【解決手段】作業車両は、HST走行駆動装置を備えた作業車両であって、アクセルペダルの操作量を検出する操作量検出器と、原動機の実回転速度を検出する回転速度検出器と、操作量検出器により検出された操作量に基づいて原動機の要求回転速度を演算する要求速度演算部と、要求速度演算部で演算された要求回転速度に基づいて実回転速度を制御する原動機制御部とを備え、要求速度演算部は、要求回転速度が所定値よりも大きいときには、要求回転速度と回転速度検出器で検出された実回転速度との差に基づいて要求回転速度の加速度を演算し、この演算された加速度に基づいて要求回転速度を演算する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明による作業車両の一実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダは、アーム111、バケット112、および、前輪等を有する前部車体110と、運転室121、機械室122、および、後輪等を有する後部車体120とで構成される。
【0010】
アーム111はアームシリンダ117の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(クラウドまたはダンプ)する。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ116の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
【0011】
機械室122の内部にはエンジン190が設けられ、運転室121の内部にはアクセルペダルやアーム操作レバー、バケット操作レバーなどの各種操作部材が設けられている。アクセルペダルには戻しばねが設けられ、アクセルペダルを解放すると初期位置に復帰するように構成されている。
【0012】
図2は、ホイールローダの概略構成を示す図である。ホイールローダは、走行用油圧回路HC1を有するHST走行駆動装置と、作業用油圧回路HC2を有するフロント駆動装置と、コントローラ160と、各種操作部材、各種センサ等を備えている。エンジン190には、走行用油圧回路HC1の油圧源となる走行用油圧ポンプ132と、チャージポンプ135と、作業用油圧回路HC2の油圧源となる作業用油圧ポンプ136とが接続され、各ポンプはエンジン190によって駆動される。
【0013】
走行用油圧回路HC1は、エンジン190に直結された可変容量型の走行用油圧ポンプ132と、走行用油圧ポンプ132からの圧油により駆動される可変容量型の走行用油圧モータ133とを有し、走行用油圧ポンプ132と走行用油圧モータ133を一対の主管路LA,LBによって閉回路接続したHST回路により構成されている。HST回路では、アクセルペダル192を戻し操作すると走行用油圧モータ133の吐出側に閉じ込み圧が発生して車両に大きな制動力が作用し、車両が減速する。
【0014】
チャージポンプ135から吐出された圧油は、カットオフ弁134、電磁比例減圧弁139、および前後進切換弁147を介して傾転シリンダ180に導かれる。カットオフ弁134は、走行用油圧回路HC1の回路圧によって前後進切換弁147へ供給される圧油を遮断する。電磁比例減圧弁139は、コントローラ160からの信号により制御され、前後進切換弁147を経て傾転シリンダ180に導かれる圧油の圧力を制御する。前後進切換弁147はコントローラ160からの信号により操作され、図示のように前後進切換弁147が中立位置のときは、傾転シリンダ180の油室180a,180bにはタンク圧がそれぞれ作用する。この状態では油室180a,180bに作用する圧力は互いに等しく、ピストン180cは中立位置にある。このため、走行用油圧ポンプ132の押しのけ容積は0となり、ポンプ吐出量は0である。
【0015】
前後進切換弁147がA側に切り換えられると、油室180aには、チャージポンプ135から吐出され、電磁比例減圧弁139によって減圧されて圧力調整された圧油が供給され、油室180bはタンク圧が作用して、傾転シリンダ180のピストン180cは、油室180aに供給された圧油の圧力に応じて図示右方向に変位する。これにより走行用油圧ポンプ132のポンプ傾転量が増加し、走行用油圧ポンプ132からの圧油は主管路LAを介して走行用油圧モータ133に導かれ、走行用油圧モータ133が正転し、車両が前進する。
前後進切換弁147がB側に切り換えられると、油室180bには、チャージポンプ135から吐出され、電磁比例減圧弁139によって減圧されて圧力調整された圧油が供給され、油室180aはタンク圧が作用して、傾転シリンダ180のピストン180cは、油室180bに供給された圧油の圧力に応じて図示左方向に変位する。これにより走行用油圧ポンプ132のポンプ傾転量が増加し、走行用油圧ポンプ132からの圧油は主管路LBを介して走行用油圧モータ133に導かれ、走行用油圧モータ133が逆転し、車両が後進する。
【0016】
チャージポンプ135からの圧油はオーバーロードリリーフ弁143内のチェック弁を通過して主管路LA,LBに導かれ、走行用油圧回路HC1に補充される。電磁比例減圧弁139の上流側圧力はチャージリリーフ弁142により制限され、主管路LA,LBの圧力は、その高圧側となる圧力がシャトル弁146を介して前述のカットオフ弁134に作用する。カットオフ弁134は、この作用する圧力が予め設定された設定圧以上になると開弁して傾転シリンダ180の油室180a,180bに供給される圧力をタンク圧とし、傾転シリンダ180のピストン180cを中立位置にする。これにより、走行油圧ポンプ132は中立位置に戻り吐出量は0となり、主管路LA,LBのうちの高圧側圧力は、カットオフ弁134の設定圧に制限される。主管路LA,LBの高圧側に設定圧よりも大きな圧力が作用するときには、オーバーロードリリーフ弁143により圧力が制限される。
【0017】
コントローラ160およびエンジンコントローラ191は、それぞれCPUや記憶装置であるROMおよびRAM、その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ160はホイールローダの各部の制御を行う制御装置であり、エンジンコントローラ191は燃料噴射装置の制御を行う制御装置である。
【0018】
コントローラ160には、前後進切換レバー195からの信号が入力される。コントローラ160は、前後進切換レバー195からの前進、後進または中立の指示信号に基づき前後進切換弁147を制御する。コントローラ160は、前後進切換レバー195から前進指示信号が入力されたときには、前進モードに設定し、前後進切換弁147をA側に切り換えるように制御する。コントローラ160は、前後進切換レバー195から後進指示信号が入力されたときには、後進モードに設定し、前後進切換弁147をB側に切り換えるように制御する。コントローラ160は、前後進切換レバー195から中立信号が入力されたときには、中立モードに設定し、前後進切換弁147を中立位置に切り換えるように制御する。
【0019】
走行用油圧モータ133の回転はトランスミッション130によって変速され、変速後の回転はプロペラシャフト、アクスルを介してタイヤ113に伝達され、車両が走行する。トランスミッション130は、不図示のハイ/ロー選択スイッチの操作によりローとハイの2速のいずれかの速度段に切換可能である。
【0020】
コントローラ160には、アクセルペダル192のペダル操作量(ペダルストロークまたはペダル角度)を検出する操作量検出器192aからの信号、および、主管路LA,LBの圧力(走行負荷圧)をそれぞれ検出する圧力検出器151a,151bからの信号がそれぞれ入力される。エンジンコントローラ191には、エンジン190の実回転速度(以下、実エンジン回転速度Naと記す)を検出するエンジン回転速度センサ181からの信号が入力される。
【0021】
HST走行駆動装置を備えた作業車両では、アクセルペダル192が踏み込まれると、走行用油圧ポンプ132に直結されたエンジン190の回転速度が上昇して車両が加速し、アクセルペダル192が解放されると、エンジン190の回転速度が低下するとともに油圧ブレーキ力の発生により、車両が減速する。つまり、HST走行駆動装置を備えた作業車両では、車両の挙動がエンジン回転速度の変動の影響を受けやすいため、車両が発進する際に過度な加速が発生したり、車両全体が前後方向に揺れるピッチングが生じやすい。車両の発進の過度な加速やピッチングを防止するために、アクセル操作量に対してエンジン回転速度の応答性を遅らせることが考えられるが、この場合、アクセルペダル192を踏み込んでから発進、あるいは再加速までに遅れが生じたり、アクセルペダル192を解放してから牽引力が遅れて発生することが懸念される。そこで、本実施の形態では、要求エンジン回転速度や実エンジン回転速度に基づいて要求エンジン回転速度の加速度および減速度を演算し、エンジン190の回転速度を制御するようにした。以下、詳細に説明する。
なお、要求エンジン回転速度Nrは、コントローラ160およびエンジンコントローラ191からエンジン190に対して要求される目標回転速度であり、後述のように演算される。
【0022】
コントローラ160は、指示速度設定部160aと、ペダル操作判定部160bと、条件判定部160cと、加減速度設定部160dと、要求速度設定部160eと、指示速度到達判定部160fとを機能的に備えている。
【0023】
図3は、アクセルペダル192のペダル操作量Lと指示エンジン回転速度Ntとの関係を示す図である。コントローラ160の記憶装置には、アクセルペダル192のペダル操作量Lに応じた指示エンジン回転速度Ntの特性テーブルTaがルックアップ形式で記憶されている。なお、横軸で示されるペダル操作量Lは、最大踏込操作状態を100%、踏み込み操作がなされていない非操作状態を0%として示している。
この指示エンジン回転速度Ntは、オペレータから直接要求される値であり、オペレータからコントローラ160に対して要求する目標のエンジン回転速度指令値である。
【0024】
アクセルペダル192が完全に解放されているとき、すなわちアクセルペダル192のペダル操作量Lが0%であるときは、指示エンジン回転速度Ntはローアイドル回転速度NL(たとえば、800rpm)となる。ペダル操作量Lが大きくなるにしたがって指示エンジン回転速度Ntは大きくなり、アクセルペダル192が最大まで踏み込まれているとき、すなわちアクセルペダル192のペダル操作量Lが100%であるときは、指示エンジン回転速度Ntは定格回転速度Nmax(たとえば、2450rpm)となる。
【0025】
指示速度設定部160aは、テーブルTaを参照して、操作量検出器192aで検出されたペダル操作量Lに基づいて、指示エンジン回転速度Ntを設定し、記憶装置に記憶させる。
【0026】
ペダル操作判定部160bは、アクセルペダル192が踏み込み操作されているか、あるいは、戻し操作されているかを判定する。ペダル操作判定部160bは、アクセルペダル192の現在のペダル操作量Lに応じて設定される指示エンジン回転速度Ntが、後述する1制御周期前に演算された要求エンジン回転速度Nr以上か否かを判定する。指示エンジン回転速度Ntが要求エンジン回転速度Nr以上の場合(Nt≧Nr)、ペダル操作判定部160bはアクセルペダル192が踏み込み操作されていると判定し、アクセルペダル192の操作モードを「踏込操作モード」に設定する。指示エンジン回転速度Ntが要求エンジン回転速度Nrより小さい場合(Nt<Nr)、ペダル操作判定部160bはアクセルペダル192が戻し操作されていると判定し、アクセルペダル192の操作モードを「戻し操作モード」に設定する。
【0027】
条件判定部160cは、アクセルペダル192の操作モード、要求エンジン回転速度Nrの大きさ、および、要求エンジン回転速度Nrと実エンジン回転速度Naとの差に基づいて、高加速条件、低加速条件、高減速条件および低減速条件が成立したか否かを判定する。高加速条件とは要求エンジン回転速度Nrの加速度を高くする条件であり、低加速条件とは要求エンジン回転速度Nrの加速度を低くする条件である。高減速条件とは要求エンジン回転速度Nrの減速度を高くする、すなわち負の加速度の絶対値を大きくする条件であり、低減速条件とは要求エンジン回転速度Nrの減速度を低くする、すなわち負の加速度の絶対値を小さくする条件である。
【0028】
条件判定部160cは、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0以下か否かを判定する。所定値N0は、ローアイドル回転速度NLよりも大きい値であり、たとえば、1000rpmであり、予め記憶装置に記憶されている。
【0029】
踏込操作モードが設定されている場合において、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0以下(Nr≦N0)であると判定されると、条件判定部160cは高加速条件が成立・低加速条件が非成立と判定する。
【0030】
戻し操作モードが設定されている場合において、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0以下(Nr≦N0)であると判定されると、条件判定部160cは高減速条件が成立・低減速条件が非成立と判定する。
【0031】
条件判定部160cは、踏込操作モードが設定されている場合において、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0よりも大きいと判定されたとき(Nr>N0)、実エンジン回転速度Naから要求エンジン回転速度Nrを減算し、減算した値(Na−Nr)が閾値N1よりも大きいか否かを判定する。条件判定部160cは、減算した値(Na−Nr)が閾値N1よりも大きい場合(Na−Nr>N1)、高加速条件が成立・低加速条件が非成立と判定する。条件判定部160cは、減算した値(Na−Nr)が閾値N1以下である場合(Na−Nr≦N1)、高加速条件が非成立・低加速条件が成立と判定する。閾値N1は、たとえば、200rpmであり、予め記憶装置に記憶されている。
【0032】
条件判定部160cは、戻し操作モードが設定されている場合において、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0よりも大きいと判定されたとき(Nr>N0)、要求エンジン回転速度Nrから実エンジン回転速度Naを減算し、減算した値(Nr−Na)が閾値N2以上か否かを判定する。条件判定部160cは、減算した値(Nr−Na)が閾値N2以上である場合(Nr−Na≧N2)、高減速条件が成立・低減速条件が非成立と判定する。条件判定部160cは、減算した値(Nr−Na)が閾値N2未満である場合(Nr−Na<N2)、高減速条件が非成立・低減速条件が成立と判定する。閾値N2は、たとえば、200rpmであり、予め記憶装置に記憶されている。
【0033】
加減速度設定部160dは、高加速条件が成立と判定された場合、要求エンジン回転速度Nrの加速度RaをRahに設定する。加減速度設定部160dは、低加速条件が成立と判定された場合、要求エンジン回転速度Nrの加速度RaをRahよりも小さいRasに設定する(Ras<Rah)。加速度Raとは、単位時間を10[ms]として、単位時間当たりの要求エンジン回転速度Nr[rpm]の増加率のことを指す。本実施の形態では、Rah=100[rpm]/10[ms]とし、Ras=14[rpm]/10[ms]とした。
【0034】
加減速度設定部160dは、高減速条件が成立と判定された場合、要求エンジン回転速度Nrの減速度RdをRdhに設定する。加減速度設定部160dは、低減速条件が成立と判定された場合、要求エンジン回転速度Nrの減速度RdをRdhよりも小さいRdsに設定する(Rds<Rdh)。減速度Rdとは、単位時間を10[ms]として、単位時間当たりの要求エンジン回転速度Nr[rpm]の減少率のことを指す。本実施の形態では、Rdh=100[rpm]/10[ms]とし、Rds=14[rpm]/10[ms]とした。なお、減速度が大きいとは、負の加速度が小さい、すなわち負の加速度の絶対値が大きいことと同義である。
【0035】
要求速度設定部160eは、加減速度設定部160dで設定された加速度Raまたは減速度Rdに基づいて、要求エンジン回転速度Nrを演算する。本実施の形態では、コントローラ160が所定の制御周期10[ms]ごとに、1制御周期前に演算されて記憶装置に記憶された要求エンジン回転速度Nrに対して、所定の増回転速度を加算する、あるいは、所定の減回転速度を減算して、新しい要求エンジン回転速度Nrを求めるようにした。
【0036】
加減速度設定部160dは、10[ms]ごとの増回転速度α=αh=100[rpm]と設定することで、加速度Ra=Rah=100[rpm]/10[ms]で増速される要求エンジン回転速度Nrを演算する。加減速度設定部160dは、10[ms]ごとの増回転速度α=αs=14[rpm]と設定することで、加速度Ra=Ras=14[rpm]/10[ms]で増速される要求エンジン回転速度Nrを演算する。つまり、加減速度設定部160dは、1制御周期(10ms)前に演算された要求エンジン回転速度Nrに増回転速度αを加算して、新たな要求エンジン回転速度Nrを求め、記憶装置の要求エンジン回転速度Nrを新しく求められた値に更新する。
【0037】
加減速度設定部160dは、10[ms]ごとの減回転速度β=βh=100[rpm]と設定することで、減速度Rd=Rdh=100[rpm]/10[ms]で減速される要求エンジン回転速度Nrを演算する。加減速度設定部160dは、10[ms]ごとの減回転速度β=βs=14[rpm]と設定することで、減速度Rd=Rds=14[rpm]/10[ms]で減速される要求エンジン回転速度Nrを演算する。つまり、加減速度設定部160dは、1制御周期(10ms)前に演算された要求エンジン回転速度Nrから減回転速度βを減算して、新たな要求エンジン回転速度Nrを求め、記憶装置の要求エンジン回転速度Nrを新しく求められた値に更新する。
【0038】
コントローラ160は、上記のような機能を備えているため、踏込操作モード設定時および戻し操作モード設定時において、それぞれ次のようにして要求エンジン回転速度Nrが演算される。
【0039】
−踏込操作モード設定時−
(i)高加速条件が成立している場合、要求速度設定部160eは、1制御周期前に演算された要求エンジン回転速度Nrに増回転速度α=αh=100[rpm]を加算した値を新たな要求エンジン回転速度Nrとして設定する。
(ii)低加速条件が成立している場合、要求速度設定部160eは、1制御周期前に演算された要求エンジン回転速度Nrに増回転速度α=αs=14[rpm]を加算した値を新たな要求エンジン回転速度Nrとして設定する。
【0040】
−戻し操作モード設定時−
(iii)高減速条件が成立している場合、要求速度設定部160eは、1制御周期前に演算された要求エンジン回転速度Nrから減回転速度β=βh=100[rpm]を減算した値を新たな要求エンジン回転速度Nrとして設定する。
(iv)低減速条件が成立している場合、要求速度設定部160eは、1制御周期前に演算された要求エンジン回転速度Nrから減回転速度β=βs=14[rpm]を減算した値を新たな要求エンジン回転速度Nrとして設定する。
【0041】
上記(i)〜(iv)の要求エンジン回転速度Nrの設定処理は、制御周期10[ms]で繰り返し実行される。つまり、要求エンジン回転速度Nrは、制御周期10[ms]ごとに演算され、記憶装置に記憶されている要求エンジン回転速度Nrのデータが更新される。
【0042】
指示速度到達判定部160fは、指示エンジン回転速度Ntと要求エンジン回転速度Nrとの差の絶対値(|Nt−Nr|)を演算し、この絶対値(|Nt−Nr|)が閾値ΔN0よりも小さいか否かを判定する。指示エンジン回転速度Ntと要求エンジン回転速度Nrとの差の絶対値(|Nt−Nr|)が閾値ΔN0よりも小さい場合(|Nt−Nr|<ΔN)、指示速度到達判定部160fは、要求エンジン回転速度Nrがアクセルペダル192のペダル操作量Lに応じた指示エンジン回転速度Ntに到達していると判定する。指示エンジン回転速度Ntと要求エンジン回転速度Nrとの差の絶対値(|Nt−Nr|)が閾値ΔN0以上の場合(|Nt−Nr|≧ΔN)、指示速度到達判定部160fは、要求エンジン回転速度Nrがアクセルペダル192のペダル操作量Lに応じた指示エンジン回転速度Ntに到達していないと判定する。閾値ΔN0は、たとえば200rpmであり、記憶装置に予め記憶されている。
【0043】
要求エンジン回転速度Nrがアクセルペダル192のペダル操作量Lに応じた指示エンジン回転速度Ntに到達していないと判定されている場合、要求速度設定部160eは、新たな要求エンジン回転速度Nrを演算して、記憶装置の要求エンジン回転速度Nrのデータを更新する。要求エンジン回転速度Nrがアクセルペダル192のペダル操作量Lに応じた指示エンジン回転速度Ntに到達していると判定されている場合、要求速度設定部160eは、新たな要求エンジン回転速度Nrを演算する処理を行わない。
【0044】
コントローラ160は、演算された要求エンジン回転速度Nrに対応した要求エンジン回転速度信号をエンジンコントローラ191に出力する。エンジンコントローラ191は、エンジン回転速度センサ181で検出された実エンジン回転速度Naと、コントローラ160からの要求エンジン回転速度Nrとを比較して、実エンジン回転速度Naを要求エンジン回転速度Nrに近づけるために燃料噴射装置(不図示)を制御する。
【0045】
コントローラ160には、走行用油圧モータ133のモータ傾転角を制御するレギュレータ144が接続されている。レギュレータ144は電磁切換弁や電磁比例弁等を含む電気式レギュレータである。レギュレータ144は、信号ライン144aを介して出力されるコントローラ160からの制御電流により駆動され、レギュレータ144が駆動されることで、傾転制御レバー140が駆動され、モータ傾転角が変更される。モータ傾転角の最小値は、傾転制御レバー140をストッパ145に当接させることで、機械的に制限される。レギュレータ144の非通電時には、ストッパ145に傾転制御レバー140が当接してモータ傾転角は最小値に保持され、レギュレータ144に出力する制御電流が増加すると、モータ傾転角も増加する。
【0046】
図4は、コントローラ160により実行される要求エンジン回転速度の演算処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、図示しないイグニッションスイッチのオンにより開始され、図示しない初期設定を行った後、所定の制御周期ごと(上述したように、本実施の形態では、10[ms]ごと)にステップS101以降の処理が、コントローラ160によって繰り返し実行される。
図5(a)は
図4の踏込操作モード(ステップS110)における処理内容を示すフローチャートであり、
図5(b)は
図4の戻し操作モード(ステップS160)における処理内容を示すフローチャートである。
【0047】
ステップS101において、コントローラ160は、操作量検出器192aで検出された操作量L、エンジン回転速度センサ181で検出された実エンジン回転速度Na、記憶装置に記憶されている1制御周期(10ms)前に演算された要求エンジン回転速度Nr(すなわち要求エンジン回転速度の前回値)の情報を取得して、ステップS103へ進む。なお、アクセルペダル192を操作しない初期設定時の要求エンジン回転速度Nrは、たとえば、800rpmに設定されており、このときのアクセルペダル192の操作量検出器192aで検出された操作量Lに対する指示エンジン回転速度Ntも800rpmに設定されている。つまり、エンジン始動直後のアクセルペダル192を操作しない初期状態では、指示エンジン回転速度Ntと要求エンジン回転速度Nrは等しい値となる。
【0048】
ステップS103において、コントローラ160は、記憶装置に記憶されているテーブルTa(
図3参照)を参照し、アクセルペダル192のペダル操作量Lに基づいて、指示エンジン回転速度Ntを設定し、ステップS105へ進む。
【0049】
ステップS105において、コントローラ160は、ステップS103で設定された指示エンジン回転速度NtとステップS101で取得した要求エンジン回転速度Nrとの差の絶対値が、閾値ΔN0よりも小さいか否かを判定する。ステップS105で肯定判定されるとステップS101へ戻り、否定判定されるとステップS107へ進む。
たとえばアクセルペダル192を操作していない初期の状態から走行を開始するためにアクセルペダル192を最大に踏み込むと、指示エンジン回転速度Ntは、瞬時にNmaxとなるが、その状態では、未だ新たな要求エンジン回転速度Nrが演算されていないため、要求エンジン回転速度Nrは、初期状態のNL(800rpm)であり、指示エンジン回転速度Ntと要求エンジン回転速度Nrとには、閾値ΔN0以上の差が生じステップS105は否定される。また、ステップS105の肯定は、要求エンジン回転速度Nrが指示エンジン回転速度Ntに到達していることを意味し、前述のように新たな要求エンジン回転速度Nrの演算は行なわれない。
【0050】
ステップS107において、コントローラ160は、ステップS103で設定された指示エンジン回転速度NtがステップS101で取得した要求エンジン回転速度Nr以上か否かを判定する。ステップS107で肯定判定されると、コントローラ160は操作モードを踏込操作モードに設定してステップS110へ進み、否定判定されるとコントローラ160は操作モードを戻し操作モードに設定してステップS160へ進む。つまり、指示エンジン回転速度Ntと要求エンジン回転速度Nrとの間に閾値ΔN0以上の大きな差が生じ、かつ指示エンジン回転速度Ntが要求エンジン回転速度Nr以上の状態となったときに、踏込操作モードに移行して新たな要求エンジン回転速度Nrの演算を行ない、指示エンジン回転速度Ntと要求エンジン回転速度Nrとの間に閾値ΔN0以上の大きな差が生じ、かつ指示エンジン回転速度Ntが要求エンジン回転速度Nrよりも小さい状態では、戻し操作モードに移行して新たな要求エンジン回転速度Nrの演算を行なう。
【0051】
ステップS110において、コントローラ160は、踏込操作モードで新たな要求エンジン回転速度Nrを演算する処理を実行する。
図5(a)に示すように、ステップS115において、コントローラ160は、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0以下か否かを判定する。ステップS115で肯定判定されると、すなわち高加速条件が成立・低加速条件が非成立と判定されるとステップS130へ進み、否定判定されるとステップS120へ進む。
【0052】
ステップS120において、コントローラ160は、実エンジン回転速度Naから要求エンジン回転速度Nrを減算した値が、閾値N1よりも大きいか否かを判定する。ステップS120で肯定判定されると、すなわち高加速条件が成立・低加速条件が非成立と判定されると、ステップS130へ進む。ステップS120で否定判定されると、すなわち高加速条件が非成立・低加速条件が成立と判定されると、ステップS135へ進む。
【0053】
ステップS130において、コントローラ160は、10[ms]ごとの増回転速度α=αh=100[rpm]として設定する。これはコントローラ160が、加速度Ra=Rah=100[rpm]/10[ms]として設定することと同義である。
【0054】
ステップS135において、コントローラ160は、10[ms]ごとの増回転速度α=αs=14[rpm]として設定する。これはコントローラ160が、加速度Ra=Ras=14[rpm]/10[ms]として設定することと同義である。
【0055】
ステップS130,135で増回転速度αが設定されると、ステップS140へ進む。ステップS140において、コントローラ160は、前回値である要求エンジン回転速度Nrに増回転速度αを加算した値を新たな要求エンジン回転速度Nrとして求め、記憶装置に記憶し、踏込操作モードにおける要求エンジン回転速度Nrの演算処理を終了し、ステップS101へ戻る。
【0056】
ステップS160において、コントローラ160は、戻し操作モードで新たな要求エンジン回転速度Nrを演算する処理を実行する。
図5(b)に示すように、ステップS165において、コントローラ160は、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0以下か否かを判定する。ステップS165で肯定判定されると、すなわち高減速条件が成立・低減速条件が非成立と判定されるとステップS180へ進み、否定判定されるとステップS170へ進む。
【0057】
ステップS170において、コントローラ160は、要求エンジン回転速度Nrから実エンジン回転速度Naを減算した値が、閾値N2以上か否かを判定する。ステップS170で肯定判定されると、すなわち高減速条件が成立・低減速条件が非成立と判定されると、ステップS180へ進む。ステップS170で否定判定されると、すなわち高減速条件が非成立・低減速条件が成立と判定されると、ステップS185へ進む。
【0058】
ステップS180において、コントローラ160は、10[ms]ごとの減回転速度β=βh=100[rpm]として設定する。これはコントローラ160が、減速度Rd=Rdh=100[rpm]/10[ms]として設定することと同義である。
【0059】
ステップS185において、コントローラ160は、10[ms]ごとの減回転速度β=βs=14[rpm]として設定する。これはコントローラ160が、減速度Rd=Rds=14[rpm]/10[ms]として設定することと同義である。
【0060】
ステップS180,185で減回転速度βが設定されると、ステップS190へ進む。ステップS190において、コントローラ160は、前回値である要求エンジン回転速度Nrに減回転速度βを減算した値を新たな要求エンジン回転速度Nrとして求め、記憶装置に記憶し、戻し操作モードにおける要求エンジン回転速度Nrの演算処理を終了し、ステップS101へ戻る。
【0061】
本実施の形態に係る作業車両の主要な動作を
図6のタイムチャートを参照して説明する。時点t0から時点t1までは、アクセルペダル192が非操作であり、すなわちアクセルペダル192が完全に解放されており、指示エンジン回転速度Nt、要求エンジン回転速度Nrおよび実エンジン回転速度Naは、等しいローアイドル回転速度NLとされている。このとき、車両は停止状態にある。
【0062】
−停止状態からのペダル踏み込み操作(時点t1〜時点t7)−
時点t1から時点t7にかけてアクセルペダル192が最大に踏み込まれると、指示エンジン回転速度Ntが踏込量100%に対応する定格回転速度Nmaxに設定される(Nt=Nmax)。
【0063】
時点t1から時点t5までは、指示エンジン回転速度Ntと要求エンジン回転速度Nrとの差の絶対値がΔN0以上となり(ステップS105でNo、ステップS107でYesでステップS110に移行)、要求エンジン回転速度Nrが指示エンジン回転速度Ntに近づくように上昇する。時点t1から時点t3までは、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0以下であり(ステップS115でYes)、要求エンジン回転速度Nrは加速度Ra=Rahで上昇する(ステップS130→S140)。時点t3から時点t5までは、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0よりも大きく(ステップS115でNo)、実エンジン回転速度Naに対して要求エンジン回転速度Nrの方が大きいため(ステップS120でNo)、要求エンジン回転速度Nrは加速度Ra=Rasで上昇する(ステップS135→S140)。
【0064】
時点t5で要求エンジン回転速度Nrは指示エンジン回転速度Ntに到達し(ステップS105でYes)、時点t5から時点t7まで要求エンジン回転速度Nrが指示エンジン回転速度Ntに維持されている。
【0065】
実エンジン回転速度Naは、要求エンジン回転速度Nrの上昇に追従して変化する。実エンジン回転速度Naは、時点t1から僅かに遅れた時点t2から上昇を開始する。実エンジン回転速度Naは、時点t2から時点t4までは、加速度Ra=Rahで上昇する要求エンジン回転速度Nr(時点t1〜時点t3)の影響を主に受けることにより、高い加速度で上昇する。実エンジン回転速度Naの加速度は、加速度Ra=Rasで上昇する要求エンジン回転速度Nr(時点t3〜時点t5)の影響を主に受けることにより時点t4から低下し、要求エンジン回転速度Nrの加速度が0になること(時点t5〜時点t7)に起因して、時点t6からさらに減少する。実エンジン回転速度Naは、時点t7で定格回転速度Nmaxに達する。
【0066】
発進直後は、要求エンジン回転速度Nrがローアイドル回転速度NLから所定値N0に達するまでは高い加速度Rahで増速するようにした。これにより、発進のために必要なトルクが速やかに得られるので発進タイミングを早めることができる。その後、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0を超えると低い加速度Rasで増速するため、オペレータに対して車両が飛び出すように感じられる過度な加速の発生が防止される。つまり、本実施の形態によれば、発進直後において、オペレータに対する飛び出し感の原因となる過度な加速の発生を抑制することができるとともに、アクセルペダル192の踏み込みに応じて速やかに車両を停止状態から走行状態に移行することができる。
【0067】
−定格回転速度での走行状態からのペダル戻し操作(時点t7〜時点t8)−
時点t7から時点t8にかけてアクセルペダル192が完全に解放された非操作状態になると、指示エンジン回転速度Ntが踏込量0%に対応するローアイドル回転速度NLに設定される(Nt=NL)。
【0068】
時点t7から時点t8までは、指示エンジン回転速度Ntと要求エンジン回転速度Nrとの差の絶対値がΔN0以上となり(ステップS105でNo、ステップS107でNoでステップS160に移行)、要求エンジン回転速度Nrが指示エンジン回転速度Ntに近づくように低下する。時点t7から時点t8にかけて、要求エンジン回転速度Nrは所定値N0よりも大きく(ステップS165でNo)、要求エンジン回転速度Nrに対して実エンジン回転速度Naの方が大きいため(ステップS170でNo)、要求エンジン回転速度Nrは減速度Rd=Rdsで低下する(ステップS185→S190)。実エンジン回転速度Naは、要求エンジン回転速度Nrの低下に追従して低下する。
【0069】
−減速状態からのペダル踏み込み操作(時点t8〜時点t11)−
時点t8から時点t11にかけてアクセルペダル192が再び最大に踏み込まれると、指示エンジン回転速度Ntが踏込量100%に対応する定格回転速度Nmaxに設定される(Nt=Nmax)。
【0070】
時点t8から時点t11にかけてアクセルペダル192が最大に踏み込まれているため(ステップS107でYesでステップS110に移行)、要求エンジン回転速度Nrが指示エンジン回転速度Ntに近づくように上昇する。図示するように、アクセルペダル192が減速途中で踏み込まれると、踏み込まれた時点t8では要求エンジン回転速度Nrに対して実エンジン回転速度Naの方が大きい状態となる。時点t8から時点t9までは、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0よりも大きく(ステップS115でNo)、実エンジン回転速度Naから要求エンジン回転速度Nrを減算した値が閾値N1よりも大きいため(ステップS120でYes)、要求エンジン回転速度Nrは加速度Ra=Rahで上昇する(ステップS130→S140)。時点t9から時点t11までは、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0よりも大きく(ステップS115でNo)、実エンジン回転速度Naから要求エンジン回転速度Nrを減算した値が閾値N1以下であるため(ステップS120でNo)、要求エンジン回転速度Nrは加速度Ra=Rasで上昇する(ステップS135→S140)。
【0071】
実エンジン回転速度Naは、要求エンジン回転速度Nrの上昇に追従して変化する。実エンジン回転速度Naの減速度は時点t8から減少し、実エンジン回転速度Naは時点t10で減速から加速に転じ、上昇を開始する。上記したように、要求エンジン回転速度Nrは、ペダル踏込操作開始時(時点t8)から高い加速度Rahで上昇し、時点t9から低い加速度Rasで上昇する。このため、実エンジン回転速度Naの減少(オーバーシュート)が抑えられ、踏込操作後直ちに減速から加速に移行し、その後、スムーズに加速される。
【0072】
減速途中から加速する際、実エンジン回転速度Naと要求エンジン回転速度Nrの差が大きい場合には、高い加速度Rahで増速するようにした。これにより、減速から加速への移行のタイミングを早めることができる。その後、実エンジン回転速度Naと要求エンジン回転速度Nrの差が小さくなると、低い加速度Rasで増速するため、車両が前後方向に揺れるピッチングの発生が抑制される。つまり、本実施の形態によれば、減速状態から加速状態に移行する際のピッチングの発生を抑制することができるとともに、アクセルペダル192の踏み込みに応じて速やかに減速状態から加速状態に移行することができる、すなわち速やかに牽引力を増大させることができる。
【0073】
−加速状態からのペダル戻し操作(時点t11〜時点t15)−
時点t11でアクセルペダル192が完全に解放された非操作状態になると、指示エンジン回転速度Ntが踏込量0%に対応するローアイドル回転速度NLに設定される(Nt=NL)。
【0074】
時点t11から時点t15にかけてアクセルペダル192が完全に解放されているため(ステップS107でNoでステップS160に移行)、要求エンジン回転速度Nrが指示エンジン回転速度Ntに近づくように低下する。図示するように、アクセルペダル192が加速途中で解放されると、解放された時点t11では実エンジン回転速度Naに対して要求エンジン回転速度Nrの方が大きい状態となる。時点t11から時点t12までは、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0よりも大きく(ステップS165でNo)、要求エンジン回転速度Nrから実エンジン回転速度Naを減算した値が閾値N2以上であるため(ステップS170でYes)、要求エンジン回転速度Nrは減速度Rd=Rdhで低下する(ステップS180→S190)。時点t12から時点t14までは、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0よりも大きく(ステップS165でNo)、要求エンジン回転速度Nrから実エンジン回転速度Naを減算した値が閾値N2未満であるため(ステップS170でNo)、要求エンジン回転速度Nrは減速度Rd=Rdsで低下する(ステップS185→S190)。
【0075】
実エンジン回転速度Naは、要求エンジン回転速度Nrの低下に追従して変化する。実エンジン回転速度Naの加速度は時点t11から減少し、実エンジン回転速度Naは時点t13で加速から減速に転じ、低下を開始する。上記したように、要求エンジン回転速度Nrは、ペダル解放操作(戻し操作)開始時(時点t11)から高い減速度Rdhで低下し、時点t12から低い減速度Rdsで低下する。このため、実エンジン回転速度Naの上昇(オーバーシュート)が抑えられ、ペダル解放後直ちに加速から減速に移行し、その後、スムーズに減速される。
【0076】
加速途中から減速する際、要求エンジン回転速度Nrと実エンジン回転速度Naの差が大きい場合には、高い減速度Rdhで減速するようにした。これにより、加速から減速への移行のタイミングを早めることができる。その後、要求エンジン回転速度Nrと実エンジン回転速度Naの差が小さくなると、低い加速度Rasで減速するため、車両が前後方向に揺れるピッチングの発生が抑制される。つまり、本実施の形態によれば、加速状態から減速状態に移行する際のピッチングの発生を抑制することができるとともに、アクセルペダル192の解放(戻し操作)に応じて速やかに加速状態から減速状態に移行することができる、すなわち速やかに牽引力を減少させることができる。
【0077】
時点t14から時点t15までは、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0以下であり(ステップS165でYes)、要求エンジン回転速度Nrは減速度Rd=Rdhで低下する(ステップS180→S190)。
【0078】
本実施の形態では、所定値N0に達するまでは低い減速度Rdsで要求エンジン回転速度Nrを低下させ(時点t12〜時点t14)、所定値N0よりも小さくなると、高い減速度Rdhで要求エンジン回転速度Nrを低下させるようにした(時点t14〜時点t15)ので、燃費を低減することができる。
【0079】
以上説明した第1の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)要求エンジン回転速度Nrが所定値N0よりも大きいときには、要求エンジン回転速度Nrと実エンジン回転速度Naとの差に基づいて要求エンジン回転速度Nrの加速度Ra、換言すれば単位時間(たとえば10ms)あたりの増回転速度を演算するようにした。これにより、発進時の飛び出し現象や、ピッチングの発生を抑制することができ、減速から加速への移行を速やかに行うことができる、すなわち速やかに牽引力を増大させることができる。車両の乗り心地を良好なものとすることができるため、オペレータの負担を低減することができる。さらに、作業効率の向上を図ることもできる。
【0080】
(2)アクセルペダル192が踏み込み操作された場合であって、要求エンジン回転速度Nrに対して実エンジン回転速度Naが大きいときにおいて、実エンジン回転速度Naと要求エンジン回転速度Nrとの差が閾値N1よりも大きいときには、加速度Rahにしたがって要求エンジン回転速度Nrを演算し、実エンジン回転速度Naと要求エンジン回転速度Nrとの差が閾値N1以下のときには、加速度Rahよりも小さい加速度Rasにしたがって要求エンジン回転速度Nrを演算するようにした。これにより、減速状態から加速状態に移行する際のピッチングの発生を抑制することができるとともに、アクセルペダル192の踏み込みに応じて速やかに減速状態から加速状態に移行することができる、すなわち速やかに牽引力を増大させることができる。
【0081】
(3)アクセルペダル192が踏み込み操作された場合であって、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0以下のときには、加速度Rasよりも大きい加速度Rahにしたがって要求エンジン回転速度Nrを演算するようにした。これにより、発進時、アクセルペダル192の踏み込みに応じて速やかに車両を停止状態から走行状態に移行させることができる。なお、発進直後は、要求エンジン回転速度Nrに対して実エンジン回転速度Naの方が小さいため、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0よりも大きくなると、加速度Rasにしたがって要求エンジン回転速度Nrが演算される。このため、発進時、オペレータに対する飛び出し感の原因となる過度な加速の発生を抑制することができる。
【0082】
(4)アクセルペダル192が戻し操作された場合であって、要求エンジン回転速度Nrに対して実エンジン回転速度Naが小さいときにおいて、要求エンジン回転速度Nrと実エンジン回転速度Naとの差が閾値N2以上のときには、減速度Rdhにしたがって要求エンジン回転速度Nrを演算し、要求エンジン回転速度Nrと実エンジン回転速度Naとの差が閾値N2よりも小さいときには、減速度Rdhよりも小さい減速度Rdsにしたがって要求エンジン回転速度Nrを演算するようにした。これにより、加速状態から減速状態に移行する際のピッチングの発生を抑制することができるとともに、アクセルペダル192の解放(戻し操作)に応じて速やかに加速状態から減速状態に移行することができる、すなわち速やかに牽引力を減少させることができる。
【0083】
(5)アクセルペダル192が戻し操作された場合であって、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0以下のときには減速度Rdsよりも大きい減速度Rdhにしたがって要求エンジン回転速度Nrを演算するようにした。要求エンジン回転速度Nrが所定値N0よりも小さくなると、高い減速度Rdhで要求エンジン回転速度Nrを低下させるようにしたので、燃費を低減することができる。
【0084】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(変形例1)
上述した実施の形態では、要求エンジン回転速度Nrと実エンジン回転速度Naとの差に基づいて要求エンジン回転速度Nrの加速度および減速度を演算するようにしたが、本発明はこれに限定されない。本発明は、要求エンジン回転速度Nrの加速度のみを演算する構成とすることができる。
【0085】
(変形例2)
上述した実施の形態では、アクセルペダル192が踏み込み操作されている場合において、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0以下の加速度Ra(以下、Ra1と記す)と、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0よりも大きく、実エンジン回転速度Naから要求エンジン回転速度Nrを減算した値が閾値N1よりも大きいときの加速度Ra(以下、Ra2と記す)を共にRahとしたが本発明はこれに限定されない。加速度Ra1と加速度Ra2は互いに異なる値に設定することができる。
上述した実施の形態では、アクセルペダル192が戻し操作されている場合において、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0以下のときの減速度Rd(以下、Rd1と記す)と、要求エンジン回転速度Nrが所定値N0よりも大きく、要求エンジン回転速度Nrから実エンジン回転速度Naを減算した値が閾値N2以上のときの減速度Rd(以下、Rd2と記す)を共にRdhとしたが本発明はこれに限定されない。減速度Rd1と減速度Rd2は互いに異なる値に設定することができる。
【0086】
(変形例3)
上述した実施の形態では、閾値N1と閾値N2とが同じ値(たとえば、200rpm)に設定されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。閾値N1と閾値N2は互いに異なる値に設定することができる。
【0087】
(変形例4)
上述した実施の形態では、走行用油圧ポンプ132等を駆動する原動機としてエンジン190を採用した例について説明したが、本発明はこれに限定されない。電動機を原動機として採用し、電動機によって走行用油圧ポンプ132等を駆動するようにしてもよい。
【0088】
(変形例5)
上述した実施の形態では、アクセルペダル192のペダル操作量Lの増加に対して、指示エンジン回転速度Ntが直線的に上昇する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。ペダル操作量Lの増加に対して、指示エンジン回転速度Ntを曲線的に上昇させてもよいし、段階的に上昇させてもよい。
【0089】
(変形例6)上述した実施の形態では、作業車両の一例としてホイールローダを例に説明したが、本発明はこれに限定されず、たとえば、ホイールショベル、フォークリフト、テレハンドラー、リフトトラック等、他の作業車両であってもよい。
【0090】
本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。