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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-119064(P2015-119064A)
(43)【公開日】2015年6月25日
(54)【発明の名称】熱伝導板
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/04 20060101AFI20150529BHJP
【FI】
   H01F7/22 GZAA
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-261991(P2013-261991)
(22)【出願日】2013年12月19日
(71)【出願人】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】503116257
【氏名又は名称】学校法人八戸工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(71)【出願人】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 敬夫
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】槙田 康博
(72)【発明者】
【氏名】濱島 高太郎
(72)【発明者】
【氏名】花田 一麿
(72)【発明者】
【氏名】津田 理
(72)【発明者】
【氏名】宮城 大輔
(72)【発明者】
【氏名】新富 孝和
(72)【発明者】
【氏名】高尾 智明
(72)【発明者】
【氏名】梶原 昌高
(72)【発明者】
【氏名】岩城 勝也
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 順之
(72)【発明者】
【氏名】辻上 博司
(57)【要約】      (修正有)
【課題】渦電流の発生を抑制した、超電導コイル冷却用熱伝導板の提供。
【解決手段】超電導コイルの冷却用である、熱伝導板であって、該熱伝導板は、略円板状熱伝導板部及び該略円板状熱伝導板の外周から外側に延伸する複数の熱伝達手段を有し、略円板状熱伝導板部は、a)超電導コイルの略円形状の上面及び/又は下面と同心円上に、超電導コイルの上及び/又は下に配置され、b)前記略円板状熱伝導板部の中心から内周Rまで円形状の切欠を有し、且つ、さらにi)該略円板状熱伝導板部の径方向に、熱伝導板部の内周Rから外周Rまでに達する、少なくとも1つの第1のスリット、及びii)該略円板状熱伝導板部の径方向に、内周Rから所定距離R(R<R<R)まで伸びる複数の第2のスリットを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導コイルの冷却用である、熱伝導板であって、
該熱伝導板は、略円板状熱伝導板部;及び該略円板状熱伝導板の外周R(R:略円板状の円の中心から外周端までの距離)から外側に延伸する複数の熱伝達手段;を有し、
略円板状熱伝導板部は、
a)超電導コイルの略円形状の上面及び/又は下面と同心円上に、超電導コイルの上及び/又は下に配置され、
b)前記略円板状熱伝導板部の中心から内周Rまで円形状の切欠を有し、且つ
さらに
i)該略円板状熱伝導板部の径方向に、熱伝導板部の内周R(R:前記略円板状の円の中心から内周端までの距離)から外周R(R:前記略円板状の円の中心から外周端までの距離)までに達する、少なくとも1つの第1のスリット;
ii)該略円板状熱伝導板部の径方向に、内周Rから所定距離R(R<R<R)まで伸びる複数の第2のスリット;及び
iii)該略円板状熱伝導板部の径方向に、所定距離R(R<R≦R)から外周Rまで伸びる複数の第3のスリット;
を有する、上記熱伝導板。
【請求項2】
前記Rが、下記式(A)(式中、Rは、超電導コイルの中心から超電導コイルの磁場がゼロとなる位置までの距離を示す)を満たす請求項1記載の熱伝導板。
【数1】
【請求項3】
請求項1又は2記載の熱伝導板を有する超電導マグネット装置。
【請求項4】
前記熱伝達手段が冷熱源まで延伸して設けられる請求項3記載の超電導マグネット装置。
【請求項5】
前記冷熱源が液化水素である請求項4記載の超電導マグネット装置。
【請求項6】
前記冷熱源がサーモサイフォン式を採用し、前記サーモサイフォン式の配管が前記熱伝導板の上部に配置される請求項4又は5記載の超電導マグネット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルの冷却用である熱伝導板に関する。特に、サーモサイフォン式間接冷却方式を用いて超電導コイルを冷却するための熱伝導板に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な社会の構築に向けて再生可能エネルギー利用の重要性が高まる一方、該再生可能エネルギーは発電変動があるため、現在の電力システムに直に連系できる再生可能エネルギー源やその利用量は限定されている。そのため、変動する再生可能エネルギーを制御した電気出力に変換する装置、例えば再生可能エネルギーを一旦貯蔵し必要なときに出力できる貯蔵装置が望まれている。この貯蔵装置として、i)「分」程度又はそれ以下の激しい発電変動がある再生可能エネルギーに対して、即応性及び多数回の繰り返しの貯蔵・放出が可能である超電導電力貯蔵装置(SMES)が適している。また、ii)「時間」単位の発電変動がある再生可能エネルギーに対して、発電の余剰変動成分を利用して水を電気分解装置(EL)で分解し大容量の貯蔵が可能な「水素」(H)として貯蔵するとともに、発電量が不足した際には「水素」を用いる燃料電池発電装置(FC)により出力させるのが適している。
【0003】
上記SMES、EL、H及びFCに加え再生可能エネルギーの発電変動予測技術を統合することにより、ハイブリッド貯蔵システムを提供できることが期待され、さらには液化水素貯槽を有する燃料電池車用水素ステーションなども統合することにより、経済性及び信頼性をより向上させた先端超電導電力変換システム(Advanced Superconducting Power Conditioning System:ASPCS)の提供が期待されている。
【0004】
超電導電力貯蔵装置(SMES)には、超電導コイルが用いられている。
超電導コイルは、温度が上がり、常電導転移をすれば超電導運転に致命的なクエンチ現象を引き起こす。また、変圧器やリアクトルなどのような交流機器への超電導コイルの適用は、通電電流により発生した磁束によって周辺の熱伝導板などに渦電流が誘起され、交流損失や発熱を生じることから、その実用化はあまり進んでいない。そういった問題から、冷却を効率良く行うための冷却機構及びそこに用いる熱伝導部材の開発が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1は、冷凍機に接続された伝熱部材をコイルの外周を囲繞するよう配置させ、該伝熱部材の一部にスリットを設ける構成を開示する。
また、特許文献2は、パンケーキ型の超電導コイルにおいて、超電導コイル間の全ての間および積層体の両端外面に、それぞれ伝熱材の一端を挿入しコイル端面と全面接触させる一方、該複数の伝熱材の他端を冷凍機のコールドヘッドと連結する構成を開示する。また、渦電流の発生を抑制するために、外周端から内周端へ径方向に切り込んだ第1スリットを設けるとともに、内周端から外周側へ径方向に切り込んだ第2スリットを、周方向に間隔をあけて設ける構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−272745。
【特許文献2】特開2010−016026。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の伝熱部材は、コイル外周を囲むように配置される構成を採用するが、略円形状の上面又は下面を有する超電導コイルの該上面又は下面に配置される熱伝導板については開示していない。したがって、特許文献1の伝熱部材は、所望の冷却効率を奏することができない。
また、特許文献2は、特許文献1よりも高い冷却効率を奏すると考えられる熱伝導板を開示する。具体的には、特許文献2は、略円形状の上面又は下面を有する超電導コイルの該上面又は下面に配置される熱伝導板を開示し、渦電流の発生を抑制するために第1及び第2のスリットを設ける構造を開示する。しかしながら、特許文献2の第1及び第2のスリットは、周方向に間隔をあけて、外周端から内周端又は内周端から外周端に設けられるため、熱を円周方向に伝達して冷却効率を高めることができない。また、特許文献2では、依然として渦電流の発生を抑制することが問題となる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決することにある。
具体的には、本発明の目的は、円形状の上面又は下面を有する超電導コイルの該上面又は下面に配置される熱伝導板であって、冷却効率を高めると共に渦電流の発生を抑制する構成を有する熱伝導板を提供することにある。特に、サーモサイフォン式間接冷却方式を用いる熱伝導板を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記熱伝導板を有する超電導マグネット装置を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、先端超電導電力変換システム(ASPCS)における超電導電力貯蔵装置(SMES)に用いられる、上記熱伝導板を有する超電導マグネット装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以下の発明を見出した。
<1> 超電導コイルの冷却用である、熱伝導板であって、
該熱伝導板は、略円板状熱伝導板部;及び該略円板状熱伝導板部の外周R(R:略円板状の円の中心から外周端までの距離)から外側に、好ましくは径方向外側に延伸する複数の熱伝達手段;を有し、
a)略円板状熱伝導板部は、超電導コイルの略円形状の上面及び/又は下面と同心円上に、超電導コイルの上及び/又は下に配置され、
b)略円板状熱伝導板部は、略円板状熱伝導板部の中心から内周Rまで円形状の切欠を有し、且つ
i)該略円板状熱伝導板部の径方向に、熱伝導板部の内周R(R:前記略円板状の円の中心から内周端までの距離)から外周R(R:前記略円板状の円の中心から外周端までの距離)までに達する、少なくとも1つ、好ましくは2つの第1のスリット;及び
ii)該略円板状熱伝導板部の径方向に、内周Rから所定距離R(R<R<R)まで伸びる複数の第2のスリット;及び
iii)該略円板状熱伝導板部の径方向に、所定距離R(R<R≦R)から外周Rまで伸びる複数の第3のスリット;
を有する、上記熱伝導板。
【0010】
<2> 上記<1>において、Rが、下記式(A)(式中、Rは、超電導コイルの中心から超電導コイルの磁場がゼロとなる位置までの距離を示す)を満たすのがよい。
【0011】
【数1】
【0012】
<3> 上記<1>又は<2>に記載される熱伝導板を有する超電導マグネット装置。
<4> 上記<3>において、熱伝達手段が冷熱源まで延伸して設けられるのがよい。
<5> 上記<4>において、超電導マグネット装置が複数の超電導コイルを積層し、第1〜第n(nは2以上の整数を示す)の熱伝導板が積層された超電導コイル間に配置され、且つ第1の熱伝導板の第1の熱伝達手段と第m(mは2以上n以下の整数を示す)の熱伝導板の第mの熱伝導手段とは、超電導コイルの上面から見て、互いに重ならないように又は互いの重なりを少なくして配置されるのがよい。
【0013】
<6> 上記<4>又は<5>において、冷熱源が液化水素であるのがよい。
<7> 上記<4>〜<6>のいずれかにおいて、冷熱源がサーモサイフォン式を採用し、サーモサイフォン式の配管が熱伝導板の上部に配置されるのがよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、円形状の上面又は下面を有する超電導コイルの該上面又は下面に配置される熱伝導板であって、冷却効率を高めると共に渦電流の発生を抑制する構成を有する熱伝導板を提供することができる。特に、サーモサイフォン式間接冷却方式を用いる熱伝導板を提供することができる。
また、本発明により、上記熱伝導板を有する超電導マグネット装置を提供することができる。
さらに、本発明により、先端超電導電力変換システム(ASPCS)における超電導電力貯蔵装置(SMES)に用いられる、上記熱伝導板を有する超電導マグネット装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一態様である略円板状熱伝導板1の上面概略図を示す。
図2】冷却端(T)及び高温端(Tmax)を備える一般的な伝導板を例示する図である。
図3】第3のスリットを有する、本発明の一態様である略円板状熱伝導部102を示す図である。
図4】本発明の一態様である略円板状熱伝導板部2の外周端付近の拡大概略図を示す。
図5】ダブルパンケーキ型の超電導コイルの磁場がゼロとなる位置を求めるために用いたグラフ(横軸:コイル中心からの距離(m);縦軸:磁束密度(T))を示す。
図6】本発明の一態様である熱伝導板を有する超電導マグネット装置10の概略側面図及び上面概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願は、超電導コイルの冷却用である、熱伝導板を提供する。また、本願は、該熱伝導板を有する超電導マグネット装置を提供する。以下、順に説明する。
<熱伝導板>
本願の熱伝導板は、略円板状熱伝導板部;及び
該略円板状熱伝導板部の外周R(R:略円板状の円の中心から外周端までの距離)から外側に、好ましくは径方向外側に延伸する複数の熱伝達手段;を有する。
【0017】
また、略円板状熱伝導板部は、
a)超電導コイルの略円形状の上面及び/又は下面と同心円上に、超電導コイルの上及び/又は下に、超電導コイルの全面又はほぼ全面に接するように配置され、
b)略円板状熱伝導板部の中心から内周R(R:略円板状の円の中心から内周端までの距離)まで円形状の切欠を有する。
【0018】
さらに、略円板状熱伝導板部は、次のi)及びii)、並びにiii)の構成を有する。
即ち、i)該略円板状熱伝導板部の径方向に、熱伝導板部の内周Rから外周Rまでに達する、少なくとも1つの第1のスリット;及び
ii)該略円板状熱伝導板部の径方向に、内周Rから所定距離R(R<R<R)まで伸びる複数の第2のスリット;及び
iii)該略円板状熱伝導板部の径方向に、所定距離R(R<R≦R)から外周Rまで伸びる複数の第3のスリット。
なお、上記iii)に関して、R=Rである場合、略円板状熱伝導板部は、第3のスリットを有しないことを意味する。
【0019】
本願の熱伝導板を、以下、図を用いつつ、説明する。
図1は、本発明の一実施形態である熱伝導板1の上面概略図を示す。
本発明の一実施形態である熱伝導板1は、熱伝導率の高い材料、例えばアルミニウム、銅、銅合金などから成り、厚みの小さい円板状からなる略円板状熱伝導板部2;及び該略円板状熱伝導板部2の外周Rから径方向外側に延伸する、複数の帯状の熱伝達手段3a〜3hを有する。
複数の熱伝達手段3a〜3hは、後述する冷熱源まで延伸され、略円板状熱伝導板部2の熱を冷熱源まで伝達する。図1において、1つの略円板状熱伝導板部2に対して、8つの熱伝達手段3a〜3hを有するが、その数及び配置箇所などは、冷熱源の位置、冷却効果、配置の制限、及び後述する第1のスリット5の数などに依存して決めることができる。
【0020】
略円板状熱伝導板部2は、b)略円板状熱伝導板部の中心から内周Rまで円形状の切欠を有し、径方向の幅W1を有するリング状又はドーナツ状を形成する。
内周Rは、略円板状熱電板部2がその上面及び/又は下面に配置される超電導コイルの略円形状に依存して、決められる。また、略円板状熱伝導板部2は、超電導コイルの全面又はほぼ全面に接するような形状であり且つそのように配置するのがよい。
【0021】
略円板状熱伝導板部2は、i)該略円板状熱伝導板部2の径方向に、熱伝導板部2の内周Rから外周Rまでに達する第1のスリット5を有する。即ち、第1のスリット5は、周方向のループ電流を抑制するために、略円板状熱伝導板部2の幅W1全体を切断するか又は切り込むように設けられる。
外周Rは、超電導コイルの形状に依存し、超電導コイルの上面及び/又は下面の円形状と同じであるか又はそれよりも若干大きいのがよい。
図1において、略円板状熱伝導板部2は、第1のスリット5の1個だけを備えるものを例示するが、その数は、ループ電流の抑制効果、あるいは製造上の都合に依存して、2個以上であってもよい。第1のスリットの数は、好ましくは1個又は2個であるのがよい。
なお、第1のスリットを2個以上設けると、該略円板状熱伝導板部2は一体形成されず、「略円板状」を保持しないが、略円板状熱伝導板部を超電導コイルの略円形状の上面及び/又は下面に配置された状態で「略円板状」が形成されるため、「略円板状」熱伝導板部と本願では規定する。
【0022】
略円板状熱伝導板部2は、ii)該略円板状熱伝導板部の径方向に、内周Rから所定距離R(R<R<R)まで伸びる複数の第2のスリット6(6a〜6f)を有する。なお、図1において、全周の1/4にあたる箇所の第2のスリットのみを6a〜6fと符号を付すが、全周に亘って、第2のスリット6が形成される。
第2のスリットは、熱伝導板に誘起される渦電流を抑制するために設けられ、且つ内周Rから所定距離Rまで、熱伝導を径方向に行うために設けられる。この第2のスリット6が形成された内周Rから所定距離Rまでの領域AR1は、径方向に熱を伝導(放熱)させる領域となる。
【0023】
図1に示す第2のスリット6は、超電導コイル11a〜11h(図4を参照のこと)の内周端部から外周端部の周辺までの距離に略対応して切り込まれ、且つ周方向に沿うように、角度θをもって列設してなる。これにより、互いに隣接する第2のスリット6間の距離D1が狭められ、渦電流の発生を有効に抑制することができる。
【0024】
隣接する2つの第2のスリット間の距離(以下、単に「第2のスリット幅」と略記する)wについて、図2を用いて説明する。
一般的に、図2のような伝導板に発生する渦電流損Pは以下の式(1)で計算される。なお、式中、以下のように定義する。
:厚さa(m)、幅w(m)、長さl(m)の板に生じる渦電流損(W);
f:変動磁場の周波数(Hz);
:変動磁場の振幅(T);
ρ:伝導板の抵抗率(Ω・m)
【0025】
【数2】
【0026】
熱伝導板の外周端が冷却端であり、一定温度Tを有する一方、内周端付近の温度をTmaxとすると、位置xでの熱バランスは次式で表現される。式中、k:熱伝導率(W/m・K)である。
【0027】
【数3】
【0028】
ここで、下式で表されるWiedemann Frants則(ρk=LT)(式中、L:ローレンツ定数、2.44×10−8 (WΩK−2)及びT:絶対温度(K))から、上記(2)式は以下のようになる。
【0029】
【数4】
【0030】
xは0→1、TはTmax→Tで積分する。
【0031】
【数5】
【0032】
最高温度Tmaxが許容値以下とするための幅wを求める。
【0033】
【数6】
【0034】
したがって、周波数f、振幅Bの磁場変動で冷却温度T、許容温度Tmaxの時、第2のスリット幅wは(3)式で示される値以下であればよい。
例えば、冷却端温度が液化水素20Kで渦電流による発熱の許容上昇温度を25K、磁場の振幅を2テスラ、周波数を0.05Hz、板の長さlを1mとすると、第2のスリット幅wの許容値は0.018m(約20mm)となる。また、外周端箇所、即ち所定距離Rから外周Rまでの幅についても第2のスリット幅の許容値と同程度以下の幅にしておくとより好適である。
【0035】
第2のスリットが設けられていない領域(領域AR1よりも外側の領域)、即ち所定距離Rから所定距離Rまでの領域AR2は、周方向に熱伝導を行うことができる。また、後述のiii)第3のスリットがない場合、即ち領域AR2が外周端に設けられる場合、該領域AR2に熱伝達手段3a〜3hが接続して設けられ、領域AR2により周方向に伝導された熱を熱伝導手段3a〜3hに介して伝導することができる。したがって、図1に示す本発明の一態様の熱伝導板1は、AR1において径方向への伝熱、AR2においては周方向の伝熱、さらには熱伝導手段3aから3hによる伝熱により、渦電流の発生を抑制しつつ、熱伝導板全体を効率よく冷却することができる。
【0036】
領域AR2は、その径方向の長さ(R−R)(以下、この値を「2a(=L1+L2)」と略記する場合がある。L1及びL2は、後述の図4を参照のこと)、その周方向の長さlsについて、最適な値を求めることができる。
ここで、「領域AR2」を『スリット連結部』と、「径方向の長さ」を『幅』と略記する場合がある。即ち、「AR2の径方向の長さ」を『スリット連結部の幅』と略記する場合がある。また、「AR2の周方向の長さls」を『スリット連結部の長さls』と略記する場合がある。ここで、「AR2の周方向の長さls」、即ち『スリット連結部の長さls』は、第1スリットの数が「1」である場合には、2πRであり、第1スリットの数が「n」であり、該n個の第1のスリットが周方向に均等に配置される場合、2πR/nと表記することができる。
最適な値を求めるには、伝導板冷却端より最も離れたスリットのコイル内面の温度が、超電導磁石の許容温度以下になる必要がある。また、熱流項と伝導項、熱伝導板におけるコイル内面の温度と冷却端の温度の関係を解析すること、などにより、求めることができる。
【0037】
スリット幅D1およびスリット連結部の幅2aについては渦電流発熱を抑えるため一定の許容値以下とすることが好ましい。ただし、スリット連結部の幅2aについては、スリット連結部自身の渦電流発熱に加えて各スリットからの熱流入も熱流項に含める必要があり、対流項としてのバランスを考慮すると、ある程度以上の幅を確保することが好ましい。具体的には、2a、即ち(R−R)は、Rの10〜20%程度の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
より詳細には、コイル内面の温度と冷却端の温度の関係を、(Tmax2−T2)を左辺に置いた関係式で表す(下記式(4)を参照のこと。式(4)中、Rは、後述するが、超電導コイルの中心から超電導コイルの磁場がゼロとなる位置までの距離を示す。なお、式(4)導出の詳細は省略する)と、右辺の第1項に「1枚のスリット板すなわちコイルの内面から磁場0の場所までの渦電流損による温度差」、第2項に「スリット板連結部に発生する渦電流損による温度差」、第3項に「各スリット板から連結部に流入する渦電流損による熱流による温度差」を置くことができる。ここで、Wiedemann-Franz則を基に式を導出すると、スリット連結部の幅2aの影響は、第2項に4乗、第3項ではマイナス1乗のオーダーでかかってくることから、2aには上述のような最適範囲があることが下記式(4)の解析結果からも分かる。
【0039】
【数7】
【0040】
さらに、本発明の熱伝導板は、iii)略円板状熱伝導板部の径方向に、所定距離R(R<R≦R)から外周Rまで伸びる複数の第3のスリット;を有する。
ただし、所定距離RがRと同じである場合、第3のスリットは存在しない。要するに、第3のスリットは、任意の構造である。
第3のスリットが有する場合について、図3を用いて説明する。
図3は、第3のスリットを有する略円板状熱伝導部102を示す。
略円板状熱伝導部102は、図1に示す略円板状熱伝導部2と同様に、領域AR1を有し、該領域AR1は、内周Rから所定距離Rまでに、径方向に伸びる第2のスリット6が形成され、径方向に熱を伝導することができる。
【0041】
領域AR1の径方向外側には、図1と同様に、領域AR2が設けられる。領域AR2は、所定距離R2と所定距離R1との間に形成される円環状であり、図1で説明した通り、周方向に熱を伝導することができる。
領域AR2の径方向外側に、所定距離R(R<R≦R)から外周Rまで伸びる複数の第3のスリット107(107a〜107g)を有する領域AR3が設けられる。第3のスリットは、第2のスリットと同様に、径方向に熱を伝導させることができると共に、渦電流の発生を抑制することができる。なお、図3において、全周の1/4にあたる箇所の第3のスリットのみを107a〜107fと符号を付すが、全周に亘って、第3のスリット107が形成される。
【0042】
図1のAR1及びAR2並びに図3のAR1、AR2及びAR3を見ればわかるように、図1のAR2が、図3では、径方向内側に移動したように見られる。即ち、本願において、「iii)第3のスリット」と規定するが、「ii)第2のスリットが外周端まで伸び」且つ「周方向への伝熱作用を有する領域AR2が第2のスリットを横断するように設けられる」と換言することもできる。
なお、図3において、AR3の第3のスリット107は、AR1の第2のスリット6の延長線上に設けられるが、第3のスリットは、第2のスリットの延長線上であってもなくてもよい。
【0043】
さらに、Rは、下記式(A)(式中、Rは、超電導コイルの中心から超電導コイルの磁場がゼロとなる位置までの距離を示す)を満たすのがよい。
【0044】
【数8】
【0045】
上記式(A)について、図4を用いて説明する。
図4は、略円板状熱伝導板部2の外周端付近の拡大概略図を示す。
第2のスリット6の外側の端部である所定距離RとAR2の端部までの距離Rとの間、即ち領域AR2に、超電導コイルの磁場がゼロとなる位置Rが配置するように、所定距離Rを設けられるのがよい。特に、所定距離R、AR2の端部までの距離R、及び超電導コイルの磁場がゼロとなる位置Rが上記式(A)を満たすと、第2のスリット6が設けられていない領域、即ちAR2は、所定距離Rから磁場ゼロの位置Rまでの距離L1において発生する起電力Xと、磁場ゼロの位置RからAR2の端部までの距離Rまでの距離L2において発生する起電力(−X)とは、逆の磁場であり、それらの値が同じであるため、それらは相殺される。したがって、第2のスリット6が設けられていない領域AR2、言い換えるならば外周端周辺は、渦電流の発生が完全に又はほぼ完全に抑制することができる。
【0046】
なお、第3のスリットを有しない場合、AR2の端部までの距離Rは、外周Rと等しくなる(R=R)ため、上記式(A)は、上記式(A’)として取り扱うことができる。
(R−R)の寸法(領域AR2の径方向の長さ、「スリット連結部の幅2a」と上述したものと同じ)は、周方向への熱伝導性を奏するような範囲を有し、好ましくは比較的小さいのがよい。図2の態様において、(R−R)の寸法は、上述したように、Rの10〜20%程度の範囲内とすることが好ましい。なお、第3のスリットを有しない場合、上述した通り、R=Rであるので、上記の「(R−R)の寸法」は、「(R−R)の寸法」とすることができる。
【0047】
超電導コイルの磁場がゼロとなる位置までの超電導コイルの中心から距離Rは、用いる超電導コイル、コイルの断面形状(アスペクト比)などに依存するが、その位置Rは、ビオ・サバール法則を用いて求めることができる。
図5は、MgB超電導線を円周方向に巻回して形成した、円盤状、具体的には内半径(r1)0.05m、外半径(r2)0.1m、厚さ(d)80.6mmのダブルパンケーキ型の超電導コイルの磁場がゼロとなる位置を求めるために用いたグラフを示す。横軸はコイル中心からの距離(m)を示し、縦軸は磁束密度(T)を示す。
図5によると、用いた超電導コイルの場合、0.095m付近に磁場がゼロとなる位置があることがわかる。
【0048】
<超電導マグネット装置>
本願は、上述の熱伝導板を有する超電導マグネット装置を提供する。
具体的には、いわゆるパンケーキ型又はダブルパンケーキ型超電導コイルを1つ又はそれ以上有する超電導マグネット装置であって、該パンケーキ型又はダブルパンケーキ型超電導コイルの上面及び/又は下面と同心円上に、上述の熱伝導板を配置するのがよい。また、パンケーキ型又はダブルパンケーキ型超電導コイルが複数積層される場合には、積層される超電導コイル間に、上述の熱伝導板を配置するのがよい。なお、超電導コイルにはMgB超電導線(臨界温度:39K)を用いたが、超電導線の材質は冷熱源との兼ね合いで適宜選択できる。
【0049】
超電導マグネット装置は、冷熱源として液化ヘリウム(沸点:4K)、液化水素(沸点:20K)を用いるのがコイル冷却の点で都合が良く、水素ステーションの液化水素を用いるのが、経済性の点でさらに都合がよい。この場合、水素が可燃性の性質を有することから間接冷却方式を採用し、さらに、入熱が加わると自身で自然に循環するサーモサイフォン式を採用するのがよい。
該サーモサイフォン式の配管は熱伝導板の上部に配置されるのがよい。
【0050】
サーモサイフォン式冷熱源を用い、且つ冷熱源として液化水素を用いる超電導マグネット装置の一例を以下に図を用いて説明する。
図6は、本願の熱伝導板を有する超電導マグネット装置の一態様10の概略図を示す。具体的には、図6(a)は側面正面図を示す。また、図6(b)は、図6(a)から熱伝導手段を取り除き、サーモサイフォン式間接冷却方式を採用した超電導マグネット装置の一態様10の概略図を示す。なら、図6(a’)は、図6(a)の上面図を示す。
【0051】
超電導マグネット装置の一態様10は、8個のダブルパンケーキ型超電導コイル11a〜11hを積層して形成される。ダブルパンケーキ型の超電導コイル11a〜11hは各々、MgB超電導線(臨界温度:39K)を巻回して形成された円盤状のパンケーキ型コイルが重ねられて二層としたものであり、二層のコイルは最内周で繋がっている。
各超電導コイル間に熱伝導板1が配置され、例えば、該超電導コイル11aと11bとの間に第1の熱伝導板13a、該超電導コイル11bと11cとの間に第2の熱伝導板13b、などのように、熱伝導板が配置される。また、最上層の超電導コイル11hの上面及び最下層の超電導コイル11aの下面にも、それぞれ接触するように、熱伝導板1が配置される。熱伝導板1は、各超電導コイル11a〜11hを挟むように構成される。
なお、各熱伝導板1は各々、上述したように、上述の構成、即ち、熱伝導手段、第1のスリット、第2のスリット、第3のスリットなどを有してなる。
【0052】
各熱伝導板1が有する熱伝導手段3a〜3hは、該熱伝導板1の外周端付近で、具体的には図1の「CV」で示す位置で、上方に折り曲げられ、超電導コイルの上方に配置される冷熱ドラム15まで延伸し、該冷熱ドラム15に接触するように配置することにより、熱伝導手段で伝導した熱が冷却される。
冷熱ドラム15は、良好な熱伝導性を有する材料、例えば銅などから形成され且つ略円筒形状を有し、超電導コイル11a〜11hの上方に配置される。管状部であるサーモサイフォンライン16が、冷熱ドラム15の外周側面に接触する接触部17を有するように、設置される。
【0053】
サーモサイフォンライン16は、側面から見ると略U字状に有して配管設置される。サーモサイフォンライン16の一端は、液化水素槽18に接続し、該液化水素槽18から略U字状のサーモサイフォンライン16へと液化水素が流入し、冷熱ドラム15の円筒外周とサーモサイフォンライン16との接触部17で冷熱ドラム15を冷却する。冷熱ドラム15を冷却した液化水素は、熱伝導手段3a〜3hにより伝達された熱により蒸発され、該蒸発した水素は上方へと流れ、液化水素槽18に流入する。そして、液化水素は、再び液化水素槽18から接触部17へと流入し、サイフォン式に液化水素が流れる。これにより、冷熱ドラム15を連続的に冷却し、且つ熱伝導手段3a〜3hが間接的に冷却され、さらには各熱伝導板1及び超電導コイル11a〜11hが冷却される。
なお、これらダブルパンケーキ型超電導コイル11a〜11h、各熱伝導板1、冷熱ドラム15、サーモサイフォンライン16、及び液化水素槽18は、真空容器30内に収容されている。
【0054】
このように、熱伝導手段は、熱伝導板に設けられ、冷熱源まで延伸して、冷却される。本発明の熱伝導手段は、上述のように、その数及び配置箇所などは、冷熱源の位置、冷却効果、配置の制限などに依存して決めることができる。
超電導マグネット装置が複数の超電導コイルを積層し、第1〜第n(nは2以上の整数を示す)の熱伝導板が積層された超電導コイル間に配置される場合、熱伝導手段は、好ましくは、次のように配置されるのがよい。即ち、第1の熱伝導板の第1の熱伝達手段と第m(mは2以上n以下の整数を示す)の熱伝導板の第mの熱伝導手段とは、超電導コイルの上面から見て、互いに重ならないように又は互いの重なりを少なくして配置されるのがよい。このように、熱伝達手段を設けることにより、効率よく熱伝導板及び超電導コイルを冷却することができる。
【0055】
以上、図を用いて、本願の熱伝導板及び該熱伝導板を有する超電導マグネット装置を説明したが、本発明の熱伝導板及び該熱伝導板を有する超電導マグネット装置は、図示したものに限定されず、これら図示したものの変形、修飾したものであっても本発明に含まれる。
【0056】
本願の熱伝導板を有する超電導マグネット装置、特に冷熱源として液化水素を用いる超電導マグネット装置は、水の電気分解装置(EL)、大容量の「水素」貯蔵装置(H)、「水素」を用いる燃料電池発電装置(FC)及び再生可能エネルギーの発電変動予測技術と統合することにより、ハイブリッド貯蔵システムを提供できることができる。また、液化水素貯槽を有する水素ステーションなどと統合することにより、経済性及び信頼性をより向上させた先端超電導電力変換システム(ASPCS)を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6