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特開2015-118029生体試料中のビオチンまたはその関連物質の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-118029(P2015-118029A)
(43)【公開日】2015年6月25日
(54)【発明の名称】生体試料中のビオチンまたはその関連物質の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20150529BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20150529BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20150529BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20150529BHJP
   G01N 30/04 20060101ALN20150529BHJP
   G01N 30/86 20060101ALN20150529BHJP
【FI】
   G01N27/62 V
   G01N30/88 E
   G01N30/06 Z
   G01N30/72 C
   G01N27/62 X
   G01N27/62 F
   G01N30/88 201X
   G01N30/88 C
   G01N30/04 P
   G01N30/86 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-262185(P2013-262185)
(22)【出願日】2013年12月19日
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】597078558
【氏名又は名称】医療法人宏人会
(71)【出願人】
【識別番号】000238201
【氏名又は名称】扶桑薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】小熊 司郎
(72)【発明者】
【氏名】八木 成明
(72)【発明者】
【氏名】西澤 学
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 英生
(72)【発明者】
【氏名】松澤 秀俊
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA10
2G041FA23
2G041GA09
2G041GA20
2G041GA24
2G041HA01
2G041KA01
2G041MA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】生体試料中のビオチンまたはビオチン関連物質を迅速かつ簡便に高感度で測定する方法の提供。
【解決手段】生体試料中のビオチンまたはビオチン関連物質を測定する方法であって、(1)生体試料中のタンパク質を除去する工程と、(2)工程(1)で得られた試料中のビオチンまたはビオチン関連物質を、高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析法を用いて測定する工程とを含む、方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中のビオチンまたはビオチン関連物質を測定する方法であって、
(1)生体試料中のタンパク質を除去する工程と、
(2)工程(1)で得られた試料中のビオチンまたはビオチン関連物質を、高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析法を用いて測定する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
生体試料が血漿、透析廃液または尿である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生体試料が血漿である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
生体試料が透析廃液である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
生体試料が尿である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
血漿が血液透析患者由来の血漿である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
透析廃液が血液透析患者由来の透析廃液である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
透析廃液が血液透析濾過患者由来の透析廃液である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
透析廃液が腹膜透析患者由来の透析廃液である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
尿が腎不全患者由来の尿である、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
尿がタンパク尿である、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
工程(1)が、メタノールを用いてタンパク質を沈殿させることにより除去する工程である、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
高速液体クロマトグラフに使用するカラムが、疎水性相互作用、双極子-双極子相互作用、およびπ-π相互作用により分離するカラムである、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
カラム担体の官能基が、ペンタフルオロフェニル基が結合した直鎖または分岐鎖のアルキル基を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
生体試料中のビオチンまたはビオチン関連物質を測定するための測定用キットであって、
(1)生体試料中のタンパク質を除去する工程に使用するための試薬と、
(2)高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析法に使用するための機器
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中のビオチンまたはその関連物質の測定方法、より詳細には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を利用した生体試料(例えば、血漿、透析廃液、尿)中のビオチンまたはその関連物質の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビオチンは、ビタミンB群に属する水溶性ビタミンの一種であり、ビタミンB7またはビタミンHとも呼ばれている。ビオチンは、生体内でカルボキシラーゼ反応の補酵素として、呼吸系、β-酸化、脂肪酸生合成などにおいて機能することが知られている。
【0003】
近年、ビオチンと種々の疾患との関係が明らかになりつつある。例えば、ビオチンは、アトピー性皮膚炎、掌蹠膿疱症等の皮膚疾患の治療に有効であること、血液透析による四肢の痙攣に対する抑制・予防効果があること、肝硬変患者における高アンモニア血症改善、耐糖能およびインスリン抵抗性の改善、血圧上昇抑制などの効果があることが知られている。他にも、先天的なビオチン代謝酵素欠損や抗痙攣薬の長期投与、特殊調製粉乳の摂取乳児等にビオチン欠乏症が発症することが知られている(特許文献1、非特許文献1〜10など)。
したがって、健康管理や疾患の診断、ビオチンの体内動態に関する研究のため、血漿や透析廃液、尿などの生体試料中のビオチンおよびビオチン関連物質を迅速かつ簡便に高感度で測定することが必要とされている。
【0004】
一方、ビオチンの測定法としては、微生物学的定量法、結合アッセイ法、HPLC法、光学的測定法などが知られている。しかしながら、微生物学的定量法は精度が低い、操作が煩雑で時間を要することなどの問題があり、結合アッセイ法はビオチン関連物質(例えば、ビオチン代謝物)とも非特異的に反応するなどの問題があり、光学的測定法およびHPLC法は感度が低いなどの問題がある(非特許文献11)。
また、HPLC法で感度を高めるため、プレカラムやポストカラムによる誘導体化などが採用されているが(特許文献2など)、工程が煩雑であり、簡便ではなかった。
【0005】
また、高速液体クロマトグラフ/質量分析法(LC/MS)または高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析法(LC/MS/MS)を用いたビオチンの測定法も知られている(非特許文献12〜23)。しかしながら、これらの文献に記載の測定法は、主として食品などを対象としたものであり、また、血漿や透析廃液、尿などの生体試料中のビオチンおよびビオチン関連物質を迅速かつ簡便に高感度で測定することができるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2012/029655号
【特許文献2】特開2012-122769
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tohoku J Exp Med. (2012) 227 217-223.
【非特許文献2】Acta Pediatr Scand. (1988) 77 762-3.
【非特許文献3】診断と治療、80巻 1397-1402 1992
【非特許文献4】医学のあゆみ、Vol.186 No.2 156-7 1998
【非特許文献5】Ren Fail. (1996) 18(1) 131-137
【非特許文献6】J Clin Biochem Nutr. (1995) 18, 35-42.
【非特許文献7】British Journal of Nutrition. (2008) 99, 756-63
【非特許文献8】ビタミン、86巻、12号、678-84、2012
【非特許文献9】Adv Pediatr. (1991) 1-21
【非特許文献10】Neulrology. (1997) 49 1444-7
【非特許文献11】A Government Chemist Programme Report LGC Limited 2011.9
【非特許文献12】Agro Food Ind Hi-Tech. (2010) 21(6) 39-41.
【非特許文献13】Anal Bioanal Chem. (2010) 397(2) 471-81.
【非特許文献14】Chromatographia. (2009) 69 629-35.
【非特許文献15】Rapid Commun Mass Spectrom. (2008) 22(13) 2029-43.
【非特許文献16】J Chromatogr Sci. (2008) 46 225-32.
【非特許文献17】Anal Bioanal Chem. (2007) 387 2441-2448.
【非特許文献18】J Chromatography A. (2007) 1142 231-35.
【非特許文献19】Curr Eye Res. (2006) 31(10) 797-809.
【非特許文献20】J Chromatography B. (2006) 831 8-16.
【非特許文献21】Anal Commun. (1996) 33 159-162.
【非特許文献22】ASEAN Food Journal. (1991) 6(4) 163-4.
【非特許文献23】J Chromatogr. (1984) 303(1) 272-6.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、血漿や透析廃液、尿などの生体試料中のビオチンおよびビオチン関連物質を迅速かつ簡便に高感度で測定する方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、生体試料中のタンパク質を除去した後、高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析法を用いて測定することで、生体試料中のビオチンおよびビオチン関連物質を迅速かつ簡便に高感度で測定することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
したがって、本発明は、以下の態様を含む。
[1] 生体試料中のビオチンまたはビオチン関連物質を測定する方法であって、
(1)生体試料中のタンパク質を除去する工程と、
(2)工程(1)で得られた試料中のビオチンまたはビオチン関連物質を、高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析法を用いて測定する工程と
を含む、方法。
[2] 生体試料が血漿、透析廃液または尿である、上記[1]に記載の方法。
[3] 生体試料が血漿である、上記[2]に記載の方法。
[4] 生体試料が透析廃液である、上記[2]に記載の方法。
[5] 生体試料が尿である、上記[2]に記載の方法。
[6] 血漿が血液透析患者由来の血漿である、上記[3]に記載の方法。
[7] 透析廃液が血液透析患者由来の透析廃液である、上記[4]に記載の方法。
[8] 透析廃液が血液透析濾過患者由来の透析廃液である、上記[4]に記載の方法。
[9] 透析廃液が腹膜透析患者由来の透析廃液である、上記[4]に記載の方法。
[10] 尿が腎不全患者由来の尿である、上記[5]に記載の方法。
[11] 尿がタンパク尿である、上記[5]に記載の方法。
[12] 工程(1)が、メタノールを用いてタンパク質を沈殿させることにより除去する工程である、上記[1]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13] 高速液体クロマトグラフに使用するカラムが、疎水性相互作用、双極子-双極子相互作用、およびπ-π相互作用により分離するカラムである、上記[1]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[14] カラム担体の官能基が、ペンタフルオロフェニル基が結合した直鎖または分岐鎖のアルキル基を含む、上記[12]に記載の方法。
[15] 生体試料中のビオチンまたはビオチン関連物質を測定するための測定用キットであって、
(1)生体試料中のタンパク質を除去する工程に使用するための試薬と、
(2)高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析法に使用するための機器
を含む、キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明の測定法によれば、生体試料中のビオチンおよびビオチン関連物質を迅速かつ簡便に高感度で測定することができる。
すなわち、本発明の測定法の感度は、市販されている代表的な結合アッセイキットと同等の感度でビオチンおよびビオチン関連物質を測定が可能である。また、HPLCでの分離に加えて、MRM法(Multiple Reaction Monitoring:多重反応モニタリング)で分子量によるフィルタリングも行なっているので、微生物学的定量法や結合アッセイなどのように、ビオチンとビオチン関連物質(ビオチン代謝物など)との交差性はほとんどないと考えられる。
また、試料の前処理は、除タンパク質法であり、従来のHPLCによるビオチン血漿測定法の前処理において使用されていた誘導体化などが不要であるので、容易かつ短時間で前処理を行うことができる。
従来のHPLC法では、ヒト血漿の場合、ビオチンの保持時間は早いものでも7〜8分であり、1検体の測定にほとんどが数十分から1時間程度の時間を要していたが、本発明の測定法では、1検体の分析サイクルは5分程度(ビオチンの保持時間は2分未満)と短いため、効率的な多検体処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】血漿試料および検量線試料(0.1ng/mL)のクロマトグラムを示す(分析カラム:ACQUITY UPLC HSS T3)。A:検量線試料中ビオチンピーク(定量下限(LLOQ)、0.1ng/mL)、B:ヒト血漿中ビオチンピーク、C:検量線試料中racビオチン-d4内標準物質(IS)ピーク(2ng/mL)、D:ヒト血漿中racビオチン-d4 ISピーク
図2】検量線の結果を示す(分析カラム:ACQUITY UPLC HSS T3)。
図3】ビオチンおよびracビオチン-d4添加血漿試料のMRMクロマトグラムを示す(分析カラム:ACQUITY UPLC HSS T3)。A:ビオチンのMRMクロマトグラム(添加量0.5ng/mL)、B:racビオチン-d4のMRMクロマトグラム(添加量2ng/mL)
図4】血漿試料および検量線試料(0.05ng/mL)のクロマトグラムを示す(分析カラム:Ascentis Express F5 HPLC Column)。A:検量線試料中ビオチンピーク(LLOQ、0.05ng/mL)、B:ヒト血漿中ビオチンピーク、C:検量線試料中racビオチン-d4(IS)ピーク(40ng/mL)、D:ヒト血漿中racビオチン-d4(IS)ピーク
図5】検量線の結果を示す(分析カラム:Ascentis Express F5 HPLC Column)。
図6】ビオチンおよびracビオチン-d4添加血漿試料のMRMクロマトグラムを示す(分析カラム:Ascentis Express F5 HPLC Column)。A: ビオチンのMRMクロマトグラム(添加量0.5ng/mL)、B:racビオチン-d4のMRMクロマトグラム(添加量40ng/mL)
図7】血液透析患者血漿中のビオチン測定における、固定相がODS(C18)であるカラム(ACQUITY UPLC HSS T3)を用いた分析法とペンタフルオロフェニル(PFP)カラム(Ascentis Express F5 HPLC column)を用いた分析法によるMRMクロマトグラムの比較を示す。
図8】血液透析廃液試料および検量線試料(0.5ng/mL)のクロマトグラムを示す(分析カラム:Ascentis Express F5 HPLC Column)。A:検量線試料中ビオチンピーク(0.5ng/mL)、B:ビオチン測定用血液透析廃液(HD3)中ビオチンピーク、C:検量線試料中racビオチン-d4(IS)ピーク(40ng/mL)、D: 妨害ピーク確認用血液透析廃液(HD3)中racビオチン-d4(IS)ピーク
図9】血液透析濾過廃液試料および検量線試料(0.5ng/mL)のクロマトグラムを示す(分析カラム:Ascentis Express F5 HPLC Column)。A:検量線試料中ビオチンピーク(0.5ng/mL)、B:ビオチン測定用血液透析濾過廃液(HDF廃液)中ビオチンピーク、C:検量線試料中racビオチン-d4(IS)ピーク(40ng/mL)、D: 妨害ピーク確認用血液透析濾過廃液(HDF廃液)中racビオチン-d4(IS)ピーク
図10】腹膜透析廃液試料中および検量線試料(0.5ng/mL)のクロマトグラムを示す(分析カラム:Ascentis Express F5 HPLC Column)。A:検量線試料中ビオチンピーク(0.5ng/mL)、B:ビオチン測定用腹膜透析廃液(PD廃液)中ビオチンピーク、C:検量線試料中racビオチン-d4(IS)ピーク(40ng/mL)、D: 妨害ピーク確認用腹膜透析廃液(PD廃液)中racビオチン-d4(IS)ピーク
図11】尿試料および検量線試料(0.5ng/mL)のクロマトグラムを示す(分析カラム:Ascentis Express F5 HPLC Column)。A:検量線試料中ビオチンピーク(2.0ng/mL)、B:ビオチン測定用尿(尿3)中ビオチンピーク、C:検量線試料中racビオチン-d4(IS)ピーク(40ng/mL)、D: 妨害ピーク確認用 尿中(尿3)中racビオチン-d4(IS)ピーク
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、生体試料中のビオチンまたはビオチン関連物質を測定する方法であって、
(1)生体試料中のタンパク質を除去する工程と、
(2)工程(1)で得られた試料中のビオチンまたはビオチン関連物質を、高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析法を用いて測定する工程と
を含む、方法に関するものである。
【0014】
本発明における「生体試料」とは、ヒト、動物、または植物から得られる、尿、血液、血漿、組織、細胞などの材料を含む試料を意味し、本発明の方法により測定可能な試料であれば特に限定されない。なかでも、血漿および尿が好ましく、血漿が特に好ましい。さらに、透析廃液のように、生体由来成分が含まれる試料も本発明の「生体試料」として好適に用いられる。
なかでも、ヒト由来の生体試料が好ましい。ヒトとしては、健常者であっても、種々の疾患を患う患者、例えば、腎不全患者、血液透析患者、血液透析濾過患者、腹膜透析患者、ビオチン欠乏症患者などであってもよいが、ビオチン量の欠乏および過剰による影響を受けやすいことから、特に血液透析患者、血液透析濾過患者、腹膜透析患者が挙げられる。
血漿は、血液に含まれる液体成分の一つで血液の55%を占める。血清とフィブリノーゲンから成り、物質の輸送、ガス交換、血液凝固、免疫に関与するほか、浸透圧や水素イオン濃度の調節などによって内部環境を整えるのに重要な役割を果たしている。
本発明における「血漿」としては、特に限定されず、ヒト、ラット、マウス、イヌ、サルなどの哺乳動物の血液由来のものが挙げられる。また、その調製方法も特に限定されず、従来既知の方法を用いることができる。好ましくは、採血後、抗凝固剤(ヘパリンナトリウム、EDTA-2Na、EDTA-2K等)入りのプラスチックチューブに移し、氷冷化で保存し、4℃で遠心分離後、採取する。なかでも、ヒトの血漿が好ましい。ヒトとしては、健常者、血液透析患者、ビオチン欠乏症患者等が挙げられ、特に血液透析患者が挙げられる。
透析廃液は、血液浄化療法により透析患者血液中の老廃物の除去や電解質濃度の調整等を行った後の透析液であり、透析患者血液中の低分子代謝物等が含まれている。血液透析患者は合併症として貧血症状を有しており、採血は最小限にすることが望ましいとされている。そのため、非侵襲性に採取可能な透析廃液で透析患者の血中代謝物濃度を測定することは患者に負担を与えることがなく、さらに、高分子フィルターを通過した除蛋白試料であることから分析が容易であるといった利点がある。しかしながら、これまで透析廃液中のビオチンを測定した例はなかった。
本発明における「透析廃液」としては、特に限定されず、腎不全患者、血液透析患者、血液透析濾過患者、腹膜透析患者、ビオチン欠乏症患者などの血液浄化療法が必要な患者に対する、血液透析、腹膜透析、血液濾過、血液透析濾過(HDF)、持続的血液透析濾過などの血液浄化療法から生じる廃液が挙げられる。
尿は、腎臓において血液が濾過されることにより作られる排泄物であり、体内で生産される老廃物の除去や体内の水分量を調整する働きを持つ。成分のほとんどが水分であり、他に尿素や電解質等を含む。
本発明における「尿」としては、特に限定されず、ヒト、ラット、マウス、イヌ、サルなどの哺乳動物由来のものが挙げられる。なかでも、ヒトの尿が好ましい。ヒトとしては、健常者、排尿が確認される初期の腎不全患者や血液透析患者、血液透析濾過患者、腹膜透析患者、ビオチン欠乏症患者等が挙げられ、特に腎不全患者が挙げられる。
【0015】
ビオチンは、下記の構造式で示される化合物(分子式:C1016S、分子量:244.31)であり、ビタミンB群に属する水溶性ビタミンの一種であり、ビタミンB7またはビタミンHとも呼ばれている。
ビオチンの構造式:
【化1】
本発明における「ビオチン関連物質」としては、例えば、ビオチンスルフォキシド、ビオチンスルフォン、ビスノルビオチン、ビスノルビオチンメチルケトン、ビオシチン、α-デヒドロビオチン、ホモビオチン、ノルビオチンなどのビオチンの代謝物、誘導体、類縁体などが挙げられる。
また、上記「ビオチン」および「ビオチン関連物質」の各種の塩も本発明の測定法の対象となる。
【0016】
上記工程(1)は、生体試料中に含まれるタンパク質を除去する工程である。試料中にタンパク質が多量に存在すると、上記工程(2)におけるビオチンまたはビオチン関連物質の測定が困難になるためである。工程(1)としては、特に限定されないが、例えば、タンパク質の変性による不溶化、物理的な除去、浸透制限充填剤の利用などの方法が挙げられる。
「タンパク質の変性による不溶化」としては、例えば、過塩素酸、トリクロロ酢酸、メタリン酸のような酸の添加;アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノールのような有機溶媒の添加;加熱;冷却などの方法が挙げられる。
「物理的な除去」としては、例えば、メンブレンフィルターなどを使用した限外ろ過、透析チューブなどを使用した透析、超遠心分離などが挙げられる。
上記タンパク質を除去方法は、1種の方法のみでも2種以上の方法を組み合わせてもよい。
【0017】
工程(1)としては、タンパク質と結合したビオチンを遊離させる点から、特に、有機溶媒の添加によりタンパク質を不溶化(沈殿)させ、除去することが好ましい。有機溶媒としては、特に、ビオチンの回収率の点から、メタノールが好ましい。
生体試料中に有機溶媒(例えばメタノール)を添加してタンパク質を除去する場合、例えば、以下の手順および条件で行うことが好ましい。
まず、生体試料中に対して所定量のメタノールを混合し、該混合物を所定の時間撹拌する。メタノールの添加量は生体試料の量に基づいて定めることができる。通常、生体試料に対して、メタノールを通常等量〜100倍量、好ましくは等量〜10倍量使用するが、生体試料の使用量、除タンパク効率、上清採取量および蒸発乾固後の再溶解量の点から、好ましくは生体試料50〜500μLに対して、メタノールを生体試料の3〜10倍量使用することができる。撹拌時間および温度は、特に限定されないが、例えば、撹拌時間は10秒〜1分間、温度は15〜30℃とすることができる。その後、遠心分離して沈殿を除き、上清を採取する。遠心分離は、特に限定されないが、例えば、8,000〜15,000×gで、4℃〜30℃、10〜15分間の条件で行うことができる。
【0018】
上記工程(2)は、工程(1)で得られたタンパク質除去後の試料中のビオチンまたはビオチン関連物質を、高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析法(以下、「LC/MS/MS」と称する)を用いて測定する工程である。
LC/MS/MSは、試料をHPLCで分離し、溶出成分をイオン化室に導入し、イオン化してマススペクトルを得、これを第1段目の質量分析計(MS)でイオン(分子イオンの付加体)を選択し、コリジョンセルと呼ばれる衝突室で不活性ガスを衝突させてイオンを解離させて、第2段目のMSで分析する方法である。
【0019】
本発明におけるLC/MS/MSに使用する機器としては、特に限定されず、例えば、液体クロマトグラフ用の機器としては、Nexera(島津製作所製)、ACQUITY UPLC(ウォーターズ製)などが挙げられ、タンデム質量分析用の機器としては、例えば、QTRAP 5500(エービー・サイエックス製)、TSQ Vantage(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)などが挙げられる。
【0020】
上記工程(2)におけるHPLC用のカラムとしては、例えば、疎水性相互作用、双極子-双極子相互作用およびπ-π相互作用から選択される少なくとも1種の作用により分離するカラムが挙げられる。
疎水性相互作用により分離するカラムとしては、例えば、カラム担体の官能基としてオクタデシル基を含むカラム(C18カラム)、具体的には、ACQUITY UPLCTM HSS T3(ウォーターズ製)、YMC―Triart C18(ワイエムシィ製)などが挙げられる。
双極子-双極子相互作用により分離するカラムとしては、例えば、カラム担体の官能基としてフッ素が結合した直鎖または分岐鎖のアルキル基(例えば炭素数3〜9個、特に炭素数3個)を含むカラム、具体的には、Fluofix-II 120E(和光純薬工業製)、Fluophase RP(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)、Fluophase WP(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)などが挙げられる。
π-π相互作用により分離するカラムとしては、例えば、カラム担体の官能基として芳香環基(フェニル基、ビフェニル基など)を含むカラム、具体的には、Xselect CSH Fluoro―Phenylカラム(ウォーターズ製)、Allure Biphenyl カラム(レステック製)、Inertsil Ph―3(ジーエルサイエンス製)、YMC―Pack Ph(ワイエムシィ製)、XBridge BEH Phenyl (ウォーターズ製)などが挙げられる。
疎水性相互作用、双極子-双極子相互作用およびπ-π相互作用により分離するカラムとしては、例えば、カラム担体の官能基としてペンタフルオロフェニル基が結合した直鎖または分岐鎖のアルキル基(例えば炭素数3〜9個、特に炭素数3個)を含むカラム、具体的には、Ascentis Express F5(シグマ-アルドリッチ製)、TCI Stella PFP(東京化成製)、Kinetex2.6μmミニボアカラム(フェノメネクス製)、CAPCELL CORE(資生堂製)、Pursuit PFP(アジレント・テクノロジー製)、XSelect HSS PFP XP Column(ウォーターズ製)、YMC―Triart PFP(ワイエムシィ製)、Hypersil GOLD PFP(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)などが挙げられる。
本発明においては、ビオチンおよびビオチン関連物質と他の成分とを明確に分離することができることから、疎水性相互作用、双極子-双極子相互作用およびπ-π相互作用により分離するカラムが好ましく、特にカラム担体の官能基としてペンタフルオロフェニル基が結合した直鎖または分岐鎖のアルキル基(例えば炭素数3〜9個、特に炭素数3個)を含むカラムが好ましい。
【0021】
HPLCの条件は、特に限定されず、使用するカラムに応じて、移動相、流速、カラム温度、などを決定すればよい。
例えばカラム担体の官能基としてペンタフルオロフェニル基が結合した直鎖または分岐鎖のアルキル基(例えば炭素数3〜9個、特に炭素数3個)を含むカラムを使用する場合、例えば以下の条件で行うことが好ましい。
移動相としては、ギ酸、酢酸等の揮発性の酸および/またはギ酸アンモニウムや酢酸アンモニウムなど揮発性の塩を用いて、pHを2〜8に調整した溶液と、メタノールやアセトニトリルなどの有機溶媒との混液を使用することができる。カラム温度および流速並びに試料注入量は特に限定されないが、カラムや装置の性能に合わせて、カラム温度は20〜50℃、流速は0.2〜0.6mL/min、試料注入量は1〜20μLの条件で行うことができる。
【0022】
本発明の測定法は、上記工程(1)および(2)の二工程のみを必須工程とするものであり、従来のHPLCによるビオチン血漿測定法の前処理において使用されていた誘導体化などの工程が不要であるので、生体試料中のビオチンおよびビオチン関連物質を迅速かつ簡便に高感度で測定することができる。本発明の測定法では、1検体の分析サイクルは、通常、5分程度である。したがって、効率的な多検体処理が可能であり、健康管理や疾患の診断、ビオチンの体内動態に関する研究において、有利に使用することができる。
【0023】
本発明はまた、生体試料中のビオチンまたはビオチン関連物質を測定するための測定用キットであって、
(1)生体試料中のタンパク質を除去する工程に使用するための試薬と、
(2)高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析法に使用するための機器
を含む、キットに関する。
当該キットに使用するための試薬(1)および機器(2)としては、上記本発明の測定法に使用する試薬および機器が挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の測定法を、実施例を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1
1. 標準溶液および内標準溶液の調製
1.1 標準原液
ビオチン(分子式:C1016S、分子量:244.31、サンケミカル株式会社製)10mgを正確に量り、メタノールでメスフラスコにて10mLとし超音波洗浄器で溶解して1mg/mLの標準原液を調製した。
ビオチンの構造式:
【化2】

1.2 検量線用標準溶液
標準原液を下表1に従いシリコンコーティングされたガラス試験管を用いてメタノールで希釈し、検量線用標準溶液を調製した。
【0026】
【表1】
【0027】
1.3. 内標準原液および内標準溶液
rac ビオチン-d4(分子式:C1012S、分子量:248.34、トロントリサーチケミカルズ製)の1mg入り製品の容器にメタノールを1mL添加し、超音波洗浄器で溶解して1mg/mLの内標準原液を調製した。
rac ビオチン-d4の構造式:
【化3】

この内標準原液200μLを20mLのメスフラスコに採取して、メタノールで20mLにメスアップし、10μg/mLの内標準溶液(ISS-1)を調製した。
ISS-1を下表2に従いメスフラスコを用いてメタノールで希釈し、内標準溶液(ISS-3)を調製した。なお、調製量の増減は可とし、必要量に応じて同比率にて調製した。
【0028】
【表2】
【0029】
2. 分析法検証用試料の調製
2.1. 検量線用試料
検量線用標準溶液SS-5〜SS-10を30μLずつ採取し、D-PBS(-)(細胞培養用、和光純薬工業製) 300μLを添加し、検量線用試料を調製した(調製濃度2、1、0.5、0.4、0.2および0.1ng/mL)。
ブランク試料およびゼロ試料はメタノール30μLにD-PBS(-)300μLを添加した。
2.2. 血漿試料
正常ヒト血漿・プール(コスモバイオ製、抗凝固剤:ヘパリンナトリウム、以下、「ヒト血漿」と称する)300μLにメタノール30μLを添加し、血漿試料を調製した。
2.3. ビオチン添加血漿試料
検量線用標準溶液SS-4(100ng/L)をメタノールで2倍に希釈して50ng/mL溶液を調製後、10mLのメスフラスコに100μL採取し、ヒト血漿で正確にメスアップしたビオチン濃度0.5ng/mLの溶液300μLにメタノールを30μLを添加し、ビオチン添加血漿試料を調製した。
【0030】
3. 試料前処理法
以下の手順で試料の前処理を行った。
(1)検量線用試料、ゼロ試料およびビオチン添加血漿試料には内標準溶液ISS-3を30μL添加した。ブランク試料および血漿試料にはメタノールを30μL添加した。
(2)各試料にメタノールを1.2mL添加し、血漿を含まない試料は約5〜10秒間、血漿を含む試料は約1分間撹拌した。
(3)血漿を含まない試料は1mLを採取し、血漿を含む試料は4℃、10,000rpm(9175×g)で10分間遠心し、上清を1mL採取した。
(4)50℃で窒素ガスによる蒸発乾固を行い、残渣に10%メタノール200μLを添加し、超音波洗浄器で15分間溶解した。
(5)溶解後、HPLCバイアルに移し、血漿を含まない試料はそのままLC/MS/MSで分析した。血漿を含む試料は0.2μmのフィルター(マイレクス-LHフィルターユニット、フィルター直径4mm、フィルター孔径0.20μm、PTFE、親水性、ミリポア製)でろ過後、HPLCバイアルに移し、LC/MS/MSで分析した。
【0031】
4. 分析条件
分析には以下の機器を使用した。
【0032】
【表3】
【0033】
4.1. HPLCの移動相の調製
ギ酸アンモニウム630.6mgを正確に量り、精製水でメスフラスコにて1000mLとし、10mmol/Lギ酸アンモニウム溶液を調製した。これにギ酸を添加してpH3.0に調整して移動相A液とした。
4.2. HPLC条件
分析カラム:ACQUITY UPLC HSS T3 (1.8μm、2.1×100mm)(ウォーターズ製)
ガードフィルター:KrudKatcher Ultra In-Line Filter(フェノメネクス製)
カラム温度:50℃
移動相:A液:10mmol/Lギ酸アンモニウム(pH 3.0)、B液:アセトニトリル
タイムプログラム:
0→1.5min:20%B
1.5→3.0min:80%B
3.0→5.0min:20%B(分析サイクル:5分)
流速:0.4mL/min
4.3. オートサンプラー条件
オートサンプラー設定温度:4℃
洗浄溶媒:10%メタノール
注入量:15μL
4.4. MS/MS条件
イオン化法:ESI法(ポジティブイオンモード)
イオンスプレイ電圧:5500V
ターボヒーター:700℃
カーテンガス:30psi
ネブライザーガス:30psi
デソルベーションガス:80psi
測定法:MRM
モニターイオン:
ビオチン:m/z 245>227(CE19)
rac biotin-d4:m/z 249>231(CE19)
【0034】
5. 濃度算出法
検量線用試料(6濃度:0.1、0.2、0.4、0.5、1および2ng/mL、各濃度n=1)を調製し、測定した。測定には内標準物質(ISS-3)とのピーク面積比による内標準法により行った。定量値は、Analyst Ver.1.6.1(エービー・サイエックス製)により算出した。検量線の重み付けには1/xを用いた。
【0035】
6. 結果
6.1. 血漿試料
図1に血漿試料および検量線試料(0.05ng/mL)のクロマトグラムを示す。内標準物質について、血漿中に妨害と成り得るピークは確認できなかった。
6.2. 検量線
図2に典型的な検量線の結果を示す。0.1〜2ng/mLの濃度範囲において、検量線の直線性は3回の測定において相関係数(r)がそれぞれ0.9996、0.9996および0.9998、相対誤差(%RE)はそれぞれ-2.0〜+3.0%、-2.8〜+2.4%、-2.3〜+1.5%であり、判断基準(r:0.99以上、%RE:定量下限濃度で±20%以内、その他で±15%以内)を満たしていた。また、定量限界値は0.1ng/mLであった。
6.3. ビオチンおよびrac ビオチン-d4添加血漿試料
図4にビオチンおよびracビオチン-d4添加血漿試料のクロマトグラムを示す。
また、表4に得られたビオチン添加血漿試料の定量値から血漿試料(ブランク)の定量値の平均値を差し引き、真度(%RE)、精度(%CV)および回収率(%)を下記式(1)〜(3)により算出した結果を示した。0.5ng/mL添加試料において、精度(%CV)は2.2%、真度(%RE)は-3.4%であり、判断基準(%CV:15.0%以下、%RE:±15.0%以内)を満たしていた。
【数1】
【0036】
【表4】
【0037】
実施例2
1. 標準溶液および内標準溶液の調製
1.1. 標準原液
ビオチン10mgを正確に量り、メタノールでメスフラスコにて10mLとし超音波洗浄器で溶解して1mg/mLの標準原液を調製した。
1.2. 検量線用標準溶液
標準原液を下表5に従いシリコンコーティングされたガラス試験管を用いてメタノールで希釈し、検量線用標準溶液を調製した。
【0038】
【表5】
【0039】
1.3. 内標準原液および内標準溶液
実施例1で調製した内標準溶液(ISS-1)200μLを5mLのメスフラスコに採取して、メタノールで5mLにメスアップし、400ng/mLの内標準溶液(ISS-4)を調製した。
【0040】
2. 分析法検証用試料の調製
2.1. 検量線用試料
検量線用標準溶液SS-5〜SS-7およびSS-9〜SS-11を30μLずつ採取し、D-PBS(-)300μLを添加し、検量線用試料を調製した(調製濃度2、1、0.5、0.2、0.1および0.05ng/mL)。
ブランク試料およびゼロ試料はメタノール30μLにD-PBS(-)300μLを添加した。
2.2. 血漿試料
ヒト血漿300μLにメタノール30μLを添加し、血漿試料を調製した。
2.3. ビオチン添加血漿試料
検量線用標準溶液SS-4(100ng/L)をメタノールで2倍に希釈して50ng/mL溶液を調製し、10mLのメスフラスコに100μL採取し、ヒト血漿で正確にメスアップしたビオチン濃度0.5ng/mLの溶液300μLにメタノールを30μL添加し、ビオチン添加血漿試料を調製した。
【0041】
3. 試料前処理法
以下の手順で試料の前処理を行った。
(1)検量線用試料、ゼロ試料およびビオチン添加血漿試料には内標準溶液ISS-4を30μL添加した。ブランク試料および血漿試料にはメタノールを30μL添加した。
(2)各試料にメタノールを1.2mL添加し、血漿を含まない試料は約5〜10秒間、血漿を含む試料は約1分間撹拌した。
(3)血漿を含まない試料は1mLを採取し、血漿を含む試料は4℃、10,000rpmで10分間遠心し、上清を1mL採取した。
(4)50℃で窒素ガスによる蒸発乾固を行い、残渣に1%ギ酸/メタノール(9/1)200μLを添加し、超音波洗浄器で15分間溶解した。
(5)溶解後、HPLCバイアルに移し、血漿を含まない試料はそのままLC/MS/MSで分析した。血漿を含む試料は0.45μmのフィルター(マイレクス-LHフィルターユニット、フィルター直径4mm、フィルター孔径0.45μm、PTFE、親水性、ミリポア製)でろ過し、HPLCバイアルに移し、LC/MS/MSで分析した。
【0042】
4. 分析条件
分析には以下の機器を使用した。
【0043】
【表6】
【0044】
4.1. HPLCの移動相の調製
ギ酸アンモニウム630.6mgを正確に量り、精製水でメスフラスコにて1000mLとし、10mmol/Lギ酸アンモニウム溶液を調製した。また、ギ酸500μLをメスフラスコを用いて精製水で10mLとして、5%ギ酸溶液を調製した。ギ酸アンモニウム溶液1000mLに5%ギ酸溶液を2.8mL添加して撹拌し、pHが約4.1であることを確認し、これを移動相A液とした。
4.2. HPLC条件
分析カラム:Ascentis Express F5 HPLC Column (2.7μm、2.1×100mm)(シグマ-アルドリッチ製)
ガードフィルター:KrudKatcher Ultra In-Line Filter(フェノメネクス製)
カラム温度:50℃
移動相:A液:10mmol/Lギ酸アンモニウム(pH4.1)、B液:アセトニトリル
タイムプログラム:
0→2.5min:7%B
2.5→4.0min:70%B
4.0→5.0min:7%B(分析サイクル:5分)
流速:0.6mL/min
4.3. オートサンプラー条件
オートサンプラー設定温度:4℃
洗浄溶媒:10%メタノール
注入量:20μL
4.4. MS/MS条件
イオン化法:ESI法(ポジティブイオンモード)
イオンスプレイ電圧:5500V
ターボヒーター:700℃
カーテンガス:30psi
ネブライザーガス:30psi
デソルベーションガス:80psi
測定法:MRM
モニターイオン:
ビオチン:m/z 245 > 227 (CE19)
rac ビオチン-d4:m/z 249 > 231 (CE19)
【0045】
5. 濃度算出法
検量線用試料(6濃度:0.05、0.1、0.2、0.5、1および2ng/mL、各濃度n=1)を調製し、測定した。測定には内標準物質(ISS-4)とのピーク面積比による内標準法により行った。定量値は、Analyst Ver.1.6.1(エービー・サイエックス)により算出した。検量線の重み付けには1/xを用いた。
【0046】
6. 結果
6.1. 血漿試料
図4に血漿試料および検量線試料(0.1ng/mL)のクロマトグラムを示した。内標準物質について、血漿中に妨害と成り得るピークは確認できなかった。
6.2. 検量線
図5に典型的な検量線の結果を示した。0.05〜2ng/mLの濃度範囲において、検量線の直線性は3回の測定において相関係数(r)がそれぞれ0.9997、0.9993および0.9997、相対誤差(%RE)はそれぞれ-4.0〜+2.0%、-4.0〜+3.2%、-3.5〜+2.3%であり、判断基準(r:0.99以上、%RE:定量下限濃度で±20%以内、その他で±15%以内)を満たしていた。また、定量限界値は0.05ng/mLであった。
6.3. ビオチンおよびracビオチン-d4添加血漿試料
図6にビオチンおよびracビオチン-d4添加血漿試料のクロマトグラムを示す。
また、表7に得られたビオチン添加血漿試料の定量値から血漿試料(ブランク)の定量値の平均値を差し引き、真度(%RE)、精度(%CV)および回収率(%)を上記式(1)〜(3)により算出した結果を示した。0.5ng/mL添加試料において、精度(%CV)は2.2%、真度(%RE)は-3.4%であり、判断基準(%CV:15.0%以下、%RE:±15.0%以内)を満たしていた。
【0047】
【表7】
【0048】
実施例3
健常人および透析患者の血漿中ビオチン濃度を固定相がオクタデシルシリル(ODS)(C18)であるカラム(ACQUITY UPLC HSS T3、ウォーターズ製)を用いた分析法(以下、「ODS法」)、ペンタフルオロフェニル(PFP)カラム(Ascentis Express F5 HPLC column、シグマ-アルドリッチ製)を用いた分析法(以下、「PFP法」)により測定した。
【0049】
1. 実験方法
血漿試料は、健常人および透析患者より採血し、分離した血漿300μLにメタノール30μLを添加したものを使用した。
検量線用試料の調製は、ODS法、PFP法共に実施例2の条件にて行った。また、分析方法は、ODS法は実施例1、PFP法は実施例2の条件にしたがって測定した。
試料前処理法については、検量線用試料、ゼロ試料および血漿試料には内標準溶液(ISS-3)を30μL添加し、ブランク試料にはメタノールを30μL添加した。その後は実施例2の3.(2)〜(5)の手順に従い行った。
【0050】
2. 結果
2.1. ビオチンピークの分離
図7に示されるように、ODS法では、MRMクロマトグラム上でビオチンのピークに夾雑ピークが重なりピークの分離が困難であった。特に透析患者の血漿においてこの傾向が強く見られた。一方、PFP法を用いた場合、ビオチンのピークを分離することができた。
2.2. イオン化抑制
表8に示されるように、ODS法では、マトリックス効果によるイオン化抑制が強く、内標準物質で比較すると、透析患者の血漿において、標準液のピーク面積に対して50%以下の面積値となる血漿試料が散見されたが、PFP法ではイオン化抑制が改善された。これにより、低濃度の血漿中ビオチンピークを検出することができた。
2.3. 定量限界値
上記のように、PFP法は、ODS法に比べてビオチンピークの分離およびイオン化抑制の点で改善されていた。これにより、ビオチンの定量限界値は、ODS法が0.1ng/mLであるのに対して、PFP法は0.05ng/mLであり、高感度であった。
【0051】
【表8】
【0052】
実施例4
血液透析患者の血液透析(HD)廃液中ビオチン濃度をPFP法により測定した。
1. 実験方法
血液透析廃液試料は、血液透析患者の血液透析廃液(HD廃液1〜4)300μLにメタノール30μLを添加したものを使用した。
検量線用試料の調製および分析方法は、実施例2の条件にて行った。また、試料前処理法については、検量線試料およびビオチン測定用血液透析廃液試料には内標準物質(ISS-4)30μLを、妨害ピーク確認用血液透析廃液試料についてはメタノール30μLを添加し、以後は実施例2の3.(2)〜(5)に従い行った。
2. 結果
2.1. 血液透析廃液試料中妨害ピークの確認
図8に血液透析廃液試料および検量線試料(0.5ng/mL)のクロマトグラムを示した。また、内標準物質であるracビオチン-d4について、血液透析廃液中に妨害と成り得るピークは確認できなかった(図8D)。
2.2. 血液透析廃液試料中ビオチン濃度
表9に血液透析廃液中ビオチン濃度の測定結果を示した。
【0053】
【表9】
【0054】
実施例5
血液透析濾過(HDF)廃液中のビオチン濃度をPFP法により測定した。
1. 実験方法
血液透析濾過試料は血液透析濾過患者の廃液(HDF廃液)300μLにメタノール30μLを添加したものを使用した。
検量線用試料の調整および分析方法については、実施例2の条件にて行った。また、試料前処理法については実施例4に従って行った。
2. 結果
2.1. 血液透析濾過試料中妨害ピークの確認
図9に血液透析濾過廃液試料および検量線試料(0.5ng/mL)のクロマトグラムを示した。内標準物質であるracビオチン-d4について、血液透析濾過廃液中に妨害と成り得るピークは確認できなかった(図9D)。
2.2. 血液透析濾過廃液試料中ビオチン濃度
表10に血液透析濾過廃液中ビオチン濃度の測定結果を示した。
【0055】
【表10】
【0056】
実施例6
腹膜透析廃液中のビオチン濃度をPFP法により測定した。
1. 実験方法
腹膜透析廃液試料は、腹膜透析患者の廃液(PD廃液)300μLにメタノール30μLを添加したものを使用した。
検量線用試料の調整および分析方法については、実施例2の条件にて行った。試料前処理法は、実施例4の条件にて行った。
2. 結果
2.1. 腹膜透析廃液試料中妨害ピークの確認
図10に腹膜透析廃液試料および検量線試料(2.0ng/mL)のクロマトグラムを示した。内標準物質であるracビオチン-d4について、腹膜透析廃液中に妨害と成り得るピークは確認できなかった(図10D)。
2.2. 腹膜透析廃液試料中ビオチン濃度
表11に腹膜透析廃液中ビオチン濃度の測定結果を示した。
【0057】
【表11】
【0058】
実施例7
尿中のビオチン濃度をPFP法により測定した。
1. 実験方法
検量線用試料の調整および分析方法については、実施例2の条件にて行った。尿試料は、血液透析患者の尿(尿1:透析治療歴約1年の糖尿病患者、尿2:透析治療歴約3年の非糖尿病患者)および蛋白尿(尿3:尿蛋白2+)各300μLにメタノール30μLを添加したものを使用した。試料前処理法は、実施例4の条件にて行った。
2. 結果
2.1. 透析廃液試料中妨害ピークの確認
図11に尿試料および検量線試料(2.0ng/mL)のクロマトグラムを示した。内標準物質であるracビオチン-d4について、尿中に妨害と成り得るピークは確認できなかった(図11D)。
2.2. 尿試料中ビオチン濃度
表12に尿中ビオチン濃度の測定結果を示した。
【0059】
【表12】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11