特開2015-113551(P2015-113551A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 村田機械株式会社の特許一覧

特開2015-113551ドラフトローラの内側筒体、ドラフトローラのローラ部、ドラフトローラ、ドラフト装置、及び空気紡績機
<>
  • 特開2015113551-ドラフトローラの内側筒体、ドラフトローラのローラ部、ドラフトローラ、ドラフト装置、及び空気紡績機 図000003
  • 特開2015113551-ドラフトローラの内側筒体、ドラフトローラのローラ部、ドラフトローラ、ドラフト装置、及び空気紡績機 図000004
  • 特開2015113551-ドラフトローラの内側筒体、ドラフトローラのローラ部、ドラフトローラ、ドラフト装置、及び空気紡績機 図000005
  • 特開2015113551-ドラフトローラの内側筒体、ドラフトローラのローラ部、ドラフトローラ、ドラフト装置、及び空気紡績機 図000006
  • 特開2015113551-ドラフトローラの内側筒体、ドラフトローラのローラ部、ドラフトローラ、ドラフト装置、及び空気紡績機 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-113551(P2015-113551A)
(43)【公開日】2015年6月22日
(54)【発明の名称】ドラフトローラの内側筒体、ドラフトローラのローラ部、ドラフトローラ、ドラフト装置、及び空気紡績機
(51)【国際特許分類】
   D01H 5/74 20060101AFI20150526BHJP
【FI】
   D01H5/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-258568(P2013-258568)
(22)【出願日】2013年12月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】坂元 直孝
【テーマコード(参考)】
4L056
【Fターム(参考)】
4L056BC22
4L056BC25
4L056BC38
4L056FA01
4L056FB07
(57)【要約】
【課題】ドラフトローラの交換性を損なうことなく、フレッチングを防止できる構成を提供する。
【解決手段】フロントトップローラは、ベアリング部を介して回転自在に支持されるローラ部を備えている。ローラ部は、ゴム性の外側筒体38と、当該外側筒体38の内側に配置される内側筒体40を備える。内側筒体40の内周面には、コーティング53が施されている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフトローラにおいてベアリングを介して回転自在に支持されるローラ部の、ゴム製の外側筒体の内側に配置される内側筒体であって、
内周面の少なくとも一部にコーティングが施されていることを特徴とする内側筒体。
【請求項2】
請求項1に記載の内側筒体であって、
前記コーティングを施した部分は、当該コーティングをしていない状態の内側筒体の内周面よりも摩擦係数が低下していることを特徴とする内側筒体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内側筒体であって、
当該内側筒体は金属製であり、
前記コーティングは非金属色を有することを特徴とする内側筒体。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の内側筒体であって、
前記コーティングは、二硫化モリブデン、グラファイト、フッ素化合物、の少なくとも何れかであることを特徴とする内側筒体。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の内側筒体であって、
当該内側筒体の外周面にも、前記コーティングが施されていることを特徴とする内側筒体。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の内側筒体と、
前記内側筒体の外側に配置されたゴム製の外側筒体と、
を備えることを特徴とするローラ部。
【請求項7】
請求項6に記載のローラ部と、
当該ローラ部を回転自在に支持するベアリングを有するアーバーと、
を備えることを特徴とするドラフトローラ。
【請求項8】
筒状のローラ部と、
前記ローラ部を回転可能に支持するアーバーと、
を備え、
前記アーバーの外周面のうち、少なくとも前記ローラ部の内周面に接触する部分にコーティングが施されていることを特徴とするドラフトローラ。
【請求項9】
請求項8に記載のドラフトローラであって、
前記コーティングを施した部分は、当該コーティングをしていない状態のアーバーの外周面よりも摩擦係数が低下していることを特徴とするドラフトローラ。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のドラフトローラであって、
前記アーバーは、前記ローラ部の内周面に接触する金属製の外周面を有し、
前記コーティングは非金属色を有することを特徴とするドラフトローラ。
【請求項11】
請求項8から10までの何れか一項に記載のドラフトローラであって、
前記コーティングは、二硫化モリブデン、グラファイト、フッ素化合物、の少なくとも何れかであることを特徴とするドラフトローラ。
【請求項12】
請求項7から11までの何れか一項に記載のドラフトローラと、
前記ドラフトローラに対向するローラと、からなるローラ対を備えることを特徴とするドラフト装置。
【請求項13】
請求項12に記載のドラフト装置と、
前記ドラフト装置から供給される繊維束に対して旋回空気流によって撚りを加えて紡績糸を生成する空気式の紡績装置と、
前記紡績糸を巻き取る巻取装置と、を備えることを特徴とする空気紡績機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、紡績機のドラフト装置が備えるドラフトローラの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
紡績機は、糸の原料であるスライバを、紡績に適した状態まで引き伸ばすドラフト装置を備えている。このドラフト装置は、複数のドラフトローラを備えている。前記ドラフト装置は、前記スライバをドラフトローラで挟み込んで、当該ドラフトローラを回転させることにより、前記スライバを、所定の太さの繊維束になるまで引き伸ばす。
【0003】
ドラフトローラは、筒状のローラ部と、当該ローラ部を回転自在に支持するベアリングを有する軸部(アーバー)と、から構成される。ドラフトローラのローラ部は、その外周面がゴム製とされ、その内周側には金属製の筒体(スリーブ)が配置される。このような構成は、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1では、ローラ部の筒体(ローラ筒体12)と、軸部(シャフト10)との間に、ベアリング(ベアリング20,21)が配置されている。そして、ローラ部の筒体を、ベアリングに外装することで、当該ローラ部が軸部に対して回転自在に支持されている。
【0004】
ローラ部の外周はゴム製であるため、使用によって摩耗する。このため、ローラ部を簡単に交換できることが好ましい。そこで従来のドラフトローラでは、ローラ部の筒体と、ベアリングと、の間に、若干の隙間が設けられている。これにより、摩耗したローラ部を、ベアリングから簡単に引き抜いて取り外すことができる。また、新しい(摩耗していない)ローラ部を、ベアリングに差し込むことにより、簡単に取り付けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−247036号公報
【特許文献2】特表2012−508828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、紡績装置の高速化に伴い、ドラフトローラの回転速度も上昇してきている。このため、ローラ部の筒体と、アーバーのベアリングと、の間でフレッチング(摩耗)が生じるようになってきている。
【0007】
フレッチングの発生を防止するために、ローラ部の筒体と、アーバーのベアリングと、の間の隙間を無くすことが考えられるが、ローラ部を簡単に交換することができなくなってしまう。
【0008】
本発明の目的は、ドラフトローラの交換性を損なうことなく、フレッチングを防止できる構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本願発明の第1の観点によれば、ドラフトローラにおいてベアリングを介して回転自在に支持されるローラ部の、ゴム製の外側筒体の内側に配置される内側筒体が提供される。この内側筒体は、内周面の少なくとも一部にコーティングが施されている。
【0010】
このように、内側筒体の内周面にコーティングを施すことにより、当該内側筒体とベアリングの間のフレッチングを防止できる。
【0011】
上記の内側筒体において、前記コーティングを施した部分は、当該コーティングをしていない状態の内側筒体の内周面よりも摩擦係数が低下していることが好ましい。
【0012】
即ち、上記コーティングは、滑り性を有するものとする。これにより、内側筒体とベアリングとの間の摩擦を低減できるので、内側筒体とベアリングとの間のフレッチングを防止できる。
【0013】
上記の内側筒体は金属製であり、前記コーティングは非金属色を有することが好ましい。
【0014】
即ち、コーティング剤を非金属とすれば、コーティングした箇所は、内側筒体の元の色(金属光沢)とは異なる色を呈する。これによれば、コーティングの剥がれの有無などを、目視で簡単に確認できる。
【0015】
上記の内側筒体において、前記コーティングは、二硫化モリブデン、グラファイト、フッ素化合物、の少なくとも何れかであることが好ましい。
【0016】
これにより、滑り性及び耐久性が良好なコーティングを形成できるので、内側筒体とベアリングの間のフレッチングを確実に防止できる。
【0017】
上記の内側筒体の外周面にも、前記コーティングを施すことができる。
【0018】
内側筒体の外周面にもコーティングを施すことで、当該内側筒体から外側筒体を容易に取り外すことができる。これにより、内側筒体を再利用できる。また、内側筒体の全部にコーティングを施せば良いので、コーティングの際にマスキング等が不要となり、コーティングの作業が簡単になる。
【0019】
本願発明の第2の観点によれば、上記の内側筒体と、前記内側筒体の外側に配置されたゴム製の外側筒体と、を備えるローラ部が提供される。
【0020】
このように、内側筒体の内周面にコーティングを施したローラ部により、フレッチングを防止できる。
【0021】
本願発明の第3の観点によれば、上記のローラ部と、当該ローラ部を回転自在に支持するベアリングを有するアーバーと、を備えるドラフトローラが提供される。
【0022】
このドラフトローラにより、ローラ部の内側筒体と、ベアリングと、の間のフレッチングを防止できる。
【0023】
本発明の別の観点によれば、筒状のローラ部と、前記ローラ部を回転可能に支持するアーバーと、を備えるドラフトローラの以下の構成が提供される。即ち、前記アーバーの外周面のうち、少なくとも前記ローラ部の内周面に接触する部分にコーティングが施されている。
【0024】
このように、ローラ部を支持するアーバー側にコーティングを施すこともできる。これにより、アーバーとローラ部の間のフレッチングを防止できる。
【0025】
上記のドラフトローラにおいて、前記コーティングを施した部分は、当該コーティングをしていない状態のアーバーの外周面よりも摩擦係数が低下していることが好ましい。
【0026】
また、上記のドラフトローラにおいて、前記アーバーは、前記ローラ部の内周面に接触する金属製の外周面を有し、前記コーティングは非金属色を有することが好ましい。
【0027】
また、上記のドラフトローラにおいて、前記コーティングは、二硫化モリブデン、グラファイト、フッ素化合物、の少なくとも何れかであることが好ましい。
【0028】
本願発明の更に別の観点によれば、上記のドラフトローラと、当該ドラフトローラに対向するローラと、からなるローラ対を備えるドラフト装置が提供される。
【0029】
このドラフト装置によれば、ドラフトローラのフレッチングを防止できるので、当該ドラフトローラのローラ部をスムーズかつ均一に回転させることができる。これにより、当該ドラフト装置で生成される繊維束の品質を向上させることができる。
【0030】
また、本願発明の観点によれば、上記のドラフト装置と、前記ドラフト装置から供給される繊維束に対して旋回空気流によって撚りを加えて紡績糸を生成する空気式の紡績装置と、前記紡績糸を巻き取る巻取装置と、を備える空気紡績機が提供される。
【0031】
空気紡績機は紡績速度が速いため、ドラフトローラの回転速度も速く、当該ドラフトローラのフレッチングが生じ易い。そこで、空気紡績機に本発明の構成を採用することにより、ドラフトローラのフレッチングを防止する効果を好適に発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態に係る精紡機の全体的な構成を示す正面図。
図2】紡績ユニットの側面図。
図3】フロントトップローラの平面断面図。
図4】アーバーとローラ部を分離した状態の平面断面図。
図5】内側筒体から外側筒体及び中間筒体を分離した状態の平面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本発明の一実施形態に係る精紡機(空気紡績機)について、図面を参照して説明する。図1に示す紡績機としての精紡機1は、並設された多数の紡績ユニット2と、糸継台車3を備えている。
【0034】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に配置された、ドラフト装置7と、紡績装置(紡績部)9と、糸貯留装置12と、巻取装置13と、を備えている。本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での繊維束及び糸の走行方向における上流及び下流を意味する。各紡績ユニット2は、ドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績装置9で紡績して紡績糸10を生成し、この紡績糸10を巻取装置13で巻き取ってパッケージ45を形成する。
【0035】
ドラフト装置7は精紡機1の上端近傍に設けられている。ドラフト装置7は、複数のドラフトローラ16,17,19,20,66,67,69,70を備えている。
【0036】
ドラフトローラ66,67,69,70は金属製のローラであり、これらをボトムローラと呼ぶ。各ボトムローラ66,67,69,70は、図略の駆動源によって、その軸線を中心に回転駆動される。本実施形態のドラフト装置7は4つのボトムローラを備えており、上流側から順に、バックボトムローラ66、サードボトムローラ67、ゴム製のエプロンベルト68を装架したミドルボトムローラ69、及びフロントボトムローラ70となっている。
【0037】
ドラフトローラ16,17,19,20をトップローラと呼ぶ。本実施形態のドラフト装置7は4つのトップローラを備えており、上流側から順に、バックトップローラ16、サードトップローラ17、エプロンベルト18を装架したミドルトップローラ19、及びフロントトップローラ20となっている。
【0038】
図3にフロントトップローラ20の構成を示す。なお、他のトップローラ16,17,19も同様の構成である。図3に示すように、トップローラ20は、筒状のローラ部26と、アーバー(軸部)27と、から構成されている。ローラ部26の外周面はゴム製である。アーバー27は、ローラ部26を回転自在に支持するベアリング部28を有している。
【0039】
ボトムローラとトップローラは、対になって設けられている。即ち、本実施形態のドラフト装置7は、ドラフトローラ16,66からなるバックローラ対、ドラフトローラ17,67からなるサードローラ対、ドラフトローラ19,69からなるミドルローラ対、及びドラフトローラ20,70からなるフロントローラ対、の4つのドラフトローラ対を備えた、いわゆる4線式のドラフト装置として構成されている。
【0040】
各ドラフトローラ対において、トップローラとボトムローラは対向するように配置されている。各トップローラ16,17,19,20は、対向するボトムローラ66,67,69,70よりも装置正面側に配置されている。また、ドラフト装置7は、各トップローラ16,17,19,20を、それに対向するボトムローラ66,67,69,70に向かって付勢する付勢部(図略)を有している。これにより、トップローラ16,17,19,20のローラ部26の外周面が,ボトムローラ66,67,69,70の外周面にそれぞれ押し付けられる。ボトムローラ66,67,69,70を回転駆動することにより、これに対向して接触するトップローラ16,17,19,20のローラ部26が従動回転する。
【0041】
以上のように構成されたドラフト装置7は、スライバ15を、回転するドラフトローラ対によって挟み込んで下流側に向けて搬送する。ドラフト装置7においては、下流側のドラフトローラ対ほど回転速度が速くなるように構成されている。このため、スライバ15は、ドラフトローラ対によって搬送される間に引き伸ばされていき、所定の幅の繊維束8となる。
【0042】
フロントローラ対のすぐ下流側には、紡績装置9が配置されている。ドラフト装置7からの繊維束8は、紡績装置9に供給される。紡績装置9は、ドラフト装置7から供給された繊維束8に撚りを加えて、紡績糸10を生成する。本実施形態では、旋回空気流を利用して繊維束8に撚りを与える空気式の紡績装置を採用している。
【0043】
紡績装置9の下流側には、巻取装置13が配置されている。巻取装置13は、支軸73まわりに揺動可能に支持されたクレードルアーム71を備える。このクレードルアーム71は、紡績糸10を巻回するためのボビン48を回転可能に支持することができる。
【0044】
前記巻取装置13は、巻取ドラム72と、トラバース装置75と、を備えている。巻取ドラム72は、前記ボビン48の外周面又はボビン48に紡績糸10を巻回して形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できる。トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。巻取装置13は、トラバースガイド76を図略の駆動装置によって往復動させながら巻取ドラム72を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を綾振りしつつ巻き取る。
【0045】
紡績装置9と巻取装置13との間には、糸貯留装置12が設けられている。糸貯留装置12は、図2に示すように、糸貯留ローラ14と、当該糸貯留ローラ14を回転駆動する電動モータ25と、を備えている。
【0046】
糸貯留ローラ14は、その外周面に一定量の紡績糸10を巻き付けて一時的に貯留することができる。このように、糸貯留装置12に紡績糸10を一時的に貯留することで、当該糸貯留装置12を一種のバッファとして機能させることができる。これにより、紡績装置9における紡績速度と、巻取装置13における巻取速度と、が何らかの理由により一致しない場合の不具合(例えば紡績糸10の弛みなど)を解消することができる。
【0047】
紡績装置9と糸貯留装置12との間の位置には、ヤーンクリアラ(糸品質測定器)52が設けられている。紡績装置9で紡出された紡績糸10は、糸貯留装置12で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ52を通過する。ヤーンクリアラ52は、走行する紡績糸10を図略の光学式センサによって監視し、紡績糸10の糸欠陥(紡績糸10の太さなどに異常がある箇所)を検出した場合に、糸欠陥検出信号を図示しないユニットコントローラへ送信する。ヤーンクリアラ52は、静電容量式センサを備えていてもよく、糸欠陥として紡績糸10に含まれる異物の有無を検出してもよい。
【0048】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、糸捕捉部材44,46を備えている。糸継台車3は、ある紡績ユニット2で糸切れ又は糸切断が発生すると、当該紡績ユニット2まで走行する。そして、糸継台車3は、切れた糸の糸端を糸捕捉部材44,46によって吸引捕捉するとともに、当該糸端をスプライサ43に案内する。スプライサ43は、案内された糸端同士の接続(糸継ぎ)を行う。
【0049】
次に、ドラフト装置7が備えるフロントトップローラ20について詳しく説明する。
【0050】
前述のように、フロントトップローラ20は、ローラ部26と、アーバー27を備えている。
【0051】
図4に示すように、アーバー27は、軸部材29と、ベアリング部28とを備えている。ベアリング部28は、軸部材29の端部に配置されている。なお、本実施形態のアーバー27では、その両端にベアリング部28が配置されている。即ち、アーバー27は、2つのベアリング部28を有している。図3では、一方のベアリング部28のみを示している。
【0052】
図4に示すように、ベアリング部28は、2つのベアリング(軸受け)30,31と、スペーサ32を備えている。ベアリング30と31のそれぞれは、外輪と内輪の間に転動体を備えた周知の構成である。なお、ベアリング30と31のそれぞれの外輪、内輪、及び転動体は、金属製である。スペーサ32は、ベアリング30の外輪とベアリング31の外輪との間に配置されている。
【0053】
軸部材29の端面には、ボルト51によってワッシャー33が固定されている。軸部材29には、前記ワッシャー33に対向する受圧面34が形成されている。ベアリング30の内輪及びベアリング31の内輪は、受圧面34とワッシャー33との間に配置されている。また、ベアリング30の内輪とベアリング31の内輪の間には、付勢部材35(具体的には圧縮コイルばね)が配置されている。当該付勢部材35の付勢力により、ベアリング30の内輪が、受圧面34に押圧され、ベアリング31の内輪が、ワッシャー33に押圧されるようになっている。以上の構成で、ベアリング30の内輪とベアリング31の内輪が、軸部材29に対して固定されている。
【0054】
スペーサ32は、略筒状の金属製の部材であり、その外径は、ベアリング30と31それぞれの外輪の外径と略同一となっている。これにより、図4に示すように、ベアリング30の外輪の外周面と、ベアリング31の外輪の外周面と、スペーサ32の外周面と、が略面一になっている。そこで、ベアリング30の外輪の外周面と,ベアリング31の外輪の外周面と、スペーサ32の外周面と、をまとめて「ベアリング部28の外周面」と呼ぶことがある。なお、ベアリング30の外輪,ベアリング31の外輪、及びスペーサ32は金属製であるから、ベアリング部28の外周面は金属製であると言うことができる。また、本実施形態において、ベアリング部28の外周面には、コーティング(後述)は施されていない。スペーサ32は、ベアリング30の外輪と,ベアリング31の外輪と一体的に回転する。また当該スペーサ32の外周には、Cリング37が嵌着されている。
【0055】
ローラ部26は、全体的に筒状に形成されており、同心状に配置された複数の層から構成されている。図4に示すように、本実施形態のローラ部26は、外周側から順に、外側筒体38、中間筒体39、及び内側筒体40を備えている。
【0056】
外側筒体38はゴム製であり、略筒状に形成されている。外側筒体38は、スライバ15に対して直接的に接触する部分である。
【0057】
内側筒体40は、外側筒体38の内周側に配置されている。内側筒体40は金属製(本実施形態の場合は機械構造用炭素鋼)であり、略筒状に形成されている。
【0058】
内側筒体40の長さ(軸方向の寸法)は、外側筒体38の長さよりも長く形成されている。従って、内側筒体40は、外側筒体38の内周に位置している部分と、外側筒体38の端面から軸方向に突出している部分と、を有している。図4に示すように、内側筒体40のうち、外側筒体38の内周に位置している部分を、内周部41と呼び、外側筒体38の端面から軸方向に突出している部分を、突出部42と呼ぶ。なお、図3に示すように、軸部材29の端面とは反対側に向けて突出部42が突出するように、ローラ部26が配置される。
【0059】
ローラ部26において、内側筒体40の内周部41と、外側筒体38と、の間には、略筒状の中間筒体39が配置されている。中間筒体39は金属製(本実施形態の場合はアルミニウム製)であり、略筒状に形成されている。なお、中間筒体39は、外側筒体38の内周面に対して適宜の方法で接着されている。また、中間筒体39は、内側筒体40の内周部41の外周面に嵌着している。
【0060】
なお、本明細書において「筒状」又は「筒体」と言う場合、厳密な円筒体形状に限定されず、内周面及び外周面を有する略回転体状の形状を広く含む概念とする。従って、外側筒体38、中間筒体39、又は内側筒体40等の外周面及び/又は内周面に、段差及び/又は溝などが形成されている場合であっても、「筒状」及び「筒体」に含む。例えば図4に示すように、本実施形態の外側筒体38には、外周面に段差が形成されている。
【0061】
図3に示すように、フロントトップローラ20において、内側筒体40の内周部41の内周側には、ベアリング部28が配置される。ベアリング部28の外周面は、内側筒体40の内周部41の内周面に、略接触するように構成されている。これにより、ベアリング部28によって、ローラ部26が回転自在に支持されている。
【0062】
ただし、ベアリング部28の外周面と、内側筒体40の内周面との間には、若干の隙間が形成されている。これにより、ローラ部26を、ベアリング部28から容易に取り外すことができるようになっている(図4の太線の矢印参照)。また、ローラ部26を、ベアリング部28に対して容易に取り付けることができる。
【0063】
図4に示すように、内周部41の内周面には、位置決め溝47が形成されている。この位置決め溝47に対して、ベアリング部28のCリング37が嵌合する。これにより、ローラ部26が、ベアリング部28に対して軸方向で位置決めされている(図3の状態)。
【0064】
図3に示すように、ローラ部26には、フロントトップローラ20の端面部を塞ぐキャップ49が取り付けられている。また、内側筒体40の突出部42の内側において、軸部材29の外周には、Oリング50が配置されている。前記キャップ49及びOリング50により、糸屑などがベアリング部28に進入することを防いでいる。
【0065】
続いて、本実施形態の特徴について説明する。
【0066】
本実施形態のローラ部26は、内側筒体40の内周面にコーティングを施していることを特徴としている。なお、図5においては、コーティングが施されている部分を、太線の点線53で示している。コーティング53は、滑り性(低摩擦性)を有しているものが採用されている。従って、前記コーティング53が施されている部分は、コーティングが施される前の内側筒体40の内周面に比べて摩擦係数が低下している。
【0067】
コーティング53の種類は特に限定されないが、例えば、二硫化モリブデン、グラファイト、フッ素化合物など、潤滑性に優れた固体潤滑剤による被膜(乾性被膜潤滑剤)とする。なお、これら固体潤滑剤は一般に非金属であるため、コーティング53を施した部分は、内側筒体40の元の色(金属光沢)とは異なる色を呈する。例えば、二硫化モリブデンやグラフィトでコーティングした場合は黒色、フッ素化合物でコーティングした場合は白色又は橙色などを呈する。このように、非金属の固体潤滑剤でコーティングすれば、コーティングされた箇所と、それ以外の箇所とを、目視によって簡単に見わけることができる。従って、コーティング53の剥がれなどを容易に発見できる。
【0068】
内側筒体40にコーティング53を施す方法は特に限定されないが、スプレー及び/又はディッピングなどの公知の手法を利用できる。
【0069】
以上のように、内側筒体40の内周面にコーティング53を施すことにより、金属同士(内側筒体40とベアリング部28)が直接接触することを防止し、かつ内側筒体40とベアリング部28の間の摩擦を低減できる。これにより、当該内側筒体40と、ベアリング部28と、の間のフレッチングを防止できる。
【0070】
金属同士の直接接触を防止して摩擦を低減するという点では、例えば、内側筒体40とベアリング部28の間にグリスを塗布することも考えられる。しかしながらこの場合は、ローラ部26を交換するたびにグリスを塗布する必要が生じ、ユーザの手間となってしまう。上記のように固体潤滑剤によるコーティング53であれば、半永久的な効果が期待できるので、ユーザの手間を低減できる。
【0071】
内側筒体40とベアリング部28の間のフレッチングを防止するという観点からすれば、前記コーティング53は、内側筒体40が、回転する際にベアリング部28に接触する部分に施せば良い。具体的には、内側筒体40の内周部41の内周面にのみ、コーティング53を施せば良い。言い換えれば、内側筒体40の突出部42の内周面には、必ずしもコーティング53を施さなくても良い。必要な部分にのみコーティングを施すことで、コーティング剤を節約できる。
【0072】
しかしながら、本実施形態では、図5に示すように、内側筒体40の突出部42の内周面にも、コーティング53を施している。この部分にコーティング53してもフレッチングの防止という点では意味がないが、ローラ部26を交換する際の容易性を向上させる効果が期待できる。即ち、ベアリング部28に対してローラ部26を取り付ける際には、図4に太線の矢印で示すように、内側筒体40の突出部42側から、当該内側筒体40の内部にベアリング部28を挿入する。従って本実施形態のように、内側筒体40の突出部42の内周面にもコーティング53を施しておけば、ベアリング部28を内側筒体40の内側に挿入し易くなる。
【0073】
なお、ドラフトローラの分野におけるコーティングの従来技術として、特許文献2が挙げられる。特許文献2には、軸体(軸中央部材2)に、腐食兼摩耗防止部としてのコーティングを施したトップローラが記載されている。しかし、特許文献2のコーティングは、回転するローラ部が接触する部分には施されていない(そもそも、特許文献2には、交換可能なローラ部が記載されていない)。従って、特許文献2のコーティングは、フレッチングの防止とは無関係である。
【0074】
ところで、本実施形態のフロントトップローラ20における内側筒体40は、コーティング53を施しているため、従来の(コーティングを施していない)内側筒体に比較すると高価である。そこで、ローラ部26を交換する際に、内側筒体40を再利用できればコスト面で有利であると考えられる。使用によって摩耗した外側筒体38(及びこれに接着されている中間筒体39)を内側筒体40から取り外して交換できれば、当該内側筒体40を再利用することが可能である。
【0075】
しかしながら、内側筒体40は、中間筒体39に嵌着されている。このため、従来のドラフトローラでは、内側筒体40から中間筒体39(及びこれに接着されている外側筒体38)を取り外して交換することは必ずしも容易ではなかった。
【0076】
本実施形態においては、図5に示すように、内側筒体40の外周面にも、コーティング53を施している。これにより、内側筒体40と、当該内側筒体40の外側に嵌着された中間筒体39と、の間の摩擦抵抗が低下している。従って、中間筒体39(及び中間筒体39に接着されている外側筒体38)を、内側筒体40から取り外し易くなっている(図5の太線の矢印参照)。これにより、内側筒体40を再利用し易くなり、ローラ部26の交換コストを低減させることができる。
【0077】
以上のように、本実施形態では、内側筒体40の内周面及び外周面の全部にコーティング53を施している。これにより、フレッチングを防止するだけでなく、ローラ部26の交換性の向上、内側筒体40の再利用性の向上、これによる交換コストの低減という複合的な効果が得られる。また、内側筒体40の全部にコーティング53をすればよいので、コーティングを行う際にマスキングをしたりする必要がない。これにより、コーティングの作業を簡単に行うことができ、内側筒体40の製造コストを削減することもできる。
【0078】
以上で説明したように、本実施形態の内側筒体40の内周面には、コーティング53が施されている。このように、内側筒体40の内周面にコーティング53を施すことにより、当該内側筒体40とベアリング部28の間のフレッチングを防止できる。
【0079】
また上記で説明したように、コーティング53を施した部分は、当該コーティング53をしていない状態の内側筒体40の内周面よりも摩擦係数が低下している。このように、滑り性を有するコーティング53を施すことで、内側筒体40とベアリング部28との間の摩擦を低減できるので、内側筒体40とベアリング部28との間のフレッチングを防止できる。
【0080】
また上記で説明したように、内側筒体40は金属製であり、コーティング53は非金属である。これによれば、コーティング53を施した箇所は、内側筒体40の元の色(金属光沢)とは異なる色を呈する。従って、コーティング53の剥がれの有無などを、目視で簡単に確認できる。
【0081】
また上記のように、内側筒体40において、コーティング53は、二硫化モリブデン、グラファイト、フッ素化合物、の少なくとも何れかであることが好ましい。これにより、滑り性及び耐久性が良好なコーティング53を形成できるので、内側筒体40とベアリング部28の間のフレッチングを確実に防止できる。
【0082】
また上記のように、内側筒体40の外周面にも、コーティング53が施されている。これにより、当該内側筒体40から外側筒体38(及び外側筒体38に接着された中間筒体39)を容易に取り外すことができる。これにより、内側筒体40を再利用できる。また、内側筒体40の全部にコーティングを施せば良いので、コーティングの際にマスキング等が不要となり、コーティングの作業が簡単になる。
【0083】
また上記のように、本実施形態のローラ部26は、上記の内側筒体40と、内側筒体40の外側に配置されたゴム製の外側筒体38と、を備えている。このように、内側筒体40の内周面にコーティング53を施したローラ部26により、フレッチングを防止できる。
【0084】
また上記のように、本実施形態のフロントトップローラ20は、上記のローラ部26と、当該ローラ部26を回転自在に支持するベアリング部28を有するアーバー27と、を備えている。このフロントトップローラ20により、ローラ部26の内側筒体40と、ベアリング部28と、の間のフレッチングを防止できる。
【0085】
また上記のように、本実施形態のドラフト装置7は、フロントトップローラ20と、当該フロントトップローラ20に対向するフロントボトムローラ70と、からなるローラ対を備えている。このドラフト装置7によれば、フロントトップローラ20のフレッチングを防止できるので、当該フロントトップローラ20をスムーズかつ均一に回転させることができる。これにより、当該ドラフト装置7で生成される繊維束8の品質を向上させることができる。
【0086】
また上記のように、本実施形態の精紡機1は、上記のドラフト装置7と、ドラフト装置7から供給される繊維束8に対して旋回空気流によって撚りを加えて紡績糸10を生成する空気式の紡績装置9と、前記紡績糸10を巻き取る巻取装置13と、を備えている。
【0087】
空気紡績機は紡績速度が速いため、ドラフトローラの回転速度も速く、当該ドラフトローラのフレッチングが生じ易い。そこで、空気紡績機に本発明の構成を採用することにより、ドラフトローラのフレッチングを防止する効果を好適に発揮できる。
【0088】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0089】
上記実施形態のドラフトローラでは、ローラ部26の内周面(内側筒体40の内周面)にコーティング53を施しているが、これに代え、あるいはこれに加えて、アーバー27側にコーティングを施しても良い。即ち、アーバー27の外周面のうち、回転するローラ部26の内周面に接触する部分(具体的には、ベアリング部28の外周面)にコーティングを施すことにより、上記実施形態と同様にフレッチングを防止する効果を発揮できる。ただし、ベアリング部28の外周面にコーティングをする場合、ベアリング30と31が専用品となってしまうので、精紡機1全体のコストが上昇してしまう。従って、コストの観点からすると、ローラ部26の内周面にのみコーティング53を施す上記実施形態の方が好ましい。
【0090】
なお、アーバー27の外周面(具体的には、ベアリング部28の外周面)にコーティングを施す場合は、上記実施形態と同様に、滑り性を有するコーティングとする。また上記実施形態と同様に、非金属のコーティングとすれば、当該コーティングの剥がれの有無などを目視で容易に確認できるので好適である。具体的には、上記実施形態と同様に、二硫化モリブデン、グラファイト、フッ素化合物など、潤滑性に優れた固体潤滑剤による被膜(乾性被膜潤滑剤)からなるコーティングを、アーバー27の外周面に施せば好適である。
【0091】
中間筒体39は省略して、外側筒体38の内側に、内側筒体40を直接配置しても良い。
【0092】
ベアリング部28の構成等は図示したものに限らず、適宜変更できる。
【0093】
上記実施形態では、フロントトップローラ20について主に説明したが、他のトップローラ16,17,19もフロントトップローラ20と同様の構成である。従って、他のトップローラ16,17,19についても、フロントトップローラ20と同様に、内側筒体40又は/及びアーバー27にコーティング53を施せば、フレッチングを防止する効果を得ることができる。ただし、ドラフト装置7が備える4つのトップローラ16,17,19,20の中では、フロントトップローラ20の回転速度が最も速いため、フレッチングが生じ易い。従って、上記実施形態のように、フロントトップローラ20の内側筒体40又は/及びアーバー27にコーティング53を施せば、フレッチングを防止する効果を特に好適に発揮できる。
【0094】
ベアリング30の外輪とスペーサ32との間と、ベアリング31の外輪とスペーサ32との間のそれぞれに、Oリング等のシール部材を配置しても良い。このOリングにより、ベアリング30の外輪とスペーサ32との間の隙間と、ベアリング31の外輪とスペーサ32との間の隙間を充填できる。
【符号の説明】
【0095】
1 精紡機(空気紡績機)
7 ドラフト装置
20 フロントトップローラ(ドラフトローラ)
26 ローラ部
27 アーバー
28 ベアリング部
38 外側筒部
39 中間筒部
40 内側筒部
53 コーティング
図1
図2
図3
図4
図5