特開2015-113395(P2015-113395A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-113395摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物及び成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-113395(P2015-113395A)
(43)【公開日】2015年6月22日
(54)【発明の名称】摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20150526BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20150526BHJP
   C08L 83/10 20060101ALI20150526BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20150526BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08L9/06
   C08L83/10
   C08L27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-255803(P2013-255803)
(22)【出願日】2013年12月11日
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106596
【弁理士】
【氏名又は名称】河備 健二
(72)【発明者】
【氏名】鮑 哈逹
(72)【発明者】
【氏名】吉野 崇史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 徹也
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC082
4J002BD15X
4J002BD16X
4J002CG011
4J002CG021
4J002CP17W
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】高い摺動性を有し、軋み音の発生が極めて抑制され、かつ機械的特性に優れる摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物及び成形品を提供する。
【解決手段】(A)と(B)の合計を100質量%として、50〜90質量%のポリカーボネート樹脂(A)、50〜10質量%の芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)、さらに、アクリル変性ポリオルガノシロキサン(C)をポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し0.5質量部以上3質量部未満、フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)をポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)の合計100質量部に対して1〜10質量部含有することを特徴とする摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)と(B)の合計を100質量%として、50〜90質量%のポリカーボネート樹脂(A)、50〜10質量%の芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)、さらに、アクリル変性ポリオルガノシロキサン(C)をポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し0.5質量部以上3質量部未満、フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)をポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)の合計100質量部に対して1〜10質量部含有することを特徴とする摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項2】
フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)とアクリル変性ポリオルガノシロキサン(C)の含有量の比[(D)/(C)]が、1以上であることを特徴とする請求項1に記載の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項3】
フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)の平均粒径が1〜20μmである請求項1または2に記載の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物及び成形品に関し、詳しくは、高い摺動性を有し、軋み音の発生が極めて抑制され、かつ機械的特性に優れる摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械的物性、電気的特性に優れた樹脂であり、例えば自動車、電気・電子機器、住宅関連、その他の工業分野における部品製造用材料等に幅広く利用され、また、ポリカーボネート樹脂にABS樹脂を配合したアロイ組成物は、車両、コンピューター、ノートブック型パソコン、各種携帯端末、プリンター、複写機等の電気・電子機器やOA・情報機器等の部品や部材として好適に使用されている。
特に自動車等においては、従来より、内装材料として、成型のしやすさ、軽量化等の理由から樹脂部品が多用され、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂アロイも使用されている。
【0003】
そして、自動車に内装される部品、例えばコンソールパネル、ダッシュボード、カーナビ等に代表される製品は、軽量化目的のため、樹脂製の成形部品を嵌合して組み立てて製作される。例えば、それらが筐体構造の場合、通常、上下半割れの容器状の成形部品に、それぞれ嵌合用の嵌合部が各所に一体成形され、ネジなどを殆ど使用しないか或いは最小限の使用に留めて、上下の成形部品の外周縁を向かい合わせて嵌合することにより筐体成形品が製作される。
【0004】
しかし、このような成形品を車載する場合、自動車室内は環境下で低温から高温までの温度変化が激しく、樹脂成形品は熱変動による収縮膨張のため変形を生じやすく、嵌合部に変形が僅かでも生じた場合は、自動車の駆動時の振動等により、軋み音が発生しやすくなる。軋み音は乗車時の快適性を大きく損ねてしまうが、特に高級車ほどより高度な室内静粛性が求められので、軋み音の発生防止は極めて重要な課題である。
【0005】
このような軋み音の発生は、部材同士が摩擦されたときに発生する。軋み音を防止ないし低減させるための有効な手段としては、成形品表面にグリスやフッ素樹脂を塗布することが昔からまた現在も行われている。しかしながら、この方法では、自動化は困難で手作業に頼らざるを得ず、また効果が持続しないので、恒久的な対策とはならない。
【0006】
特許文献1には、ノートパソコン等の液晶表示装置等を、フロントパネルとリヤキャビネットの2つの筐体を勘合して箱状体を構成する際、箱内空間の高さと同等または近似した高さのリブ状の突起を設けることにより、フロントパネルとリヤキャビネットの外周部の変形を減少させて軋み音の発生を防止することが記載されている。
しかしながら、このような突起を設けることは、他の製品に適用するには構造上の制約があり、また外周部の変形を完全に防止するのは困難である。
【0007】
また、成形品に用いられる樹脂材料自体を改質する方法として、ABS樹脂にシリコーンを配合し自己潤滑性とする技術(特許文献2参照)も知られている。
しかしながら、シリコーンによる軋み音の低減効果は十分とはいえず、成形直後にはある程度の軋み音防止効果を示しても効果の持続性が乏しく、特に、高温環境下に長時間置かれた場合にはその効果が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−332111号公報
【特許文献2】特許第2798396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題(目的)は、上記従来技術の問題点に鑑み、成形品の表面摺動性に優れ、軋み音の発生が著しく抑制され、かつ機械的特性に優れた成形品が可能な摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物及び成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂に、アクリル変性ポリオルガノシロキサン及びフィブリル形成能を有さないフルオロポリマーを共に含有する樹脂組成物が、表面摺動性に優れた成形品を与え、軋み音の発生が著しく抑制され、機械的強度に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物及び成形品を提供する。
【0011】
[1](A)と(B)の合計を100質量%として、50〜90質量%のポリカーボネート樹脂(A)、50〜10質量%の芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)、さらに、アクリル変性ポリオルガノシロキサン(C)をポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し0.5質量部以上3質量部未満、フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)をポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)の合計100質量部に対して1〜10質量部含有することを特徴とする摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[2]フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)とアクリル変性ポリオルガノシロキサン(C)の含有量の比[(D)/(C)]が、1以上であることを特徴とする上記[1]に記載の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[3]フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)の平均粒径が1〜20μmである上記[1]または[2]に記載の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物を用いた成形品は、機械的強度に優れ、そして成形品の軋み音の発生が長期にわたり低減されないという効果を有する。そのため、本発明の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物を成形した成形品は、特に自動車室内等に内装される成形品として極めて好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではない。
なお、本願明細書において、「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
[概要]
本発明の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)の合計を100質量%として、50〜90質量%のポリカーボネート樹脂(A)、50〜10質量%の芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)、さらに、アクリル変性ポリオルガノシロキサン(C)をポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し0.5質量部以上3質量部未満、フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)をポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)の合計100質量部に対して1〜10質量部含有することを特徴とする。
【0015】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物が含有するポリカーボネート樹脂(A)は、その種類に制限は無く、また、1種のみを用いてもよく、2種以上を、任意の組み合わせ及び任意の比率で、併用してもよい。
ポリカーボネート樹脂は、一般式:−[−O−X−O−C(=O)−]−で示される炭酸結合を有する基本構造の重合体である。上記式中、Xは、一般には炭化水素であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
【0016】
ポリカーボネート樹脂(A)としては、特には芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂とは、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素であるポリカーボネート樹脂をいう。芳香族ポリカーボネートは、各種ポリカーボネートのなかでも、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、優れている。
【0017】
芳香族ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限は無いが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなる芳香族ポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いてもよい。また芳香族ポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、芳香族ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単独重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このような芳香族ポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0018】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、
1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
【0019】
2,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0020】
2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0021】
2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0022】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、
1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)(4−プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0023】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,4−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−プロピル−5−メチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0024】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0025】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0026】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0027】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
等が挙げられる。
【0028】
これらの中でもビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0029】
また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーの例を挙げると、
エタン−1,2−ジオール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,4−ジオール、ペンタン−1,5−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール、デカン−1,10−ジオール等のアルカンジオール類;
【0030】
シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、4−(2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、2,2,4,4−テトラメチル−シクロブタン−1,3−ジオール等のシクロアルカンジオール類;
【0031】
エチレングリコール、2,2’−オキシジエタノール(即ち、ジエチレングリコール)、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、スピログリコール等のグリコール類;
【0032】
1,2−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジエタノール、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,3−ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、1,6−ビス(ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、4,4’−ビフェニルジメタノール、4,4’−ビフェニルジエタノール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビスフェノールAビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、ビスフェノールSビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル等のアラルキルジオール類;
【0033】
1,2−エポキシエタン(即ち、エチレンオキシド)、1,2−エポキシプロパン(即ち、プロピレンオキシド)、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,4−エポキシシクロヘキサン、1−メチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、2,3−エポキシノルボルナン、1,3−エポキシプロパン等の環状エーテル類;
等が挙げられる。
【0034】
ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0035】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0036】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0037】
・ポリカーボネート樹脂の製造方法
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。以下、これらの方法のうち特に好適なものについて、具体的に説明する。
【0038】
・・界面重合法
まず、ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させるようにしてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
【0039】
ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体は、前述のとおりである。なお、カーボネート前駆体のなかでもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0040】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、なかでも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、なかでも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、なかでも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0041】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0042】
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、なかでも芳香族フェノールが好ましい。このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロパニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;o−オキシン安息香酸、2−メチル−6−ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0043】
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこのような範囲とすることで、ポリカーボネート系樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0044】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0045】
・・溶融エステル交換法
次に、ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
【0046】
ジヒドロキシ化合物は、前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。なかでも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、ジフェニルカーボネートが特に好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0047】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、なかでも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0048】
ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が、熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端水酸基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率、エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0049】
炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0050】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0051】
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0052】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし、なかでも、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート系樹脂組成物の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0053】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下である。
【0054】
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、粘度平均分子量[Mv]で10,000〜40,000であることが好ましい。粘度平均分子量が10,000未満では、機械的強度が十分ではなくなる傾向があり、粘度平均分子量が40,000を超えると、流動性が悪く成形性が悪くなる傾向にある。粘度平均分子量は、より好ましくは16,000〜40,000であり、さらに好ましくは18,000〜30,000、特には18,500〜25,000である。分子量をこのような範囲に調節するには、後記するような分子量調節剤の量を制御する等の公知の方法で可能である。
【0055】
ここで、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−4Mv0.83 から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0056】
・ポリカーボネート樹脂に関するその他の事項
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1,000ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下である。このようにすることで、ポリカーボネート系樹脂組成物の滞留熱安定性及び色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造されたポリカーボネート樹脂では、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上である。これにより、分子量の低下を抑制し、ポリカーボネート系樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)にて行われる。
【0057】
なお、ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、モノマー組成、分子量、末端水酸基濃度等が異なるポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して使用してもよい。また、ポリカーボネート樹脂に他の熱可塑性樹脂を混合したアロイ(混合物)として組み合わせて用いてもよい。
【0058】
さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0059】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1,500以上、好ましくは2,000以上であり、また、通常9,500以下、好ましくは9,000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0060】
さらにポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。前記の使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体;導光板;自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材;水ボトル等の容器;メガネレンズ;防音壁、ガラス窓、波板等の建築部材などが挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート系樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂のうち、80質量%以下であることが好ましく、なかでも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0061】
[芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)]
本発明の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物が含有する芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)は、芳香族ビニル単量体とジエン及びシアン化ビニル単量体、および必要に応じて他の共重合可能な単量体からなる。
ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン等であり、好ましくは予め重合されたジエン系ゴムであり、例えばポリブタジエン系ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体系ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体系ゴム、ポリイソプレン系ゴムなどを挙げることができ、これらは一種または二種以上併用することができる。特に好ましくは、ポリブタジエン系ゴムおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体系ゴムが用いられる。
【0062】
シアン化ビニル単量体としてはアクリロニトリルおよびメタクリロニトリルなどが挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレンおよびビニルトルエンなどが挙げられ、特にスチレンおよび/またはα−メチルスチレンが好ましい。
【0063】
共重合組成比については特に制限はないが、成形加工性、耐衝撃性の点から共重合体100質量部に対してジエン系ゴム10〜70質量部が好ましい。また同様にシアン化ビニル単量体の量は8〜40質量部が好ましく、芳香族ビニル単量体は、20〜80質量部の範囲が好ましい。
上記共重合体の製造方法に関しては、特に制限なく、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合あるいは塊状・懸濁重合等の公知の方法が用いられる。
【0064】
本発明の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物における芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)との合計を100質量%として、芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)が50〜10質量%、ポリカーボネート樹脂(A)は50〜90質量%である。このように芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)を含有することで、ポリカーボネート系樹脂組成物の耐衝撃性と流動性を向上させることができる。芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)の好ましい含有量は15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは25質量%以上であり、特に好ましくは30質量%以上であり、また好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。
【0065】
[アクリル変性ポリオルガノシロキサン(C)]
本発明の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物に用いるアクリル変性ポリオルガノシロキサン(C)は、オルガノポリシロキサンをアクリル酸エステルまたはメタアクリル酸エステル(以下、アクリル及びメタアクリルを併記する用語として「(メタ)アクリル酸エステル」と表記する。)を共重合することにより変性したポリオルガノシロキサンである。共重合の形態に制限はなく、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等、いかなるものであってもよいが、グラフト共重合が好ましい。
【0066】
ポリオルガノシロキサンが有する有機基(オルガノ基)は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基で例示される炭素数1〜20の1価の炭化水素基、又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つをハロゲン原子で置換した基が挙げられ、また、ビニル基、アリル基、γ−メタクリロキシプロピル基で例示されるラジカル反応性基、又はγ−メルカプトプロピル基で例示される−SH基含有有機基を有していることも好ましい。
【0067】
ポリオルガノシロキサンは公知の方法により製造することができる。例えば、前記の基を有する鎖状や環状の低分子量ポリオルガノシロキサンとかアルコキシシランを用いて、加水分解や重合、平衡化の手段を組合せて製造することができる。加水分解や重合、平衡化は公知の技術により水中に乳化分散した状態でも行うことができる。
【0068】
また(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tertブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート等が例示され、これらを1種又は2種以上組合せて使用することができる。
【0069】
この(メタ)アクリル酸エステルはこれと共重合可能な他の単量体と混合して用いることもできる。共重合可能な他の単量体としては、多官能又は単官能エチレン性不飽和単量体が挙げられる。これと共重合可能な他の単量体を用いる場合は、30質量%以下であることが好ましい。
【0070】
多官能エチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド及び不飽和アミドのアルキロール又はアルコキシアルキル化物、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアリルエーテル等のエポキシ基含有不飽和単量体、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有不飽和単量体、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有不飽和単量体、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有不飽和単量体、(メタ)アクリル酸のエチレンオキシドやプロピレンオキシド付加物等のポリアルキレンオキシド基含有不飽和単量体、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等が例示される。
また、単官能エチレン性不飽和単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が例示される。
【0071】
ポリオルガノシロキサンと、(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリル酸エステルとこれと共重合可能な他の単量体単位の割合は、ポリオルガノシロキサンの質量割合で、50質量%を超えることが好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、70質量%を超えることがさらに好ましく、その上限は85質量%程度であることが好ましい。ポリオルガノシロキサンの質量割合が50質量%未満の場合は、摺動性の改良効果が不満足となりやすく、85質量%を超えると、アクリル変性ポリオルガノシロキサンはジェル状か液体状になり、コンパウンドする時のハンドリング性が悪くなる。
【0072】
変性は公知の技術により行うことができ、例えば、グラフト共重合の場合、ポリオルガノシロキサンと(メタ)アクリル酸エステル又はこれと他の単量体の混合物を水中に乳化分散し、ラジカル重合開始剤の存在下に重合させればよい。
【0073】
本発明の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物におけるアクリル変性ポリオルガノシロキサン(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.5質量部以上であり3質量部未満の範囲である。好ましい含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.7質量部以上であり、より好ましくは1.0質量部以上であり、より好ましくは1.5質量部以上、さらに好ましくは2.0質量部以上である。
【0074】
[フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)]
本発明の摺動性ポリカーボネート樹脂組成物はフィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)を含有する。ここで、「フィブリル形成能」とは、せん断力等の外的作用により、樹脂同士が結合して繊維状になる傾向を示すことをいう。フルオロポリマーが「フィブリル形成能を有さない」かどうかの目安は、比溶融粘度により評価することも可能であり、380℃における比溶融粘度(ASTM 1238−52T)が1×10ポイズ以下であり、さらには1×10ポイズ以下であり、その下限は、通常、5×10ポイズである。
フィブリル形成能を有するフルオロポリマーは摺動改質性能が低く、一方、フィブリル形成能を有さないフルオロポリマーは、成形加工時等にフィブリルを形成することがなく、また加工時に均一に溶解するので、摺動性に優れる。
【0075】
フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)としては、ポリテトラフルオロエチレンが特に好ましい。ポリテトラフルオロエチレンのフィブリル形成能を有さない範囲で、共重合成分としてヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン及びパーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィン、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレートを用いることができる。このような共重合成分の含有量は、ポリテトラフルオロエチレン中のテトラフルオロエチレンに対して、好ましくは10質量%以下である。
【0076】
フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)は、平均粒径が1〜20μmであることが好ましく、より好ましくは5μm以上であり、10μm以下であることがより好ましい。
【0077】
本発明の摺動性ポリカーボネート樹脂組成物は、フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)をアクリル変性ポリオルガノシロキサン(C)と共に含有することを特徴とする。フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)またはアクリル変性ポリオルガノシロキサン(C)の片方しか含有しない場合には、いずれも軋み音が発生する。
フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)の合計100質量部に対して、1〜10質量部である。含有量が1質量部未満では摺動性が不十分となり軋み音が発生し、逆に10質量部を超えると耐衝撃性が不十分となりやすい。フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)の好ましい含有量は2質量部以上、より好ましくは2.5質量部以上、さらに好ましくは3.0質量部以上であり、特に好ましくは3.5質量部以上であり、また好ましくは9質量部以下、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下である。
また、フィブリル形成能を有さないフルオロポリマー(D)とアクリル変性ポリオルガノシロキサン(C)の含有量の比[(D)/(C)の質量比]は、1以上であることが好ましく、より好ましくは2以上、さらに好ましくは2.5以上であり、また、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下である。
【0078】
[その他の含有成分]
本発明の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物においては、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上述したもの以外にその他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、上記以外の樹脂、上記以外の各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0079】
・その他の樹脂
その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)等の熱可塑性ポリエステル樹脂;
ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)等のスチレン系樹脂;
【0080】
ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、環状シクロオレフィン樹脂(COP樹脂)、環状シクロオレフィン共重合体(COP)樹脂等のポリオレフィン樹脂;
ポリアミド樹脂(PA樹脂);ポリイミド樹脂(PI樹脂);ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂);ポリウレタン樹脂(PU樹脂);ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂);ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂);ポリスルホン樹脂(PSU樹脂);ポリメタクリレート樹脂(PMMA樹脂);等が挙げられる。
なお、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0081】
・樹脂添加剤
樹脂添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料(酸化チタン、カーボンブラックを含む。)、帯電防止剤、充填剤(または充填材)、難燃剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
以下、本発明に使用するポリカーボネート樹脂組成物に好適な添加剤の例について具体的に説明する。
【0082】
・・熱安定剤
熱安定剤としては、例えばリン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0083】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
なお、熱安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0084】
熱安定剤の含有量は、ポリカーボネート系樹脂組成物100質量%中、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上であり、また、通常1質量%以下、好ましくは0.7質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。熱安定剤の含有量が上記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、熱安定剤の含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0085】
・・酸化防止剤
酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリイル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0086】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
なお、酸化防止剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0087】
酸化防止剤の含有量は、ポリカーボネート系樹脂組成物100質量%中、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上であり、また、通常1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下である。酸化防止剤の含有量が上記範囲の下限値未満の場合は、酸化防止剤としての効果が不十分となる可能性があり、酸化防止剤の含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0088】
・・離型剤
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0089】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6〜36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0090】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
【0091】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0092】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0093】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0094】
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。また、数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。脂肪族炭化水素は単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0095】
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましく、ポリエチレンワックスが特に好ましい。
【0096】
なお、離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)の合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が上記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0097】
[ポリカーボネート系樹脂組成物の製造]
本発明の摺動性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。
溶融混練の方法としては、例えば、ポリカーボネート樹脂(A)及び芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)は、原料供給機に貯蔵され、そこからフィーダー(定量供給機)によって、押出機上に設置されたホッパーより押出機に供給される。ポリカーボネート樹脂(A)、芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)はペレットでもパウダー状でも構わない。
ポリカーボネート樹脂(A)及び芳香族ビニル−ジエン−シアン化ビニル系共重合体(B)以外の他の成分の混合は、押出機に投入される前の任意の段階で配合することができる。例えば、タンブラー、ヘンシェルミキサー、ブレンダーによって全成分を配合したのち、必要に応じてフィーダーを介してホッパーシュートに投入し、押出機に供給してもよい。また、ポリカーボネート樹脂とは別経路でホッパーシュートに供給してもよい。
【0098】
溶融混練には、押出機には一軸押出機、二軸押出機などが使用出来るが、二軸押出機が好ましい。
押出機のスクリューのL/Dとしては、10〜80が好ましく、より好ましくは15〜70、より好ましくは20〜60である。
【0099】
溶融混練物は、押出機の先端部の吐出ノズルからストランド状に押出され、引き取りローラーによって引き取られ、冷却槽に溜められた水中を搬送されるようにして、冷却される。樹脂の劣化を少なくするために、ストランドがダイから押し出されてから水に入るまでの時間は短い方が良い。通常は、ダイから押し出されてから1秒以内に水中に入るのが良い。
【0100】
冷却されたストランドは、引き取りローラーによりペレタイザーに送られ、ペレット長さ、例えば2.0〜5.0mmにカッティングされて、ペレットとされる。
【0101】
[成形体]
得られた樹脂組成物ペレットから成形体を製造する方法に制限はなく、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法などが挙げられる。成形が容易なことと生産性の観点から射出成形、射出圧縮成形が好ましい。
【0102】
ポリカーボネート系樹脂組成物を成形した成形品は、これを組み立てて製作した樹脂製品とした場合、軋み音の発生が抑制されたものとなる。樹脂製品は、成形品を組み立てて製作され、勘合あるいはネジ止め等により、他の製品と密着して取り付けられることが多いが、このような場合でも、軋み音の発生が著しく低減され、かつ高温下に長時間置かれた場合においても軋み音低減効果が維持されるので、特に自動車室内に搭載される、組立製品として極めて好適に使用できる。
このような製品としては、車載用ディスプレイ、カーナビ、カーオーディオ、コンソールパネル、ダッシュボードまたはドアトリム用部品等を好ましく例示することができる。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例により説明する。
実施例及び比較例に用いた各原料成分は、以下の表1の通りである。
【0104】
【表1】
【0105】
[実施例1、比較例1〜2]
上記各成分を下記表2に記載の割合(質量部。但し安定剤E1、E2については質量%で記載。)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製二軸押出機(TEX30HSST)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/時間、樹脂温度270〜280℃(測定値)にて溶融混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂組成物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化してポリカーボネート系樹脂組成物のペレットを得た。
【0106】
<軋み音の発生の評価>
上記で得られたペレットを用い、日精樹脂工業社製成形機(直圧式PS40、E5ASE)で、成形機シリンダー温度260℃(金型温:70℃)、射出速度23mm/秒、保圧30%の成形条件で、外径26mm、内径20mm、高さ15mmの円筒状試験片を成形し、オリエンテック社製スラスト型摩擦摩耗試験機(EFM−III−E)を使用して、相手材料は同じ材料(共材)を用い、以下の軋み音判定試験を行った。
すなわち、上記円筒状試験片を用い、無潤滑の状態で、加圧荷重150N、すべり線速度25mm/secの条件下で、5分間を回転させ、軋み音の発生有無について評価を行った。
加圧荷重150Nの条件で、5ペアで試験を行った。
(1)5ペアの中で、軋み音が全てに発生すれば、総合評価結果は「×」、試験中止となる。
(2)5ペアの中で、軋み音が発生するものと発生しないものがあれば、総合評価結果は「▲」、試験中止となる。
(3)5ペアの中で、軋み音が全てに発生しなければ、総合評価結果は「○」となり、次のより重い加圧荷重で、新しく5ペアをセットし、軋み音の判定を行う。
加圧荷重を、200N、300N、400N、500Nと段階的に増やし、総合結果は上記の「×」か「▲」が出るまで、試験を中止する。試験中止時の荷重は大きいほど、材料の軋み音抑制効果良いと認められる。
【0107】
<各種物性の評価>
[試験片の作製]
また、得られたペレットを100℃で5時間乾燥させた後、住友重機械工業社製射出成形機(サイキャップM−2、型締め力75T)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度70℃の条件で、4mm厚のISOダンベル試験片を射出成形した。
【0108】
・シャルピー衝撃強度:
上記試験片(4mm厚)を用い、ISO179−1及び179−2に準拠して、両端をカットして、80mm(縦)×10mm(横)×4mm(厚)のサンプルを製作、23℃の環境下において、ノッチ無しシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m)を測定した。
・引張特性(降伏点強度及び破壊点伸び率):
上記試験片(4mm厚)を用い、ISO527−1及び527−2に準拠して、降伏点強度(単位:MPa)及び破壊点伸び率(単位:%)を測定した。
以上の評価結果を以下の表2に示す。
【0109】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の摺動性ポリカーボネート系樹脂組成物によれば、高い摺動性を有し、軋み音の発生が極めて抑制され、かつ機械的特性に優れる成形品を得ることができるので、車載用ディスプレイ、カーナビ、カーオーディオ、コンソールパネル、ダッシュボードまたはドアトリム用部品等に広く利用でき、産業上の利用性は非常に高い。