特開2015-113487(P2015-113487A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-113487ろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-113487(P2015-113487A)
(43)【公開日】2015年6月22日
(54)【発明の名称】ろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20150526BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20150526BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20150526BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150526BHJP
【FI】
   C22C9/00
   C22F1/08 Y
   F28F21/08 E
   C22F1/00 606
   C22F1/00 623
   C22F1/00 630K
   C22F1/00 630M
   C22F1/00 650A
   C22F1/00 650D
   C22F1/00 650F
   C22F1/00 651A
   C22F1/00 683
   C22F1/00 685Z
   C22F1/00 686Z
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 691C
   C22F1/00 694A
   C22F1/00 694Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-256174(P2013-256174)
(22)【出願日】2013年12月11日
(71)【出願人】
【識別番号】000176822
【氏名又は名称】三菱伸銅株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 省三
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健児
(57)【要約】
【課題】ろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Pを0.004〜0.040質量%含み、残部が銅及び不可避不純物からなり、板表面における結晶配向が、{200}結晶面のX線回折強度をI{200}とし、{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とし、{420}結晶面のX線回折強度をI{420}とした場合に、I{200}/(I{220}+I{420})の数値が1.3〜2.3であり、板表面における表面粗さRaが0.1〜0.3μmであり、板表面における急峻度が0.4%以下である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pを0.004〜0.040質量%含み、残部が銅及び不可避不純物からなり、板表面における結晶配向が、{200}結晶面のX線回折強度をI{200}とし、{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とし、{420}結晶面のX線回折強度をI{420}とした場合に、I{200}/(I{220}+I{420})の数値が1.3〜2.3であり、前記板表面における表面粗さRaが0.1〜0.3μmであり、前記板表面における急峻度が0.4%以下であることを特徴とするろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板。
【請求項2】
請求項1に記載のろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板を使用して製造された熱交換器胴部。
【請求項3】
請求項1に記載のろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板を製造する方法であって、熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、仕上げ焼鈍工程とをこの順で含み、前記冷間圧延工程において、第1冷間圧延での1パス毎の平均圧延率を20〜30%、第2冷間圧延での1パス毎の平均圧延率を20〜35%で実施し、前記第1冷間圧延と前記第2冷間圧延を合わせた総冷間圧延率を95%以上で実施し、前記第1冷間圧延での総圧延率をα、前記第2冷間圧延での総圧延率をβとした場合に、1.2≦α/β≦1.9を満たすように前記冷間圧延工程を実施し、前記仕上げ焼鈍工程にて、最高到達温度をTmax(℃)、保持時間をtm(秒)、総冷間圧延率をRE(%)とした場合に、
570<{Tmax−60×tm−1/2−50×(1−RE/100)1/2}<670
を満たすように前記仕上げ焼鈍工程を実施することを特徴とするろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン脱酸銅板及びその製造方法に関し、特に詳しくは、熱交換器の胴部としての使用に適したろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湯沸器或いは給湯器において、熱交換器部のフィン材、燃焼室となる胴部(ケーシング)、水管部等には、熱伝導性に優れる材料が用いられている。この様な部位に用いられる部材に要求される特性は、熱伝導性に加え、加工性、組立時及び実使用時に加わる熱に対する耐熱性、燃焼ガスに晒されることに対する耐蝕性、長期の使用によって加わる熱疲労に対する耐久性等であり、熱伝導性及び加工性に優れたリン脱酸銅や無酸素銅が主な部材として多用されている。
リン脱酸銅や無酸素銅は、他部材とのろう付け工程で800℃以上の熱が加わるために材料が軟化し、後の組立工程や搬送時に変形する恐れがあり、ろう付け工程の加熱で結晶組織が粗大化し、また、実使用時に加わる熱疲労により、粒界割れが生じ易くなると言う欠点も指摘されており、他の部材として、特許文献1には、Niが1.5〜5.0wt%、Siが0.3〜1.0wt%、残部がCuとからなる組成であり、NiとSiの重量比(Ni/Si)が4.5〜5.5である、ろう付け工程の加熱で結晶組織が粗大化せず、粒界割れが生じ易くいCu−Ni−Si合金が開示されている。
しかし、湯沸器の燃焼室となる胴部に関しては、熱伝導性、加工性、価格面から、リン脱酸銅板を機械加工(主にプレス加工)して使用されることが多く、最近では、低コスト化、信頼性向上の為に、更に、ろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板が求められている。
【0003】
通常、リン脱酸銅板等の純銅板は、純銅のインゴットを熱間圧延或いは熱間鍛造した後、冷間圧延或いは冷間鍛造を施し、その後、歪み取り或いは再結晶化の為の熱処理を施すことにより製造され、一般的に、結晶粒径が均質であり、結晶組織中の残留応力が小さいことが要求されている。
特許文献2には、99重量%以上の銅鋳片を800℃以上に加熱後、50%以上の加工率で熱間加工した後、1℃/min以上の冷却速度で350℃以下に冷却した後、150〜350℃の温度で5〜80%の加工率で温間加工することで、スパッタリングの熱影響や繰り返し使用時の熱ひずみによる変形を生じにくくさせ、ターゲット材とのろう付け性に優れるバッキングプレート材が開示されている。
特許文献3には、純度が99.96wt%以上である純銅のインゴットを、550℃〜800℃に加熱して、総圧延率が85%以上で圧延終了時温度が500〜700℃である熱間圧延加工を施した後に、前記圧延終了時温度から200℃以下の温度になるまで200〜1000℃/minの冷却速度にて急冷することにより製造された微細で均質な残留応力の少ない加工性の良好な、特に、スパッタリング用銅ターゲット素材に適した純銅板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−296239号公報
【特許文献2】特開平10―110226号公報
【特許文献3】特開2011−132557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のリン脱酸銅板、特に熱交換器の燃焼室となる胴部に使用されるリン脱酸銅板は、ろう付け性及びプレス加工性、特に、打ち抜き後の板の平坦度が充分とは言えなかった。
本発明では、上述の欠点を改良し、ろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、Pを0.004〜0.040質量%含み、残部が銅及び不可避不純物からなり、板表面における結晶配向が、{200}結晶面のX線回折強度をI{200}とし、{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とし、{420}結晶面のX線回折強度をI{420}とした場合に、I{200}/(I{220}+I{420})の数値が1.3〜2.3であり、板表面における表面粗さRaが0.1〜0.3μmであり、板表面における急峻度が0.4%以下であるリン脱酸銅板は、優れたろう付け性及びプレス加工性を有することを見出した。
上述のリン脱酸銅板は、残留応力が小さく、その分布も均質であると考えられ、プレス打ち抜き加工後の板の平坦度が良好であり、連続炉内で800℃程度の高温下でろう付けする際にも、加熱による板の反りの方向性も一定化しており、また、表面粗さRaが0.1〜0.3μmであるため、ろう材の流れの方向性が安定し、他材との優れたろう付け性を発揮する。
【0007】
また、本発明者らは、鋭意検討の結果、溶解鋳造されたPを0.004〜0.040質量%含み、残部が銅及び不可避不純物からなるリン脱酸銅を、熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、仕上げ焼鈍工程とをこの順で含む工程にて製造するとともに、冷間圧延工程において、第1冷間圧延での1パス毎の平均圧延率を20〜30%、第2冷間圧延での1パス毎の平均圧延率を20〜35%で実施し、第1冷間圧延と第2冷間圧延を合わせた総圧延率を95%以上で実施し、第1冷間圧延での総圧延率をα、第2冷間圧延での総圧延率をβとした場合に、1.2≦α/β≦1.9を満たすように冷間圧延工程を実施し、仕上げ焼鈍工程にて、最高到達温度をTmax(℃)、保持時間をtm(秒)、総冷間圧延率をRE(%)とした場合に、
570<{Tmax−60×tm−1/2−50×(1−RE/100)1/2}<670
を満たすように仕上げ焼鈍を実施することにより、上述のリン脱酸銅板が最適に製造されることも見出した。
【0008】
即ち、本発明の優れたろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板は、Pを0.004〜0.040質量%含み、残部が銅及び不可避不純物からなり、板表面における結晶配向が、{200}結晶面のX線回折強度をI{200}とし、{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とし、{420}結晶面のX線回折強度をI{420}とした場合に、I{200}/(I{220}+I{420})の数値が1.3〜2.3であり、前記板表面における表面粗さRaが0.1〜0.3μmであり、板表面における急峻度が0.4%以下であることを特徴とする。
更に、本発明の熱交換器胴部は、上述のろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板を使用して製造されたことを特徴とする。
【0009】
更に、本発明のろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板の製造方法は、熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、仕上げ焼鈍工程とをこの順で含み、前記冷間圧延工程において、第1冷間圧延での1パス毎の平均圧延率を20〜30%、第2冷間圧延での1パス毎の平均圧延率を20〜35%で実施し、前記第1冷間圧延と前記第2冷間圧延を合わせた総圧延率を95%以上で実施し、前記第1冷間圧延での総圧延率をα、前記第2冷間圧延での総圧延率をβとした場合に、1.2≦α/β≦1.9を満たすように前記冷間圧延工程を実施し、前記仕上げ焼鈍工程にて、最高到達温度をTmax(℃)、保持時間をtm(秒)、総冷間圧延率をRE(%)とした場合に、
570<{Tmax−60×tm−1/2−50×(1−RE/100)1/2}<670
を満たすように前記仕上げ焼鈍工程を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ろう付け性及びプレス加工性に優れ、特に熱交換器の胴部としての使用に適したリン脱酸銅板及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のろう付け性及びプレス加工性に優れたリン脱酸銅板は、Pを0.004〜0.040質量%含み、残部が銅及び不可避不純物からなり、板表面における結晶配向が、{200}結晶面のX線回折強度をI{200}とし、{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とし、{420}結晶面のX線回折強度をI{420}とした場合に、I{200}/(I{220}+I{420})の数値が1.3〜2.3であり、板表面における表面粗さRaが0.1〜0.3μmであり、板表面における急峻度が0.4%以下である。
【0012】
リン脱酸銅は、タフピッチ銅の持つ水素脆性の対策を実施した純銅であり、リンで脱酸を行い、タフピッチに比べて導電率は劣るが、リンが残留しているために酸素が除去されており、加熱しても水素と反応して内側から水蒸気が生成されないので、水素脆性を起こさず、耐熱性もやや向上し、180〜200℃で軟化する。
本発明のリン脱酸銅板の組成は、Pを0.004〜0.040質量%含み、残部が銅及び不可避不純物からなり、JIS C1201、JIS C1220、JIS C1221の何れかに該当する。
【0013】
本発明のリン脱酸銅板は、板表面における結晶配向が、{200}結晶面のX線回折強度をI{200}とし、{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とし、{420}結晶面のX線回折強度をI{420}とした場合に、I{200}/(I{220}+I{420})の数値が1.3〜2.3であることにより、残留応力が小さく、その分布も均質化され、プレス打ち抜き加工性が向上し、更に、連続炉内で800℃程度の高温下でろう付けする際の熱による板の反りの方向性が一定化され、ろう付け性が向上する。
残留応力は、外力や熱勾配のない状態で素材の内部に存在している応力であり、熱処理や冷間加工などによる不均一な変形の結果として発生する。残留応力が残っていると、平坦な条や板を得ることが困難となり、平坦性が損なわれるとプレス加工したときの寸法精度に悪影響を与える。一般的には、圧延材の内部に広く残留応力が分布しており、圧延材の場合はごく表層付近の残留応力の勾配が高いことが多い。
I{200}/(I{220}+I{420})の数値が1.3未満、或いは、2.3を超えると、プレス打ち抜き加工性及びろう付け性の低下をきたす。
【0014】
また、本発明のリン脱酸銅板は、残留応力が小さく、その分布も均質なので、急峻度が0.4%以下であり、プレス打ち抜き加工性が向上し、更に、連続炉内で800℃程度の高温下でろう付けする際の熱による板の反りの方向性が一定化し、ろう付け性が向上する。
急峻度が0.4%以上であると、プレス打ち抜き加工性及びろう付け性の低下をきたす。
また、本発明のリン脱酸銅板は、表面粗さRaが0.1〜0.3μmであるので、ろう付け時のろう材の流れの方向性が安定し、優れたろう付け性を発揮することができる。
表面粗さRaが0.1μm未満、或いは、0.3μmを超えると、ろう付け性の低下をきたす。
本発明のリン脱酸銅板とろう付けされる他部材は、材質が金属材料であれば特に限定されないが、種々の形状の銅或いは銅合金部材であることが好ましい。
本発明のリン脱酸銅板は、プレス加工され、種々の形状の他部材とろう付される熱交換器胴部として使用されることが特に好ましく、これにより、熱交換器胴部の低コスト化及び信頼性向上をはかることができる。
【0015】
本発明のリン脱酸銅板は、溶解鋳造されたPを0.004〜0.040質量%含み、残部が銅及び不可避不純物からなるリン脱酸銅を、熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、仕上げ焼鈍工程とをこの順で含む工程にて製造するとともに、冷間圧延工程において、第1冷間圧延での1パス毎の平均圧延率を20〜30%、第2冷間圧延での1パス毎の平均圧延率を20〜35%で実施し、第1冷間圧延と第2冷間圧延を合わせた総圧延率を95%以上で実施し、第1冷間圧延での総圧延率をα、第2冷間圧延での総圧延率をβとした場合に、1.2≦α/β≦1.9を満たすように冷間圧延工程を実施し、仕上げ焼鈍工程にて、最高到達温度をTmax(℃)、保持時間をtm(秒)、総冷間圧延率をRE(%)とした場合に、
570<{Tmax−60×tm−1/2−50×(1−RE/100)1/2}<670
を満たすように仕上げ焼鈍を実施することにより、最適に製造される。
【0016】
冷間圧延工程での上記の諸圧延条件を規程範囲値内で実施することにより、板表面における結晶配向が、{200}結晶面のX線回折強度をI{200}とし、{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とし、{420}結晶面のX線回折強度をI{420}とした場合に、I{200}/(I{220}+I{420})の数値を1.3〜2.3とする素地を作り、仕上げ焼鈍工程での焼鈍を、最高到達温度:Tmax(℃)、保持時間:tm(秒)、総冷間圧延率:RE(%)との関係を、上式の範囲値内にて実施することにより、板表面における結晶配向が、{200}結晶面のX線回折強度をI{200}とし、{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とし、{420}結晶面のX線回折強度をI{420}とした場合に、I{200}/(I{220}+I{420})の数値が1.3〜2.3となり、板表面における表面粗さRaが0.1〜0.3μmとなり、急峻度が0.4%以下となる。
冷間圧延工程及び焼鈍工程での上記の諸条件が、本発明の規定範囲値から外れると、残留応力が大きくなり分布も不均質となり、ろう付け性及びプレス加工性に優れ、特に熱交換器の胴部としての使用に適した本発明のリン脱酸銅板を製造することはできない。
また、本発明の製造方法では、最終の調質を圧延ではなく焼鈍で実施し、更に、冷間圧延を2段階で実施し、中途に焼鈍を入れないので、工程が簡略化され製造コスト削減にも寄与する。
【実施例】
【0017】
JIS C1220のリン脱酸銅の鋳塊を900℃になるまで加熱し、板厚が12.0mmになるまで熱間圧延した後、面削して11.2mmの厚さの板とし、次に、表1に示す第1冷間圧延での1パス毎の平均圧延率、第2冷間圧延での1パス毎の平均圧延率、第1冷間圧延と前記第2冷間圧延を合わせた総圧延率(α/β)にて冷間圧延工程を実施した後に、更に、表1に示す焼鈍指数にて仕上げ焼鈍工程を実施し、実施例1〜10、比較例1〜10のリン脱酸銅板を作製した。
ここで、焼鈍指数とは、最高到達温度をTmax(℃)、保持時間をtm(秒)、総冷間圧延率をRE(%)とした場合に、
max−60×tm−1/2−50×(1−RE/100)1/2
なる式から算出された値である。
【0018】
【表1】
【0019】
これらのリン脱酸銅板につき、板表面における、{200}結晶面のX線回折強度、{220}結晶面のX線回折強度、{420}結晶面のX線回折強度を測定し、I{200}/(I{220}+I{420})の数値を求めた。
X線回折強度の測定は、表面の各結晶面の回折強度分布を後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡(日立製型式:SU−70)によるEBSD(株式会社TSLソリューションズ製)法にて測定し、{200}面、{220}面、{420}面の各々のX線回折強度から、I{200}/(I{220}+I{420})を算出した。測定制御ソフトは、OIM Data Collection Ver.5(株式会社TSLソリューションズ製)を使用した。
測定結果を表2に示す。
【0020】
また、これらのリン脱酸銅板につき、板表面における表面粗さRaを測定した。
表面粗さはJIS B 0601に基づき、試験材表面の算術平均粗さ(Ra)を測定した。測定距離は4mmして、圧延方向に対して垂直方向に測定した。
測定結果を表2に示す。
また、これらのリン脱酸銅板につき、急峻度を測定した。
急峻度は、面変位・うねり・急峻度測定装置(FAシステムズ製型式:XY−23705l)を使用し、以下の算定式で算出した。
急峻度={(耳波または中伸びの高さ)/(耳波または中伸びのピッチ)}×100
測定結果を表2に示す。
【0021】
【表2】
【0022】
次に、これらのリン脱酸銅板につき、プレス加工性を評価した。
残留応力は外力や熱勾配のない状態で素材の内部に存在している応力であり、残留応力が残っていると、平坦な条や板を得ることが困難となり、平坦性が損なわれるとプレス加工したときの寸法精度に悪影響を与える。
そこで、プレス加工性は、表面から1μmの深さにおける残留応力の絶対値にて評価することとした。この残留応力の絶対値は以下のようにして測定した。
先ず、圧延方向を長手方向とした幅20mm×長さ200mmの試験片を切り出し、試験片の片面の表層をエッチング液を用いて徐々に除去しながら、各深さにおける残部試験片の長さ方向(x)及び幅方向(y)の曲率φx、φyを測定した。これを板厚が半分になるまで繰り返し実施した。曲率は試験片の反りを測定することで求めた。試験片の反りを円周の一部と考え、この円に相当する半径の逆数を曲率とした(曲率は弦の長さと高さを測定すれば数学的に容易に求められる)。その後、エッチング深さaと曲率の関係を図にプロットし、以下の式によって表面からa=1μmのエッチング深さにおける圧延方向(x)の残留応力の絶対値σx(a)を測定した。
【0023】
【数1】
【0024】
測定結果を表3に示す。
次に、これらのリン脱酸銅板にプレス打抜き加工を施し、長100mm×幅50mmの形状のプレス打抜き加工後のリン脱酸銅板を作製し、これらのプレス打抜き加工後のリン脱酸銅板につき、ろう付け性を次の(a)、(b)の試験により評価した。
(a)ろう付け性試験方法
リン脱酸銅板上にろう材としてりん銅ろう(BCUP2)を0.04g(±0.005g)、Bad Way方向にろうが流れるよう載せた。リン脱酸銅板に2.9°の傾斜をつけて水素雰囲気の連続炉中に設置し、連続炉中を20分間通過させた後、リン脱酸銅板上で流れたBCUP2の距離を測った。連続炉内は水素雰囲気で、設定温度は850℃、最高到達温度は825℃であり、800℃以上での保持時間は8分30秒であった。
測定結果を表3に示す。
(b)ろう付け性試験方法。
リン脱酸銅板に対してアセトンによる脱脂を行い、5%HSO で酸洗後、In浴中に5分間浸漬し、ろうが均一に濡れるかどうか目視にて観察し、均一に濡れたものを○、均一に濡れなかったものを×とした。
測定結果を表3に示す。
また、これらのプレス加工後のリン脱酸銅板につき、ろう付け温度時の反り形状を次の方法により評価した。
リン脱酸銅板に傾斜をつけず、BCUP2を使用しないで、(a)と同様の条件にて連続炉内で加熱保持した後に、リン脱酸銅板を定盤上に反り上がった両端が上向きになるように置き、各角部の高さをハイトゲージで測定した。各角部のそり上がった高さの最大と最小の差が0.1mmまでのものを○、0.1mmを超え0.3mmまでのものを△、0.3mm超えたものを×とした。
測定結果を表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
これらの結果より、本発明の製造方法により製造された実施例のリン脱酸銅板は、比較例のリン脱酸銅板と比べ、プレス加工性、ろう付け性に優れており、加熱後のそりも少ないことがわかる。
【0027】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。