【実施例】
【0024】
以下、本発明の測定法を、実施例を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1
1. 標準溶液および内標準溶液の調製
1.1 標準原液
ビオチン(分子式:C
10H
16N
2O
3S、分子量:244.31、サンケミカル株式会社製)10mgを正確に量り、メタノールでメスフラスコにて10mLとし超音波洗浄器で溶解して1mg/mLの標準原液を調製した。
ビオチンの構造式:
【化2】
1.2 検量線用標準溶液
標準原液を下表1に従いシリコンコーティングされたガラス試験管を用いてメタノールで希釈し、検量線用標準溶液を調製した。
【0026】
【表1】
【0027】
1.3. 内標準原液および内標準溶液
rac ビオチン-d4(分子式:C
10H
12D
4N
2O
3S、分子量:248.34、トロントリサーチケミカルズ製)の1mg入り製品の容器にメタノールを1mL添加し、超音波洗浄器で溶解して1mg/mLの内標準原液を調製した。
rac ビオチン-d4の構造式:
【化3】
この内標準原液200μLを20mLのメスフラスコに採取して、メタノールで20mLにメスアップし、10μg/mLの内標準溶液(ISS-1)を調製した。
ISS-1を下表2に従いメスフラスコを用いてメタノールで希釈し、内標準溶液(ISS-3)を調製した。なお、調製量の増減は可とし、必要量に応じて同比率にて調製した。
【0028】
【表2】
【0029】
2. 分析法検証用試料の調製
2.1. 検量線用試料
検量線用標準溶液SS-5〜SS-10を30μLずつ採取し、D-PBS(-)(細胞培養用、和光純薬工業製) 300μLを添加し、検量線用試料を調製した(調製濃度2、1、0.5、0.4、0.2および0.1ng/mL)。
ブランク試料およびゼロ試料はメタノール30μLにD-PBS(-)300μLを添加した。
2.2. 血漿試料
正常ヒト血漿・プール(コスモバイオ製、抗凝固剤:ヘパリンナトリウム、以下、「ヒト血漿」と称する)300μLにメタノール30μLを添加し、血漿試料を調製した。
2.3. ビオチン添加血漿試料
検量線用標準溶液SS-4(100ng/L)をメタノールで2倍に希釈して50ng/mL溶液を調製後、10mLのメスフラスコに100μL採取し、ヒト血漿で正確にメスアップしたビオチン濃度0.5ng/mLの溶液300μLにメタノールを30μLを添加し、ビオチン添加血漿試料を調製した。
【0030】
3. 試料前処理法
以下の手順で試料の前処理を行った。
(1)検量線用試料、ゼロ試料およびビオチン添加血漿試料には内標準溶液ISS-3を30μL添加した。ブランク試料および血漿試料にはメタノールを30μL添加した。
(2)各試料にメタノールを1.2mL添加し、血漿を含まない試料は約5〜10秒間、血漿を含む試料は約1分間撹拌した。
(3)血漿を含まない試料は1mLを採取し、血漿を含む試料は4℃、10,000rpm(9175×g)で10分間遠心し、上清を1mL採取した。
(4)50℃で窒素ガスによる蒸発乾固を行い、残渣に10%メタノール200μLを添加し、超音波洗浄器で15分間溶解した。
(5)溶解後、HPLCバイアルに移し、血漿を含まない試料はそのままLC/MS/MSで分析した。血漿を含む試料は0.2μmのフィルター(マイレクス-LHフィルターユニット、フィルター直径4mm、フィルター孔径0.20μm、PTFE、親水性、ミリポア製)でろ過後、HPLCバイアルに移し、LC/MS/MSで分析した。
【0031】
4. 分析条件
分析には以下の機器を使用した。
【0032】
【表3】
【0033】
4.1. HPLCの移動相の調製
ギ酸アンモニウム630.6mgを正確に量り、精製水でメスフラスコにて1000mLとし、10mmol/Lギ酸アンモニウム溶液を調製した。これにギ酸を添加してpH3.0に調整して移動相A液とした。
4.2. HPLC条件
分析カラム:ACQUITY UPLC HSS T3 (1.8μm、2.1×100mm)(ウォーターズ製)
ガードフィルター:KrudKatcher Ultra In-Line Filter(フェノメネクス製)
カラム温度:50℃
移動相:A液:10mmol/Lギ酸アンモニウム(pH 3.0)、B液:アセトニトリル
タイムプログラム:
0→1.5min:20%B
1.5→3.0min:80%B
3.0→5.0min:20%B(分析サイクル:5分)
流速:0.4mL/min
4.3. オートサンプラー条件
オートサンプラー設定温度:4℃
洗浄溶媒:10%メタノール
注入量:15μL
4.4. MS/MS条件
イオン化法:ESI法(ポジティブイオンモード)
イオンスプレイ電圧:5500V
ターボヒーター:700℃
カーテンガス:30psi
ネブライザーガス:30psi
デソルベーションガス:80psi
測定法:MRM
モニターイオン:
ビオチン:m/z 245>227(CE19)
rac biotin-d4:m/z 249>231(CE19)
【0034】
5. 濃度算出法
検量線用試料(6濃度:0.1、0.2、0.4、0.5、1および2ng/mL、各濃度n=1)を調製し、測定した。測定には内標準物質(ISS-3)とのピーク面積比による内標準法により行った。定量値は、Analyst Ver.1.6.1(エービー・サイエックス製)により算出した。検量線の重み付けには1/x
2を用いた。
【0035】
6. 結果
6.1. 血漿試料
図1に血漿試料および検量線試料(0.05ng/mL)のクロマトグラムを示す。内標準物質について、血漿中に妨害と成り得るピークは確認できなかった。
6.2. 検量線
図2に典型的な検量線の結果を示す。0.1〜2ng/mLの濃度範囲において、検量線の直線性は3回の測定において相関係数(r)がそれぞれ0.9996、0.9996および0.9998、相対誤差(%RE)はそれぞれ-2.0〜+3.0%、-2.8〜+2.4%、-2.3〜+1.5%であり、判断基準(r:0.99以上、%RE:定量下限濃度で±20%以内、その他で±15%以内)を満たしていた。また、定量限界値は0.1ng/mLであった。
6.3. ビオチンおよびrac ビオチン-d4添加血漿試料
図4にビオチンおよびracビオチン-d4添加血漿試料のクロマトグラムを示す。
また、表4に得られたビオチン添加血漿試料の定量値から血漿試料(ブランク)の定量値の平均値を差し引き、真度(%RE)、精度(%CV)および回収率(%)を下記式(1)〜(3)により算出した結果を示した。0.5ng/mL添加試料において、精度(%CV)は2.2%、真度(%RE)は-3.4%であり、判断基準(%CV:15.0%以下、%RE:±15.0%以内)を満たしていた。
【数1】
【0036】
【表4】
【0037】
実施例2
1. 標準溶液および内標準溶液の調製
1.1. 標準原液
ビオチン10mgを正確に量り、メタノールでメスフラスコにて10mLとし超音波洗浄器で溶解して1mg/mLの標準原液を調製した。
1.2. 検量線用標準溶液
標準原液を下表5に従いシリコンコーティングされたガラス試験管を用いてメタノールで希釈し、検量線用標準溶液を調製した。
【0038】
【表5】
【0039】
1.3. 内標準原液および内標準溶液
実施例1で調製した内標準溶液(ISS-1)200μLを5mLのメスフラスコに採取して、メタノールで5mLにメスアップし、400ng/mLの内標準溶液(ISS-4)を調製した。
【0040】
2. 分析法検証用試料の調製
2.1. 検量線用試料
検量線用標準溶液SS-5〜SS-7およびSS-9〜SS-11を30μLずつ採取し、D-PBS(-)300μLを添加し、検量線用試料を調製した(調製濃度2、1、0.5、0.2、0.1および0.05ng/mL)。
ブランク試料およびゼロ試料はメタノール30μLにD-PBS(-)300μLを添加した。
2.2. 血漿試料
ヒト血漿300μLにメタノール30μLを添加し、血漿試料を調製した。
2.3. ビオチン添加血漿試料
検量線用標準溶液SS-4(100ng/L)をメタノールで2倍に希釈して50ng/mL溶液を調製し、10mLのメスフラスコに100μL採取し、ヒト血漿で正確にメスアップしたビオチン濃度0.5ng/mLの溶液300μLにメタノールを30μL添加し、ビオチン添加血漿試料を調製した。
【0041】
3. 試料前処理法
以下の手順で試料の前処理を行った。
(1)検量線用試料、ゼロ試料およびビオチン添加血漿試料には内標準溶液ISS-4を30μL添加した。ブランク試料および血漿試料にはメタノールを30μL添加した。
(2)各試料にメタノールを1.2mL添加し、血漿を含まない試料は約5〜10秒間、血漿を含む試料は約1分間撹拌した。
(3)血漿を含まない試料は1mLを採取し、血漿を含む試料は4℃、10,000rpmで10分間遠心し、上清を1mL採取した。
(4)50℃で窒素ガスによる蒸発乾固を行い、残渣に1%ギ酸/メタノール(9/1)200μLを添加し、超音波洗浄器で15分間溶解した。
(5)溶解後、HPLCバイアルに移し、血漿を含まない試料はそのままLC/MS/MSで分析した。血漿を含む試料は0.45μmのフィルター(マイレクス-LHフィルターユニット、フィルター直径4mm、フィルター孔径0.45μm、PTFE、親水性、ミリポア製)でろ過し、HPLCバイアルに移し、LC/MS/MSで分析した。
【0042】
4. 分析条件
分析には以下の機器を使用した。
【0043】
【表6】
【0044】
4.1. HPLCの移動相の調製
ギ酸アンモニウム630.6mgを正確に量り、精製水でメスフラスコにて1000mLとし、10mmol/Lギ酸アンモニウム溶液を調製した。また、ギ酸500μLをメスフラスコを用いて精製水で10mLとして、5%ギ酸溶液を調製した。ギ酸アンモニウム溶液1000mLに5%ギ酸溶液を2.8mL添加して撹拌し、pHが約4.1であることを確認し、これを移動相A液とした。
4.2. HPLC条件
分析カラム:Ascentis Express F5 HPLC Column (2.7μm、2.1×100mm)(シグマ-アルドリッチ製)
ガードフィルター:KrudKatcher Ultra In-Line Filter(フェノメネクス製)
カラム温度:50℃
移動相:A液:10mmol/Lギ酸アンモニウム(pH4.1)、B液:アセトニトリル
タイムプログラム:
0→2.5min:7%B
2.5→4.0min:70%B
4.0→5.0min:7%B(分析サイクル:5分)
流速:0.6mL/min
4.3. オートサンプラー条件
オートサンプラー設定温度:4℃
洗浄溶媒:10%メタノール
注入量:20μL
4.4. MS/MS条件
イオン化法:ESI法(ポジティブイオンモード)
イオンスプレイ電圧:5500V
ターボヒーター:700℃
カーテンガス:30psi
ネブライザーガス:30psi
デソルベーションガス:80psi
測定法:MRM
モニターイオン:
ビオチン:m/z 245 > 227 (CE19)
rac ビオチン-d4:m/z 249 > 231 (CE19)
【0045】
5. 濃度算出法
検量線用試料(6濃度:0.05、0.1、0.2、0.5、1および2ng/mL、各濃度n=1)を調製し、測定した。測定には内標準物質(ISS-4)とのピーク面積比による内標準法により行った。定量値は、Analyst Ver.1.6.1(エービー・サイエックス)により算出した。検量線の重み付けには1/x
2を用いた。
【0046】
6. 結果
6.1. 血漿試料
図4に血漿試料および検量線試料(0.1ng/mL)のクロマトグラムを示した。内標準物質について、血漿中に妨害と成り得るピークは確認できなかった。
6.2. 検量線
図5に典型的な検量線の結果を示した。0.05〜2ng/mLの濃度範囲において、検量線の直線性は3回の測定において相関係数(r)がそれぞれ0.9997、0.9993および0.9997、相対誤差(%RE)はそれぞれ-4.0〜+2.0%、-4.0〜+3.2%、-3.5〜+2.3%であり、判断基準(r:0.99以上、%RE:定量下限濃度で±20%以内、その他で±15%以内)を満たしていた。また、定量限界値は0.05ng/mLであった。
6.3. ビオチンおよびracビオチン-d4添加血漿試料
図6にビオチンおよびracビオチン-d4添加血漿試料のクロマトグラムを示す。
また、表7に得られたビオチン添加血漿試料の定量値から血漿試料(ブランク)の定量値の平均値を差し引き、真度(%RE)、精度(%CV)および回収率(%)を上記式(1)〜(3)により算出した結果を示した。0.5ng/mL添加試料において、精度(%CV)は2.2%、真度(%RE)は-3.4%であり、判断基準(%CV:15.0%以下、%RE:±15.0%以内)を満たしていた。
【0047】
【表7】
【0048】
実施例3
健常人および透析患者の血漿中ビオチン濃度を固定相がオクタデシルシリル(ODS)(C18)であるカラム(ACQUITY UPLC HSS T3、ウォーターズ製)を用いた分析法(以下、「ODS法」)、ペンタフルオロフェニル(PFP)カラム(Ascentis Express F5 HPLC column、シグマ-アルドリッチ製)を用いた分析法(以下、「PFP法」)により測定した。
【0049】
1. 実験方法
血漿試料は、健常人および透析患者より採血し、分離した血漿300μLにメタノール30μLを添加したものを使用した。
検量線用試料の調製は、ODS法、PFP法共に実施例2の条件にて行った。また、分析方法は、ODS法は実施例1、PFP法は実施例2の条件にしたがって測定した。
試料前処理法については、検量線用試料、ゼロ試料および血漿試料には内標準溶液(ISS-3)を30μL添加し、ブランク試料にはメタノールを30μL添加した。その後は実施例2の3.(2)〜(5)の手順に従い行った。
【0050】
2. 結果
2.1. ビオチンピークの分離
図7に示されるように、ODS法では、MRMクロマトグラム上でビオチンのピークに夾雑ピークが重なりピークの分離が困難であった。特に透析患者の血漿においてこの傾向が強く見られた。一方、PFP法を用いた場合、ビオチンのピークを分離することができた。
2.2. イオン化抑制
表8に示されるように、ODS法では、マトリックス効果によるイオン化抑制が強く、内標準物質で比較すると、透析患者の血漿において、標準液のピーク面積に対して50%以下の面積値となる血漿試料が散見されたが、PFP法ではイオン化抑制が改善された。これにより、低濃度の血漿中ビオチンピークを検出することができた。
2.3. 定量限界値
上記のように、PFP法は、ODS法に比べてビオチンピークの分離およびイオン化抑制の点で改善されていた。これにより、ビオチンの定量限界値は、ODS法が0.1ng/mLであるのに対して、PFP法は0.05ng/mLであり、高感度であった。
【0051】
【表8】
【0052】
実施例4
血液透析患者の血液透析(HD)廃液中ビオチン濃度をPFP法により測定した。
1. 実験方法
血液透析廃液試料は、血液透析患者の血液透析廃液(HD廃液1〜4)300μLにメタノール30μLを添加したものを使用した。
検量線用試料の調製および分析方法は、実施例2の条件にて行った。また、試料前処理法については、検量線試料およびビオチン測定用血液透析廃液試料には内標準物質(ISS-4)30μLを、妨害ピーク確認用血液透析廃液試料についてはメタノール30μLを添加し、以後は実施例2の3.(2)〜(5)に従い行った。
2. 結果
2.1. 血液透析廃液試料中妨害ピークの確認
図8に血液透析廃液試料および検量線試料(0.5ng/mL)のクロマトグラムを示した。また、内標準物質であるracビオチン-d4について、血液透析廃液中に妨害と成り得るピークは確認できなかった(
図8D)。
2.2. 血液透析廃液試料中ビオチン濃度
表9に血液透析廃液中ビオチン濃度の測定結果を示した。
【0053】
【表9】
【0054】
実施例5
血液透析濾過(HDF)廃液中のビオチン濃度をPFP法により測定した。
1. 実験方法
血液透析濾過試料は血液透析濾過患者の廃液(HDF廃液)300μLにメタノール30μLを添加したものを使用した。
検量線用試料の調整および分析方法については、実施例2の条件にて行った。また、試料前処理法については実施例4に従って行った。
2. 結果
2.1. 血液透析濾過試料中妨害ピークの確認
図9に血液透析濾過廃液試料および検量線試料(0.5ng/mL)のクロマトグラムを示した。内標準物質であるracビオチン-d4について、血液透析濾過廃液中に妨害と成り得るピークは確認できなかった(
図9D)。
2.2. 血液透析濾過廃液試料中ビオチン濃度
表10に血液透析濾過廃液中ビオチン濃度の測定結果を示した。
【0055】
【表10】
【0056】
実施例6
腹膜透析廃液中のビオチン濃度をPFP法により測定した。
1. 実験方法
腹膜透析廃液試料は、腹膜透析患者の廃液(PD廃液)300μLにメタノール30μLを添加したものを使用した。
検量線用試料の調整および分析方法については、実施例2の条件にて行った。試料前処理法は、実施例4の条件にて行った。
2. 結果
2.1. 腹膜透析廃液試料中妨害ピークの確認
図10に腹膜透析廃液試料および検量線試料(2.0ng/mL)のクロマトグラムを示した。内標準物質であるracビオチン-d4について、腹膜透析廃液中に妨害と成り得るピークは確認できなかった(
図10D)。
2.2. 腹膜透析廃液試料中ビオチン濃度
表11に腹膜透析廃液中ビオチン濃度の測定結果を示した。
【0057】
【表11】
【0058】
実施例7
尿中のビオチン濃度をPFP法により測定した。
1. 実験方法
検量線用試料の調整および分析方法については、実施例2の条件にて行った。尿試料は、血液透析患者の尿(尿1:透析治療歴約1年の糖尿病患者、尿2:透析治療歴約3年の非糖尿病患者)および蛋白尿(尿3:尿蛋白2+)各300μLにメタノール30μLを添加したものを使用した。試料前処理法は、実施例4の条件にて行った。
2. 結果
2.1. 透析廃液試料中妨害ピークの確認
図11に尿試料および検量線試料(2.0ng/mL)のクロマトグラムを示した。内標準物質であるracビオチン-d4について、尿中に妨害と成り得るピークは確認できなかった(
図11D)。
2.2. 尿試料中ビオチン濃度
表12に尿中ビオチン濃度の測定結果を示した。
【0059】
【表12】