(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-113589(P2015-113589A)
(43)【公開日】2015年6月22日
(54)【発明の名称】RC造建物のPS後導入方法およびその構造物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/06 20060101AFI20150526BHJP
【FI】
E04B1/06
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-254866(P2013-254866)
(22)【出願日】2013年12月10日
(11)【特許番号】特許第5607812号(P5607812)
(45)【特許公報発行日】2014年10月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000170772
【氏名又は名称】黒沢建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 亮平
(57)【要約】 (修正有)
【課題】RC造建物としての設計で想定以上の巨大地震が発生した場合は、付与されたプレストレスで強度を補って耐震性能をアップさせ、震度7まで耐えられるプレストレスを付与する方法を提供する。
【解決手段】RC造とする基礎から柱および梁とで複数階構築される建物構造にプレストレスを導入する方法であって、フーチング3と各階の柱5および梁8の所要個所に予め緊張材9を挿入するシース6を埋設して最上階までRC造として構築し、その後にシース6に緊張材9を挿入して緊張定着することによって基礎から柱および梁までRC造とする建物構造全体にプレストレスを導入にしたことによって、RC造として設計された建物構造は、全体の耐震性能が大幅に向上される。常時荷重および中小地震時において、設計したRC造建物の鉄筋で対応し、設計で想定以上の巨大地震に耐えられるようにする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RC造とする基礎から柱および梁とで複数階構築される建物構造にプレストレスを導入する方法であって、
前記基礎と各階の柱および梁の所要個所に予め緊張材を挿入するシースを埋設して最上階までRC造として構築し、
その後に前記シースに緊張材を挿入して緊張定着することによって基礎から柱および梁までRC造とする建物構造全体にプレストレスを導入すること
を特徴とするRC造建物のPS後導入方法。
【請求項2】
前記シースは、柱においては基礎から最上階まで連通させ、梁においては、柱間の全スパンに渡って外周柱面まで連通して配設すること
を特徴とする請求項1に記載のRC造建物のPS後導入方法。
【請求項3】
前記建物構造の所要中間層の柱および所要中間スパンの梁においてそれぞれ一対の箱抜き定着部を形成し、
前記シースは、柱において基礎から箱抜き定着部までと、箱抜き定着部から最上階まで、および梁において箱抜き定着部から両方の外周柱面までそれぞれ配設し、
箱抜き定着部でオーバーラッピングさせて緊張材を挿通させてプレストレスを付与すること
を特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載のRC造建物のPS後導入方法。
【請求項4】
RC造とする基礎から柱および梁とで複数階構築される建物構造にプレストレスを導入した建造物であって、
前記基礎と各階の柱および梁の所要個所に予め緊張材を挿入するシースを埋設して最上階までRC造として構築し、
該構築物の前記シースに緊張材を挿入して緊張定着することによって基礎から柱および梁までRC造とする建物構造全体にプレストレスを導入すること
を特徴とするPS後導入されたRC造の建物構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造(RC造)にプレストレス(PS)を導入する方法およびその方法によって得られる構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例を挙げるまでもなく、アパートやマンションなどの集合住宅において、居住性を考慮して柱の間隔(スパン)を飛ばす必要がないため、鉄筋コンクリート造が安価で好適な条件を満たす構造物として、RC造の柱と梁とからなるラーメン構造の建造物が一般的で、最も多く造られている。
【0003】
また、プレストレストコンクリート構造(PC構造)は、予めコンクリート部材断面にプレストレス(PS)を付与し、予め想定される荷重に対して抵抗できるようにしたもので、PC梁はロングスパンに飛ばすことができるし、地震に対して強い耐震性能を有するものである。さらに、プレストレス(PS)力は、予め部材内部に存在している内力であり、常に断面に対する垂直方向に作用しているから、緊張材であるPC鋼材が弾性範囲であればバネのように働き、地震などにより建物が変形しようとした時に抵抗する力になり、振り子のように変形した建物を元に戻そうとしており、つまり、元に戻そうとする力になり、これはプレストレス(PS)による復元力の効果である。この効果はプレストレスによる制震作用および効果であり、RC構造や鉄骨構造などでは得られないのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
なし(RC構造にPSを付与した文献は見当たらない)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、現行の耐震設計基準は震度5強程度で構造体の損傷を許容し、生命の安全性を確保した設計を行えば倒壊することも許容してきた。震度6を越える巨大地震時に、RC造の建物が崩壊し、または大きく変形すると共に損傷し、地震後残留変形が残ったままで修復できないという被害が多く発生したという報告があった。
【0006】
本発明は、従来通りに設計されたRC造建物にプレストレス(PS)を付与し、常時荷重時においては、RC造建物として使用される。地震時において、RC造建物としての設計で想定以上の巨大地震が発生した場合は、付与されたプレストレスで強度を補って耐震性能をアップさせ、震度7まで耐えられるようなRC造の建物を提供し、そのプレストレスを簡単に且つ合理的に付与する方法を提案することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための具体的手段として、本発明に係る第1の発明は、RC造とする基礎から柱および梁とで複数階構築される建物構造にプレストレスを導入する方法であって、前記基礎と各階の柱および梁の所要個所に予め緊張材を挿入するシースを埋設して最上階までRC造として構築し、その後に前記シースに緊張材を挿入して緊張定着することによって基礎から柱および梁までRC造とする建物構造全体にプレストレスを導入することを特徴とするRC造建物のPS後導入方法を提供するものである。
【0008】
上記第1の発明において、前記シースは、柱においては基礎から最上階まで連続とし、梁においては、柱間全スパンに渡って外周柱面まで連続として配置すること;および前記建物構造の所要中間層の柱および所要中間スパンの梁においてそれぞれ一対の箱抜き定着部を形成し、前記シースは、柱において基礎から箱抜き定着部までと、箱抜き定着部から最上階まで、および梁において箱抜き定着部から両方の外周柱面までそれぞれ配設し、箱抜き定着部でオーバーラッピングさせて緊張材を挿通してプレストレスを付与すること、を含むものである。
【0009】
本発明に係る第2の発明は、RC造とする基礎から柱および梁とで複数階構築される建物構造にプレストレスを導入した建造物であって、前記基礎と各階の柱および梁の所要個所に予め緊張材を挿入するシースを埋設して最上階までRC造として構築し、該構築物の前記シースに緊張材を挿入して緊張定着することによって基礎から柱および梁までRC造とする建物構造全体にプレストレスを導入することを特徴とするPS導入されたRC造の建物構造を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るRC造建物のPS後導入方法よれば、RC造とする柱と梁を構築して建物構造全体を完成した後に、緊張材であるPC鋼材を予め柱と梁とに埋設したシースに挿入し、緊張材を緊張定着してプレストレスをRC造建物全体に導入することにより、RC造として設計された建物構造は、全体の耐震性能が大幅に向上される。常時荷重および中小地震時において、設計したRC造の鉄筋で対応し、設計で想定以上の巨大地震に対し、導入されたプレストレスで補い、震度5強程度で設計されたRC造の建物が震度7までの巨大地震にも耐えられるようにすることができるという優れた効果を奏する。
また、導入されたPSの復元力によって地震時の揺れを格段に小さく抑えることができ、地震後、建物が元の状態に戻るから、地震による繰り返しの揺れ変形を抑制し優れた制震効果が得られる。
【0011】
また、本発明に係るRC造の建物構造によれば、従来通りのRC造として設計するから、安価で構築することができると共に、RC造建物全体を完成するまで通常長い期間が経過するのでコンクリートの材齢が長くなるから、コンクリート強度を十分に達成させることが確保されると共に、コンクリートの乾燥収縮の進行が概ね完了するから、通常のPC構造に要求される高強度コンクリートを使用せずに、RC造建物に使用する安価な普通のコンクリートを使用すればよい。また、導入されるプレストレス(PS)は、コンクリートの乾燥収縮による損失量を大幅に減らすことができるという種々の優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るRC造建物であって、PSを付与する前のRC造建物の一部を省略して示した側面図である。
【
図2】同実施の形態に係るRC造建物であって、PSを付与する前のRC造建物の要部のみを示した平面図である。
【
図3】同実施の形態に係るRC造建物であって、PSを付与する状態を略示的に示した側面図である。
【
図4】同実施の形態に係るRC造建物であって、PSを付与する状態を略示的に示した平面図である。
【
図5】本発明の第2の実施の形態に係るRC造建物であって、PSを付与する状態を略示的に一部を省略して示した側面図である。
【
図6】同実施の形態に係るRC造建物であって、PSを付与する状態を略示的に示した要部のみの平面図である。
【
図7】本発明の第3の実施の形態に係るRC造建物であって、PSを付与する状態を略示的に一部を省略して示した側面図である。
【
図8】同実施の形態に係るRC造建物であって、PSを付与する状態を略示的に示した要部のみの平面図である。
【
図9】本発明の第1〜3の実施の形態に適用できる柱構造の実施例であって、PSを付与する状態を略示的に示した側面図である。
【
図10】同様に第1〜3の実施の形態に適用できる梁構造の実施例であって、PSを付与する状態を略示的に示した側面図である。
【
図11】同実施例の梁構造であって、PSを付与する状態を略示的に示した要部のみの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を図示の複数の実施の形態に基づいて詳しく説明する。
図1〜
図4に示した第1の実施の形態において、RC造建物1は、従来通りの基礎、柱、梁の順序で構築する。例えば、所要間隔で地中に打ち込んで形成した杭基礎2の上に、それぞれ型枠を組み内部に所要の鉄筋を配設し、コンクリートを打設してフーチング3を構築すると共に、各フーチング3間を連結する地中梁4と、フーチング3の上部に柱5とを構築する。これら構築されるコンクリート部材、即ち、フーチング3、地中梁4および柱5を形成する時に、予め緊張材を挿入するための複数のシース6を配設しておくことで、コンクリート部材の内部における所要位置にシース6が埋設される。
【0014】
地中梁4内に配設されるシース6は、一方の側面のフーチング3から他方の側面のフーチング3まで、フーチング3と地中梁4の内部を貫通するように連続させた状態で直線状に配設され、各両側端部に位置するフーチング3の外側側面に緊張材を緊張定着するための鋼管スリーブで形成される定着部7を設ける。
【0015】
また、各柱5に配設されるシース6は、フーチング3から最上階の柱5の上端まで、その内部を貫通するように連続させた状態で直線状に配設され、最上端に緊張材を緊張定着するための鋼管スリーブで形成される定着部7を設け、下端部側のフーチング3内においては、緊張材の下端が固定されるべき手段が設けられる。
【0016】
さらに、各階層の梁8と柱5との連結部分については、前記地中梁4の場合と同様に、梁8の内部に配設されるシース6は、一方の側面の柱5から他方の側面の柱5まで、各柱5と梁8との内部を貫通するように連続させた状態で直線状に配設され、各両側端面の柱5の外側側面等に緊張材を緊張定着するための定着部7を設けることができる。
【0017】
この場合に、梁4、8に対しては、2本のシース6を梁の断面図心に沿って水平に配設し、柱5に対しては、4本のシース6を柱断面図心に対称的な配置とし、つまり、緊張材図心を柱梁の断面図心に合わせて偏心することなく柱梁の軸方向にPS導入されるように配置することが好ましい。
なお、梁4、8に対しては、梁成方向において断面図心に対称的にシース6を2段配置することとしてもよい。
【0018】
このように基礎上にフーチング3と、地中梁4と、柱5および各階層の梁8との内部にそれぞれシース6を埋め込んだ状態で、現場打ちコンクリートやプレキャストコンクリート工法によりRC造建物1を構築した後に、各シ―ス6内に緊張材9を挿通し、緊張材9の端部において定着部に設置される定着具を用いて緊張定着して各コンクリート部材の軸芯方向にプレストレスが付与された後に、グラウト10を高圧注入してシース6内に充填する。その結果RC造建物1の全体にプレストレスが導入されることになるのである。
また、複数配置される緊張材の図心を柱梁部材の断面図心に合わせて配置することにより,部材断面に軸力のみ導入されるから、RC造として設計された部材断面に偏心による複雑な応力が発生しないから、設計は簡単に確認することができる。
【0019】
この場合に、梁については横方向からシース6内に緊張材9を挿通し、端部のフーチング3の側面で緊張材9の端部において定着部7に設置される定着具を用いて緊張定着してコンクリート部材である地中梁4と梁8との軸芯方向にプレストレスが付与された後に、グラウト10を高圧注入してシース6内に充填する。このようにしてコンクリート部材である地中梁4と梁8との軸芯方向にプレストレスが付与されるのである。また、柱5に付いては、最上端からシース6内に緊張材9を挿通し、その緊張材9の先端がフーチング3に埋設されたシース6の先端まで達した後に、シース6に設けているホースで形成されている注入孔13と排出孔(排気孔)11とを用いてシース6内にグラウト10を高圧注入して充満させ、該グラウト10が硬化した後に、最上端の定着部7で緊張材9の上端部を緊張定着して、RC造部材のコンクリート部材である柱5にプレストレスを付与するのである。要するに、フーチング内に通常の定着具を使用せずにグラウトの付着力で定着するから、極めて簡単で且つ安価に施工できるのである。
【0020】
なお、構築されたRC造建物1に対して緊張材9を緊張定着する場合に、下層階の地中梁4から上部建物の梁8側への順で緊張定着作業を行い、梁8の緊張材9の緊張作業が終了してから柱5に対する緊張材9の緊張定着作業を行うのである。その理由は、建造物が下層側から構築されるから、下層側のコンクリート部材は、経時によって充分に養生されて硬化しているので、プレストレスを導入しても乾燥収縮等による変形は生じないからである。
【0021】
図5と
図6に示した第2の実施の形態について説明する。この実施の形態に係るRC造建物1においては、前記第1の実施の形態と柱5に対するシースおよび緊張材の配設構成が異なるのみで、他の構成部分については略同一であるので、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
即ち、柱5に対する4本のシース6の下端部は、フーチング3の側面に設けた箱抜き凹部12に開口させ、上端部は最上階の柱5の上端まで連続させて直線状に延ばして配設し、その最上端において緊張材9を緊張定着するための定着部7を設ける。そして箱抜き凹部12は、アンカーヘッド等の定着具の格納スペースとなるので実質的に箱抜き定着部7ということができる。
【0022】
そして、前記第1の実施の形態と同様に、下層階の地中梁4および上部建物の梁8側から緊張定着作業を行い、梁8の緊張材9の緊張作業が終了してから柱5に対する緊張材9の緊張定着作業を行うのである。その理由は、建造物が下層側から構築されるから、下層側のコンクリート部材は、経時によって充分に養生されて硬化しているので、プレストレスを導入しても支障は生じないからである。このようにコンクリート部材の軸芯方向にプレストレスが付与され、その結果RC造建物1の全体にプレストレスが導入されることになるのである。但し、この順序に限定されることなく、全体の施工工程によって、先に柱5に対して緊張定着作業を行い、その後、下層階の梁4から上層階の梁8への順で緊張定着してもよい。
【0023】
図7と
図8に示した第3の実施の形態について説明する。この実施の形態においても、構築されるRC造建物1は、前記第1の実施の形態と柱5に対するシースおよび緊張材の配設構成が異なるのみで、他の構成部分については略同一であるので、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
即ち、柱5に対する4本のシース6の下端部は、各柱5の脚部、つまり、下端部側の側面に設けた箱抜き凹部12に開口させ、上端部は最上階の柱5の上端まで連続させて直線状に延ばして配設し、その最上端において緊張材9を緊張定着するための定着部7を設ける。そして箱抜き凹部12は、定着具の格納スペースとなるので実質的に箱抜き定着部7ということができる。
【0024】
そして、この実施の形態においても、前記第1の実施の形態と同様に、下層階の地中梁4および上部建物の梁8側から緊張定着作業を行い、梁8の緊張材9の緊張作業が終了してから柱5に対する緊張材9の緊張定着作業を行うのである。その理由も、建造物が下層側から構築されるから、下層側のコンクリート部材は、経時によって充分に養生されて硬化しているので、プレストレスを導入しても支障が生じないからである。このようにコンクリート部材の軸芯方向にプレストレスが付与され、その結果RC造建物1の全体にプレストレスが導入されることになるのである。
いずれにしても、前記第1〜3の実施の形態において、箱抜き定着部と鋼管スリーブの定着部7の先端にそれぞれアンカープレートを配置し、鋼管スリーブ内にアンカーヘッド等の定着具を配置して定着すること、これらを含めて定着部7と称しているのである。
【0025】
さらに、前記第1〜第3の実施の形態に適用できる柱と梁との実施例について説明する。つまり、RC造建物1が中・高層建造物、および/または横長の大きい(広い)建造物になった時に、適用できる技術である。
【0026】
まず、
図9に示した、柱5について説明する。
RC造建物1が中・高層になった時に、柱5の高さ(長さ)が高く(長く)なるので、内部に埋設されるシース6や緊張材9もそれに合わせて長尺のものが必要になり、これら材料を一本ものにすると取り扱いが必然的に厄介になると共に、作業上で支障を来すばかりでなく、距離が長過ぎてコンクリート部材に均等なプレストレスを付与できないのであります。
【0027】
そこで、RC造建物1が中・高層建物の場合には、柱5に対して複数本の緊張材を挿通する位置で、所要中間層の柱5の側面に所要間隔をおいて、向かい合う方向に定着部7となるそれぞれ一対の箱抜き凹部12を設け、シース6の配置は基礎となるフーチング3から所要中間層の上側の箱抜き凹部12までと、所要中間層の下側の箱抜き凹部12から最上階まで延長して配置する。この場合に、所要中間層におけるシース6の端部はオーバーラップする。要するに、柱5が長い場合には、緊張材9は基礎から最上階まで連続的に一本ものとせずに所要中間層でラップジョイントとすることができる。なお、建物の高さによって、所要中間層を1個所だけでなく、同じ要領で複数個所設けることができる。
【0028】
また、
図10と
図11に示した、梁4、8について説明する。
RC造建物1が横長の大きい(広い)建造物になった時に、建物の一側端から他側端までの柱間の全スパンに渡る梁4、8の数が多くなるので、内部に埋設されるシース6や緊張材9もそれに合わせて長尺のものが必要になり、これら材料を一本ものにすると取り扱いが必然的に厄介になると共に、作業上で支障を来すばかりでなく、距離が長過ぎてコンクリート部材に均等なプレストレスを付与できないのであります。
【0029】
そこで、RC造建物1が横長の大きい(広い)建造物になった場合には、梁4、8に対して複数本の緊張材を挿通する位置で、横長の所要中間スパンの梁4、8の上面に所要間隔をおいて、向かい合う方向に定着部7となるそれぞれ一対の箱抜き凹部12を設け、シース6の配置は建物の一方の側端からから中間スパン梁4、8の右側箱抜き凹部12までと、中間スパン梁4、8の左側の箱抜き凹部12から建物の他方の端部まで延長して配置する。この場合に、中間スパン梁4、8におけるシース6の端部はオーバーラップする。要するに、建物の横長が大きい場合には、建物の一側端から他側端までの梁の本数が多くなるので、緊張材9は一側端から他側端まで連続的に一本ものとせずに所要中間スパン梁4、8でラップジョイントとすることができる。なお、建物の長さによって、所要中間スパンを1個所だけでなく、同じ要領で複数個所設けることができる。
【0030】
いずれにしても、前記した柱5と梁4、8の実施例は、建造物の高さおよび広さが大きい場合に、前記第1〜3の実施の形態の工法に適用できるのであり、それによって、コンクリート部材にプレストレスを効果的に付与することができるのである。また、使用される緊張材としては、PC鋼より線、PC鋼線のいずれでも良く、RC造建物1として使用コンクリートについては、普通のコンクリートから高強度コンクリートまでのいずれとしてもよい。特に、普通のコンクリートの場合は、コンクリートの設計強度F=250N/mm
2以上とすることが望ましい。また、実施の形態では基礎杭として説明したが、これに限定されることなく、例えば、ベタ基礎、布基礎等様々な基礎であってもよい。さらに、上部構造と基礎構造との間に免震装置を設けて免震構造としてもよい。要するに、上部構造としてRC造建物で設計された建造物において、PS後導入方法を適用した構造物は全て本発明の趣旨に含まれるのである。
また、地盤と基礎状況により、地中梁4にPS後導入せず、RC上部構造のコンクリート部材のみにPS後導入方法を適用することもできる。なお、いずれの実施の形態でも、定着部7において緊張材9を緊張定着した後は、モルタル等を詰めて定着具の防錆処理とするのである。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係るRC造建物のPS後導入方法は、RC造とする基礎から柱および梁とで複数階構築される建物構造にプレストレスを導入する方法であって、前記基礎と各階の柱および梁の所要個所に予め緊張材を挿入するシースを埋設して最上階までRC造として構築し、その後に前記シースに緊張材を挿入して緊張定着することによって基礎から柱および梁までRC造とする建物構造全体にプレストレスを導入にしたことによって、RC造として設計された建物構造は、全体の耐震性能が大幅に向上される。常時荷重および中小地震時において、設計したRC造の鉄筋で対応し、設計で想定以上の巨大地震に対し、導入されたプレストレスで補い、震度5強程度で設計されたRC造の建物が震度7までの巨大地震にも耐えられるようにすることができるので、上部構造としてRC造で設計された建造物において、合理的に且つ簡単にPS後導入方法を適用することができるので、安価に設計できるRC造に対して耐震性能を付与でき広く利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 RC造建物
2 杭基礎
3 フーチング
4 地中梁
5 柱
6 シース
7 定着部
8 梁
9 緊張材
10 グラウト
11 排出孔(排気孔)
12 箱抜き凹部(定着部)
13 注入孔
【手続補正書】
【提出日】2014年6月16日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上記目的を達成するための具体的手段として、本発明に係る第1の発明は、RC造とする基礎から柱および梁とで複数階構築される建物構造にプレストレスを導入する方法であって、前
記柱については、基礎から最上階の柱まで連通させ、前記梁については、柱間の全スパンに渡って外周柱面まで連通させて、それぞれ緊張材を挿入するシースを予め埋設して最上階までRC造として構築し、その後に前記シースに緊張材を挿入して緊張定着することによって基礎から柱および梁までRC造とする建物構造全体にプレストレスを導入することを特徴とするRC造建物のPS後導入方法を提供するものである。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上記第1の発明において、前記建物構造の所要中間層の柱および所要中間スパンの梁においてそれぞれ一対の箱抜き定着部を形成し、前記シースは、柱において基礎から箱抜き定着部までと、箱抜き定着部から最上階まで、および梁において箱抜き定着部から両方の外周柱面までそれぞれ配設し、箱抜き定着部でオーバーラッピングさせて緊張材を挿通させてプレストレスを付与すること、を含むものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明に係る第2の発明は、RC造とする基礎から柱および梁とで複数階構築される建物構造にプレストレスを導入した建造物であって、前
記柱については、基礎から最上階の柱まで連通させ、前記梁については、柱間の全スパンに渡って外周柱面まで連通させて、それぞれ緊張材を挿入するシースを予め埋設して最上階までRC造として構築し、該構築物
の構築後に、前記シースに緊張材を挿入して緊張定着することによって基礎から柱および梁までRC造とする建物構造全体にプレストレスを導入することを特徴とするPS後導入されたRC造の建物構造を提供するものである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RC造とする基礎から柱および梁とで複数階構築される建物構造にプレストレスを導入する方法であって、
前記柱については、基礎から最上階の柱まで連通させ、前記梁については、柱間の全スパンに渡って外周柱面まで連通させて、それぞれ緊張材を挿入するシースを予め埋設して最上階までRC造として構築し、
その後に前記シースに緊張材を挿入して緊張定着することによって基礎から柱および梁までRC造とする建物構造全体にプレストレスを導入すること
を特徴とするRC造建物のPS後導入方法。
【請求項2】
前記建物構造の所要中間層の柱および所要中間スパンの梁においてそれぞれ一対の箱抜き定着部を形成し、
前記シースは、柱において基礎から箱抜き定着部までと、箱抜き定着部から最上階まで、および梁において箱抜き定着部から両方の外周柱面までそれぞれ配設し、
箱抜き定着部でオーバーラッピングさせて緊張材を挿通させてプレストレスを付与すること
を特徴とする請求項1に記載のRC造建物のPS後導入方法。
【請求項3】
RC造とする基礎から柱および梁とで複数階構築される建物構造にプレストレスを導入した建造物であって、
前記柱については、基礎から最上階の柱まで連通させ、前記梁については、柱間の全スパンに渡って外周柱面まで連通させて、それぞれ緊張材を挿入するシースを予め埋設して最上階までRC造として構築し、
該構築物の構築後に、前記シースに緊張材を挿入して緊張定着することによって基礎から柱および梁までRC造とする建物構造全体にプレストレスを導入すること
を特徴とするPS後導入されたRC造の建物構造。