(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-113462(P2015-113462A)
(43)【公開日】2015年6月22日
(54)【発明の名称】ナノ化エンジンオイル
(51)【国際特許分類】
C10M 171/06 20060101AFI20150526BHJP
C10M 125/10 20060101ALI20150526BHJP
C10M 125/04 20060101ALI20150526BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20150526BHJP
C10N 10/16 20060101ALN20150526BHJP
C10N 20/06 20060101ALN20150526BHJP
【FI】
C10M171/06
C10M125/10
C10M125/04
C10N10:02
C10N10:16
C10N20:06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-273787(P2013-273787)
(22)【出願日】2013年12月13日
(71)【出願人】
【識別番号】514007900
【氏名又は名称】林 茂
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 敏明
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA08C
4H104AA13C
4H104EA08C
4H104EB08
4H104FA01
4H104FA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】直ぐに柔らかくて潤滑性に富んだ被膜になりうるパウダーを数%〜十数%添加して分散させるだけで、シリンダ内面に柔らかくて接着力が強い超薄膜な潤滑性に富んだ被膜が形成されて、シリンダ内面およびピストンリングの表面エネルギーを小さくして摩擦抵抗を減らし、抜群の吹き上がりとシリンダ内面及びピストンリングの耐久性を実現することができるエンジンオイル。
【解決手段】苛性カリ(水酸化カリウム、KOH)を数%、ニッケル(Ni)十数%を減摩剤としてエンジンオイルに適当量入れて、ニッケル(Ni)がナノ化することでなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
苛性カリ(水酸化カリウム、KOH)を数%、ニッケル(Ni)十数%を減摩剤としてエンジンオイルに適当量入れて、ニッケル(Ni)がナノ化することでなることを特徴とするエンジンオイル。
【発明の詳細な説明】
(書類名)発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、直ぐに柔らかくて潤滑性に富んだ被膜になりうるパウダーを数%〜十数%添加して分散させるだけで、シリンダ内面に柔らかくて接着力が強い超薄膜な潤滑性に富んだ被膜が形成されて、シリンダ内面およびピストンリングの表面エネルギーを小さくして摩擦抵抗を減らし、抜群の吹き上がりとシリンダ内面及びピストンリングの耐久性を実現することができるエンジンオイルに関する。又、本発明は、潤滑油組成物に減摩性、耐摩耗性を付与しそしてそれを使用するエンジンの燃料消費量を減少させることができるエンジンオイルに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃料消費効率を高める多くの試みは、機械の設計によるものである。他の解決法は、シリンダ内面とピストンリングとの摩擦力を減少して摩擦力に起因するエンジンの消費エネルギーの減少をもたらす潤滑剤の使用である。走行距離の実質的な損失はエンジンの内部摩擦に直接起因する。摩擦は、運動を生じさせるのに必要な動力を増大させ、燃料消費効率を低下させるので、摩擦を最少限にするエンジンオイルを使用するのが有益である。ピストンとシリンダーのクリアランスは50〜120μmがありそのクリアランスをエンジンオイルが密封し、潤滑し、あわせてピストンリングがピストンにへばりつかないように、スラッジやカーボンを取り除く役目を果たす。又、エンジンオイルは、オーバーヒートを防ぐため冷却水の代わりにエンジン各部に行き渡り、各部を冷却している。オイルやガソリンの酸化物や発生した水分などは金属を腐食させるため、エンジンオイルに添加する酸処理剤などで錆や腐食摩耗を防いでいる。
【0003】
エンジンオイルの働きには、減摩機能、密封機能、清浄機能、冷却機能、応力分散機能、清浄分散機能、腐食防止機能など、多くの重要な機能がある。減摩機能は焼き付き・摩耗を防止すると共に摩擦による抵抗を減らす働きであり、密封機能はピストンリング・シリンダ間に油膜を形成し燃焼ガスを密封する働きであり、冷却機能は、局所的に高温になった部品を冷却する働きであり、応力分散機能は、微視的に部品に加わる荷重を油膜により分散させる働きであり、清浄分散機能は、摩耗粉やゴミを洗い流し、粒として分散させる働きであり、腐食防止機能は、各部品を水や酸化性ガスから遮断し錆から守る働きである。以下、さらに詳述する。
(1)良好な始動性エンジンの始動性はバッテリーやエンジンの状態、オイルの良好な流動性が関係する。エンジンが正常に始動し回転を続けるには一定の回転数以上に達することが必要であり、オイルの粘度が高すぎると抵抗となってエンジンは最低必要回転数以上に達せず始動できない。そして、エンジンが始動したら、ただちに流れ始め、連続してベアリングや運動部分に供給されないと、エンジンは破損する。そこで、エンジンのオイルポンプがオイルを圧送できる最低温度が、5Wオイルならマイナス35℃というようにSAE粘度分布で規定されている。
(2)潤滑と減磨エンジンが始動すると、動作部分にエンジンオイルが送り込まれ金属同士の接触を防止して磨耗や破損を防ぐ。エンジンオイルはエンジン始動時には油膜が早くできるように低粘度であり、高温になった運転時には強力な油膜が必要となるので高粘度であることが望ましい。
(3)摩擦抵抗の減少金属部分の間を油膜で潤滑を行う場合、オイル粘度が高ければ摩擦抵抗は大きくなり、オーバーロード、燃費増につながる。また温度も上昇しオイル自体の酸化劣化も早まる。このような場合、添加剤の使用で摩擦抵抗を減らすことが出来る。
(4)防錆と防触燃料が完全燃焼すると二酸化炭素と水が発生するが完全燃焼は難しい。不完全燃焼により発生するススやカーボンは黒煙として排出され、一部がピストンリングの隙間からクランクケースへ洩れてオイルを劣化させる。又、燃焼で発生した水は、蒸気としてマフラーから排出され一部がシリンダー壁に凝結してクランクケースへ掻き落され錆の原因となる。その他、燃焼によって硫酸、塩酸、硝酸などの酸化物が発生し、部品を腐食させる原因となるが、オイルに添加した添加物でこれらの酸を中和することで防錆、防触をする。
(5)密封作用ピストンリング、リング溝、シリンダー壁の表面は顕微鏡的に見ると凸凹しており密着していない。0.025mmのスキマを油膜で密封して高圧の混合気や燃焼ガスなどの圧縮洩れを防止している。
(6)冷却作用エンジンの冷却は、冷却システムがエンジン発生熱の60%を冷却しており、エンジン内部のカムシャフト、メタル、ピストン、タイミングギアなどはオイルによって直接冷却されている。一般的に燃焼室温度は約1100〜1700℃、バルブは540〜1100℃、ピストンは540℃位に達する。この熱はコンロッドを経て、メタルに伝わる。メタルに使用されている錫や鉛は敏感で177℃で軟化する。運転中のクランクケース油温は90℃以上、135℃に達することもある。オイルはこの温度でメタルに供給され、120〜150℃に上昇してクランクケースに戻ることでメタルを損傷しないよう保つ。
(7)エンジン内部と部品の清浄燃焼時に発生する凝縮水、吸入空気中の塵埃、オイルの酸化劣化物、燃料の不完全燃焼などから発生するスラッジは低温運転中に発生しやすい。スラッジの構成物質は最初きわめて小さな粒子でオイルフィルターを通過してしまう。スラッジの構成物質はエンジン可動部分の隙間に入り込む油膜の厚さよりも小さく、そのため部品の潤滑面を損傷させることはないが成長して大きな粒子となってオイルの流れを阻害し始める。このため、清浄分散剤が添加されており、エンジン部品を清浄にし、スラッジの堆積を防ぐ性能を持っている。
(8)燃焼室内堆積物の減少ピストンのトップリングとシリンダーを潤滑したオイルはそのままシリンダー壁に残り、燃焼ガスに曝されて、燃焼する。最新の高性能オイルは燃焼してもカーボンなどの堆積物はほとんど残さない。清浄分散剤を含んだオイルはリング溝を清浄の保つので、シリンダー壁へのオイル供給量も最小限にでき(オイル上がりが少ない)オイル消費量を減少させ、シリンダーのカーボン堆積物を減少させられる。
【0004】
エンジンオイルは、ベースオイル(植物油、鉱物油、合成油、又は前記の混成油)に種々の添加剤(減摩剤及び抗酸剤《=酸化防止剤》、酸処理剤、粘性維持剤《=粘度指数向上剤》、抗泡剤《=消泡剤》、流動点改良剤《=流動点降下剤》等)を混ぜて作られている。添加剤の合計量は、大体は20%以下であるが、30%以上含まれるものもある。又、添加剤の種類は25種類以上も使用されることもある。通常は、少なくとも10種類位使用されている。基本的には、添加剤よりもベースオイルの方が寿命が長く、「オイルが劣化した」と感じるのはオイルに含まれる添加剤成分が劣化するためである。
【0005】
エンジンオイルは、使用しているうちに、砂埃、金属粉、スス、水分、燃料などの不燃物が混入したり、添加剤が消耗することなどにより、次第に機能を低下していく。その結果、エンジン性能が低下したり、さらに性能が低下すると、エンジンオイルとして機能しなくなり、摩耗が進行し、エンジンの焼き付き(壊れる)などの重大なトラブルの原因となるので、エンジンオイル交換は15000km前後が好ましい。
【0006】
エンジンオイルの良し悪しは、以下の項目のチェックにより人の感性でも判断できる。
(1)エンジンの音が静かになったかどうか(2)アクセルが軽く、よく回るように感じられるかどうか(3)エンジンの馬力が増したように感じられるかどうか(4)燃費がのびたかどうか(5)オイルの消耗が少なくなったかどうか(6)上記の感じがいつもより長続きしているかどうか
【0007】
エンジンオイルを構成しているベースオイルの中、植物油は、現在ではレース用車に使用されており、フリクションロスが少なく、油膜強度は合成油より優れ、潤滑性能が高いが、酸化が早く、一般用として長期使用には向かない。そのため、原油から精製して取れる鉱物油が一般的に使用されている。原油は、植物由来の物であるけれどもエンジンオイル用としては安定している。しかしながら、イオウ分、不純ロウ分などオイルとして有害な成分が多く、原産地によってもかなり品質の差がある。そこでオイル用として専用に造られたのが合成油である。合成油は、コストが高くつくので、一般的には鉱物油と合成油をブレンドして半化学合成油としたり、鉱物油に手を加えて部分的に合成している部分合成油などが主流に使用されている。なお、合成油は、PAO(ポリアルファオレフィン)、高度水素化分解油VHVI(Very High Viscosity Index)、エステルの3種に代表されるが、主流はエステルである。なお、合成油AN(アルキルナフタレン)がある。
【0008】
添加剤をいっさい加えていない場合は100%合成油のPAOは、普通イオウ分を含む鉱物油より摩擦係数が高くなり、PAO>鉱物ニュートラル油>エステルとなる。油性向上剤、すなわち潤滑部の金属表面に付着し、境界潤滑の時に油膜が破壊されないような高い付着力を加える減摩剤の優劣は、シリンダ内面の表面エネルギーを小さくして摩擦抵抗を減らし、抜群の吹き上がりとシリンダ内面及びピストンリングの耐久性を実現することができ、エンジンの燃料消費量を減少させることができるので重要である。シリンダー内面には油膜を保持するためクロスハッチと呼ばれる非常に細かい傷が斜めに入れられていて、この傷に油性向上剤が保持されて油膜を形成する。金属同士の潤滑には流体潤滑、境界潤滑、極圧潤滑、固体潤滑などがあり、この中でもっとも摩擦が小さく摩耗が少ないのは流体潤滑であるが、より大きな摩擦荷重に耐えられるのは、固体潤滑であり、中でも、粉体潤滑は摩擦が小さい。
【0009】
減摩剤として代表的なものに、ジアルキルシチオリン酸亜鉛(ZDTP)があり、減摩作用と抗酸作用をする。ZDTPに含まれるアルキル系物質の内容によって196℃に高温側は耐えられるが、これぐらいの高温特性では燐化亜鉛系物質を急速に劣化させてしまうので、定期的にオイル交換して取り除きが必要になる。又、燐化亜鉛系の添加剤は有機金属で物体間の摩擦点にフィルムを作るが、ファンデルワールスの結合の法則に従い、簡単に剥離、変動し、安定性に欠ける(砂の塊を強く握ると砂の粒に砕けてしまうぐらいのくっつき方)。他にアンチモンやモリブデンを使った減摩剤がある。コーティング系オイル添加剤として、テフロン(登録商標)系添加剤(フッ素樹脂)は、元来、撥油性であり油膜保持に悪影響を及ぼすことはあっても、摩擦特性にプラスに働くことはあり得ず、特に高荷重時の潤滑にテフロン膜が定着することがなく、効果は不良である。そして、クロスハッチの傷に埋まるテフロンの被膜は含油性がなくオイルを全く保持できないので油膜切れを起こす。ボロンパウダーやチタンパウダーも同様である。
【0010】
エンジンオイルのメーカーが、高級オイルに使っている減摩剤は、高価なモリブデン系である。モリブデンというと、通常は二硫化モリブテンを指す。二硫化モリブデンは、不活性、不溶性であり、エンジンオイルが攪拌されるとエンジンオイルの中で浮遊できるが沈殿する物質である。添加剤として、エンジンオイルに最初から入っているのは有機モリブデンである。潤滑剤として、1958年にイオウを含んだモリブデンキサンテートが報告されている。最初は、アメリカで潤滑油用として1965年に研究され始め、化合物として多くの特許が出されている。有機モリブデンは、エンジンオイルに溶ける性質があり、熱化学反応を起こす。有機モリブデンは、200℃で脱アルキル化によりオレフィンを生成し、次いで、295℃前後で残っている配位子が分解し二硫化モリブデンを生成するが、分子レベルで800〜1000℃になって初めて効果を発揮する。潤滑の仕組みは解明されていないが、反応によって二硫化モリブデンを生成して極圧剤として作用すると思われる。具体的には、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンや硫化オキシモリブデン・ジアルキルジチオリン酸塩は、エンジンオイル中のZnDTPと協力関係にあり、単独の効果よりも摩擦係数を下げる。これは、ZnDTPが燐酸鉄を作り、その上にMoS被膜を作るからといわれる。そのほか、酸性リン酸エステル及びその金属塩は、エステル系複合滑剤として用いられている。
【0011】
エンジンオイルに減摩性、酸化防止性及び耐摩耗性を付与しエネルギー効率の向上をもたらす点で有用であることが知られたモリブデン化合物としては、米国特許第4,164,473号に教示される脂肪アルキルアミンと硫黄ドナーとのある種のモリブデン錯体、及び米国特許第4,889,647号に開示される脂肪油とジエタノールアミンとのモリブデン錯体、特開平05−247075号に開示される有機モリブデン錯体、特開平08−285311号に開示される潤滑油組成物、特公表平10−508884号に開示される潤滑剤の添加剤組成物、特開平11−246581号に開示される潤滑剤組成物、特開平07−145187号に開示されるモリブデン含有摩擦低減用添加剤、特開平05−17793号に開示される潤滑性組成物が挙げられる。
【0012】
上記のように、有機モリブデンは、熱により反応し二硫化モリブデンを生成してさらに反応してシリンダ面に燐酸鉄の被膜とMoS被膜を二重に形成して極圧剤として固体潤滑作用をする。しかしながら、二硫化モリブデンは、400℃前後から酸化されて三硫化モリブデンとなる。この三硫化モリブデンは、潤滑作用を示さなくなる。又、有機モリブデンは、固体の二硫化モリブデンに変わるので劣化成分であり、3000〜5000Kmで摩擦低減効果を消失する。二硫化モリブデンは、エンジンオイルの中で沈殿しゴミ扱いになるので多量に入れるとかえって潤滑機能を阻害する。
【0013】
そこで、本願発明者は、別の潤滑理論、特に粉体潤滑に関心を向けた。ダイヤモンドライクカーボンの被膜は、表面エネルギーを極めて小さいので摩擦係数が小さいとされるが、エンジンオイルへ材料を添加して形成されるものではなく、又、唯一熱に弱い。黒鉛を含んだ鋳物は黒鉛が潤滑剤の役目を果たしている。粉体潤滑は、表面エネルギーを小さいので摩擦係数が小さく、しかも、含油状態のパウダー被膜を形成することにより流体潤滑よりも大きな摩擦荷重に耐えられる被膜を形成できるのではないかと考えた。MoS被膜は、軟らかくて吸着力が強く潤滑性に富んでいるので、同じような安くて一層軟らかくて吸着力が強くぬるぬるしている被膜ができれば、それは潤滑性に富んでいて油膜切れを起こさないのではないかと考えた。
【0014】
本願発明は、上述した点に鑑み、表面エネルギーを小さい粉体潤滑は表面エネルギーを小さいので摩擦係数が小さく、しかも、含油パウダーの軟らかい被膜を形成することにより流体潤滑よりも大きな摩擦荷重に耐えられる被膜を形成できるのではないかという予見に基づいて実験を重ねた結果案出したもので、例えば5%添加するだけで、シリンダー内面の油膜を保持するためクロスハッチと呼ばれる傷を含油状態の柔らかいパウダー被膜として埋めるとともにクロスハッチ以外のシリンダ内面に含油パウダーを供給して表面エネルギーが小さいしかも極めて大きな摩擦荷重にも油膜切れを起こさない超薄膜層を形成してシリンダ内面の摩擦抵抗を減らし、結果的に、潤滑油組成物に減摩性、耐摩耗性を付与しそしてそれを使用するエンジンの燃料消費量を減少させることができ、抜群の吹き上がりとシリンダ内面及びピストンリングの耐久性を実現することができるエンジンオイルを提供することを目的としている。
【0015】
本願発明の課題は、[請求項1]に記載の発明、すなわち、苛性カリとニッケルを減摩剤としてエンジンオイルに適当量入れて、ニッケルがナノ化することでなることを特徴とするエンジンオイルによって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[請求項1]に記載の発明のエンジンオイルは、苛性カリ(水酸化カリウム、KOH)を数%、ニッケル(Ni)十数%を減摩剤としてエンジンオイルに適当量入れて、ニッケルがナノ化することでなる。本願発明のエンジンオイルは、ベースオイル(植物油、鉱物油、合成油、又は前記の混成油)に種々の添加剤(減摩剤及び抗酸剤、酸処理剤、粘性維持剤、抗泡剤、流動点改良剤等)を混ぜて作られるものであり、特に、減摩剤として苛性カリとニッケルがベースオイルに対して添加され、ニッケルがナノ化してオイル中に分散している状態である。[請求項1]に記載の発明のエンジンオイルは、エンジンオイルメーカーから市販されているエンジンオイルに、苛性カリ(水酸化カリウム、KOH)を数%、ニッケル(Ni)十数%を減摩剤として適当量入れて、ニッケルがナノ化することでなるものを含む。すなわち、減摩剤として機能する有機モリブデンが含まれているエンジンオイルに、苛性カリとニッケルを減摩剤として数%〜十数%添加したもので、ニッケルがナノ化するものであっても良い。
【0017】
本願発明のエンジンオイルは、苛性カリとニッケルを添加することにより、ナノ化したニッケルの被膜がシリンダ壁面とピストンリングの双方に形成されて極圧剤として固体潤滑作用をすると考えられる。本願発明では、ナノ化したニッケルの被膜が比較的柔らかな含油被膜を形成して高負荷をかけても全くオイル切れをしない潤滑性を発揮したことを実験によって確認している。本願発明のエンジンオイルは、エンジンオイルメーカーから市販されているエンジンオイルにα酸化鉄の粉末と酸化アルミニウムの粉末とからなる混合パウダーを減摩剤として適当量入れてなるものを含むので、この場合には、当然の事ながら、有機モリブデンが添加されていることの効果として、燐酸鉄の被膜とMoSの被膜を二重に形成して極圧剤として固体潤滑作用を有するとともに、ナノ化したニッケルの被膜が極圧剤として固体潤滑作用を併有することになる。本願発明のエンジンオイルは、苛性カリとニッケルを被膜形成材料として直接添加したものである。MoS被膜の形成の過程は、有機モリブデンを入れて熱反応に依存するのであるが、ナノ化したニッケルが被膜を形成するのは化学反応によるものではなく物理的なものであり、高温・高圧のアイロン作用により直ぐに容易にシリンダ室壁面及びピストンリングにコート被膜として形成され得る。そして、ナノ化したニッケルの被膜の形成が認められかつそれが極めて軟らかくてぬるぬると潤滑性に富んでいて接着力が強く、重負荷・過酷な負荷に対して油膜切れを起こさないことが以下の実施例で説明するテストにおいて確認された。
【実施例】
【0018】
図1に示すテスト装置でエンジンオイルの潤滑性能テストを行なった。先ず、テスト装置について説明する。基盤1上に、モータ2と該モータ2に連結された減速機3とが設置され、減速機出力軸3aに厚さ15mm、直径50mmの回転円板4が固定されていて、スイッチを入れると、該回転円板4が150r.p.mで回転するようになっている。減速機ケースに固定され張り出している二つのピボット軸5,6があり、一方のピボット軸5に第一レバー7の中途が脱着自在に枢支されている。該第一レバー7には凹部7aが形成され、さらに、凹部側面に直径10mmの円形凹部7bが形成されており、長さ20mm、直径10mmの円筒体テストピース8の一端を円形凹部7bに嵌入し、他端面をボルト9で締付けて、円筒体テストピース8を取外し可能に固着しており、該円筒体テストピース8を前記回転円板4の周面に乗って密着するようになっている。円筒体テストピース8は、ピストンリングと同一の金属を加工したものでピストンリングと同一の硬さと耐磨耗性を備えている。回転円板4は、硬度が大きい鋼製の円板の周面にダイヤモンドの被膜を形成してある。減速機ケースの正面に潤滑油を貯留する容器10が磁石による吸引力で取付けられている。該容器10は、潤滑油を貯留して回転円板4の下側三分の二を覆うようになっている。減速機ケースに固定され張り出している他方のピボット軸6に第二レバー11の中途が脱着自在に枢支されている。該第二レバー11は、前記第一レバー7の張出端の下面を持上げるようにセットされる。該第二レバー11には、他端に角孔11aが設けられていて、該角孔11aにトルクを計測してダイヤルゲージに値を指示するトルクレンチ12のトルク入力を行なう角軸が嵌入されている。トルクレンチ12の柄部分に外力Fを加えると、第二レバー11が第一レバー7の張出端を持上げ、該第一レバー7に固着した円筒体テストピース8が回転円板4に押し付けられる。押し付け反力は、トルクレンチ12の角軸に伝わる。トルクレンチ12の柄部分に外力Fを大きくすると、第二レバー11と第一レバー7に揺動の変化はないがトルクレンチ12の角軸へ伝える反力が大きくなる。そこで、角軸が捩れる。この捩れ角は、円筒体テストピース8を回転円板4に押し付ける力に等しくなるように設定されている。従って、トルクレンチl2の柄部分に加える外力Fを大きくしていき、ダイヤルゲージに値を監視していれば、円筒体テストピース8を回転円板4に押し付ける力を読み取ることが出来るようになっている。
【0019】
そこで、上記のテスト装置を用いて、以下の三種類のエンジンオイルについて潤滑テストを行なった。
エンジンオイルA:トヨタSJ10W−30(トヨタ自動車株式会社の販売にかかるエンジンオイル)
エンジンオイルB:本願第一発明に係るエンジンオイル(苛性カリとニッケルを前記のトヨタSJ10W−30のエンジンオイルにそれぞれ3%と10%添加して十分に攪拌したもの)
【0020】
(1)エンジンオイルAについてのテスト結果
容器10にエンジンオイルAを入れて、モーター2を駆動し回転円板4に潤滑油を行き渡らせてから、トルクレンチ12の柄部分に外力F=150Kg(=ダイヤルゲージの指針値=円筒体テストピース8を回転円板4に押し付ける力)に保ったところ、10秒間経過後にエンジンオイルの焼けたことを示す煙が生じた。第一レバー7を取外して天地逆にして円筒体テストピース8の摩擦部分の温度を測定したところ、48.3℃であった。円筒体テストピース8の摩擦部分は、大きく磨耗していた。回転円板4の周面に被膜の形成は見られなかった。このときの室温は22℃であった。
(2)エンジンオイルBについてのテスト結果
容器10を取外し回転円板4の周面のオイルを脱脂綿で拭き取り、又、ボルト9を弛めて前記円筒体テストピース8の摩擦部分をずらしてボルト9を再び締付け、該第一レバー7をピボット軸5に枢支させ、容器10にエンジンオイルBを入れ該容器10を再び取付け、モーター2を駆動し回転円板4の周面にエンジンオイルBを行き渡らせてから、トルクレンチ12の柄部分に外力F=150Kg(=ダイヤルゲージの指針値=円筒体テストピース8を回転円板4に押し付ける力)に保ったところ、10秒経過経過してもエンジンオイルは焼けなかった。10秒経過時の円筒体テストピース8の摩擦部分の温度は、22・0℃であった。回転円板4の周面に柔らかい被膜の形成が観察された。特に反応の時間を経過しないで形成されたものであるのでナノ化したニッケルの被膜と考えられる。円筒体テストピース8の摩擦部分は全く磨耗していなかった。次に、テスト時間を10分にしたところ、エンジンオイルは焼けなかった。10分経過時の円筒体テストピース8の摩擦部分の温度は、26.0℃であった。円筒体テストピース8の摩擦部分は全く磨耗していなかった。続いて、トルクレンチ12の柄部分に外力F=4000Kg(=ダイヤルゲージの指針値=円筒体テストピース8を回転円板4に押し付ける力)に10秒間保ったところ、エンジンオイルは焼けなかった。第一レバー7を取外して天地逆にして円筒体テストピース8の摩擦部分を観察したところ、確認し難い僅かな磨耗が見られた。回転円板4の周面に柔らかい被膜の形成が観察された除去し難かった。このときの室温は15℃であった。
【0021】
上述してきたように、本願発明は、例えば苛性カリを3%、ニッケルを10%エンジンオイルに添加してできるナノ化したニッケルが分散するだけで、シリンダー内面の油膜を保持するためクロスハッチと呼ばれる傷を含油状態の柔らかいパウダー被膜(ナノ化ニッケル被膜)として埋めるとともにクロスハッチ以外のシリンダ内面に含油パウダー(ナノ化ニッケル被膜)を供給して表面エネルギーが小さいしかも極めて大きな摩擦荷重にも油膜切れを起こさない超薄膜層(ナノ化ニッケル被膜)を形成してシリンダ内面の摩擦抵抗を減らし、結果的に、潤滑油組成物に減摩性、耐摩耗性を付与しそしてそれを使用するエンジンの燃料消費量を減少させることができ、抜群の吹き上がりとシリンダ内面及びピストンリングの耐久性を実現することができるエンジンオイルを提供することが出来る。本願発明のエンジンオイルは、エンジンパワーアップ、燃費の向上、エンジン始動時の初期磨耗の抑制、摩擦抵抗の抑制、有害排気の削減、極圧性の向上、オイルの酸化防止の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【
図1】本願発明のエンジンオイルのテスト装置の正面図
【符号の説明】
1・・・基盤、2・・・モータ、3・・・減速機、3a・・・減速機出力軸、4・・・回転円板、5,6・・・ピボット軸、7・・・第一レバー、7a・・・凹部、7b・・・円形凹部、8・・・円筒体テストピース、9・・・ボルト、10・・・容器、11・・・第二レバー、11a・・・角孔、12a・・・ダイヤルゲージ、12・・・トルクレンチ、