【課題】スイッチング素子を有するスイッチング回路を備えた1次側回路と、2次側回路とによって電力の変換を行う電力変換装置において、前記スイッチング素子が破損するサージ電流の発生を防止可能な構成を得る。
【解決手段】電力変換装置(1)は、電源側回路(21)が、スイッチング素子S11〜S14を有する単相ブリッジ部(22)と、該単相ブリッジ部(22)に対して並列に接続されたサージ電流防止用リアクトル(27)とを備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的に、スイッチング回路に用いられるスイッチング素子には、浮遊容量と呼ばれる容量成分が含まれている。そのため、スイッチング素子に電流が流れた際に、該スイッチング素子内の浮遊容量に電荷が蓄積される。
【0006】
よって、上述の特許文献1に開示される構成のように、スイッチング回路を用いて電力変換を行う場合、該スイッチング回路内のスイッチング素子の浮遊容量に電荷が蓄積される。電力変換装置が高負荷状態で運転している際には、スイッチング回路に流れる電流が大きいため、スイッチング素子の浮遊容量に蓄積された電荷はスイッチング回路内にほとんど流れない。一方、電力変換装置が軽負荷状態で運転している際には、スイッチング回路に流れる電流が小さくなるため、スイッチング素子の浮遊容量に蓄積された電荷がスイッチング回路内に流れる可能性がある。
【0007】
特に、電力変換装置内を流れる電流の値がゼロクロス近傍の値であるときには、スイッチング回路内に流れている電流が極めて小さくなるため、スイッチング素子の浮遊容量に蓄積された電荷が一気にスイッチング回路内に流れる。このときにスイッチング回路内に流れる電流は、スイッチング素子の最大定格電流を越えるような大きなピーク値を有する。
【0008】
このように、スイッチング素子を有するスイッチング回路内に一時的にサージ電流が流れると、スイッチング素子の温度が上昇して該スイッチング素子が破損する可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、スイッチング素子を有するスイッチング回路を備えた1次側回路と、2次側回路とによって電力の変換を行う電力変換装置において、前記スイッチング素子が破損するサージ電流の発生を防止可能な構成を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態にかかる電力変換装置は、1次側回路及び2次側回路によって電力の変換を行う電力変換装置である。前記1次側回路は、複数のスイッチング素子を有する1次側スイッチング回路と、該1次側スイッチング回路に対して並列に接続された1次側リアクトルとを備える(第1の構成)。
【0011】
以上の構成では、1次側回路が複数のスイッチング素子を有するため、該スイッチング素子内に形成された浮遊容量内に電荷が蓄えられる。そのため、1次側回路内に流れる電流値が、ゼロクロス近傍の値になると、1次側回路のスイッチング素子の浮遊容量内に蓄えられた電荷が1次側スイッチング回路内に流れる。よって、1次側回路内にスイッチング素子の浮遊容量に起因したサージ電流が流れる可能性がある。
【0012】
これに対し、上述の構成のように、1次側回路に、1次側スイッチング回路に対して並列に1次側リアクトルを設けることにより、1次側回路内に流れる電流を増大させることができる。こうすることで、1次側回路内に流れる電流値の時間変化量が大きくなって、電流値がゼロクロス近傍の範囲をより短時間で変化する。これにより、1次側スイッチング回路内を流れる電流値がゼロクロス近傍の値となる電力変換装置の軽負荷の状態で、該1次側スイッチング回路内にスイッチング素子の浮遊容量に起因したサージ電流が流れるのを防止できる。
【0013】
ここで、ゼロクロス近傍とは、電流値がゼロ及びそれと同等の極めて小さい値の範囲を意味する。具体的には、ゼロクロス近傍は、スイッチング素子の浮遊容量内に蓄積された電荷が回路内にサージ電流となって流れるような電流範囲に設定される。
【0014】
前記第1の構成において、前記1次側回路は、前記1次側スイッチング回路と前記2次側回路との間で、前記1次側スイッチング回路に対して直列に接続されたコンデンサをさらに備える。前記1次側リアクトルは、前記コンデンサと前記2次側回路との間に設けられている(第2の構成)。
【0015】
これにより、1次側回路に流れる電流は、コンデンサによって直流成分が除去された後、リアクトルを流れる。よって、電力変換装置の2次側回路に流れる電流の波形をノイズの少ない波形にすることができる。
【0016】
前記第1または第2の構成において、前記2次側回路は、複数のスイッチング素子を有する2次側スイッチング回路と、該2次側スイッチング回路に対して並列に接続された2次側リアクトルとを備える(第3の構成)。
【0017】
このように1次側回路だけでなく2次側回路にも、2次側スイッチング回路に対して並列に2次側リアクトルを設けることにより、電力変換装置が力行運転及び回生運転の両方の運転状態を実現可能な構成の場合でも、スイッチング素子の浮遊容量に起因したサージ電流の発生を防止できる。すなわち、電力変換装置が力行運転の場合には、1次側回路に設けられた1次側リアクトルによって、1次側回路内のスイッチング素子に起因したサージ電流の発生を防止する。一方、電力変換装置が回生運転の場合には、2次側回路に設けられた2次側リアクトルによって、2次側回路内のスイッチング素子に起因したサージ電流の発生を防止する。
【0018】
前記第3の構成において、前記2次側回路は、前記2次側スイッチング回路と前記1次側回路との間で、前記2次側スイッチング回路に対して直列に接続されたコンデンサをさらに備える。前記2次側リアクトルは、前記コンデンサと前記1次側回路側との間に設けられている(第4の構成)。
【0019】
これにより、電力変換装置が回生運転を行う際に、1次側回路に流れる電流の波形をノイズの少ない波形にすることができる。
【0020】
前記1次側回路と前記2次側回路との間に、該1次側回路と2次側回路との間で電力の授受を行うためのトランスをさらに備える(第5の構成)。
【0021】
このように1次側回路と2次側回路との間にトランスを設けることにより、1次側回路のノイズが2次側回路に伝わるのを抑制できる。しかも、上述の第1の構成のように、1次側回路に、1次側スイッチング回路に対して並列にリアクトルを設けることにより、1次側回路内のスイッチング素子の浮遊容量に起因したサージ電流の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一実施形態に係る電力変換装置によれば、1次側回路は、複数のスイッチング素子を有する1次側スイッチング回路と、該1次側スイッチング回路に対して並列に接続された1次側リアクトルとを備える。これにより、1次側スイッチング回路のスイング素子が有する浮遊容量に起因して、電流変換装置の軽負荷運転時に該1次側スイッチング回路内にサージ電流が流れるのを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0025】
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係る電力変換装置1の概略構成を示す図である。この電力変換装置1は、DC−DCコンバータ回路10と、DC−DCコンバータ回路10の駆動を制御するための制御部50とを備える。電力変換装置1では、DC−DCコンバータ回路10で入力電圧を所定の出力電圧に変換するように、制御部50によってDC−DCコンバータ回路10の駆動を制御する。
【0026】
DC−DCコンバータ回路10では、制御部50から出力されるPWM信号に応じて、DC−DCコンバータ回路10内の後述するスイッチング素子S11〜S14,S21〜S24がスイッチング制御される。DC−DCコンバータ回路10の詳しい構成については後述する。
【0027】
制御部50は、DC−DCコンバータ回路10に対してPWM信号を出力することにより、該DC−DCコンバータ回路10内のスイッチング素子S11〜S14,S21〜S24の駆動を制御する。
図1に示すように、制御部50は、指令電圧入力部51と、電圧差制御部52と、PWM出力部53と、加算器54と、減算器55とを備える。
【0028】
指令電圧入力部51は、指令電圧を指令信号として加算器54に出力する。加算器54は、指令電圧入力部51から出力された指令信号と、DC−DCコンバータ回路10の後述する電源側回路21の電圧に対応した信号とを加算する。加算器54は、その演算結果を減算器55に出力する。加算器54から出力された信号は、DC−DCコンバータ回路10の電源側回路21の実際の電圧に指令電圧を加算することにより得られる目標電圧に対応した信号である。
【0029】
減算器55は、加算器54から出力された信号から、DC−DCコンバータ回路10の後述する負荷側回路31の電圧に対応した信号を減算する。これにより、前記目標電圧と、DC−DCコンバータ回路10の負荷側回路31の電圧との差を求めることができる。
【0030】
なお、電源側回路21及び負荷側回路31の各電圧は、各回路の平滑コンデンサ23,33近傍の電圧を計測することにより求められる。
【0031】
電圧差制御部52は、減算器55から出力された信号に基づいて、前記目標電圧と、負荷側回路31の電圧との電圧差が一定値になるように制御信号を生成し、PWM出力部53に出力する。PWM出力部53は、電圧差制御部52から出力された前記制御信号に基づいて、DC−DCコンバータ回路10のスイッチング素子S11〜S14,S21〜S24を駆動させるためのPWM信号を生成する。また、PWM出力部53は、生成したPWM信号に基づいて、スイッチング素子S11〜S14,S21〜S24を駆動させる。
【0032】
(DC−DCコンバータ回路)
次に、DC−DCコンバータ回路10の構成について説明する。
【0033】
図1に示すように、DC−DCコンバータ回路10は、トランス11が双方向に励磁可能な双方向DC−DCコンバータである。DC−DCコンバータ回路10は、トランス11と、図示しない電源に接続される電源側回路21(1次側回路)と、図示しない負荷に接続される負荷側回路31(2次側回路)とを備える。電源側回路21及び負荷側回路31は、それぞれ複数のスイッチング素子を有し且つ後述するように同じ回路構成を有する。DC−DCコンバータ回路10は、力行及び回生の両方の運転が可能に構成されている。
【0034】
トランス11は、電源側回路21及び負荷側回路31のうち一方の回路に流れる電流によって励磁されることにより、他方の回路に誘導電流を流す。具体的には、電源側回路21に電流が流れている場合には、トランス11は、その電流によって負荷側回路31に誘導電流を流す。一方、負荷側回路31に電流が流れている場合には、トランス11は、その電流によって電源側回路21に誘導電流を流す。このように、トランス11を用いて電源側回路21と負荷側回路31とで電力の授受を行うことにより、電源側回路21と負荷側回路31との間でのノイズの伝導を防止することができる。
【0035】
電源側回路21は、単相ブリッジ部22(1次側スイッチング回路)と、平滑コンデンサ23と、スナバ回路24と、リアクトル25と、コンデンサ26と、サージ電流防止用リアクトル27(1次側リアクトル)とを備える。平滑コンデンサ23、スナバ回路24及びサージ電流防止用リアクトル27は、単相ブリッジ部22に対して並列に接続されている。リアクトル25及びコンデンサ26は、単相ブリッジ部22とトランス11との間に位置し、且つ、該単相ブリッジ部22及びトランス11に対して直列に接続されている。
【0036】
負荷側回路31も、電源側回路21と同様の回路構成を有する。すなわち、負荷側回路31は、単相ブリッジ部32(2次側スイッチング回路)と、平滑コンデンサ33と、スナバ回路34と、リアクトル35と、コンデンサ36と、サージ電流防止用リアクトル37(2次側リアクトル)とを備える。単相ブリッジ部32に対し、平滑コンデンサ33、スナバ回路34及びサージ電流防止用リアクトル37が並列に接続されている点や、単相ブリッジ部32とトランス11との間に位置し且つ該単相ブリッジ部32及びトランス11に対してリアクトル35及びコンデンサ36が直列に接続されている点も、電源側回路21の構成と同様である。すなわち、負荷側回路31と電源側回路21とは、同じ構成を有する。
【0037】
このように、電源側回路21と負荷側回路31とをトランス11を挟んで同じ構成とすることで、電力変換装置1における1次側回路と2次側回路とが入れ替わった場合でも、電力変換装置1は同じ電気的特性を有する。すなわち、電源側回路21が1次側回路として電力変換装置1が動作する場合と、負荷側回路31が1次側回路として電力変換装置1が動作する場合とで、電気的な特性は同じである。
【0038】
上述のように、電源側回路21と負荷側回路31とが同じ回路構成を有するため、以下では、電源側回路21の構成について詳しく説明し、負荷側回路31の構成については説明を省略する。
【0039】
単相ブリッジ部22は、並列に接続された2つのスイッチングアーム22a,22bを有する。スイッチングアーム22aは、直列に接続されたスイッチング素子S11,S12を有する。スイッチングアーム22bは、直列に接続されたスイッチング素子S13,S14を有する。スイッチング素子S11〜S14には、それぞれ、ダイオードD11〜D14が並列に接続されている。
【0040】
スイッチングアーム22aにおいて、スイッチング素子S11とスイッチング素子S12との中点は、コンデンサ26及びリアクトル25を介して、トランス11の巻線11aの一端側に接続されている。スイッチングアーム22bにおいて、スイッチング素子S13とスイッチング素子S14との中点は、トランス11の巻線11aの他端側に接続されている。
【0041】
これにより、スイッチング素子S11〜S14を用いたブリッジ回路が形成される。
【0042】
平滑コンデンサ23は、単相ブリッジ部22に対して並列に接続されている。平滑コンデンサ23は、単相ブリッジ部22の電圧を平滑化する。
【0043】
スナバ回路24は、単相ブリッジ部22に対して並列に接続されている。スナバ回路24は、単相ブリッジ部22のスイッチング素子S11〜S14がスイッチング動作を行った際に生じる高電圧を吸収する。具体的には、スナバ回路24は、コンデンサ24aと、抵抗24bとを有する。スナバ回路24の構成は、一般的なスナバ回路と同様の構成であるため、詳しい説明を省略する。
【0044】
リアクトル25及びコンデンサ26は、単相ブリッジ部22とトランス11との間で、トランス11の巻線11aの一端側に直列に接続されている。リアクトル25は、従来と同様の構成を有する直列リアクトルであるため、詳しい説明を省略する。なお、リアクトル25の容量は、例えば100μHである。コンデンサ26をトランス11の巻線11aの一端側に接続することにより、該コンデンサ26によって電流の直流成分をカットできるので、DC−DCコンバータ回路10内に流れる電流をノイズの少ない電流波形にすることができる。
【0045】
サージ電流防止用リアクトルは、単相ブリッジ部22に対して並列に接続されている。サージ電流防止用リアクトル27を単相ブリッジ部22に対して並列に設けることで、電流防止用リアクトル27にリアクトル電流が流れて、DC−DCコンバータ回路10内に流れる電流が増大する。これにより、サージ電流防止用リアクトル27を設けない構成に比べて、単相ブリッジ部22に流れる電流を増大させることができる。よって、後述するように、サージ電流防止用リアクトル27によって、ゼロクロス近傍でのサージ電流の発生を抑制することができる。なお、サージ電流防止用リアクトル27の容量は、例えば1mmHである。
【0046】
図1において、符号32a,32bは、それぞれ、スイッチングアームであり、符号34aはスナバ回路34のコンデンサであり,符号34bはスナバ回路34の抵抗である。また、
図1において、符号S21〜S24は、それぞれ、単相ブリッジ部32のスイッチング素子であり、符号D21〜D24は、それぞれ、単相ブリッジ部32のダイオードである。
【0047】
なお、単相ブリッジ部32は、スイッチングアーム32aを構成するスイッチング素子S21とスイッチング素子S22との中点が、トランス11の巻線11bの一端側に接続されている。一方、スイッチングアーム32bを構成するスイッチング素子S23とスイッチング素子24との中点が、トランス11の巻線11bの他端側に接続されている。
【0048】
(電圧波形及び電流波形)
上述のような構成を有する電力変換装置1のDC−DCコンバータ回路10の電圧波形及び電流波形を、
図2及び
図3を用いて説明する。
【0049】
図2に、サージ電流防止用リアクトル27,37を設けない場合のDC−DCコンバータ回路10の電圧波形及び電流波形を示す。詳しくは、
図2(a)はトランス11の1次側の電圧波形であり、
図2B(b)はトランス11の2次側の電圧波形である。また、
図2(c)は、DC−DCコンバータ回路10内に流れる電流の波形である。
図3及び
図4に、サージ電流防止用リアクトル27,37を設けた場合のDC−DCコンバータ回路10内に流れる電流の波形を実線で示す。なお、
図3及び
図4において、太破線は
図2(c)の電流波形と同じ波形である。
【0050】
本実施形態の電力変換装置1は、例えばトランス11の1次側の電圧(例えば電源側回路21の電圧)が700Vの場合に、トランス11の2次側の電圧(例えば負荷側回路31の電圧)が730Vになるように電力変換を行う。電力変換装置1において、トランス11の1次側の電圧及び2次側の電圧は、それぞれ、時間の変化に応じて略矩形状に変化する交流電圧である。なお、本実施形態の電力変換装置1は、軽負荷の状態で、トランス11の1次側の電圧と2次側の電圧とで位相が同期するように電力変換を行う一方、重負荷の状態で、前記位相が非同期となるように電力変換を行う。上述の
図2(a)、(b)に示す電圧波形は、電力変換装置1が軽負荷の状態である。
【0051】
本実施形態において、電力変換装置1の電圧変換は、単相ブリッジ部22,32のスイッチング素子S11〜14,S21〜S24のスイッチング動作をPWM信号によって制御することにより行う。スイッチング素子のPWM制御は、従来のPWM制御と同様なので、詳しい説明を省略する。
【0052】
トランス11の1次側及び2次側の電圧がそれぞれ
図2(a),(b)に示す波形の場合、サージ電流防止用リアクトル27,37を設けない構成において、DC−DCコンバータ回路10内に流れる電流の波形は、
図2(c)に示すような波形である。この場合の電流波形は、時間の変化とともに概ね鋸歯状に変化する。
【0053】
サージ電流防止用リアクトル27,37を設けない場合、電力変換装置1が軽負荷の状態、すなわち、DC−DCコンバータ回路10内を流れる電流の値がゼロに近い状態(以下、ゼロクロス近傍という)で、DC−DCコンバータ回路10内に過大な電流(サージ電流)が流れる。これは、電力変換装置1において1次側の単相ブリッジ部を構成するスイッチング素子に内在する浮遊容量に電荷が蓄積されているため、電力変換装置1が軽負荷の状態で該電力変換装置1の電圧が変動して所定値以下になると、スイッチング素子の浮遊容量内に蓄積された電荷が回路内に短時間で流出するからである。
【0054】
具体的には、電力変換装置1において電源側回路21が1次側回路として機能している場合には、電力変換装置1が軽負荷の状態で電源側回路21の電圧が所定値以下になると、電源側回路21のスイッチング素子S11〜S14の浮遊容量に蓄積された電荷が電源側回路21内に一気に流れる。一方、電力変換装置1において負荷側回路31が1次側回路として機能している場合には、電力変換装置1が軽負荷の状態で負荷側回路31の電圧が所定値以下になると、負荷側回路31のスイッチング素子S21〜S24の浮遊容量に蓄積された電荷が負荷側回路31内に一気に流れる。
【0055】
ここで、所定値とは、スイッチング素子の浮遊容量に蓄積された電荷が回路内に流れるような該回路内の電圧である。
【0056】
このように、電力変換装置1が軽負荷の状態で、スイッチング素子の浮遊容量に蓄積された電荷が短時間で回路内に流れると、回路に流れる電流がスイッチング素子の最大定格電流を超えたり、スイッチング素子の温度が上昇して該スイッチング素子が破損したりする可能性がある。すなわち、スイッチング素子の浮遊容量に蓄積された電荷は、サージ電流の原因となって、スイッチング素子が破損する可能性がある。
【0057】
ここで、ゼロクロス近傍とは、電流値がゼロ及びそれと同等の極めて小さい値の範囲を意味する。具体的には、ゼロクロス近傍は、スイッチング素子の浮遊容量内に蓄積された電荷が回路内にサージ電流となって流れるような電流範囲に設定される。
図3及び
図4において、ゼロクロス近傍はXの範囲である。
【0058】
これに対し、本実施形態のように、単相ブリッジ部22,32に対してそれぞれ並列にサージ電流防止用リアクトル27,37を設けることにより、該サージ電流防止用リアクトル27,37にリアクトル電流が流れて、DC−DCコンバータ回路10内に流れる電流が増大する。その結果、サージ電流防止用リアクトル27,37を設けない場合にDC−DCコンバータ回路10内に流れる電流(
図3及び
図4中の破線)に比べて、
図3及び
図4に実線で示すように、DC−DCコンバータ回路10内に流れる電流が増大する。
【0059】
こうすることで、
図4に拡大して示すように、DC−DCコンバータ回路10に流れる電流の時間変化量が大きくなるため、電力変換装置1が軽負荷状態である時間、すなわち、DC−DCコンバータ回路10内に流れる電流値がゼロクロス近傍の値である時間(
図4に示すT)が短くなる。これにより、DC−DCコンバータ回路10のスイッチング素子S11〜14,S21〜S24の浮遊容量に蓄積された電荷がDC−DCコンバータ回路10内に流出するタイミングがほとんどなくなり、
図2(c)に示すようなサージ電流がDC−DCコンバータ回路10に流れなくなる。
【0060】
(実施形態の効果)
以上より、本実施形態では、単相ブリッジ部22,32に対してそれぞれ並列にサージ電流防止用リアクトル27,37を設けることにより、電力変換装置1が軽負荷の状態で、スイッチング素子S11〜14,S21〜S24の浮遊容量の影響によってDC−DCコンバータ回路10内にサージ電流が流れるのを防止できる。これにより、スイッチング素子S11〜14,S21〜S24の浮遊容量に起因したサージ電流によって、スイッチング素子S11〜14,S21〜S24が破損するのを防止できる。
【0061】
また、トランス11を介して電力の授受を行う電源側回路21及び負荷側回路31に、それぞれ、サージ電流防止用リアクトル27,37を設けることにより、電力変換装置1が力行及び回生のいずれの運転を行う場合でも、電力変換装置1内のスイッチング素子S11〜14,S21〜S24の浮遊容量に起因してサージ電流が生じるのを防止できる。
【0062】
さらに、本実施形態では、電源側回路21及び負荷側回路31において、電源変換装置において1次側回路として機能した際にサージ電流防止用リアクトル27,37の上流側の位置に、トランス11に対して直列にコンデンサ26,36を設ける。これにより、電流の直流成分をカットすることができ、DC−DCコンバータ回路10に流れる電流の波形をノイズの少ない電流波形にすることができる。
【0063】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0064】
前記実施形態では、電力変換装置1の力行及び回生のいずれの運転状態にも対応できるように、電源側回路21及び負荷側回路31のいずれにもサージ電流防止用リアクトル27,37を設けている。しかしながら、電源側回路21及び負荷側回路31のいずれか一方のみにサージ電流防止用リアクトルを設けてもよい。このように電源側回路21及び負荷側回路31のいずれか一方のみにサージ電流防止用リアクトルを設ける場合には、電力変換装置の1次側回路にサージ電流防止用リアクトルを設けるのが好ましい。
【0065】
前記実施形態では、電源側回路21及び負荷側回路31は、複数のスイッチング素子S11〜14,S21〜S24を有する単相ブリッジ部22,32を備えている。しかしながら、一方の回路は、スイッチング素子ではなく、例えばダイオード等のスイッチング動作しない素子によって構成されていてもよい。この場合には、スイッチング素子を有する回路にサージ電流防止用リアクトルを設ければよい。
【0066】
前記実施形態では、電源側回路21及び負荷側回路31が電力変換装置1の1次側回路として機能する際にサージ電流防止用リアクトル27,37よりも上流側の位置に、コンデンサ26,36が設けられている。しかしながら、コンデンサを電源側回路21及び負荷側回路31のいずれか一方のみに設けてもよいし、いずれの回路に設けなくてもよい。