【実施例】
【0045】
次に本発明を実施例により、具体的に説明する。
【0046】
実施例1
テトライソプロポキシチタン酸の4質量%イソプロピルアルコール溶液を25±1℃に保ちながら、これにリン酸の8.5質量%イソプロピルアルコール溶液を連続的に滴下して重合を開始し、1000±10rpmの撹拌速度で撹拌しながら30分以上掛けて滴下を続け、リン酸の滴下量(テトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対するリン酸の添加モル数)と重合生成液の粘度(テックジャム(株)製のB型粘度計KN33124B2を使用)の関係を調べた。重合生成液の液温は25±5℃に維持した。
【0047】
その結果、テトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対しリン酸の滴下量が1モルのときの重合生成液の粘度は1×10
2cPであり、リン酸の滴下量が2モルのときの重合生成液の粘度は1×10
3cPであり、リン酸の滴下量が3モルのときの重合生成液の粘度は1.0×10
4cPでありまだ撹拌可能であったが、リン酸の滴下量が4モルとなった時点で重合生成液は撹拌できなくなり、わずかに乳白色を示す透明なゼリー状に膠化した。なお、粘度は、1000cP未満では10の位で四捨五入し、1000cP以上では100の位で四捨五入して表示している(以下同様)。
【0048】
ついで、リン酸の滴下量が1モル、2モル、3モル、3.5モルおよび4モルとなった時点でリン酸の滴下を終了し、それぞれ得られた重合生成物であるテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体の、水、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコールおよびイソプロピルアルコールに対する溶解性(飽和濃度:質量%)を調べた。結果を表1に示す。添加量が4モルのとき、一部の生成重合体が架橋するので、溶解性を調べた後の溶液(100ml)をろ紙を用いアスピレータで吸引しながらろ過し、溶媒100mlで洗浄後60℃で乾燥して得られた架橋物または超高分子物の量(質量%)を調べ、括弧内に記載している。なお参考までに、出発原料であるテトライソプロポキシチタン酸(リン酸の添加量が0モル)についても溶解性(飽和濃度:質量%)を調べ、表1に併せて示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、膠化する前に重合を停止して得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体、特にリン酸の滴下量が4モル未満、たとえば0.1モル以上で4モル未満のテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体は、水、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコールおよびイソプロピルアルコールのいずれに対しても極めて大きな溶解性を示している。このことから、得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体が線状構造を採っていることが分かる。
【0051】
また、出発原料であるテトライソプロポキシチタン酸の希釈用溶媒としては、その溶解性試験の結果から、イソプロピルアルコールが最良の希釈用溶媒であることが分かる。
【0052】
実施例2
実施例1においてテトライソプロポキシチタン酸に代えて、他のテトラアルコキシチタン酸、すなわちテトラメトキシチタン酸、テトラエトキシチタン酸、またはテトラブトキシチタン酸を用いたほかは実施例1と同様にして重合を行ない、テトラアルコキシチタン酸1モル(4価)に対しリン酸の滴下量が1モル、2モル、3モルおよび4モルのときの重合生成液の粘度を実施例1と同様にして調べた。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2の結果から、アルコキシチタン酸としてテトラメトキシチタン酸、テトラエトキシチタン酸、またはテトラブトキシチタン酸を用いても、本発明の製法が実施できることが分かる。
【0055】
実施例3
テトライソプロポキシチタン酸の4質量%イソプロピルアルコール溶液に、トリメチルリン酸の8.5質量%イソプロピルアルコール溶液を、テトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対するトリメチルリン酸の添加モル数が1モルとなるように1000±10rpmの撹拌下に30分間掛けて滴下して重合を行った。滴下終了後撹拌を止め、反応時と同様に液温を常温(約25±5℃)に保ち、重合生成液の粘度を経時的に調べた。その結果、25日後に1×10
2cP、50日後に1×10
3cP、75日後に1.0×10
4cPとなり、100日後に透明膠化し、110日後に白濁した。なお、テトライソプロポキシチタン酸とトリメチルリン酸が等モルの場合白濁(または乳白色化)するが(たとえば実施例1)、テトライソプロポキシチタン酸よりもトリメチルリン酸のモル数が小さいと重合生成液は透明なままで、水およびアルコールに無限大に溶解する(たとえば後述する実施例13)。
【0056】
この結果から、上記の反応条件では、反応終了直後または75日になる前に冷却し、水またはアルコール、特にメタノール、イソプロピルアルコールまたはそれらの混合物にて稀釈し反応(重合)を停止することが好ましいことが分かる。
【0057】
実施例4
実施例3において、トリメチルリン酸に代えてトリエチルリン酸、トリイソプロピルリン酸、またはトリブチルリン酸を用いたほかは実施例3と同様にして反応を行い、実施例3と同様に25日後、50日後、および75日後の粘度を調べた。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3から、トリメチルリン酸に代えてトリエチルリン酸、トリイソプロピルリン酸、またはトリブチルリン酸を用いても、本発明の製法が実施できることが分かる。
【0060】
実施例5
テトライソプロポキシチタン酸の4質量%イソプロピルアルコール溶液を70℃に加温し、この溶液に、トリメチルリン酸の8.5質量%イソプロピルアルコール溶液(常温反応ではそのままの原液でもよい)をテトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対するトリメチルリン酸の添加モル数が0.2モルとなるように撹拌下(1000±10rpm)に一括で加えて重合を開始した。重合は撹拌下(1000±10rpm)に液温70℃を維持しながら進め、重合生成液の粘度を経時的に調べた。その結果、2時間後に1×10
2cP、4時間後に1×10
3cP、7時間後に1.0×10
4cPとなり、9時間後に透明膠化し、11時間後には白濁した。
【0061】
この結果から、上記の反応条件では、重合時間が9時間になる前に冷却し、水またはアルコールにて稀釈して反応(重合)を停止することが重要であることが分かる。これは、反応温度が高温でしかもトリメチルリン酸の添加を一括で行った場合、早い時点で分岐型の線状重合体が形成されることによるものと考えられる。
【0062】
実施例6(消臭試験)
実施例1において、リン酸の滴下量がテトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対し1モルとなった時点でリン酸の滴下を終了して得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体を純水で希釈して2質量%濃度の希釈液を調製した。
【0063】
この希釈液をポリ塩化ビニル製の白色クロス(100mm×100mm×2mm厚:関東レザー(株)製)に刷毛で塗布し、常温(約25±5℃)で8日間放置して乾燥し、試験サンプル(サンプル1)を作製した。
【0064】
別に、同じ希釈液を鏡((株)ダイソー製。100mm×100mm)に刷毛で塗布し、110℃にて1時間強制乾燥して試験サンプル(サンプル2)を作製した。
【0065】
これらのサンプル1および2と未処理の鏡((株)ダイソー製。100mm×100mm。対照)を用い、JIS R1701−2(テトラパック法)に従ってアセトアルデヒド(1000ppm)の分解率を調べた。結果を表4に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
表4から、鏡に塗布した場合、直ちにアセトアルデヒドの分解が始まり、4時間後には殆んどが分解され、また、ポリ塩化ビニルクロスに塗布した場合でも4時間後には大きく分解が進み8時間後には殆んどが分解されていることが分かる。
【0068】
実施例7(消臭試験)
実施例3で得られたテトライソプロポキシチタン酸・トリメチルリン酸重合体を純水/メタノール(1/1)で希釈して2質量%、0.2質量%、0.02質量%、0.002質量%および0.0002質量%濃度の希釈液を調製した。
【0069】
この希釈液を鏡((株)ダイソー製。100mm×100mm)に刷毛で塗布し、常温(約25±5℃)で太陽光に当たるように窓際で7日間放置して、消臭試験用のサンプルを作製した。
【0070】
これらのサンプルを用い、JIS R1701−2(テトラパック法)に従ってアセトアルデヒド(1000ppm)を用い、消臭試験を行った。結果を表5に示す。
【0071】
【表5】
【0072】
表5から、低濃度(薄い膜)の方が消臭効果が高い(消臭速度が速い)ことが分かる。なお、高濃度の場合、検知アルデヒド量が仕込み量(1000ppm)よりも高くなるが、これは重合体中のチタン酸単位に結合した有機基(メチル基やイソプロピル基など)、特にチタン酸メチル基が分解し、ホルミアルデヒドになるためと考えられる。
【0073】
また、希釈濃度が0.0002質量%の希釈液を使用しても膜を形成することができた。これは従来のチタニアではせいぜい0.5〜2質量%程度にしか希釈できなかったことを考えると、格段の効果である。
【0074】
実施例8(硬化性試験)
実施例3で得られたテトライソプロポキシチタン酸・トリメチルリン酸重合体を純水/メタノール(1/1)で希釈して2質量%、0.2質量%、0.02質量%、0.002質量%および0.0002質量%濃度の希釈液を調製した。
【0075】
この希釈液を鏡((株)ダイソー製。100mm×100mm)に刷毛で塗布し、常温(約25±5℃)で太陽光に当たるように窓際で4日間放置し、塗膜の表面硬度(鉛筆硬度)の経時変化を調べた。結果を表6に示す。
【0076】
【表6】
【0077】
表6から、低濃度の方が早く表面硬度が上がり、また、いずれも2日後には9Hという硬い表面硬度の塗膜となることが分かる。これは、膜が薄い(濃度が低い液を使用する)ほど紫外線による硬化が早く進み、また、これに加え、分子内でリン酸チタン結合によって生ずる黄リン/赤リン効果、アノード/カソード効果により脱アルキル(メチル、イソプロピル)化が生じて網目構造を形成しやすいためと考えられる。
【0078】
実施例9(腐食試験)
実施例1において、リン酸の滴下量がテトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対し1モルとなった時点でリン酸の滴下を終了して得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体を純水で希釈して2質量%濃度の希釈液を調製した。
【0079】
この希釈液を鋼板(脱脂ボンディング鋼板:50mm×50mm×0.8mm厚:新日本製鐵(株)製をバ布400番で研磨したもの)に塗布し、試験サンプル(サンプル3)を作製した。
【0080】
このサンプル3を純水、水道水(延岡市の水道水)および5ppm濃度の食塩水に浸漬し、水が着色し始めるかサンプルの表面が変色し始めた日数で評価した。
【0081】
対照として塗布処理を行わなかった鋼板(サンプル4)、および比較としてメタノール塩酸を使用して製造したテトライソプロポキシチタン酸のリン酸化合物(WO2010/140501の実施例8で製造したもの)の2質量%水希釈液を同様にして上記鋼板に刷毛で塗布して作製した比較試験サンプル(サンプル5)についても、同様に腐食試験を行った。結果を表7に示す。
【0082】
【表7】
【0083】
表7の結果から、本発明の製造方法で得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体が耐腐食性に優れることが分かる。
【0084】
実施例10(付着試験)
実施例1において、リン酸の滴下量が3.5モルとなった時点でリン酸の滴下を終了して得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体を純水で希釈して2質量%濃度の希釈液を調製した。
【0085】
この希釈液を親水性塗料(旭化成(株)のへーベル(登録商標)のアクリルシリコーン塗料)で塗装したスレート板、親油性塗料(日本ペイント(株)製のシリコーン系塗料)で塗装したスレート板および未塗装スレート板(親水性。松下・クボタ製)にそれぞれ刷毛で塗布し、常温(約25±5℃)で8日間放置して乾燥し、試験サンプル(サンプル6)を作製した。
【0086】
また、比較として、実施例9において比較試験サンプル(サンプル5)に使用した希釈液を用いたほかは同様にして親水性塗料塗装スレート板、親油性塗料塗装スレート板および未塗装スレート板に刷毛で塗装し、常温(約25±5℃)で8日間放置して乾燥し、試験サンプル(サンプル7)を作製した。
【0087】
これらの試験サンプルにおける本発明で得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体の塗膜の付着性を次の方法で調べた。結果を表8に示す。
(付着性試験)
刷毛で塗装した際の希釈液の状態および乾燥後の膜の形成状態を目視で観察する。
(評価基準)
◎:全くはじかずきわめて均一に付着し、乾燥後も均一な厚さの膜を形成する。
○:液滴を形成せず均一に付着するが、乾燥後の膜の表面にうねりが若干見られる。
△:液滴が集まって部分的な付着となり、乾燥後もムラのある膜となる。
×:大きな液滴として表面に残り、膜を形成しない。
【0088】
【表8】
【0089】
表8に示す結果から、本発明で得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体の塗膜は、親水性表面にでも親油性表面にでも均一に付着することが分かる。
【0090】
実施例11(防曇試験)
実施例1および2でそれぞれ得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体(IT−P)とテトライソプロポキシチタン酸・トリメチルリン酸重合体(IT−PM)をメタノール/水(1/1質量比)で希釈して2質量%、0.2質量%、0.02質量%、0.002質量%および0.0002質量%濃度の希釈液を調製した。
【0091】
これらの希釈液を鏡((株)ダイソー製)に刷毛で塗布し、常温(約25±5℃)で太陽光に当たるように1日間放置して、塗膜の防曇試験用のサンプルを作製した。ついで、これらのサンプルおよび未処理の鏡に息を吹きかけ、鏡の曇り方を調べた。
【0092】
その結果、IT−Pサンプルは曇らなかった。一方、IT−PMサンプルは曇り、未処理の鏡では最初曇るが直ぐに曇りが消失した。これらの結果は、上記の希釈濃度範囲で同じであった。
【0093】
これらの結果から、IT−Pは親水性の塗膜を形成するが、IT−PMは撥水性の塗膜を形成していることが分かる。
【0094】
実施例12(貯蔵安定性試験)
実施例1でテトライソプロピルチタン酸1モル(4価)にリン酸1モルを用いて得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体(IT-P)をメタノール/水(1/1質量比)、メタノールまたはイソプロピルアルコールでいずれも2質量%、0.2質量%、0.02質量%、0.002質量%および0.0002質量%濃度に希釈して希釈液を調製した。これらの希釈液をいずれも25±5℃で10日間放置した後、さらに室内(冬季5℃、夏季30℃)で長期間放置して白濁が生じるまでの月数を調べた。結果を表9に示す。
【0095】
【表9】
【0096】
表9に示すとおり、いずれの希釈液も長期の貯蔵安定性が得られている。なお、水が存在する場合(メタノール/水希釈)、経時的に架橋が生じやすく、一方、水が存在しないメタノールおよびイソプロピルアルコール希釈の場合、増粘するだけで白濁(架橋)は生じないと考えられる。また、イソプロピルアルコールに代えて水またはメタノール/水で希釈して塗布する場合、チタン酸に結合しているイソプロピル基がメチル基(または水酸基)と置き換わり、安定した5〜6員環が水により加水分解され、部分的に架橋することによるものと推察される。
【0097】
実施例13(貯蔵安定性試験)
テトライソプロポキシチタン酸の4質量%イソプロピルアルコール溶液に、リン酸の8.5質量%イソプロピルアルコール溶液を、テトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対するリン酸の添加モル数を0.2モルとなるように1000±10rpmの撹拌下に30分間掛けて滴下して重合を行い、重合生成液を得た。重合は重合温度を25±5℃に設定しこの温度を維持するために水冷しながら行った。
【0098】
リン酸の添加モル数を0.4モルおよび0.8モルに変更したほかは同様にして重合し、それぞれ重合生成液を得た。
【0099】
得られた重合生成液について、液温を常温(約25±5℃)に保ち、重合生成液の粘度を経時的に24ヵ月まで調べた。結果を表10に示す。
【0100】
【表10】
【0101】
表10の結果から、リン酸の添加モル数が小さい場合、初期重合で重合度が上がるため比較的初期の粘度は高くなるが、その後、粘度は安定し、24ヵ月を超える貯蔵(保存)安定性が得られていることが分かる。イソプロピルアルコール中で8.5質量%リン酸イソプロピルアルコール溶液を用いて反応させた場合、重合生成液は全く透明な重合体液であり、水およびメタノールに無限に溶解し透明な希釈液となる。これは、反応において架橋は起こっておらず、得られる重合体は線状であることを示している。
【0102】
実施例14(帯電防止試験)
ポリエチレン樹脂製の食品包装用袋にポリプロピレン製の化学粉砕したミクロンパウダー(平均粒径50μm:(有)山曹ミクロン製)50gを入れ、これに実施例1(リン酸の添加量がチタン酸1モル(4価)に対し1モル)で製造したテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体(IT−P6)の4質量%イソプロピルアルコール溶液を表11に示す量で加えて混ぜ合わせ、ついでアルミニウム製容器中で80℃にて1時間通気乾燥して、処理粉末を調製した。
【0103】
この処理粉末をポリエチレン製の袋に入れ、密封状態で1分間振ったのち、袋を逆さにして内容物を排出し、ポリエチレン製の袋に残った粉末の質量を測定した。
【0104】
同じ帯電防止試験を、IT−P6に代えて、実施例2と同一条件(チタン酸1モル(4価)に対して0.2モルのトリメチルリン酸)で製造したテトライソプロポキシチタン酸・トリメチルリン酸重合体(IT−PM)の4質量%イソプロピルアルコール溶液を表11に示す量で加えた場合、さらにポリプロピレンミクロンパウダーのみの未処理粉末(ブランク)について、同様にしてポリエチレン製の袋に残った粉末の質量を測定した。結果を表11に示す。この残留量が少ないほど帯電性が小さいことを示す。
【0105】
【表11】
【0106】
表11の結果から、本発明で製造したアルコキシチタン酸・リン酸重合体、特にアルコキシチタン酸・トリメチルリン酸重合体は、優れた帯電防止効果を奏することが分かる。
【0107】
実施例15(希釈後の貯蔵安定性試験)
テトライソプロポキシチタン酸の4質量%イソプロピルアルコール溶液に、リン酸の8.5質量%イソプロピルアルコール溶液を、テトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対するリン酸の添加モル数を0.5モルとなるように1000±10rpmの撹拌下に30分間掛けて滴下して重合を行い、粘度が1000cPになった時点で重合を停止して、塩素を含まない重合生成液を得た。重合は重合温度を25±5℃に設定しこの温度を維持するために水冷しながら行った。
【0108】
比較のため、テトライソプロポキシチタン酸の4質量%イソプロピルアルコール溶液に、塩酸をテトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対して1/5モル加えて均一にし、さらに水1/5モルを加えて25±5℃にて1000±10rpmの撹拌下に30分間反応させた。ついでイソプロピルトリス(ジオクチルパーホスフェート)チタネートを1モル加えて30分間撹拌し、塩素と水を含む重合生成液を得た。
【0109】
得られたそれぞれの重合生成液をイソプロピルアルコールで4質量%、2質量%、1質量%および0.5質量%に希釈した希釈液を調製した。これらの希釈液について、液温を常温(約25±5℃)に保って放置し、希釈液の粘度が1000cPに達するまでの期間(月数)を調べた。結果を表12に示す。
【0110】
【表12】
【0111】
表12の結果から、塩素を含まないテトライソプロポキシチタン酸・リン酸連鎖移動重合体の方が希釈した後でも貯蔵安定性に優れていることが分かる。
【0112】
なお、比較として製造した有塩素の重合体の場合、油状の有機溶剤には溶解するが、水およびメタノールには溶解しなかった。この点、水および全ての有機溶剤に溶解する本発明の無塩素の重合体と異なる。
【0113】
実施例16(変異原性試験)
実施例3で製造したテトライソプロポキシチタン酸・トリメチルリン酸連鎖移動重合体と、イソプロピルアルコール遊離体とトリメチルリン酸未反応物の混合物について、非エームス(Ames)試験を行ったところ、陰性であった。