特開2015-113740(P2015-113740A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2015113740-エンジンのバルブ構造 図000003
  • 特開2015113740-エンジンのバルブ構造 図000004
  • 特開2015113740-エンジンのバルブ構造 図000005
  • 特開2015113740-エンジンのバルブ構造 図000006
  • 特開2015113740-エンジンのバルブ構造 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-113740(P2015-113740A)
(43)【公開日】2015年6月22日
(54)【発明の名称】エンジンのバルブ構造
(51)【国際特許分類】
   F01L 3/08 20060101AFI20150526BHJP
   F01L 3/20 20060101ALI20150526BHJP
【FI】
   F01L3/08 D
   F01L3/08 A
   F01L3/08 C
   F01L3/08 G
   F01L3/20 C
   F01L3/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-254896(P2013-254896)
(22)【出願日】2013年12月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】忽那 安典
(72)【発明者】
【氏名】村田 光彦
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低油温時にステムエンドとタペットとの当接部の潤滑性能を高め、高油温時にはバルブステムとコッタ間の潤滑性能を高める。
【解決手段】バルブ部材5と、バルブステム5bのステムエンド側に配置されるコッタ8と、コッタ8の外周に配置されるリテーナ7とを備え、熱膨張係数の差異により、オイルの温度が低い時は、バルブステム5bとリテーナ7との間に形成されたオイル流下隙間又はそのオイル流下隙間の他端側の入口を閉塞し、温度が高い時には、オイル流下隙間又はオイル流下隙間の他端側の入口を開放する隙間調整手段を備えるエンジンのバルブ構造とした。隙間調整手段は、バルブステム5bとコッタ8又はコッタ8のステムエンド側に配置されたOリング9とからなり、バルブステム5bの素材の熱膨張係数をコッタ8の素材の熱膨張係数よりも大きくする又はOリング9の素材の熱膨張係数をバルブステム5bの素材の熱膨張係数よりも大きくする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブステムの一端に傘部を備えたバルブ部材と、
前記バルブステムの他端側に配置されるコッタと、
前記コッタの外周に配置されバルブスプリングを支持するリテーナとを備え、
部材の熱膨張係数の差異により、エンジンオイルの温度が低い時は、バルブステムとリテーナとの間に形成されたオイル流下隙間又はそのオイル流下隙間の前記他端側の入口を閉塞し、エンジンオイルの温度が高い時には、前記オイル流下隙間又はそのオイル流下隙間の前記他端側の入口を開放する隙間調整手段を備えることを特徴とするエンジンのバルブ構造。
【請求項2】
前記隙間調整手段は前記コッタと前記バルブステムとからなり、前記バルブステムの素材の熱膨張係数を前記コッタの素材の熱膨張係数よりも大きくすることにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのバルブ構造。
【請求項3】
前記隙間調整手段は前記バルブステムと前記コッタの他端側に配置されたOリングとからなり、
前記Oリングは、その内径が前記バルブステムの外径以上とされ、その素材の熱膨張係数を前記バルブステムの素材の熱膨張係数よりも大きくすることにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのバルブ構造 。
【請求項4】
前記オイル流下隙間は、前記バルブステムの外周面と前記コッタの内周面との間の隙間によって形成されていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のエンジンのバルブ構造。
【請求項5】
前記コッタは、2つ割りの分割コレットが前記リテーナによって外径側から内径側に締め付けられて前記バルブステムの外周に取り付けられ、
前記オイル流下隙間は、前記分割コレット同士の対向面間の隙間によって形成されていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のエンジンのバルブ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンのバルブ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの吸排気弁として、軸状のバルブステムの一端に弁体部である傘部が設けられたバルブ(以下、「バルブ部材」と称する。)が用いられる。バルブ部材は、バルブスプリングによって、傘部が弁孔を閉じる方向に付勢されている。傘部が弁孔に接離することによって、吸排気弁は開閉する。
【0003】
バルブステムの他端、すなわち、傘部を設けた側の反対側の端部であるステムエンドに、カムの作用によって押圧力が作用することにより、バルブ部材はバルブスプリングの付勢力に抗してシリンダ内の燃焼室側へ押圧され、吸気弁や排気弁を開弁する。また、押圧力が弱まれば、バルブ部材はバルブスプリングの付勢力によって移動し、吸気弁や排気弁を閉弁する。
【0004】
バルブ部材は、ステムエンドの近傍に、コッタを介して円環状のリテーナを装着する。また、バルブステムは、シリンダに形成されたバルブ挿通孔にバルブステムガイドを介して挿通され、シリンダに対して軸方向へ進退自在である。
【0005】
バルブスプリングは、その下端、すなわち、燃焼室に近い側の端部がシリンダに支持され、その上端、すなわち、シリンダヘッド側の端部はリテーナに支持されている。
【0006】
コッタは、その外面が円錐面となっている2つ割りの分割コレットである。このコッタが、同じく円錐面で構成されるリテーナの内面と、バルブステムの外面とにそれぞれ接触する。これにより、コッタとリテーナとは一体に軸周り回転する。また、コッタの内面には周方向に沿って抜け止め突起が設けられており、この抜け止め突起がバルブステムの外面に形成された周方向の抜け止め凹部に入り込んで、コッタとリテーナとが軸方向へ抜けるのが防止されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−87707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のバルブ構造では、バルブ部材の昇降の繰り返しにより潤滑用のオイルが飛散し、そのオイルが、バルブステムとコッタとの間、あるいは、バルブステムのステムエンドとそのステムエンド側に設けたタペットとの当接部を潤滑する。
【0009】
また、コッタは、2つ割りの分割コレットであるので、その分割コレット同士の隙間や、分割コレットの内面とバルブステムの外面との隙間を通じて、ステムエンド側から傘部側へとオイルが流下し、適宜潤滑がなされている。
【0010】
しかし、これらのバルブ構造では、エンジンの低回転時すなわち低油温時には、バルブステムやタペット周辺へのオイルの飛散量は少ない。このため、低油温時においても、ステムエンドとタペットとの当接部の潤滑性能を高めたいという要請がある。
【0011】
一方、エンジンの高回転時すなわち高油温時には、バルブステムやタペット周辺へのオイルの飛散量が多く、そのオイルの供給は継続される。このため、高油温時においては、オイルを傘部側へ流下させて、バルブステムとコッタとの間の潤滑性能を高めると同時にバルブステムをオイルによる冷却を図ってもよいとも考えられる。
【0012】
そこで、この発明の課題は、低油温時に、ステムエンドとタペットとの当接部の潤滑性能を高め、高油温時には、バルブステムとコッタとの間の潤滑性能を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、この発明は、バルブステムの一端に傘部を備えたバルブ部材と、前記バルブステムの他端側に配置されるコッタと、前記コッタの外周に配置されバルブスプリングを支持するリテーナとを備え、部材の熱膨張係数の差異により、エンジンオイルの温度が低い時は、バルブステムとリテーナとの間に形成されたオイル流下隙間又はそのオイル流下隙間の前記他端側の入口を閉塞し、エンジンオイルの温度が高い時には、前記オイル流下隙間又はそのオイル流下隙間の前記他端側の入口を開放する隙間調整手段を備えることを特徴とするエンジンのバルブ構造を採用した。
【0014】
この構成において、前記隙間調整手段は前記コッタと前記バルブステムとからなり、前記バルブステムの素材の熱膨張係数を前記コッタの素材の熱膨張係数よりも大きくすることにより構成することができる。
【0015】
また、前記隙間調整手段は前記バルブステムと前記コッタの他端側に配置されたOリングとからなり、前記Oリングは、その内径が前記バルブステムの外径以上とされ、その素材の熱膨張係数を前記バルブステムの素材の熱膨張係数よりも大きくすることにより構成することができる。
【0016】
前記オイル流下隙間については、例えば、前記バルブステムの外周面と前記コッタの内周面との間に形成されている構成を採用することができる。
また、前記コッタが、2つ割りの分割コレットが前記リテーナによって外径側から内径側に締め付けられて前記バルブステムの外周に取り付けられている場合には、前記オイル流下隙間は、前記分割コレット同士の対向面間の隙間によって形成されている構成を採用することもできる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、部材の熱膨張係数の差異により、エンジンオイルの温度が低い時は、バルブステムとリテーナとの間に形成されたオイル流下隙間又はそのオイル流下隙間の前記他端側の入口を閉塞し、エンジンオイルの温度が高い時には、前記オイル流下隙間又はそのオイル流下隙間の前記他端側の入口を開放する隙間調整手段を備えたので、低油温時に、ステムエンドとタペットとの当接部の潤滑性能を高め、高油温時には、バルブステムとコッタとの間の潤滑性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の一実施形態のエンジンのバルブ構造を表す正面断面図である。
図2】バルブステムとコッタとの熱膨張の差異を示す図1のII-II断面図で、(a)は低油温時の断面図、(b)は高油温時の断面図である。
図3】バルブステムのステムエンド付近の要部切断斜視図である。
図4】他の実施形態のエンジンのバルブ構造を示し、(a)は低油温時の要部正面断面図、(b)は高油温時の要部正面断面図である。
図5図4の実施形態の変形例を示し、(a)は低油温時の要部正面断面図、(b)は高油温時の要部正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態は、自動車用エンジンのバルブ構造である。図面では、この発明に直接関係する部材、手段のみを示し、他の部材等については図示省略している。
【0020】
図1に示すように、シリンダ1には、燃焼室2に通じるポート(吸気ポート)3と、この吸気ポートの弁孔4を開閉するバルブ5(以下「バルブ部材5」と称する。)が設けられている。吸気ポート内には、その吸気ポート内に燃料を噴射する燃料噴射装置(図示せず)が設けられ、吸気ポート内の吸入空気に燃料を噴射し混合気を形成する。以下、この吸気ポートを例にエンジンのバルブ構造について説明するが、排気ポートにおいても同様の構造を採用する。なお、エンジンは、燃料噴射装置を吸気ポート内に設けるものに限らず、燃焼室2内に設けられて、燃焼室2内の吸入空気に燃料を噴射し混合気を形成する、筒内直接噴射式エンジンであってもよい。
【0021】
バルブやその周囲のシリンダ等の基本的な構成は、従来例と同様である。すなわち、バルブ構造は、バルブ部材5と、そのバルブ部材5を弁孔4の閉弁方向に付勢する弾性部材6(以下、「バルブスプリング6」と称する。)とを備える。バルブ部材5は、軸状のバルブステム5bの一端に、弁孔4に接離する弁体部として機能する傘部5aが設けられている。また、バルブステム5bの他端5cは、シリンダヘッド側へ伸びている。
【0022】
バルブステム5bは、筒状のバルブステムガイド12等を介して、シリンダ1に形成されたバルブ挿通孔に挿通され、シリンダ1に対して軸方向へ進退自在である。
【0023】
また、バルブスプリング6は、その下端がシリンダ1に支持され、その上端は、円環状部材からなるリテーナ7の外周部7bの下面で支持されている。リテーナ7の内周部7aの内側には、コッタ8を介してバルブステム5bが挿通される。
【0024】
コッタ8は、図3に示すように、その外面が円錐面8cとなっている2つ割りの分割コレットである。このコッタ8が、同じく円錐面7cで構成されるリテーナ7の内面と、バルブステム5bの外面とにそれぞれ面接触する。
【0025】
コッタ8の内面には抜け止め突起8dが設けられており、この抜け止め突起8dが、バルブステム5bの外面に形成された抜け止め凹部5dに入り込んで軸方向への抜け止め機能を発揮する。
【0026】
ステムエンドであるバルブステム5bの他端5c側には、シリンダヘッドに嵌め込み固定されたタペット10が配置されている。このタペット10にカム11が回転しながら当接することにより、押圧力をバルブ部材5へと伝達する。
【0027】
タペット10は、図1に示すように、平面視円形を成す端壁部10aと、その端壁部10aの周縁からバルブ部材5の傘部5a側に向かって立ち上がる円筒状の周壁部10bを備える。端壁部10aの内面にはバルブ部材5側に突出する凸部10cが設けられ、その凸部10cが、バルブステム5bのステムエンドの端面に当接する。この実施形態では、凸部10cは円柱状であるが、凸部10cの形状は円錐台状など他の形状の場合もある。また、カム11は、端壁部10aの外面に摺接する。
【0028】
なお、カム11を備えるカムシャフトへの動力の伝達は、カムシャフト側に設けたスプロケットとクランクシャフト側に設けたスプロケットとの間をタイミングチェーン等で連結することにより行われている。
【0029】
コッタ8とリテーナ7とは、コッタ8の外面の円錐面8cが、リテーナ7の内面の円錐面7cと面接触し、コッタ8とリテーナ7とは一体に軸周り回転する状態である。コッタ8とリテーナ7とは軸周り相対回転不能である。
【0030】
また、この実施形態では、バルブステム5bは、コッタ8及びリテーナ7に対して軸周り相対回転不能な構造を採用している。コッタ8は、2つ割りの分割コレットがリテーナ7によって外径側から内径側に締め付けられて、バルブステム5bの外周に圧力をもって密着している。
【0031】
2つ割りの分割コレットは、図2(a)に示すように、リテーナ7によって外径側から内径側に締め付けられて、バルブステム5bの外周に取り付けられている。このとき、分割コレット同士の対向面、すなわち、バルブステム5bの外面周方向に沿って向かい合っている端面8a,8a間、及び、端面8b,8b間に、それぞれ微小な隙間wが生じている。この隙間wが、バルブステム5bの他端5c側から傘部5a側へとオイルが流通するオイル流下隙間として機能している。
【0032】
ここで、バルブステム5bの素材の熱膨張係数は、コッタ8の素材の熱膨張係数よりも大きくなるように、両部材の素材が選択されている。
【0033】
図2(a)は、エンジンの低回転時、すなわち、エンジンオイルの温度が低い時(以下、低油温時と称する)の状態を示している。それに対して、図2(b)は、エンジンの高回転時、すなわち、エンジンオイルの温度が高い時(以下、高油温時と称する)の状態を示している。
【0034】
低油温時は、端面8a,8a間、及び、端面8b,8b間のオイル流下隙間が閉塞された状態になるように設定している。低油温時における隙間w1はゼロ、隙間w1=0である。このため、リテーナ7の内周部のオイル溜まりにオイルを貯えることができる。オイルがオイル流下隙間を通じて傘部5a側へ流下しないからである。
【0035】
オイル溜まりにオイルが溜まっているので、低油温時に、そのオイルをバルブ部材5の進退の動きによって飛散させることにより、ステムエンドとタペット10との当接部の潤滑性能を高めることができる。
【0036】
この実施形態では、コッタ8の頂面8eが、リテーナ7の頂面7dよりも低く設定されているので、バルブステム5bの外面、コッタ8の頂面8e、リテーナ7の内面で囲まれた凹状の空間がオイル溜まりとなっている。
【0037】
高油温時には、コッタ8とバルブステム5bとの部材の熱膨張係数の差異により、バルブステム5bがコッタ8を外径側へ押し広げるように膨張するので、オイル流下隙間wが開放される。高油温時を示す図2(b)において、バルブステム5bの直径は、低油温時の直径d1よりも大きい直径d2となっており、高油温時のコッタ8の端面8a,8a間、及び、端面8b,8b間の隙間w2は、w2>0である。これにより、オイルは、オイル流下隙間を通じて傘部5a側へ流下する。
【0038】
オイル流下隙間が開放されるので、高油温時に、バルブステム5bとコッタ8との間の潤滑性能を高めることができる。
【0039】
すなわち、ここでは、コッタ8とバルブステム5bとが隙間調整手段として機能する。バルブステム5bの素材の熱膨張係数を、コッタ8の素材の熱膨張係数よりも大きくすることにより、低油温時は、端面8a,8a間、及び、端面8b,8b間のオイル流下隙間を閉塞し、高油温時には、端面8a,8a間、及び、端面8b,8b間のオイル流下隙間を開放する。
【0040】
なお、熱膨張係数は、温度の上昇によって物体の長さや体積が熱膨張する割合を、1℃(1K)当たりの数値で示したものである。熱膨張係数は、熱膨張率と同意である。熱膨張係数は、温度の逆数の次元を持つので、単位は1/℃(1/K)で表される。
【0041】
この実施形態では、バルブステム5bは鋼製(Fe)、コッタはチタン製(Ti)としている。なお、リテーナの素材は鋼製(Fe)である。熱膨張係数は、25℃において、Fe:11.7−11.8(μm・m−1・K−1)、Ti:8.4−8.6(μm・m−1・K−1)である。Feの熱膨張係数が、Tiの熱膨張係数よりも大きい。
【0042】
このように、隙間調整手段を構成する部材の熱膨張係数の差異により、低油温時は、バルブステム5bとリテーナ7との間に形成されたオイル流下隙間を閉塞し、高油温時には、オイル流下隙間を開放するので、低油温時に、ステムエンドとタペット10との当接部の潤滑性能を高め、高油温時には、バルブステム5bとコッタ8との間の潤滑性能を高めることができる。
【0043】
他の実施形態を図4に示す。この実施形態は、隙間調整手段を構成する部材として、バルブステム5bとコッタ8の他端側に配置されたOリング9とを採用したものである。
【0044】
Oリング9は断面円形の部材が、バルブステム5bの外周に嵌るよう環状に成形されている。Oリング9の素材の熱膨張係数は、バルブステム5bの素材の熱膨張係数よりも大きくなるように設定されている。
【0045】
この実施形態では、バルブステム5bは鋼製(Fe)、コッタはチタン製(Ti)としている。また、Oリング9は樹脂製としている。なお、リテーナの素材は鋼製(Fe)である。熱膨張係数は、25℃において、同じく、Fe:11.7−11.8(μm・m−1・K−1)、Ti:8.4−8.6(μm・m−1・K−1)である。
なお、Oリング9の樹脂の材質は、所定の耐熱性及び耐油性を備える樹脂であればよく、例えば、ナイロン66 (PA66,熱膨張係数80−90(μm・m−1・K−1))等が挙げられる。
【0046】
図4(a)は、エンジンの低回転時、すなわち、低油温時の状態を示している。それに対して、図4(b)は、エンジンの高回転時、すなわち、高油温時の状態を示している。
【0047】
低油温時は、図4(a)に示すように、Oリング9の内径側の縁がバルブステム5bの外面に全周に亘って密着し、Oリング9の外径側の縁がリテーナ7の内面に全周に亘って密着している。すなわち、低油温時は、端面8a,8a間、及び、端面8b,8b間のオイル流下隙間のステムエンド側の入口が閉塞された状態になるように設定している。
【0048】
なお、低油温時におけるバルブステム5bとOリング9との隙間、Oリング9とリテーナ7の内面との隙間は、それぞれゼロである。このため、リテーナ7の内周部のオイル溜まりにオイルを貯えることができる。オイルがオイル流下隙間を通じて傘部5a側へ流下しないからである。
【0049】
オイル溜まりにオイルが溜まっているので、低油温時に、そのオイルをバルブ部材5の進退の動きによって飛散させることにより、ステムエンドとタペット10との当接部の潤滑性能を高めることができる点は、前述の実施形態と同様である。
【0050】
この実施形態では、コッタ8の頂面8e及びOリング9の上面の全体又はいずれかの部分が、リテーナ7の頂面7dよりも低く設定されている(図4(a)の寸法h1参照)ので、バルブステム5bの外面、Oリング9の上面、リテーナ7の内面で囲まれた凹状の空間がオイル溜まりとなっている。
【0051】
高油温時には、Oリング9とバルブステム5bとの部材の熱膨張係数の差異により、Oリング9がバルブステム5bよりも大きく外径側へ膨張するので、オイル流下隙間のステムエンド側の入口が開放される。高油温時を示す図4(b)において、バルブステム5bの直径よりも、Oリング9の内径の方が大きくなっており、そのバルブステム5bの外面とOリング9の内径側の縁との間の隙間w3は、w3>0である。これにより、オイルは、オイル流下隙間を通じて傘部5a側へ流下する。
【0052】
オイル流下隙間の入口が開放されるので、高油温時に、バルブステム5bとコッタ8との間の潤滑性能を高めることができる。
【0053】
すなわち、ここでは、Oリング9とバルブステム5bとが隙間調整手段として機能する。Oリング9の素材は、その内径がバルブステム5bの外径以上とされており、その熱膨張係数を、バルブステム5bの素材の熱膨張係数よりも大きくすることにより、低油温時は、端面8a,8a間、及び、端面8b,8b間のオイル流下隙間のステムエンド側の入口を閉塞し、高油温時には、端面8a,8a間、及び、端面8b,8b間のオイル流下隙間のステムエンド側の入口を開放する。すなわち、Oリング9は、バルブステム5bよりも熱膨張係数が大きく、さらに、冷油温時に「しまりばめ」になっていないことが望ましい。あるいは、Oリング9が「しまりばめ」でバルブステム5bに取り付けられている状態であっても、冷油温時から高油温時へと熱膨張が発生した際に、Oリング9とバルブステム5bとの外径方向への熱膨張量の差が、低油温時におけるOリング9の「しまりばめ」に相当する径方向寸法以上で、その熱膨張量の差により、少なくとも高油温時にOリング9の内径がバルブステム5bの外径以上とされることで「しまりばめ」状態を解消して両者間に隙間を発生させることができるように設定されていることが望ましい。
【0054】
この実施形態においても、隙間調整手段を構成する部材の熱膨張係数の差異により、低油温時は、バルブステム5bとリテーナ7との間に形成されたオイル流下隙間の入口を閉塞し、高油温時には、オイル流下隙間の入口を開放するので、低油温時に、ステムエンドとタペット10との当接部の潤滑性能を高め、高油温時には、バルブステム5bとコッタ8との間の潤滑性能を高めることができる。
【0055】
なお、この実施形態では、少なくとも低油温時において、バルブステム5bの外面、Oリング9の上面、リテーナ7の内面で囲まれた凹状の空間を形成し、それをオイル溜まりとして機能させたが、このオイル溜まりを高油温時にも設定することは可能である。すなわち、図4(b)において、Oリング9の上端は、リテーナ7の頂面7dよりも寸法h2だけ高くなっているが、高油温時においても、Oリング9の上面全体又は上面のいずれかの部分が、リテーナ7の頂面7dよりも低くなるように設定してもよい。
【0056】
また、図5に変形例を示す。この例では、低油温時、高油温時ともに、オイル溜まりを設けていない、もしくは、わずかな容積しか設けていない。低油温時を示す図5(a)、高油温時を示す図5(b)のそれぞれにおいて、Oリング9の上端は、リテーナ7の頂面7dよりも寸法h1’、h2’だけ高くなっている。オイル溜まりの効果をそれほど期待しない場合は、このような構成も可能である。
【0057】
前述の各実施形態では、オイル流下隙間は、分割コレット同士の対向面間の隙間によって形成したが、オイル流下隙間については、例えば、バルブステム5bの外周面とコッタ8の内周面との間に形成されているようにしてもよい。また、分割コレット同士の対向面間の隙間と、バルブステム5bの外周面とコッタ8の内周面との間の隙間の両方をオイル流下隙間としてもよい。
【0058】
また、バルブステム5bを、コッタ8及びリテーナ7に対して軸周り相対回転不能に支持する構造においても、この発明を採用することができる。
バルブステム5bを、コッタ8及びリテーナ7に対して軸周り相対回転可能に支持する場合、コッタ8を構成する2つ割りの分割コレットは、バルブステム5bへの装着前の状態で、それぞれバルブステム5bの軸心を挟んで両側の分割面である端面8a,8b同士が同一面上になく、分割コレットの両側の端面8a,8b同士は、その平面視において、バルブステム5bの軸心を中心として、180度よりもやや小さい角度に設定されている。
【0059】
そして、2つの分割コレットがリテーナ7によって外径側から内径側に締め付けられて弾性変形すると、両端面8a,8bの面方向同士が、バルブステム5bの軸心を中心とする180度の位置関係となり、すなわち、同一面上に位置するようになる(図2(a)参照)。これにより、2つの分割コレットの各端面8a,8b同士が面接触し、コッタ8がバルブステム5bの外面を過度に押圧することなく、バルブステム5bとコッタ8との相対回転を許容するようになる。
【0060】
すなわち、コッタ8は、2つ割りの分割コレットが、リテーナ7によって外径側から内径側に締め付けられてバルブステム5bに取り付けられ、分割コレット同士の接触部の押圧力は、その分割コレットの内面がバルブステム5bの外面に加える押圧力よりも大きくされている。この場合、分割コレットの両側の端面8a,8b同士は、高油温時、低油温時ともに密着している必要があるので、オイル流下隙間としては、バルブステム5bの外周面とコッタ8の内周面との間の隙間とすることができる。この場合、隙間調整手段としては、バルブステム5bと、コッタ8の他端側に配置されたOリング9とで構成することができる。
【0061】
これらの実施形態では、バルブ部材5を軸方向へ進退運動させる動弁装置として、ステムエンド側のタペット10にカム11が当接することにより、押圧力をバルブ部材5へと伝達する構造としたが、その他にも、例えば、カムの作用によりロッカーアームを揺動させることにより、押圧力をバルブ部材5へと伝達する構造等、他の動弁装置を採用してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 シリンダ
2 燃焼室
3 ポート
4 弁孔
5 バルブ部材(バルブ)
5a 傘部
5b バルブステム
5c ステムエンド(他端)
5d 抜け止め凹部
6 バルブスプリング
7 リテーナ
7a 内周部
7b 外周部
7c 円錐面
7d 頂面
8 コッタ
8a,8b 端面
8c 円錐面
8d 抜け止め突起
8e 頂面
9 Oリング
10 タペット
11 カム
図1
図2
図3
図4
図5