特開2015-120167(P2015-120167A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 長崎県の特許一覧

<>
  • 特開2015120167-リン除去材 図000003
  • 特開2015120167-リン除去材 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-120167(P2015-120167A)
(43)【公開日】2015年7月2日
(54)【発明の名称】リン除去材
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20060101AFI20150605BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20150605BHJP
   C01G 9/02 20060101ALI20150605BHJP
【FI】
   C02F1/28 E
   C02F1/28 P
   B01J20/06 A
   C01G9/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-54663(P2015-54663)
(22)【出願日】2015年3月18日
(62)【分割の表示】特願2012-263864(P2012-263864)の分割
【原出願日】2006年7月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000214191
【氏名又は名称】長崎県
(74)【代理人】
【識別番号】100102004
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 政彦
(72)【発明者】
【氏名】高松 宏行
(72)【発明者】
【氏名】阿部 久雄
【テーマコード(参考)】
4D624
4G047
4G066
【Fターム(参考)】
4D624AA04
4D624AA05
4D624AB12
4D624BA14
4D624BB01
4D624BB05
4D624BB08
4D624BC04
4D624CA06
4D624DA07
4D624DB20
4G047AA02
4G047AC03
4G047AD03
4G066AA12
4G066AA18B
4G066AA19B
4G066AA27B
4G066BA09
4G066CA41
4G066DA07
4G066FA05
4G066FA21
4G066GA11
4G066GA35
(57)【要約】
【課題】これまでに知られていない、実用に充分なリン吸着速度を示す金属酸化物からなるリン除去材またはこれらを有効成分としたリン吸着材を提供することを課題とする。
【解決手段】生活排水、事業所排水などの排水や、池水、内湾など閉鎖性水域の水中のリンを固定・除去するリン除去材であって、水中でオルトリン酸イオンを特異吸着し、かつ物理的、化学的処理を施すことによって吸着したオルトリン酸イオンを脱離する特性を示す遷移金属に属する金属の酸化物およびこれらの複合酸化物を主体とすることを特徴とするリン除去材であり、またこれらを有効成分として含有してなるリン吸着材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物からなる水中のリンを固定・除去するリン除去材であって、
1)上記金属酸化物が、水中でオルトリン酸イオンを吸着し、かつ物理的、化学的処理を施すことによって吸着したオルトリン酸イオンを脱離する特性を示す遷移金属に属する金属の酸化物から構成され、2)上記遷移金属に属する金属の酸化物が、酸化亜鉛からなり、3)その使用形態が粉末の形態であることを特徴とするリン除去材。
【請求項2】
水中でオルトリン酸イオンを吸着し、かつ0.01〜0.1Nの低濃度のアルカリ水溶液との接触によって吸着したオルトリン酸イオンを脱離する、請求項1記載のリン除去材。
【請求項3】
請求項1または2記載のリン除去材を有効成分として含有してなることを特徴とするリン吸着材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活排水、各種事業所排水などの排水や、池水や内湾など閉鎖性水域における水中のリンを吸着・回収するためのリン除去材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水中のリンを除去する方法としては、微生物の代謝を利用する生物学的脱リン法、金属塩や石灰を用いる凝集沈殿法、種結晶へのリン蓄積を利用する晶析脱リン法、さらに吸着法などが知られている。
【0003】
このうち生物学的脱リン法は、微生物によるリンの摂取や放出を利用して行われる。
【0004】
また、凝集沈殿法は、消石灰や塩化第二鉄などを排水に添加し、これらとオルトリン酸が反応して生じる、溶解度の小さな金属リン酸塩を固液分離することにより、水中のリンを除く方法である。この方法において用いられる金属イオン種はCa2+、Al3+、Fe3+等が主であるが、陽イオン種がCa2+の場合は石灰凝集沈殿法と呼ばれる。
【0005】
晶析脱リン法は、過飽和溶液からリン酸塩結晶を析出させる晶析反応を応用している。具体的には、石膏や消石灰などの添加によって供給されるCa2+と水中のオルトリン酸イオンとを反応させ、リン鉱石、骨炭などの種結晶の表面上に、ヒドロキシアパタイトとして析出させる方法である。ヒドロキシアパタイト結晶が種結晶の上に一旦析出すると、さらにその表面上に析出が繰り返されるので、脱リン槽の後方にスラッジが発生することはなく、この点において前記の二つの方法に比べて有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−10610号公報
【特許文献2】特開平11−147088号公報
【特許文献3】特開2005−118614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上述べたように、水中のリンを除去する手段として既にいくつもの手法が提案され、実用化されている。しかしながら、こうした従来技術には解決が望まれる技術的課題が存在する。例えば、生物学的リン除去方法では、微妙な溶存酸素濃度の調整を必要とする他、リンを含む余剰汚泥の処理が残された課題となる。また、凝集沈殿法では、水中のオルトリン酸に対して大過剰のCa2+を消石灰として加え、その反応物である難水溶性のヒドロキシアパタイト(Ca10(OH)(PO)を凝集沈殿させるが、生成するスラッジの排除とその処分が必要となる、さらに処理水のpH調整や過剰のCa2+への対策が必要となる。さらに、晶析脱リン法においても、オルトリン酸と反応するカルシウムイオンを流入水に対して添加すると共に、流入水のpHを一定範囲に綿密に制御する必要がある。
このように、従来技術においては、余剰汚泥やスラッジの処理、系外からのイオン種の供給など、システム管理が複雑になる課題があった。特に、汚泥やスラッジの処理は、リン除去工程の後に、さらなる後工程を生ずるという課題を胚胎している。
以上のような技術的課題を解決する方法として、近年、吸着法が提案されている。吸着法は、水中のリンを吸着する性質を有する素材を用いることにより、その表面にリンを固定化し水中からリンを除去すると共に、表面に固定化したリンを何らかの物理的・化学的手段によって脱離させ、リン回収へと導くことが期待されている。リン回収が高濃度・高効率で行われれば、リン資源の回収へと道を拓くことも可能となる。
【0008】
例えば、特許文献1には、セリウム酸化物を有効成分として含有してなるリン吸着剤、あるいは、セリウム酸化物とチタン酸化物とからなる複合粉体を含有してなるリン吸着剤について報告されている。
【0009】
また、特許文献2では、ジルコニウムフェライト水和物から構成される材料をリン吸着材として用い、排水のリン除去を試みたことが報告されている。処理コストが少なく、凝集沈殿物の発生がないリン除去方法として提案されている。
【0010】
さらに、特許文献3では、TiOSO・xHOから製造した水酸化チタンゲルからなるリン酸イオン回収材が提案されており、pHを調整することによりリン酸イオンの吸着及び脱着を行うリン酸イオンの回収方法が記載されている。
【0011】
このように、吸着材を用いたリン除去が既に提案されているが、リン除去剤として実用上重要な、リンの除去速度についての記載は僅少であり、従って上記特許文献によって紹介される技術が水中のリン除去に真に活用できるか否かの判断を行うには、情報が不十分であると考えられる。
【0012】
そこで、本発明は、前記の問題を解決するためになされたものであって、特許文献に紹介されている材質以外の金属酸化物粉末試料について、実用に充分なリン除去速度を示す材質を見出したことを特徴とするリン除去材に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、以上述べたような、リン除去処理上の、もしくは処理後の諸問題を解決するために、これまでに報告されていない種々の金属酸化物についてリン除去特性を検討した結果、遷移金属に属する金属の酸化物である酸化コバルト、酸化亜鉛が、リン除去を行う上において充分なリン固定化能力を示すことなどを見出し、さらに研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、生活排水、事業所排水などの排水や、池水、内湾など閉鎖性水域の水中のリンを固定・除去するリン除去材料であって、水中でオルトリン酸イオンを吸着し、かつ物理的、化学的処理を施すことによって吸着したオルトリン酸イオンを脱離する特性を示す遷移金属に属する金属の酸化物およびこれらの複合酸化物を主体とすることを特徴としている。また、本発明に係るリン除去材は、上記遷移金属に属する金属の酸化物である酸化コバルト、酸化亜鉛のうち、酸化亜鉛からなることを特徴としている。さらに、本発明は、上記記載のリン除去材を有効成分として含有してなるリン吸着材を提供するものである。
【0015】
なお、上記遷移金属に属する金属の酸化物はいずれもオルトリン酸イオンの吸着特性を示すが、本発明では、リン除去材の有効成分として、酸化亜鉛が用いられる。
【0016】
また、上記金属酸化物は中性域の水溶液に対して不溶もしくは難溶性であるが、オルトリン酸イオンを含有する水中において、リン含有水の物理的、化学的条件により部分的に、特に表面部分が水和した状態(水酸化物)になる場合がある。このような場合もリン除去材として利用できる。
【0017】
すなわち、本発明において、金属酸化物とは金属の酸化物、水酸化物、含水酸化物、オキソ酸塩などをも包含する。これらの金属酸化物は、金属単体またはその塩化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩などの金属化合物を加熱したり、中和したりする公知の方法によって得ることが可能である。
【0018】
本発明では、該金属酸化物およびこれらの複合酸化物をそのままリン除去材として使用することができるが、チタン酸化物、鉄酸化物、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、ゼオライト、炭など、この分野で通常使用されている物質に担持もしくは混合して成形することができる。また、成形体を合成するにあたって、該金属酸化物は、出発原料の段階で金属酸化物の形態をとっていてもよいし、金属を酸化することで金属酸化物にすることもできる。すなわち、水溶性の金属塩を出発原料とし、これを用いた水溶液に基材を浸漬して、その表面に金属を担持した後に、種々の方法で酸化させることで基材表面に金属酸化物が分散したリン除去材を得ることができる。この方法によると、水溶液の濃度を変化させることにより、最終的に得られるリン除去材の基材表面への金属酸化物の被覆量および厚さを制御することが可能となるばかりか、大きな比表面積を持った状態で被覆されるため極めて有効である。このようにして得られたリン除去材は、金属酸化物をそのままリン除去材として用いた場合と同等にリンを吸着することができる。
【0019】
また、本発明のリン除去材は物理的、化学的処理を施すことで、吸着したリンを脱離させることができる。物理的処理の一例としては、超音波、加熱、加電圧、気圧・水圧制御などが挙げられ、化学的処理の一例としては、酸・アルカリによるpH制御が挙げられる。脱離したリン成分はリン除去材と分離して回収することができる。さらに、回収したリン成分は濃縮処理を施したり、カルシウムイオンやナトリウムイオンなどと反応させて難溶性のリン化合物としたりすることで、肥料など汎用の用途のみならず様々な工業分野における利用をも可能とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のリン除去材によれば、オルトリン酸イオンを含有した生活排水、事業所排水などの排水や、池水、内湾などの閉鎖性水域に対し、オルトリン酸イオンを表面吸着する金属酸化物を接触させることにより、効果的にオルトリン酸イオンを吸着除去し、オルトリン酸イオン濃度の低い処理水を得ることができる。
【0021】
本発明のリン除去材によれば、オルトリン酸イオンを含む溶液から、オルトリン酸イオンを極めて高速に吸着除去することが可能である。このことから、該除去材を活用したリン処理装置を従来装置よりコンパクトに設計することができる。
【0022】
また、本発明にかかるリン除去材は、その表面に吸着したオルトリン酸イオンを物理的、化学的処理を行うことにより、脱離することができ、リンを資源として回収することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明と参考例の金属酸化物によるリン吸着実験結果の一部を示したグラフである。
図2】本発明と参考例の金属酸化物によるリン脱離実験結果の一部を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、遷移金属に属する金属の酸化物(酸化コバルト、酸化亜鉛など)のリン吸着能について実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によりなんら限定されるものではない。なお、本発明の対象とする金属酸化物の実施例とそれ以外の参考例の範囲となる金属酸化物について、実施例に採り上げていない物質についても、実施例同様の実験を行い、リン吸着特性および物理的・化学的処理によるリン脱離特性を確認した。以下の実施例のうち、実施例1、3〜4は、参考実施例すなわち参考例として示したものである。
【実施例1】
【0025】
金属銀粉末を酸化雰囲気で加熱することで酸化銀(I)粉末を、また、水酸化ナトリウムとペルオキソ二硫酸カリウムの濃水溶液に硝酸銀濃水溶液を添加し、沈殿物を回収した後、洗浄ならびに乾燥処理を行うことにより酸化銀(II)粉末を得た。これらの金属酸化物を得る方法はいずれも公知である。得られた粉末を乳鉢によりさらに粉砕し、さらに微粉末とした。これらの試料のB.E.T.法による比表面積は、酸化銀(I)では0.57m/gであり、酸化銀(II)では1.4m/gであった。
【実施例2】
【0026】
金属コバルトを酸化雰囲気で加熱する公知の方法で酸化コバルト(II)粉末を得た後、乳鉢によりさらに粉砕し微粉末とした。この試料のB.E.T.法による比表面積は24m/gであった。
【実施例3】
【0027】
水酸化インジウム(III)を850℃まで加熱して恒量とした後、1000℃まで昇温して30分保持する公知の方法により、酸化インジウム(III)粉末を得た後、乳鉢によりさらに粉砕し微粉末とした。この試料のB.E.T.法による比表面積は3.6m/gであった。
【実施例4】
【0028】
水酸化ネオジム(III)を強熱する公知の方法で酸化ネオジム(III)粉末を得た後、乳鉢によりさらに粉砕し微粉末状とした。この試料のB.E.T.法による比表面積は0.76m/gであった。
【0029】
実施例1〜4で得られた金属酸化物粉末試料について、オルトリン酸イオンのバッチ式の吸着実験を以下のように行った。オルトリン酸成分としてリン酸二水素カリウム(KHPO)を用い、リン濃度が5mg/Lとなるオルトリン酸イオン水溶液を調製した。このオルトリン酸イオン水溶液100mLに、上記粉末試料1gを添加し、次いで、溶液系を20℃に保持しながらマグネットスターラーで撹拌した。撹拌を行いながら、オルトリン酸イオン水溶液と上記粉末試料の接触から、1時間後、6時間後、24時間後に上澄みをシリンジでサンプリングし、これを公称孔径0.45μmのフィルターでろ過した溶液のオルトリン酸イオンの濃度を、モリブデン青法により分光光度計を用いて測定した。この結果を図1に示す。いずれの場合もオルトリン酸イオン濃度の減少が認められることから、上記粉末試料によってリンが固定化されたことが分かる。図1から明らかなように、実施例1で作製した酸化銀(I)、酸化銀(II)ともにリン固定化した。リンの固定化に至る濃度変化は、酸化銀(I)ではリン酸水溶液との接触後1時間のオルトリン酸イオン濃度は0.21mg/L、接触後6時間以後はほぼ0mg/Lであり、酸化銀(II)では接触後1時間で2.4mg/L、接触後6時間以後はほぼ0mg/Lであった。すなわち、オルトリン酸イオンを吸着する金属酸化物において、金属の化学状態が異なっても、基本的にリンの固定化が同様に起こることがわかる。また、図1では、実施例2で作製した酸化コバルト(II)によるリンの固定化が示された。リン酸水溶液の接触後1時間のオルトリン酸イオン濃度は4.6mg/L、接触後6時間では2.8mg/L、接触後24時間ではほぼ0mg/Lであった。また、図1より、実施例3で作製した酸化インジウム(III)においてもリン吸着特性を示し、リン酸水溶液との接触後1時間のオルトリン酸イオン濃度は3.1mg/L、接触後6時間では2.7mg/L、接触後24時間ではほぼ2.3mg/Lであった。すなわち酸化インジウム(III)はリン吸着量としては大きくないものの、その吸着速度は大きいことになる。さらに、図1より、実施例4で作製した酸化ネオジム(III)についてもリンの吸着特性を示し、リン酸水溶液との接触後1時間以後のオルトリン酸イオン濃度はほぼ0mg/Lであった。すなわち酸化ネオジム(III)は大きなリン吸着量を示し、尚且つその吸着速度は極めて高いことになる。
【0030】
次に、オルトリン酸イオンの吸着実験に使用後の試料、すなわち、表面にリンが吸着された状態のリン除去材について、リンの脱離実験を以下のように実施した。リンの脱離実験に用いた脱離処理液は、水酸化ナトリウム水溶液である。水酸化ナトリウム水溶液は、0.1Nと0.01Nの2種類の濃度に調製した。これら水酸化ナトリウム水溶液50mLに実施例で得られた試料0.5gを添加し、次いで、溶液系を20℃に保持しながらマグネットスターラーで撹拌した。撹拌を行いながら、オルトリン酸イオン水溶液と上記粉末試料の接触から、1時間後、6時間後、24時間後に上澄みをシリンジでサンプリングし、これを公称孔径0.45μmのフィルターでろ過した溶液のオルトリン酸イオンの濃度を、モリブデン青法により分光光度計を用いて測定した。酸化コバルト(II)および酸化インジウムの結果を図2に示す。オルトリン酸イオン濃度の増加は試料表面からのオルトリン酸イオンの脱離を示すものである。図2より、酸化コバルト(II)において、リンの脱離特性を示した。リンの脱離に至る濃度変化は0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液との接触後1時間のオルトリン酸イオン濃度は0.38mg/L、接触後6時間では0.62mg/L、接触後24時間ではほぼ0.76mg/Lと接触時間の増加にともないオルトリン酸イオン濃度の増加が測定された。酸化コバルト(II)に吸着していたリン全量が脱離した場合に測定されると考えられるオルトリン酸イオンの理論濃度は5.2mg/Lである。すなわち酸化コバルト(II)を0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液に24時間接触させることで、吸着したリンの約15%が脱離可能である。一方、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液との接触の場合、接触後1時間のオルトリン酸イオン濃度は0.50mg/L、接触後6時間では0.96mg/L、接触後24時間ではほぼ1.6mg/Lと接触時間の増加にともないオルトリン酸イオン濃度の増加が測定された。酸化コバルト(II)に吸着していたリン全量が脱離した場合に測定されると考えられるオルトリン酸イオンの理論濃度は5.2mg/Lである。すなわち酸化コバルト(II)を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液に24時間接触させることで、吸着したリンの約31%が脱離可能である。また、図2より、酸化インジウム(III)において、リンの脱離特性を示した。0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液との接触後1時間のオルトリン酸イオン濃度は1.6mg/Lと急激なリンの脱離が測定され、次いで、接触後6時間では1.8mg/L、接触後24時間ではほぼ1.9mg/Lと接触時間の増加にともないオルトリン酸イオン濃度の若干の増加が測定された。酸化インジウム(III)に吸着していたリン全量が脱離した場合のオルトリン酸イオンの理論濃度は3.0mg/Lである。すなわち酸化インジウム(III)を0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液に24時間接触させることで、吸着したリンの約63%が脱離可能である。一方、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液との接触の場合、接触後1時間のオルトリン酸イオン濃度は2.0mg/Lと急激なリンの脱離が測定され、次いで、接触後6時間では2.1mg/L、接触後24時間ではほぼ2.3mg/Lと接触時間の増加にともないオルトリン酸イオン濃度の若干の増加が測定された。酸化インジウム(III)に吸着していたリン全量が脱離した場合のオルトリン酸イオンの理論濃度は3.0mg/Lである。すなわち酸化インジウム(III)を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液に24時間接触させることで、吸着したリンの約77%が脱離可能である。以上の結果より、吸着材表面に吸着したオルトリン酸イオンの脱離処理に用いる処理液の濃度は、0.01Nより0.1Nの方が好ましく、高いリンの脱離効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係るリン除去材は、近年、富栄養化が進行しアオコや赤潮などの発生が懸念される閉鎖性水環境、あるいはそこに流入する生活排水や事業所排水、あるいは畜産農家などからの農業排水を浄化する。特にリンを除去する上で有効に利用されるものと考えられる。
図1
図2