【実施例1】
【0019】
図1(a)は、実施例1に係る弾性表面波デバイスを示す上面図、
図1(b)は、
図1(a)のA−A間の断面図である。なお、
図1(a)においては、保護膜を透視して図示している。
図1(a)及び
図1(b)のように、圧電基板10上に、IDT20と、弾性表面波の伝搬方向でIDT20の両側に位置する反射器12と、が設けられている。圧電基板10は、例えばニオブ酸リチウム又はタンタル酸リチウム等の圧電材料を用いることができる。IDT20及び反射器12は、例えばアルミニウム又は銅等の金属で形成されることができる。IDT20は、1組の櫛型電極22を含む。1組の櫛型電極22それぞれは、複数の電極指24と、複数のダミー電極指26と、複数の電極指24及び複数のダミー電極指26が接続されるバスバー28と、を含む。ダミー電極指26は、例えば電極指24の間に設けられている。1組の櫛型電極22それぞれの電極指24は、例えば互い違いに配置されている。
【0020】
バスバー28の一部を除き、IDT20及び反射器12を覆って保護膜14が設けられている。保護膜14は、例えば酸化シリコン等の誘電体膜を用いることができる。保護膜14の厚さは、例えばIDT20の厚さの1/10程度である。保護膜14で覆われていないバスバー28上には、金属膜16が設けられている。
【0021】
1組の櫛型電極22は、互いの電極指24とダミー電極指26とが向かい合って配置されている。これにより、複数の電極指24の先端と複数のダミー電極指26の先端との間に複数の隙間30が形成されている。IDT20を覆う保護膜14は、隙間30にも埋め込まれている。保護膜14上に、複数の隙間30それぞれを覆うと共に、電極指24が延在する第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26の一部と重なる複数の付加膜18が設けられている。付加膜18は、第1方向に交差する第2方向で隙間30の側方に位置する電極指24とは重なっていない。付加膜18は、例えば酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化シリコン、窒化シリコン、窒化アルミニウム、炭化シリコン、酸化チタン、シリコン、及びダイヤモンドのいずれかを含む膜又はチタン(Ti)、金(Au)、銅(Cu)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)、及びモリブデン(Mo)等の金属を含む金属膜を用いることができる。なお、
図1(a)では、付加膜18が矩形形状をしている場合を例に示しているが、円形形状、楕円形形状等、矩形形状以外の場合であってもよい。
【0022】
次に、実施例1に係る弾性表面波デバイスの製造方法について説明する。
図2(a)から
図3(c)は、実施例1に係る弾性表面波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図2(a)のように、圧電基板10上に金属膜を堆積した後、例えば露光技術及びエッチング技術を用いて金属膜を加工し、電極指24、ダミー電極指26、及びバスバー28を有する1組の櫛型電極22からなるIDT20と反射器12とを形成する。電極指24の先端とダミー電極指26の先端との間には隙間30が形成される。
【0023】
図2(b)のように、例えばスパッタ法を用いて、保護膜14を全面堆積する。
図2(c)のように、例えば露光技術及びエッチング技術を用いて、金属膜16を形成すべき領域の保護膜14を除去する。
図2(d)のように、レジスト膜32を全面に形成した後、付加膜18を形成すべき領域のレジスト膜32を除去して、開口を形成する。
【0024】
図3(a)のように、例えばスパッタ法を用いて、付加膜18を全面堆積する。
図3(b)のように、レジスト膜32をリフトオフによって除去して、付加膜18をパターニングする。付加膜18をリソグラフィー技術に基づく工程により形成できるため、付加膜18と隙間30とを例えば0.1μm以下の精度で位置合せすることができる。よって、第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26に対する付加膜18の被覆量を管理値内に制御することができる。また、第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26の側面から第2方向への付加膜18のはみ出し量を管理値内に制御することができる。
図3(c)のように、例えば蒸着法及びリフトオフ法を用いて、バスバー28上に金属膜16を形成する。以上のような工程を含んで、実施例1に係る弾性表面波デバイスを製造することができる。
【0025】
次に、発明者が行った実験について説明する。発明者は、実施例1の弾性表面波デバイスを作製し、アドミタンス特性、放射コンダクタンス特性、及びQ特性の測定を行った。作製した弾性表面波デバイスの具体的構成を表1に示す。
【表1】
表1のように、圧電基板10に、42°Yカットのタンタル酸リチウム(LiTaO
3)基板を用いた。IDT20及び反射器12に、厚さ180nmのアルミニウム(Al)膜を用いた。保護膜14に、厚さ20nmの酸化シリコン(SiO
2)膜を用い、付加膜18に、厚さ70nmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)膜を用いた。
【0026】
また、1組の櫛型電極22で励振される弾性波の波長λを2μmとした。IDT20の電極指24の対数を116対とし、反射器12の電極指の本数を40本とした。電極指24及びダミー電極指26のデューティ比を50%とした。第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24の先端とダミー電極指26の先端との間隔を0.175λ(λは弾性波の波長、以下同様)とした。ダミー電極指26の長さを2.0λとした。
【0027】
第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26に対する付加膜18の被覆量を、電極指24の先端及びダミー電極指26の先端から0.1λとした。第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26の側面から第2方向への付加膜18のはみ出し量を0λとした。なお、
図4のように、第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26に対する、電極指24の先端及びダミー電極指26の先端からの付加膜18の被覆量をオーバーラップ長Yと称すこととする。また、第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26の側面から第2方向への付加膜18のはみ出し量をオーバーラップ長Xと称すこととする。
【0028】
図5は、実施例1の弾性表面波デバイスのアドミタンス特性と放射コンダクタンス特性の測定結果を示す図である。実施例1の測定結果を実線で示している。また、比較のために、付加膜18が設けられていない点以外は同じ構成をした比較例1の弾性表面波デバイスに対しても測定を行い、測定結果を点線で示している。
図5のように、実施例1と比較例1とで、アドミタンス特性はほとんど変わらない結果であった。一方、放射コンダクタンス特性については、実施例1は、比較例1に比べて、共振周波数frから反共振周波数faにかけて低下する結果となった。
【0029】
図6は、実施例1の弾性表面波デバイスのQ特性の測定結果を示す図である。
図6のように、実施例1は、比較例1に比べて、共振周波数frと反共振周波数faとの間におけるQ値が改善された結果となった。例えば、比較例1では、共振周波数fr近傍でQ値が小さくなることが生じていたのに対し、実施例1では、このようなことが生じない結果となった。
【0030】
図5及び
図6の結果から、付加膜18を設けることで、弾性波を閉じ込める効果が得られ、その結果、共振周波数frから反共振周波数faにかけて、放射コンダクタンスの低下とQ値の改善とが得られることが分かった。
【0031】
次に、発明者は、電極指24及びダミー電極指26のデューティ比が異なった場合に、付加膜18を設けることによるQ特性の改善効果に変化が生じるかを調べる実験を行った。まず、発明者は、オーバーラップ長Xを0λとし、オーバーラップ長Yを0.1λ、0.2λとした実施例1の弾性表面波デバイスを、電極指24及びダミー電極指26のデューティ比を30%、40%、50%、60%として作製した。なお、その他の構成は表1と同じ構成とした。
【0032】
図7(a)から
図8(b)は、デューティ比が異なる場合での実施例1の弾性表面波デバイスのQ特性の測定結果を示す図である。
図7(a)はデューティ比が30%の測定結果、
図7(b)は40%の測定結果、
図8(a)は50%の測定結果、
図8(b)は60%の測定結果を示している。オーバーラップ長Yが0.1λの測定結果を実線で、0.2λの測定結果を破線で示している。また、比較のために、付加膜18が設けられていない点以外は同じ構成とした比較例1の弾性表面波デバイスに対しても測定を行い、測定結果を点線で示している。
図7(a)から
図8(b)のように、デューティ比が異なる場合でも、付加膜18によるQ値の改善効果が得られることが分かる。
【0033】
次に、発明者は、オーバーラップ長Xをデューティ比が30%では0.1μm、40%では0.05μm、50%では0μm、60%では−0.05μmとし、オーバーラップ長Yを0.1λとした実施例1の弾性表面波デバイスを作製し、Q値と電気機械結合係数とを測定した。なお、その他の構成は表1と同じ構成とした。
【0034】
図9は、デューティ比が異なる場合での実施例1の弾性表面波デバイスのQ値及び電気機械結合係数の測定結果を示す図である。比較のために、
図7(a)から
図8(b)に示した比較例1の弾性表面波デバイスの測定結果も示している。
図9では、デューティ比が30%、40%、50%、60%それぞれにおけるQ値及び電気機械結合係数K
2の最大値を示している。Q値の測定結果を太線で示し、電気機械結合係数K
2の測定結果を細線で示している。また、デューティ比が30%、40%、50%、60%での測定結果をそれぞれ、実線、破線、一点鎖線、二点鎖線で示している。
図9のように、デューティ比が異なる場合でも、付加膜18を設けることで、電気機械結合係数K
2はほとんど変化せずに、Q値が改善することが分かる。
【0035】
ここで、比較例2の弾性表面波デバイスに対して行ったQ特性のシミュレーションについて説明する。
図10は、比較例2に係る弾性表面波デバイスを示す上面図である。
図10のように、比較例2の弾性表面波デバイスでは、付加膜48が、複数の隙間30をまとめて覆うと共に、隙間30からバスバー28全体を覆って設けられている。このような比較例2の弾性表面波デバイスに対して、付加膜48を厚さ60nmのAl
2O
3膜としてQ特性のシミュレーションを行った。
【0036】
図11は、比較例2の弾性表面波デバイスのQ特性のシミュレーション結果を示す図である。比較例2のシミュレーション結果を一点鎖線で示している。また、比較のために、付加膜が設けられていない点以外は比較例2と同じ構成をした比較例3の弾性表面波デバイスのシミュレーション結果を点線で示している。
図11のように、共振周波数frから反共振周波数faにかけて、比較例2は、比較例3に対して、Q値が小さくなる結果となった。このことから、比較例2のように、隙間30からバスバー28全体を覆う付加膜48を設けてもQ値の改善効果は得られ難いことが分かる。
【0037】
図11の結果から、
図1(a)及び
図1(b)のように、複数の隙間30それぞれに付加膜18を設けるのが好ましいことが分かる。このような付加膜18は、形成容易性と薄膜化の観点から、
図2(a)から
図3(c)で説明したように、リソグラフィー技術を用いて形成することが好ましい。この場合に、隙間30の大きさや露光での位置合わせ精度等から、付加膜18は電極指24及びダミー電極指26の一部と重なる場合が形成し易い。ここで、
図11の結果を踏まえると、付加膜18が大きくなるほどQ値の改善効果が弱まることが考えられる。そこで、発明者は、オーバーラップ長X、YとQ特性との関係を調べるシミュレーションを行った。
【0038】
まず、付加膜18を厚さ60nmのAl
2O
3膜とし、付加膜18のオーバーラップ長Xを0λ、オーバーラップ長Yを0.1λ、0.2λ、0.3λ、0.5λ、1.0λとし、その他は
図11における比較例2と同じ構成とした実施例1の弾性表面波デバイスに対してQ特性のシミュレーションを行った。
図12は、オーバーラップ長Yを異ならせた実施例1の弾性表面波デバイスのQ値のシミュレーション結果を示す図である。実施例1のシミュレーション結果を黒丸で示し、上記の比較例3のシミュレーション結果を破線で示している。なお、実線は、実施例1のシミュレーション結果の近似直線を示している。また、
図12では、共振周波数fr付近におけるQ値を示している。
【0039】
図12のように、オーバーラップ長Yが長くなると、共振周波数fr付近におけるQ値は低下する傾向にあることが分かる。また、オーバーラップ長Yが1.0λ以下の場合では、共振周波数fr付近におけるQ値が改善されることが分かる。このことから、オーバーラップ長Yは、例えば1.0λ以下の場合が好ましいことが分かる。
【0040】
次に、付加膜18を厚さ60nmのAl
2O
3膜とし、付加膜18のオーバーラップ長Yを0.1λ、オーバーラップ長Xを0λ、0.025λ、0.37λとし、その他は
図11における比較例2と同じ構成とした実施例1の弾性表面波デバイスに対してQ特性のシミュレーションを行った。
図13は、オーバーラップ長Xを異ならせた実施例1の弾性表面波デバイスのQ値のシミュレーション結果を示す図である。実施例1のシミュレーション結果を黒丸で示し、上記の比較例3のシミュレーション結果を破線で示している。なお、実線は、実施例1のシミュレーション結果の近似直線を示している。また、
図13では、共振周波数fr付近におけるQ値を示している。
【0041】
図13のように、オーバーラップ長Xが長くなると、共振周波数fr付近におけるQ値は低下する傾向にあることが分かる。また、オーバーラップ長Xが0.5λ以下の場合では、共振周波数fr付近におけるQ値が改善されることが分かる。このことから、オーバーラップ長Xは、例えば0.5λ以下の場合が好ましいことが分かる。なお、本シミュレーションの構造では、オーバーラップ長Xが0.5λとは、第2方向で隣接する付加膜18同士が繋がり帯状になる場合である。
【0042】
図14(a)から
図14(f)は、実施例1の変形例1から変形例6に係る弾性表面波デバイスを示す上面図である。なお、
図14(a)から
図14(f)では、図の簡略化のために、弾性表面波デバイスの一部のみを図示している。
図14(a)の実施例1の変形例1のように、付加膜18は、第2方向で隙間30の側方に位置する電極指24と重なって設けられてもよい。
図14(b)の実施例1の変形例2のように、付加膜18は、第1方向で隙間30に隣接する電極指24と隙間30との境界に接し且つダミー電極指26と重なって設けられてもよい。
図14(c)の実施例1の変形例3のように、付加膜18は、第1方向で隙間30に隣接する電極指24と間隔を有し且つダミー電極指26と重なって設けられてもよい。
図14(d)の実施例1の変形例4のように、付加膜18は、第1方向で隙間30に隣接するダミー電極指26と隙間30との境界に接し且つ電極指24と重なって設けられてもよい。
図14(e)の実施例1の変形例5のように、付加膜18は、第1方向で隙間30に隣接するダミー電極指26と間隔を有し且つ電極指24と重なって設けられてもよい。
図14(f)の実施例1の変形例6のように、付加膜18は、第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26に重なると共に、電極指24及びダミー電極指26の側面から第2方向にはみ出して設けられてもよい。
【0043】
以上のように、実施例1及び実施例1の変形例によれば、複数の隙間30に、隙間30の少なくとも一部を覆うと共に、第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26並びに第2方向で隙間30の側方に位置する電極指24の少なくとも一つと重なる複数の付加膜18が設けられている。これにより、
図5及び
図6のように、弾性波エネルギーの漏れを抑制することができ、共振周波数frから反共振周波数faにかけて、放射コンダクタンスを低下させ、Q値を向上させることができる。したがって、このような弾性表面波デバイスをフィルタに用いることで、挿入損失を改善できることが分かる。
【0044】
また、付加膜18が、第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26並びに第2方向で隙間30の側方に位置する電極指24の少なくとも一つと重なることで、付加膜18を形成する際の位置合せ精度が緩和され、付加膜18の形成を容易にできる。さらに、付加膜18を隙間30に設けることで、付加膜18の電極指24等に対する被覆量を抑えることができ、電気機械結合係数の劣化及び周波数ずれを抑制することができる。
【0045】
上述したように付加膜18が大きくなるとQ値の改善効果が小さくなることから、
図1(a)のように、付加膜18は、第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26の少なくとも一方と重なり、第2方向で隙間30の側方に位置する電極指24とは重ならないことが好ましい。
【0046】
図12で説明したように、Q値を向上させる観点から、オーバーラップ長Yは1.0λ以下の場合が好ましい。つまり、付加膜18は、第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24の先端及びダミー電極指26の先端から1.0λ以下の範囲内で電極指24及びダミー電極指26の少なくとも一方と重なることが好ましい。また、オーバーラップ長Yが長くなるとQ値は低下する傾向にあることから、オーバーラップ長Yは、0.5λ以下の場合がより好ましく、0.3λの場合がさらに好ましい。
【0047】
図13で説明したように、Q値を向上させる観点から、オーバーラップ長Xは0.5λ以下の場合が好ましい。つまり、第1方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26の側面からの付加膜18の第2方向への突出量は0.5λ以下の場合が好ましい。また、オーバーラップ長Xが長くなるとQ値は低下する傾向にあることから、オーバーラップ長Xは、0.2λ以下の場合がより好ましく、0.1λ以下の場合がさらに好ましい。