【解決手段】作業車両のエンジン制御装置は、アクセルペダルの操作量を検出する操作量検出部と、操作量検出部で検出された操作量に応じてエンジンの目標回転速度を設定する目標回転速度設定部と、目標回転速度に応じて、エンジンの実回転速度を制御する回転速度制御部と、作業車両が惰性走行中であるか否かを判定する惰性走行判定部とを備え、回転速度制御部は、惰性走行判定部で惰性走行中であることが判定された場合、目標回転速度設定部により設定された目標回転速度を増加させるように補正する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係るエンジン制御装置を備えた作業車両の一実施の形態を説明する。
−第1の実施の形態−
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダは、アーム111、バケット112、および、前輪等を有する前部車体110と、運転室121、機械室122、および、後輪等を有する後部車体120とで構成される。
【0013】
アーム111はアームシリンダ117の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(クラウドまたはダンプ)する。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ116の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
【0014】
機械室122の内部にはエンジン190が設けられ、運転室121の内部にはアクセルペダルやアーム操作レバー、バケット操作レバーなどの各種操作部材が設けられている。アクセルペダルには戻しばねが設けられ、アクセルペダルを解放すると初期位置に復帰するように構成されている。
【0015】
図2は、第1の実施の形態に係るエンジン制御装置を備えたホイールローダの概略構成を示す図である。ホイールローダは、エンジン190の回転をトルクコンバータ(以下、トルコン2と記す)、トランスミッション3、プロペラシャフト4、アクスル装置5、アクスル6を介してタイヤ113に伝達する走行駆動装置(走行系)を備えている。エンジン190の出力軸にはトルコン2の入力軸が連結され、トルコン2の出力軸はトランスミッション3に連結されている。トルコン2は周知のインペラ、タービン、ステータからなる流体クラッチであり、エンジン190の回転はトルコン2を介してトランスミッション3に伝達される。トランスミッション3は、その速度段を1速〜5速に切り換えるクラッチを有し、トルコン2の出力軸の回転はトランスミッション3で変速される。変速後の回転は、プロペラシャフト4、アクスル装置5、アクスル6を介してタイヤ113に伝達されて、ホイールローダが走行する。
【0016】
ホイールローダは、油圧ポンプ11、コントロールバルブ21a,21b、アームシリンダ117、バケットシリンダ115、アーム111およびバケット112を含んで構成されるフロント作業装置(作業系)を備えている。作業用の油圧ポンプ11は、エンジン190により駆動され、圧油を吐出する。油圧ポンプ11は、押しのけ容積が変更される斜板式あるいは斜軸式の可変容量型の油圧ポンプである。油圧ポンプ11の吐出流量は、押しのけ容積と油圧ポンプ11の回転速度に応じて決定される。レギュレータ11aは、油圧ポンプ11の吸収トルク(入力トルク)が、コントローラ100によって設定された最大ポンプ吸収トルクを超えないように、押しのけ容積を調節する。
【0017】
油圧ポンプ11から吐出された圧油はコントロールバルブ21a,21bを介して作業用のアクチュエータであるアームシリンダ117、バケットシリンダ115に供給され、各アクチュエータが駆動される。コントロールバルブ21aおよびコントロールバルブ21bはアーム操作レバー31aおよびバケット操作レバー31bにより操作され、油圧ポンプ11からアームシリンダ117およびバケットシリンダ115への圧油の流れを制御する。アーム操作レバー31aは、アーム111の上昇/下降指令を出力し、バケット操作レバー31bは、バケット112のチルト/ダンプ指令を出力する。コントロールバルブ21a,21bを操作する操作レバー31a,31bは、電気式レバーであってもよいし、油圧パイロット式レバーであってもよい。
【0018】
トルコン2は入力トルクに対して出力トルクを増大させる機能、つまりトルク比を1以上とする機能を有する。トルク比は、トルコン2の入力軸の回転速度Ni(以下、入力軸回転速度Niとも記す)と、トルコン2の出力軸の回転速度No(以下、出力軸回転速度Noとも記す)との比であるトルコン速度比e(=出力軸回転速度No/入力軸回転速度Ni)の増加に伴い小さくなる。たとえばエンジン回転速度が一定状態で走行中に走行負荷が大きくなると、出力軸回転速度Noが低下、つまり車速が低下し、トルコン速度比eが小さくなる。このとき、トルク比は増加するため、より大きな走行駆動力(牽引力)で車両走行可能となる。なお、平地走行においてアクセルペダル152を戻し操作して、慣性により走行する場面や、駆動力を必要としない下り坂を降下走行する場面では、速度比eは1以上になる。
【0019】
トランスミッション3は、1速〜5速の各速度段に対応したソレノイド弁を有する自動変速機である。これらソレノイド弁は、コントローラ100からトランスミッション制御装置20へ出力される制御信号によって駆動され、トランスミッション3は制御信号に応じて変速される。
【0020】
ホイールローダは、ホイールローダの各部を制御するコントローラ100と、エンジン190を制御するエンジンコントローラ19とを備えている。コントローラ100およびエンジンコントローラ19は、それぞれCPUや記憶装置であるROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ100には、トルコン2の入力軸の回転速度を検出する入力側回転速度検出器14と、トルコン2の出力軸の回転速度を検出する出力側回転速度検出器15と、ホイールローダの走行速度(以下、車速と記す)を検出する車速検出器12とが接続されている。
【0021】
コントローラ100は、速度比演算部100aを機能的に備えている。速度比演算部100aは、入力側回転速度検出器14で検出した入力軸回転速度Niと、出力側回転速度検出器15で検出した出力軸回転速度Noとに基づき、トルコン速度比e(=出力軸回転速度No/入力軸回転速度Ni)を算出する。
【0022】
コントローラ100には、車両の前後進を指令する前後進切換レバー17が接続され、前後進切換レバー17の操作位置(前進(F)/中立(N)/後進(R))がコントローラ100によって検出される。コントローラ100は、前後進切換レバー17が前進(F)位置に切り換えられると、トランスミッション3の前進クラッチ(不図示)を係合状態とするための制御信号をトランスミッション制御装置20に出力する。コントローラ100は、前後進切換レバー17が後進(R)位置に切り換えられると、トランスミッション3の後進クラッチ(不図示)を係合状態とするための制御信号をトランスミッション制御装置20に出力する。
【0023】
トランスミッション制御装置20では、前進または後進クラッチ(不図示)を係合状態とするための制御信号を受信すると、トランスミッション制御装置20に設けられているクラッチ制御弁(不図示)が動作して、前進または後進クラッチ(不図示)が係合状態とされ、作業車両の進行方向が前進側または後進側に切り換えられる。
【0024】
コントローラ100は、前後進切換レバー17が中立(N)位置に切り換えられると、前進および後進クラッチ(不図示)を解放状態とするための制御信号をトランスミッション制御装置20に出力する。これにより、前進および後進クラッチ(不図示)は解放状態とされ、トランスミッション3は中立状態となる。
【0025】
コントローラ100には、1速〜5速の間で速度段の上限を指令するシフトスイッチ18が接続されており、トランスミッション3はシフトスイッチ18により選択された速度段を上限として自動変速される。たとえばシフトスイッチ18により3速が選択されると速度段は1速、2速または3速となり、1速が選択されると速度段は1速に固定される。
【0026】
自動変速制御には、トルコン速度比eが所定値に達すると変速するトルコン速度比基準制御と、車速vが所定値に達すると変速する車速基準制御の2つの方式がある。本実施の形態では、車速基準制御によりトランスミッション3の速度段を制御する。
【0027】
図3は、車速vと速度段の関係を示す図である。本実施の形態では、コントローラ100が車速vに応じてトランスミッション制御装置20に制御信号を出力し、
図3に示すように車速vに応じてトランスミッション3を変速する。すなわち車速vが変速許可車速v12に上昇すると1速から2速にシフトアップし、車速vが変速許可車速v23に上昇すると2速から3速にシフトアップする。車速vが変速許可車速v34に上昇すると3速から4速にシフトアップし、車速vが変速許可車速v45に上昇すると4速から5速にシフトアップする。
【0028】
一方、車速vが変速許可車速v54に低下すると5速から4速にシフトダウンし、車速vが変速許可車速v43に低下すると4速から3速にシフトダウンする。車速vが変速許可車速v32に低下すると3速から2速にシフトダウンし、車速vが変速許可車速v21に低下すると2速から1速にシフトダウンする。なお、シフトチェンジを安定して行うように、変速許可車速v12,v23,v34,v45はそれぞれ変速許可車速v21,v32,v43,v54よりも大きく設定されている(v21<v12,v32<v23,v43<v34,v54<v45)。これらの各変速許可車速はシフトアップまたはシフトダウンを許可する閾値であり、予めコントローラ100の記憶装置に記憶されている。コントローラ100は、トランスミッション3の現在の設定速度段を検出する。
【0029】
コントローラ100には、アクセルペダル152のペダル操作量(ペダルストロークまたはペダル角度)を検出する操作量センサ152aと、エンジン190の実エンジン回転速度を検出する回転速度センサ13とが接続されている。
【0030】
コントローラ100は、目標速度設定部100bを機能的に備えている。目標速度設定部100bは、操作量センサ152aで検出したアクセルペダル152のペダル操作量(踏込量)に応じてエンジン190の目標エンジン回転速度(指令速度)Ntを設定する。
図4は、アクセルペダル152の操作量Lと目標エンジン回転速度Ntの関係を示す図である。コントローラ100の記憶装置には、
図4に示す目標エンジン回転速度特性Tnのテーブルが記憶されており、目標速度設定部100bは特性Tnのテーブルを参照し、操作量センサ152aで検出された操作量Lに基づいて目標エンジン回転速度Ntを設定する。アクセルペダル152の非操作時(0%)の目標エンジン回転速度Ntはローアイドル回転速度Nsに設定される。アクセルペダル152のペダル操作量Lの増加に伴い目標エンジン回転速度Ntは増加する。ペダル最大踏み込み時(100%)の目標エンジン回転速度Ntは定格点における定格回転速度Nmaxとなる。
【0031】
図2に示すように、コントローラ100は、設定した目標エンジン回転速度Ntに対応した制御信号、ならびに、回転速度センサ13で検出された実エンジン回転速度Naに対応した制御信号をエンジンコントローラ19に出力する。エンジンコントローラ19は、コントローラ100からの目標エンジン回転速度Ntと実エンジン回転速度Naとを比較して、実エンジン回転速度Naを目標エンジン回転速度Ntに近づけるために燃料噴射装置190aを制御する。
【0032】
図2に示すように、コントローラ100は、アイドルアップ条件判定部100cと、解除条件判定部100dと、アイドルアップモードと通常モードとの間でモードを切り換えて設定するモード設定部100eと、目標速度補正部100fとを機能的に備えている。アイドルアップ条件判定部100cは、通常モードが設定されているときに、ホイールローダが惰性走行中であるか否かを判定する、すなわちエンジン190の駆動力で走行している車両が惰性走行を開始したか否かを判定する。アイドルアップ条件判定部100cは、惰性走行が開始されて車両が惰性走行中である場合、アイドルアップ条件が成立していると判定する。なお、惰性走行とは、エンジンの駆動力を用いず車体の慣性力で走行している状態、もしくは、エンジン駆動力よりも車体の慣性力の方が大きい状態で走行している状態のことをいう。
【0033】
本実施の形態では、モードフラグFが「0」に設定されている場合(通常モード時)において、次の(条件1−1A)の条件が成立したときに、通常モード時においてホイールローダが惰性走行中である、すなわちアイドルアップ条件が成立していると判定する。
(条件1−1A)トルコン速度比eが閾値eh以上である場合
閾値ehは、エンジンストールが発生しやすい状態のトルコン速度比から所定値だけ低い値、すなわちエンジンストールが発生しない状態のトルコン速度比となるように余裕を持たせた値(たとえば、1.2)であり、予め記憶装置に記憶されている。
【0034】
解除条件判定部100dは、アイドルアップモードが設定されているときに、ホイールローダが惰性走行中であるか否かを判定する、すなわち惰性走行が終了したか否かを判定する。解除条件判定部100dは、惰性走行が終了して車両が惰性走行中でない場合、解除条件が成立していると判定する。
【0035】
本実施の形態では、モードフラグFが「1」に設定されている場合(アイドルアップモード時)において、次の(条件1−1B)の条件が成立したときに、アイドルアップモード時においてホイールローダが惰性走行中でない、すなわち惰性走行が終了して解除条件が成立していると判定する。
(条件1−1B)トルコン速度比eが閾値el未満である場合
閾値elは、閾値ehよりも低い値(たとえば、0.8)であり、予め記憶装置に記憶されている。閾値ehよりも所定値だけ小さい値とすることで、エンジン制御モードの切り換えに起因した、エンジン回転速度のハンチングを防止することができる。
【0036】
モード設定部100eは、アイドルアップ条件判定部100cでアイドルアップ条件が成立したと判定された場合、エンジン制御モードをアイドルアップモードに設定する。アイドルアップモードの設定は、モードフラグFが「1」に設定されることで行われる。モード設定部100eは、解除条件判定部100dで解除条件が成立したと判定された場合、エンジン制御モードを通常モードに設定する。通常モードの設定は、モードフラグFが「0」に設定されることで行われる。モードフラグFの情報は、コントローラ100の記憶装置に記憶される。
【0037】
目標速度補正部100fは、エンジン制御モードがアイドルアップモードに設定されている場合に、目標速度設定部100bにより設定された目標エンジン回転速度NtをΔNだけ増加させるように補正する。本実施の形態では、増加速度ΔNは、一定値であり、予めコントローラ100の記憶装置に記憶されている。
【0038】
したがって、車両がエンジン190の駆動力で走行している動力走行状態から惰性走行状態に移行すると、目標速度補正部100fで増加補正された目標エンジン回転速度に対応する制御信号がコントローラ100からエンジンコントローラ19に出力される。車両が惰性走行を終了して、惰性走行状態から動力走行状態に移行すると、目標速度設定部100bで設定された目標エンジン回転速度に対応する制御信号がエンジンコントローラ19に出力される。
【0039】
図5は、土砂等をダンプトラックへ積み込む方法の1つであるVシェープローディングについて示す図である。
図6は、ホイールローダによる掘削作業を示す図である。Vシェープローディングでは、
図5の矢印aで示すように、ホイールローダを土砂等の地山130に向かって前進させる。
【0040】
図6に示すように、地山130にバケット112を突入し、バケット112を操作してからアーム111を上げ操作する、あるいはバケット112とアーム111を同時に操作しながら最後にアーム111のみを上げ操作して掘削作業を行う。
【0041】
掘削作業が終了すると、
図5の矢印bで示すように、ホイールローダを一旦後退させる。矢印cで示すように、ダンプトラックに向けてホイールローダを前進させて、ダンプトラックの手前で停止し、すくい込んだ土砂等をダンプトラックに積み込み、矢印dで示すように、ホイールローダを元の位置に後退させる。以上が、Vシェープローディングによる掘削、積み込み作業の基本的な動作である。
【0042】
上記した掘削、積み込み作業中、たとえば、
図5の矢印bで示すように、後進中のホイールローダを矢印cで示すように前進させる際に、運転者はアクセルペダル152を戻し操作し、前後進切換レバー17を後進から前進に切り換え操作して、アクセルペダル152を踏み込み操作する。さらに、ダンプトラックでの積み込み作業を考え、車体を一旦停止させずに後進から前進へ移行する際にアーム操作レバー31aを上げ側に操作してアーム111を上昇させることもある。車体を停止させずに後進から前進へ移行する際には、後方への車体の慣性エネルギーが、トルクコンバータ2を介してエンジン190に負荷として作用する。このため、前後進切換レバー17を切り換え操作したときに、車体およびフロント作業装置を駆動させるために必要なエンジン出力トルクが不足してエンジンストールが起こりやすい。なお、バケット112に積載される土砂等の重量が大きく、車速が高いほど、後進から前進への移行の際に車体へ作用する慣性エネルギーが大きくなるため、エンジンストールの発生の可能性が高くなる。
【0043】
本実施の形態では、ホイールローダが惰性走行中であることが判定されると、目標エンジン回転速度Ntが増加補正される。たとえば、後進から前進への移行の際にアクセルペダル152が完全に解放された場合、ローアイドル回転速度NsからΔNだけ大きい目標エンジン回転速度Ntにしたがって実エンジン回転速度Naが制御される。その結果、アクセルペダル152が解放された後のエンジン出力トルクの低下を抑え、前後進切換レバー17が切り換え操作される際に、エンジンストールが発生しない程度のエンジン出力トルクを確保できる。このように、後進から前進への移行の際に後方への車体の慣性エネルギーがエンジン190に負荷として作用した場合であっても、目標エンジン回転速度Ntが増加補正されることでエンジンストールが防止される。
【0044】
以下、目標エンジン回転速度Ntの増加補正制御を、
図7のフローチャートを用いて説明する。
図7は、コントローラ100によるエンジン回転速度の制御処理の動作を示したフローチャートである。イグニッションスイッチ(不図示)がオンされると、図示しない初期設定が行われた後、
図7に示す処理を行うプログラムが起動され、コントローラ100で繰り返し実行される。なお、初期設定において、モードフラグFは「0」に設定される。
【0045】
ステップS10において、コントローラ100は、エンジン制御モードの設定情報、すなわちモードフラグFの情報と、操作量センサ152aで検出されたアクセルペダル152の操作量Lの情報を取得して、ステップS20へ進む。
【0046】
ステップS20において、コントローラ100は、目標エンジン回転速度特性Tnのテーブル(
図4参照)を参照し、ステップS10で取得した操作量Lに基づいて目標エンジン回転速度Ntを演算、設定し、ステップS30へ進む。
【0047】
ステップS30において、コントローラ100は、エンジン制御モードの状態を表すモードフラグFが「1」であるか否かを判定する。モードフラグFが「1」に設定されている場合、コントローラ100は、アイドルアップモードが設定されていると判定し、ステップS40へ進む。モードフラグFが「0」に設定されている場合、コントローラ100は、通常モードが設定されていると判定し、ステップS50へ進む。
【0048】
ステップS40において、コントローラ100は、ステップS20で演算された目標エンジン回転速度Ntに、増加速度ΔNを加算し、これを新たな目標エンジン回転速度Ntとして設定し、ステップS50へ進む。換言すれば、ステップS40では、ステップS20で演算した目標エンジン回転速度Ntを増加させるように補正する。
【0049】
ステップ50において、コントローラ100は、エンジンコントローラ19に目標エンジン回転速度Ntに対応する制御信号を出力する。エンジンコントローラ19は、エンジン190の実回転速度Naを目標エンジン回転速度Ntに近づけるために燃料噴射装置190aを制御する。
【0050】
モードフラグの設定制御を、
図8のフローチャートを用いて説明する。
図8は、コントローラ100によるモードフラグの設定制御処理の動作を示したフローチャートである。イグニッションスイッチ(不図示)がオンされると、
図8に示す処理を行うプログラムが起動され、コントローラ100で繰り返し実行される。
【0051】
ステップS100において、コントローラ100は、エンジン制御モードの設定情報、すなわちモードフラグFの情報と、入力側回転速度検出器14で検出された入力軸回転速度Niと、出力側回転速度検出器15で検出された出力軸回転速度Noの情報を取得してステップS110へ進む。
【0052】
ステップS110において、コントローラ100は、ステップS100で取得した入力軸回転速度Niと出力軸回転速度Noに基づいてトルコン速度比eを演算し、ステップS120へ進む。
【0053】
ステップS120において、コントローラ100は、ステップ100で取得したモードフラグFが「0」に設定されているか否かを判定する。モードフラグFが「0」に設定されている場合、コントローラ100は、通常モードが設定されていると判定し、ステップS130へ進む。モードフラグFが「1」に設定されている場合、コントローラ100は、アイドルアップモードが設定されていると判定し、ステップS140へ進む。
【0054】
ステップS130において、コントローラ100は、ステップS110で演算されたトルコン速度比eが閾値eh以上であるか否かを判定する。ステップS130で肯定判定されると、コントローラ100は、ホイールローダが惰性走行中である、すなわちアイドルアップ条件が成立していると判定してステップS150へ進む。ステップS130で否定判定されると、コントローラ100は、ホイールローダが惰性走行中でない、すなわちアイドルアップ条件は非成立であると判定してステップS100へ戻る。
【0055】
ステップS140において、コントローラ100は、ステップS110で演算されたトルコン速度比eが閾値el未満であるか否かを判定する。ステップS140で肯定判定されると、コントローラ100は、ホイールローダが惰性走行中でない、すなわち解除条件が成立したと判定してステップS160へ進む。ステップS140で否定判定されると、コントローラ100は、ホイールローダが惰性走行中である、すなわち解除条件は非成立であると判定してステップS100へ戻る。
【0056】
ステップS150において、コントローラ100は、モードフラグFを「1」に設定してステップS100へ戻る。ステップS160において、コントローラ100は、モードフラグFを「0」に設定してステップS100へ戻る。
【0057】
第1の実施の形態の動作をまとめると次のようになる。掘削作業によりバケット112に対象物を積み込んで、
図5の矢印bで示すように、後進中のホイールローダを矢印cで示すように前進させる際に、運転者がアクセルペダル152を戻し操作すると、入力軸回転速度Niおよび出力軸回転速度Noが低下する。
【0058】
戻し操作からの経過時間に対する入力軸回転速度Niの変化量の割合、すなわち、入力軸回転速度Niの低下率は、戻し操作からの経過時間に対する出力軸回転速度Noの変化量の割合、すなわち、出力軸回転速度Noの低下率よりも大きい。つまり、出力軸回転速度Noに比べて入力軸回転速度Niの方が短時間で低下するため、トルコン速度比eが増加する。
【0059】
トルコン速度比eが閾値eh以上になると、コントローラ100は、惰性走行が開始されたことを判定して(ステップS120→S130でYes)、エンジン制御モードが「通常モード」から「アイドルアップモード」に変更されて(ステップS150)、増加補正された目標エンジン回転速度Ntに実エンジン回転速度Naが近づくように燃料噴射装置190aが制御される(ステップS20→S30→S40→S50)。その結果、後進から前進への移行の際に、通常モード時に比べてエンジン出力トルクの低下を抑制できる。つまり、運転者が前後進切換レバー17を前進(F)に切り換えたときに、エンジンストールが発生しない程度のエンジン出力トルクを確保することができる。
【0060】
運転者が前後進切換レバー17を前進(F)に切り換え、アクセルペダル152を踏み込んで前進走行に移行すると、走行負荷の上昇によりトルコン速度比eが低下する。トルコン速度比eが閾値el未満になると、コントローラ100は、惰性走行が終了したこと判定して(ステップS120→S140でYes)、エンジン制御モードが「アイドルアップモード」から「通常モード」に変更されて(ステップS160)、ペダル操作量Lによって設定された目標エンジン回転速度Ntに実エンジン回転速度Naが近づくように燃料噴射装置190aが制御される(ステップS20→S30→S50)。
【0061】
なお、停止中は、トルコン速度比eが閾値el未満であるため、エンジン制御モードは「通常モード」に設定されている。
【0062】
以上説明した第1の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
コントローラ100は、作業車両が惰性走行中であるか否かを判定する機能と、惰性走行中であることが判定された場合に目標エンジン回転速度Ntを増加させるように補正する機能を備えている。これにより、アクセルペダル152の戻し操作後、前後進切換操作がなされる前に目標エンジン回転速度の増加補正がなされるため、後進から前進への移行時、あるいは、前進から後進への移行時におけるエンジンストールの発生を確実に防止できる。本実施の形態によれば、エンジン190の小型化に伴い、トランスミッション3を多段化した場合であっても、エンジンストールの発生を防止できる。
【0063】
−第2の実施の形態−
図9および
図10を参照して本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、第1の実施の形態との相違点について主に説明する。
図9は、
図2と同様の図であり、本発明の第2の実施の形態に係るホイールローダの概略構成を示す図である。第2の実施の形態に係るホイールローダは、第1の実施の形態に係るホイールローダと同様の構成を有している。
【0064】
第2の実施の形態が第1の実施の形態と異なる点は、コントローラ200で判定されるアイドルアップ条件と、解除条件である。第1の実施の形態では、アイドルアップ条件判定部100cは、モードフラグFが「0」に設定されている場合において、(条件1−1A)の条件が成立したときに、アイドルアップ条件が成立していると判定した。これに対して、第2の実施の形態では、アイドルアップ条件判定部200cは、次の(条件2−1A)、(条件2−2A)の全ての条件が成立したときに、通常モード時においてホイールローダが惰性走行中である、すなわちアイドルアップ条件が成立していると判定する。
(条件2−1A)ペダル操作量Lが閾値Ll未満である場合
(条件2−2A)車速vが閾値vh以上である場合
【0065】
(条件2−1A)は、アクセルペダル152の踏み込み操作がなされていないことを判定するために定められた条件である。閾値Llは、アクセルペダル152がほとんど踏み込まれていない操作量に相当し、予め記憶装置に記憶されている。
【0066】
(条件2−2A)は、車両が走行していることを判定するために定められた条件である。閾値vhは、0km/hより大きい値(たとえば、2km/h)であり、予め記憶装置に記憶されている。
【0067】
第1の実施の形態では、解除条件判定部100dが(条件1−1B)の条件が成立したときに、解除条件が成立していると判定した。これに対して、第2の実施の形態では、解除条件判定部200dは、次の(条件2−1B)、(条件2−2B)のいずれかの条件が成立したときに、アイドルアップモード時においてホイールローダが惰性走行中でない、すなわち解除条件が成立していると判定する。
(条件2−1B)ペダル操作量Lが閾値Lh以上である場合
(条件2−2B)車速vが閾値vl未満である場合
【0068】
(条件2−1B)は、アクセルペダル152の踏み込み操作がなされていることを判定するために定められた条件である。閾値Lhは、閾値Llよりも大きい値であり、予め記憶装置に記憶されている。
【0069】
(条件2−2B)は、車両が停止していることを判定するために定められた条件である。閾値vlは、0km/hより大きい値であって、かつ、閾値vhよりも小さい値であり、予め記憶装置に記憶されている。
【0070】
第2の実施の形態に係るエンジン制御装置のコントローラ200によるモードフラグの設定制御を、
図10のフローチャートを用いて説明する。
図10は、コントローラ200によるモードフラグの設定制御処理の動作を示したフローチャートである。
図10のフローチャートは、
図8のフローチャートのステップS110を削除し、ステップS100,S130,S140のそれぞれに代えて、ステップS200,S230,S240を追加したものである。
【0071】
図10に示すように、第2の実施の形態では、ステップS200において、モードフラグFの設定情報、車速検出器12で検出された車速vおよび操作量センサ152aで検出されたペダル操作量Lの情報を取得して、ステップS120へ進み、モードフラグFが「0」に設定されているか否かを判定する。ステップS120で肯定判定されるとステップS230へ進み、否定判定されるとステップS240へ進む。
【0072】
ステップS230において、コントローラ200は、ステップS200で取得したペダル操作量Lが閾値Ll未満であり、かつ、ステップS200で取得した車速vが閾値vh以上であるか否かを判定する。ステップS230で肯定判定されると、コントローラ200は、ホイールローダが惰性走行中である、すなわちアイドルアップ条件が成立していると判定してステップS150へ進む。ステップS230で否定判定されると、コントローラ200は、ホイールローダが惰性走行中でない、すなわちアイドルアップ条件は非成立であると判定してステップS200へ戻る。
【0073】
ステップS240において、コントローラ200は、ステップS200で取得したペダル操作量Lが閾値Lh以上であるか否か、および、ステップS200で取得した車速vが閾値vl未満であるか否かを判定する。ステップS240で肯定判定されると、すなわちペダル操作量Lが閾値Lh以上であると判定される、または、車速vが閾値vl未満であると判定されると、コントローラ200は、ホイールローダが惰性走行中でない、すなわち解除条件が成立したと判定してステップS160へ進む。ステップS240で否定判定されると、すなわちペダル操作量Lが閾値Lh未満であり、かつ、車速vが閾値vl以上であると判定されると、コントローラ200は、ホイールローダが惰性走行中である、すなわち解除条件は非成立であると判定してステップS200へ戻る。
【0074】
第1の実施の形態と同様に、ステップS150において、コントローラ200は、モードフラグFを「1」に設定してステップS200へ戻る。ステップS160において、コントローラ200は、モードフラグFを「0」に設定してステップS200へ戻る。
【0075】
第2の実施の形態の動作をまとめると次のようになる。掘削作業によりバケット112に対象物を積み込んで、
図5の矢印bで示すように、後進中のホイールローダを矢印cで示すように前進させる際に、運転者はアクセルペダル152の戻し操作を行う。このとき、ペダル操作量Lが閾値Ll未満であり、かつ、車速vが閾値vh以上であると、コントローラ200が惰性走行中であると判定して(ステップS120→S230でYes)、エンジン制御モードが「通常モード」から「アイドルアップモード」に変更されて(ステップS150)、増加補正された目標エンジン回転速度Ntに実エンジン回転速度Naが近づくように燃料噴射装置190aが制御される(ステップS20→S30→S40→S50)。その結果、後進から前進への移行の際に、通常モード時に比べてエンジン出力トルクの低下を抑制できる。つまり、運転者が前後進切換レバー17を前進(F)に切り換えたときに、エンジンストールが発生しない程度のエンジン出力トルクを確保することができる。
【0076】
運転者が前後進切換レバー17を前進(F)に切り換え、アクセルペダル152を踏み込んで前進走行に移行すると、ペダル操作量Lが閾値Lh以上となり、コントローラ200は惰性走行が終了したことを判定して(ステップS120→S240でYes)、エンジン制御モードが「アイドルアップモード」から「通常モード」に変更されて(ステップS160)、ペダル操作量Lによって設定された目標エンジン回転速度Ntに実エンジン回転速度Naが近づくように燃料噴射装置190aが制御される(ステップS20→S30→S50)。
【0077】
なお、惰性走行中にブレーキペダル(不図示)を踏み込んで、走行中の車両を停止させると、車速vが閾値vl未満となり、コントローラ200は惰性走行が終了したことを判定してエンジン制御モードが「アイドルアップモード」から「通常モード」に変更される(ステップS120→S240→S160)。停止中は、車速vが閾値vl未満であるため、エンジン制御モードは「通常モード」に設定されている。
【0078】
このような第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の作用効果が得られる。
【0079】
−第2の実施の形態の変形例−
第2の実施の形態では、車両が走行しているか否かを判定するために(条件2−2A)、(条件2−2B)の車速の閾値Vhが定められた例について説明したが、エンジンストールが発生しやすい状態の車速を考慮して閾値Vhを定めてもよい。
【0080】
この場合、実験等によりエンジンストールが発生しやすい状態の車速や、発生しない状態の車速を評価しておき、エンジンストールが発生しやすい状態の車速から所定値だけ低い値、すなわちエンジンストールが発生しない状態の車速となるように余裕を持たせた値(たとえば、12km/h)を閾値Vhとして定め、予め記憶装置に記憶させておく。閾値vlは、閾値vhよりも低い値(たとえば、7km/h)であり、予め記憶装置に記憶されている。
【0081】
このような第2の実施の形態の変形例によれば、第2の実施の形態の作用効果に加え、次の作用効果が得られる。
車速が低いときは、車速が高いときに比べて前後進切り換えの際に車体に発生する慣性力が小さい。予めエンジンストールが発生しない車速を実験等により調べておき、エンジンストールが発生しない低速走行状態では、目標エンジン回転速度の増加補正をしないようにすることで、燃費の低減を図ることができる。
【0082】
−第3の実施の形態−
図11および
図12を参照して本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、第2の実施の形態との相違点について主に説明する。
図11は、
図9と同様の図であり、本発明の第3の実施の形態に係るホイールローダの概略構成を示す図である。第3の実施の形態に係るホイールローダは、第2の実施の形態に係るホイールローダと同様の構成を有している。
【0083】
第3の実施の形態が第2の実施の形態と異なる点は、コントローラ300で判定されるアイドルアップ条件と、解除条件である。第2の実施の形態では、アイドルアップ条件判定部200cは、モードフラグFが「0」に設定されている場合において、(条件2−1A)、(条件2−2A)の全ての条件が成立したときに、アイドルアップ条件が成立していると判定した。これに対して、第3の実施の形態では、アイドルアップ条件判定部300cは、次の(条件2−1A)、(条件3−2A)の全ての条件が成立したときに、通常モード時においてホイールローダが惰性走行中である、すなわちアイドルアップ条件が成立していると判定する。
(条件2−1A)ペダル操作量Lが閾値Ll未満である場合
(条件3−2A)速度段が高速度段に設定されている場合
【0084】
(条件2−1A)は、第2の実施の形態で説明した条件と同じである。
(条件3−2A)は、エンジンストールが発生しやすい状態の速度段で走行していることを判定するために定められた条件である。本実施の形態において、高速度段とは3速以上の速度段のことを指す。
【0085】
第2の実施の形態では、解除条件判定部200dが(条件2−1B)、(条件2−2B)のいずれかの条件が成立したときに、解除条件が成立していると判定した。これに対して、第3の実施の形態では、解除条件判定部300dは、次の(条件2−1B)、(条件3−2B)のいずれかの条件が成立したときに、アイドルアップモード時においてホイールローダが惰性走行中でない、すなわち解除条件が成立していると判定する。
(条件2−1B)ペダル操作量Lが閾値Lh以上である場合
(条件3−2B)速度段が低速度段に設定されている場合
【0086】
(条件2−1B)は、第2の実施の形態で説明した条件と同じである。
(条件3−2B)は、エンジンストールが発生しない状態の速度段で走行していることを判定するために定められた条件である。
【0087】
第3の実施の形態に係るエンジン制御装置のコントローラ300によるモードフラグの設定制御を、
図12のフローチャートを用いて説明する。
図12は、コントローラ300によるモードフラグの設定制御処理の動作を示したフローチャートである。
図12のフローチャートは、
図10のフローチャートのステップS200,S230,S240のそれぞれに代えて、ステップS300,S330,S340を追加したものである。
【0088】
図12に示すように、第3の実施の形態では、ステップS300において、モードフラグF、操作量センサ152aで検出されたペダル操作量Lおよびトランスミッション3の設定速度段の情報を取得して、ステップS120へ進み、モードフラグFが「0」に設定されているか否かを判定する。ステップS120で肯定判定されるとステップS330へ進み、否定判定されるとステップS340へ進む。
【0089】
ステップS330において、コントローラ300は、ステップS300で取得したペダル操作量Lが閾値Ll未満であり、かつ、ステップS300で取得した設定速度段が高速度段、すなわち3速以上であるか否かを判定する。ステップS330で肯定判定されると、コントローラ300は、ホイールローダが惰性走行中である、すなわちアイドルアップ条件が成立していると判定してステップS150へ進む。ステップS330で否定判定されると、コントローラ300は、ホイールローダが惰性走行中でない、すなわちアイドルアップ条件は非成立であると判定してステップS300へ戻る。
【0090】
ステップS340において、コントローラ300は、ステップS300で取得したペダル操作量Lが閾値Lh以上であるか否か、および、ステップS300で取得した設定速度段が低速度段、すなわち2速以下であるか否かを判定する。ステップS340で肯定判定されると、すなわちペダル操作量Lが閾値Lh以上であると判定される、または、設定速度段が低速度段であると判定されると、コントローラ300は、ホイールローダが惰性走行中でない、すなわち解除条件が成立したと判定してステップS160へ進む。ステップS340で否定判定されると、すなわちペダル操作量Lが閾値Lh未満であり、かつ、設定速度段が高速度段であると判定されると、コントローラ300は、ホイールローダが惰性走行中である、すなわち解除条件は非成立であると判定してステップS300へ戻る。
【0091】
第3の実施の形態の動作をまとめると次のようになる。掘削作業によりバケット112に対象物を積み込んで、
図5の矢印bで示すように、後進中のホイールローダを矢印cで示すように前進させる際に、運転者はアクセルペダル152の戻し操作を行う。このとき、ペダル操作量Lが閾値Ll未満であり、かつ、トランスミッション3の設定速度段が高速度段であると、コントローラ200が惰性走行中であると判定して(ステップS120→S330でYes)、エンジン制御モードが「通常モード」から「アイドルアップモード」に変更されて(ステップS150)、増加補正された目標エンジン回転速度Ntに実エンジン回転速度Naが近づくように燃料噴射装置190aが制御される(ステップS20→S30→S40→S50)。その結果、後進から前進への移行の際に、通常モード時に比べてエンジン出力トルクの低下を抑制できる。つまり、運転者が前後進切換レバー17を前進(F)に切り換えたときに、エンジンストールが発生しない程度のエンジン出力トルクを確保することができる。
【0092】
運転者が前後進切換レバー17を前進(F)に切り換え、アクセルペダル152を踏み込んで前進走行に移行すると、ペダル操作量Lが閾値Lh以上となり、コントローラ300は惰性走行が終了したことを判定して(ステップS120→S340でYes)、エンジン制御モードが「アイドルアップモード」から「通常モード」に変更されて(ステップS160)、ペダル操作量Lによって設定された目標エンジン回転速度Ntに実エンジン回転速度Naが近づくように燃料噴射装置190aが制御される(ステップS20→S30→S50)。
【0093】
なお、惰性走行中にブレーキペダル(不図示)を踏み込んで、走行中の車両を停止させる場合、車速vの低下に応じてトランスミッション3の速度段が低速度段に変速され、コントローラ300は惰性走行が終了したことを判定してエンジン制御モードが「アイドルアップモード」から「通常モード」に変更される(ステップS120→S240→S160)。停止中は、設定速度段が低速度段であるため、エンジン制御モードは「通常モード」に設定されている。
【0094】
このような第3の実施の形態によれば、第2の実施の形態と同様の作用効果に加え、次の作用効果が得られる。
速度段は車速に応じて切り換えられる(
図3参照)。このため設定速度段が低速度段のときには高速度段のときにくらべて車速が低く、前後進切り換えの際に車体に発生する慣性力が小さい。予めエンジンストールが発生しない速度段を実験等により調べておき、エンジンストールが発生しない低速度段での走行状態では、目標エンジン回転速度の増加補正をしないようにすることで、燃費の低減を図ることができる。つまり、第3の実施の形態では、第2の実施の形態の変形例と同様の作用効果が得られる。
【0095】
−第4の実施の形態−
図13および
図14を参照して本発明の第4の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、第1の実施の形態との相違点について主に説明する。
図13は、
図2と同様の図であり、本発明の第4の実施の形態に係るホイールローダの概略構成を示す図である。第4の実施の形態に係るホイールローダは、第1の実施の形態に係るホイールローダと同様の構成を有している。
【0096】
第4の実施の形態が第1の実施の形態と異なる点は、コントローラ400で判定されるアイドルアップ条件と、解除条件である。第1の実施の形態では、アイドルアップ条件判定部100cは、モードフラグFが「0」に設定されている場合において、(条件1−1A)の条件が成立したときに、アイドルアップ条件が成立していると判定した。これに対して、第4の実施の形態では、アイドルアップ条件判定部400cは、第1の実施の形態で説明した(条件1−1A)と、第2の実施の形態の変形例で説明した(条件2−2A)の全ての条件が成立したときに、通常モード時においてホイールローダが惰性走行中である、すなわちアイドルアップ条件が成立していると判定する。
(条件1−1A)トルコン速度比eが閾値eh以上である場合
(条件2−2A)車速vが閾値vh以上である場合
【0097】
閾値vhは、第2の実施の形態の変形例と同様に、エンジンストールが発生しやすい状態の車速から所定値だけ低い値、すなわちエンジンストールが発生しない状態の車速となるように余裕を持たせた値(たとえば、12km/h)であり、予め記憶装置に記憶されている。
【0098】
第1の実施の形態では、解除条件判定部100dが(条件1−1B)の条件が成立したときに、解除条件が成立していると判定した。これに対して、第4の実施の形態では、解除条件判定部400dは、第1の実施の形態で説明した(条件1−1B)と、第2の実施の形態の変形例で説明した(条件2−2B)のいずれかの条件が成立したときに、アイドルアップモード時においてホイールローダが惰性走行中でない、すなわち解除条件が成立していると判定する。
(条件1−1B)トルコン速度比eが閾値el未満である場合
(条件2−2B)車速vが閾値vl未満である場合
【0099】
閾値vlは、閾値vhよりも低い値(たとえば、7km/h)であり、予め記憶装置に記憶されている。
【0100】
第4の実施の形態に係るエンジン制御装置のコントローラ400によるモードフラグの設定制御を、
図14のフローチャートを用いて説明する。
図14は、コントローラ400によるモードフラグの設定制御処理の動作を示したフローチャートである。
図14のフローチャートは、
図8のフローチャートのステップS100,S130,S140のそれぞれに代えて、ステップS400,S430,S440を追加したものである。
【0101】
図14に示すように、第4の実施の形態では、ステップS400において、モードフラグFの設定情報、入力側回転速度検出器14で検出された入力軸回転速度Ni、出力側回転速度検出器15で検出された出力軸回転速度No、車速検出器12で検出された車速vの情報を取得して、ステップS110へ進む。
【0102】
ステップS430において、コントローラ400は、ステップS110で演算されたトルコン速度比eが閾値eh以上であり、かつ、ステップS400で取得した車速vが閾値vh以上であるか否かを判定する。ステップS430で肯定判定されると、コントローラ400は、ホイールローダが惰性走行中である、すなわちアイドルアップ条件が成立していると判定してステップS150へ進む。ステップS430で否定判定されると、コントローラ400は、ホイールローダが惰性走行中でない、すなわちアイドルアップ条件は非成立であると判定してステップS400へ戻る。
【0103】
ステップS440において、コントローラ400は、ステップS110で演算されたトルコン速度比eが閾値el未満であるか否か、および、ステップS400で取得した車速vが閾値vl未満であるか否かを判定する。ステップS440で肯定判定されると、すなわちトルコン速度比eが閾値el未満であると判定される、または、車速vが閾値vl未満であると判定されると、コントローラ400は、ホイールローダが惰性走行中でない、すなわち解除条件が成立したと判定してステップS160へ進む。ステップS440で否定判定されると、すなわちトルコン速度比eが閾値el以上であり、かつ、車速vが閾値vl以上であると判定されると、コントローラ400は、ホイールローダが惰性走行中である、すなわち解除条件は非成立であると判定してステップS400へ戻る。
【0104】
このような第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の作用効果に加え、次の作用効果が得られる。
車速が低いときは、車速が高いときに比べて前後進切り換えの際に車体に発生する慣性力が小さい。予めエンジンストールが発生しない車速を実験等により調べておき、エンジンストールが発生しない低速走行状態では、目標エンジン回転速度の増加補正をしないようにすることで、燃費の低減を図ることができる。つまり、第4の実施の形態では、第2の実施の形態の変形例と同様の作用効果が得られる。
【0105】
−第5の実施の形態−
図15および
図16を参照して本発明の第5の実施の形態について説明する。なお、第4の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、第4の実施の形態との相違点について主に説明する。
図15は、
図13と同様の図であり、本発明の第5の実施の形態に係るホイールローダの概略構成を示す図である。第5の実施の形態に係るホイールローダは、第4の実施の形態に係るホイールローダと同様の構成を有している。
【0106】
第5の実施の形態が第4の実施の形態と異なる点は、コントローラ500で判定されるアイドルアップ条件と、解除条件である。第4の実施の形態では、アイドルアップ条件判定部400cは、モードフラグFが「0」に設定されている場合において、(条件1−1A)、(条件2−2A)の全ての条件が成立したときに、アイドルアップ条件が成立していると判定した。これに対して、第5の実施の形態では、アイドルアップ条件判定部500cは、第4の実施の形態で説明した(条件1−1A)、(条件2−2A)、ならびに、第3の実施の形態で説明した(条件2−1A)、(条件3−2A)の全ての条件が成立したときに、通常モード時においてホイールローダが惰性走行中である、すなわちアイドルアップ条件が成立していると判定する。
(条件1−1A)トルコン速度比eが閾値eh以上である場合
(条件2−2A)車速vが閾値vh以上である場合
(条件2−1A)ペダル操作量Lが閾値Ll未満である場合
(条件3−2A)速度段が高速度段に設定されている場合
【0107】
第4の実施の形態では、解除条件判定部400dが(条件1−1B)、(条件2−2B)のいずれかの条件が成立したときに、解除条件が成立していると判定した。これに対して、第5の実施の形態では、解除条件判定部500dは、(条件1−1B)、(条件2−2B)の全ての条件が成立したときに、アイドルアップモード時においてホイールローダが惰性走行中でない、すなわち解除条件が成立していると判定する。
(条件1−1B)トルコン速度比eが閾値el未満である場合
(条件2−2B)車速vが閾値vl未満である場合
【0108】
第5の実施の形態に係るエンジン制御装置のコントローラ500によるモードフラグの設定制御を、
図16のフローチャートを用いて説明する。
図16は、コントローラ500によるモードフラグの設定制御処理の動作を示したフローチャートである。
図16のフローチャートは、
図14のフローチャートのステップS400,S430,S440のそれぞれに代えて、ステップS500,S530,S540を追加したものである。
【0109】
図16に示すように、第5の実施の形態では、ステップS500において、モードフラグFの設定情報、入力側回転速度検出器14で検出された入力軸回転速度Ni、出力側回転速度検出器15で検出された出力軸回転速度No、車速検出器12で検出された車速v、および、操作量センサ152aで検出されたペダル操作量Lの情報を取得して、ステップS110へ進む。
【0110】
ステップS530において、コントローラ500は、ステップS110で演算されたトルコン速度比eが閾値eh以上であり、かつ、ステップS500で取得した車速vが閾値vh以上であり、かつ、ステップS500で取得したペダル操作量Lが閾値Ll未満であり、かつ、ステップS500で取得した設定速度段が高速度段であるか否かを判定する。ステップS530で肯定判定されると、コントローラ500は、ホイールローダが惰性走行中である、すなわちアイドルアップ条件が成立していると判定してステップS150へ進む。ステップS530で否定判定されると、コントローラ500は、ホイールローダが惰性走行中でない、すなわちアイドルアップ条件は非成立であると判定してステップS500へ戻る。
【0111】
ステップS540において、コントローラ500は、ステップS110で演算されたトルコン速度比eが閾値el未満であり、かつ、ステップS500で取得した車速vが閾値vl未満であるか否かを判定する。ステップS540で肯定判定されると、コントローラ500は、ホイールローダが惰性走行中でない、すなわち解除条件が成立したと判定してステップS160へ進む。ステップS540で否定判定されると、コントローラ500は、ホイールローダが惰性走行中である、すなわち解除条件は非成立であると判定してステップS500へ戻る。
【0112】
このような第5の実施の形態によれば、第4の実施の形態と同様の作用効果が得られる。第4の実施の形態よりも、アイドルアップ条件および解除条件のそれぞれが成立するための条件を増やすことで、より精密にエンジン回転速度を増速補正する状況を判定することができる。その結果、より燃費の低減を図ることができる。
【0113】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(変形例1)
上述した実施の形態では、前後進切換レバー17の操作状態にかかわらずに、アイドルアップ条件が成立する例について説明した。すなわち、上述した実施の形態では、前進から後進への移行時、ならびに、後進から前進への移行時において、ともにアイドルアップ条件が成立する場合があるが、本発明はこれに限定されない。たとえば、前後進切換レバー17の操作位置を検出して、前後進切換レバー17が後進(R)に操作されている場合にのみ、アイドルアップ条件が成立するように構成してもよい。つまり、前後進切換レバー17の操作状態をアイドルアップ条件成立のための条件として用いてもよい。これにより、後進から前進への移行時にはエンジンストールが発生しやすいが、前進から後進への移行時にはエンジンストールが発生しないといった特性を有するホイールローダにおいて、エンジン回転速度の増加補正制御の実行回数を低減して、より燃費を低減することができる。
【0114】
(変形例2)
アイドルアップ条件と、解除条件とは、異なる実施の形態で説明したもの同士を組み合わせて用いてもよい。たとえば、アイドルアップ条件には、第1の実施の形態で説明した(条件1−1A)を用い、解除条件には、第2の実施の形態で説明した(条件2−1A)、(条件2−2A)を用いることができる。
【0115】
(変形例3)
上述した惰性走行判定処理により目標エンジン回転速度を増加補正する制御の有効化と無効化を切り換える切換スイッチを設けてもよい。掘削、荷役作業を行う場合には、切換スイッチで増加補正制御を有効化しておき、車両を移動させる場合など、フロント作業部を操作せずに車両を走行させる場合には、切換スイッチで増加補正制御を無効化しておくことができる。
【0116】
(変形例4)
コントローラのタイマ機能により、モードフラグが「0」から「1」に切り換えられてからの時間を計測し、計測時間tが予め記憶装置に記憶された閾値tpを経過した場合に、上述した解除条件が成立していない場合であっても、モードフラグを「1」から「0」に切り換えるようにしてもよい。
【0117】
(変形例5)
上述した実施の形態では、1速〜5速に変速可能なトランスミッション3を用いたが、1速〜4速以下または1速〜6速以上に変速可能なトランスミッションを用いてもよい。
【0118】
(変形例6)
上述した実施の形態では、車速基準制御により、トランスミッション3の速度段を制御する例について説明したが、トルコン速度比基準制御により、トランスミッション3の速度段を制御してもよい。
【0119】
(変形例7)
上述した実施の形態では、作業車両の一例としてホイールローダを例に説明したが、本発明はこれに限定されず、たとえば、フォークリフト等、惰性走行中に前後進切換操作部材が操作される作業形態が想定される他の作業車両であってもよい。
【0120】
本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。