【実施例1】
【0016】
[本発明の構成](
図1)
<1>接合部材。
本発明の接合部材10は、第一鋼矢板50aと第二鋼矢板50bを一定の角度で連結する部材である。
接合部材10は、接続部20と、嵌合部30と、溶接部40とを具備する。
接合部材10は、鋼材によって製造することができる。
【0017】
<2>接続部。
接続部20は、第二鋼矢板50bの継手部51と嵌合して接続する部分である。
接続部20は、断面が第二鋼矢板50bの継手部51に嵌め合わせ可能な鈎形状を呈する。すなわち、接続部20は、嵌合部30側から嵌合部30の最遠端方向に向かって円弧状に連続し、嵌合部30の最遠端付近で円弧の内側へわずかに屈曲し、屈曲部分より先端は略直線の形状を呈する。なお、接続部20の形状はこれに限られず、先端に直線状の部分を有さない、連続した円弧状の形状とすることもできる。
接続部20の鈎形状の内面は滑らかな内周面21である。内周面21は接続部20の先端から溶接部40の側面まで連続し、溶接部40の溶接面42との間に隆起した峰43を形成する。
接続部20の鈎形状の外面は滑らかな外周面22である。外周面22は接続部20の先端から嵌合部30まで連続する。
接続部20は、嵌合部30を第一鋼矢板50aの継手部51と嵌合した状態において、鈎形状の開口23が第一鋼矢板50aの側面52側に開放される形状を呈する。
【0018】
<2.1>開口角度
接続部20の鈎形状の先端の延長線と、嵌合部30の端面の最外端を通る第一鋼矢板50aの法面方向線とが、開口角度αを形成する(
図4A、4B)。
嵌合部30に対する接続部20の傾倒角度を変更することによって、開口角度αの異なる複数の種類の接合部材10を設計することができる。
【0019】
<3>嵌合部。
嵌合部30は、第一鋼矢板50aの端部の継手部51と嵌合して接続する部分である。
嵌合部30は、第一鋼矢板50aの継手部51と嵌合する逆くさび形状、つまり端面に向かって増厚する断面形状を呈する。なお、嵌合部30の形状はこれに限られず、その他の公知の形状とすることができる。
嵌合部30の、開口23側の面、つまり外周面22と反対側の面は、溶接部40の凹面45に連続する。
【0020】
<4>溶接部。
溶接部40は、接合部材10を第一鋼矢板50aの側面52に、一定の間隔離間して溶接するための部分である。
【0021】
<4.1>溶接部の突出方向。
溶接部40は、接続部20と嵌合部30との境界位置から、接続部20の湾曲した内周面21の延長方向へ突出する。換言すると、嵌合部30を第一鋼矢板50aの継手部51に嵌合した状態における、第一鋼矢板50aの側面52に向かって、側面52に略直交する方向に突出する。
【0022】
<4.2>溶接部の突出長。
溶接部40の突出長は、第一鋼矢板50aの側面52と接続部20との間に、第二鋼矢板50bが旋回できる一定の開放空間を確保しつつ、接続部20の外周面22がパイラーのチャック部内壁に干渉しない範囲の長さである。
【0023】
<4.3>支持面。
溶接部40の先端には、第一鋼矢板50aの側面52に対向する支持面41を有する。
【0024】
<4.4>溶接面。
溶接部40の、開口23側には、支持面41に隣接する溶接面42を有する。
溶接面42は、両端が盛り上がり中央が凹んだ断面形状を呈する。
【0025】
<4.5>峰。
溶接面42と、接続部20の内周面21との間には、隆起した峰43が形成される。
【0026】
<4.6>凹面。
溶接部40の、嵌合部30側には、支持面41と隣り合う凹面45を有する。凹面45は、溶接部40の先端から嵌合部30の側面に連続する面であり、溶接部40の付け根部分で湾曲する断面円弧状を呈する。
【0027】
<4.7>首部。
溶接部40の、内周面21と凹面45に挟まれた部分には、溶接した接合部材10を第一鋼矢板50aから取り外す時に切断するための、首部44が形成される。
【0028】
<4.8>その他の形状。
なお、溶接部40の形状は上記の形態に限られない。すなわち、他の形態において、溶接部40は、支持面41、溶接面42、峰43を有さない、断面が連続湾曲形状を呈する。
また、溶接面42を、凹凸のない平面形状とすることもできる。
【0029】
[接合部材の接合方法]
引き続き、図面を参照しながら本発明の接合部材による鋼矢板の接合方法について説明する。
【0030】
<1>接合部材の仮組み。
第一鋼矢板50aおよび第二鋼矢板50bの端部には、本発明の接合部材10と接合可能な、継手部51を有する。継手部51の形状は、本例においてはラルゼン型とする。
第一鋼矢板50aの継手部51の内部に、接合部材10の嵌合部30を、軸方向に沿って差し入れて仮組みする(
図2)。
嵌合部30は、先端が広がった逆くさび形状なので、継手部51の内部に嵌め込まれ、第一鋼矢板50aの長手方向に対して直角な方向へ離脱することがない。
仮組みした状態において、溶接部40は第一鋼矢板50aの側面52方向に突出し、支持面41が第一鋼矢板50aの側面52に当接する。但し、嵌合した嵌合部30と継手部51の間に遊びがある場合、接合部材10の姿勢によっては支持面41と側面52とが離間することもある。
また、溶接部40の先端部分と第一鋼矢板50aの側面52との間を、数か所仮溶接することによって、第一鋼矢板50aに対する接合部材10の姿勢を固定する場合もある。
【0031】
<2>結合部材の鋼矢板への溶接。
接合部材10と第一鋼矢板50aを仮組みした状態で、溶接面42の端部と第一鋼矢板50aの側面52との間を、第一鋼矢板50aの長手方向に沿って、公知の溶接手段で溶接する。
従来は、接合部材60の側面の一端と鋼矢板50の側面52や継手部51の背面とを溶接していた。そのため、接合部材60と鋼矢板50との間に十分な作業空間が確保されておらず、溶接が困難であった。
これに対し、本発明の接合部材10は、溶接部40が、鋼矢板50の側面52と接続部20とを離間するスペーサー機能を有し、溶接作業用の十分な開放空間を確保するため、溶接作業が容易である。
また、従来の接合部材60は、嵌合部一か所だけで支持されていたため、仮組み時の姿勢が不安定であった。
これに対し、本発明の接合部材10は、嵌合部30に加えて、溶接部40の支持面41でも第一鋼矢板50aの側面52を支持するので、仮組み時の姿勢が安定し、溶接作業を行いやすい(
図3A)。
さらに、仮組み時に溶接部40を仮溶接すれば、嵌合部30と継手部51との間のがたつきがなくなり、溶接作業がさらに容易になる。
また、従来の接合部材60には、鋼矢板50に溶接するための適当な部分がなく、接合部材60の曲面部分で鋼矢板50に溶接していた。このため、溶接部分のルート間隔が大きく、溶接欠陥を生じることが多かった。
これに対し、本発明の接合部材10は、溶接部40が支持面41と溶接面42を有し、第一鋼矢板50aの側面52との間に、開先を備えたT継手の構造を形成するため、溶接作業の精度が高く、溶接欠陥が生じにくい(
図3A)。
【0032】
<3>接合部材と第一鋼矢板の圧入。
接合部材10を溶接した第一鋼矢板50aを、パイラーによって圧入する。
本発明の接合部材10は、溶接部40によって、接続部20の外周面22がチャック部の内壁に干渉しない位置に固定されるため、第一鋼矢板50aに接合したままパイラーで圧入できる。
つづいて、後続する第二鋼矢板50bを、圧入済みの接合部材10の上方から圧入する。この際、第二鋼矢板50bの鉛直度を確認し、圧入済みの接合部材10の接続部20の鈎形状の内部の隙間に、後続する第二鋼矢板50bの継手部51の先端を嵌め込むように位置合わせする。
そして、第一鋼矢板50aと後続する第二鋼矢板50bの接合角度を、所定の角度に合わせて、第二鋼矢板50bを接合部材10の軸方向に沿って圧入する。
本例では接合部材10を溶接した第一鋼矢板50aを先行して圧入し、第二鋼矢板50bを続けて圧入したが、反対に、先行して第二鋼矢板50bを単体で圧入し、接合部材10を溶接した第一鋼矢板50aを続けて圧入することもできる。
また、本例ではパイラーによる圧入を例にして説明したが、打設機による打設等の他の公知の手段によっても、同様の工程で、鋼矢板50を接合することができる。
【0033】
<4>鋼矢板の接合角度。
本発明の接合部材10は、接続部20を第二鋼矢板50bの継手部51に嵌合した状態において、接続部20の鈎形状の先端部分が、第二鋼矢板50bの継手部51とかみ合い、外周面22が第二鋼矢板50bの側面52に規制されるため、第二鋼矢板50bの長手方向に対して直角な方向へ離脱することがない。
また、接続部20の内周面21と、継手部51の外周面との間には一定の間隔があるため、継手部51は、接続部20内に固定されない。そして、接続部20の内周面21は滑らかな円弧形を呈するため、継手部51は、接続部20と嵌合しながら、接続部20の長手方向軸を中心に一定角度旋回することができる。
そのため、第一鋼矢板50aと第二鋼矢板50bを接合する角度を選択できる。
【0034】
[接合部材の取り外し方法]
引き続き、図面を参照しながら本発明の接合部材を鋼矢板から取り外す方法について説明する。
【0035】
本発明の接合部材10は、突出した接続部40の首部44をガス切断トーチ70でガス切断することによって第一鋼矢板50aから分離することができる。
本発明の接合部材10は、第一鋼矢板50aの側面52から離れた溶接部40の首部44を焼切るため、ガス切断トーチ70の炎によって第一鋼矢板50aを傷付けることがない。そのため、分解後の第一鋼矢板50aを再利用することが可能になる(
図3B)。
接合部材10を分離後、第一鋼矢板50aの側面52に残った溶接部40の先端部を、グラインダー等によって削り取る。
【実施例2】
【0036】
[複数の種類の接合部材を組合せる例]
図5を参照する。
図5は、開口角度αの異なる二種類の接合部材10a、接合部材10bによる、第一鋼矢板50aと第二鋼矢板50bの接合状態を表した本例の説明図である。
本発明の接合部材10は、嵌合部30に対する接続部20の傾倒角度を変更することによって、開口角度αの異なる複数の接合部材10a、10b、10c・・を製造することができる。
【0037】
<1>接合部材の形状。
接合部材10aと、接合部材10bとは、接続部20の断面形状に相違点がある(
図4)。
接合部材10bは、接合部材10aの接続部20の鈎形状を、外周面22方向に傾けたような形状、換言すると、嵌合部30に対する接続部20の傾倒角度を広げた形状を呈する。
したがって、接合部材10bは、接合部材10aより開口角度αが小さくなる。
その他の構造は同様であるため説明を省略する。
【0038】
<2>接合角度。
本例において、接合部材10aによる第一鋼矢板50aと第二鋼矢板50bとの接合角度θは45°から105°であり(
図5A)、接合部材10bによる接合角度θは、105°から165°である(
図5B)。
従って、矢板壁の設計にあたって選択可能な接合角度θは45°〜165°までの120°となる。
なお、本例においては、接合部材10の組合せを、接合部材10aと接合部材10bの二種類としたが、これに限られず、施工の便宜に応じて任意の開口角度αの接合部材10を、任意の種類組み合せることができる。
例えば、接合部材10を三種類以上の組合せとすれば、接合角度θの範囲を0°から180°近くまで広げることができる。
【0039】
<3>本実施例の効果。
従来の接合部材60は、パイラーのチャック部内における空間上の制約から、接合部材60の形状に制限があった。そのため、接合角度θが一定の狭い範囲に限られていた。
これに対し、本例の接合部材10は、溶接部40の突出長を、第一鋼矢板50aの側面52と接続部20との間に第二鋼矢板50bが旋回するための開放空間を確保しつつ、接続部20がチャック部の内壁に干渉しない範囲に設定することによって、開口角度αの異なる複数の種類の接合部材10を設計することができる。
これらの複数の接合部材10を組み合わせることによって、第一鋼矢板50aと第二鋼矢板50bとの接合角度θを、広範な範囲から選択することができる。
このため、矢板壁の設計の自由度を高めることができる。
【実施例3】
【0040】
[複数の種類の接合部材を組合せる例(2)]
図7を参照する。
図7は、開口角度αの異なる二種類の第一接合部材10a、第二接合部材10b の組合せによる、第一鋼矢板50aと第二鋼矢板50bの接合状態を表した本例の説明図である。
本発明の接合部材10は、嵌合部30に対する接続部20の傾倒角度を変更することによって、開口角度αの異なる複数の接合部材10a、10b、10c・・を製造することができる。
【0041】
<1>接合部材の形状。
本例と実施例2との相違点は、本例の第一接合部材10a、第二接合部材10bが、溶接部40を有さない点である(
図6)。
第一接合部材10aと、第二接合部材10bとは、接続部20の断面形状に相違点がある。
第二接合部材10bは、第一接合部材10aの接続部20の鈎形状を、外周面22方向に傾けたような形状、換言すると、嵌合部30に対する接続部20の傾倒角度を広げた形状を呈する。
したがって、第二接合部材10bは、第一接合部材10aより開口角度αが小さくなる。
その他の構造は同様であるため説明を省略する。
【0042】
<2>接合角度。
本例の第一接合部材10aと、第二接合部材10bは、第一鋼矢板50aと第二鋼矢板50bとを接合可能な接合角度が異なる。
第一接合部材10aによる接合角度のうち、最大接合角度をθ
1max、最小接合角度をθ
1minとし、第二接合部材10bによる接合角度のうち、最大接合角度をθ
2max、最小接合角度をθ
2minとするとき、次の式a〜cを満たす。
θ
1max < θ
2max ・・・(a)
θ
1min < θ
2min ・・・(b)
θ
1max ≧ θ
2min ・・・(c)
例えば、第一接合部材10aによる第一鋼矢板50aと第二鋼矢板50bとの接合角度θは45°から105°であり(
図7A)、第二接合部材10bによる接合角度θは、105°から165°である(
図7B)。
従って、矢板壁の設計にあたって選択可能な接合角度θは45°〜165°までの120°となる。
なお、本例においては、接合部材10の組合せを、接合部材10aと接合部材10bの二種類としたが、これに限られず、施工の便宜に応じて任意の開口角度αの接合部材10を、任意の種類組み合せることができる。
例えば、接合部材10を三種類以上の組合せとすれば、接合角度θの範囲を0°から180°近くまで広げることができる。
【0043】
<3>本実施例の効果。
本例の接合部材10a、10bは、実施例1、2の効果に加えて、次の効果を更に奏する。
<3−1>矢板壁設計の自由度が高い。
従来の接合部材60は、パイラーのチャック部内における空間上の制約から、接合部材60の形状に制限があった。そのため、接合角度θが一定の狭い範囲に限られていた。
これに対し、本例の接合部材10は、開口角度αの異なる複数の種類の接合部材10を設計することによって、第一鋼矢板50aと第二鋼矢板50bとの接合角度θを、広範な範囲から選択することができる。
このため、矢板壁の設計の自由度を高めることができる。
<3−2>パイラーのチャック部の内壁に干渉しない。
本例の接合部材10a、10bは、接合角度の守備範囲を、接合部材10a、10bが分担してカバーするため(
図7)、それぞれの接合部材のサイズを小型化することができる。
そのため、接合部材10a、10bがパイラー打設機のチャック部の内壁へ干渉しない。
このため、騒音の少ないパイラー打設機によって圧入することができる。
<3−3>コストを低減できる。
本例の接合部材10a、10bは、部材の形状が単純であるため、製造コストを低減することができる。
すなわち、本例の接合部材10a、10bは、従来のS字フック形状の接合部材60‘(
図8)に比べ、接合部材一つの角度守備範囲を限定することができるため、構造上、断面積を減らすことができる。このため、原料を単位質量で約30%削減でき、製造コストを大幅に低減できる。
<3−4>運搬時に鋼矢板を平置きできる。
矢板壁を構築する際には、現場で鋼矢板50を打設する前に、工場で鋼矢板50に接合部材を仮止めする必要がある。
従来のS字フック形状の接合部材60‘は、鋼矢板50に接合すると、自由端が鋼矢板50の背面方向に突出するため(
図8)、運搬時、保管時に鋼矢板50を平置きすることができなかった。
これに対し、本例の接合部材10a、10bは、接続部20が鋼矢板50の前面方向に突出するため(
図7)、運搬時、保管時に、鋼矢板を平置きすることができる。