【課題】卑金属材料からなる被処理材の形状を保持した状態で、被処理材の表面から貴金属含有金属皮膜のみを選択的にエッチングすることができる電解エッチング方法及び電解エッチング液を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される錯化剤1g/L〜100g/Lを含み、pHが2〜7に調整された電解エッチング液に前記被処理材を浸漬し、当該被処理材を陽極として、他の電極との間で電圧を印加して、当該貴金属含有金属皮膜をエッチングしながら、当該基材の表面に陽極酸化被膜を形成。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク等の記録媒体、液晶ディスプレイ等の表示装置、半導体装置等の各種製造工程では、スパッタリング装置等を用いて処理基板上に、金属材料等の各種材料を成膜する。例えば、近年、記録媒体の垂直磁気記録層として、PtCoCr膜等をスパッタリング法により成膜することが行われている。この垂直磁気記録方式によれば、従来の面内磁気記録方式と比較すると、記録密度の著しい向上を図ることができることから、近年、ハードディスク等の記録媒体の記録層として広く利用されている。
【0003】
ところで、スパッタリング装置では、一般に、処理基板及びターゲットを真空雰囲気下で収容するチャンバと、チャンバ内にスパッタガスを供給するスパッタガス供給手段と、ターゲットを一方の電極としてグロー放電を行うことによりチャンバ内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段等を備えている。チャンバ内において発生させたプラズマの陽イオンをターゲットに衝突させ、ターゲットから叩き出された原子(スパッタ原子)を基板表面に堆積させることにより、基板の表面に薄膜を形成することができる(例えば、「特許文献1」参照)。
【0004】
このようなスパッタリング装置等の物理蒸着装置では、成膜中に処理基板の周囲にもスパッタ原子等が飛散/拡散し、チャンバの内壁等に付着/堆積する場合がある。このため、チャンバ内において、処理空間を囲むようにシールド板を配置し、成膜中に飛散/拡散したスパッタ原子等をシールド板に付着/堆積させ、シールド板に堆積させることにより、チャンバの内壁等を保護している。シールド板は定期的に交換され、使用済みのシールド板はエッチング等により清浄化されて、再利用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば、上記PtCoCr膜のように、Pt、Co等の貴金属を含む金属被膜は耐腐食性が高く、エッチングによりシールド板の表面から完全に除去するのは困難である。また、シールド板がアルミニウム等の耐腐食性の低い卑金属材料からなる場合、シールド板の表面から貴金属含有金属被膜が完全に溶解除去されるまでの間に、シールド板の表面も浸食されてしまい、シールド板を再利用することが困難になる。
【0007】
そこで、本件発明は、アルミニウム等の卑金属材料からなる基材の形状を保持した状態で、基材の表面に設けられた貴金属含有金属皮膜を選択的にエッチングすることができる電解エッチング方法及び電解エッチング液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下の電解エッチング方法及び電解エッチング液を採用することで上記課題を達成するに到った。
【0009】
本件発明に係る電解エッチング方法は、卑金属材料からなる基材の表面に貴金属含有金属被膜を備える被処理材をエッチングにより除去するための電解エッチング方法であって、下記式(1)で表される錯化剤1g/L〜100g/Lを含み、pHが2〜7に調整された電解エッチング液に前記被処理材を浸漬し、当該被処理材を陽極として、他の電極との間で電圧を印加して、当該貴金属含有金属皮膜をエッチングしながら、当該基材の表面に陽極酸化被膜を形成させることを特徴とする。
【0010】
【化1】
但し、上記式(1)において、1≦n≦7であり、Xはアミノ基又はチオール基である。
【0011】
本件発明に係る電解エッチング方法において、前記卑金属は、Al,Ti,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta又はWのいずれか一種又は二種以上であることが好ましい。
【0012】
本件発明に係る電解エッチング方法において、前記電解エッチング液の組成成分には、塩化物イオン源として作用する物質は含まれないことが好ましい。
【0013】
本件発明に係る電解エッチング方法において、前記電解エッチング液の組成成分には、カリウムイオン源として作用する物質が含まれることが好ましい。
【0014】
本件発明に係る電解エッチング液は、卑金属材料からなる基材の表面に貴金属含有金属被膜を備える被処理材をエッチングにより除去するための電解エッチング液であって、下記式(1)で表される錯化剤1g/L〜100g/Lを含み、pHが2〜7に調整されたことを特徴とする。
【0015】
【化2】
但し、上記式(1)において、1≦n≦7であり、Xはアミノ基又はチオール基である。
【発明の効果】
【0016】
本件発明によれば、式(1)で表される錯化剤を含むpHが2〜6の電解エッチング液を用いて、当該被処理材を陽極として、他の電極との間で電圧を印加して、貴金属含有金属皮膜をエッチングしながら、貴金属含有金属皮膜を構成する金属成分を電解エッチング液中で錯体として安定に保持することができる。これと同時に、基材の表面が露出した場合、基材の表面に陽極酸化被膜が形成されるため、卑金属材料からなる基材の表面が電解エッチング液に溶出するのを防止することができる。また、基材の表面に陽極酸化被膜を形成することにより、基材材の表面から貴金属含有金属皮膜を物理的に剥離することができる。すなわち、本件発明によれば、基材の形状を保持した状態で、基材の表面から貴金属含有金属皮膜のみを選択的にエッチングすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本件発明に係る電解エッチング方法及び電解エッチング液の実施の形態を説明する。
【0019】
まず、本件発明の概要について説明する。本件発明に係る電解エッチング方法及び電解エッチング液は、卑金属材料からなる基材の表面に貴金属含有金属被膜を備える被処理材を除去するための電解エッチング方法及び電解エッチング液であり、本件発明によれば、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の基材の表面を浸食することなく、当該基材の表面に設けられたエッチング難物質である貴金属を含有する金属被膜のみを選択的にエッチングすることができる。
【0020】
ここで、本件発明において被処理材とは、卑金属材料からなる基材の表面に貴金属含有金属被膜を備えるものであれば特に限定されるものではない。本件発明において、卑金属とは、貴金属に対する語として用いており、イオン化傾向が大きく、化学的に安定ではない金属を指す。具体的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉄、亜鉛、鉛などを指し、本件発明は、特に、後述する電解エッチングの際に、電解エッチング液に不溶の陽極酸化被膜を形成する卑金属に好適である。このような電解エッチング液に不溶の陽極酸化被膜を形成する卑金属として、Al,Ti,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta、W等を挙げることができる。また、卑金属材料とは、これらの卑金属自体又はこれらの卑金属を主成分とする合金を意味する。特に、本件発明に係る電解エッチング方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に貴金属含有被膜を備えた被処理材に好適である。被処理材として、具体的には、上述したスパッタリング装置のチャンバ内で用いられたシールド板を挙げることができる。すなわち、貴金属含有金属被膜が成膜されたアルミニウム製又はアルミニウム合金製のシールド板を被処理材とすることができる。しかしながら、この使用済みのシールド板に限定されるものではなく、表面に貴金属含有被膜を備える卑金属材料からなる基材であれば、その用途や形状等が特に限定されるものではない。
【0021】
また、貴金属含有金属被膜とは、貴金属からなる金属被膜であってもよいし、貴金属合金からなる金属被膜等であってもよく、貴金属を含有する金属被膜であれば特にその形態が限定されるものではない。また、本件発明において、貴金属とは、金、銀及び白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)を指す。これらはイオン化傾向が小さく、酸に強いため、いわゆるエッチング難物質に該当する。
【0022】
本件発明において、貴金属含有金属皮膜は、上記貴金属を含有する金属被膜であれば特に限定されるものではないが、本件発明に係る電解エッチング方法を適用することが好適な貴金属含有金属皮膜として、貴金属を含有するCoCr系合金が挙げられる。例えば、垂直磁気記録媒体の垂直磁気記録層は、スパッタリング装置等により成膜されるPtCoCr皮膜から構成されており、アルミニウム製のシールド板にはこのようなPtCoCr皮膜が形成されている場合がある。このような場合も本件発明に係る電解エッチング液を用いて、後述する電解エッチング方法を適用することにより、アルミニウム製のシールド板の表面を浸食することなく、シールド板の表面からPtCoCr皮膜のみを剥離することが可能になる。以下、電解エッチング液、電解エッチング方法の順に説明する。
【0023】
1.電解エッチング液
本件発明に係る電解エッチング液は、下記式(1)で表される錯化剤1g/L〜100g/Lを含み、pHが2〜7であることを特徴とする。本件発明に係る電解エッチング液は、後述する式(1)で表される錯化剤を含み、pHが2〜6であればどのような組成であってもよいが、後述する酸溶液であり、且つ、後述する電解質及び/又はpH調整剤によりpHの値が2〜6の範囲内であって、所定の値に調整されたものとすることが好ましい。
【0024】
ここで、当該電解エッチング液のpHの値が2未満である場合、基材の表面に陽極酸化被膜を形成したとしても、当該陽極酸化被膜及び基材の構成材料であるアルミニウム又はアルミニウム合金が溶解するため好ましくない。一方、pHの値が6を超える場合、電解エッチング速度が遅くなりすぎ、工業的な処理工程で当該エッチング処理を採用することが難しくなるため好ましくない。基材を浸食することなく、工業的な処理工程で採用可能な電解エッチング速度とするという観点から、電解エッチング液のpHの値は上述の2〜6の範囲内であることが好ましく、pHの値は3〜5の範囲内であることがより好ましく、pHの値は3.5〜4.5の範囲内であることがさらに好ましい。
以下、当該電解エッチング液の各組成毎に説明する。
【0025】
(1)錯化剤
本件発明に係る電解エッチング液は、下記式(1)で表される錯化剤を1g/L〜100g/Lの範囲で含むことにより、貴金属含有金属被膜を構成する金属成分と錯体を形成して電解エッチング液中に安定に保持することができる。
【0026】
【化3】
但し、上記式(1)において、1≦n≦7であり、Xはアミノ基又はチオール基である。
【0027】
上記式(1)で表され、式(1)中のnが1≦n≦7の範囲内である化合物であれば、いずれであってもよい。これらの化合物は、上記貴金属含有金属皮膜を構成する貴金属成分とより良好に錯体を形成し、電解エッチング液中にこれらの貴金属成分を安定に保持することができるためである。nの値が上記範囲を超えると、電解エッチング液の粘性が高くなり、電解エッチング液の拡散係数が小さくなるため好ましくない。また、本件発明において、例えば、末端基がアミノ基である場合、上記式(1)中のnは3≦n≦6であることがより好ましく、n=5のペンタエチレンヘキサミンを錯化剤として用いることがより好ましい。また、末端基がチオール基である場合、n=1のアミノエタンチオールなどを好適に用いることができる。
【0028】
また式(1)において末端基であるXは、アミノ基(−NH
2)及びチオール基(−SH)のいずれであってもよく、目的に応じて適宜適切なものを選択することができる。末端基Xがアミノ基である場合、末端基Xがチオール基である場合と比較すると電解エッチング速度が速くなる。また、末端基Xがアミノ基である場合と、末端基Xがチオール基である場合には、金属錯体を形成しやすい貴金属成分が異なる。例えば、末端基Xがアミノ基である場合、Coに対する選択エッチング性を示し、末端基がチオール基である場合、Ptに対する選択エッチング性を示す。このため、貴金属含有皮膜を構成する貴金属成分の種類に応じて、適宜、より適切な化合物を選択することが好ましい。
【0029】
当該電解エッチング液中における当該錯化剤の含有量は、上述のとおり、1g/L〜100g/Lであるが、上記金属成分と錯化剤とを良好に接触させるという観点から、当該エッチング液中における錯化剤の含有量は20g/L〜50g/Lであることがより好ましい。
【0030】
(2)酸
本件発明に係る電解エッチング液は、pHは2〜6の酸性〜弱酸性の溶液であり、各種強酸又は弱酸を溶媒に溶解させた酸溶液に対して、上記錯化剤、電解質、pH調整剤等の各種成分を添加したものとすることができる。ここで、当該電解エッチング液の組成成分には、塩化物イオン源として作用する物質が含まれないことが好ましい。塩化物イオンは基材の構成材料であるアルミニウムに対する反応性が高く、後述する電解エッチング方法を適用したときに、基材の表面を浸食する恐れが生じるためである。
【0031】
具体的には、化学式中に塩素を含む塩酸等の酸であって、水溶液中で電離して塩化物イオンを生成する酸以外の酸溶液とすることが好ましい。このような酸として、例えば、硫酸やスルホン酸等の強酸、炭酸、硝酸、カルボン酸等の弱酸を用いることができる。スルホン酸としては、メタンスルホン酸やエタンスルホン酸等のアルキルスルホン酸、アリルスルホン酸等を用いることができる。また、カルボン酸は、少なくとも一つのカルボキシ基を有する有機酸であればよいが、特に、カルボキシ基を一つ有するモノカルボン酸であることが好ましい。さらに、カルボン酸として、カルボキシ基の近傍にヒドロキシ基を有する乳酸やグリコール酸等のヒドロキシ酸を用いてもよく、特に、有機酸としては下記式(2)で表されるα−ヒドロキシカルボン酸を用いることがより好ましい。調製する電解エッチング液のpH値に応じて、上述した酸の中から一種又は複数種を適宜選択すればよい。特に、アルキルスルホン酸と、硫酸とを併用することが好ましい。
【0033】
但し、上記式(2)において、R
1 及びR
2はそれぞれ水素、炭素数が1〜4の炭化水素、炭素数が1〜4のアルキルアミン又は炭素数が1〜4のアルキルエーテルである。R
1 及びR
2はこれらのいずれであってもよいが、R
1 の炭素数と、R
2の炭素数とが共に4であることは好ましくない。また、R
1 の炭素数と、R
2の炭素数との和が4以下であることがより好ましい。炭素数が増加すると、電解エッチング液に対する溶解性が低下するためである。
【0034】
(3)電解質及びpH調整剤
電解質及びpH調整剤についても、塩化物イオン源として作用する物質ではないことが好ましい。すなわち、塩化物イオン以外のアニオン源として作用する物質であることが好ましく、例えば、上述した酸、すなわち、硫酸、スルホン酸、炭酸、硝酸、カルボン酸等の塩であることが好ましく、これらのリチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩などのアルカリ塩であることが好ましく、カリウム塩であることが特に好ましい。具体的には、電解質としては、硫酸カリウム、メタンスルホン酸カリウム等を用いることが好ましい。一方、pH調整剤としては、炭酸、硝酸又はカルボン酸のアルカリ塩を用いることが好ましく、これらのカリウム塩であることがより好ましい。これら電解質及びpH調整剤の量を適宜調整することにより、電解エッチング液のpHの値を2〜6の間の所定の値にすることができる。
【0035】
また、電解質及びpH調整剤は、塩化物イオン源として作用する物質ではないと共に、カリウムイオン源として作用する物質であることが好ましい。すなわち、塩化物イオン以外のアニオン源として作用する物質のカリウム塩であることが好ましい。具体的には、硫酸カリウム、スルホン酸カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウム、カルボン酸カリウムであることが好ましい。なお、電解質及びpH調整剤はそれぞれ一種又は複数種を適宜、適切なものを用いることができる。
【0036】
(4)その他
本件発明に係る電解エッチング液は、上述したとおり、式(1)で表される錯化剤を1g/L〜100g/Lの範囲内で含むと共に、pHが2〜6の範囲内であればよく、上記酸、電解質、pH調整剤などを含むことができるが、上述した成分以外にも界面活性剤等の電解エッチング液の添加剤として使用される各種成分は本件発明の趣旨を逸脱しない範囲において組成成分として用いてよいのは勿論である。
【0037】
2.電解エッチング方法
次に、本件発明に係る電解エッチング方法について説明する。本件発明に係る電解エッチング方法は、卑金属材料からなる基材の表面に貴金属含有金属被膜を備える被処理材をエッチングにより除去するための電解エッチング方法であって、上述した式(1)で表される錯化剤1g/L〜100g/Lを含み、pHが2〜7である電解エッチング液に被処理材を浸漬し、当該被処理材を陽極として、他の電極との間で電圧を印加して、当該貴金属含有金属皮膜をエッチングしながら、当該基材の表面に陽極酸化被膜を形成させることを特徴とする。
【0038】
ここで、電解エッチング液については、上述した本件発明に係る電解エッチング液を用いることができるため、ここでは説明を省略する。以下、
図1を参照しながら、本件発明に係る電解エッチング方法の手順を説明する。
【0039】
図1(a)は、被処理材の断面を模式的に示したものである。
図1(a)に示す被処理材は、上述の卑金属材料からなる基材の表面に、物理蒸着膜である貴金属含有金属被膜を備えたものである。当該実施の形態では、貴金属含有金属被膜はスパッタ法により当該基材の表面に成膜されたPtCoCr膜とする。この被処理材を、上述した電解エッチング液に浸漬し、当該被処理材を陽極として、他の電極との間で電圧を印加する。
【0040】
ここで、電解温度は高い程、電解エッチング速度が速くなるため好ましいが、電解温度が高くなり過ぎると、被処理材の表面に形成された陽極酸化被膜が溶解する場合があり好ましくない。また、浴の分解等が生じ、適切な電解反応を行うことができなくなる場合があり、好ましくない。例えば、30℃〜90℃とすることが好ましく、50℃〜80℃とすることがより好ましく、65℃〜75℃とすることがさらに好ましい。また、その他の電解電流密度等は、基材を構成する材料、例えば、アルミニウム等の具体的な金属材料に応じて、当該金属材料の陽極酸化を行う上で適切な条件とすることが好ましい。
【0041】
外部電源等から当該被処理材に電流が流れ込むと、電解反応により貴金属含有金属被膜の構成成分であるPt、Co、Crがそれぞれ陽イオンとなり、電解エッチング液中の錯化剤と錯体を形成し、電解エッチング液中に安定に保持される。一方、
図1(b)に示すように、電解エッチングにより、基材の表面が露出した部分は陽極酸化されて、陽極酸化被膜が形成される。
【0042】
電解エッチングが進行するにつれて、
図1(c)に示すように、基材の表面から貴金属含有金属皮膜が除去されていくと共に、基材の表面の露出部分には陽極酸化皮膜が形成されていく。このため、電解エッチング液が基材の表面全面に接触する時点では、基材の表面全面には陽極酸化被膜が全面に形成されている。このため、基材の表面に設けられた貴金属含有金属被膜は、基材と貴金属含有金属被膜との界面に形成される陽極酸化被膜により、基材の表面から物理的に剥離され、これらは金属錯体として電界液中に保持される。
【0043】
以上の工程により、耐腐食性の低いアルミニウム製の基材の表面に設けられた、耐腐食性の高いPt等の貴金属を含有する貴金属含有金属皮膜を基材の表面を浸食することなく、基材の形状を保持した状態で、当該貴金属含有金属皮膜のみを選択的にエッチングすることができる。
【0044】
次に、実施例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
実施例1では、以下の組成の電解エッチング液を100mLに対して、表面積が0.8856dm
2のアルミニウム製基材上に1mm厚みのPtCoCrスパッタ薄膜(表面積:0.0320dm
2)が形成された被処理材を浸漬し、下記の条件で電解エッチングを行った。
【0046】
[電解エッチング液の組成]
ペンタエチレンヘキサミン:50g/L
メタンスルホン酸 :42mL/L
硫酸 :18mL/L
硝酸カリウム :25g/L
炭酸カリウム :液pHが4になるように添加量を調整した。
【0047】
[電解条件]
温度 :70℃
陰極 :Ta/Ta
2O
5電極(電極板面積:0.2dm
2)
陽極 :被処理材
電流 :0.3A
時間 :2時間
【実施例2】
【0048】
実施例2では、実施例1の電解エッチング液において、ペンタエチレンヘキサミンに代えて、アミノエタンチオールを用いた以外は、実施例1と同様にして、電解エッチングを行った。
【0049】
[評価]
上記条件で電解エッチングを行った後、被処理材の表面をEDX(エネルギー分散型X線分光法)により組成分析を行った。また、電解エッチング液のICP発光分析(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析)を行った。さらに、実施例1及び実施例2のいずれの場合も、電解エッチング液中に僅かであるが沈殿物が生じたため、沈殿物についてもICP発光分析を行った。
【0050】
実施例1及び実施例2のいずれの電解エッチング液を用いた場合も、電解エッチング後の被処理材の表面の各金属成分の元素比は、Alが100%であり、Pt、Co、Crはいずれも0%であった。このことから、本件発明に係る電解エッチング方法によれば、エッチング難物質である貴金属を含有する貴金属含有皮膜を被処理材の表面から完全に除去することが可能であることが確認された。
【0051】
次に、ICP発光分析の結果について説明するICP発光分析により、電解エッチング液に含まれるAl、Pt、Co、Crの各元素比は次のようになった。錯化剤として、ペンタエチレンヘキサミンを含む実施例1の電解エッチング液を用いて電解エッチングを行った場合は、電解エッチング液に含まれるAlは23.0%、Ptは0.5%、Coは67.0%、Crは9.5%であった。一方、錯化剤としてアミノエタンチオールを含む実施例2の電解エッチング液を用いて電解エッチングを行った場合は、電解エッチング液に含まれるAlは1.0%、Ptは81.3%、Coは8.6%、Crは9.1%であった。これらのことから、上記式(1)で表される化合物のうち、末端基Xがアミノ基の場合は、Coに対する選択エッチング性を示し、末端基がチオール基の場合はPtに対する選択エッチング性を示すことが確認された。
【0052】
また、実施例1の電解エッチング液を用いた場合、沈殿物量は0.387gであった。この沈殿物に含まれるAlは10.5%、Ptは77.4%、Coは9.0%、Crは3.1%であった。一方、実施例2の電解エッチング液を用いた場合、沈殿物量は1.87gであった。この沈殿物に含まれるAlは45.8%、Ptは3.6%、Coは45.6%、Crは5.0%であった。すなわち、電解エッチング液中には僅かに沈殿物が生じるが、実施例1の電解エッチング液を用いた場合には沈殿物中のPt検出量が多く、実施例2の電解エッチング液を用いた場合には沈殿物中のCo検出量が多くなる。この結果からも上述のとおり、各電解エッチング液中の式(1)で表される化合物の末端基Xに応じて、各貴金属成分に対する選択エッチング性がみられることが確認された。従って、貴金属含有皮膜を構成する貴金属成分が一種類の場合は、より適切な化合物を用いることにより、その貴金属成分を選択的にエッチングすることが可能になる。また、貴金属含有皮膜を構成する貴金属成分が2種類である場合、いずれかの成分を電解エッチング液側に、他の成分を沈殿物側に多く回収することができるため、それぞれの貴金属成分の再生が容易になる。
【0053】
なお、各実施例においてそれぞれ電解エッチング液にはAlも検出された。また、微量であるが沈殿物も確認され、沈殿物からもAlが検出された。しかしながら、Alはイオン化傾向が高く、Pt、Co等の貴金属成分と比較すると極めてエッチングされやすい物質であることを考慮すると、本件発明によれば被処理部材の表面が溶出するのを有効に抑制することができたと結論付けることができる。また、目視により電解エッチングの前後における基材の形状を観察したところ、基材の形状は電解エッチング前後において変化がなく、基材の形状を保持することが可能であることが確認された。