁液を熱時濾過し、ジメチルホルムアミドとエタノールで洗浄後、80℃で真空乾燥して下記式(4)で示される明るいオレンジ色の顔料38.3g(収率75%)を得た。
【0037】
上記で得た式(4)で示される顔料30部を、クロロスルホン酸300部中に室温で仕込み、室温で7時間攪拌した後、1500部の氷水に15分かけて滴下した。そして、沈殿したスルホニルクロリドをろ過し、3000部の氷水で洗浄しスルホニルクロリドのプレスケーキを得た。その後、3Lのビーカーに、500部の氷と500部の水、36.2部のジメチルアミノエチルアミンを投入し、2〜5℃でスルホニルクロリドプレスケーキを投入した。ついで、混合物を60℃に加温し、90分間攪拌した。生成物をろ過、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。これにより、43部の下記式(5)で表される顔料誘導体1を得た。
【0038】
【0039】
<実施製造例2>
実施製造例1で得た顔料誘導体1を20部、N,N−ジメチルホルムアミド100部に加え、150℃で3時間攪拌した後、800部の水に滴下し、得られた懸濁液をろ過、水洗し、80℃で乾燥させることにより、16部の下記式(6)で表される顔料誘導体2を得た。
【0040】
【0041】
<実施製造例3>
ジメチルホルムアミド250mlと酢酸20mlの混合溶液に、無水ジクロロマレイン酸25g(0.15モル)を溶解し、その中に1時間にわたって25℃以下で2−アミノベンゼンチオール亜鉛塩23.53g(0.075モル)を添加した。その後、2−アミノ−4−クロロベンゼンチオール亜鉛塩28.7g(0.075モル)を、1時間にわたって添加し、130℃まで徐々に加熱して、その温度で24時間撹拌した。得られた懸濁液を熱時濾過し、ジメチルホルムアミドとエタノールで洗浄後、80℃で真空乾燥して下記式(7)で示される明るいオレンジ色の顔料43.3g(収率80%)を得た。
【0042】
【0043】
上記で得た式(7)で示される顔料30部を、クロロスルホン酸300部中に室温で仕込み室温で7時間攪拌した後、1500部の氷水に15分かけて滴下した。そして、沈殿したスルホニルクロリドをろ過し、3000部の氷水で洗浄しスルホニルクロリドのプレスケーキを得た。その後、3Lのビーカーに、500部の氷と500部の水、36.2部のジエチルアミノプロピルアミンを投入し、2〜5℃でスルホニルクロリドプレスケーキを投入した。ついで、混合物を60℃に加温し、90分間攪拌した。生成物をろ過、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。これにより、49部の下記式(8)で表される顔料誘導体3を得た。
【0044】
【0045】
<実施製造例4>
実施製造例3で得た顔料誘導体3を20部、N,N−ジメチルホルムアミド100部に加え、150℃で3時間攪拌した後、800部の水に滴下し、得られた懸濁液をろ過、水洗し、80℃で乾燥させることにより、16部の下記式(9)で表される顔料誘導体4を得た。
【0046】
【0047】
<実施製造例5〜8>
実施製造例1及び2に準じた方法で、適宜な原料を用いることで、表1に示される顔料誘導体5〜8をそれぞれ得た。
【0048】
<比較製造例1>
無置換シス型チアジンインジゴ顔料30部をクロロスルホン酸300部中に室温で仕込み、室温で7時間攪拌した後、1500部の氷水に15分かけて滴下した。そして、沈殿したスルホニルクロリドをろ過し、3000部の氷水で洗浄し、スルホニルクロリドプレスケーキを得た。その後、3Lのビーカーに、500部の氷と500部の水、47.8部のジエチルアミノエチルアミンを投入し、2〜5℃でスルホニルクロリドプレスケーキを投入した。ついで、混合物を60℃に加温し、90分間攪拌した。生成物をろ過、水洗し、80℃で乾燥させた。これにより、43部の下記式(10)で表される顔料誘導体9を得た。
【0049】
<比較製造例2>
比較製造例1で得られた顔料誘導体9を20部、N,N−ジメチルホルムアミド100部に加え、150℃で3時間攪拌した後、800部の水に滴下した。得られた懸濁液をろ過、水洗し、80℃で乾燥させた。これにより、16部の下記式(11)で表される顔料誘導体10を得た。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
[顔料組成物の調製]
<実施例1>(顔料組成物(1)の調製)
ジケトピロロピロール顔料(チバスペシャルティケミカルズ社製「イルガジンDPP REDBO」、C.I.Pigment RED254)144部、前記した実施製造例1で得た顔料誘導体1を16部、塩化ナトリウム1600部、およびジエチレングリコール190部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、60℃で7時間混練した。続いて、この混練物を3リットルの温水に投入し、約80℃に加熱しながらハイスピードミキサーで約1時間攪拌してスラリー状とし、濾過、水洗をくりかえして塩化ナトリウムおよび溶剤を除き、80℃で乾燥して、155.5部の顔料組成物(1)を得た。
【0055】
<実施例2〜8>(顔料組成物(2)〜(8)の調製)
実施例1で使用した顔料誘導体1の代わりに、実施製造例2〜8で得た顔料誘導体2〜8をそれぞれに用いた以外は、実施例1と同様の操作を行なって、顔料組成物(2)〜(8)をそれぞれ得た。
【0056】
<比較例1、2>(顔料組成物(9)、(10)の調製)
実施例1で使用した顔料誘導体1の代わりに比較製造例1、2で得た顔料誘導体9、10をそれぞれに用いた以外は、実施例1と同様の操作を行なって、顔料組成物(9)、(10)をそれぞれ得た。
【0057】
<比較例3>(顔料組成物(11)の調製)
実施例1において顔料誘導体を用いずに同様の操作を行って顔料組成物(11)を得た。
【0058】
[顔料着色剤の作製]
<実施例9>(顔料着色剤の作製)
メタクリル酸/ベンジルアクリレート/スチレン/ヒドロキシエルアクリレートを、25/50/15/10のモル比で共重合させて得た、分子量が12,000、固形分が40%のアクリル樹脂ワニスを用い、以下の方法で顔料分散液を調製した。上記で得たアクリル樹脂ワニスを25部、分散樹脂としてDisperbyk−161(ビックケミー(BYK)社製、30%溶液)25部、実施例1で得た顔料組成物(1)を20部、溶剤として、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(以下、PGMAcと略す)を20部配合し、プレミキシングの後、横型ビーズミルで分散処理して、赤色顔料着色剤を得た。
【0059】
<実施例10〜16>(顔料着色剤の作製)
実施例9で用いた顔料組成物(1)の代わりに、実施例2〜8で得た顔料組成物(2)〜(8)をそれぞれに使用した以外は、実施例9と同様にして、実施例10〜16の赤色顔料着色剤をそれぞれ得た。
【0060】
<比較例4〜6>(顔料着色剤の作製)
実施例9で用いた顔料組成物(1)の代わりに、比較例1〜3で得た顔料組成物(9)〜(11)をそれぞれに使用した以外は、実施例9と同様の操作を行なって、比較例4〜6の赤色顔料着色剤をそれぞれ得た。
【0061】
[評価]
(色材層の色度およびコントラスト)
上記で得た実施例9〜16および比較例4〜6の赤色顔料着色剤について、下記の方法で、透明基板上に色材層を形成し、形成した色材層の色度(輝度)およびコントラストを測定して行った、評価結果を表3にまとめて示した。具体的には、まず、100mm×100mm、1.1mm厚のガラス基板上に、実施例及び比較例で得た各赤色顔料着色剤を、スピンコーターを用いて塗布し、それぞれ塗布基板を得た。次に、90℃で2分間乾燥し、続いて230℃で30分間加熱し、C光源での色度(Y,x,y)とコントラストを測定した。そして、スピンコーターの回転数を変えて、上記した塗布・乾燥・加熱・測定の操作を繰り返して、色度のx値が0.65となるように膜厚を調整した。このようにして測定した、各赤色顔料着色剤を用いてそれぞれ形成した色材層を有する透明基板の色度とコントラストとを比較して、実施例および比較例の赤色顔料着色剤についての評価した。色度(輝度)は、Y値およびy値によって評価できるので、上記した色度のx値が0.65となるように膜厚を調整した透明基板上に形成した色材層の色度(輝度)では、Y値およびy値がより大きな値を示すものの方が輝度に優れると評価できる。また、色材層のコントラストの値も、大きい方ものほどコントラストが高いと評価できる。
【0062】
(耐熱性)
上記で色度及びコントラストを測定した後の基板を、さらに260℃で1時間加熱して光学顕微鏡で、各赤色顔料着色剤を用いて透明基板上にそれぞれ形成した色材層について異物の有無を確認して、230℃以上の高温に色材層がさらされた場合を想定して耐熱性を評価した。その結果を表3にまとめて示した。
【0063】
(評価結果)
表3に示した通り、実施例の赤色顔料着色剤を用いて透明基板上に形成した色材層は、いずれも比較例の赤色顔料着色剤を用いて透明基板上に形成した色材層と比べて、明らかに輝度およびコントラストに優れたものであることが確認された。また、色材層の耐熱性については、実施例の赤色顔料着色剤を用いて透明基板上に形成した色材層では、いずれも基板に結晶性の異物は観察されなかったのに対して、比較例の赤色顔料着色剤を用いて透明基板上に形成した色材層には結晶性の異物が全面に観察された。
【0064】