(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-114249(P2015-114249A)
(43)【公開日】2015年6月22日
(54)【発明の名称】観測情報処理装置、観測情報処理方法、及び観測情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/14 20060101AFI20150526BHJP
【FI】
G01W1/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-257642(P2013-257642)
(22)【出願日】2013年12月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.平成25年6月16日下記ウェブサイトにより「36▲th▼ Conference on Radar Meteorology」の講演予稿集において公開。 https://ams.confex.com/ams/36Radar/webprogram/Paper228683.html https://ams.confex.com/ams/36Radar/webprogram/Paper228471.html 2.平成25年9月16日American Meteorological Society主催の「36▲th▼ Conference on Radar Meteorology」において公開。
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100092200
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 重信
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】吉川 栄一
(72)【発明者】
【氏名】又吉 直樹
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 知雄
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンカタチャラム チャンドラセカラン
(57)【要約】
【課題】センサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から、観測対象の2次元または3次元の速度を正確に推定する観測情報処理装置、観測情報処理方法、及び観測情報処理プログラムを提供すること。
【解決手段】直交座標系の各格子点における速度ベクトルの全てを要素として含む第1ベクトルと、極座標系の各格子点における速度ベクトルの第1ベクトルを内包する領域全てを要素として含む第2ベクトルと、センサ視線方向の第1ベクトルを内包する領域全ての速度観測値を要素として含む第3ベクトルとを、座標変換行列および投影行列を用いて関連付けた所定の線型方程式に、線形逆問題解法を適用することにより、気象センサSによって取得したセンサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から、2次元または3次元の速度を推定する速度推定部30を有する観測情報処理装置10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象センサによって取得した観測情報を処理する観測情報処理装置であって、
所定の線型方程式に線形逆問題解法を適用することにより、前記気象センサによって取得したセンサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から、2次元または3次元の速度を推定する速度推定部を有し、
前記所定の線型方程式は、
センサ観測領域内に規定した2次元または3次元の直交座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの全てを要素として含む第1ベクトルと、
前記気象センサの位置を基準とした2次元または3次元の極座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの前記第1ベクトルを内包する領域全てを要素として含む第2ベクトルと、
前記センサ視線方向の前記第1ベクトルを内包する領域全ての速度観測値を要素として含む第3ベクトルとを、
前記第1ベクトルと前記第2ベクトルとを関連付ける座標変換行列、および、前記第2ベクトルと前記第3ベクトルとを関連付ける投影行列を用いて関連付けたものであることを特徴とする観測情報処理装置。
【請求項2】
前記第1ベクトルは、下記式(1)または下記式(2)で表され、
前記第2ベクトルは、下記式(3)または下記式(4)で表され、
前記第3ベクトルは、下記式(5)で表され、
前記第1ベクトルと前記第2ベクトルとの関係は、下記式(6)で表され、
前記第2ベクトルと前記第3ベクトルとの関係は、下記式(7)で表され、
前記第1ベクトルと前記第3ベクトルとの関係は、下記式(8)で表されることを特徴とする請求項1に記載の観測情報処理装置。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【請求項3】
前記線形逆問題解法は、最小平均二乗誤差法(MMSE)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の観測情報処理装置。
【請求項4】
気象センサによって取得した観測情報を処理する観測情報処理方法であって、
センサ観測領域内に規定した2次元または3次元の直交座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの全てを要素として含む第1ベクトルと、前記気象センサの位置を基準とした2次元または3次元の極座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの前記第1ベクトルを内包する領域全てを要素として含む第2ベクトルと、前記センサ視線方向の前記第1ベクトルを内包する領域全ての速度観測値を要素として含む第3ベクトルとを、前記第1ベクトルと前記第2ベクトルとを関連付ける座標変換行列、および、前記第2ベクトルと前記第3ベクトルとを関連付ける投影行列を用いて関連付けた所定の線型方程式に、線形逆問題解法を適用することにより、前記気象センサによって取得したセンサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から、2次元または3次元の速度を推定することを特徴とする観測情報処理方法。
【請求項5】
気象センサによって取得した観測情報を処理する観測情報処理プログラムであって、
センサ観測領域内に規定した2次元または3次元の直交座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの全てを要素として含む第1ベクトルと、前記気象センサの位置を基準とした2次元または3次元の極座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの前記第1ベクトルを内包する領域全てを要素として含む第2ベクトルと、前記センサ視線方向の前記第1ベクトルを内包する領域全ての速度観測値を要素として含む第3ベクトルとを、前記第1ベクトルと前記第2ベクトルとを関連付ける座標変換行列、および、前記第2ベクトルと前記第3ベクトルとを関連付ける投影行列を用いて、関連付けた所定の線型方程式に、線形逆問題解法を適用することにより、前記気象センサによって取得したセンサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から、2次元または3次元の速度を推定する手順を
コンピュータに実行させることを特徴とする観測情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気象センサによって取得した観測情報を処理する観測情報処理装置、観測情報処理方法、及び観測情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
気象レーダ等の気象センサは、他の直接観測機器に比して、降水の情報について広範囲を短時間で観測できるという点で有用であり、今日我が国では重要な社会インフラとして用いられている。気象庁では、全国に大型の気象センサを配備し、日本全土の降水情報を常時監視している。また、気象情報がその運用に重要な役割を果たす空港でも、主要な空港には全て空港用ドップラーレーダが設置・運用されている。
【0003】
一般に気象レーダでは、降水による受信信号から、各地点における受信信号強度、ドップラー速度、及びドップラー速度幅の3値を抽出し、受信信号強度は降水の強さに対する目安となる値、ドップラー速度は風速に対応する値、ドップラー速度幅は風の荒れ具合に対応する値として用いられる。この中で特にドップラー速度は、各地点における速度を気象レーダの視線方向に投影した1次元の値であり、実際の2次元または3次元の速度を推定することは、気象レーダの速度データを活用する上で必須である。
【0004】
従来、2次元または3次元の速度場を推定する手法として、VVP(Velocity Volume Processing)法(例えば非特許文献1参照)が用いられてきた。この従来のVVP法は、任意の分解体積内において線形速度場を仮定することで2次元または3次元の速度場と視線方向速度場を関連付ける線形問題として定式化を行い、観測された視線方向速度場から最小二乗法を以て2次元または3次元の速度の推定を行うものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】R. J. Doviak and D. S. Zrnic, "Doppler Radar and Weather Observations" San Diego, CA: Academic, 1993.
【非特許文献2】R. J. Trapp and C. A. Doswell III (2000), Radar data objective analysis, J. Atmos. Oceanic Technol., vol. 17, 105-120.
【非特許文献3】南茂夫、「科学計測のためのデータ処理入門」、CQ出版、2002年
【非特許文献4】V. N. Bringi, and V. Chandrasekar (2001), Polarimetric Doppler Weather Radar:Principles and Applications, chap. 5, 211-293, Cambridge Univ. Press, Cambridge,U.K..
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来のVVP法では、以下に記載するような問題がある。
【0007】
すなわち、従来手法では、観測される視線方向速度値に無視できるほど小さな誤差しか含まれない理想的な場合にのみ、優れた2次元または3次元の速度値の推定が可能となる。しかし、一般に、気象レーダの視線方向速度値においては、従来手法にとって無視できない観測誤差が含まれることが多く、その場合、推定値の正確性及び安定性が著しく悪化するという問題があった。
【0008】
また、従来手法において、観測誤差を含んだ状況にいても推定精度を向上させる有効な方法の一つとして、多くの視線方向を含むよう分解体積を大きく(一般にレーダに対して角度方向30度程度の幅)定義することである。これにより、推定値の安定性が向上するが、一方で空間分解能が悪化し、災害に直結する局所的な現象の検出性が低下する。もう一つは、分解体積内に含まれる複数の視線方向の速度値から、大きな観測誤差が含まれる異常値を検出し、入力から除外することによって、推定値の安定性を向上させることが可能であるが、これも局所現象そのものを異常値として除外する可能性を孕んでおり、検出性を低下させるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、これらの問題点を解決するものであり、観測誤差に影響を受けることや、災害に直結する局所現象を除外することなく、センサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から、観測対象の2次元または3次元の速度を正確に推定する観測情報処理装置、観測情報処理方法、及び観測情報処理プログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本請求項1に係る発明は、気象センサによって取得した観測情報を処理する観測情報処理装置であって、所定の線型方程式に線形逆問題解法を適用することにより、前記気象センサによって取得したセンサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から、2次元または3次元の速度を推定する速度推定部を有し、前記所定の線型方程式は、センサ観測領域内に規定した2次元または3次元の直交座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの全てを要素として含む第1ベクトルと、前記気象センサの位置を基準とした2次元または3次元の極座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの前記第1ベクトルを内包する領域全てを要素として含む第2ベクトルと、前記センサ視線方向の前記第1ベクトルを内包する領域全ての速度観測値を要素として含む第3ベクトルとを、前記第1ベクトルと前記第2ベクトルとを関連付ける座標変換行列、および、前記第2ベクトルと前記第3ベクトルとを関連付ける投影行列を用いて関連付けたものであることにより、前記課題を解決するものである。
【0011】
本請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成に加え、前記第1ベクトルは、下記式(1)または下記式(2)で表され、前記第2ベクトルは、下記式(3)または下記式(4)で表され、前記第3ベクトルは、下記式(5)で表され、前記第1ベクトルと前記第2ベクトルとの関係は、下記式(6)で表され、前記第2ベクトルと前記第3ベクトルとの関係は、下記式(7)で表され、前記第1ベクトルと前記第3ベクトルとの関係は、下記式(8)で表されることにより、前記課題を解決するものである。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
本請求項3に係る発明は、前記線形逆問題解法は、最小平均二乗誤差法(MMSE)であることにより、前記課題を解決するものである。
本請求項4に係る発明は、気象センサによって取得した観測情報を処理する観測情報処理方法であって、センサ観測領域内に規定した2次元または3次元の直交座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの全てを要素として含む第1ベクトルと、前記気象センサの位置を基準とした2次元または3次元の極座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの前記第1ベクトルを内包する領域全てを要素として含む第2ベクトルと、前記センサ視線方向の全ての速度観測値を要素として含む第3ベクトルとを、前記第1ベクトルと前記第2ベクトルとを関連付ける座標変換行列、および、前記第2ベクトルと前記第3ベクトルとを関連付ける投影行列を用いて関連付けた所定の線型方程式に、線形逆問題解法を適用することにより、前記気象センサによって取得したセンサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から、2次元または3次元の速度を推定することにより、前記課題を解決するものである。
本請求項5に係る発明は、気象センサによって取得した観測情報を処理する観測情報処理プログラムであって、センサ観測領域内に規定した2次元または3次元の直交座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの全てを要素として含む第1ベクトルと、前記気象センサの位置を基準とした2次元または3次元の極座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの前記第1ベクトルを内包する領域全てを要素として含む第2ベクトルと、前記センサ視線方向の全ての速度観測値を要素として含む第3ベクトルとを、前記第1ベクトルと前記第2ベクトルとを関連付ける座標変換行列、および、前記第2ベクトルと前記第3ベクトルとを関連付ける投影行列を用いて、関連付けた所定の線型方程式に、線形逆問題解法を適用することにより、前記気象センサによって取得したセンサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から、2次元または3次元の速度を推定する手順をコンピュータに実行させることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0012】
本請求項1、4、5に係る発明によれば、センサ観測領域内に規定した2次元または3次元の直交座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの全てを要素として含む第1ベクトルと、気象センサの位置を基準とした2次元または3次元の極座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの前記第1ベクトルを内包する領域全てを要素として含む第2ベクトルと、センサ視線方向の全ての速度観測値を要素として含む第3ベクトルとを、第1ベクトルと第2ベクトルとを関連付ける座標変換行列、および、第2ベクトルと第3ベクトルとを関連付ける投影行列を用いて関連付けた所定の線型方程式に、線形逆問題解法を適用することにより、気象センサによるセンサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から、観測対象の2次元または3次元の速度を正確に推定できる。また、観測値の空間分解能をほぼ維持した推定値を出力し、災害に直結する局所現象を高精度に検出することができる。
【0013】
本請求項2に係る発明によれば、災害に直結する局所現象の検出性を損なうことなく、観測対象の2次元または3次元の速度を安定して推定することができる。
本請求項3に係る発明によれば、線形逆問題解法として最小平均二乗誤差法(MMSE)を用いることにより、より高精度な観測対象の2次元または3次元の速度の推定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態である観測情報処理装置の構成を概略的に示す説明図。
【
図2】本発明の手法による処理結果を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、気象センサによって取得した観測情報を処理する観測情報処理装置であって、所定の線型方程式に線形逆問題解法を適用することにより、気象センサによって取得したセンサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から、2次元または3次元の速度を推定する速度推定部を有し、所定の線型方程式は、センサ観測領域内に規定した2次元または3次元の直交座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの全てを要素として含む第1ベクトルと、気象センサの位置を基準とした2次元または3次元の極座標系の各格子点における2次元または3次元の速度ベクトルの第1ベクトルを内包する領域全てを要素として含む第2ベクトルと、センサ視線方向の第1ベクトルを内包する領域全ての速度観測値を要素として含む第3ベクトルとを、第1ベクトルと第2ベクトルとを関連付ける座標変換行列、および、第2ベクトルと第3ベクトルとを関連付ける投影行列を用いて関連付けたものであり、観測誤差に影響を受けることや、災害に直結する局所現象を除外することなく、センサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から、観測対象の2次元または3次元の速度を正確に推定するものであれば、その具体的な構成は如何なるものでもよい。
【0016】
例えば、本発明における気象センサとしては、気象レーダ、気象ライダ、ソーダ等の体積スキャンが可能な速度計測リモートセンサ一般を用いることができる。また、後述する実施形態では、1つの気象センサが設置された場合を説明するが、本発明は、複数の気象センサを設置した場合にも適用することができる。
また、後述する実施形態では、観測情報処理装置によって生成される情報が、航空機運航における各種判断に関する支援情報であるものとして説明するが、生成した情報の用途はこれに限定されない。
また、本発明で用いる線形逆問題解法については、最小平均二乗誤差法(MMSE、Minimum Mean Square Error)、最小二乗法(LS、Least Square)、正則化最小二乗法(NLS、Normalized Least Square)、特異値分解最小平均二乗誤差法(SVD−MMSE、Singular Value Decomposition Minimum Mean Square Error)等の如何なるものでもよいが、最小平均二乗誤差法(MMSE)を用いた場合、より高精度な観測対象の2次元または3次元の速度の推定が可能となるため、好ましい。
【0017】
以下に、本発明の一実施形態である観測情報処理装置10について、
図1、2に基づいて説明する。
【0018】
観測情報処理装置10は、気象レーダ等の気象センサSによって取得した、ドップラー速度を含む観測情報をデータ処理し、各種情報を生成するものであり、特に、航空機運航における各種判断に関する支援情報を生成するものである。観測情報処理装置10は、制御部20、気象センサSとの間で情報を送受信する送受信部40、記憶部、入力部、出力部、補助記憶装置等を備え、制御部20を記憶部に展開されたソフトウェアに従って動作させることにより、後述する各部を実現する。制御部20は、CPU等で構成され、記憶部は、ROM、RAM等で構成されている。
【0019】
制御部20は、
図1に示すように、気象センサSによって取得したセンサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から2次元または3次元の速度を推定する速度推定部30を有している。
【0020】
以下に、速度推定部30による処理の具体的内容について説明する。なお、説明を簡単にするため、以下においては、気象センサSが仰角0度のベーススキャン(全方位スキャン)の場合を仮定し、まずは水平2次元のみについて考える。
【0022】
まず、推定すべき速度場である2次元速度場ベクトルVc(任意の格子点長さを有する直交座標系上の全格子点の2次元速度を要素として含むベクトル、第1ベクトル)と、気象センサS固有の極座標系における2次元速度場ベクトルVp(気象センサSで定義される極座標系上の全格子点の2次元速度を要素として含むベクトル、第2ベクトル)とは、以下の式(10)に示すように関連付けられる。
【0024】
式(10)中、Tは座標変換行列であり、最近接法、線型変換法、ガウシアン重み付け平均法等、一般的なものを使用する(非特許文献2を参照)。
【0025】
また、2次元速度場ベクトルVcは、以下の式(11)で表される。
【0027】
式(11)中、Vx(n)及びVy(n)は、それぞれ、直交座標系上の第n格子点におけるx及びy方向速度である。nは、定義された直交座標系上の格子点の数である。
【0028】
また、2次元速度場ベクトルVpは、以下の式(12)で表される。
【0030】
式(12)中、Vx(m)及びVy(m)は、それぞれ、センサ極座標系上の第m格子点におけるx及びy方向速度である。mは、気象センサS固有の極座標系の格子点の数である。
【0031】
次に、センサ極座標上の2次元速度場ベクトルVpと、視線方向速度の全観測値を要素として含む観測値ベクトルVr(第3ベクトル)は、以下の式(13)で示すように関連付けられる。
【0033】
式(13)中、Pはセンサ極座標上の各格子点における2次元速度と視線方向速度を関連付ける投影を全て含んだ、投影行列である。
【0034】
また、観測値ベクトルVrは、以下の式(14)で表される。
【0036】
式(14)中、Vr(m)は、センサ極座標系上の第m格子点における視線方向速度である。
【0037】
そして、上記の式(10)及び式(13)より、以下の式(15)に示すように、線型方程式の定式化が可能である。
【0039】
なお、式(11)、式(12)、及び式(14)から理解できるように、必ずしもセンサ観測領域全体を定義する必要はなく、任意に定義した一定の領域において定式化することも可能である。
【0040】
つぎに、上記の式(15)で表される線型方程式に対して、最小平均二乗誤差法(MMSE、Minimum Mean Square Error)を用いた解法を適用する(非特許文献3を参照)。導出される解^Vcを以下の式(16)に示す。
【0042】
式(16)中、σVrは観測される視線方向速度の観測誤差における標準偏差、σVcは推定される2次元速度場ベクトルにおける標準偏差である。
【0043】
ここでも、気象センサSは仰角0度のベーススキャン(全方位各スキャン)を仮定し、水平2次元のみについて考え、具体例を示す。
【0044】
観測される視線方向速度が有する確率密度関数は、非特許文献4にて示され、標準偏差σVrが導出される。また、推定される2次元速度場における標準偏差σVcは、非特許文献1に示されるように分解体積の大きさに比例して決定することができる。以上の2値に加え、観測された視線方向速度ベクトル(式(14))を式(16)に代入することにより、推定値が算出される。
【0045】
なお、上記では、2次元の速度を算出する場合を説明したが、3次元の速度を算出する場合には、2次元速度場ベクトルVc(第1ベクトル)は以下の式(17)で表され、また、2次元速度場ベクトルVp(第2ベクトル)は以下の式(18)で表される。
【0047】
式(17)中、Vx(n)、Vy(n)、及びVz(n)は、それぞれ、直交座標系上の第n格子点におけるx、y、及びz方向速度である。nは、定義されたカテシアン座標系上の格子点の数である。
【0049】
式(18)中、Vx(m)、Vy(m)、及びVz(m)は、それぞれ、直交座標系上の第n格子点におけるx、y、及びz方向速度である。mは、定義された直交座標系上の格子点の数である。
【0050】
図2に本発明の手法による処理結果を示す。
図2の左側に示す従来技術では、速度の大きさおよび向きの両方に大きなバラツキが見られるのに対して、
図2の右側に示す本発明では、より安定した解を出力していることが分かる。
【0051】
このようにして得られた本実施形態の観測情報処理装置10では、気象センサSによるセンサ視線方向に沿った観測対象の1次元の速度から、観測対象の2次元または3次元の速度を正確に推定できる。また、観測値の空間分解能をほぼ維持した推定値を出力し、災害に直結する局所現象を高精度に検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、気象庁、航空会社、気象業務業者等が、既に設置もしくは今後設置する気象センサの観測情報のデータ処理に利用することができ、産業上の利用可能性を有する。また、本発明は、気象データ処理のソフトウェアメーカ、気象センサメーカ等が制作する気象センサの観測情報のデータ処理ソフトウェアにも適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
10 ・・・ 観測情報処理装置
20 ・・・ 制御部
30 ・・・ 速度推定部
40 ・・・ 送受信部