【解決手段】動力を伝達する動力伝達装置1であって、ドライブピニオンギヤ11と、ドライブピニオンギヤ11と噛合するリングギヤ21と、ドライブピニオンギヤ11及びリングギヤ21を収容するケース40と、を備え、ケース40は、第1ケース片50と第2ケース片60とが液体パッキンを介して合わさることで構成され、ドライブピニオンギヤ11は、第1ケース片50に回転自在に保持され、リングギヤ21は、第2ケース片60に回転自在に保持され、第1ケース片50の第1合わせ面55及び第2ケース片60の第2合わせ面65の少なくとも一方に、全周に亘り液体パッキンを溜めるための環状溝56が形成されている。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車は、車体の略中央に搭載された原動機で発生した動力を後輪に伝達している。動力を伝達する方式としては、変速機の出力軸により回転する駆動スプロケットと、後輪と同軸上に配された従動スプロケットとの間にチェーンを掛け回した構造のチェーン駆動型が知られている。
【0003】
また、一部の自動二輪車ではチェーンを用いずにプロペラシャフト(推進軸)を用いるシャフトドライブ型が知られており、メンテナンスフリーを図っているものもある。具体的に例えば、原動機の出力を変速する変速機の出力軸に第1傘歯車を設け、この第1傘歯車にプロペラシャフトの前端に固定された第2傘歯車を噛合させ、プロペラシャフトを回転させている。そして、プロペラシャフトの後端にドライブピニオンシャフトをスプライン結合し、ドライブピニオンギヤを後輪と一体であるリングギヤに噛合させている(特許文献1参照)。
【0004】
そして、ドライブピニオンシャフトは第1軸受を介して第1ケース片(第1ハーフ)に回転自在に保持され、リングギヤの固定されたリングギヤシャフトは第2軸受を介して第2ケース片(第2ハーフ)に保持されている。また、第1ケース片と第2ケース片とはボルトによって相互に締結されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、第1ケース片及び第2ケース片が組み合わさることで構成されるケース内には、ドライブピニオンギヤ及びリングギヤを潤滑する油が封入される。したがって、油の外部への漏洩を防止するため、また、外部からケース内への泥水や塵埃の浸入を防止するため、第1ケース片及び第2ケース片の合わせ面をシールする必要がある。
【0007】
また、第1ケース片及び第2ケース片を適正に組み合わせ、ドライブピニオンギヤ及びリングギヤの噛合位置を適正とする必要がある。なお、ドライブピニオンギヤ及びリングギヤの噛合位置がずれると、異音が発生するうえ、耐久性が低下する虞がある。
【0008】
そこで、第1ケース片及び第2ケース片の間に薄膜状の液体パッキン(液体ガスケット)を介在させる方法が考えられる。
【0009】
しかしながら、液体パッキンが第1ケース片及び第2ケース片の合わせ面から外部にはみ出してしまう場合がある。そして、はみ出してしまうと、美観を損ねるうえ、はみ出した液体パッキンを拭き取る必要がある。
【0010】
そこで、本発明は、液体パッキンの外部へのはみ出しを防止する動力伝達装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、動力を伝達する動力伝達装置であって、第1傘歯車と、前記第1傘歯車と噛合する第2傘歯車と、前記第1傘歯車及び前記第2傘歯車を収容するケースと、を備え、前記ケースは、第1ケース片と第2ケース片とが液体パッキンを介して合わさることで構成され、前記第1傘歯車は、前記第1ケース片に回転自在に保持され、前記第2傘歯車は、前記第2ケース片に回転自在に保持され、前記第1ケース片の第1合わせ面及び前記第2ケース片の第2合わせ面の少なくとも一方に、全周に亘り前記液体パッキンを溜めるための環状凹部が形成されていることを特徴とする動力伝達装置である。
【0012】
このような構成によれば、第1ケース片の第1合わせ面及び第2ケース片の第2合わせ面の少なくとも一方に、全周に亘り液体パッキンを溜めるための環状凹部が形成されているので、第1ケース片と第2ケース片との間に介在する液体パッキンが合わせ面において移動すると、液体パッキンは全周に亘る環状凹部に捕獲され溜る。これにより、液体パッキンが外部にはみ出すことを防止できる。
【0013】
また、動力伝達装置において、前記第1ケース片と前記第2ケース片とはボルトで締結され、前記環状凹部は、前記ボルトよりも外側に配置されていることが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、環状凹部は、ボルトが挿通するボルト挿通孔よりも外側に配置されているので、ボルトが締結されることで、外部にはみ出そうとする液体パッキンを環状凹部で良好に捕獲できる。
【0015】
また、動力伝達装置において、前記環状凹部は溝であることが好ましい。
また、動力伝達装置において、前記環状凹部は、前記少なくとも一方が段違いで凹むと共に外部に開放した段差部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、液体パッキンの外部へのはみ出しを防止する動力伝達装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について、
図1〜
図4を参照して説明する。
【0019】
≪動力伝達装置の構成≫
本実施形態に係る動力伝達装置1は、シャフトドライブ型の自動二輪車(鞍乗型車両)に搭載されている。ただし、鞍乗型車両は、その他に例えば、自動三輪車でもよい。
【0020】
自動二輪車は、車体200の中央に搭載された原動機及び変速機(図示しない)と、前後方向に延びるプロペラシャフト110と、プロペラシャフト110からの動力を略90°偏向させて後輪150に伝達する動力伝達装置1と、を備えている。変速機は、原動機の発生した動力を変速するものである。
【0021】
プロペラシャフト110は、筒状のスイングアーム120内に回転自在に設けられている。プロペラシャフト110の前端は変速機(図示しない)の出力軸に連結されており、後端は後記するドライブピニオンシャフト10に連結されている。スイングアーム120は、左右方向に延びるピボット軸121回りに揺動自在に取り付けられている。
【0022】
≪動力伝達装置の構成≫
動力伝達装置1について
図2〜
図4を参照して説明する。
動力伝達装置1は、軸心O1回りに回転するドライブピニオンシャフト10と、軸心O2回りに回転するリングギヤ21(第2傘歯車)と、リングギヤシャフト30と、これらを収容するケース40と、液体パッキン(図示しない)と、を備えている。ケース40内には、ドライブピニオンギヤ11、リングギヤ21、軸受12等を潤滑する潤滑油が封入されている。
【0023】
<ドライブピニオンシャフト>
ドライブピニオンシャフト10は、前後方向に延びる円筒状のシャフトである。
ドライブピニオンシャフト10の前端部の内周面には、スプライン孔15が形成されている。スプライン孔15にはプロペラシャフト110側のスプライン軸(図示しない)が挿入されている。そして、プロペラシャフト110及びドライブピニオンシャフト10は一体で回転するようになっている。
【0024】
ドライブピニオンシャフト10の後側には、傘歯車である円錐台状のドライブピニオンギヤ11(第1傘歯車)が形成されている。ただし、ドライブピニオンギヤ11は別部品である構成でもよい。ドライブピニオンギヤ11は、スパイラルベベルギヤで構成され、リングギヤ21と噛合している。すなわち、ドライブピニオンギヤ11とリングギヤ21とで終減速機構を構成している。
【0025】
ドライブピニオンシャフト10の中間部は、軸受12を介して後記する円筒部51に回転自在に収容されている。
【0026】
軸受12は、ボール(転動子)が軸方向において2段で配置されたラジアルボールベアリングである。軸受12は、前記中間部に外嵌した前側の第1内輪12aと、前記中間部に外嵌した後側の第2内輪12bと、後記する円筒部51に内嵌した1本の外輪12cと、第1内輪12a及び外輪12cの間に設けられた前側の第1ボール12d及び後側の第2ボール12eと、を備えている。
【0027】
第2内輪12bはドライブピニオンギヤ11の歯裏面(前面)に当接している。また、前後方向において外輪12cと円筒部51との間には、ドライブピニオンギヤ11の位置を調整する環状のシム12fが設けられている。
【0028】
軸受12の前方には、軸受12の前面に当接し軸受12の脱落を防止するリング状のナット13が円筒部51に取り付けられている。そして、ナット13の前側にはオイルシール14が設けられている。
【0029】
ドライブピニオンシャフト10の後端部には、円柱状のボス16が挿入されている。ボス16は軸受17(ニードルローラベアリング)を介して円筒部51に回転自在に支持されている。
【0030】
このようにして、ドライブピニオンシャフト10は、軸受12及び軸受17を介して第1ケース片50の円筒部51に回転自在に支持されている。
【0031】
<リングギヤ、リングギヤシャフト>
リングギヤシャフト30は、左右方向に延びるシャフトであり、後輪150(
図1参照)の取り付けられる右側から左側に向かって、大径部31と、大径部31よりも小径の中径部32と、中径部32よりも小径の小径部33(ボス部)と、を備えている。
【0032】
大径部31は、2つの軸受34、34(ラジアルボールベアリング)を介して、後記する第2ケース片60に回転自在に支持されている。よって、リングギヤ21は、2つの軸受34、34を介して、後記する第2ケース片60に回転自在に支持されている。
【0033】
大径部31の左側は部分的に拡径して肩部31aを構成している。そして、肩部31aと軸受34との間には、リングギヤ21の軸方向位置を調整する環状のシム31bが設けられている。
【0034】
大径部31の右面にはハブ35がボルト35aによって固定されている。ハブ35は後輪150のホイール151(
図1参照)が当接する部分である。
【0035】
中径部32の外周面にはスプライン軸部32aが形成されている。スプライン軸部32aは、リングギヤ21のスプライン孔22とスプライン結合している。これにより、リングギヤ21と、中径部32(リングギヤシャフト30)とは一体で回転するようになっている。なお、リングギヤ21は中径部32に溶接されるか、または、スプライン軸部32aの左先端部を加締めることで軸方向において位置決めされている。
【0036】
リングギヤ21は、円錐台状を呈する傘歯車であり、スパイラルベベルギヤで構成され、ドライブピニオンギヤ11と噛合している。また、リングギヤ21は、大径部31の左面に当接している。
【0037】
小径部33は、軸受36(ラジアルボールベアリング)を介して、後記する殻状部52に回転自在に支持されている。詳細には、小径部33の左先端は段違いで縮径し縮径部33aが形成されており、軸受36は縮径部33aに外嵌している。そして、左右方向において軸受36の内輪と小径部33との間には、リングギヤ21の位置を調整する環状のシム33bが設けられている。
【0038】
軸受36の外輪には、殻状部52に着脱自在に取り付けられた環状のナット37が当接しており、軸受36が殻状部52から脱落しないようになっている。また、ナット37の左方には、円板状のキャップ38が殻状部52に着脱自在に取り付けられている。
【0039】
<ケース>
ケース40は、その内部にドライブピニオンシャフト10等を収容する殻状のケースである。ケース40は、本実施形態では2分割構成であり、左側の第1ケース片50と、右側の第2ケース片60と、を備えている。第1ケース片50と第2ケース片60とは複数(ここでは8本)のボルト71で締結されている。第1ケース片50、第2ケース片60は、本実施形態では、アルミニウム合金等の金属製であって、ダイカスト品(鋳造品)である。
【0040】
<ケース−第1ケース片>
第1ケース片50は、前後方向に延びる円筒状の円筒部51と、円筒部51から後方に延び右方が開口した半球殻状の殻状部52と、を備えている。
【0041】
円筒部51は、ドライブピニオンシャフト10を収容すると共に、軸受12を介してドライブピニオンシャフト10を回転自在に保持している。円筒部51にはスイングアーム120のフランジ部122と締結するためのスタッドボルト53が取り付けられている。
【0042】
殻状部52は、小径部33を収容すると共に、軸受36を介して小径部33を回転自在に保持している。殻状部52には潤滑油の注入口54が形成されている。注入口54にはプラグ59(蓋)が着脱自在に取り付けられている。
【0043】
<ケース−第2ケース片>
第2ケース片60は、円筒状を呈している。第2ケース片60は、大径部31を収容すると共に、軸受34、34を介して回転自在に支持している。
【0044】
<ケース−第1ケース片、第2ケース片の合わせ面>
第1ケース片50と第2ケース片60との合わせ面S1は、前後方向に延びると共に、軸方向視(左右方向視)において環状(円状)を呈している(
図4参照)。
【0045】
具体的には、合わせ面S1は、半球殻状の殻状部52の右側の開口縁部で形成される環状の第1合わせ面55と、円筒状の第2ケース片60の左側の開口縁部で形成される環状の第2合わせ面65と、が合わされることで構成されている。軸方向視において、第1合わせ面55と、第2合わせ面65とは同形であるので、以下、第1合わせ面55について主に説明する。
【0046】
第1合わせ面55は、
図4に示すように、軸方向視(左右方向視)において環状を呈しており、径方向において所定幅を有している。そして、ボルト71の螺合するねじ穴72が第1合わせ面55で開口している。すなわち、複数のねじ穴72(本実施形態では8つ)が第1合わせ面55で開口しており、複数のねじ穴72は周方向において等間隔で配置されている。
【0047】
ねじ穴72の形成された第1合わせ面55の部分は、径方向外側に張り出しており、他の部分に対して幅広となっている。なお、第2ケース片60には、ボルト71の挿通するボルト孔73が形成されている。
【0048】
<第1ケース−環状溝>
第1合わせ面55の径方向外側縁に沿い、且つ、ねじ穴72の径方向外側に環状溝56(環状凹部)が形成されている(
図3、
図4参照)。すなわち、環状溝56は、第1合わせ面55において、その径方向外側縁から所定間隔で全周に亘って連続して形成されており、複数のねじ穴72を囲んでいる。なお、
図4では、分かり易くするために、紙面奥側に凹んでいる環状溝56に模様を付している。
【0049】
環状溝56は、ダイカスト品である第1ケース片50の金型に形成された突条型によって形成されたものである。すなわち、環状溝56は、切削等の機械加工によらずに形成されたものである。
【0050】
環状溝56は、液体パッキンを構成する液体(シリコーン系シール材)を捕獲し、その内部に貯溜する貯溜部である。なお、液体パッキンは、第1ケース片50及び第2ケース片60がボルト71で締結されるとケース40の外部にはみ出ようとする。
【0051】
<液体パッキン>
液体パッキンは、ケース40の合わせ面S1をシールする薄膜層である。液体パッキンは、シリコーン系シール剤(パッキン用液体)を、第1合わせ面55及び第2合わせ面65の少なくとも一方に塗布し、第1合わせ面55及び第2合わせ面65で挟持することによって薄膜状で形成される。
【0052】
この場合において、合わせ面S1の全面にパッキン用液体を行き渡らせるために若干多めのパッキン用液体を塗布したとしても、締結した際に外部にはみ出ようとするパッキン用液体(液体パッキン)は、環状溝56に捕獲され貯溜される。すなわち、パッキン用液体(液体パッキン)が外部にはみ出ることはなく、そして、パッキン用液体の拭き取りも不要である。
【0053】
≪動力伝達装置の作用効果≫
動力伝達装置1の作用効果を説明する。
第1ケース片50と第2ケース片60とは、合わせ面S1において薄膜状の液体パッキンを挟んだ状態で、ボルト71で締結されているので、第1ケース片50及び第2ケース片60の相対位置関係が良好に保たれる。
【0054】
すなわち、ドライブピニオンシャフト10は第1ケース片50に保持され、リングギヤ21は第2ケース片60に保持された構成であるが、第1ケース片50と第2ケース片60とが所定位置で組み合わさるので、ドライブピニオンギヤ11とリングギヤ21との噛合位置が良好に保たれる。つまり、噛合するドライブピニオンギヤ11とリングギヤ21とが、別々のケースに保持された構成であるが、第1ケース片50と第2ケース片60とが液体パッキンの厚みの影響を殆ど受けずに良好に組み合わさるので、ドライブピニオンギヤ11とリングギヤ21とが良好に噛合する。
【0055】
このようにして、ドライブピニオンギヤ11及びリングギヤ21の噛合位置は適正に保持され易くなる。したがって、ドライブピニオンギヤ11及びリングギヤ21の耐久性は高まる。
【0056】
また、環状溝56は、ねじ穴72(ボルト71)よりも径方向外側に配置されているので、ボルト71の締結により外部にはみ出ようとするパッキン用液体を良好に捕獲できる。
【0057】
≪変形例≫
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、次のように変更してもよい。
【0058】
前記した実施形態では、環状溝56が第1合わせ面55に形成された構成を例示したが、その他に例えば、環状溝56に代えて又は加えて、第2合わせ面65にも環状溝が形成された構成でもよい。この場合において、第1合わせ面55の環状溝56と、第2合わせ面65の環状溝とを、径方向においてずらして形成してもよい。その他、第1合わせ面55に環状溝56を2重以上で形成してもよい。
【0059】
図5に示すように、環状溝56(
図3、
図4参照)に代えて、環状段差部57(環状凹部)を備える構成としてもよい。環状段差部57は、第1合わせ面55の外周縁部が左方に段違いで凹むことで形成されている。すなわち、環状段差部57は、第1合わせ面55の全周に亘って形成されると共に、その径方向外側は外部に開放している。そして、このような環状段差部57によれば、環状溝56と同様に、外部にはみ出そうとする液体パッキンを捕獲し貯溜できる。
【0060】
前記した実施形態では、動力伝達装置1は自動二輪車(鞍乗型車両)に搭載された構成を例示したが、その他に例えば、四輪自動車に搭載され、プロペラシャフトからの動力が入力される終減速装置に適用されてもよい。